2016年1月22日金曜日

国内経済不況と台湾独立への動きに対する共産中国の監視・工作活動

【台湾・総統選】中国紙社説、蔡氏当選を牽制
台湾と国交持つ国を「いつでも奪い取れる」「民衆が独立支持したわけではない」
2016.1.17 15:54更新 http://www.sankei.com/world/news/160117/wor1601170026-n1.html

台湾独立志向の最大野党、民主進歩党(民進党)の蔡英文主席が当選した台湾総統選について、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は2016116日深夜、社説で「民進党が勝ったが、台湾の民衆が台湾独立路線を支持したわけではない」と指摘、蔡氏をけん制した。
 社説は、民進党政権が独立色を強めた場合、中国側には「多くのカードがある」とした。一例として、台湾と外交関係のある一部の国々も中国と国交を結ぶことを希望しており、その気になればいつでも断交させ「台湾への懲罰として奪い取る」ことができるとした。
 17日付の中国紙の多くは、蔡氏をけん制する中国当局の談話を伝えた国営通信・新華社の記事を掲載した。目立った独自の評論などはなく当局が規制したとみられる。各紙とも16日に北京で行われた中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の開業式典を1面で大々的に報道。台湾総統選はおおむね小さい扱いだった。(共同)

《維新嵐》国内メディアを利用しての牽制、恫喝を行いますね。その中は従来のやり方である「外交的に台湾を孤立させ、独立を阻止する」手法の徹底をあらためて示しています。当然記事にはありませんが、軍事的な威嚇、恫喝もあることはもちろんでしょう。


台湾新政権誕生で中国が強化する“工作活動”
前田宏子 (PHP総研 国際戦略研究センター主任研究員)
20160121日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5932

民進党への政権交代が決定し、支持者を前に笑顔を向ける蔡英文氏(Getty Images

民進党政権誕生で両岸関係安定は保てるのか
 独立色の強い民進党政権が誕生し、中台関係はどう変化するか。まず、新総統に選出された蔡英文は、前回の総裁選に立候補したときと違い、大陸政策について慎重な姿勢を貫いている。「92年合意」(中国が中台関係の基本とする原則。「一つの中国」という原則があることは認めるが、その内容は中国側と台湾側で異なる、というのが国民党の解釈)についてどのような立場を取るのかと問い詰められても、明言を避け、また、陳水扁時代にアメリカからトラブル・メーカーと見なされた失敗を繰り返さないと発言していた。
 台湾では「台湾人意識」が定着し、大陸との統一などまっぴらごめんだと思う人が大多数を占めるようになっている。最近の中国国内における統制強化や人権抑圧、香港に対する政治介入などが、台湾の人々のそのような思いを強化したのは言うまでもない。だからといって、台湾の人々は中台関係の緊張や経済関係悪化を望んでいるわけではなく、蔡英文もそのことを理解しているため、台湾側から挑発的な行動を取る(独立色を強く出す)ことはないだろう。
 両岸関係の悪化があるとすれば、中国が強い反応を示す場合である。中国国内の強硬派が、台湾に対する圧力を強めるよう主張し、軍事的圧力を増す可能性がないとは言えないが、その可能性はそれほど大きくない。もちろん、台湾対岸のミサイルや戦闘機配備が増強されるなどの動きはあるだろうが、危機的状況を引き起こす動きは起こさないのでないか。
 なぜなら、習近平政権にとって、現在のところ、台湾政策は(台湾が「独立」を志向する強い政策を取らない限り)優先度の高い問題ではない。何よりも先行き不安が広がっている国内経済の安定が最優先であり、安全保障上は南シナ海や朝鮮半島のほうがまず取り組まなければならない問題となっている。台湾にあからさまな軍事的脅威を突きつけるより、新たな中台間の経済協力協定を締結しないなど、経済的な圧力をかけつつ、次の選挙に向け、台湾国内の利益団体や民衆に働きかける工作に力を入れる可能性の方が大きい。
 実際、中国は選挙期間中、過去行ったような台湾への露骨な軍事的行動は起こしておらず、選挙後も、中国政府や公的メディアは、台湾選挙について抑制的なコメントを出している。蔡英文政権が誕生する5月まで、新政権の政策を見極めつつ、対台湾戦略の見直しを行うはずだ。馬英九政権のときのような良好な中台関係は失われるだろうが、民進党政権が誕生したからといって、すぐに両岸関係が不安定になるということはなく、しばらく安定は保たれると予想される。

