国民一人一人が「国家」の一員であるという意識をもって、それぞれの職域で与えられた仕事にベストをつくすことがすなわち「国防」です。この定義にそって考えを深めていくと、国民の「国家意識」「地域の一員」としての意識を高めていくことこそが「国防」の基本作業ではないかと考えられます。
我が国における「国防」をさらに考えてみると、わが日本には「国民統合の象徴」というノーベル平和賞をあげたくなるような表現をされている「国家元首」である天皇陛下がおられます。
天皇陛下は軍人ではありません。建国の皇祖神をお祀りされる「祭祀王」です。天皇や皇族に軍服をきせた狂った時代もありましたが、基本的に天皇陛下は軍人ではありません。日本は、この祭祀王としての天皇陛下と国民との信頼関係を基礎として成立している国家ですから、天皇が国民の安寧を祈り、国民は天皇や天皇制(あえてこの言葉を使います。)を守っていくことが「国防」となると考えます。この国家の形を「国体」というものと理解しています。
国体を守るための方法は何も国民が「徴兵制」で軍隊に入隊して、武器をとって守るだけではないと考えます。それは手段であって、国家=天皇陛下をお守りするためのは、軍事以外の手段もあって当然です。例えば、医師であれば患者さんを治療する立場から国家、社会に貢献することが国防であり、障害者福祉の職員であれば、障害者のQOL向上のために知恵を絞り、行動することが国防になるものと考えます。事務員なら組織の経理を処理することが国防であり、国防の定義の幅は職域により広い意味になるものと考えます。
軍人にとって国防とは何かを考えた時に、やはり理解しやすいのは軍人としての専門スキルをもって国防の任務を遂行するものだと考えられます。軍人は「職人芸」だと思います。そして世の中の科学技術が高度化するに伴って、軍人の専門スキルも高度化しているように感じます。
よく自衛隊の権限が大きくなると「徴兵制」が復活して、国民は戦場に送られると騒ぐ方がみえますが、よくよく考えてみればいくら国家の有事だからといって軍事にど素人を徴兵したとしても高度化した軍人スキルを身につけさせて戦場に送るには、それ相応の時間と予算がかかるものと考えられます。差し迫った戦場事情があるのに、軍人スキル、戦闘スキルを確実に時間と予算をかけて熟成して送り出す余裕などとれないでしょう。平時なら可能かもしれませんが、日本のような高福祉国家で平時に徴兵制で多くのコマンダーを待機させておく予算的な余裕があるでしょうか?
平時は、必要最低限のコマンダーでいいのです。たとえ有事でも高度な戦闘戦術スキルを身に着けた兵士を前線に送り出すような体制は、短期間では物理的に不可能でしょう。どのみち徴兵制は今の軍事情勢では実現しえない制度となっていると考えられます。
やはり「餅は餅屋」的な発想になってしまいますが、戦闘戦術のプロフェッショナルを平時から養成しておく、という体制がベストかと思います。医師や看護師、建築業者や介護職員を育てるように戦闘のプロを養成するわけです。プロを養成し活用するのは、それなりの待遇条件をそろえないといけませんし、手取りもよくしないといけないでしょう。
防衛相管轄の我が国の自衛官は国家公務員ですから出来高払いの給与システムでは国民の理解は得られないでしょうから公務員である以上、給料向上には限界があります。
徴兵制によらず、公的な軍事組織もプロ集団で大量養成ができないとなると、民間軍事会社を我が国でも認めていくという手もありかと思います。何も世界の紛争地帯に派遣するというのではなく、日本独自の軍事会社を設立するのです。
例えば我が国は、地震、津波、火山の噴火などの自然災害が多いですから、自然災害と戦うということで災害支援活動や山岳、海難救助を事業とする企業をたちあげるということですね。
そして有事に備えた国内を戦場にすることを想定したゲリラコマンドの訓練を義務化するという手もあると考えます。そして有事は、軍隊と連携して対処するのです。
現在の民間警備会社の経営を転換することでも可能となるのではないでしょうか?
