2019年7月14日日曜日

軍事アナリスト北村淳氏『シミュレーション日本降伏』(PHP新書)より


実は「地対艦ミサイル先進国」日本の実力

20197/13() 12:36配信 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190713-00010000-voice-pol


北村淳(軍事アナリスト)



軍事アナリストの北村淳氏は近著『シミュレーション日本降伏』(PHP新書)にて、急速に軍備を増強させる中国の戦力と日本の戦力を詳細に比較しつつ、日本の領土・領海が脅かされている現状に警鐘を鳴らしている。



<<米トランプ大統領が「安保条約の破棄を示唆」とのニュースが突如として駆け抜け、日本国民に衝撃を与えた。北村淳氏は近著『シミュレーション日本降伏』にて、海洋進出を加速させる中国が魚釣島に侵攻した場合を想定したシミュレーションを展開しつつ、日本と中国両国の詳細な戦力比較を行っている。

そのなかで地上から敵軍の艦艇を攻撃するミサイル「地対艦ミサイル」について、中国が「地対艦ミサイル大国」で対する日本は「地対艦ミサイル先進国」だと述べている。本稿では同書より日本の現状を解説した一節を紹介する。>>

※本稿は北村淳著『シミュレーション日本降伏 中国から南西諸島を守る「島嶼防衛の鉄則」』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。


アメリカでは必要とされなかった地対艦ミサイル

地対艦ミサイルを語る際にきわめて興味深いのは、アメリカ軍の現状である。

トランプ政権が誕生するまでオバマ政権下で国防予算が大幅に削減されたため、戦力低下に喘あえいでいるとはいっても、依然としてアメリカ軍はありとあらゆる兵器システムを取り揃えている世界最大規模の軍隊だ。

しかしながら、そのようなアメリカ軍といえども地対艦ミサイルシステ
ムを保有してこなかった。両隣がカナダとメキシコに挟まれているアメリカ本土(ハワイ州とアラスカ州を除いた四八州とワシントンDC)は、太平洋と大西洋という広大な海洋でアジア大陸やヨーロッパ大陸と隔てられている。

そのため現在、アメリカ国防当局は自国の海岸線沿岸域での防衛はほとんど考えていない。もちろん本土決戦などまったく想定していない。

要するに、沿岸海域での迎撃戦に威力を発揮する地対艦ミサイル部隊を運用する必要性を認めていなかったのである。

したがって、アメリカ軍需産業も、地対艦ミサイルシステムには関心を示さず製造してもこなかった(ただし、対中軍事戦略の転換に伴って状況は変わりつつある)。

もっとも、地対艦ミサイルシステムはアメリカに限らず、さほど多くの国々で開発製造されているわけではないため、現存する地対艦ミサイルの多くは、軍艦に装備される対艦ミサイルのバリエーションとして副次的に生み出されている場合が多い。



https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190713-00010000-voice-pol&p=2


障害物を避けながら飛翔する日本の高性能「地対艦ミサイル」


西側諸国としては珍しく地対艦ミサイルを開発製造しているだけでなく、地対艦ミサイルの運用に特化した世界的に稀有な地対艦ミサイル部隊も保有している国が、日本である。

日本が独自に開発し製造した地対艦ミサイルシステムは「88式地対艦誘導弾」ならびにその改良型の「12式地対艦誘導弾」である。

88式地対艦誘導弾」(以下、本稿ではミサイル本体と混同するのを避けるため、88式地対艦ミサイルシステムと記述する)は、射程距離が150km以上(おそらく200km近く)で飛翔速度は1150kmhと考えられている。

この地対艦ミサイルシステムはレーダー装置、指揮統制装置、射撃管制装置、ミサイル発射装置などから構成されており、大型ならびに中型トラックに搭載されて陸上を自由に移動することができる。

88
式地対艦ミサイルシステムの改良型である「12式地対艦誘導弾」(以下、12式地対艦ミサイルシステム)は、目標捕捉能力をはじめとする攻撃性能が向上し、射程距離は200km以上(おそらく250km近く)に延伸しているものと考えられている。

88式地対艦ミサイルシステムと同じく、レーダー装置や発射装置などシステム構成ユニットはそれぞれトラックに積載される地上移動式兵器である。

これらの日本製地対艦ミサイルシステムは、地形回避飛行能力(超低空を飛行するミサイルが、地上の地形を認識して障害物を避けながら飛翔する能力)を持っている世界的にきわめて稀な地対艦ミサイルだ。

