2016年5月18日水曜日

南シナ海での権益維持にアメリカは主導権を発揮できるか? ~共産中国の戦略核にどう対処するのか~

オバマ大統領の広島訪問を喜んでばかりもいられない…中国は「核兵器の先行使用」を密かに決めていた!

南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)周辺では軍事演習が行われている。

2016.5.16 10:00更新 http://www.sankei.com/premium/news/160516/prm1605160004-n1.html

 伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)で来日するバラク・オバマ大統領(54)が27日、現職の米大統領として初めて大東亜戦争(1941~45年)の被爆地・広島を訪問する。安倍晋三首相(61)も「核兵器のない世界を実現するためにオバマ氏とともに全力を尽くしていきたい」と語ったが、喜んでばかりもいられない。中国はムードが先行する“核軍縮”や北朝鮮の核・ミサイル問題に隠れ、《核兵器の先行使用》を決断したもようだ。

別々に保管していた核弾頭とミサイルを合体

 中国核戦略の大転換は昨年(2015年)11~12月、中国人民解放軍海軍が保有する晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)が実施した、初の《戦略哨戒任務》にハッキリと現れた。SSBNが有する最重要任務は、深く静かに海中に潜む隠密性を活かした核攻撃能力だ。
 ただし過去、中国軍は核弾頭とミサイルを別々に保管、SSBNも例外ではなかった。別々の保管は、最初の核実験の1964年より、少なくとも表面上公言してきた《核の先行不使用》を保障した。SSBNの戦略哨戒任務は実任務付与であり当然、ミサイルに核弾頭を装填しているはずで、《核兵器の先行使用》の肯定を意味した。ミサイルの精度・射程が向上し、最強の恫喝手段「イザというときの先行核攻撃」を隠さなくなったようだ。核不拡散条約(NPT)で核兵器保有を公認される米国/ロシア/英国/フランスに比し、核戦力の技術水準が劣る最後発国・中国は今後、劣勢を挽回すべく露骨な核戦力強化を止めないだろう。
高まる「意図せぬ発射」

 怖い話は続きがある。核弾頭とミサイルの分離は、軍の強硬派や不満分子が中国共産党の指揮・統制を無視し、米国への発射といった暴走を防ぐ安全措置でもあった。先行使用に加え、「意図せぬ発射」にも警戒が必用となった。

「最小限抑止」の大転換

 中国共産党は、核兵器の保有・配備数や配備場所はじめ、運用方法など基本的核戦略を秘匿してきた。とはいえ、2010年度の《中国国防白書》などで、《核戦力は国家の安全に向けた最低レベルを維持し続ける》などとうたっており、「最小限抑止」と推測されてきた。米国・核兵器の第1撃に対し、中国が残存核兵器での反撃(第2撃)力を担保すれば、米国は第1撃を躊躇する、との考えだ。
 傲慢な中国にしては控えめで気味が悪いが、以下のようなワケがある。
 第2撃は都市への報復と、敵核兵器への攻撃の、2種類に大別される。特に敵核兵器への攻撃には、敵報復力を一定程度無力化する高い命中精度や、《複数個別目標再突入弾頭・MIRV=マーブ》能力の向上が必須の前提条件となる。MIRV能力を付ければ、弾道ミサイルに複数の核弾頭を詰め込み、ミサイルから分離した核弾頭が複数の標的に襲い掛かれるためだ。米国のミサイル防衛網(BMD)を突破する確率も高まる。


しかし、敵核兵器の攻撃には高度な技術に加え、開発・生産費も膨大となる。カネを刷りまくり、市場を操作し、バブル経済を創り出す一方、軍事科学に資金を大量注入し、諜報活動やサイバー攻撃による技術窃取で現在の力を付けるまで、中国の核戦略は少数の都市に対する報復攻撃を柱とする「最小限抑止」に徹し、控えめに振る舞ってきたのである。実際、中国海軍は1980年代に夏級SSBNを配備したが、戦略哨戒任務に就いていないと分析されていた。

