2019年9月30日月曜日

軍用ドローン 「貧者の兵器」が変える紛争

 2019914日にサウジアラビアの石油施設が、軍用無人機と巡航ミサイルにより攻撃を受け、世界の原油市場を一時的に混乱させた事件がありました。

 サウジアラビアの首都リヤドから約300km離れた東部アブカイクにある国営石油会社「サウジアラムコ」の数十mのタワー型石油処理設備の心臓部が18機のドローンと巡航ミサイルにより攻撃を受けた。いずれも北西方向からの攻撃で驚くほど正確に攻撃されていた。ピーター・ブルックス元米国防次官捕代理は、「精密誘導のために衛星からの信号を受ける装置などを搭載していた可能性がある。」と指摘する。
 攻撃の主体は、イランであるとアメリカ当局は主張するが、確たる根拠がないようではっきりしない。英国NGO「ドローン・ウォーズ・UK」が公表した昨年の報告書によるとドローンは米国とイスラエルが2000年代初頭から10年以上独走して開発してきた。それが今や中国やイランなどの国家の他、イエメンの反政府武装組織フーシという非国家勢力が「第二世代」として登場している。実際今回の無人機の攻撃を「10機のドローンで攻撃した。」との声明を発表している。
 イランは、2012年に初めてミサイルを搭載できる軍用ドローンの存在が明らかになり、翌年には量産を開始している。フーシなど複数の武装組織がイラン製ドローンを入手したといわれる。主力機種の翼長は5mほどとみられる。北海道大学の鈴木一人教授によると、イランの軍用ドローンは2010年代に飛躍的に性能が向上し、1000km以上離れたイエメンからの攻撃も、「最新のイラン製ならば技術的に不可能ではない。」といわれる。また鈴木教授は「イランが自国開発のモデルにしたのは、米国の技術だ。」と指摘する。2001年に始まったアフガニスタン戦争で、イランは墜落した米国のドローンを回収して、技術を取り入れたといわれる。
 一方精密攻撃のためには、通信衛星が必要であるが、イランは自前の通信衛星を持っていない。仮にイランやフーシの犯行ならば、他国の通信衛星を使った可能性がある。鈴木教授は、ドローンの機体に飛行経路のデータが保存されている可能性はあるとしながら、「残骸をみる限りでは、データを回収するのは難しそうだ。」と指摘している。
 今ただこれだけは確実にいえるのは、従来の通常兵器に比べて格安の無人攻撃機(ドローン)が紛争に使われたことで、「貧者の兵器」がこれからの紛争、戦争の形を変えるのではないか、ということである。

小型防衛は困難

 ドローンにはパイロッイトはおらず、厳しい訓練は必要ない。小型の機体であればコストも低い一方、これを防ぐのは容易なことではない。ロイター通信などによると安価なドローンであれば、1機$1000(約11万円)程度だが、迎撃のためにパトリオットミサイルを1発使えば、約$300万(約32千万円)がかかる。
 サウジアラビアはこれまで巨費を投じて、米国などから防空システムを導入し、フーシが発射した弾道ミサイルやドローンを撃ち落としてきた。だが、石油施設への攻撃を許したことで、防空態勢の再構築が喫緊の課題となった。サウジアラビアの防空システムは主に高高度から高速で落下する弾道ミサイルの迎撃を想定する。だが、今回使われたとされるドローンや巡航ミサイルは比較的に低空低速で飛行するなどの特徴があり、レーダー検知が難しい側面がある。
 米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は、「今回のような脅威は一つのシステムだけでは防げない。重層的な防衛能力があれば、多くの無人機が飛来するリスクを減らせる。」と指摘した。(朝日新聞2019929日日曜日記事より)

管理人より

※無人機と巡航ミサイルの予測しない攻撃をどう防ぐかが課題ということは理解できますが、ダンフォード氏の発言は、新たなミサイルディフェンスの開発と売り込みを念頭に置いた発言と思われますね。

またまた米国のビジネスチャンス到来ですな。

サウジの石油施設攻撃の4日前にアメリカのトランプ大統領は、対外強硬派のボルトン補佐官を解任しています。イラン側としては、ボルトン補佐官解任後のトランプ政権が不測の事態にどう対処してくるか、見極める必要もあったでしょう。イラン軍の犯行が濃厚ですが、政治的にはイランサイドは絶対に攻撃を認めるわけにはいかない。こうした必要な武力行使をしておいて、私たちではないよ、という「ステルス的な攻撃」が今後多くなってくるかもしれません。無人機と低空をはうように飛ぶ巡航ミサイル、それが進化すればAIによる攻撃個所の分析、自立兵器の活用となって、「人が死なない戦争」となっていくのでしょうか。

《関連動画》
サウジアラビアの石油施設へのドローンによる攻撃。
ロシアの新型水中兵器の脅威。
シリア国内のロシア基地へのドローン攻撃



2019年9月26日木曜日

政府が電磁波、サイバー攻撃に対応できる「電子戦部隊」を創設!?


 我が国政府が、宇宙での作戦能力強化に加え、電磁波を使って相手の通信やレーダーを妨害し、無能力化を図る装備の導入を積極的に進める方針であることがわかった。

 電磁波やサイバー攻撃のテクノロジーが選戦局を決めたケースとして、ロシアによる2014年のウクライナ南部クリミア併合の例がある。

 我が国防衛省によると、ロシア軍は地上からの電磁波により、ウクライナ軍の通信やレーダーを妨害し、サイバー攻撃によりあらかじめ割り出していた携帯電話ネットワークを使用するように追い込んでいた。そのうえでウクライナ軍を特定の場所に移動するように指示する偽のメールを流し、集結したウクライナ軍部隊を取り囲んで攻撃。50000人のウクライナ軍に対して、3分の1以下の15000人の通常兵力で圧倒したといわれる。
 防衛省は、「システム化された軍隊同士が戦う現代戦では、電磁波、サイバー領域の優越が戦局に決定的な影響を及ぼす。」と分析している。ロシア軍は、電子戦、サイバー戦の分野ではアメリカ軍の能力をしのぐという指摘もある。共産中国も衛星妨害用の地上配備型レーザーの開発を2020年頃に完了させる可能性がある。
 このため我が国政府は、AWACS(空中警戒管制機)などの航空機を地上からの電磁波で妨害する装置を2023年度に導入する方針である。2020年度予算の概算要求では、関連経費として38億円を計上した。将来的には衛星を妨害する装置の導入も視野にいれる。
 我が国政府は、2020年度末に新たな電子戦部隊を熊本市の陸上自衛隊健軍駐屯地に新設するなど態勢整備を図っていく。
 防衛省にあるサイバー防衛隊も人員拡充を図る。マルウェアなどを使用した反撃能力の保持に向けた検討も本格化させる方針である。(読売新聞2019923日総合13版)

【関連動画】
クリミア侵攻までの経緯 ナザレンコ・アンドリー氏

ロシアのクリミア併合から3年