日本による豪州への潜水艦売り込みを阻止したのは仏が誇る通信傍受網だった!?貧乏くじを引いたのは…
【野口裕之の軍事情勢】
2016.5.9 01:00更新 http://www.sankei.com/premium/news/160509/prm1605090002-n1.html
豪州の次期潜水艦をめぐり、フランスがなぜか絶望的劣勢を覆し、わが国を破ったとの一報に接し、小欄はとっさに“南国の楽園”が思い浮かんだ。
「ニューカレドニア」
豪州の東1200キロに位置し、美しいサンゴ礁が世界遺産に登録される、世界的に有名なリゾート地だ。が、もう一つ、恐ろしい顔を持つ。ニューカレドニアはフランスの海外領土で、インマルサット(国際移動通信衛星ネットワーク)やインテルサット(商業衛星通信システム)などを傍受する世界的通信監視網のアジア太平洋地域における拠点なのだ。安全保障上の傍受は言うに及ばず、国策である兵器取引の成約を狙う産業諜報も主要任務だといわれる。
小欄は今次日仏潜水艦受注合戦で、フランスが「この手」で番狂わせを実現し、既に「次の一手」も視野に入れていると確信する。中国にも台湾にも何食わぬ顔で兵器を売りさばくフランスの次期標的は、中国への小型潜水艦の売り込み。あまりに水深が浅く、中国人民解放軍海軍の技量では作戦行動がままならない東シナ海で、自衛隊戦力を封じ込めるの切り札となろう。
武器輸出を前にすると節操をかなぐり捨てるフランス
国内不況に悩むフランスは、天安門事件(1989年)後にEU(欧州連合)が禁止した武器輸出を解禁したくてウズウズしている。フランスのフランソワ・オランド大統領(61)は日本時間3日未明、訪仏した安倍晋三首相(61)に「安全保障・防衛分野での協力」を訴えたが、信用するか否かは、今後の行状を十分吟味して後の話。日本を筆頭にアジアに大きな災いをもたらす、邪悪な「中仏同盟」を創った瞬間、日仏両国は「安全保障・防衛分野での敵対」関係へと激変する。日本文化に造詣の深いフランスと、武器輸出を前にすると節操をかなぐり捨てるフランスとを、別々の国として扱う警戒心が必要不可欠なのである。
フランス版エシュロン
中国とフランスが経験した軍改革の起点は共通する。米軍が湾岸戦争(1991年)の《砂漠の嵐作戦》で見せつけた、軍事衛星や盗聴施設を含め、超高度な科学技術が支える情報収集→分析→攻撃が一体となった戦術は、仏中ともに衝撃を受けた分野であった。結果、フランスが旗を振り、欧州各国とも次々と軍事衛星を打ち上げる。かくして、世界的通信監視網《フレンシュロン》が本格的に始動する。
狙いは産業スパイ
当然、フランスの情報収集は、伝統的に利権を有する北アフリカや中東の軍事・テロ関連を念頭に置く。一方で、欧米列強は冷戦構造崩壊の前後から、安全保障上の目的に加え、産業スパイ面もそれまで以上に強化していく。米中枢同時テロ(2001年9月11日)やパリ同時多発テロ(2015年)の勃発など、ウエートは時々で揺れ動くが、各国に先駆けたフランスの産業スパイ重視は不動の位置付け。中でも、17万人の雇用を抱える主要財源の一つ・軍需産業の発展は国策で、同盟国・米国に対しても、軍需産業情報奪取をためらわぬ。その中核がフレンシュロンだ。米国や英国、豪州、ニュージーランド、カナダで構成される同種の監視網《エシュロン》に比べ、性能・規模は劣るが、決して侮れない存在に進化しつつある。
米軍機密も潜水艦の対中輸出のために暴露?