とはいえ、本来ならば、台湾こそが中国の真の「核心的利益」であったはずである。もしも、中国が南シナ海や東シナ海で問題を起こしておらず、日米や周辺諸国とも良好な関係を築いていたなら、中国は台湾に対し、もっと深刻な圧力をかけていたかもしれない。経済交流を増やし、台湾の対中経済依存を深めることにより、中台統一を段階的に進めていくという方針が、ある意味うまくいかないということが証明されたのである。平和的統一は効果がないので軍事的圧力を増やすべきだと、強硬派が言い出してもおかしくない。
 しかし、既述のように、中国には他に優先させなければならない問題が山積みである。「核心的利益」を曖昧に拡大してしまったせいで、本来の核心的利益である台湾問題に十分なコストを割けないという、中国にとっては皮肉な状況になっている。
日台関係への影響
 蔡英文は、台湾アイデンティティーの重視と、中国を刺激しすぎないよう中台関係の安定を保つという目標の間で厳しい舵取りを迫られることになる。もっといえば、経済の安定と成長こそが、支持率を維持する上で最も重要となるが、その点からも、中台関係の緊迫化は避けなければならない。立法院で民進党が過半数を大きく超える議席を獲得したことは、政権運営をある程度楽にする側面もある一方、民進党内で独立を強く主張する勢力から、両岸安定志向について突き上げを食らう懸念もある。
 外交では、蔡英文政権は日米との関係強化を望むだろうが、中国を挑発することは避けたいと考えているため、あからさまな安全保障協力などは進まないだろう。しかし、たとえばサイバーセキュリティに関する協力や、非軍事の海上安全、環境保護、災害協力は進む可能性があり、日本としても積極的に取り組むべきだ。また、尖閣(台湾では釣魚台)に 関する台湾の主張は変わらないものの、この問題を大きく取り上げた馬英九政権に比べ、なるべく問題を大きくしないようにするのではと期待される。

 蔡英文のブレーンの一人である民進党秘書長・呉剣燮氏は、選挙後に訪問したアメリカで、新政権は環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を望み、日米にも後押しをしてほしい旨を訴えたが、日本は積極的に応えるべきだろう。さらに、安倍政権が本気で日台の協力促進に取り組むつもりがあるなら、これまでも専門家などから提案されてきた案—日台間の政治・経済交渉などで日本から派遣される官僚の地位格上げも検討すべきだと考える。
《維新嵐》台湾人で大陸側に資産がある方は少なくないことでしょう。台湾は政治的には独立国としての地位を確保しながら、経済的には大陸とのつながりは従来通り確保していく、という大枠が変わることはないかと思います。要は、共産中国側が、軍事的な台湾への野心、台湾の軍事拠点化などの考えをあらためる必要はあるでしょう。アメリカが台湾関係法があるにも関わらず、最新兵器の売却をしてこなかったのはなぜなのか、を考えた時に共産中国側も台湾への軍事的な関わり、野心は控えるべきでしょう。台湾は、米中、日中の政治的軍事的な緩衝地帯として独立は容認されるべきではないでしょうか?
中台関係については、キャノングローバル研究所の宮家邦彦氏の記事も一読する価値があるかと思います。

【宮家邦彦のWorldWatch】台湾選挙報道に違和感

2016.1.21 11:20更新 http://www.sankei.com/column/news/160121/clm1601210008-n1.html

【プロフィル】宮家邦彦
 みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

今回の原稿は台北発羽田行きの機内で書いている。台北は前回総統選以来4年ぶり。今回は立法院(議会)委員選とのダブル選挙だったが、帰国便の中で読んだ本邦各紙報道には幾つか違和感を持った。今回のテーマは、台湾民主選挙に関する東京と台北のギャップである。

