2016年5月5日木曜日

現行憲法と核兵器

日本は憲法上「核兵器の保有」は認められないのか?
THE PAGE平成2854()130分配信 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160504-00000001-wordleaf-pol

■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹
政府は平成284月に「憲法は核兵器保有を禁じず」とした政府答弁書を決定しました。日本は憲法9条で「戦力不保持」をうたい、「非核三原則」を掲げています。意外な気もしますが、これは政府の方針変更というわけではなく、従来の政府見解と同様のものです。例えば1978年に当時の福田赳夫首相は、非核三原則があるとしながら、「憲法9条の解釈として絶対に持てないということではない」と答弁しています。
 核兵器の保有は憲法上認められるのか。問題点はあるのか。元外交官の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。

「必要最小限の戦力保持」は禁止されない

 民進党の逢坂誠二議員と無所属の鈴木貴子議員からの質問に対する回答において、政府は「自衛のための必要最小限度の実力保持は憲法9条でも禁止されているわけではなく、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、保有することは必ずしも憲法の禁止するところではない」という解釈を示しました。
 政府は、この答弁は従来と同趣旨の説明だとしています。
 核兵器の使用が認められるか否かについては、国際法、日本国憲法など国内法、日本の政策を区別してみていく必要があります。
 国際法においては、核兵器が違法で禁止されているか、各国の考えは一致していません。日本政府は、戦後間もないころ違法だとみていたことがありました。1960年、フランスがサハラ砂漠で核実験を行い、アフリカ諸国を中心として、核兵器は国連憲章や国際法に違反しており禁止すべきだという決議案が国連総会に提出されたとき日本は賛成したのです。
 しかし、中国が核兵器を開発したことなど、国際政治において核の抑止力に頼らざるを得ない状況になり、それ以後、日本は核兵器を違法であり、禁止されるとすることに賛成していません。

憲法には核兵器の直接的な規定はない

 一方、日本国憲法では、核兵器が違法で禁止されている、あるいは、いないなどと直接的に規定されていません。第9条の、戦争や国際紛争においては「武力の使用を永久に放棄する」という規定の解釈にゆだねられています。
 1954年に日本政府は、「日本に対して武力攻撃が加えられた場合に、国土を防衛する手段として武力を行使することは、憲法に違反しない」という解釈を示しました。この考えに立って創設されたのが自衛隊です。それ以来、政府は「自衛のための必要最小限度の実力を持つことは憲法で禁止されていない」という解釈を維持しています。ここで言う「実力」が武器のことです。
 この解釈に対しては批判的意見もありましたが、わたくしは妥当な解釈であり、今や日本国民の大多数によって受け入れられていると思います。
 では、核兵器は憲法が認めている自衛のための武器にあたるでしょうか。
 核兵器は一度使用されると市民に甚大な被害をもたらしますので、「自衛のために必要最小限度」の武器か、その範囲を超えるのではないかという疑念を抱かれるのは当然ですが、日本政府は、冒頭で引用した答弁のように「核兵器であっても自衛のために必要最小限度にとどまるものがありうる」という立場です。


「非核三原則」と「NPT条約」との整合性

 しかし、核兵器が禁止されているかいなかについては、さらに次の2つの点を勘案する必要があります。
 一つは、日本は、戦後米国の統治下におかれていた小笠原諸島と沖縄が本土に復帰するに際に(それぞれ1968年、72年)、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を表明したことです。
 つまり、核兵器は、日本国憲法では必ずしも禁止されていませんが、日本の政策として「核を持たず、作らず、持ち込ませず」と決めたのです。憲法は一定の場合に可能と言っているだけで、核兵器を保有、使用しないという政策は憲法となんら矛盾しません。
 もう一つは、日本は、沖縄返還から4年後の1976年に批准した核兵器不拡散条約(NPT)で、核兵器の保有、使用など一切のことが国際法上、禁止されていることです。この禁止がある限り、日本国憲法では禁止されていないと言っても実際上意味はありません。
NPT」について不明確な国会答弁


