2016年5月31日火曜日

【アメリカ現職大統領が原爆慰霊碑に献花・黙祷】 核兵器廃絶を宣言して核兵器を保有・進化させるアメリカの政治戦略

 平成28年5月27日は日本人にとっては、忘れられない日になりました。アメリカの現職大統領(バラク・オバマ)が第二次大戦で原子爆弾が投下された日本の都市のひとつ、広島市を訪問したのです。
我が国メディアも何より被爆者のみなさんも「核なき平和」にむけてのオバマ大統領のメッセージに一定の評価をされている印象をうけました。
 ただ以前からみてきているように現在アメリカの核弾頭の流れは、小型化、ステルス化、精密化を原則とする流れになってきており、確かに今後戦域弾道ミサイルは、減らされていく傾向もみえますが、ピンポイントで攻撃目標を破壊していく、という意味では、新たな核兵器の流れができつつある状況の中で、果たしてすべての核兵器が「廃絶」されるのか、その言葉の意味を多くの人々、とりわけ核兵器の唯一の被害者である我々日本人は考えていくべき課題であろうと思います。

 適当な「解」を求めているわけではありません。
この歴史的なオバマ大統領の広島での17分間のスピーチから今後のアメリカの核戦略の本音を考えるきっかけにしていきたい、より多くの人が世界ではじめて核兵器を開発し、実験し、実践したアメリカの核戦略、核兵器について関心をもち、学ぶきっかけになることを祈念します。それもこの超大国にむやみな核兵器の暴走をさせないための「抑止」になれば幸いです。

 そして我が国唯一の被爆国である日本は、このことをふまえて祖国を守るという意味をそれぞれがさらに自覚し、核兵器に頼らない、核兵器抑止力ではない国家の防衛について考えて実現していく必要があろうかと思います。

オバマ大統領広島訪問前 岩国基地での演説

オバマ大統領の被爆地訪問

青山繁晴氏が解説!
青山繁晴氏が解説!

 オバマ大統領による広島被爆地訪問と大統領任期もわずかなオバマ政権の外交についてみていきましょう。

【オバマ大統領による広島被爆地訪問への反応】
米大統領広島訪問:米国内、称賛と不満 メディアは好意的
毎日新聞
 オバマ米大統領が平成28527日、歴代現職大統領として初めて被爆地・広島を訪れたことは、米国でも強い関心を持って報じられた。ニューヨーク・タイムズ紙は日米関係を「戦災から築いた比類なき同盟関係」と表現し、第二次大戦での敵対関係を乗り越えたことを強調するなど、各メディアで好意的な受け止め方が目立った。
 同紙などは広島発でオバマ氏の訪問を速報。「核兵器なき世界」の実現を訴えたオバマ氏の演説の内容を詳細に伝えた。米国東海岸時間では午前4時半という早朝にもかかわらず米CNNテレビはオバマ氏の演説を広島から生放送で中継。米国内でのオバマ氏の演説は放送されるのが常だが、海外訪問中の演説の中継は異例とも言える。ホワイトハウスもストリーミングを使い、オバマ氏の広島訪問を実況中継した。
© 毎日新聞 修学旅行生ら多数の人たちが訪れた平和記念公園=広島市中区で2016年5月28日午前9時6分、宮武祐…
 また、下院議長だった2008年に、現職としては最高位の米要人として広島を訪問したペロシ院内総務(民主)は声明を発表。「大統領を誇りに思う。核兵器の拡大を防ぐために指導力を発揮している」と高く評価した。
 一方、今回のオバマ氏の広島訪問を「謝罪」と批判する声もあった。ブッシュ(息子)政権で国連大使を務め、タカ派で知られるジョン・ボルトン氏はニューヨーク・ポスト紙で「恥ずべき謝罪の旅」と強く批判。右派系のフォックスニューステレビも、出演した解説者が「謝罪という言葉こそ使っていないが、これは謝罪に当たる」との認識を示した。米国内には、原爆投下を謝罪するならばオバマ氏の広島訪問に反対するという意見があり、ホワイトハウスは「すべての戦争犠牲者を追悼する場とする」などの説明を繰り返していた。CNNは演説を含めて「謝罪はしなかった」と伝えている。