核実験禁止条約署名後も核戦力強化に邁進

 1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)署名で、米露英仏中5カ国といえども、核実験実施は凍結された。だが、中国は2000年代に入ってなお、核戦力強化に邁進した。
 具体的には、1980年前後の大陸間弾道弾(ICBM)配備以降、当初は対米抑止力を地上発射の固定サイロ発射型ICBMに頼ってきた。やがて、移動可能で所在を隠せる車両搭載型ICBMへとシフトし始めた。そして、ついに最も技術レベルが高く、最も開発コストのかさむSSBNによる対米核戦力に本腰を入れるに至る。

時間の問題だった「核戦争準備」

 さて、晋級SSBNが実施した、初の戦略哨戒任務が先行使用の決断を意味することは冒頭述べた。ただ、核兵器の先行使用に言及する中国軍関係者や西側・ロシアの研究者はいたし、中国軍の内部文書も報じられた。米海軍情報局(ONI)が2013年に戦略哨戒任務開始の可能性を発表後は、もはや中国軍の「核戦争準備」は時間の問題と観測されてきた。


もっとも、晋級SSBNが核ミサイルの先行使用のノリシロを持ったとしても、搭載している巨浪2号ミサイルの射程が7400キロ(8000~9000キロ説アリ)とすると、南シナ海で発射しても米国全土には届かない。最低でも、米国西海岸を狙うには、宗谷海峡~硫黄島に至る西太平洋侵出を求められるが、自衛隊や米軍の餌食になるリスクは冒さぬはず。

中国の恫喝力を強める新型核ミサイル

 そう遠くない将来、新型のSSBNと潜水艦発射ミサイルが開発され、精度・射程を向上させる。そのとき、核兵器の先行使用は現実味を一歩前進させ、中国の軍事的恫喝力を飛躍的に強める。
 ところで、オバマ大統領の広島訪問に触れ、中国国営新華社通信は「日本が第二次世界大戦のイメージを創ろうとしている」と伝えた。昨年4~5月、ニューヨークの国連本部で開催された、核兵器保有国の核軍縮・不拡散努力を促すNPT再検討会議における中国軍縮大使の発言とソックリだった。採択が期待された最終文書の原案は、原爆投下70周年の筋目に、世界の指導者や専門家、若者が《核兵器使用の壊滅的な人道上の結末を自分の目で確認し、生存者(被爆者)の証言に耳を傾ける》目的から、広島・長崎への訪問を提案していた。広島選出の岸田文雄外相(58)の会議開幕日の演説を反映した内容だった。


 ところが、中国軍縮大使は記者団に「日本政府が、日本を第2次大戦の加害者ではなく、被害者として描こうとしていることに、私たちは同意できない」と、削除を求めた経緯を明らかにした。結局、他の理由も手伝い、最終文書は採択されず、会議は成果ゼロで閉幕した。

核軍縮機運を押さえ込む中国

 日本の世界的地位を歴史問題でおとしめる中国による陰謀は明らかだが、他の核保有公認4カ国に比べ核戦力の技術レベルで劣る中国の、核軍縮機運の高まりを押さえ込み、核軍拡にかける執念も裏付ける。
 反面、米中経済安全保障調査委員会が2014年に出した報告書は《中国の核戦力が3~5年以内に一層増強される》と、中国の軍事的進化と米国の相対的抑止力低下に警鐘を鳴らしている。米大統領選の共和党指名を得た実業家のドナルド・トランプ氏(69)に至っては、南シナ海で人工島を造成し軍事基地化している中国について「中国の行動をきっかけに米国が第3次大戦を始める考えはない」と米ワシントン・ポスト紙に答えるなど、米国の近視眼的損得しか頭にない。その南シナ海は、海上軍事基地で海上・航空優勢を押えれば、東部海域にSSBNを潜ませる「中国の聖海域」と成る危険を伴う。米本土を完全に射程内に収める将来の改良型潜水艦発射核ミサイルの最大の標的が、米国である危機をご存じないようだ。