まずは各紙社説の見出しから。「現状維持を出発点に」(朝日)「中台関係の安定化図れ」(毎日)「問われる対中政策」(日経)「対中急接近が生んだ新政権」(読売)「民意踏まえ賢明な道探れ」(産経)。いずれも正論で文句はない。違和感があったのは台湾民主主義の評価の部分だ。「台湾政治は進化を続けている」「台湾で民主主義に基づく政治体制が定着し、平和的な政権交代が当たり前になったことを歓迎する」。おいおい、随分と上から目線じゃないか。

 台湾の有権者と話したが、彼らは感情的どころか、予想以上に冷静だった。選挙翌日も台北は平静。「歓迎する」だって? 台湾民主主義はもう成熟している。今回の政権交代も特別な事件ではない。政府関係者も動揺などせず、「次は民進党政権だから、私はクビです」などと達観しているそうだ。政権交代に関する限り、台湾民主主義は日本と同じくらい「経験豊か」なのである。
次の違和感は民進党勝利の意義に関するものだ。今回の選挙の本質は「国民党の惨敗」であって、必ずしも「民進党の圧勝」ではない。民進党、蔡英文候補は前回より80万票上乗せして勝利した。これに対し、国民党は前回の689万票から300万票以上も票を減らしている。民進党の最大の勝因は国民党の自滅だったのだ。
 台湾有権者が中国に対し「ノーを突き付けた」という分析にも違和感がある。今回国民党が票を減らした最大の理由は経済の停滞だからだ。過去8年間、庶民が望んだのは豊かな生活だった。ところが、馬英九政権の下、物価が上昇する中、実質賃金は伸び悩んだ。大学新卒は就職難で初任給も減少しているそうだ。これでは若者が国民党を見限るのも当然ではないか。
 台湾の有権者は6割以上が自らを「中国人」ではなく「台湾人」と考えている。彼らが「統一でも独立でもない」現状の維持を求めたことも事実だろう。だが、人々の不安の根源は、馬政権の「傾中」政策に対する危機感というよりも、国民党の経済政策では「生活が改善しない」という強い不満ではないか。
これらの違和感が暗示することは何か。それは、今回の圧勝にもかかわらず、蔡英文新総統・民進党が今後統治に成功する保証などないという厳しい現実だ。政権交代によって台湾経済が劇的に成長するわけではない。5月20日の就任式までの政権移行期間に、主要ポストの人事、国民党の巻き返しの可能性など新総統の悩みは尽きない。
 それにしても、今回も台湾選挙に対する大陸中国の対応はお粗末すぎる。それを象徴するのが「周子瑜」事件だ。彼女は韓国で活躍する16歳の台湾出身アイドル。昨年韓国のテレビ番組で台湾出身をアピールすべく青天白日満地紅旗を振った女の子だ。大陸中国では「台湾独立派」だと批判され、中国本土での出演が突然キャンセルされたという。彼女は投票日前日にビデオ謝罪に追い込まれたが、これが逆に台湾の若者の国民党離れを助長したそうだ。

この話を聞いて、筆者は1996年を思い出した。当時中国は台湾初の民主的総統選挙に圧力をかけるべく台湾海峡にミサイルを発射した。結果は逆効果で、米海軍が2隻の空母を派遣し、李登輝総統が当選した。なぜ彼らは、圧力をかけるほど、反中感情が高まることが分からないのか。やはり、今の中国に民主主義は無理のようである。

《維新嵐》共産中国は、今、元安、株安からくる経済不況により、軍事的行動によって政治的問題を解決してる場合ではありません。GDP成長率が維持できなくなれば、国内不安も増大し、「人民」の不満が爆発することになってきます。こうした社会的状況が予想される中で、国内向けにどういう工作活動を行っているのか、をみていきたいと思います。
民意と向き合うために中国が進めるSFばりの超監視社会
2016年の中国の展望

西本紫乃 (北海道大学公共政策大学院専任講師)
20160118日(Mon)  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5864

