2015年12月31日木曜日

アメリカの「首都防衛システム」の現状について

実態は“ただの風船”…? 米国「首都防衛」システムの惨状
土方細秩子 (ジャーナリスト)

20151224日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5773

ボタンひとつで世界中にミサイル攻撃ができる今日、対空防衛は国の安全保障の要とも言える。米国では1998年から累計27億ドルを費やした「首都防衛」システムがあるが、このシステムは「ゾンビ・システム」と呼ばれ、役に立たないものの筆頭として批判を浴びている。
JLENSにおいて使用されている飛行船(Getty Images
“ガスを詰め込んだ風船”との批判まで……
 JLENS(Joint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor System)という名称の防衛システムは、レーダー搭載の無人飛行船網で空からの脅威を感知する、というもの。1998年にペンタゴンが採用を決め、レイセオン社が請け負った。
 システムは2機でペアの飛行船から成り、軍事基地や首都上空1万フィートを「パトロール」する。レイセオンによるとこの高度では飛行船の感知レーダーは340マイルの視界を保ち、1機が「サーチ」を行いもう1機が対象物の高度、速度などを感知し地上に伝える仕組みだ。信号を受けた地上部隊がそれに応じて攻撃目標を破壊する。しかし当然のことながら、これまでJLENSシステムが空からの脅威を感知したことはなく、米軍が応戦したこともない。
 このシステム、能書きとは裏腹に当初からトラブル続きだった。僚機を敵と見なしたり、飛行物体の追跡が不可能だったり、その性能には疑問符がついていた。
 2012年のペンタゴンによる評価では「4つの分野で致命的欠陥がある」と判断され、13年にも「システムの信頼性は低い」との評価が下され、5段階評価で2の結果だった。軍の内部情報をウィキリークスで公表した、として米国から国際指名手配扱いになっているエドワード・スノーデン氏は繰り返しツイッターなどでJLENS批判を行った。共和党の大統領候補者討論会でも、マイク・ハッカビー氏が「あれはガスを詰め込んだただの風船」と批判したが「あまりにも多くの資金をつぎ込みすぎたがゆえに政府は今更JLENSを廃止できない」と語った。

