2016年3月27日日曜日

「米中戦争の様相」④ ~役にたっていない現状のBMDシステム~

今のままでは撃ち込まれ放題の日本のミサイル防衛
北朝鮮への抑止力は発揮されず、ましてや中国が相手では?
北村 淳 2016.3.24(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46399
北朝鮮空軍の訓練を視察する金正恩第1書記(撮影日不明、2016221日配信、資料写真)。(c)AFP/KCNA via KNSAFPBB News

 2016318日、北朝鮮は弾道ミサイル「ノドン」と思われるミサイルを2発発射した。1発は空中爆発したが、1発は800キロメートルほど飛翔して日本海に着弾した。
 かねてより北朝鮮の弾道ミサイルに対して警戒を強化していた日本政府は、ノドン発射以前の316日に自衛隊に対して「破壊措置命令」を発し、イージス駆逐艦は日本に向かってくる弾道ミサイルに対する迎撃態勢を開始していた。ただし、防衛省を中心とする20キロメートル圏内を防衛するPAC-3防空ミサイルシステムが配備されたのはノドン発射後であった。
 防衛省に設置されたPAC-3の迎撃範囲

弾道ミサイル防衛システムに抑止効果はあるか
北朝鮮は、今回のノドン発射に先立つ310日に、短距離弾道ミサイル「スカッドC」と思われる弾道ミサイル2発を、やはり日本海に打ち込んでいる。いずれの弾道ミサイル発射も、37日より韓国で始まった米韓合同軍事演習に対抗するデモンストレーションであることは間違いない。
 ただし、スカッドCとノドンは威嚇する相手が異なるとみるべきである。最大射程距離が600キロメートルとされているスカッドCは韓国に対する威嚇と考えられる。一方、最大射程距離が1300キロメートルとみられているノドン(あるいは最大射程距離が1500キロメートルまで延長されたノドン-2)の場合は、アメリカに出撃拠点を提供している日本への威嚇と考えられる。
もちろん北朝鮮は、自衛隊と在日米軍が弾道ミサイル防衛システムを保有していることは百も承知である。
 日本の国土と日本海、それに東シナ海は、アメリカ主導のもとで日本技術陣も参加して開発を進めてきた「弾道ミサイル防衛システム」(BMD)が、世界でも最もふんだんに配備されている地域である。
 例えば海上自衛隊は、弾道ミサイル防衛システム(イージスBMD)を搭載した「こんごう」型駆逐艦を4隻運用しており、2隻の「あたご」型駆逐艦にもイージスBMDを搭載する改修作業が進められている。また、航空自衛隊は弾道ミサイル防衛用のPAC-3地対空ミサイルシステム(PAC-3)を最大18カ所に展開できる能力がある。
 自衛隊に加えて、横須賀を本拠地とする米海軍第7艦隊はイージスBMDを搭載する巡洋艦と駆逐艦を合わせて6隻保有しており、嘉手納基地にはアメリカ陸軍がPAC-3部隊を展開させている。このほか、青森県車力と京都府経ヶ岬には、米軍の強力な弾道ミサイル防衛用レーダー(X-バンド・レーダー)が設置されている。
 このように、北朝鮮と中国という弾道ミサイル保有国を睨んで、世界でもトップクラスの密度で弾道ミサイル防衛システムが配備されているのが日本周辺地域ということになる。
 それにもかかわらず、北朝鮮は日本海に向けてスカッドやノドンまで発射している。その上、アメリカ領域攻撃用の長距離弾道ミサイルの試射すら実施しかねない状況だ。
 ということは、いくら日本やアメリカが莫大な資金を投入してBMDの配備を進めてきても(イージスBMDPAC-3それに日本が導入するであろうTHHADといったBMDは超高額兵器の代表格である)、北朝鮮に対する抑止効果は生じていないと考えざるをえない。
中国への抑止効果はなおさら期待できない
北朝鮮が日本をミサイル攻撃する場合に用いられる弾道ミサイルは、スカッド-Cを改良したスカッド-Dとノドンならびにノドン-2である。最大射程距離が700キロメートルのスカッド-Dの場合、岡山県から長崎県にいたる中国地方と九州北部が攻撃圏に入る。最大射程距離が13001500キロメートルのノドン、ノドン-2ならば、日本全土が攻撃可能だ。
 朝鮮人民軍は、それらの対日攻撃用弾道ミサイルを150200基程度保有しており、地上移動式発射装置(TEL)もスカッド用、ノドン用それぞれ50両以上は保有しているのが確認されている。したがって理論上は、北朝鮮は少なくとも100発の各種弾道ミサイルを日本に対して連射できる攻撃能力を保有していることになる。
朝鮮人民軍の対日攻撃用弾道ミサイルの射程圏