株式市場の混乱と中国政府の動揺
 2016年の幕開け早々、上海株式市場の株価乱高下を受けて世界中が中国にふりまわされた。中国がくしゃみをしたら、世界各国に風邪が蔓延する、まさにそんな様相だ。
 中国の経済動向は、過剰な設備投資とその背後にある不良債権のリスクや、ハイリスク金融商品の乱発と、その管理を難しくしている入り組んだ金融機関の構造が抱える信用リスクなどが指摘されており、2016年はそうした危うさを中国政府がきちんとコントロールできるのかという点がポイントだ。
 しかし、株価の急激な変動を防ぐために設けられたサーキット・ブレーカー制度も導入開始後わずか4日で停止することになるなど、年初から当局は市場に振り回されているようだ。日本や他の国以上に「お金の問題」は中国では個々人にとって重要な問題で、それだけに株価下落や景気低迷の見通しなどは庶民に与える心理的ダメージも大きい。中国では、市井の庶民に至るまで株式や様々な金融商品に投資しているので、株価の下落は国民の政府に対する不満にも直結する。そうした中国的事情とそれが政権を揺るがしかねない事態に発展するリスクを中国政府もよくわかっているからこそ、場当たり的な対処になってしまうのだろう。
 株式市場の混乱が象徴するように、2016年は中国政府にとって民意をどう扱うかがより一層重要な課題になってくることは間違いない。習近平政権はこれまで3年のあいだ国民のマインドをいかに共産党の政治にひきつけるかということに腐心し、中国政府に批判的な世論が広がりはしないかということに警戒を払ってきた。例えば「30年前の状況に後退した」といわれるほど言論統制を強化する一方で、積極的に立ち回る外交で「責任ある大国」イメージを強く打ち出すなど、統制と主張の両面から世論の誘導に務めている。
中国政府の民意に対する攻めの姿勢

 習近平政権は政権発足当初から、反腐敗運動に力を入れることで悪事を正し、腐敗公務員を一掃する強いリーダーのイメージを強く打ち出してきた。
 反腐敗運動については党内の政治闘争的な色彩も指摘されているが、これまで党幹部たちの近親者への便宜供与、公金横領や賄賂の横行といった腐敗を苦々しい思いで見ていた庶民にとって、公正で強いリーダーとしての習近平のプラスのイメージが浸透しており、中国国内では我々が思う以上に国民の支持を得ており、毛沢東のように習近平を神格化するような雰囲気も生じてきている。 

 北京の街中でも習近平の姿を描いた絵皿をちらほら見かけるようになった。これは胡錦濤の時代にはなかったものだ。習近平をかつての毛沢東と同じような扱い方をする世間の風潮に、時代錯誤と薄気味悪さを禁じ得ないが、国家主席就任から3年、習近平は中国の庶民にとって超越的な権力を持つリーダーとして映っているということなのだろう。
 ただし、国民の支持を得た反腐敗もそろそろ手詰まりだ。2013年からおよそ2年間にわたり中国の政治の世界で吹き荒れた反腐敗運動の嵐によって数知れぬ幹部たちが失脚し、自殺にまで追い詰められた者も少なくない。20147月に周永康を規律違反で立件したことで最大のピークを迎えたが、2015年は中央や地方の行政の幹部だけでなく、国有企業に範囲を広げて各所で摘発が展開された。
 党のクリーンさを保つために党員を啓発し、罰則を明確化して自己規制を促す狙いで、201611日付で新たに改定された「中国共産党清廉自律基準」、「中国共産党規律処分条例」も施行された。制度的には反腐敗はそろそろやり尽くした感があり、国民向けにも既に新鮮味が無くなっていて、むしろ公務員の不作為の蔓延、各種プロジェクトの停滞、人材の枯渇といったマイナス面が見え始めるようになっている。