実践演習途上で起きた“事故”
 そのJLENS、今年10月には風に飛ばされて150マイルも進路を外れた上に、電線を遮断し木に引っかかって停止、という惨状を見せた。電線の遮断によりペンシルバニア州では35000世帯が停電。飛行船追跡のためにF15戦闘機が飛ばされ、最終的に木にひっかかった飛行船の「ヘリウムガスを抜くために」軍が機銃掃射を行う、というものものしさだった。
 それでもオバマ政権はJLENS防衛の姿勢で、来年度の軍事予算の中でこのシステムに4050万ドルの振り当てを提唱していた。しかし米下院がこれに反対、結局16年度予算としてJLENSに認められたのは1050万ドルだった。これは米国内でも驚きを持って受け取られた。民主、共和両党ともにJLENSの廃止には消極的で、10月の事故の後も「軍による事故原因究明が発表されるまで、JLENSに致命的欠陥があるという結論は出せない」という意見が多数派だったためだ。
 今回の予算の大幅カットはJLENSをゾンビから本物の死体に変えるのか? 政府内でも意見はまだ分かれている。「あのような役立たずのシステムはただちに廃止すべき」という主張があるかと思えば「今回の予算カットは小休止にすぎない。首都防衛レーダーシステムは必要」という意見まで、民主共和両党内部でも統一していないのだ。
 実はJLENS3年計画の「オペレーショナル・エクササイズ(実戦演習)」の途上にあった。しかし今年1月開始予定がシステム不具合により8月に伸び、その直後に10月の事故、ということで演習は無期停止状態なのだ。とりあえず予算をカットし、演習を続けてその結果で命運を決定する、という日和見姿勢が米政府内にある。27億ドルという巨額をかけた国家プロジェクトを廃止するのは勇気のいる決断だ。しかしゾンビシステムと揶揄される、役に立たない飛行船を首都上空に飛ばし続けることは、世界からの嘲笑を浴びかねない。今後のJLENSの命運に注目が集まっている。
《維新嵐こう思う》
アメリカの首都防衛システムに気球のよる探知網を導入しているとは意外でした。要は、システムの「完成度が低い」ということでしょう。確かに今の時点では不備が目立ちますが、所詮人間が作るシステムに最初から完璧はありません。コンセプト自体は2機の飛行船がそれぞれ役割分担をして地上に通報、戦闘機による迎撃なりの措置がとられる形で合理的で優れたものと考えられますので、地道に研究と実験を重ねて完成度を高めて将来的には、世界から称賛されるシステムにしていけばいいでしょう。多額の税金も投入していますので、簡単には変更するのは問題です。米政府が粘り強く国民に説明しながらシステムの完成度を高める、という「生みの苦しみ」の段階でしょうね。長い目でみる必要があるでしょう。どこかの国の高速増殖炉「もんじゅ」よりは未来への希望が感じられます。
アメリカの首都防衛の形、とりわけレーダーによる探知網と迎撃態勢について語るときにどうしても思い出される事件があります。おそらく気球による探知システムが考案された背景のきっかけにもなっているかもしれません。
ワシントン事件からアメリカの首都防空体
制をみる
1952719日夜午後11:40、アメリカの首都ワシントンDCにあるワシントン国際空港の管制センターにあるレーダースコープに、奇妙な七つの輝点が出現する。
 2つはいきなり消滅し、残り5つの点もすさまじいスピードでレーダーの範囲外に飛び去ったかと思うと、突然中心に現れたりと不可思議な動きを繰り返した。この光は、一度は姿を消したものの時間をおかずに再び出現する。
アメリカの首都ワシントン上空の飛行制限区域内を飛び交う8つの飛行物体を空港、そして軍のレーダーがキャッチした。付近を飛んでいた旅客機などからも、怪しい飛行物体が奇妙な光が同じような動きを見せたことを報告している。アンドルーズ空軍基地では、同事件を追跡していたレーダー操作員が、基地上空に浮かぶ燃えるようなオレンジ色の巨大な球体を目撃した。
午前3:00に米空軍のF-94戦闘機が2機が発進。迎撃にあたるが、この時に一斉に姿を消す。
ニュージャージー上空で別のUFOを調査していた迎撃機は、翌日の午前3時30分に遅れて到着したが、すでにレーダー上から姿を消していた。迎撃機がいなくなるとUFOはまた姿を現した。朝になり、市民の通報などからマスコミも騒ぎだしたが、軍は気温逆転層によるレーダー電波の乱反射が原因の可能性があると説明した。
1952726日(1週間後)、ワシントンDC上空にUFOが出現する。
ホワイトハウスで討議が行われ、大統領がアインシュタイン博士に意見を聞く。
一週間後の7月26日、午後9時半に再び謎の6〜12もの飛行物体がレーダーにキャッチされた。トルーマン大統領は、物理学者のアインシュタインに電話で相談。アインシュタインは「UFOがもしも異星人の乗り物であった場合、むやみにこちらから攻撃してはいけない」と忠告した。
午前2:40トルーマン大統領の命令で、F-94戦闘機2機が発進。前回と同じくUFOは姿を消してしまう。
午前2時に 再度迎撃機が調査に出たが、やはり飛行物体をとらえることはできなかった。飛行物体はそのうちにレーダーからも姿を消したが、10分後、迎撃機が帰投を始めるとまた姿を現した。
午前3時20分頃に新手の迎撃機編隊が到着したときは、UFOはそのままで、パイロットの一人ウィリアム・パタースン中尉は「目もくらむような青白い光の輪に取り囲まれた」と報告した。結局、射撃許可が下りる前にUFOは飛び去った。
民間航空管理局の技術開発評価センターによる調査で、レーダー反射の原因は気温の逆転層が原因であると結論づけられた。
また、レーダー・エコーが常に風と同じ方向に移動していたことも判明。レーダーアンテナが一回転する間に逆転層の渦が消えた場合、UFOが超高速で移動したように見えるのだ。
ある旅客機パイロットによれば、ワシントン周辺にはたくさんの灯りがあるので、一方を見てそこに“謎めいた”光を見つけることはたやすいことだと語っている。
しかし大勢の人間による目視を含む確認、特にパタースン中尉の証言がそれによって説明ができるのかどうかは疑問が残る。
引用文献:『完全版世界のUFO現象FILE20113月 並木伸一郎著 学研パブリッシング発行)
《維新嵐こう思う》
UFOに関する雑誌であれば、必ず採録される事件なので多くの方にはなじみの深い事件かと思いますが、アメリカの首都防空という観点からすれば、警戒レーダー網をかいくぐられ、ホワイトハウス上空まで空域への侵入を許してしまったわけですから、国防上大問題です。
アメリカという国のことですから、この事案の反省から首都防空の在り方を根本的に作り直したことが考えられます。7機の未確認飛行物体に対して、2機の戦闘機による迎撃で大丈夫かなとも思いますが、正体が最後まで不明だった点を考えれば、スクランブル発進した2機は、飛行物体のデータをとることと偵察、威嚇が目的だったかもしれません。
いずれにしろこのような首都上空へのあからさまな「領空侵犯」事案が一度でもあれば、事前に侵入物体を早期に探知して迎撃できる態勢を作っておきたい、という感覚からあらかじめ気球をとばしておくという発想になっていったのかもしれません。
首都の確実な警戒監視という観点から考えた時に、アメリカのJLENSシステムは今後参考にできるシステムといえるのではないでしょうか?

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