 一方、オバマ氏の広島訪問を機に、さらなる核軍縮を進めるべきだとの意見も出ている。外交委員会に所属するマーキー上院議員(民主)は「核巡航ミサイル計画を中止すべきだ」と訴える書簡をボストン・グローブ紙に寄稿した。オバマ政権は今後30年間に1兆ドル(約110兆円)の予算を投じて、核兵器の近代化を進める計画を進めている。中でも新型の核巡航ミサイルは、従来の核トマホーク巡航ミサイルに比べ飛距離が長く、核専門家は「より使いやすい兵器で危険だ」と批判している。

そもそも広島の人たちは謝罪してほしいと思っているのか
BBC News 20160526日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/6886
 バラク・オバマ米大統領が平成28527日、現職大統領として初めて被爆地・広島を訪問する。しかし謝罪はしないと言明している。だが日本の人たちはそもそも、謝罪してほしいと思っているのだろうか? BBCの大井真理子記者が広島から報告する。
「安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから」
広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑には、こう刻まれている。「過ち」は誰が犯したものかは、特定されていない。
しかし10代で初めてここを訪れた時、私はこれを「私たち、日本が」二度と過ちを繰り返さないという意味に受け止めた。194586日に米国による史上初の原爆投下に至る、戦争の過ちを繰り返さないと。
侵略者を厳しく批判する他の戦争博物館とのあまりの違いに、驚いたものだ。
広島と長崎の破壊は、特に米国内では、第2次世界大戦の継続を食い止めたものとしてかねてから正当化されてきた。ハリー・トルーマン米大統領は当時、原爆が究極的には人命を救ったのだと繰り返した。
「過ち」は米国だけでなく「人類全体」が犯したものだというのが、広島市の公式見解だ。
広島と長崎の原爆投下を経験し、戦後の苦しい時代を生き抜いた人たちの間でも、大半は謝罪を求めていない。
広島、長崎で被爆した人たちを対象にした共同通信の調査では、78.3%が原爆投下への謝罪を求めないと回答している。特に、謝罪要求が大統領訪問の妨げになるならばという懸念もある。
日本人はそれよりも、目下の問題を気にかけているようだ。インターネットでは、沖縄の米軍基地の軍属や兵士による犯罪についてオバマ氏の謝罪を求める声の方が多い。
その一方で、たとえ日本が敗戦国だとはいえ、罪のない市民十数万人の命を奪った行為について日本は謝罪を求める資格があるだろうという意見もある。
広島出身の弁護士、落合洋司氏は「謝罪できるならしてほしい、という気持ちは私にも正直あります」と認める。
落合氏の曾祖父と祖父2人は、原爆投下後の市内を家族を探して歩き回ったために被曝し、放射線関連の病気で死亡した。
「けれども恨みつらみを言い募って謝罪、謝罪と繰り返しても、では何がどうなるのかと私も考えています」と落合氏は言う。「亡くなった、苦労した人々の犠牲を無にはしたくない、今後のために生かしてほしい、そういった思いを、オバマ大統領は分かってくれる人だという思いを、おそらく多くの人は抱いているでしょう。今後の核廃絶、世界平和へとつながる広島訪問であってほしい」。
その一方で、生き残って戦後の苦しい時代を生き抜いた人たち、一家が全滅してしまった人たちは、感じ方が違うかもしれないと落合氏は指摘する。
「なぜ、どうして、非戦闘員をここまで大量に殺傷する必要があったのかと、今でも恨めしく思う人々は多い」ことを忘れてはならないと落合氏は念を押す。
落合氏の78歳の父親、芳雄さんもその1人で、「オバマ大統領は当然謝るべきだ。謝らなくてよいという人が多いのは、それだけ戦後生まれが多いからだ」という意見だ。
さらにもちろんこの問題に関係して、第2世界大戦中の残虐行為について謝罪を求める近隣諸国の要求に、今の日本が応える必要があるのかという激しい議論も尽きない。
ジャーナリストの池田信夫氏は、「原爆が投下されたときはオバマ氏は生まれてもいなかったので、彼は何の責任も負っていない」のだから、オバマ氏は謝罪しなくていいはずだと書く。さらに、中国や韓国が日本に要求する謝罪についても、「同じことが安倍首相にもいえる」と書いている。
大阪市の橋下徹前市長は最近、「今回のオバマ大統領の広島訪問の最大の効果は、今後日本が中国・韓国に対して謝罪をしなくてもよくなること」とツイートした。
日米はかつて敵同士だったが、今では揺るぎない同盟国同士だ。その両国の間に70年前に起きたことはもちろん、オバマ氏が日本に滞在する間、人々の念頭に行き来する。
オバマ氏の歴史的な広島訪問は、日本が第2次世界大戦において被害者であると同時に加害者でもあったことを、決して無視するものではない。しかし生存する被爆者の多くは、「過ち」が二度と繰り返されないよう努力してきた自分たちの取り組みを補完する訪問になるよう、期待を抱いている。それが誰による「過ち」だったにせよ。
(英語記事 Do Hiroshima residents even want an apology?
オバマ広島訪問 謝罪より大切なこと
宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所主幹)中山俊宏(慶大教授)松尾文夫(元共同ワシントン支局長)
20160527日(Fri)  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6878