徴兵制などよりよほど現実的にコマンダーが確保しておけます。警備会社であれば平時は、設備や雑踏警備で治安業務にあたればいいわけです。
徴兵制によらなくても軍事の面から国防意識を喚起して人材を確保できる方法は、知恵を絞り様々な利権を気にせず、利権構造を改革していけば可能であろうと考えられます。
こちらの徴兵制に関するお考えは参考になるかと思います。
貧者だけが担う死のリスク 国防人材絶やさぬため“必要”なこと
『経済的徴兵制』布施祐仁氏インタビュー
本多カツヒロ (ライター)
2016年03月13日(Sun) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6116
昨年(2015年)7月に衆議院本会議で可決された安全保障関連法案は、今後の日本がどのように平和と向き合うべきかを考えさせられた。またこれにより、集団的自衛権の行使やPKO活動での駆けつけ警護などが可能になった。しかし、実際に現場に従事する自衛隊や隊員がどのような現状であるのかは中々伝わってこない。そこで『経済的徴兵制』布施祐仁著(集英社新書)を上梓したジャーナリストの布施祐仁氏に、自衛隊員の現状や隊員の確保などを中心に話を聞いた。
ーー「経済的徴兵制」と呼ばれるような貧しい家庭で育ち、大学進学の奨学金を手に入れるために、軍に入隊するというアメリカの若者の話はよく耳にします。同じようなことが日本でも起きていると。
布施 イラク戦争時、現地から帰還したアメリカ海兵隊員を取材する機会がありました。彼は母子家庭出身で家が貧しく、大学進学が経済的に難しかったので、軍の奨学金がほしくて入隊したそうです。何もイラクの人達が憎いと思ったわけでも、戦争がしたかったわけでもありません。
彼はリクルーターの経験もあり「貧しい者を軍に入隊させるのは簡単だ。なぜなら貧しい人達には選択肢がないからだ」と話していました。その時、戦争を起こすのは国でも、そのリスクは国民が平等に負うわけではなく、貧困層が集中的に負わされる社会構造があると認識しました。その後、そういう社会構造がアメリカで「経済的徴兵制」と呼ばれていることを、堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で知りました。
同時期、日本では「構造改革」と称して様々な規制緩和が進められ、とりわけ労働法制の改正によって非正規雇用が急速に拡大していきました。日本では高度経済成長期以降、「1億総中流」などと言われていましたが、当時話題になった「ネットカフェ難民」を始め、この頃を境にそれまで目立たなかった貧困や格差が社会問題化し始めた。
同時に、自衛隊をまだ戦闘が続くイラクに派遣し、海外派遣をそれまでの「付随的任務」から「本来任務」に格上げするなど、自衛隊を海外の紛争地に出していく流れも強まりました。このままアメリカの後を追うように格差社会が進み、自衛隊もどんどん海外に出されるようになれば、直に日本でもアメリカのような経済的徴兵制が始まってしまうのではないかと思い、取材を始めました。
取材してみると、家が貧しかったので大学進学を諦め、衣食住に困らない自衛隊に入隊したとか、逆に、自衛隊に行けば奨学金を借りなくても仕事をしながら大学に通えると知って志願したというような話をたくさん聞きました。さらに調べてみると、就職先の少ない東北地方の農家の二男三男が食べていくために自衛隊に志願するなど、「経済的徴兵制」のような構造は自衛隊が発足した当初からあったことがわかりました。これから起こる将来の話ではなく、昔からすでに存在していたのです。
現在も7割しかない自衛隊充足率
ーー発足当初からそのような中で自衛隊は人員を確保していたわけですが、自衛隊の人員確保の考え方はどのようなものでしょうか?