豪州の次期潜水艦に関し、フランスは手段を選ばなかった。例えば2015年、フランス国防省がネット上に発表したリポート。あろうことか、《演習で、フランス海軍の攻撃型原子力潜水艦(SNN)が単艦で、米海軍の空母を含む空母打撃群の半分を撃沈した》などと、衝撃的機密の暴露を平然としてのけた。リポートはネット上より直ちに削除されたが、中国の軍事関係者が見逃すワケもなく、さっそく中国の軍事誌に中国海軍潜水艦学校教授による《なぜ、フランス海軍のSNNは、米空母打撃群の対潜多層防御陣を突破できたのか》などの分析が掲載された。
フランス国防省のリポート削除は米国防総省の要求だと考えられるが、小欄はフランス側の「邪心」を想像してゾッとした。中国の軍事関係者は、東シナ海~西太平洋にかけての浅海に、排水量の小さい仏製SNNが合理的だと、度々評価している。フランスは同盟国・米国を裏切っても、自国のSNNを中国を利用して宣伝したのではないか? いや、中国はあえてフランスの宣伝に一役買ったとみるべきなのか?
最大の受益国・中国と国益を損なった豪州
実際、豪州が次期通常動力型潜水艦をフランス製に選定した直後、地元メディアは全12隻を20年かけて逐次就役させる過程で、一部をSNNに転換する可能性を報道。前提として、小ぶりのフランス製SNNをさらに小型化し、通常型潜水艦の船体とする「互換性」を報じている。現時点での受益国はフランスだが、将来的に最大の受益国は中国。最も国益を損なうのは豪州だ。
豪州が導入するフランス製潜水艦の性能がダウンするためだ。以下、説明する。
もともと米国は、海上自衛隊の《そうりゅう型》に、米国の戦闘システムを埋め込む強い期待を持っていた。日米共同演習などを通じ、フランス製に比べ、日本製潜水艦の性能が高いと絶大な信頼を寄せていたし、米日豪の対中包囲網強化の戦略図を描いていたからだ。従って、フランス製に決まった現在、フランスの「邪心」を知り尽くし、日本製潜水艦導入阻止に向け豪州に圧力をかけた「中国の影」を警戒する米国は、日本製に搭載予定だった戦闘システムの能力を一層下げて提供するに違いない。結局、得するのは中仏で、豪中貿易など経済面はともかく、安全保障上一番の貧乏クジを引いたのは豪州だった。
後半戦はフランス製小型潜水艦の中国輸出
潜水艦受注合戦には、後半戦が控えている恐れがある。
中国が、比較的小ぶりのフランス製SNNを高く評価する点は既述したが、別のフランス製小型潜水艦にも触手をのばす。
小欄は、パリで2012年に開催された海洋軍事産業見本市で、フランスが発表した小型潜水艦に警鐘を鳴らした。有力売り込み先は中国では、と疑ったのだ。
発表された潜水艦SMX-26カイマンは水深12メートルの浅海で作戦行動でき、可潜時間30日。対水上艦用長魚雷2本/対潜用短魚雷8本を搭載する。カイマンであれば、潜水艦による浅海での作戦行動という、中国海軍が超えるべきハードルをクリアする。
中国が台湾侵攻や朝鮮半島有事で北朝鮮を支援するに当たり、米空母打撃群の急派・反撃を受ける可能性がある。その際、中国軍、特に潜水艦は最低でも九州・沖縄~台湾~フィリピン~ボルネオを結ぶ《第1列島線》、理想的には伊豆諸島を起点に小笠原諸島~グアム・サイパン~パプアニューギニアに至る《第2列島線》で迎撃する必要が生じる。
米軍を支援する日本の貿易航路も、中国軍の封鎖後、南シナ海を通る西→東回りが、太平洋を通る東→西回りに変更を強いられるはずで、日本向け商船の破壊も第2列島線付近が作戦海域となろう。
浅海克服がカギの中国海軍潜水艦
