2018年6月28日木曜日

陸上自衛隊の「歌姫」 ~芸術は国防なり~

SNSで話題 中部方面音楽隊“陸自の歌姫”メジャーデビュー、初のアルバムきょう発売


陸上自衛隊・中部方面音楽隊のコンサートで美声を披露する鶫真衣・3等陸曹=6月8日、兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター(彦野公太朗撮影)



 (http://blog-imgs-84.fc2.com/u/t/s/utsuandasdays/4294_450x325.jpgより)

陸上自衛隊中部方面音楽隊(兵庫県伊丹市)が2018年6月27日、初のCDアルバム「いのちの音」をリリースした。ボーカルを務めるのは、陸自初の声楽要員で陸自の歌姫として活躍する3等陸曹の鶫(つぐみ)真衣さん(30)。透明感のある歌声を持つ鶫さんは「つらいときやしんどいとき、CDを聴いて心を癒やしてほしい」と語る。(中井芳野)
 NHKの子供向け番組「おかあさんといっしょ」の「うたのおねえさん」に憧れ、中学3年で声楽を始めた。国立(くにたち)音楽大(東京都)を卒業後、洗足(せんぞく)学園音楽大大学院(川崎市)に進学。修了間近になり、陸自が声楽隊員を募集していることを知った。
 試しに足を運んだ海上自衛隊東京音楽隊の演奏会。自衛官の制服に身を包んだ音楽隊の演奏や、すでに海自の歌姫として活動していた三宅由佳莉さん(31)の澄んだ歌声に「こんなに心を動かされるなんて」と感銘を受けた。東日本大震災の被災地などで支援活動に取り組む隊員の姿にも共感し、平成26年、陸自初の声楽要員として入隊した。


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以来、近畿や中四国を中心に年間100回近く透明感のある歌声を披露している。SNS(会員制交流サイト)などで話題となり、アイドルグループ「AKB48」の「365日の紙飛行機」をカバーした動画投稿サイト「ユーチューブ」での再生回数は141万回を突破。28年に日本コロムビアからアルバム制作を打診され、自衛隊の活動を広く伝えるきっかけになればと快諾した。
 「命の大切さ」をテーマにした11曲のうち、唯一のオリジナル曲「いのちの音」は自ら作詞を担当。「被災地の人々を救おう」と奮闘する隊員らの姿などを思いつつ制作した。「一人一人の命は奇跡のようなものだから、大事に生きてほしい。つらいことも乗り越えることができるとの思いを込めた」と明かす。
 ほかにシンガーソングライター・秦基博さんの「ひまわりの約束」や、アニメ「千と千尋の神隠し」のテーマ「いのちの名前」などのカバー曲も収録。音楽隊の指揮者で3等陸佐の柴田昌宜(まさのり)さん(38)は「鶫3曹の純粋な性格が歌声にも表れ、人の心を浄化してくれる」と評する。
 「これからも日常で感じた喜びや悲しみを音楽で伝え、一人でも多くの人が前向きになってもらえれば」。鶫さんは笑顔でそう話した。


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https://youtu.be/yXukWDN0gMM

【鶫真衣さん&三宅由佳利さんのリンクおすすめ】
平成の「くのいち部隊」~日米女性兵士たちの実状~

2018年6月24日日曜日

史上初の「米朝首脳会談」で米朝両国がゲットした外交的成果とは? ~実はまだ続くよ米朝戦争~

米朝首脳会談の結果に笑いが止まらない中国

「南シナ海の軍事化」はいよいよ最終段階に

北村淳
シンガポールで開催のアジア安全保障会議に出席した中国人民解放軍軍事科学院の何雷副院長(左)。中国による南シナ海の軍事拠点化は「国防のため」だと述べた。(201862日撮影)。(c)AFP PHOTO / ROSLAN RAHMANAFPBB News

 シンガポールでの米朝首脳会談の結果、アメリカによる北朝鮮への予防戦争発動は、当面の間は停止されることになった。
 トランプ政権は、朝鮮半島の非核化には少なくとも2年半以上の時間が必要と考えている(米軍関係者や専門家は完全な非核化には10年かかると見積もる人々も少なくない)。したがって少なくともその間は、そして北朝鮮による新たな核兵器開発が明るみに出ない限りは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃の可能性はなくなったと考えられる。
遠のいた日本に対する弾道ミサイル攻撃
 アメリカによる北朝鮮に対する予防戦争(本コラム「米国の『予防戦争』発動間近、決断を迫られる日本」2017.12.7(木)「迫りつつある北朝鮮攻撃のレッドライン」2018.3.8(木)など参照)発動が当面の間は遠のいたという状況は、北朝鮮が日本に対して弾道ミサイル攻撃を仕掛ける可能性も減少したことを意味する。
 なぜならば、日本が拉致被害者奪還を口実にして北朝鮮に対する軍事攻撃をちらつかせたり先制攻撃を仕掛けでもしない限り、北朝鮮が日本に対して弾道ミサイルを発射するきっかけとなるのは、アメリカによる対北朝鮮軍事攻撃だけだからである。その場合には、アメリカの同盟国である日本に対する報復攻撃として、北朝鮮から多数の弾道ミサイルが撃ち込まれることになる。トランプ政権は、朝鮮半島の完全なる非核化を、予防戦争ではなく米朝直接交渉を中心とした外交交渉によって達成する方針に舵を切った。その方針が維持される限りは、日本に対して北朝鮮の弾道ミサイルが撃ち込まれる可能性はほとんどなくなったと言ってよい。
とはいうものの、たとえ核弾頭が搭載されていなくとも、化学弾頭が装着されうる200発前後の日本攻撃用弾道ミサイルを北朝鮮軍が手にしている現実から目を背けるわけにはいかない。国際情勢の急変により、何らかの理由によって、北朝鮮が日本に対する弾道ミサイル攻撃を敢行する事態が絶対に生起しないという保障はないからだ。北朝鮮が対日攻撃能力を備えた弾道ミサイルを手にしている限り、日本としてはそのような攻撃を抑止、あるいは阻止し、万一の場合には被害を最小にとどめる態勢を固めておかねばならない。だが、いずれにせよ日本にとっては、北朝鮮からの弾道ミサイル攻撃の可能性が大幅に薄まったということは、米朝首脳会談がもたらした朗報ということはできる。
「南シナ海の軍事化」に追い風        
 日本以上にシンガポール会談によって大いなる恩恵を受けたのが中国だ。
 昨年(2017年)春から今年の春にかけては、北朝鮮による核弾頭ならびにICBM開発とそれに対するアメリカの強硬姿勢によって、国際社会の関心が北朝鮮に向けられていた。中国はその間隙を縫う形で、南シナ海での軍事的優勢を確保する態勢作り、すなわちアメリカの言うところの「南シナ海の軍事化」を推し進めた。
「南シナ海の軍事化」が仕上げ段階に入っている現在、南シナ海情勢から国際社会の目をできる限りそらし続けるのが中国にとって都合が良いことは、誰の目にも明らかだ。そして、中国にとってさらに好都合なことに、米朝首脳会談により「朝鮮半島の非核化」が現実味を帯び始めた。直接利害関係国以外の国際社会全体から見ると、地の果ての南シナ海のどこにあるかも分からない小さな環礁を巡っての「南シナ海の軍事化」という動きよりは、「朝鮮半島の非核化」のほうがはるかに大きな関心事であることは疑いようがない。したがって、中国が国際社会からの強い反発を受けることなく「南シナ海の軍事化」を完成させることは、ますます容易になったのだ。
南シナ海から締め出しを食う米軍戦力
 中国側の論理によれば、南沙諸島人工島の軍事基地化にせよ、西沙諸島の軍備増強にせよ、アメリカのいう「南シナ海の軍事化」は、南シナ海(その8割以上は中国の主権的海域であると中国当局は定義している)で「アメリカ軍が我が物顔で自由自在に動き回れなくする」ための、防衛態勢を固める方策の1つということになる。なにも中国は、南沙諸島に設置した3カ所の本格的航空施設を含む7つの人工島すなわち7つの海洋軍事基地を拠点として、フィリピンやマレーシア、そしてオーストラリアなどに軍事侵攻しようと企てているわけではない。中国人民解放軍が立脚している「積極防衛戦略」によれば、太平洋方面から中国本土に押し寄せるアメリカ海洋戦力を中国本土沿岸よりできるだけ遠方の海域で撃破するために、南沙諸島や西沙諸島に地対艦ミサイルや防空ミサイルを設置してミサイルバリア網を誕生させようというのである(下の図)。
中国の南シナ海ミサイルバリア態勢(赤円は地対艦ミサイルと防空ミサイルの射程圏)
もちろん、南沙諸島や西沙諸島に中国のミサイルバリア網が構築され、それらの海域や空域を中国艦艇や航空機が自由自在に飛び回るようになることは、アメリカが第2次世界大戦で日本軍を駆逐して以来、手にしていた「南シナ海での軍事的優勢」を失うことを意味している。したがって、アメリカは「南シナ海の軍事化」に反発しているのだ。しかしながら、北朝鮮情勢や、イランをはじめとする中東情勢、それにロシアの動きなど、アメリカが南シナ海へ軍事力を集中することができない国際情勢は、少なくとも南シナ海に関しては中国に利しているようである。そして、シンガポールでの米朝首脳会談によって、中国に吹く追い風はますます決定的となった。