米議会の安倍演説が進めた日米間の和解プロセス
宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
 宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 1978年東京大学法学部卒業後、外務省入省。日米安全保障条約課長、在中国大使館公使などを歴任し、2005年退職。総理公邸連絡調整官などを経て、09年より現職。
広島の平和記念公園からのぞむ原爆ドーム(Getty Images

「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
 広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に刻まれている有名な言葉だが、なぜか、ここには主語がない。誰の「過ち」を誰が「繰返さない」のかを書かない理由は何か、自分なりに考えてみた。
日米間に存在する原爆に対する認識の差
 誤解を恐れずに申し上げる。当時の判断はともかく、結果的に日本は勝つ見込みのない戦争を始めるという過ちを犯した。一方、振り返ってみれば、米国も多くの非戦闘員を殺傷する非人道的な兵器を使うという過ちを犯したのである。だからこそ慰霊碑に主語がないのではないか。原子爆弾が開発・投下された当時、それは「新型爆弾」と考えられた。米国より先に開発した国があれば、その国が最初に原爆を使用したかもしれない。原爆が「非人道的兵器」だと一般に認識されたのは戦後のことである。
 一方、「戦争を早期終戦に導いたのは原爆」という主張も後知恵に聞こえる。日本が判断ミスを続ければ原爆投下後も戦争は続いたかもしれない。
 日本国内では、オバマ大統領から謝罪の言葉があるか否かが争点となるかもしれない。しかし、原爆に関する日米の認識差はかくも複雑であるため、日本側が一方的に米国に謝罪を求めることに意味があるとは思わない。むしろ重要なことは日米間の和解プロセスが現在も進んでおり、今後もこれを進めていく必要があるということだ。
 私は昨年4月29日、安倍晋三首相が米議会の上下両院合同会議で演説したときから、オバマ大統領か否かは別として、米大統領が広島を訪れる日はそう遠くないだろうと考えていた。同演説で安倍首相は、米国のローレンス・スノーデン海兵隊中将と栗林忠道大将・硫黄島守備隊司令官の孫である新藤義孝国会議員を紹介しつつ、「熾烈に戦い合った敵は、心の紐帯が結ぶ友になりました。スノーデン中将、和解の努力を尊く思います。ほんとうに、ありがとうございました」と演説し、両者は固い握手を交わした。
 戦争当事国の和解プロセスに終わりはない。同盟国とはいえ日米間には真珠湾攻撃、バターン死の行進、硫黄島、東京大空襲、広島・長崎への原爆投下など第二次世界大戦の「わだかまり」が残っていた。中でも硫黄島は日本の固有国土で行われた最初の戦闘、日本軍21149人、米国軍28686人の死傷者を出した激戦地である。
 安倍首相の米議会演説により、硫黄島の戦いに関する日米の和解は大きく前進した。これも1945年以来、日米両国が静かに進めてきた戦後の和解プロセスの一環であり、流れはオバマ大統領の広島来訪でさらに進展するだろう。一部には、米大統領の広島訪問で「核軍縮」が進むのではと期待する向きもあろうが、それとこれとは別の問題である。
日米同盟を強固にするため今後日本がすべきこと
 今や東アジア地域の安全保障環境は急変しつつある。「力による現状変更」も辞さない中国に、自由で法に基づく国際秩序をいかに理解させるか、いかに誤算や誤解に基づく不測の事態を回避するかが今問われている。こうした地域的努力の中核は確実に機能する日米同盟であり、それを担保するのが日米和解のさらなる進展なのだ。