過去の歴史を振り返ると何らかの政治運動を打ち立てて、そこに大衆を巻き込むことで社会をリードするのが共産党の昔から得意とする政治手法だ。反腐敗に代わる国民の関心と支持をえられる新しいテーマが必要だ。そこで、2016年は次の政治運動として、貧困撲滅が新たなスローガンとして掲げられそうだ。
 今年からスタートする第135カ年計画の中に「貧困県をなくす」という目標がある。中国の「県」は日本の「市」レベルの行政単位にあたるが、中国国内に592ある「貧困県」を2020年までにすべて貧困状態から脱却させようという意欲的な目標だ。2015年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設や一帯一路構想を中国は声高に宣伝したが、それに対して「他の貧しい国の支援より先に自国の貧しい人たちの支援を」との国民の批判的な見方も強い。そうした批判をかわすためにも、「貧困県をなくす」ための取り組みが大々的に展開されていくのではないだろうか。
2016年中国の民意のかじ取り
 201511月末、北京市一帯の大気汚染が過去最悪レベルのPM2.5の値を記録したが、十分な注意喚起が行われておらず、市民から政府の対応のまずさに対して批判の声があがった。その翌週、当局は大気汚染の最高レベルの赤色警報を発表したが、実際には大気汚染のレベルはそれほど悪化したわけではなく、あきらかにその時の当局の発表は過剰反応であった。そうした政府の反応の背景には民意に対する警戒心の強さがうかがえる。
 国民から批判されることを怖れる中国政府は、言論や市民活動を厳しく制限することで民意の高まりを抑え、党と政府にとって好ましい方向に世論を誘導する方針をとっている。ただ単に、党と政府に批判的な人を捕まえたり、都合の悪い情報を国民に見せないようにするだけではない。民意の動向を把握するために、メディア各社にシンクタンクを設置して優秀な人材を配置し、システム的な情報の収集と分析能力を高めている。また、海外の有識者らに高額な原稿料を支払って中国に有利な論評を書かせるといった間接的な世論誘導も展開しているが、こうした取り組みも2016年はさらに広がりを見せてくるだろう。
 インターネットに関してはこれまで、ネット企業の管理強化、ユーザーの実名登録制、有力な民間オピニオンリーダーの排除、人海戦術による党と政府よりの情報発信といった対策が取られてきた。どちらかというとこれまで部分的な対処が主流だったが、2016年以降は包括的でダイナミックな政策が展開されそうだ。
 201512月に開催された第2回の世界インターネット大会の開幕式には習近平自らが出席し、開幕の挨拶で中国政府の今後のインターネット政策として「インターネット強国」、「国家ビックデータ」、「インターネット・プラス」という3つの戦略を提示した。とくにこの中の「インターネット・プラス」は昨年3月に李克強首相が初めて提唱したコンセプトで、昨年、徐々に各所で言及されるようになったキーワードだ。 
 習近平政権では党の指導者がコンセプトを打ち出し、政府がそれにあとから肉付けをするという傾向が強い。「インターネット・プラス」もそのようなキーワードの一つであるが、どうやら中国国内の有力なインターネット企業に資本を集中的に投入してネット市場における支配的な地位を占めさせ、国民生活のさまざまなサービスをそれら企業のIT技術によって提供して、ほぼすべての国民がその中に包括されるようなシステムをつくる。
 そして、個人のデータを国家の一元的な管理のもとに置こうという戦略らしい。どうやら「インターネット・プラス」はITサービスを総動員した国家的な監視システムを作り上げるという巨大な構想のようだ。私たちが今までSFの中でしか見たことのないような世界を中国政府は作り上げようとしている。いわば人類史に残るような壮大なチャレンジに中国は着手しようとしている。
二極化する民意をどう扱うか
 昨年末、20145月に民族の恨みをあおった罪、騒動惹起の罪を問われ600日に及んで身柄を拘束されていた浦志強弁護士の裁判が行われ、執行猶予付の判決が言い渡された。中国国内では浦志強弁護士の裁判についてメディア各社には勝手に報じないよう通達が出され、インターネット上の関連の情報もことごとく削除されたが、中国国内の比較的広い範囲の人たちがこの問題に関心を寄せ、判決の行方を注目していた。
 中国政府は昨年来「法に拠って国を治める」をキーワードに、法治の徹底を強化しているが、わずか7件のインターネット上のつぶやき発信をもって、浦志強弁護士を罪に問おうとする当局のやり方について、良識のある中国国民は「法治に矛盾するひどいやり方だ」と批判的にとらえていた。今回の判決で執行猶予が付き、浦志強弁護士がすぐに釈放されたのも、こうした民意の関心の高さを当局が測っていたからだといわれている。
 ただ、浦志強弁護士の名前すら知らない中国の国民がいるのもこれまた事実である。日本以上に中国の都市部ではスマートフォンが普及し、個々人が好きな時に好きな情報を好きなだけ見ることができる自由度が高まったことで、意識の高い層とそうでない層に中国の民意は二極化が進んでいる。有力な民間のオピニオンリーダーを排除するといったメディア統制もこの二極化に拍車をかけた。