 アメリカ国防当局が画期的な対中反攻戦略(拙著『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』講談社新書参照)を繰り出さない限り、南シナ海での軍事的優勢は中国の手に転がり込むことは確実な状況になりつつある。

〈管理人より〉外交交渉は交渉する両国が「win-win」の関係にならなければなりません。どちらかの国に権益が偏ると武力衝突になりかねないのです。今回は北朝鮮が「非核化」に向けて核廃絶を進めていくのに対して、米韓が「合同軍事演習」を中止する、となりました。どちらかが合意違反となれば今度こそ「軍事衝突」となるでしょうね。共同宣言に当然盛り込むべき「拉致問題」は、核の問題以上に大きくとりあげられなかったのでしょう。アメリカ人も何人拉致されているかわからないにも関わらず、です。北朝鮮の外国人拉致は、かの国の非合法な「侵略戦争」という側面そのものです。そこを厳しく追及しなければ、北朝鮮は「真摯な」姿勢で核廃絶に取り組むことはないでしょう。

米朝首脳会談とこれからの日本

【首脳会談でアメリカは北朝鮮に実をとられたか?】


金正恩にいいとこ取りされたことに気づかないトランプ

海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
 今回のテーマは、「金氏の新たな後ろ盾」です。史上初となった米朝首脳会談は2018年6月12日、シンガポールで開催されました。米国が北朝鮮に大きく譲歩したというのが大方の見方です。
 本稿ではまず、会談におけるドナルド・トランプ米大統領の非言語コミュニケーションに焦点を当てながら演出力を分析します。次に、トランプ氏の支持者を意識した共同声明と記者会見について述べます。そのうえで、金正恩北朝鮮労働党委員長が本当に得たものは何かを探ってみます。
握手は交渉の入り口
 米朝首脳会談は第三国で行われたのにもかかわらず、トランプ大統領は金委員長に対してまるでホストのように振舞っていました。米朝の国旗が合計12本交互に並んだホールで、約13秒間握手を交わすと、トランプ氏は「どうぞ」という動作をして、金氏の背中に手を添えながら部屋に入っていきました。
 トランプ大統領は金委員長との握手の感触により、同委員長の自尊心の強さを測り、交渉をするに足る人物か否かを見極めていたのです。トランプ氏は、金氏を「価値ある交渉相手」と判断したのでしょう。加えて、金氏を利用して会談で素晴らしい演出ができると確信したのでしょう。トランプ氏は、金氏に向かって親指を立てて「グッド」のサインを出しました。握手は単なる挨拶ではなく、交渉の入り口と捉えているトランプ氏は、ゲームの最初から主導権を握るつもりだったのです。
非核化よりも演出重視
 今回の米朝首脳会談でトランプ氏は、明らかに非核化よりも演出を強く意識した行動をとっていました。以下で、どのようにして演出力を発揮したのかについて説明しましょう。
 第1に、会談成功の演出です。トランプ大統領は会談に出発する直前まで、「合意文書に署名することはないだろう」と述べていました。明らかに、会談に対する期待値を下げました。
 ところが金氏との散策の最中、メディアに向かって「合意文書に署名する」と語ったのです。会談前は期待値を下げて置き、会談後は米朝が合意文書に署名ができたとアピールすることによって、会談の「成功」を演出したのです。
 第2に、金委員長との関係づくりの演出です。トランプ大統領は、大統領専用車「ビースト(野獣)」の中を金氏に見せました。同氏は「ビースト」をのぞき込んでいました。
 シンガポールに向かう直前まで、トランプ氏は会談の目的は、「互いを知り、人間関係を構築することになるだろう」と記者団の質問に答えていました。トランプ氏は、ビーストを使ってこれほどまで金氏と信頼関係が構築できたという演出を行ったのです。
3に、金委員長に非核化の実行を促す目的で作成された4分間のプロモーションビデオです。非核化を受け入れた場合、北朝鮮がどのような経済繁栄をするのかを連想させる内容のビデオです。
 ビデオの中で、非核化によってもたらされる経済的メリットを強調しています。電気インフラ、鉄道の整備、技術革新、医療の発達、リゾート地の開発などを挙げ、経済発展を成し遂げた北朝鮮の姿を魅力的に描いています。それらをインセンティブ(刺激・誘因)にして、非核化を実現させようという米国の意図が透けてみえます。
 ビデオは「たった一つの瞬間」「一回の選択」と訴えて、機会損失をしないように金委員長に警告を発しています。524日の会談中止を告げた例の書簡においても、トランプ大統領は金氏に「あなたはチャンスを逸した」という一文で締めくくりました。ビデオの中で、金氏が大好きなバスケットボールの選手がダンクシュートを決める場面があります。同氏に対して、即座に大胆な決断を下すように強く働きかけているわけです。
 第4に、タッチングと発言量です。握手と同様、タッチングは非言語コミュニケーションの中の動作に分類されます。一般に、目上の人が目下にタッチングを行います。
 トランプ大統領は握手とタッチングを組み合わせて、自分が会談をコントロールしているという演出をしました。共同声明に著名を行った金委員長がトランプ大統領の背中に手を添えると、今度はトランプ氏が透かさずやり返す姿は、まるでタッチングの競争のようでした。さらに、発言量においてもトランプ氏が金氏を圧倒し、会談の主導権を握っている印象を与えたのです。
 第5に、米朝共同声明の署名後に12本の国旗の前で交わしたトランプ大統領の強引な握手です。トランプ氏は、金委員長の体が動くほど、強く同委員長の手を引っ張たのです。会談の最後にトランプ流の握手を見せて、「強いリーダー」を世界に見せつけました。
トランプ支持者を意識した共同声明と記者会見
 トランプ大統領は、米朝共同声明で支持者を強く意識した声明を入れました。
 「米国と北朝鮮はすでに身元が特定されている遺骨の本国への即時送還を含め、捕虜及び行方不明兵士の遺骨の回収を約束する」
 トランプ氏はこの声明を発表できたことにより支持基盤の一角を成す退役軍人から高い評価を受けることは間違いありません。
 記者会見では韓国に相談せず、コストを理由に「非核化交渉の間は米韓合同演習を中止する」と発表しました。在韓米軍は核保有の北朝鮮のみならず中国も視野に入れているので、北東アジアの安全保障にとって極めて重要であるというのが、外交・安全保障問題の専門家の見解です。
 ところがトランプ大統領は、彼らとはまったく異なったパラダイム(ものの見方・考え方)に基づいて議論しています。率直に言ってしまえば、在韓米軍にかかるコストに反対するトランプ支持者を意識して発言したのです。史上初の米朝会談においても、トランプ氏は「支持基盤第一主義」を貫いたということです。
金氏の最大の収穫
 米朝共同声明には、「検証可能」「不可逆的」という文言は入りませんでした。非核化に関する期限及び具体的な検証の仕方に関しても一切触れていません。結局、今回の米朝会談で非核化についてトランプ大統領の本気度に疑問符が付きました。これまでは、北朝鮮の非核化のコミットメント(関与)に懐疑的でしたが、会談の「ショー化」にエネルギーを注ぐトランプ氏を見ると、同氏の本気度を疑うのは当然です。
 マンマス大学(米東部ニュージャージー州)が実施した最新の世論調査(1861213日実施)によれば、「米朝首脳会談でどちらの国がより多くの利益を得たと思うか」という質問に対して、有権者のわすか12%が米国と回答したのに対して、38%が北朝鮮と答えました。しかも、同世論調査では米朝会談でトランプ氏が「強く見えた」と回答した有権者は46%、一方金氏は45%で拮抗しています。演技力と発言力の双方でトランプ大統領が金氏を上回っていたのにもかかわらず、米国の有権者は同大統領に厳しい評価を下しています。確かにトランプ大統領の米韓合同演習中止の発表は、金氏にとって収穫でした。だたそれのみではありません。
 トランプ大統領は、米朝首脳会談後の記者会見で日本及び韓国に経済支援の費用を期待していると述べました。帰国後、米FOXニュースとのインタビューの中で、金氏について「我々はケメストリー(相性)がとてもいい」と4回も語り、両首脳の良好な関係を強調しました。金氏はすでに外交・安全保障において、習近平国家主席を後ろ盾にてしています。加えて今回の会談で、同氏はトランプ氏を経済支援の後ろ盾に得ることに成功しました。これが、同氏にとって最大限の収穫であったわけです。

【メディアが伝えない終わりのない米朝戦争】

「米朝首脳会談」でも続く北朝鮮のサイバー攻撃

中国、ロシアのハッカー集団も韓国を狙い撃ち

米朝首脳会談の合間に、シンガポールのカペラホテル敷地内を並んで歩くドナルド・トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(2018612日撮影)。(c)AFP PHOTO / SAUL LOEBAFPBB News(文:山田敏弘)

山田敏弘
ジャーナリスト、ノンフィクション作家、翻訳家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のフルブライト研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。帰国後の2016年からフリーとして、国際情勢全般、サイバー安全保障、テロリズム、米政治・外交・カルチャーなどについて取材し、連載など多数。テレビやラジオでも解説を行う。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文芸春秋)など多数ある。