布施 アジア太平洋戦争の敗戦で、日本はポツダム宣言に基づき連合国に武装解除されました。しかし、アメリカは戦後まもなく、ソ連との冷戦に日本の戦力を活用しようと日本に再軍備を求めるようになります。最初は国内の治安を維持するという建前で警察予備隊がつくられ、保安隊を経て、国防を目的とする自衛隊が1954年に発足します。
自衛隊をつくる時、アメリカは当初、32万5000人の陸上兵力を要求しました。しかし、当時の吉田内閣は経済成長を優先する政策を取っていたため、交渉の末、最終的には18万人に落ち着きました。
当時の考え方として、あくまで専守防衛の自衛隊の戦場となるのは日本国内になるので、輸送や補給などの後方支援は民間の会社にアウトソーシングすることを想定していました。もう一つは、部隊を指揮する将校と兵隊を率いる下士官さえしっかり集め、平時から訓練しておけば、末端の兵隊はいざ有事になってから緊急募集で集めても戦えるという考え方です。兵隊は上官の命令に従って駒のように動けばいいので、訓練はそれほど必要ないという理屈です。こういう考えに基づき、陸上兵力を18万人まで絞り込んだのです。
ーーその常に訓練する必要がないという兵隊はどうやって集めるつもりだったんですか?
布施 有事になれば、祖国を守るために戦おうという愛国心にあふれた若者が多数志願するはずだという考え方です。実は、末端の兵士の不足分は緊急募集で集めればいいという考え方は、いまだに変わっていません。
ーーということは現在も兵隊に関してはそういう考え方なんでしょうか?
布施 現在でも、陸上自衛隊の「士」階級の充足率は7割ちょっとです。自衛隊では、日本の防衛に必要な最低限の人数を定員として定めていますが、定員分の予算は100%は計上されておらず、実際には、実員と言われる定員より少ない人数の予算のみです。充足率というのは、この定員のうち実際の隊員のパーセンテージを表し、現在は幹部と下士官では9割以上ですが、兵隊は7割ほどです。足りない分は、有事の緊急募集で埋めようという方針です。
隊員確保危ぶまれる中始まった高校生への戸別訪問
ーー自衛隊自身は今後の隊員の確保についてどう考えているのでしょうか?
布施 必要な数と質の隊員を集められなくなるという危機感を非常に強く持っています。これは防衛白書にも書かれていますが、このまま少子化が進み、大学進学などの高学歴化が進めば、人員を確保できなくなると。だから、10年以上前から、そのための対策を練っています。
自衛隊は「組織的募集の強化」と呼んでいますが、つまり自衛隊だけでは隊員確保できなくなるから、地方自治体や学校など部外の組織におおいに協力してもらおうということをやっています。たとえば、高校の校内で自衛隊の説明会を開いてもらったり、生徒に自衛隊の仕事に興味を持ってもらうために小中高での「総合的な学習」や「キャリア教育」の一環として体験入隊の受け入れに力を入れています。
ただ、現状では自衛官募集に積極的に協力してくれる学校は限られているので、募集の目標が達成できなければ、やはり自衛隊自身が駆けずり回ってリクルートするしかありません。今年度はかなり志願者が減っているので、これまで自粛していた高校生の自宅へ直接、広報官が訪問する戸別訪問を再開しました。自粛していたのは、民間企業は高校生への戸別訪問での求人活動は禁じられているからです。確かに、法律上は、公務員である自衛隊は職業安定法の適用外ではありますが、民間企業が禁止されているのに政府機関がやるのはいかがなものかと思いますね。
ーー高校は大学進学率や就職率が低い地域を中心にまわっているのでしょうか?