2016年はいよいよAIIB始動したり、秋には国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の通貨バスケットに人民元が採択される見通しだ。11月には浙江省杭州でG20サミットも開催される。2015年に引き続き、中国の国際社会における存在感はますます大きくなっていくことが予想される。国民の愛国心をくすぐる中国の大国ぶりを手離しで歓迎する庶民も少なくないだろうが、足元の自国の経済がぐらつくようなことがあっては、資産を持つ比較的豊かな層の人たちからは「先に国民生活を守れ」との民意の反発も起こり得る。習近平を神格化するような後進的な世論と浦志強弁護士の裁判の行方に注目す進歩的な世論、中国政府はそのどちらもうまく誘導するように民意をコントロールしなければならない。
 また今年は台湾、米国で国のリーダーを選ぶ国民の直接選挙が実施されるが、中国でも関心が高いだけに進歩的な世論の側から「なぜ同様のことが中国ではできないのか」というような意見が起こり、それが後進的な世論に拡散して過激化するようなことが起こらないよう、当局は最大の注意を払わなければならない。
 多様化、複雑化する社会を分権化とは逆の方向、すなわちこれまで以上に権力による統制を強めて管理しようとすることで、社会管理の難易度がますます上がっているのだ。
日中関係の展望
 習近平政権は大国関係を外交方針の主軸におき、日中関係は米中関係の従属変数としてとらえていた。対日方針は歴史認識問題を中心に「怒りの外交」と称される安倍政権に対する敵対心をむき出しにした政治宣伝を行ってきた。
 しかし、政治の世界では201411月のAPEC以降、国内の政治宣伝的には20159月の大閲兵式以降、日本に対する厳しい姿勢も徐々に緩和してきている。2016年は今のところ日中関係はこれまでの雨模様から次第に晴れ間も見え始めるといったところではないだろうか。
 2016年は日中関係についても中国国内の民意の動向は要注目だ。昨年は日本で「爆買い」が流行語に選ばれるほど、来日中国人観光客の増加が大きな社会現象になった。2014241万人だった日本を訪れる中国人は、2015年は倍増して500万人を超えた。これまで中国政府のプロパガンダによって「日本は軍国主義だ」、「日本人は冷酷で残虐だ」という極度に歪められたイメージを持っていた多くの中国人が、「日本は清潔で快適だ」、「日本人は上品でやさしい」という真逆のイメージを持つようになっている。日本についてのプラスの噂がSNSの口コミで拡散し、すでに庶民のレベルまで「日本はいい国だ」という評判が広まっている。
 来日観光客の増加によって中国ではすでに国内の隅々までに、現実の日本は中国政府が宣伝するような国とは違うという理解が広がっている。中国政府にとって日本に対してネガティブな宣伝戦略をとることは却って民意の不信を生じさせることになる。中国政府にとって対日外交で歴史カードを使い続けたり、日本の軍事的脅威を事実以上に誇張して伝えることはもはや得策ではない。
 日中関係についても2016年は中国の民意が要注目のファクターになっていくだろう。
言論統制という名の中国“新常態”
経済減速で不満噴出に脅える習政権
岡崎研究所
20160120日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5897
習政権が、市民活動家のみならず、共産党員や一般メディアに対しても言論統制を強めている背景には、経済成長が鈍化する中、国民の不満が噴出することへの恐れがある、と125-11日号の英エコノミスト誌が報じています。
締め付け強化される言論機関
 2015年は、政府の政策を批判したとして複数の省の幹部が、反腐敗委員会によって逮捕された。また、10月には、政府の政策に関する党員の「否定的意見」や「無責任な発言」を禁ずる新たな行動規約が承認された。
 こうしたイデオロギー政策によって、毛沢東批判も再びタブーになった。ある人気TV解説者は、毛をからかう京劇の言葉を口ずさんだだけで解雇された。
 締め付けはメディアにも及んでいる。先月、新疆日報の編集長がクビになったことは、新疆の厳しいテロ取締りに懸念を表明したためだった。
 リベラルで知られるSouthern WeekendSouthern MetropolisSouthern Daily各紙には検閲官が訪れた。その後、これら各紙は国慶節の軍事パレードについて提灯記事を掲載した。これら新聞への人々の期待や好印象は吹っ飛んでしまった。9月には、50の報道機関が「自主規制協定」に署名し、「党と国家の印象を損なうような意見を発表あるいは広める」ことはしないと約束した。