「韓国語が話せる? 大卒で米国民? あなたの能力はここで求められている」
 201711月、こんな求人がCIA(米中央情報局)の公式ツイッターでアップされた。この求人は、CIAで対北朝鮮の任務を担える人材を探すためのものだったが、米情報当局などはこの1年ほどの間、積極的に朝鮮情勢に関わる人員を増やしてきた。
 例えば、米国家情報長官室(ODNI)も、「コリア部長」を今年2月に募集。CIAでも昨年5月に開設されたコリア・ミッションセンターに他の部署から人材が集められていると報じられている。2018年612日、ドナルド・トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による歴史的な会談が実現した。これまでになく上機嫌で会談後の記者会見に臨んだトランプ大統領は、1時間以上も記者の質問に応じた。ただ結局、合意文書には「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)」という言葉も見当たらず、金党委員長からは非核化に向けた「再確認」という言葉を得ただけだった。トランプ大統領は、決して「譲歩」はしていないと主張した。
 その上で、非核化に向けた具体策は翌週から協議を続けていくと語っている。米朝は今後も駆け引きが続いていくことになりそうで、米政権内で朝鮮半島情勢の重要度はこれからも変わらないだろう。事実、トランプ大統領は非核化を実現するには1度の会談よりも「もっと時間がかかる」と語っており、そのための人材の強化なども続いていくと見られる。
 そんな中、CIAのみならず、米軍や米情報機関に人材を派遣するセキュリティ企業でも、韓国語をはじめとする外国語が使え、サイバー部門などで情報分析などもできる求人が増えているという。というのも、米朝による非核化に向けた交渉の裏で、サイバー空間での北朝鮮の動きが活発になっているからだ。また交渉が進むにつれ、サイバー空間での動向がどうなるのかも注視されている。
 しかも問題は北朝鮮だけにとどまらない。トランプ大統領が一方的に核合意から離脱したイランにからんでも、サイバー空間で不穏な兆候があると指摘されているのだ。
トランプ大統領の予測不可能な動きに、水面下で動き出す各国政府のハッカーたち――。北朝鮮とその背後にいる中国やロシア、さらにはイランは、果たしてサイバー空間でどう暗躍しているのだろうか。
韓国へのサイバー攻撃を続ける北朝鮮
 米朝関係をめぐっては、今年3月が大きな転機になった。トランプ大統領が金正恩党委員長の要請を受けて首脳会談に応じると発表し、それを受け、金党委員長は中国を初めて訪問、習近平国家主席と会談した。その後にはマイク・ポンペオ米国務長官(当時はCIA長官)が北朝鮮で金党委員長と面会した。だが2018年524日には状況が一変。トランプ大統領が突然、米朝会談の中止を発表した。しかし、この動きに金党委員長が折れ、61日には再び会談が行われる運びとなった。
 そんな紆余曲折の中で、サイバー空間では北朝鮮がうごめいていた。もっとも標的になっていたのは韓国だ。
 そもそも、金党委員長は427日に、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と初会談を行い、「お互いにすべての敵対行為を完全に中止する」と合意している。それを踏まえて、文大統領も「新たな平和の時代が始まる」と述べているが、実際のところ、北朝鮮は敵対行為を「止める」どころか、サイバー空間での攻撃を続けているのである。
 517日、韓国のソウルで開催された「アジアン・リーダーシップ会議」で、韓国警察のアドバイザーを務めるサイバーセキュリティ専門家のチョイ・サンミュン氏は、「2つのコリアの融和ムードによって、北朝鮮は陸海空からは韓国に攻撃を仕掛けないだろうが、サイバー空間では北朝鮮による攻撃や情報を盗む工作が続いており、私は両国の仲直りの様子を少し懐疑的に見ている」と語った。また多くのセキュリティ会社も、南北が接近を始めた今年初めから、韓国をターゲットにした北朝鮮によるサイバー攻撃が増えていると指摘している。
スマホ向けの攻撃アプリを送り込む
 一体どんな攻撃が起きているのか。例えば、韓国のシンクタンク・世宗研究所や、北朝鮮に向けた支援などを行っている組織などにサイバー攻撃が仕掛けられたことが判明している。また金融機関に対する攻撃、機密情報などを盗もうとするサイバー攻撃なども発生している。
NSA(米国家安全保障局)の元東アジア専門分析官は、「北朝鮮の攻撃者たちは破壊的なマルウェア(不正なプログラム)を開発し、アンドロイドのスマホ向けの攻撃アプリを開発して送り込んだりして、広範囲でサイバー攻撃によるスパイ工作を行っている」と、メディアに語っている。
 また韓国人を装ってマルウェアを仕込んだ悪意ある電子メールなどが、米朝会談にも携わる北朝鮮専門家たちや脱北者などに送りつけられていることも確認されている。現時点で攻撃者はまだ完全には特定されていないが、おそらく目的は、関係者らのコンピューターなどから会談に関連する情報を盗み、米国や韓国などの出方を把握したい、ということだと見られている。もちろんそうしたメールの送り主は、北朝鮮のサイバー部隊だと考えるのが自然だ。
 北朝鮮のサイバー部隊は、最近、技術的にも優れ、非常にしたたかだというのが大方の見解だ。そんなことから、北朝鮮は米朝の交渉で米国や韓国と文書を共有したり、コミュニケーションを行うようになったことを利用し、サイバー攻撃で相手にマルウェアを送り込む可能性があると警戒されている。情報機関などもコミュニケーションのセキュリティを強化していると聞く。
中露も韓国を狙い撃ち