布施 アメリカの場合は、広報官の数も限られていますし、ただ闇雲にまわっても効率が悪いので、地域ごとに経済状況を含めたデータベースをつくって勧誘しているそうです。
日本では今のところ、そこまではしていませんが、大学進学率が高い高校よりも、就職を希望する生徒が多い高校を優先的にまわっています。進学希望が多い高校では大学合格実績が評価のひとつとなるのと同じように、就職する生徒が多い高校ではどれだけ就職したかが学校の評価基準になります。就職実績を上げるために、生徒に積極的に自衛隊を薦める高校もあります。自衛隊の方も、毎年多くの志願者を出している高校を「重点校」に指定し、卒業生の若い隊員を「ハイスクールリクルーター」に指定して母校を訪問させるなど力を入れています。
あと、学校との関係強化を重視しているのは、学校を通じて生徒の個人情報を手に入れようというねらいもあります。やはり、「数撃てば当たる」でやみくもに勧誘するよりも、自衛隊に肯定的な生徒や公務員志望の生徒など「入りやすい生徒」に絞って勧誘した方が効率がいいからです。その情報の中には、生徒の家庭環境、たとえば進学を望んでいるが経済的に厳しいといった情報も入ってきます。
ーー昔はボン引きのような街頭募集をしていて問題になったこともあるようですが、現在でも街で勧誘を行っているのでしょうか?
布施 自衛隊の広報官には、隊の中で唯一民間企業の営業のようなノルマがあるんです。最近聞いた話では、ハローワークに仕事を探しに行ったら、建物に入る前に駐車場で自衛隊の広報官に声を掛けられたと。今年は民間の雇用情勢も多少よくなったのに加え、安保法制の影響で志願者が大きく減っていて、広報官もそうせざるを得ない状況のようです。
日本で志願兵を増やすためには
ーー世間ではこのままでは日本でも徴兵制がひかれるのではないかと危惧する声も聞かれます。
布施 確かに徴兵制を引けば強制的に人員を確保することはできます。しかし、日本のように選挙で多数派を占めた政党が政権を握る民主主義国家で、徴兵制を主張しても選挙には勝てないでしょう。つまり、政治的なハードルが極めて高いので徴兵制は難しいと考えています。
ーーこれまで入隊者について聞きましたが、退職者はどうなのでしょうか?
布施 増えていますね。こちらも一概に安保法制だけが影響しているわけではなく、民間の雇用情勢が改善していることも影響しています。退職すると言っても、再就職先がなければ退職できませんから。つまり、不景気の時は再就職先も少ないので退職者は減り、景気が改善すれば退職者も増えます。
しかしながら、自衛隊員のリスクが高まれば、当然退職者も増えます。一応、建前上は「非戦闘地域」での人道復興支援活動であったイラク派遣時ですら、中途退職者が急増しました。
ーー徴兵制がほぼ無理な状況で、高校生を始め、志願する人達を集めるにはどのような方法が有効でしょうか?
布施 志願兵を集める方法は主に2つしかありません。1つ目は、アメリカのように福利厚生を充実させ、給付型の奨学金制度を設けるなど、自衛隊に入隊するメリットを民間と比較して良くすること。
2つ目は、教育によって将来自衛隊に入隊したいと愛国心に燃える子供を育てることです。
私が入手した自衛隊の内部文書には、自衛隊への志願者が少ないのは、国民の国防に対する知識や意識が低いからだと分析し、「学校教育における安全保障教育の推進」を打ち出しています。ただ、日本は戦後70年平和憲法の下で平和主義が社会に定着し、世界価値観調査という国際的な調査でも「自国のために戦う」と回答した人が15パーセントと、78カ国中断トツで最下位となっています。それくらい戦争を忌避する意識が浸透しているので、それを変えるのは並大抵のことではないでしょう。まして、安保法制が成立して自衛隊が海外の紛争地域で危険な任務に就く機会は増えるでしょうから、そういうリスクが誰の目にも明らかになった時は、志願者が大幅に減るのは間違いないと思います。
そう考えると、1つ目の福利厚生を充実させる、まさにアメリカ的な経済的徴兵制にしていくしか方法はないように思います。人間は食べていかなくてはいけないので、ほかに選択肢がなければ志願する人もいるとは思いますが、アメリカと日本ではそもそも軍隊に対する考え方が違いますから、アメリカ以上に難しく、個人的には集まらないと思いますね。
ーーイラク派遣より前に入隊した隊員にとっては、自国を防衛することは稀にあったとしても、災害派遣がメインで、ましてや海外に派遣されるとは思っていなかったと予想できます。そういった戸惑いのようなものは自衛官を取材していて感じますか?