 その意味でも、今後注目すべきは、こうした日米間の和解プロセスがいかに進むかである。リベラル派の大統領が広島を訪問することについて米国国内で退役軍人や保守派を中心に反発の声が上がるかもしれない。こうした「わだかまり」を乗り越えるには、将来、保守派米大統領の長崎訪問が必要となるかもしれない。
 一方、日本側にも行動は求められる。首相が真珠湾(パール・ハーバー)を訪れる日もそう遠くはないだろう。
 米国だけでなく、中国、韓国(朝鮮)との和解も重要だ。「抗日戦争勝利」が統治の正統性である中国共産党、日本の植民地支配が内政問題化している韓国との和解プロセスは容易ではないだろう。だからこそ、いま日本は米国との和解のプロセスをさらに一歩進め、日米同盟をより機能する、強固なものに保っておく必要がある。
 繰り返しになるが、戦争当事国の和解プロセスに決して終わりはない。過去の事実を当時の視点で議論することは大学の授業に任せよう。現在日本が日々戦っているのは歴史学ではなく、弱肉強食の国際政治だ。過去の戦争を常に現在のルールである普遍的価値の視点から確認し合うからこそ、不測の事態が起きても同盟は機能する。
「あるべき世界」の再確認 オバマ大統領の真意
中山俊宏(慶應義塾大学総合政策学部 教授)
中山俊宏(慶應義塾大学総合政策学部 教授)。1967年生まれ。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科博士課程修了。ワシントンポスト極東総局記者、日本政府国連代表部を経て、日本国際問題研究所に入所。2014年から現職。専門は米国政治・外交。
2009年、プラハで演説したオバマ大統領(AFLO
 510日夜、オバマ大統領が広島を訪問することが正式に発表された。いまから7年前のプラハで「核なき世界」を提唱してから、日本国民が待ちわびていた訪問だともいえる。政権最終盤となり、現職大統領としての訪問ということになると、タイミングも限られていた。
 4月下旬、日本のメディアによって、G7伊勢志摩サミット出席のために来日する機会をとらえて訪問が「内定」したことが伝えられると、記憶の隅に押しやられていた期待が息を吹き返し、日本での期待が再び高まっていた。
 5月初旬、ワシントン訪問中の筆者が各方面に確認したところ、本格的に検討している様子で、まさに大統領とその周りの最終決定に委ねられているという状況だった。そして10日、サミット終了後に安倍晋三首相と広島を訪れることが決まった。
トランプ対クリントン 大統領選への影響を懸念
 米国には、積極論、消極論の双方がある。それは訪問そのものの是非というよりは、訪問することが引き起こすインパクトをめぐっての積極論と消極論だ。基本的には謝罪をめぐる議論を喚起してしまうこと、そしてそれが大統領選挙という「政治の季節」にからめ取られて、日米間に訪問本来の意図とは別に、妙なしこりが生じてしまうことへの懸念だ。
 米大統領選挙の構図が「トランプ対クリントン」で固まろうとしていることもその懸念を倍加させている。トランプ候補は、あらゆる手段を用いてクリントン候補を潰しにかかるだろう。大統領の訪問をめぐって謝罪論争が生じた時、クリントン候補も間違いなくそれにからめ取られる。それゆえ、訪問するなら、大統領選挙が終わった11月以降が望ましいとの声も聞かれる。また仮に今回訪問するとしても、演説はせず、献花のみにとどめるべきだとの意見もある。