 実は、韓国を攻撃しているのは北朝鮮ばかりではない。朝鮮半島の安定化、もっと言うと、北朝鮮が米国と接近するのを望まない中国やロシアも、韓国などに攻撃を行っている。米サイバーセキュリティ企業の「ファイア・アイ」は、中国の「TempTick」という集団が、ワード文書にマルウェアを埋め込んでばらまいており、さらに「Tonto」と名付けられた中国関連の集団も韓国を標的にしていると報告している。
TempTick」という組織は、2009年から日本や韓国を標的に活動していることが確認されており、中国の反体制派をサイバー攻撃していた過去もある。そうした背景も、この集団が中国政府に関係しているとされる根拠となっている。
 瀋陽に拠点を置く「Tonto」は中国軍とつながりのある集団で、韓国で2017年から配備が始まった米軍のTHAAD(ターミナル段階高高度地域防衛システム)に抗議する意味で、サイバー攻撃を繰り返していた。中国はTHAADを軍事的な脅威と見ているからだ。さらに今年3月には、韓国・沿岸警備隊の求人に見せかけ、クリックした人がマルウェアに感染するという攻撃も報告されている。
 さらには、北朝鮮のもう1つの隣国、ロシアの政府系ハッカー集団も韓国を襲っている。例えば、エストニア政府がロシア連邦保安庁(FSB)につながる組織だと指摘する「Turla」は、少なくとも2006年から欧州を中心に世界でサイバー攻撃を実施しているが、そんな「Turla」も最近、韓国を攻撃している。トランプ大統領と金党委員長の米朝会談により、サイバー空間では、北朝鮮や中国、ロシアがうごめいて韓国を狙い撃ちにしている。そうした攻撃には、北朝鮮からの攻撃に見せかけているケースもあるという。
現在すでにこうした攻撃が起きていることを鑑みれば、仮に北朝鮮の非核化が結果的に不調に終わる場合にはどんな事態になるのだろうか。前出の元NSA分析官は、「(北朝鮮による)サイバー報復攻撃が起きるでしょう。米政府や米軍のネットワーク、米政府とつながりのあるセキュリティ企業、また民間の大企業に対するDDoS(分散型サービス妨害)攻撃や他の破壊工作が起きる可能性が高い」と語る。
 もっとも、韓国と融和的なムードが漂う中でもサイバー攻撃の手を緩めなかった北朝鮮だけに、会談や交渉がどう転んでもサイバー攻撃は続く可能性がある。
核合意破棄でイランも不穏な動き
 そしてもう1つ、トランプ政権の下したある大胆な決断によって、サイバー空間に不穏な空気が漂っているケースがある。イラン核合意の問題だ。
 トランプ大統領は今年58日、2015年に当時のバラク・オバマ政権と英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国が、2年に及ぶ交渉の末にイランと結んだ核合意から離脱した。すると、直ちにサイバー空間ではイラン政府系のハッカーらの動きが察知された。
 ハッカーたちは米国やその同盟国の外交官や通信会社社員などに、マルウェアを仕込んだ悪意ある電子メールの送信を開始した、とセキュリティ企業がすぐに警告を出している。また欧州にある米軍施設のコンピューターにも入り込もうとしている兆候が報告されている。
 実は、特に欧米諸国に対するイランのハッカーらによるサイバー攻撃は、2015年の核合意以降は大人しくなっていた(核合意に加え、イランがシリアやイエメンでの紛争に焦点を移したからとの見方もある)。
 それまでイランは、大々的にサイバー攻撃を実施していた。例えば2012年、ライバル国であるサウジアラビアの国営石油企業「サウジアラムコ」に大規模なサイバー攻撃を行い、社内の3万台に及ぶパソコンのデータを消去した。同社は復旧に2週間を要している。
ウォール街企業やインフラシステムにまで攻撃
 NSA2013年、この攻撃について「20128月に発生したサウジアラムコに対するイランの破壊的サイバー攻撃は、多くのパソコンの内部に保存されていたデータを破壊した。これまでイランを見てきたNSAの見解でも、イランによるここまでの攻撃は過去に例がない」と、内部文書で報告していた。
 イランのハッカーたちは、2017年にもサウジアラビアの別の石油会社をサイバー攻撃し、制御システムをコントロールして爆破させようとした。結果的に爆破は阻止されたが、この攻撃にはロシアが協力したとの報道もある。
 さらにイランは、米ウォール街の企業に対して激しいサイバー攻撃を続けてきた実績があるし、2015年にはラスベガスのホテルなどを経営するユダヤ系不動産開発会社「ラスベガス・サンズ」をサイバー攻撃して騒動になった。また米国内にあるダムなどのインフラのシステムにもハッキングで侵入を成功させていたことが判明している。
 日本も無関係ではない。イランの精鋭軍事集団である革命防衛隊の協力団体は、2013年から世界中の320の大学や米政府機関、国際機関などを狙ったサイバー攻撃を実施しており、そのターゲットには日本も含まれていたことが後に判明している。とにかく、トランプ大統領は核合意からの離脱によって、寝た子を起こしてしまったようだ。2002年に米政府がイランの銀行に対する強力な経済制裁を発表した後も、米国にある多くの銀行が、イランによるDDoS攻撃の被害に遭っている。今後も、核合意の後に大人しくしていたイランの政府系ハッカーらによるサイバー攻撃が増加することは間違いないだろう。
 北朝鮮やイランの問題は、サイバー空間にもその余波が広がっているのである。どちらの問題も、これからさらに交渉や調整などが続けられることになるだろう。結果的に、関係が今以上に険悪になったり、小競り合いになる可能性も十分に考えられる。そうなれば、米国やその同盟国に対する攻撃や工作が頻発し、今以上にサイバー空間が騒がしくなるだろう。今のうちから、米国機関やセキュリティ企業が人材の補強を行っているというのは、賢明な動きなのかもしれない。