布施 それは人それぞれですね。確かに、これまでは外国の侵略を排除するとか災害救援など国内で国や国民を守ることが自衛隊の仕事でしたが、同盟国であるアメリカの要求に応える形で海外での活動をどんどん拡大し、自衛隊の仕事の前提が大きく変わってしまいました。そして、一昨年の7月1日の閣議決定で、ついに集団的自衛権の行使まで認めてしまった。「専守防衛」の最後の砦ともいえる、海外で絶対に武力行使をしないという大原則に穴をあけた。
海外で戦争をするかもしれない、そんなことを考えて自衛隊に入った人はほとんどいないと思います。実際、私が取材したある隊員も、東日本大震災の時に災害派遣で国民の命を救う自衛隊の仕事に誇りとやりがいを感じたけれど、集団的自衛権の行使容認以降、「自衛隊という組織は大好きだけど、外国の人々に銃を向けるような仕事は自分にはできない」と言って退職しました。
ーーやはり災害派遣にはやりがいを感じるものなのでしょうか?
布施 自衛隊の最大の任務は、外国の侵略から日本を防衛することですが、政府も「本格的な侵略自体が生起する可能性は低い」とはっきり言っています。しかし、可能性はゼロではありませんから、「備えあれば憂いなし」で万万万が一に備えて日頃から訓練しているのです。
それと比べて、日本は自然災害の多い国ですから、災害派遣は国民を守る仕事としては最もリアリティがあります。国民のために汗水を流し、国民のために仕事をしているというアイデンティティを感じる任務。実際にやったら国民から感謝されるので、やりがいも感じるのだと思います。
ーー自衛隊について本書では言及されていませんが、入隊を躊躇うような様々な問題が報じられています。それは借金やいじめ、自殺といった問題です。こられについてはいかがでしょうか?
布施 確かに、借金についてはよく耳にしますが、他でもよく報じられているので、この本ではあえて書きませんでした。自衛隊駐屯地のまわりには消費者金融が大抵あります。自衛隊員は公務員で安定していて、かつ駐屯地で駐在していれば管理されていますし、踏み倒される心配がありませんから、貸す側にとっては好都合なのでしょう。ただ、借金の問題は、自衛隊だけでなく、一般社会にもありますよね。
いじめの質変えた海外派遣
いじめについては、特に「営内班」と呼ばれる基地内で生活する隊員たちの間で多いと聞きます。閉鎖的な基地の中で24時間生活を共にし、かつ自衛隊には階級という絶対的な上下関係があります。そうした環境がいじめを誘発しやすいのです。
それに加えて、海外派遣が始まって以降、いじめの質が変わってきたのも事実です。
ーーと言いますと?
布施 海外派遣という実任務が増えるなかで、たとえば陸上自衛隊の中では「行動して結果を出せる本物の『強さ』を身につけろ」と強調されるようになりました。そして、訓練も、以前のような空想的な想定ではなく、どんどん実戦的になっていきました。一人ひとりの隊員に要求されるレベルも高くなっています。自衛隊はすべてが集団行動ですから、行動が遅い一人の隊員のせいで部隊が全滅することもあり得ます。だから、訓練についてこられない隊員に対して、「指導」という名の下にいじめや暴力が正当化されるようなことが起きています。
防衛省内の幹部の会議で隊員の自殺問題が話題になったとき、ある制服組の幹部が「精強な自衛隊をつくるためには質の確保が重要であり、自殺は自然淘汰として対処する発想も必要と思う」と驚きの発言をしました。これは、弱い隊員が自殺したと、自衛隊は強い隊員しか必要ではないからある意味しょうがないというブラック企業並のとんでもない発言でした。
ーーここまでの話を聞き現在の自衛隊員の状況というのはかなり厳しいなと。たとえば、貧しい家庭に生まれたばかりに、命の危険まで晒して入隊しなければならない状況もあると。こういった状況を改善する手立てについてはどうお考えですか?