これは、陸上自衛隊の地対艦ミサイルの運用が当初は北海道に侵攻するソ連軍を想定していたために付加された機能である。

すなわち、北海道沿岸域に迫りくるソ連侵攻艦隊に対して、陸上自衛隊地対艦ミサイル連隊が海岸線付近に展開した場合、ソ連艦艇からの砲撃やミサイル攻撃に晒されてしまう。

そこで地対艦ミサイル連隊は海岸線ではなく内陸奥深くに潜み、沿岸海域に接近したソ連艦艇を内陸から攻撃して撃破する戦術を立案したのである。そのため、地上上空を100km以上飛翔するという、対艦ミサイルとしてはきわめて稀なミッションを持たされて開発されたのが、陸上自衛隊の地対艦ミサイルなのである。



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ロシア海軍を想定して配備される一方で、中国海軍への備えは手薄


陸上自衛隊には「地対艦ミサイル連隊」と呼ばれる地対艦ミサイルに特化した部隊が設置されており、現在、五個部隊が編成されている。

第一地対艦ミサイル連隊(北海道北千歳駐屯地)
第二地対艦ミサイル連隊(北海道美唄駐屯地)
第三地対艦ミサイル連隊(北海道上富良野駐屯地)
第四地対艦ミサイル連隊(青森県八戸駐屯地)
第五地対艦ミサイル連隊(熊本県健軍駐屯地)

この、世界でも稀に見る地対艦ミサイル連隊は、もともとはソ連軍の侵攻に備えるために生み出されたため北海道方面に集中的に配置された。当初は六個連隊が編成されていたが、ロシアの脅威が縮小したため大幅に削減されることとなった。

しかし、中国の東シナ海への侵出姿勢に対応して縮小は一個連隊にとどまり、今後も五個連隊態勢が維持されることになっている。

以上のように、日本は世界に誇れるきわめて高性能な地対艦ミサイルを開発しているだけでなく、世界でも稀な地対艦ミサイル連隊が設置されているという、いわば地対艦ミサイル先進国なのである。

ただし、このように陸上自衛隊は地対艦ミサイル連隊を五個部隊擁しているものの、南西諸島をはじめとする東シナ海方面で中国海軍に備える配置についているのは一個連隊だけである。

残りの四個連隊は北海道と青森県に配備されていてロシア海軍を想定敵としており、日本が直面する軍事的脅威の変化を無視している状態だ。

さすがに近年、島嶼防衛の重要性を日本国防当局自身が口にするようになってきたためか、地対艦ミサイル部隊(地対艦ミサイル連隊ではなく、地対艦ミサイルシステム運用の最小単位の部隊)の石垣島、宮古島、奄美大島への配備が開始されたため、地対艦ミサイル連隊の配置も修正されるものと思われる。


88式地対艦誘導弾






”米軍は警戒”なのに日本は…中国「史上最強の地対艦ミサイル」の脅威


20190710日 公開https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/6594


北村淳(軍事アナリスト)



<<米トランプ大統領が「安保条約の破棄を示唆」とのニュースが突如として駆け抜け、日本国民に衝撃を与えた。北村淳氏は近著『シミュレーション日本降伏』にて、海洋進出を加速させる中国が魚釣島に侵攻した場合を想定したシミュレーションを展開しつつ、日本と中国両国の詳細な戦力比較を行っている。

そのなかで地上から敵軍の艦艇を攻撃するミサイル「地対艦ミサイル」について、中国が「地対艦ミサイル大国」で対する日本は「地対艦ミサイル先進国」だと述べている。本稿では同書より中国の現状を解説した一節を紹介する。>>

※本稿は北村淳著『シミュレーション日本降伏 中国から南西諸島を守る「島嶼防衛の鉄則」』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。



「地対艦ミサイル大国」へと進化する中国


アメリカと異なり、ロシア(ソ連時代から)と中国はさまざまなタイプの地対艦ミサイルを生み出している。

これは、きわめて強力なアメリカ海軍に対抗しうるだけの強力な海軍力を建設することが難しかったソ連や中国が、自国の沿岸域までアメリカ海軍部隊に接近されることを想定していたため、地対艦ミサイルや沿岸砲で沿岸防備を固めようと考えていたためである。