  そして、このような朝鮮人民軍による対日ミサイル攻撃能力を質・量ともにはるかに上回るのが、中国人民解放軍である。
 人民解放軍ロケット軍(旧第二砲兵隊)は、最大射程距離2000キロメートル以上の対日攻撃用東風21丙型(DF-21C)弾道ミサイルを少なくとも100基以上は保有している。また、沖縄を中心とした南西諸島を射程圏に収めている台湾攻撃用の東風15型(DF-15)弾道ミサイルは1000基以上も保有している。DF-21CDF-15の命中精度をはじめとする各種性能は、北朝鮮のスカッドやノドンとは比較にならないほど高性能である。
 中国人民解放軍は、弾道ミサイルに加えて長距離巡航ミサイルの開発と大量生産に力を注いでいる。とりわけ、日本攻撃用の長距離巡航ミサイルは次から次へと誕生しており、人民解放軍ロケット軍は地上移動式発射装置(TEL)から発射して日本全域を攻撃できる東海10型(DH-10)巡航ミサイルを数百基と、TEL1両から3基のDH-10を発射)を少なくとも100両以上は保有している。
 また、DH-10の海軍バージョンは中国海軍駆逐艦や攻撃原潜からも発射され、やはり日本全土を射程圏に収めている。さらに中国空軍爆撃機や中国海軍ミサイル爆撃機からも長剣10型(CJ-10)巡航ミサイルによって、日本全域を攻撃することが可能である。このように、中国人民解放軍は、北朝鮮軍とは比較にならないほど強力な対日ミサイル攻撃能力を保有している。
中国人民解放軍対日攻撃図

ところが、こうした中国軍の長距離巡航ミサイル攻撃に対しては、BMDのような専用対抗手段は現時点では完成していない。
 つまり、自衛隊や在日米軍が手にしている各種BMDは、北朝鮮からの対日攻撃に対して以上に、中国からの対日攻撃に対して弱体なのだ。したがって、自衛隊や在日米軍が大金をかけて配備を進めている各種BMDは、中国に対してほとんど抑止効果を発揮していないと考えておくのが自然である。

常時迎撃態勢とBMDの補強が必要
このように北朝鮮や中国の対日ミサイル攻撃に対して、自衛隊の虎の子のBMDによる抑止が効いていないということは、弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルが日本に対する奇襲先制攻撃に用いられる可能性が高いことを意味している。
 したがって、北朝鮮や中国が対日攻撃用の弾道ミサイルを保有している限りは、BMDによる常時迎撃体制を維持している必要がある。
 奇襲攻撃はいつ実施されるか分からないし、そのような先制攻撃でなくとも、人民軍や人民解放軍内部での反乱分子や錯乱状態に陥った指揮官の命令で勝手に発射されるといった“事故”の可能性も想定しなければならない。
 ということは、ロケット発射テストやミサイルの試射などの兆候を探知した場合に慌てて「破壊措置命令」を下しているようでは遅すぎる。せっかくイージスBMDPAC-3を保有しているのであるから、原則として常時「破壊措置命令」が下命された状態にしておき、少なくとも戦略要地には常時PAC-3が展開されていなければ、全く抑止効果は生まれない。
 もっとも、敵が弾道ミサイルを発射して初めて機能するBMDだけでは、抑止効果を生むことは困難であるとアメリカ自身も考えている。実際に、アメリカにとってのBMDは、核抑止能力はじめ先制攻撃能力や報復攻撃能力などと組み合わせて用いられるものであり、イージスBMDPAC-3はそのまた一部の構成要素に過ぎない。また、そもそも長距離巡航ミサイルに対する専用防衛システムは日本にもアメリカにも存在しない。
 したがって今の日本に欠かせない対応は、北朝鮮や中国による対日長射程ミサイル攻撃の可能性に対して常時警戒態勢を維持するとともに、BMDを補強するなんらかの抑止力を手にすることなのである。
(参照:拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』講談社プラスアルファ新書2015年)。