 米国では、原爆投下に関する意見はいまだ大きく割れている。依然として、戦争を終結させるためにはやむを得なかったとする見方が優勢だ。しかし、そんな米国でも、長期的に見れば原爆投下に関する考え方が少しずつだが変わりつつある。特に若い世代の意識の変化は顕著だ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、65歳以上の7割がその使用は正当化しうると見なしているのに対し、18歳から29歳では、その割合は5割を切る。
 さらに今回の訪問の話が本格化した背景には、4月11日、G7外相会議で広島を訪れた米国のケリー国務長官が、G7外相の一員として広島の原爆死没者慰霊碑に献花し、それが成功裡に終わったことが大きく影響している。オバマ政権は、ケリー長官訪問のインパクトを注意深く見守っていたようだ。ニューヨークタイムズやワシントンポストなどの米主要紙も、長官訪問を受けて、大統領訪問支持を表明している。
 ケリー長官自身は、心を大きく揺さぶられたことを率直にメディアに語り、大統領へも訪問を進言したと伝えられている。長官は会見で、「誰もが広島を訪れるべきだ。誰もというのは文字通り、『誰も』がということだ。だから、私はいつか、米大統領がその『誰も』の1人としてここに来られるようになることを希求している」と躊躇なく述べている。
 ケリー長官以前には、1984年にカーター前大統領が、そして2008年にはペローシ下院議員が現職下院議長として訪問している。00年代、ブッシュ政権下で、駐日大使が広島を訪問し、10年以降は、大使が広島と長崎の平和祈念式典に出席することが珍しくなくなっている。
 こうした流れの中で、政権最終盤に訪問が本格的に検討されるであろうことは、しばらく前から関係者の間では囁かれてきた。しかし、これは突き詰めていくと、大統領自身の個人的なアジェンダでもある。米国の最高司令官として、この象徴的訪問を何が何でも実現させなければならないかというと、そうではないだろう。米国の死活的国益がかかっているわけではないし、この訪問がなければ、日米関係が持たないということではない。波風を立てないことを優先するならば、退任後というオプションもあるだろう。
 しかし、広島訪問は、オバマ大統領自身が政権発足直後に世界に対して高らかに示した「核なき世界」と不可分の関係にある。政権も終わりを迎えようとしている時、まさに弧を描くかのように、政権発足時に掲げた「あるべき世界」への道程を再確認する場所として広島は不可欠である。
オバマ大統領の思い 世界に方向を示す
 オバマ外交は、一見大胆なようでいて、現実には極めて慎重な外交政策を展開してきた。オバマ外交の理想主義は、「あるべき世界(the world as it should be)」を視野におさめながらも、世界はその実現を容易には受け入れない「あるがままの世界(the world as it is)」に拘束されているという認識を踏まえたものだった。シリア内戦の惨状を前にしても、オバマ大統領は、米国にできることは限られていると割り切り、情緒的な介入論を退けた。
 その結果、長期的には大胆な目的を掲げつつも、短期的には慎重な、ともすると消極的と批判される外交政策を展開してきた。そうした中、「核なき世界」というビジョンは、「あるべき世界」と「あるがままの世界」の緊張関係がはっきりと現れる典型的にオバマ的なアジェンダでもある。