いずれにしても、第2列島線に向かうには、第1列島線越え、つまり黄海~東シナ海の制海権掌握が前提だ。ところが、一帯には大陸棚が横たわる。黄海は大半が水深40メートルで深くて150メートル、東シナ海もほとんど100メートルを超えない。
これに対し、潜水艦の作戦行動は50メートル以下では困難。100メートルなら、艦の性能や搭乗員の技量で遂行できるが、東シナ海々底の激しい起伏は、要求性能・技量のハードルを上げる。
「音の壁」も立ちふさがる。潜水艦は敵艦の原子炉・機関・スクリュー音傍受で攻撃対象・位置を特定しながら、自らの音を極限まで消し去ることが基本戦術。ただし、音の伝播は水深▽海底地形▽海流の速度・方向▽水温▽塩分濃度で変わる。とりわけ、浅海では音が乱反射し、捕捉に悪条件が増える。
しかも、海自の敵艦捕捉技術と隠密行動は世界第一級で、浅海の、特に勝手知ったる東シナ海での実力は追従を許さぬ。中国海軍の潜水艦が自衛隊の“耳”をかすめ、隠密行動を容易にする、水深150~1000メートルの海域を目指す東シナ海の大陸棚越えは至難のワザ。浅海における、静粛性に優れた潜水艦配備と搭乗員の技量向上は、中国海軍の至上命令といえる。フランスによる技術支援や、海底基地や母艦を使った潜航など運用を工夫すれば、カイマンの戦力は脅威だ。
カイマンが積む三次元海図作製機器も気になる。東シナ海での中国海洋観測艦遊弋は、潜水艦の攻撃・退却路である海底地形掌握も目的だ。
中国への武器輸出にウズくフランス
EUは天安門事件後、対中武器輸出を政治宣言したが、法的拘束力はナシ。それどころか、景気低迷を受け、欧州最大の対中武器輸出国フランスを筆頭に、解禁に踏み切りたい加盟国は多い。何しろ、フランスはロシアに大型強襲揚陸艦を、わが国の頭越しに売りさばこうとした前科を持つ。豪州の次期潜水艦も、カイマンも、強襲揚陸艦も、フランスの大手国策造船会社DCNSが手掛ける。
強襲揚陸艦は、ロシアの「ウクライナ侵攻」を受けた経済制裁で立ち消えになったものの、配備されれば港湾設備を頼らず航空機などを駆使し、多数の戦闘員や戦車を陸揚げできる。母港となるウラジオストクの整備にも一時フランスは大乗り気で、自衛隊による北方領土奪回に備えた重大戦力の出現寸前だった。
東アジアの緊張に味をしめたフランスが、中国に兵器輸出するシナリオは大いに有り得る。技術盗用に激怒したロシアが、対中輸出の蛇口を絞り出した現状ではなおのことだ。
敵味方に武器輸出するフランスの邪悪
フランスに、ユーラシア大陸の東端・極東日本の安全保障を気づかう配慮はゼロ。対中禁輸前までは中国に相当数・種の兵器を売却し、禁輸後は台湾に戦闘機やフリゲートを売りつけた。フォークランド紛争(1982年)でも、同盟国・英国の駆逐艦など2隻を沈めた交戦国アルゼンチンに、同じ対艦ミサイルを事実上追加供与せんとし、英国にはこのミサイルの弱点を漏らす…国柄への認識が肝要だ。
フランスは何度か対中禁輸解禁の旗頭に立った。2003~05年には、米国の猛反対と英国の“裏切り”で頓挫したが、あと一歩に迫った。解禁の見返りは、軍民汎用衛星や原子力発電プラント、高速鉄道の受注だった。
節操なき彼我双方への兵器売却には、米国を意識し、中国を「戦略パートナー」として迎え「多極化」の主導権を共に握らんとする野望すら透ける。ところで、豪州の次期潜水艦受注に際し、フランス側は「極秘技術を、豪州と対立関係に在る国に提供せず」と確約した、とか。読者の皆様、信じる? 信じない?
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