〈管理人より〉現代は「第三次サイバー世界大戦」の時代
 殺し尽くせ、焼き尽くせという19世紀以来の「戦略爆撃論」に代表されるようなリアルな武力戦争は、経済的な相互依存関係が国際的に進みすぎた現代社会では、もはや現実的ではありません。破壊力がメガトン級の核兵器が前近代的な兵器であることは誰の目にも明らかでしょう。核兵器を使った国家は、侵略国家、非道国家として国際的な信用を失墜させ、多国籍軍に代表される国連安保理の繰り出す武力制裁、経済制裁により早々につぶされるだけです。21世紀からの現代の戦争は、仮想敵国の経済、人的(技術的)なインフラを焼き尽くさず、破壊せず、殺さずにコントロールして国益を追求する戦争といえるでしょう。インターネットの普及とハッキングやマルウェアなどの技術的な進化により、新たな戦争の形が確立したわけです。まさに現代は「第三次世界大戦」の状態といえますが、「第三次」の後に「サイバー」をつけるべき有事体制といえるのです。


2018年6月19日火曜日

史上初のアメリカと北朝鮮の二国間交渉・米朝首脳会談の成果 ~勝者はどっちだ?~

「米朝首脳会談」の勝者は、北朝鮮そして中国
 
斎藤 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

2018616 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13140

「トランプ、北朝鮮への熱情湧出」(ニューヨーク・タイムズ)、「サミットは金正恩の勝利」(ワシントン・ポスト)、「トランプは演出は上出来だったが、中身はどこに?」(ボストン・グローブ)、「トランプの奇妙な野望は不完全燃焼で幕」(ロザンゼルス・タイムズ)--いずれも米朝首脳会談終了翌朝の各紙社説のきたんない見出しだ。
 「北朝鮮の核の脅威はなくなった」―2018613日、歴史的米朝首脳会談を終え、ワシントンに戻ったトランプ大統領はこう成果を高らかに謳いあげた。だが、アメリカの主要メディアそして識者の多くは懐疑的で、むしろ「勝者」は北朝鮮そして中国だとする冷めた見方が広がっている。
2年前の大統領選でトランプ候補を熱烈支持した中西部の一部の保守系新聞を除けば、全米の多くの新聞は、首脳会談は「政治ショー」だったとし、その実体は過去の米朝を加えた6カ国協議の蒸し返しにすぎず、また北朝鮮側に譲歩しすぎたことなどにも言及している。
 これとは対照的なのが、北朝鮮メディアの報道ぶりだ。
 国営とはいえ、朝鮮中央通信は結果について「敵対的だった両国関係を時代の要求に合わせ、画期的に転換させる大きな出来事だった」と高く評価し、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」も「世紀の出会い」の詳報や関連写真を大々的に掲載し、高揚感をにじませた。
 米側の専門家たちが、今回首脳会談で金正恩委員長が「勝者」だったとみなす根拠は、以下のような理由からだ。
1.  これまで「ならず者国家」「テロ国家」の烙印を押され世界から異端視されてきた北朝鮮の最高指導者が、初めてシンガポール・サミットで世界最強国アメリカの大統領と堂々と渡り合い、各国から集まった3000人を超す報道陣による大々的露出により「普通の国家」として世界の仲間入りを果たした。国のイメージ・アップのために最大級の効果が現出された。
2.  会談終了後の「共同声明」では、米側がかねてから北朝鮮に要求してきた「完全かつ検証可能で不可逆的核廃絶」(CVID)という文言は盛り込まれず「完全な廃絶」とだけ述べて、今後、非核化実現のカギとなる検証と核再開発封じへのコミットメントが欠落した。会談直前までトランプ大統領やボルトン大統領補佐官らが公言してきた「すみやかな非核化」達成に向けての具体的なロードマップ(道筋)についても何も示されなかった。
3.  金正恩氏が「朝鮮半島の非核化に向けた堅固で揺るぎない決意を再確認」したのと引き換えに、トランプ大統領が「北朝鮮の体制の安全の保証」を約束した。
4.  この「安全の保証」と関連して、トランプ大統領自身が驚くべきことに米韓合同軍事演習について「挑発的だ」と表現して中止を約束、金委員長を喜ばせる一方、米国の同盟国である日韓両政府に動揺と衝撃を与えた。
5.  さらにトランプ大統領は会談後の記者会見の中で、在韓米軍の存在そのものにも言及「いつの時点かで32000人のわが兵士たちを韓国から引き揚げさせることを希望する」と述べ、米議会共和党幹部の間からさえ失望と反対の声が挙がった。
 これに対し、トランプ氏にとっての成果を強いて挙げるとすれば、
1.   金氏から「北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」との約束をとりつけた
2.  朝鮮戦争で死亡した米兵の遺骨収集と米国への返還に即時着手する用意が表明された。
 この2点ぐらいにすぎない。
 このうち、「完全な非核化」については、今年4月南北首脳会談で採択された「板門店宣言」に盛り込まれた文言と同じであるばかりか、「北朝鮮はすべての核兵器および既存の核計画を放棄する」とより具体的に明記した20059月の北朝鮮を含む6カ国協議共同声明と比較するとむしろ後退した印象だ。
 こうしたことから、総じて言えば「史上初の米朝首脳会談」の「勝者は北朝鮮」とする指摘にはそれなりの説得力がある。