かつて中国が配備を進めていた地対艦ミサイルの多くは、短・中距離ミサイルであった。

これは、人民解放軍の海軍力が弱体であった当時、中国大陸沿岸部に押し寄せる敵を防ぐための沿岸防備用軍艦を取り揃えることすら困難であったため、沿岸から地対艦ミサイルを発射して何とか敵艦の接近を阻止しようとしたためであった。

最も有名であった中国製地対艦ミサイルがシルクワームと呼ばれるものであり、改良型のバリエーションも多く、北朝鮮、イラン、イラクなどにも輸出されている"ポピュラー”な地対艦ミサイルである。

イラン・イラク戦争(イラン軍もイラク軍もともに使用した)、湾岸戦争(イラク軍がアメリカ軍艦とイギリス軍艦に向けて発射したが、イギリス軍艦によって撃墜された)、イラク戦争(イラク軍がクウェートの多国籍軍に向けて発射した)などの実戦でも使用されている。

2006年のレバノン戦争では、ヒズボラが発射したシルクワームの発展型であるC-701地対艦ミサイルがイスラエル海軍コルベットに命中し、イスラエル軍に死傷者が出ている。


https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/6594?p=1


対象的なアメリカ海軍関係者と日本の反応


中国の「積極防衛戦略」の進展に伴い、より沖合の敵艦艇を攻撃する必要性に応えるため中国技術陣が開発したのが、シルクワームファミリーの射程距離を倍増させた鷹撃(ようげき)62C-602)地対艦ミサイルである。

シルクワーム型のものよりも搭載爆薬重量は軽量化されたが、マッハ0.8のスピードで射程距離280290㎞を飛翔する。鷹撃62の改良型である鷹撃62-Aも誕生し、飛翔距離は400㎞といわれている。


これらの地対艦ミサイルはロケットエンジンやジェットエンジンで飛翔する巡航ミサイルであるが、中国はより遠距離の敵艦を破壊するための対艦弾道ミサイルの開発に努力を傾注してきた。


2013年ごろから、東風(とうふう)21型中距離弾道ミサイル(日本攻撃用の弾道ミサイル)を母体にして開発された東風21D型(DF-21D)と呼ばれる対艦弾道ミサイルが姿を現す日が間近いと見られていた。そして、20159月に行われた対日戦争勝利七十周年記念軍事パレードにDF-21D対艦弾道ミサイルが登場した。


人民解放軍の発表や米軍情報機関の分析などによると、DF-21Dの最大射程は16002700㎞であり、数個のレーダー衛星、光学監視衛星、それに超水平線レーダーなどからの情報によって制御されつつマッハ10(マッハ5という分析もある)で飛翔し、多弾頭(一つのミサイルに装着されている弾頭内部にいくつかの弾頭やおとり弾頭が仕込まれてい
て、それぞれが制御されながら目標を攻撃する)が空母などの艦艇に向けて超高速で落下する。目標の艦艇は、30ノット(時速56㎞)の速度で航行していても命中可能とされている。



DF-21Dは、主としてアメリカ海軍の巨大原子力空母を攻撃目標として開発されたが、命中精度を向上させて空母だけでなく、米海軍の大型艦から中型艦、たとえばイージス駆逐艦までをも攻撃するために開発されたのが、東風26型弾道ミサイル(DF-26)である。

DF-26は最大射程距離が3000㎞以上(あるいは4000㎞以上)といわれており、艦艇だけでなく、地上建造物などのような静止目標に対する攻撃も可能なため、アメリカ軍ではグアムの米軍攻撃用と考え「グアム・キラー」あるいは「グアム・エクスプレス」などと呼んでいる。


その長い射程距離のため、DF-26対艦弾道ミサイルは西太平洋などの外洋を航行するアメリカ軍艦を攻撃するイメージを持たれていたが、中国沿岸域からはるか内陸のアメリカ軍の攻撃を受ける恐れが低い地域から発射して、南シナ海や東シナ海の中国近海に侵攻してきたアメリカ軍艦(それに自衛隊艦艇をはじめとするアメリカ同盟軍艦艇)を撃破する、という用い方も想定可能である。