台湾有事でも核先行使用視野

 中国空軍の少将は2005年、米ニューヨーク・タイムズ紙上で、米国が中国と台湾の軍事衝突に通常兵器で介入した場合でも、核兵器の先行使用を明言した。
 《中国は(米国の核攻撃で)西安以東の全都市が破壊される事態を覚悟している。しかし、米国も数百の都市の中国側による破壊を覚悟せねばならない》
 民主国家と一党独裁国家では、核兵器による国民被害の許容限度に天と地ほどの差がある。日本を守るべく、米国は国内のいかなる都市も犠牲にしないかもしれない。

「憲法9条の傘」を信じる日本人

 そんな中国の核兵器先行使用準備が確実と成った現実をよそに、米国の「核の傘」ではなく、「日本国憲法第9条の傘」で日本が守れると確信している日本人が存在する。憲法9条をノーベル平和賞候補に推薦し、受理されたと手放しで喜ぶ野党国会議員や大学教授ら。

 「核拡散防止義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現する」とうそぶく、北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩・委員長(33)と同種の、国際社会で通用しない独善的な人たちだ。


《維新嵐》 アメリカは、「核兵器のない平和な世界の実現」を長期的な政治戦略として、アメリカ以外の核保有国と核戦略をもって対峙していく将来的ビジョンを打ち出しています。いつ核兵器を捨てられるのか、ということは、世界情勢や核保有の趨勢に負うところの問題なので明確にできるはずもありませんが、オバマ自身もプラハで主張しているように、世界で唯一核兵器を使用した国としての「道義的責任」に基づくというのなら、同盟国とりわけ我が国ようのような世界で唯一の被爆国では納得できるでしょうし、我が国がアメリカの戦略に納得できる国家戦略を遂行すれば、友好国の理解も得られ、安全保障上の協力関係も構築しやすいでしょう。

 現行憲法9条の傘??日本国憲法は「自衛権の行使」「自衛戦争」は否定していませんし、自衛のためには、戦略核の保有も認められます。そういう意味での「傘」なら問題ないでしょう。要は、東大法学部出身の官僚たちによる歴代内閣法制局の憲法解釈の誤り、ごまかしを認め、その反省からまともな解釈に修正すべきでしょう。どんな試験エリートでも死ぬほど試験勉強をした「優秀な」方でも過ちはおこしますし、ごまかし、事なかれはあるものです。

 アメリカの今後の対中戦略の方向性について以下のマケイン氏の提言から考えてみましょう。


米国は中国の「いじめっ子」姿勢を正せ

岡崎研究所 20160516日(Mon) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6744

 マケイン米上院軍事委員会委員長が、2016412日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、「南シナ海において米国は象徴的なジェスチャー以上のことをする必要がある」との論説を寄せ、しっかりした対応をすべきであると論じています。マケイン上院議員の論旨は、次の通りです。
対中抑止失敗招いたオバマのリスク回避姿勢
 ハリス太平洋軍司令官は、上院公聴会で中国の戦略的目的について聞かれ、「中国は東アジアで覇権を追求している。中国は南シナ海を軍事化している。そう考えないのは地球が平面と考えるようなものである」と答えた。
 オバマ政権は埋め立て、軍事化、強制に反対する、3つの「No」を言っているが、中国はそれを継続している。オバマ政権のリスク回避の姿勢が、中国の海上覇権を抑止するのに失敗し、米国の同盟国やパートナーを心配させている。
 6月初め、常設仲裁裁判所は南シナ海での中国の主張についてのフィリピンの提訴について、判決が予定されている。不利な判決の可能性に直面して、中国は既得利益の確保や拡大のために新たな措置を追求しかねない。戦略的に重要なスカボロー礁での埋め立てや軍事化、紛争地域からの他国の追い出し、防空識別圏宣言などが考えられる。
 米国はこれに対応して新しい政策を考慮する必要がある。今月、フィリピンとバリカタン軍事演習があるが、これに空母打撃部隊を派遣し、スカボロー礁の水域を監視するのを考えるべきである。カーター国防長官は、米比両国が条約上の同盟国であることを強調すべきである。フィリピンやその他の同盟国と共に、国際法違反の中国の行動に対抗する戦略を共同策定すべきである。
 もし中国が南シナ海防空識別圏を宣言すれば、ただちにその地域に軍用機を、飛行計画提出、事前通報、周波数登録なしに、飛行させるべきである。
 加えて米国はしっかりとした「自由航行作戦」を実施し、中国の海洋主権主張に挑戦すべきである。共同の監視や演習、情報収集活動も拡大・継続されるべきである。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6744?page=2