最も点を稼いだのは実は、中国

 しかし、今回首脳会談で最も点を稼いだのは実は、中国だった。この点についても、多くの米マスコミが舌鋒鋭く論じている。
 「米朝首脳会談で予期せざる勝者=中国」、「米朝サミット、最大の勝者は中国」(ニューヨーカー誌)、「歴史的米朝サミットのビッグ・ウイナーは中国か」(CBSテレビ)、「米朝首脳会談の最大勝者は中国」(ワシントン・ポスト)といった見出しで始まる解説だ。
 では実際に、中国からみて米朝首脳会談の結果はどのように映ったのか。
 まず最大の成果は、去る3月、トランプ大統領が金委員長の申し入れを即刻受け入れ首脳会談開催が決定以来、金委員長が2度にわたり訪中、習近平国家主席との直接会談により、関係修復の糸口をつかんだことだ。
 というのは、金正恩氏が2011年、最高指導者となって以来、中国との主な交渉窓口だった叔父の張成文氏の処刑を命じたことなどによって両国関係は疎遠となり、両指導者同志による直接会談は一度もなかったからだった。それまで中国は、金委員長の下で米朝関係がにわかに加速し、その結果、朝鮮半島に対する中国の影響力が相対的に減退することを懸念していたとされる。
 ところが、史上初の米朝首脳会談開催の直前に、2度にわたり、それも金委員長の方から習近平国家主席を訪ねて会談し、朝鮮半島情勢をめぐり意見交換したことで、中国の国際的立場も示威できた。年内早期の習氏の初訪朝も視野に入っている。
 とくに去る578日の両日、中国・大連で行われた2回目の中朝首脳会談では、金委員長が朝鮮半島の核政策に関連して「韓国および米国が平和実現のために前進的で同時進行的な措置をとる」ことを前提として「半島の非核化に取り組む」との基本姿勢を表明したが、米朝会談でもこの点をトランプ大統領に説明し、結果的に中国側の期待通りの成果を引き出した。
 第2に、トランプ大統領が米朝首脳会談後の記者会見で、米韓合同軍事演習の中止に言及したことだ。
 中国はこれまで6カ国協議などの場を通じ、朝鮮半島緊張緩和の一環として、北朝鮮に対しては核開発および核実験の凍結、そして米国に対しては米韓合同軍事演習の中止を同時並行的に要求してきた。今回、トランプ大統領自身がその中止を表明したことは、中国にとってはまさに「予想外の朗報」だったに違いない。
 さらにこれと関連して、大統領が将来的な在韓米軍撤退まで示唆する発言をしたことは、
今後朝鮮半島における中国の影響力を堅持する上でプラス材料となった。
 第3点目として、大統領が会見の中で、中国による対北朝鮮経済制裁緩和措置を容認したとも受け取れる発言をしたことだ。大統領は「習近平国家主席は北朝鮮との国境を(経済制裁の目的で)閉鎖してきたが、ここ数か月はそれを少し緩めてきた。それはOKだ。彼は素晴らしい人物で私の友人だ」と語っている。

成果より「政治ショー」

 中国による対北朝鮮制裁緩和措置については、米朝首脳会談開催日の12日、中国外務省スポークスマンが、北朝鮮側の核計画譲歩に応じた対北朝鮮への柔軟姿勢は国連安保理決議に沿ったものだとの見解を述べたばかりだった。
 これまで日米韓3カ国政府は、非核化実現のために北朝鮮に対し「最大限の圧力行使」を確認し合ってきただけに、今回のトランプ発言は3カ国の断固とした共同歩調に水をさすことにもなりかねない。
 これらの点を含め、今回の米朝首脳会談を総括するとすれば、開催自体にそれなりの価値はあったにせよ、トランプ大統領が十分な事前準備もなく開催を急いだあまり、成果より「政治ショー」としてのほころびがめだった、ということになろう。

 そして、もし今後の北朝鮮との実務協議で非核化に向けての具体的進展が得られなかった場合は、11月米中間選挙にもかえってマイナス材料となる可能性も否定できない。


本来は拉致問題の解決こそが最優先では?
〈管理人より〉北朝鮮は、拉致問題の「完全かつ検証可能な形で、不可逆的な解決」が実現すれば、現在の支配体制は崩壊するかもしれません。北朝鮮が拉致したすべての人たちの生存情報を公表し、生存する拉致被害者を故郷へ返すことは、「国家戦略に基づく外国人拉致」という侵略戦争を認め、成算することになるからです。拉致の問題を共同声明にいれなかったことは、北朝鮮の国家的な侵略戦争については後回し、核兵器とミサイルの問題という枝葉の問題の解決を宣言したことになりはしないでしょうか?
「拉致」は日朝の問題ではなく国際問題です。この問題の解決と過去の北朝鮮の国家的な侵略戦争こそ糾弾されなければならない、これがまず最優先かと思いますが、多くの方々はどう感じられることでしょうか?
【アメリカの対中戦略面でも疑問がある会談!?】
中国への警戒心をあらわにする米国