DF-21DにせよDF-26にせよ、対艦弾道ミサイルがアメリカ海軍原子力航空母艦のような巨大艦に向けて発射された場合、一発目の命中弾によって航行不能に陥らせ、二発目の命中弾によって撃沈することになるとされている。


中国内陸奥地のゴビ砂漠で実射テストが繰り返されている、といわれているが、実際に海上を航行する艦船をターゲットにした試験は行われていない。


いずれにせよ、中国側の宣伝情報が真実に近ければ、対艦弾道ミサイルはイージスシステム搭載艦でも迎撃はきわめて困難となり、史上最強の地対艦ミサイルということになる。

対艦弾道ミサイルの主たる攻撃目標は、西太平洋や東シナ海を中国に向けて接近してくるアメリカ海軍空母とされているが、米海兵隊を搭載する強襲揚陸艦や、海上自衛隊の大型艦であるヘリコプター空母も格好の標的となる。


しかしながら奇妙なことに、日本ではDF-21DDF-26の脅威はほとんど取り上げられておらず、見掛け倒しのハッタリといった評価が幅を利かせている。

しかし、アメリカ海軍関係者たちは中国対艦弾道ミサイルの完成をきわめて深刻に受け止めており、日本側での受け止め方とは好対象をなしている。





「安保条約があっても」米が日本に援軍を送らない“明確な根拠”


20190626日 公開https://shuchi.php.co.jp/article/6549


北村淳(軍事アナリスト)



<<米トランプ大統領が「安保条約の破棄を示唆」とのニュースが突如として駆け抜け、日本国民に衝撃を与えた。しかし、米シンクタンクで海軍アドバイザーを務めた軍事アナリストの北村淳氏によれば、安保条約が維持されていても、日本の危機に米軍は援軍を送らないと指摘する。


北村氏の近著『シミュレーション日本降伏』では、海洋進出を加速させる中国が魚釣島に侵攻した場合に、日本は短期間で降伏してしまうという衝撃のシミュレーションを展開し、宮古島や石垣島を含む南西諸島を守るための対策が急務だと指摘している。

日中両国の軍事戦力差を冷静に比較分析し、かつ国際社会における中国の立ち回り方も踏まえた結果に導かれたものだが、やはりこのシミュレーションにおいてアメリカ軍は日本の救援に動かない。

なぜなのか? 本稿では同書よりその理由の一端に触れた一節を紹介する。>>

※本稿は北村淳著『シミュレーション日本降伏 中国から南西諸島を守る「島嶼防衛の鉄則」』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。



かつての日本海軍・陸軍と似た陸・海・空自衛隊の状


第二次世界大戦での手痛い敗北後70年以上を経た現在においても、日本の国防システムは日本自身の経験も含めた古今東西の戦例からの教訓をしっかりと反映させているとはいえない。

なぜならば、島嶼国日本の防衛は「海洋において外敵を撃退する」態勢を堅持しなければならないにもかかわらず、相変わらず陸上自衛隊と海上自衛隊、それに航空自衛隊が互いに牽制しながらバランスを取り合っている、というかつての日本海軍と日本陸軍のような状態が続いているからである。

その結果、海上自衛隊と航空自衛隊には「島嶼防衛の鉄則」である海洋において外敵の侵攻を遮断するために必要十分な戦力が与えられておらず、陸上自衛隊は「ファイナル・ゴールキーパー・オブ・ディフェンス」を自認してはばからず、最終的には日本列島という島嶼に立てこもって外敵侵攻部隊と「本土決戦」を交えようとしている始末である(ただし、日本国防当局が来援を期待しているアメリカ軍救援部隊が到着するまでの限定的な「本土決戦」ではあるが)。

東シナ海における中国の侵出政策に対抗する方針に関しても、日本国防当局が想定する戦略は「島嶼防衛の鉄則」を大きく踏み外している。なぜならば、島が占領されたことを前提としての「島嶼奪還」といったアイデアが大手を振ってまかり通ってしまっているからだ。