 大統領の心の内を垣間見ることはできないが、オバマ大統領自身が訪問を希望していることはまず間違いないだろう。学生の頃から核軍縮に関心を持つ大統領自身が、自ら筆をとって演説を起案し、世界に対して再度、進むべき方向性を自らの言葉で提示する。すぐには到達できないが、究極の頂に至る道筋を自らの言葉で敷き詰めていく。そして、それは自身の退任後の活動とも連動していく。こう考えると、大統領が訪問を自分の政権を締めくくる重要なピースの一つとして位置づけていることは間違いないだろう。
 しかし、大統領選挙というもう一つの「あるがままの世界」の侵入に、政権は頭を悩ましているに違いない。
安倍首相は返礼を 次は日本がケジメをつけるとき
松尾文夫(元共同通信ワシントン支局長)
松尾文夫 元共同通信ワシントン支局長 1933年生まれ。学習院大学政経学部政治学科卒業。共同通信社入社後、ニューヨーク、ワシントン特派員、バンコク支局長、ワシントン支局長などを歴任。04年『銃を持つ民主主義』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。
1945年の大空襲で焼け落ちたドレスデン城。2006年に再建された(Getty Images
 私はこれまで米大統領が広島を、日本の首相が真珠湾(パール・ハーバー)を互いに訪問して慰霊する「献花外交」をすべきだと主張してきた。これを最初に思い立ったのは、1995年。約35000人の犠牲者を出したドイツ・ドレスデン大空襲から50周年の年、英米の軍高官が慰霊の献花式に出席しているのを米国のテレビで見たことがきっかけだ。
 それ以来、戦後60周年の2005816日、ウォールストリート・ジャーナル紙のオピニオンページに寄稿するなど、日米のメディアを通じて提唱し続けてきた。だから、今回のオバマ大統領の広島訪問は感慨深いし、歓迎したい。
原点にあるアメリカ駐在と戦争体験
 オバマ大統領は、広島でどんな演説をするのか、被爆者と会うのか、まだ「if」がたくさんある。オバマ大統領個人としては、094月、「核兵器のない世界」の実現を訴え、しかも米大統領としては初めて、核兵器を使った唯一の核保有国として行動する、米国の「道義的な責任」に触れたプラハ演説を総括したいとの思いもあるだろう。
 任期中、核軍縮は前進を見せず、ノーベル平和賞受賞は結果的に重荷になっていたはずだ。広島訪問は、来春の退任を前にしての「レガシー作り」の一つであることは間違いない。しかし、米国の現職大統領があの戦争の犠牲者全体を象徴する「ヒロシマ」の原爆死没者慰霊碑に花を手向けること自体、大きな意味を持つ。
 なぜか日本と米国は、これだけ親しい関係にありながら戦後70年、ドイツが21年前の「ドレスデンの和解」で済ませている「文明の起源にまで遡る」死者を悼む、日本流に言えばお線香をあげるという鎮魂の儀式を公式に行なっていない。その意味で、今回、オバマ大統領による広島献花が実現すれば画期的なことだ。謝罪とは別の次元の話だと思う。核の問題だけにしないことこそが大事だ。
 私が、こうした日米の慰霊儀式にこだわるのは、共同通信社で長年米国の特派員を務め、「米国という国」をとらえることをライフワークとしていることに加え、同世代の中でも深くあの戦争に関わった経験を持つからだ。まず小学校3年生のとき、まだ戦勝空気に満ち満ちていた1942418日、ドーリットル飛行隊による東京初空襲を東京の戸山で見上げ、5年生の3学期には陸軍の将校だった父の任地である四国善通寺で艦載機による機銃掃射に遭った。
 さらに敗戦約1カ月前には墳墓の地である福井で127機のB29による夜間爆撃を受け、焼夷弾を束ねた大型爆弾が欠陥製品で開かず、そのまま目の前の水田に落ち、泥しぶきを浴びただけで九死に一生を得た。そして、絵に描いたような軍国少年だった。
