プーチン工作で隠蔽 クリミアの悲惨な実態
岡崎研究所
2016年04月25日(Mon) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6604
米ワシントン・ポスト紙が、2016年3月19日付の社説で、クリミア住民がロシアの弾圧で苦しんでいる状況を報じるとともに、クリミアに関連した制裁は欧州で解除論があるが、今後とも維持すべきであると主張しています。社説の要旨は、次の通りです。
クリミアの悲惨な実態
ロシアによる不法な併合から2年、クリミアは欧州で最も孤立した貧しい、そして文字通り暗い場所である。経済は破滅している。11月にウクライナからの送電線がダメになり、200万の住民への電力が切られ、ロシア当局は部分的にしか復旧に成功していない。ウクライナからの輸入は禁止され、薬品は不足し、観光業は活力を失っている。唯一活気ある産業は、政治的迫害、ロシアの占領を疑う人への法的、物理的攻撃などの抑圧である。
ほぼすべての政府はクリミアをまだウクライナの一部と承認している。しかし、クリミアでそうする人は逮捕、迫害、5年までの禁錮に処せられる。家にウクライナ国旗を掲げたウラジーミル・バルーハは有罪になった。2014年、キエフで当時のウクライナ政府(ヤヌコヴィッチ政権)に反対するデモに参加したウクライナ市民は起訴されている。有名な映画監督オレグ・センツォフなど政治的な容疑者は裁判のためロシアに移送された。
クリミアのタタール人(30万人、イスラム教徒でスターリンにより追放されたが、1980年代に帰還)は最もひどい迫害の対象である。自治のための機関、マジリスの議長3人(元、前、現職)は犯罪者として起訴された(二人は亡命、一人は刑務所に収監中)。先月、ロシアの検察は裁判所にマジリスを過激組織として禁止する(タタールのエリート2300人を犯罪人にする効果がある)ように申し立てた。昔のKGBに倣って、ロシア当局は新しいタタール組織を立ちあげ、前の独立系テレビ局の代わりに新しいテレビ局を作っている。タタール人をロシア市民にするために徴兵を実施し、医療その他のサービスを受けるためにはロシアのパスポートが必要としている。その他にロシアから軍人、治安部隊員、入植者が送りこまれている。
先週のクリミア併合の2周年記念日には、米国の国連大使、サマンサ・パワーは「ロシアのクリミア併合は一度きりのウクライナ主権の侵害ではなく、継続的侵害である。新しい常態に慣れてはいけない」と述べた。
欧州は制裁解除圧力が強くなっていて、そういう方向に向かっているように見える。クリミアの住民はプーチンの侵略で苦しんでいる。プーチン政権も苦しむようにするためには、米国の断固とした姿勢と活発な外交が必要である。
出典:Washington Post ‘Crimea’s ‘new normal’ of repression’ (March 19, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/crimeas-new-normal-of-repression/2016/03/19/79b7800e-ed2a-11e5-b0fd-073d5930a7b7_story.html
https://www.washingtonpost.com/opinions/crimeas-new-normal-of-repression/2016/03/19/79b7800e-ed2a-11e5-b0fd-073d5930a7b7_story.html
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この社説の主張は当然の主張です。
国際法の基本規範を侵犯したロシアによるクリミア併合を既成事実として認めることは、国際法の侵犯を常態化することにつながります。日本は、紛争を国際法に沿って解決することを戦後ずっと主張してきました。そういう立場に鑑み、国際法重視を外交の基本とすべきでしょう。
それだけで国益が擁護できるわけではありませんが、日本のような武力の行使に頼る度合いが少ない国にとっては、国際法重視は、日本の国益を守ることにつながります。
シリア問題に気を取られ忘れられたクリミア
クリミアの状況はあまり報道されていませんが、この社説がいうようにひどい状況です。「ロシアに来れば、年金4倍、公務員給与4倍」という住民投票前のプロパガンダがどれくらい実現されているのかはっきりしませんが、ロシア財政の困難に鑑みると、そうはなっていないでしょう。クリミア経済が大いに潤っていると言う話はありません。
クリミアの電力事情は、ロシアから小型発電機を輸送していますが、主たる送電線が停止する中で、クリミアの電力需要を満たせていません。電力不足は生活、産業に多大の悪影響をもたらしています。
