2015年12月27日日曜日

恐るべき人民解放軍の脅威 中編 ~通常動力型潜水艦の戦術~

中国潜水艦がフランスを見習って米空母を“撃沈”
中国潜水艦の接近浮上は米空母攻撃の演習だった?
中国潜水艦に標的とされた米海軍の空母ロナルド・レーガン

10月下旬、九州西方沖の東シナ海で中国海軍潜水艦がアメリカ空母『ロナルド・レーガン』に接近浮上した」という情報がアメリカ海軍関係者の間で取り沙汰されていることを本コラム(「日本周辺海域も「波高し」、中国潜水艦が再び米軍空母に接近」)で紹介した。
 その情報を公開したアメリカの「ワシントン・フリー・ビーコン」が、今度は「中国潜水艦のアメリカ空母への接近事件は、じつはアメリカ空母打撃群に対する攻撃シミュレーションであった」という情報を公開し、再び海軍関係者の間で議論が高まっている。
空母攻撃訓練を実施した中国潜水艦
横須賀を母港とするロナルド・レーガン空母打撃群は、韓国海軍との合同演習に参加するため、太平洋から九州沖の東シナ海をへて対馬海峡を釜山沖へと抜けた。その途中、20151024日、東シナ海でロナルド・レーガンの直近(おそらく10キロメートル以内)に中国海軍「キロ636型」潜水艦が接近していた、という事件が発生した。
中国海軍キロ636型潜水艦
 この事件の発生直前に、アメリカ海軍駆逐艦は南シナ海の中国人工島12海里内海域を航行する作戦を実施していた(=FONOP:公海航行自由原則維持のための作戦)。そのため、ロナルド・レーガンに潜水艦で接近した中国海軍の動きは、FONOPに対する政治的デモンストレーションとみられていた。もちろん、そのような意味合いがあったことは間違いない。
しかし、それだけではなかった。ワシントン・フリー・ビーコン(1215日)によると、ロナルド・レーガンに接近した中国海軍潜水艦は、航空母艦ないしは空母打撃群に対する攻撃シミュレーションを実施した、というのである。
 もちろん、このような事実はアメリカ海軍も中国海軍も公表してはいない。とりわけ、中国との関係を悪化させたくないオバマ政権は、中国海軍潜水艦の挑発的かつ危険な行動に関する情報を隠蔽しようとしてきた、とワシントン・フリー・ビーコンは指摘している。
 ただし、対中強硬派である太平洋軍司令官のハリス海軍大将は、ワシントン・フリー・ビーコンからの事実かどうかの問い合わせに対して「否定しなかった」という。また太平洋軍スポークスマンも、中国潜水艦との遭遇事件に関してはノーコメントであったものの、「第七艦隊は中国海軍に対して十二分な備えと防御能力を保持している」とのコメントを発した。
 ちなみに、アメリカ海軍の空母打撃群(CSG)とは、空母航空団(戦闘機、警戒機、電子戦機などで編成されている)を搭載した航空母艦を中心にして、空母を護衛するための攻撃原潜(12隻)、イージス巡洋艦とイージス駆逐艦(数隻)、それに補給艦などの支援艦によって編成される海軍機動部隊である。
10月下旬に中国キロ636型潜水艦に接近されたロナルド・レーガン打撃群(第5空母打撃群:CSG-5)は、韓国海軍との演習に参加する目的だったので大編成ではなかったものの、攻撃原潜とイージス艦が護衛していた。そのため「中国潜水艦の接近は、もちろんCSG-5側は把握しており、その動向を観察していたのだ」という声も上がっていた。
フランス海軍の“戦果”を検証?
CSG-5側が中国潜水艦の動向を把握していたのか否かは明らかにされていない。しかし、中国潜水艦が攻撃シミュレーションを実施していたということで、再びアメリカ海軍関係者たちの間に緊張が走っている。
 じつは2015年初頭に、フランス海軍攻撃原潜「サフィール(サファイア)」が、アメリカ海軍「セオドア・ルーズベルト」空母打撃群を想定攻撃するというシミュレーションを北大西洋で実施したことがある。シミュレーションで、サフィールはアメリカ空母打撃群の半数の軍艦を撃沈した。
フランス海軍の攻撃原潜サフィール
サフィールに“撃破”されたセオドア・ルーズベルト空母打撃群
そのシミュレーションの概要は、3月上旬、フランス海軍の公式サイトに掲載されたが、何らかの理由によって直ちに削除されてしまった(ただし、海軍関係の外部ブログに転載されたため閲覧は可能)。
 サフィールはフランス海軍が運用している6隻のリュビ級攻撃原潜のうちの1隻で、就役してから30年も経過している“ベテラン”潜水艦である。リュビ型攻撃原潜は原子力潜水艦としては異例に小型(水中排水量2600トン、全長73.6メートル)であり、海上自衛隊の通常動力潜水艦(そうりゅう型、水中排水量4200トン、全長84メートル)よりも小さい。
 また、サフィールは小型原潜であるため、騒音が大きい。筆者の友人であるアメリカ海軍将校は「1980年代末にリュビ級潜水艦にオブザーバーとして乗り組んだ時には、それこそ世界で最も騒がしい潜水艦であった」と語っている。
「もちろんそれ以降、フランス海軍は改良に改良を重ねているので、シミュレーションの結果が真実であるならば、相当静粛性が高まったものと考えられる」
 いずれにせよ、フランス海軍潜水艦によるアメリカ空母打撃群撃破のシミュレーションは、メディアに取り上げられる前に瞬く間に闇に葬られてしまい、忘れ去られたかに見えた。
 しかし、中国では事情が違った。
中国海軍関係者たちがこのシミュレーションの結果を検討し、人民解放軍潜水艦によるアメリカ空母打撃群への攻撃への参考にしたことは間違いないようである。
 実際に海軍装備関係の雑誌「兵工科技」(2015vol.8)では、中国潜水艦アカデミー教授などへの詳細なインタビューなどで、アメリカ空母打撃群に対する攻撃成功可能性やその方法などに関する特集記事が組まれたりしている。
 その記事の中で、サフィールが小型艦であったことに中国海軍が着目していることが明らかにされた。すなわち、アメリカやロシア、それに中国の攻撃原潜よりも小型であるサフィールがアメリカ空母打撃群に近づいて攻撃を成功させたということは、攻撃原潜よりも小型で静粛性に優れている「キロ636型」や「元型」といった通常動力潜水艦で強力な対艦ミサイルを搭載している艦ならば、アメリカ空母打撃群を撃破できる可能性が十二分にある、ということになる。
このように、10月下旬に発生した中国潜水艦による攻撃シミュレーションはサフィールによる“戦果”の流れを汲んでいるものと考えられる。
このまま対中融和策が続くと何が起きるのか
アメリカ軍の対中国人民解放軍司令塔である太平洋軍や太平洋艦隊、それに太平洋海兵隊などが、いくら人民解放軍との闘いに備えて訓練に励んでいても、アメリカ軍全体を取り仕切るペンタゴンは、人民解放軍との良好な関係の構築と維持に関心を示している。
 フォーブス上院議員をはじめとする対中強硬派議員やホノルルを本拠地とする“米軍前線司令部”関係者は、そうしたペンタゴンの姿勢は「中国海軍の対米戦闘能力をますます増進させてしまう」と懸念を表明する。しかし、ワシントンDCの国防司令塔は、中国人民解放軍との関係を損なわないことを優先させている。
 その結果、中国海軍には怖いものがなくなってきて、危険な空母攻撃シミュレーションを実際の海洋で実施するようにまでなってきている。
「万が一、中国潜水艦の敵対的アクションに対して空母打撃群側が反撃した場合には、間違いなく中国潜水艦は撃沈されてしまう。だが、そのような不測の事態が発生したら、中国側は一斉に各種ミサイルを大量に発射して、空母打撃群だけでなく、日本の米軍基地や自衛隊基地を破壊してしまうだろう」と米海軍将校が心配している。
 オバマ政権(それにペンタゴン首脳)のように対中融和策を取り続けていたのでは、今後ますます中国海軍が危険なシミュレーションなどを実施して、東シナ海でも不測の事態が起きる可能性が高まることになるであろう。