「島嶼防衛の鉄則」に従うならば「海を越えて南西諸島や九州に迫る中国人民解放軍を海洋上(上空・海上・海中)において撃退してしまうだけの防衛態勢を維持することによって、中国の東シナ海侵出政策を挫折させること」が必要なのである。


https://shuchi.php.co.jp/article/6549?p=1


外敵が侵攻するしてくるまで反撃できない日本


憲法第九条やそれから誕生した専守防衛という概念が日本の国防思想に幅広く浸透してしまった結果、「外敵が自衛隊を直接攻撃した段階、あるいは外敵が日本領域(領空、領海そして領土)に侵攻してきた(あるいは、侵攻してくる状況が明確になった)段階になって初めて迎撃戦を開始することができる」という基本的思考が日本社会には深く浸透してしまっている。国防当局といえどもその例外ではない。


そのため、いくら国防のために軍事合理性があるからといっても、外敵の目に見える形での軍事攻撃が開始されるまでは、敵に先手を打って強力かつ効果的な軍事的対策を実施することすらできない。すなわち専守防衛というアイデアがまかり通ってしまっている。

このような専守防衛概念に固執していると、外敵が日本領域に向かって接近している状況を捕捉していても、外敵から攻撃を仕掛けてこない限り対応できない。

日本の領域の限界線である領海外縁線(その上空には領空外縁線、以下、海空合わせて「領海線」と呼称する)を外敵が越えた時点で初めて外敵を迎え撃つことが可能となるのだ。


海岸線からわずか12海里の領海線周辺まで敵が侵攻してきた段階で迎撃戦を開始するのではあまりにも遅きに失する。しかし歴代内閣の専守防衛の解釈に拘泥(こうでい)する限り、このようなぎりぎりの海域を防衛ラインの最前線に据えるしかないのである。

1海里は1852m。船が1時間に1海里進む速度を1ノットという。戦闘用の軍艦の最高速度は30ノット強程度のものが多い。輸送艦の最高速度は20ノット強程度である。したがって領海線に達した敵艦艇は30分以内にわが海岸線に到達してしまうのだ)

現代の兵器や通信手段の性能からは領海海域は日本沿岸域と見なすことができる。日本の領海線を防衛ラインの最前線とするということは、つまり「島嶼防衛の鉄則」から見ると、通常は第三防衛ラインを設定すべき海域に第一防衛ラインを設定していることを意味している。


要するに、外敵の侵攻を阻止するための海洋での防衛ラインは海岸線ぎりぎりの沿岸域のみであり、これでは海岸線での地上戦を当初より想定せざるをえない。

実際に海岸線での地上戦が大前提になっていることは、自衛隊の装備体系などから明らかである。すなわち「外敵は一歩たりともわが海岸線には上陸させない」という「島嶼防衛の鉄則」は日本国防当局の頭のなかには存在しない、あるいはそのような構想は排斥されているのだ。


そして、海岸線での地上戦のみならず、海岸線沿岸域を突破してさらに侵攻してきた敵を内陸で迎え撃って敵侵攻軍に打撃を与えつつ持久戦に持ち込み、日本各地から増強部隊を集結させて反撃に転ずる、というのが現代日本の「本土決戦」のシナリオである。

実際には、内陸で「本土決戦」を実施している間に、日米安全保障条約第五条が発動されてアメリカ軍救援部隊が駆けつけ、アメリカ海軍艦隊や航空戦力によって敵の海上補給線を打ち砕き、アメリカ海兵隊が敵侵攻部隊の背後側面から上陸して内陸で持久態勢をとっていた自衛隊と挟み撃ちにする。やがて、アメリカ陸軍の大部隊も日本に到着して敵侵攻軍を完全に撃破する、というシナリオが期待されている。


敵の侵攻目的地が離島である場合においても、島嶼周辺沿海域の一重の海洋防衛ラインでは敵侵攻軍を撃退することはできないことが大前提になっている。そのため、「いったんは敵に島嶼を占領させ、しかるのちに奪還戦力を集結して島嶼奪還作戦を実施する」というのが日本国防当局の基本的方針となっている。


ただし、現状では島嶼奪還作戦を自衛隊単独で実施することがきわめて困難なことを認識している日本国防当局は、海兵隊をはじめとするアメリカ救援軍の到着を待って日米共同作戦として実施することを期待しているのである。


https://shuchi.php.co.jp/article/6549?p=2


脆弱な防衛態勢を放置し続ける日本に、アメリカの援軍は来ない


このような日本国防当局の期待には、大いなる疑問符を付せざるをえない。

というのは、過去半世紀にわたって、第三国同士の領域紛争で一方当事国が他方当事国の領域を占領あるいは奪取した事態が生じた場合、アメリカが本格的軍事介入を実施したのは、サダム・フセイン政権下のイラクがクウェートに侵攻し、占領した事例だけだからである。