《維新嵐》
 北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、実際は人工衛星の打ち上げによるもので、弾道ミサイルの警戒に加えて、北朝鮮が将来の宇宙戦の分野でも新たな軍事的脅威になることを示唆しているともみられますが、続く米韓合同軍事演習を意識した弾道ミサイルの日本海への試射などは、あきらかにアメリカと韓国の軍事同盟に対する対抗手段の現れであり、やはり北朝鮮の弾道ミサイル能力が小さからぬ軍事的脅威として存在していることを認識せざるを得ません。
 北村氏のご指摘によるとこれに加えて、人民解放軍のロケット軍による対日対米弾道ミサイルや移動式の長距離巡航ミサイルを考えると現状のBMDシステムでは対応できないのではないか、という話は極めて現実的かつ説得力のあるご指摘であろうと考えています。
 確かに我が国や在日米軍のBMDシステムだけをみていると共産中国や北朝鮮にによる弾道ミサイル発射を抑止しきれていないことは事実ではありますが、これをアジア広域で考えてみると日米豪をはじめベトナム、フィリピンといった共産中国の海洋覇権による領土侵略にさらされている国家による政治的、軍事的な連携、さらにインドとの政治的な関係構築などを考えていくと、弾道ミサイルといった軍事的な要素以外の方法により、かなりのレベルで弾道ミサイル、巡航ミサイルの発射を抑止している部分はあるとはいえないでしょうか?
 データ専門家である高橋洋一氏のご指摘による「戦争を防ぐ国際平和の5原則」の考え方に照らせば、相手国との相対的な軍事力が戦争を抑止する条件ではありますが、それ以上に同盟関係をもつことが戦争を未然に抑止できる一番の手法としてあげられています。
 ですから北朝鮮のミサイル試射があるとはいってもおおむね戦争の抑止が効いているといえるのは、海洋国、とりわけ共産中国や北朝鮮の軍事的脅威にさらされている国同士が国益を守るために「同盟関係」を構築しつつある効果であろうと考えることができるでしょう。
 その同盟関係の一つが「TPP(アジア太平洋経済連携協定)」であることは間違いありません。ただTPPは未だ発効していませんから、実質的には共産中国も交えた二国間によるEPAやFTAが戦争のリスク軽減に作用しているわけです。
 同盟関係、国際連携の構築、経済依存の進展と、弾道ミサイルや巡航ミサイルの抑止には軍事的な手法ばかりでなないことは理解できますが、可能であればさらに弾道ミサイルなどの抑止と無力化を図る方法をかけておくことも重要かと考えます。
 そのためには、北村氏がご著書で指摘されるように、アメリカから初期型のトマホークを購入して海自の護衛艦に搭載することも有効であろうとは思います。ですがこれでも完全な弾道ミサイルや巡航ミサイルの無力化につながるでしょうか?
 サイバー攻撃の手法の一つとして様々な攻撃手法を組み合わせる「APT攻撃」という攻撃方法があるのですが、リアルな世界の話でも同じように様々な手段でミサイルを無力化していくことがまず重要なことでしょう。
サイバー攻撃によりミサイルの統制システムそのものを麻痺させることもできるでしょうし、原発ラッシュにわく共産中国に対して、あえて原発の危険性を訴えて廃止を主張し、新たな次世代型エネルギーの活用の道を国際社会に提起すれば、国際経済に影響がでますから、共産中国に富が集まるのを阻止でき、経済、金融の方向からミサイルを無力化することもdきるはずです。
 国際連携や軍事同盟を崩すことなく、一体となるぐらいの勢いで共産中国に対抗し、経済や文化的な側面からも各国が利益を享受していく、利益の最大化を図っていき、共産中国や北朝鮮に利益が集まらないように工夫していことが自衛隊機能強化の前にやるべきことなのではないでしょうか?

北村淳氏とは違う視点で共産中国の抑止を主張される方については以下にあげておきます。

『東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか』 能勢伸之著 PHP新書989 2015年6月

【書評】更新http://www.sankei.com/life/news/150628/lif1506280017-n1.html

『東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか データリンクと集団的自衛権の真実』能勢伸之著、PHP新書

 軍事技術の進化を踏まえず、集団的自衛権を論じ合う現代日本への痛烈な批判となっている。

 核と弾道ミサイル、巡航ミサイルという脅威から国家と国民をどう守るか。アメリカなど西側諸国は、異なる国籍の複数のイージス艦、早期警戒機などをネットワークでつなぎ、効果的に迎撃する防衛システムを構築しつつある。「データリンク」に基づく「国籍を超える防衛上の仕組み」だ。
 日本防衛にこれを生かすには集団的自衛権の行使容認が必要だ。個別的自衛権だけで事足れりとする防衛政策は時代遅れになったことを鮮やかに描く。(PHP新書・800円+税)



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