 それに祖父が226事件で義兄の岡田啓介首相に間違えられて殺され、その葬式に父の任地だった中国の山海関から母親と帰る頃に人生の記憶が始まるなど、戦争と向き合う人生だったことも影響しているかもしれない。
広島訪問まで時間がかかった原因
 米大統領の広島訪問よりも先に、日本の首相がパール・ハーバーを訪問することもできたはずだが、実行されてこなかった。一番のチャンスだったのは、06年に小泉純一郎首相が、ブッシュ大統領にエアフォースワンでテネシー州のエルビス・プレスリーの自宅に案内された時だ。
 プレスリーはパール・ハーバーのアリゾナ記念館の設立に6万ドルを寄付している。プレスリーの大ファンという小泉首相が自宅だけではなく、パール・ハーバーにも行きたいと言えば、実現は可能だったはずだ。
 またドイツと違い、日本が戦争にけじめをつけて来なかったことが大きい。011月、ニューヨークタイムズ紙のインタビューで、ナチスドイツによる強制労働の補償交渉をまとめたアイゼンスタット米財務副長官(当時)が「心残りは同じように強制労働をさせた日本による補償を実現できなかったことだ」と述べ、サンフランシスコ平和条約が、日本による強制労働の補償や没収財産の返却を不可能にしたと説明している。
 東西冷戦のしがらみの中でこの条約が結ばれたという背景もあり、日本が敗戦についてケジメをつけないまま現在に至っている。例えば、外国人に日本では「占領軍」を「進駐軍」と呼んでいると話すと、驚かれることがある。この言葉の言い換えは、敗戦によって占領されたという事実に日本が向き合いたくなかったという姿勢の表れでもある。
 さらにこの戦争が、中国市場を巡っての戦争だったように、日米関係を考える時、米中関係について頭に入れておく必要がある。歴史的には、米中関係は、日中関係よりも先にはじまっている。いわゆるペリー提督による砲艦外交によって1854年、日米和親条約が結ばれたのに対して、米中は1784年、米国独立の翌年から通商を開始している。エンプレス・オブ・チャイナという船がインド洋経由で広東に入港し、米国産朝鮮ニンジンを輸出した。米中の絆は日本人が考えている以上に深いということだ。
重要なのはポスト広島 新たな日本外交
 オバマ大統領が広島を訪れる時、安倍晋三首相が同行するのは良いことだ。そして、安倍首相は広島での鎮魂の儀式に対する返礼として、パール・ハーバーを訪問する計画を早急に明らかにして欲しい。
 オバマ大統領の広島訪問について韓国メディアが「日本が被害者であることは許さない」という趣旨の報道を行うなど、日本の戦争による被害者である韓国や中国からすれば、面白く思わない人も少なくないのは理解できる。だからこそ、中国、韓国の日本に対するわだかまりを解消するべく動く必要がある。その第一歩がパール・ハーバーの訪問だ。これを奇貨として「ニュー・ジャパン・ドクトリン」、新たな日本外交をスタートさせて欲しい。
オバマが偉大な大統領である3つの理由
北野幸伯 
 就任時に世界的大人気を誇ったオバマ米大統領。今では見る影もなく評価が失墜し「史上最低の米大統領」という人すらいる。しかし、私はまったく逆で「オバマは偉大な大統領だ」と考えている。その理由は3つある。
 現職の米国大統領として初めて広島を訪問し、話題になっているオバマ。就任時は若々しく、笑顔がよく、スリムな「初の黒人大統領」として、超人気だった。彼が演説で多用した「Yes we can!」のフレーズは、米国や日本だけでなく、世界中で流行語になった。
 しかしその後、オバマの評価は失墜した。今では最低評価が付けられることも多いオバマだが、彼の実績をここで冷静に振り返ってみると、3つの偉業を成し遂げていることが分かる。