当該地域は、軍事バランスが変化しており、米国は地域での軍事力強化を目指すべきである。追加的な空軍、海軍、地上軍の前進配備をすべきである。
 ここ数年、中国はアジア・太平洋地域で、規則に基づく秩序の「責任ある利害関係者」ではなく、「いじめっ子」のように振る舞ってきた。米国は挑戦の規模とスピードに適応できていない。米国は、南シナ海での中国の海洋覇権に対し、決意を持った対応を示し、同盟国を安心させるべきである。
出典:John McCain ‘America needs more than symbolic gestures in the South China Sea’(Financial Times, April 12, 2016
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/69f9459e-fff4-11e5-99cb-83242733f755.html#axzz45ccaSNVR
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将来にかえって禍根残す対中宥和政策
 この論説で示されたマケインの主張は、適切だと思います。
 中国は、ハリス司令官が言うように、東アジアでの覇権を追求しています。中国の「平和的台頭」の主張を信じる人はもういないでしょう。中国の脅威を言い立てると、その予言が自己充足し脅威になるという一部識者のまことしやかな説は、怪しげな政策論と情勢判断を混同した虚偽に近い詭弁であったことが、今は大方の人に明らかになったでしょう。マケインは現在、上院軍事委員会委員長であり、彼の意見はワシントンでそれなりの影響力があります。それに、習近平総書記は、オバマ大統領に対して南シナ海の軍事化はないと言った後、軍事化を進め、今回の核サミットでも南シナ海は中国の核心的利益というなど、オバマ大統領の要望をすげなく退けています。オバマ大統領としても、中国を刺激しない方がよいとはもう言えないのではないでしょうか。
 かつては、中国は脅威であると言うと、そういう発言はするなと制止されました。今では、中国の東・南シナ海での国際法無視の行動によって、やっと中国脅威論が当然のことのように言われるようになりました。物事を正確に認識、表現できるようになった点は歓迎すべきことです。情勢認識の点では、中国のおかげで良くなったと言えます。
 後は、この脅威にどういう政策で対応するかです。マケインの主張している点は適切ですが、米国の国防費も削減されており、どこまでできるか、やる気があるかはよくわかりません。しかし、米国の政策の方向が、マケインの言う方向をとるのは歓迎です。
 宥和政策と強硬政策を比べると、今、対中宥和策を行うのは将来に禍根を残すように思われます。こちらがまだ有利な時に、決意をもって対応しておくことが正解でしょう。
《維新嵐》 共産中国は、国際法を自分たちの都合のよいように、つまり恣意的に解釈して国家戦略を進めてくるでしょうし、現実そういう方針を貫いています。その意図は、19世紀以降欧米で作られた国際法の価値観をチャイナライズして新しい、共産中国の価値観で世界標準が作りたい、という野望があるからではないでしょうか?
 ですから現状の国際法に精通し、準拠しようとの動きはしてくるでしょう。「常識をしらないと物事覆せない」からです。ですから国際法に照らしても戦略核を使用できる、ような環境を作らせないことは大前提となるはずです。

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