《維新嵐こう思う》
 「隣に軍事大国、軍事強国を作らせない」ということは、軍事学の法則の一つといえますし、この戦略を「忠実に」実践しているのは、実は共産中国であろうと思います。
 西部太平洋、東シナ海、南シナ海、日本海、オホーツク海まで海洋覇権を拡大し、彼らのいう「清王朝時代の最大版図」を取り戻したい共産中国にしてみれば、最大のネック、壁はビンのふたのように行く手を阻んでいるアメリカ第七艦隊、太平洋軍であろうことは間違いありません。
 その中でも一番最初に脅威になるアメリカ第七艦隊の戦力の中核である空母打撃群については確実に撃破できるドクトリンは開発し、常に使えるようにしておきたいでしょう。98年の台湾海峡危機の時に共産中国が思い知らされた空母の存在が相当トラウマになっているのではないでしょうか?
 アメリカ海軍の空母を撃破するために、共産中国は、対艦弾道ミサイル(DF-21D)がありますが、これだけでは万全ではないということでしょう。攻撃型原潜よりも「静粛性」が高い通常動力型のキロ級、元級潜水艦を米空母打撃群に接近させ、対艦ミサイルや魚雷で攻撃撃破するドクトリンは、容易に考え付くことです。
核戦略を実践する戦略型原潜とそれを守る攻撃型原潜に加えて、通常動力型の攻撃型潜水艦の戦術的意義がはっきりしてきました。
 アメリカ海軍のように地上攻撃が可能な空母打撃群を未だ保持運用できない共産中国が、アメリカの空母打撃群やヘリ運用空母4隻、実質的に強襲揚陸艦も保持する我が国海上自衛隊を相手に周辺近海に覇権を拡大していこうとすれば、通常動力型攻撃潜水艦や対艦弾道ミサイル、長射程巡航ミサイルは確実に相手の動きを抑止できる装備になりますね。確実にいえるのは、こうした対米対日戦略のための装備を年々充実させていっているということです。最終的な対米戦略の要は、共産中国版の空母打撃群の構築であることは間違いないでしょう。


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