そのほかの軍事占領(たとえば最近の例では、ロシアによるウクライナ領の奪取)に関しては、アメリカは軍隊を送り込んではいない。


緊密な同盟国であるイギリスが、フォークランド諸島をアルゼンチンに占領されたときでさえ、アメリカは直接援軍を送らないどころか、当初の間はイギリスのサッチャー首相にアルゼンチンとの軍事対決を思いとどまるように説得を試みたほどである。

したがって、アメリカ国民の大半にとって関心の対象ではない日本の離島が中国に占領された事態が生じたとしても、アメリカ政府、アメリカ連邦議会が日本国防当局の期待に応えるかどうかには疑問符を付けざるをえないのだ。


いずれにせよ、島嶼国家日本の防衛方針は「島嶼防衛の鉄則」を完全に踏み外しており、「島嶼防衛の鉄則」によれば絶対に避けるべきである日本領土内での地上戦が想定されている。そのため、尖閣諸島のようないわゆる離島部に対する防衛方針でも「いったん取らせて、しかるのちに取り返す」という「島嶼奪還」がまかり通っている状況だ。


実際に、陸上自衛隊の編成や部隊配置は地上戦が前提とされていて、国民保護法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)は、明らかに日本での地上戦が実施されることを前提とした法律なのである。


要するに現在の日本は、危険極まりない防衛ラインを設定した脆弱な防衛態勢を放置し続けている状況なのである。

※我が国の戦後の憲法9条の解釈は「事なかれ主義」です。現行憲法の9条は自衛戦争も自衛戦力の保持も否定していません。国連憲章の戦力規定にそったものだからです。




本当は「尖閣諸島」に興味がなかった中国共産党


20190627日 公開https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/6447


北村淳(軍事アナリスト)


<<海洋進出を加速させる中国。南シナ海をコントロール下に置き、次のターゲットは東シナ海。尖閣諸島を含む南西諸島への挑発ともとれる動きが伝えられている。

米シンクタンクで海軍アドバイザーを務めた軍事アナリストの北村淳氏はいつ中国が魚釣島へ侵攻してもおかしくない情勢であると指摘し、近著『シミュレーション日本降伏』では、海洋進出を加速させる中国が魚釣島に侵攻した場合に、日本は短期間で降伏してしまうという衝撃のシミュレーションを展開している。


なぜ尖閣諸島はここまで危うい存在になってしまったのか? 同書では、かつて尖閣諸島に興味すら持たなかった中国が突如として領有権を主張するようになった経緯に言及している。 本稿ではその一節を紹介する。>>

※本稿は北村淳著『シミュレーション日本降伏 中国から南西諸島を守る「島嶼防衛の鉄則」』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。



東シナ海での領域紛争の起源


尖閣諸島は、石垣島の北北西約170㎞、沖縄本島の西約410㎞、台湾本島の北東およそ170㎞の東シナ海に点在する五つの島(魚釣島、北小島、南小島、久場島、大正島)と三つの岩礁(沖の北岩、沖の南岩、飛瀬)、それらに付属するいくつかの小岩礁からなっている。

これらの島嶼のうち最も広いのが魚釣島で、面積はおよそ三・八平方㎞、尖閣諸島の最高地点もやはり魚釣島にあり海抜三六二mの奈良原岳山頂である。1879年に琉球王国が日本に編入されて以降、尖閣諸島は実質的に日本の領土と見なされた。

ただし日本政府はこれらの島々の帰属を国際法的に明らかにしておこうと考え、1885年から10年近くにわたって尖閣諸島の歴史的な領有状況に関する調査を実施した。

その結果以下の二点が明確になった。

(1)尖閣諸島は永きにわたって無人島である。
(2) 清国(当時の中国は満州民族の王朝である清王朝に支配されていた)をはじめ、いかなる国家も尖閣諸島に支配権を及ぼしていない。



そのため、日本政府は1895114日、「先占の法理」という国際的に広く認められていた原則に基づいて、尖閣諸島を日本領土(沖縄県)に編入した。そして翌1896年、日本政府は民間実業家の古賀辰四郎に尖閣諸島の四島(魚釣島、久場島、北小島、南小島)を貸与することにした。