東部ウクライナでの侵略と停戦実施問題、シリア問題など、ロシアが起こす問題に気を奪われて、クリミア問題を忘れさせられるような状況がありますが、忘れてはいけません。
状況が変わらないのに、制裁解除はすべきではありません。
シリア情勢の安定化のためにロシアの協力がいるから、ウクライナ制裁は緩めるべしと言う議論は、シリアでのロシアの冒険主義、アサド政権支援行動に褒美を与えるようなもので、筋違いです。そもそも今、ロシアは、シリアから引き上げつつあります。こういう議論は、ロシアのプロパガンダ工作に影響されて出てきているものと言って間違いないでしょう。
《維新嵐》 ロシアは、「戦略的に」併合したクリミアを経済的に豊かな場所にすることができるのか?本当に将来的なビジョンをもって占有を行ったのでしょうか?軍事的な意味合いだけでないといいのですが。
どうなる「北方領土問題」
ロシアが積極的に戦略的な投資を行ったことで、経済の拠点として、軍事的な拠点になりつつあるもう一つの「領土問題」を抱える場所があります。
ロシアが北方領土に海軍基地設置を検討 安倍首相の訪露計画をにらみ牽制か
2016.3.25 20:46更新 http://www.sankei.com/world/news/160325/wor1603250044-n1.html
【モスクワ=遠藤良介】ロシアのショイグ国防相は2016年3月25日、北方領土の択捉島と国後島を含む「大クリール諸島」での海軍基地の設置を検討すると述べた。4月から3カ月にわたり、専門家を派遣して現地を調査させるという。イタル・タス通信が省内会議での発言内容を伝えた。安倍晋三首相が5月前半の訪露を計画している中、北方領土問題をめぐって日本を強く牽制する狙いがありそうだ。
ショイグ氏は会議で、北極圏とクリール諸島(北方領土と千島列島)で軍インフラを整備すると強調。同諸島に太平洋艦隊の艦艇を配備するため、基地の設置に関する調査を行うと述べた。現地には2種類の地対艦ミサイル「バル」と「バスチオン」を配備し、新型の無人機を導入する方針も明らかにした。実戦部隊が配備されている北方領土が念頭に置かれているとみられる。
ロシアは2020年までの長期的な軍備刷新計画を進めており、北方領土は重点の一つとされる。ラブロフ露外相らは最近、日本との平和条約交渉は北方領土問題解決と「同義でない」と述べるなど、領土問題の存在を否定するかのような発言を繰り返している。
《維新嵐》 ロシアが北極圏航路の要にもなり、太平洋へ進出するための要港ともなる択捉、国後を渡したくない心情はよく理解できます。北方領土の軍事拠点化は、ロシアのクリミアの位置づけと同じくらいの重要性があるでしょう。
ロシア外相が明言「北方四島全て交渉対象」2001年声明拒否せず
2016.4.13 00:01更新 http://www.sankei.com/world/news/160413/wor1604130001-n1.html
【モスクワ=黒川信雄】ロシアのラブロフ外相は2016年4月12日、一部海外メディアとの会見で、北方領土問題をめぐり、4島全てが交渉対象になるとの認識を明らかにした。4月15日の日露外相会談を前に、インタファクス通信などが伝えた。
ラブロフ氏は会見で、北方四島の帰属の問題を解決した上で平和条約を締結することを当時の日露首脳が確認した2001年3月の「イルクーツク声明」を、「拒否しない」と発言。声明について「四島の帰属問題を含め、全ての問題を解決するために話し合いを続けるという内容だと理解している」と述べた。ただ、平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡すとした1956年の「日ソ共同宣言」こそが「この問題において双方が批准した唯一の文書だ」とも指摘した。
ラブロフ氏は、安倍晋三首相による訪露が「近日中に行われる」とも述べた。
《維新嵐》 一ケ月もたたないうちに言われることが軟化したように思います。北方領土の拠点的重要性は変わっていないでしょうが、ロシアにしてみればこの機会に対日関係を良好にしたい気持ちもあるのではないでしょうか?
なんにしても日露の交渉を日ソ共同宣言をベースとして進められることは基本になるでしょうね。歯舞群島、色丹島は北海道に付随する島嶼です。我が国が第二次大戦で放棄した領土には含まれません。長い目で国益を考えた時に、まずは二島返還と平和友好条約締結を実現すべきかと思います。これだけでもロシアにとってはかなりの譲歩のはずです。
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