岡崎研究所
2018530日、ホノルルの米軍基地では、米太平洋軍の司令官交代式がとり行われた。日本からは小野寺防衛大臣が式典に参加した。交代式では、マティス国防長官がスピーチを行なった。その内容の主要点を紹介する。
・米太平洋軍は、地球の半分以上の面積を占める広い地域を管轄し、人口も多種多様で、ハリス提督の言葉を借りれば、ハリウッドからボリウッドまで、北極熊からペンギンまでをカバーする。
・太平洋岸に面した米国の5つの州のうちの1つであるワシントン州で育った私(マティス)は、昨日、このハワイに来る飛行機の窓から広い太平洋を眺め、アメリカ合衆国は、現在も、そして2世紀の間ずっと太平洋国家であったことを再認識した。
・米国の国家防衛戦略は、米軍のロード・マップであり、世界がどうあってほしいかではなく、世界がどうなっているかをありのままに直視し、現実を認めるものである。我々の2018年の国家防衛戦略は、この10年で初めてまさにそういうものになっている。それは、太平洋における諸問題を認め、米国のインド太平洋における継続的かつ確固たる関与を記している。
・米国のヴィジョンは、地域のほとんどの諸国に共有されている。全ての国家は、その大きさに関わらず、主権が尊重される。インド太平洋地域は、投資及び自由で公正で相互主義の貿易に開かれている。この地域は「多帯多路」を有しており、いかなる国家の略奪的経済や威圧の脅威に縛られることがあってはならない。
・米国は、引き続き、インド太平洋の安定に積極的に投資する。自由かつ開かれた、ルールに基づく国際秩序を強化し、この地域が成長し、70年以上繁栄することを可能とする。
・米国の国家防衛戦略は、対立の戦略ではなく、それは理想主義、実利主義そして協力のバランスを取ったものである。我々は、我々の国際的利益と同盟諸国・パートナー諸国の利益及び安定に合致するならば、競争相手とも協力と開かれた対話の機会を求め続ける。
・我々は常に平和を強い立場から追求する。我々は既存の同盟を強化し、域内の新たなパートナーを増やして行く。そのために、我々の戦略的ヴィジョンの礎石を打ち立てる。全ての国家の主権を尊重するという共有されたヴィジョンであり、テロ、自由貿易の阻害、災害等共通の脅威と闘うことを可能とする強固な安全保障体制を作って行く。
・インド太平洋地域の安定を維持する上で、この地域の同盟諸国、パートナー諸国との関係は、不可欠のものである。我々(米国)はパートナー諸国の側に立ち、彼らの国家主権の決定を支持する。何故なら、世界的平和に不可欠な海洋の安定を維持するには、大小全ての国家が存在することが地域にとって重要であるからだ。
・今日、インド洋と太平洋の連結性が高まっていることを認識し、我々は、米太平洋軍を米インド太平洋軍と改名する。何十年もの間、この太平洋軍は変化する状況に繰り返し適応させてきた。そして今日、このレガシーをもって、米国は西に焦点をあてる。
・ハリス提督は2015年にここで舵を取ってから、しばしば海洋の波の流れが変わる中でも、しっかりと船を進めてきた。提督は、卓越した洞察力をもって我が国(米国)が必要なことを予見し、国際法に基づき、お互いが協力する精神を共有する諸国と共通の目標を立てた。
・提督は、国家間の信頼醸成の重要な要素である外交官たちを支援しながら、我々の統合軍を準備が整った、能力もあり、決死の覚悟もあるものにしてくれた。適切に設定した目標を掲げてパートナーシップを追求した提督の積極的な努力により、この重要な地域における我々の信用性と能力は確かなものとなった。
・提督は、また、米国にとって、どんな関係も当たり前のものではないことを示してくれた。休むことなく多国間関係を向上させるために努力し、緊急テロ対抗措置でパートナー諸国と連携し、対処してくれた。
・同時に、提督は、北朝鮮に対する国連安保理の制裁を維持するために統合パトロールを実施した。また、提督は、公海は全ての国家に開かれていなければならないことを示すために、航行の自由作戦を指揮した。このような行動の成功は、ハリス提督が国際法の役割を認めたことと提督の戦略的ヴィジョンによるものである。
・今、デイヴィッドソン提督が舵を握り、国家防錆戦略の3つの柱を担うことに私(マティス)は信頼を置いている。インド太平洋軍の決死の覚悟を高め、ハリス提督が発展させた同盟諸国やパートナー諸国との関係の上に、さらに安定と国際法遵守を強化する信頼の絆を固くし、同時に、インド太平洋軍内の行動を改善して行くことである。
・デイヴィッドソン提督は、司令官承認の公聴会で、インド太平洋軍が史上最も強固で闘える軍隊となるよう全力であたることを約束してくれた。今日、米国及び広いインド太平洋地域の国々は、あなた(デイヴィッドソン司令官)を頼りにしている。
出典:Secretary of Defense James N. Mattis ‘Remarks at U.S. Indo-Pacific Command Change of Command Ceremony’ May 30, 2018
マティス国防長官の演説は、ハリー・ハリス太平洋軍前司令官に対し賛辞を送り、フィリップ・デイヴィッドソン新インド太平洋軍司令官を歓迎し鼓舞したものである。
 同盟諸国(allies)、パートナー諸国(partners)、諸国(countries)という言葉は多々使用されているが、国の固有名詞が出てきたのは北朝鮮のみである。しかし、演説内容から、明らかに中国に対して警告を発していることが分かる。特に、中国が掲げる「一帯一路」構想に対して、多帯多路(many belts and many roads)という言葉を使用していることからも、それは明白である。
 大小かかわらず国家主権が重要と言っているのも、大国を自負する中国に対して、インド太平洋地域の他の様々な中小諸国を仲間として、同盟国ないし友好国として受け入れる用意があることを示している。この内容は、52日にターンブル豪首相とマクロン仏大統領が、「大魚が小魚や小エビを食べてしまってはいけない」と言っていた比喩とも重なる。
 太平洋軍がインド太平洋軍と改名した530日の翌日、531日、この改名を象徴するかのように、米海軍は、インド海軍及び海上自衛隊とともに日米印の3か国共同軍事演習「マラバール2018」をグアム沖で行った。
 なお、デイヴィッドソン新司令官の政策等に関しては、上院で行われた指名承認のための公聴会が参考になる。本ウェッジのサイト上の岡崎研究所の記事でも扱っているので、参照されたい。(5月7日掲載5月8日掲載、及び5月15日掲載。)

【共産中国が「安心しない」戦略を願う】

鍵はインドとASEANか

インド太平洋地域におけるインドの役割

岡崎研究所

201861日―3日、シンガポールのシャングリラ・ホテルで、英国のシンクタンクIISSInternational Institute for Strategic Studies : 国際戦略研究所)が主催する第17回アジア戦略サミットが開催された。そのオープニングの基調講演を行ったのが、インドのナレンドゥラ・モディ首相である。約35分(A4版テキストにして約8ページ)のモディ首相の演説は、前半がASEAN(東南アジア諸国連合)への賛辞と印ASEAN関係の緊密化について語られ、後半は、インド太平洋地域の特徴を7項目の要素で説明している。それらの内容を紹介しながら、インド太平洋地域におけるインドの役割を考えてみたい。