古賀辰四郎はアホウドリの羽毛の採取やカツオ節製造などを開始し、魚釣島は200名以上の住民が居住する有人島になった。しかし、1940年ごろには事業が衰退し、二代目の古賀善次は事業から撤退したため、尖閣諸島は再び無人島となってしまった。


https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/6447?p=1


にわかに尖閣諸島に関心を持ち始めた中国共産党


第二次世界大戦で日本が敗北すると、尖閣諸島はアメリカ軍の占領下に置かれた。サンフランシスコ平和条約締結後も、尖閣諸島を含む北緯二九度以南の南西諸島全域はアメリカの施政下に置かれていた。


やがて1971617日に調印された日米沖縄返還協定によって、1972年五月、日本政府は尖閣諸島に対する主権を回復することとなった。

ところが、尖閣諸島の主権が日本に回復する直前の197112月になると、中国共産党政府は

「尖閣諸島は地理的に台湾に付属する島嶼であって、日本帝国主義が中国より台湾ともども奪取した(筆者注:日清戦争を指しているのだが事実歪曲である)ものであり、それを第二次世界大戦後アメリカ帝国主義が侵略し、さらに日米が結託して日本の領土に組み込もうとしている。尖閣諸島は中華人民共和国の領土であり、中国人民は奪われた領土は必ず回復する」

といった趣旨の声明を発表した(中華人民共和国外交部声明、19711230日)。


中国共産党政府は、尖閣諸島がアメリカから日本に返還されることが決定されるまではいっさいこのような見解を発表したことはなかった。それにもかかわらず、尖閣諸島が日本に返還されることになったら、すかさず領有権を主張し始めたのだ。それは次の二つの理由に基づいている、と考えられる。

第一に、1968年秋までは、中国共産党は尖閣諸島への関心など持っておらず、領有権の主張などは思いもよらなかった。


しかし1968年秋、国連アジア極東経済委員会の学術調査の一環として東シナ海の海底調査が実施された際に、尖閣諸島周辺に石油が埋蔵されている可能性が高いことが判明した。そこで、中国共産党政府はにわかに尖閣諸島に関心を持ち始めたのであった。

中国共産党政府が尖閣諸島周辺海底の地下資源に関心を持ったとはいえ、当時尖閣諸島はアメリカの統治下にあったため、軍事強国であるアメリカに対して領有権を主張することなどはできなかったのである。


幸い、アメリカが尖閣諸島を日本に返還する事が決定したため、またアメリカ政府は第三国間の領土紛争には介入しない外交原則を保持していることから、中国共産党政府は軍事弱国日本に対して尖閣諸島の領有権を主張し始めた、というのが二番目の理由である。

中国共産党政府は尖閣諸島の領有権に関する上記声明を発表しただけで、何ら軍事的行動は取らなかった。だが、それは当時の人民解放軍海軍には短い距離(300㎞~400㎞)とはいえ東シナ海を渡って尖閣諸島に侵攻することはもちろん、東シナ海で海上自衛隊やアメリカ海軍と対峙するだけの軍事能力がまったくなかったためである。


ただし「失地は軍事力を使用しても回復する」という基本原則に従い、「将来人民解放軍の戦力が強化された暁には尖閣諸島を必ず〝奪還〟する」という意思表示としての尖閣諸島の領有宣言をなしたものと考えることができる。


いうまでもなくこの領有宣言は、「1895年に『先占の法理』を根拠として日本領に組み込まれて以降、アメリカに占領統治されていた時期はあったものの、尖閣諸島は一貫して日本の領土である」という立場を取っていた(現在もその立場は不変である)日本政府の認識と真っ向から対立することになった。ここに日中間における尖閣問題が誕生したのだ。

一方、日米沖縄返還協定によって尖閣諸島は日本に返還されたものの、それ以降も久場島と大正島はアメリカ軍射爆場として米軍が日本政府から借用する区域となった。


そして、中国共産党政府が尖閣諸島の領有権を明言しても、第三国間の領土問題には介入しない、という米国伝統の外交原則に沿って、現在に至るまで、尖閣諸島の領有権に関して明確な立場を示してはいない(ただし、領有権とは切り離して尖閣諸島の施政権が日本政府の手にあることは公に支持している)。

※尖閣諸島は日本国の固有の領土です!