 以上、核兵器が禁止されているか否かを判断する場合に日本国憲法、非核三原則およびNPTの三つが問題になることは、従来の国会答弁でもちろん指摘されていますが、その説明ぶりが適切かについては再検討の余地があると思われます。
 特に、NPTについては、憲法や非核三原則に比べ、説明が不明確な時がありました。その一例がさる318日の参議院予算委員会での答弁です。法制局長官は、「核兵器を始め全ての武器の使用についての制約というのは、国内法、国際法それぞれございます」と言いつつ、「武力の行使が可能となるのは、新三要件の下におきましても、我が国を防衛するための必要最小限度のものでございます」と説明しました。
 しかし、NPT条約に加盟している以上、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく禁止されています。
 法制局長官の説明は憲法との関係だけに限ったものかもしれませんが、誤解を生みやすく、今後は「法的にも使用、保有などできない」ことを強調し、明確に説明するべきではないでしょうか。

《維新嵐》 憲法で禁じられているのは「侵略戦争の行使」です。
 現行憲法においては、国家の主権と独立を守るための「自衛戦争」や「自衛権の行使」は否定されていません。それは国際常識だからです。他国へ力を背景とした「侵略行為」「侵略戦争」をこうじることを禁じています。
 だから国防の目的においては、どんな手段も憲法上認められていないといけません。核兵器の使用もクラスター爆弾も原子力潜水艦も自衛のためなら憲法違反ではないですから、政府の見解は妥当でしょう。
 ただ我が国は世界のどの国とも違う核兵器に対する事情があります。それは、世界で唯一核兵器による攻撃を受けた歴史を持つ国であるということです。
 そして我が国は、「非核三原則」という政策スローガンを掲げ、法的拘束力は弱いですが核兵器には一定の反対姿勢をもってむきあってきました。日本は、核兵器の攻撃をうけた国だから、核兵器による抑止力に頼らない、用いない形で平和秩序を実現するというイメージです。
 アメリカによる「核の傘」は、アメリカの国防事情の結果ですから、我が国の国防方針ではないということでしょう。ただアメリカの国防圏にあってその核兵器による抑止力のメリットを受ける国としては、核兵器を否定できないという矛盾も抱えています。現行憲法をそう解釈して運用されているだけです。だから核兵器の憲法との整合性については、どうとでもなるという側面もあるのでしょうね。
 アメリカが核兵器を廃棄していけば、憲法では核兵器を禁じている、ともいえるでしょう。
憲法解釈を国益に、国民の安全のために柔軟に運用していくことが重要です。そういう意味では安全保障に関していえば、憲法解釈の変更で対応している安倍政権は妥当な政治判断といえるでしょう。
 ただ国の形に関わることではどうしようもないかと思います。例えば国と地方公共団体との関係です。どう考えても現行官僚システムで地方行政に影響力を及ぼすことは無理があります。「中央集権体制」ではもう政治をコントロールできませんし、様々な面で対応できません。
だから国と地方の関係性を改革して現代のあった形にするためには「憲法改正」が必要であるといえるでしょう。改正の論点が一つみつかりました。
 また現行憲法公布の時には概念としてなかった「環境権」や「サイバー戦争」という概念もおりこんでいいかもしれません。サイバー戦争は、専守防衛政策の見直しで解決できそうですが、環境権については地球の気候が絡んでいますから、新たに憲法に盛り込む必要がありそうです。
 核兵器を憲法で是非をはっきりさせることもなかろうと思います。なぜならいつまでも核兵器一番の国際政治が続くとは限らないからです。むしろ我が国の歴史的事情を考えると、核兵器や原発の社会的な有効性に理解を示しつつも「国益」の観点からは、認めない方針でいく方がメリットが大きいかと考えます。

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