 市民活動家、大学教授、チベット人などへの検閲も、習政権になって強まったと米国のNGOは指摘する。この夏には百人以上の弁護士も検挙された。
習政権が言論統制へ傾斜する背景とは
 政権発足以来、報道の自由や人権のような「陰険な」西側の考えを否定する一方、憲法の重要性を挙げて、命令・統制とのバランスをとってきた習が、統制へと強く傾斜し始めた背景には以下の事情がある。
 第一に、反腐敗運動が困難な局面にさしかかってきた。既に党幹部数千人を捕らえたが、今年は対象を地方幹部や国営企業幹部にも広げており、習は、運動をさらに進める上で党員の意見は制限する必要があると判断したのだろう。
 第二に、政府は、近年活発化するSNSへの統制を強めようとしている。マイクロブログを規制する新ガイドラインが作られ、刑法の改正で、ネット上で「噂を広める」ことは犯罪となった。何が噂に当たるかの定義はされていない。さらに、サイバー安保法が導入されれば、IT企業はネット上の匿名性の制限と、「安全に関わる事件」の報告を義務付けられることになろう。
 第三に、経済が減速する中、党の支配体制が労働争議等の騒乱によって脅かされるかもしれない恐怖がある。党は、国民の生活水準の向上を正統性のよりどころとしてきたが、それが鈍ってきた今、人々が党に不満を抱く可能性があり、そうした心配の芽は早い内に摘み取ろうということだ。
 習は経済成長が鈍化した現在の状態を「新常態」と呼んでいるが、言論統制の強化も「新常態」になりつつある、と報じています。
出典:Economist This article is guilty of spreading panic and disorder (December 5-11, 2015)
http://www.economist.com/news/china/21679481-more-general-signs-crackdown-expression-article-guilty-spreading-panic-and
***
対象がすり替わった“反腐敗闘争”
 英エコノミスト誌の解説記事が、習近平政権が「反腐敗闘争」を続け、言論統制を強めているが、これは今や中国政治の「新しい常態」ともいうべき現象を呈していると述べています。
 「虎も蠅もたたく」とのスローガンのもとに始まった「反腐敗闘争」はそろそろ終焉に向かうのか、と想像されていましたが、実体は対象を変えて続いており、その対象が国営企業幹部、地方幹部、ソーシャルメディアなどに広がっていると言います。
 内政面では、胡錦濤時代には、「和諧社会」などというスローガンが見られたように、政敵を言論抑圧で追い詰めることはそれほど多くはありませんでした。習近平体制下では、敵を抑圧することが常態となったようであり、これはエコノミスト誌の指摘する通りです。
 習近平は党内に「小組」などをつくり、そこを通じて権力を固めてきました。しかし、他方「反腐敗汚職キャンペーン」をつうじて多くの政敵をつくりだしたことは、今後、習指導部に対する根強い不満・反発を生み出す要因ともなり得ます。
 とくに近年、中国でも広範囲に使用されるようになったソーシャルメディア、ネットなどを規制する新たなガイドラインがつくられ、「噂を広める」ことを規制するようになってきました。「噂を広める」とは、一体何を意味するのでしょうか、定義が曖昧なことが一大特徴です。
 これまでのところ、中国共産党一党支配の正統性の最大のよりどころは、経済成長にあった、と見ることができます。その点では、最近の経済状況の減速や悪化は、党への不満の浸透、拡大の大きな原因となるものです。これを習体制は「新常態」の言葉を使い、言論統制によって乗り切ろうとしていますが、下手をすると政権不安定化の悪循環に陥る可能性があります。
 例えば、最近の中国の諸都市における大気汚染の状況一つを取ってみても、これらを適切に処理できない状況が続けば、大きな社会不満鬱積の火種になるでしょう。
《維新嵐》あくまで理想論ですが、共産中国国内では、言論・情報の統制などはせず共産党に都合の悪いニュースもすべてオープンにしていき、有識者に問題点を指摘させ批判をさせていった方がかえって効果的なマネジメントができるように思います。暴動が各地でおきるレベルまで情報統制するというのもいかがなものでしょうか?

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