布施 貧困とは「機会と選択の欠如」といわれます。お金がないから、大学に進学できない、病気になっても医療を受けられない。そういう若者たちに進学や医療の機会を提供して兵士を獲得しているのがアメリカの「経済的徴兵制」です。もし、アメリカの大学の学費が無料で、日本のような国民皆保険制度があれば、「経済的徴兵制」は機能しないでしょう。日本で状況を改善する手立ての一つは、お金の心配をせずに誰でも大学に進学できるように給付型の奨学金制度を整備するとか、最低賃金を上げるなどして、一生懸命働いても生活が豊かにならない非正規雇用の「ワーキングプア」の問題を改善することです。自衛隊に入るしか、大学に進学したり生活を安定させる選択肢がないという社会状況をつくらないことです。
私は、自衛隊が若者たちに様々な機会を提供すること自体が悪いことだとは思っていません。他に選択肢がないか、あっても非常に限られていることが問題なのです。
低所得者だけが担わされる戦争のリスク
それと、「経済的徴兵制」の問題は、まさに現在のアメリカがそうであるように、国家の意思で行なわれる戦争のリスクを低所得者層だけが担わされ、実際に命を失うということです。
専守防衛の原則の下では、外国の侵略を受けた際に前線で戦うのは自衛隊ですが、この狭い国土で危険は国民全体にふりかかります。しかし、いま安倍政権が自衛隊にやらせようとしているのは、国連PKOでの治安維持活動や海外でアメリカの軍事行動に協力することです。しかも、それらは海外での国益追求や多国籍企業の経済活動の自由を確保するためであったりするわけです。もちろん「国益追求」や企業の経済活動も大事ですが、そのために貧しい若者の命を犠牲にしてよいということにはならないはずです。それを認めることは、社会的な不公正を容認することです。くり返しになりますが、経済格差の中で貧困層の若者たちだけが国が起こす戦争のリスクを負わされる社会的不公正こそが問題なのです。
ーー最後に人員面から見た今後の自衛隊についてどうお考えですか?
布施 安保法制に加え、このまま少子化が進めば将来隊員を確保できなくなるでしょう。だからこそ、アメリカのような経済的徴兵制に日本もなっていく可能性が高いのではないかと本書では言及しました。しかし、自衛官の待遇を良くすれば集まるという保証もないわけです。僕は、アフガニスタンに派遣したドイツ軍のようにたくさんの「戦死者」を自衛隊が出した場合、おそらく待遇を良くしても集まらないのではないかと思います。そうなった時に、自衛隊の本来の任務である国防や災害派遣といった「国民を守る」仕事まで成り立たなくなってしまう。
自衛隊は米ソ冷戦が終わった1990年代初め以降、海外派遣など任務はどんどん増える一方ですが、人員は減らされてきました。現場ではすでに、人員不足とオーバーワークで隊員はヒーヒー言っています。その上、安保法制でさらに厳しい任務が増えれば「戦死者が出る前に過労死が続出する」と、ある隊員は悲鳴をあげていました。さらに、これからはメンタルヘルスの問題も多くなるでしょう。そうすると、自衛隊にとって一番重要な「日本防衛」という任務が崩壊していく可能性すらあると思っています。安倍首相は安保法制で「隙のない防衛態勢を構築する」と言っていますが、人的な面から現実を直視すれば、逆に防衛基盤を崩壊させる危険性があります。自衛隊の海外での活動を広げようとしている人達にはそこのところを考えて欲しいと思っています。
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