インドとASEANとの関係強化

 今年1月のインドの共和国記念日に、モディ首相は、ASEAN10か国首脳を招いた。モディ首相は、「ASEANインド・サミットは、我々(インド)のASEANとの係わりと我々のアクト・イースト政策Act East policy)の証である。」と述べている。「アクト・イースト政策」は、まだ耳慣れない言葉かもしれないが、日本にとっては、かつて1980年代にマレイシアのマハティール首相が提唱した「ルック・イースト政策」が思い出される。恐らく、それをもじったものかもしれないが、インドとしては、ASEAN、さらには太平洋まで東側を向いて行動して行くという決意の表現なのだろう。
 モディ首相は、シンガポールに到着する前に、インドネシアを訪問し、首脳会談を開き、インドとインドネシアとの関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしたと言い、それから短時間、マレイシアにも寄り、マハティール首脳とも会ってきたことを披露した。
 モディ首相の演説では、古来より、「インド人の思考には海洋が重要な位置を占めてきた。」と言われたように、海洋国家としてのインドが強調された。シンガポールとは、25年にわたり中断することなく海軍演習をしてきて、近く新たに3か国でやることが決まっていて、さらには他のASEAN諸国にも拡大したいことが述べられた。そして、米日と共にマラバール演習を行っていること、インド洋でのミラン演習に多数の諸国が参加し、太平洋のRIMPAC演習にも参加することにも触れられた。
 モディ首相は、インド太平洋地域は、インド洋の先のアフリカから太平洋の端の南北アメリカまで、ASEANを中心に幅広い範囲を含むと地理的に定義し、ASEANとは、この25年間で、対話のパートナーから戦略的パートナーになったと語った。

インド太平洋地域とは?

 モディ首相は、インド太平洋地域に関して、次の7つの要素を挙げている。
1    自由で開かれた、排他的ではない地域である。
2    東南アジアがその十字路にあり、ASEANはその中心的存在である。
3    繁栄と安全保障のために、ルールに基づいた秩序を、対話を通して進化させることが重要である。
4    全ての国が平等に、海と空の共通空間を使用するアクセスを有する。
5    この地域、我々全ての国々が、グローバル化の恩恵を受けてきた。
6    連結性が不可欠である。インフラの整備のみならず、信頼の橋を築くことが重要である。
7    これら全ては、大国の対立の時代に戻らなければ、可能である。対立のアジアは、全ての国を後退させる。
モディ首相は、演説の最後の方で、「我々は、民主主義的でルールに基づいた国際秩序を促進させる。」と述べ、大小かかわらず各国が平等に扱われ、主権が尊重されるべきことを主張した。
 IISSの筆頭理事、ジョン・チップマン事務局長によると、今回のシャングリラ会議には、575名の参加者、40か国の国防大臣の参加があり、今までで最大規模だったそうだ。IISS1958年に設立されて今年で丁度60周年を迎える。その記念の年であると言うのみならず、場所がシンガポールというのも重要である。朝鮮半島の地政学を大きく揺さぶる612日の米朝首脳会談がシンガポールで開催させる直前のアジア戦略サミットだった。
 また、チップマン事務局長が指摘したように、アジア全体が地政学的にインド太平洋という大きな戦略的舞台になってきたという重要な局面でのシャングリラ会議だった。この基調講演者として、13億人の民を抱える世界最大の民主主義国のインドの首相が招かれ、開幕したということは、大きな意義があろう。
 モディ首相も含め、誰も表立って名指しこそしないが、インド太平洋地域における中国の一方的力の誇示を暗に批判して、それに対抗するには、法に基づいた国際秩序を、価値を共にするパートナー諸国で協力して打ち立て行動しなければならない、と語りかけた。このような内容は、インドの首相のみならず、日米豪等の首脳からも、よく語られることがある。
 20年程前に、駐日シンガポール大使が、自民党外交調査会で、中国の台頭に対処するには、日本とASEANだけでは難しく、米国が入ってくれなければ対処できない、と語ったことがある。それから中国はさらに巨大化した。もはやインドも仲間に入れて、一緒に対処しなければならなくなったのかもしれない。
参考:’Prime Minister’s Keynote Address at Shangri La Dialogue (June 01, 2018’, Ministry of External Affairs, Government of India, June 01, 2018
日印共同軍事演習

【日韓で共産中国を牽制できるか?】

日本と韓国、どちらが嫌い? 良い意味でも悪い意味でも中国を刺激する日韓

モーニングスター株式会社

 

https://www.msn.com/ja-jp/news/world/日本と韓国、どちらが嫌い%ef%bc%9f-良い意味でも悪い意味でも中国を刺激する日韓/ar-AAyN5oi?ocid=spartandhp#page=2

© Searchina 提供 韓国について中国人の感情は、日本に侵略された過去から中国同様に反日であり、中国人の共感を得やすいと指摘。しかし、経済発展に伴い中国を見下すようになった韓国には我慢ならないとした。

中国にとって、日本と韓国という隣国は歴史的にも密接な関係にあった国と言える。古代において、中国は日韓に大きな影響を与えさまざまな進んだ文化を伝えたが、近代においてはこの2つの小さな国に先を越され、「バカにされてきた」ことが我慢ならないという気持ちもあるようだ。

中国メディアの快資訊は9日、「日本と韓国、どちらのほうが嫌い?」と質問する記事を掲載した。これは主に、日本と韓国から「見下される」ことに対する反感を示しているようだ。

記事は、まず韓国について、日本に侵略された過去から中国同様に反日であり、中国人の共感を得やすいと指摘。しかし、経済発展に伴い中国を見下すようになった韓国には我慢ならないとした。さらに、一部の学者が主張する「韓国起源説」も中国人の感情を逆なでしているようだ。漢字や羅針盤など多くの中国古来の文化を韓国が起源だと主張する人がいて、嫌韓感情を煽っているとした。

日本に関しては、歴史問題ゆえに反日感情が強いのは言うまでもない。記事は、日本を憎む気持ちは中国人の心の中に烙印として押されているため、今後数世紀は消えないだろうとしている。しかし、これには教育が大きな理由を占めているだろう。

だが記事は、日本や韓国からは学ぶべき点も非常に多いと指摘。日本の科学技術のレベルの高さや、韓流は中国でも大人気となったことなどは認めざるを得ないとしており、複雑な感情をのぞかせた。しかし、「中国は発展の軌道にすでに乗っており、努力によって間もなく中国の夢が実現するに違いない」と主張した。

このように、日韓は良い意味でも悪い意味でも中国を刺激しているようだ。特に日本に対しては科学技術の進歩などで尊敬の気持ちがあるのも事実のようであり、これからも中国が強く意識する隣国となっていくだろう。(編集担当:村山健二)(イメージ写真提供:123RF)