<理由1 世界経済を破局から救った>

 オバマは20091月、大統領に就任した。これは「最悪のタイミング」だったと言える。なぜなら089月の「リーマンショック」から、世界は大不況に突入していたからだ。この大不況は、1929年からはじまった「世界恐慌」と比較され、100年に1度」と形容される。そして、実際そのとおりだったのだ。 
 しかし、危機後の対応は、1929年と09年で大きく異なる。1929年の世界恐慌時、米国大統領は「市場が自由であれば、すべてよし」と考える「古典派」フーバー大統領だった。19291933年まで大統領を務めた彼は、古典派らしく「国家は経済に介入するべきではない」という姿勢を崩さなかった。結果、恐慌は、4年間放置されることになり、状況は悪化しつづけた。
 08年からの危機は、違った。オバマは、きちんと80年前の教訓から学んでいたのだ。彼は、財政支出を劇的に増やし、躊躇することなく金融機関や企業を救済していった。そのため、米国の財政赤字は07年に4140億ドルだったのが、オバマが大統領に就任した09年には18960億ドルと、4.5倍増加した。
 国家の借金は増えたものの、間違いなくこの措置は、米国だけでなく世界経済を破局から救った(もちろん、米国自身が作り出した危機ではあるが、それはブッシュ政権の責任で、オバマに責任はない)。
 結果、世界経済が最悪だった09年、米国の国内総生産(GDP)成長率は、マイナス2.78%だった。しかし、その後は、毎年1.52.5%の成長を続けている。米国のGDPは、07年に144776億ドルだったが、15年は179470億ドルと、約24%も増加した(ちなみに日本のGDP07年に513兆円だったが、15年は499兆円と、逆に減少している)。
 オバマは未曾有の経済危機を乗り越え、米国を再び成長軌道に乗せることに成功したのだ。

<理由2 シェール革命で、米国は世界一の資源大国に>

 オバマ政権下で起こった、もっとも大きな変化は「シェール革命」だろう。というのも米国にとって長らく、政策を大きく左右する動機となってきたのが「エネルギー問題」だったからだ。
 ブッシュが大統領に就任した時、「米国内の原油は16年に枯渇する」と予測されていた。このことと、ブッシュ政権が異常にアグレッシブだったことは無関係でない。米国は03年、イラク戦争を開始した。表向きの理由は、「フセインが9.11を起こしたアルカイダを支援している」「大量破壊兵器を保有している」だったが、2つとも「大うそ」だったことが後に明らかになった。
 では、米国がイラクを攻撃した真の理由はなんだったのか?諸説あるが、FRBのグリーンスパン元議長は、以下のように告白している(太線筆者、以下同じ)。
「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露
[時事通信 2007/09/17-14:18]【ワシントン17日時事】18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。

 米メディアによると、前議長は「イラク戦争はおおむね、石油をめぐるものだった。だが悲しいかな、この誰もが知っている事実を認めることは政治的に不都合なのだ」と断言している。>
 グリーンスパンによると、イラク戦争の理由が「石油」であることは、「誰もが知っている事実」なのだそうだ。いずれにしても、米国が中東に強く関与しつづけていた理由が「資源がらみ」であることは、間違いない。
 そんな状況が「シェール革命」で激変した。世界で「資源超大国」といえば、サウジアラビアとロシアだった。しかし14年、米国の産油量は両国を抜き去り、世界一になった(14年の産油量は、米国が日量11644000バレル、サウジアラビア11505000バレル、ロシア10838000バレル)。
 これで米国は、天然ガス、原油生産ともに世界一になった。そして、米国は今年、40年ぶりに原油輸出を再開している。
「シェール革命」は、原油価格を下げ、日本にも大きな恩恵をもたらしている。日本は東日本大震災後、原発をすべて停止し、原油、天然ガス輸入を大幅に増やした。その結果、貿易赤字が大きな問題になっていた。しかし、シェール革命による原油安で、赤字は急速に減少している。14年の日本の貿易赤字額は、128161億円だったが、15年は28322億円で、10兆円も減少した。
「シェール革命」について、「オバマ自身とあまり関係ないのでは?」という意見もあるだろう。確かにそのとおりである。しかし、クリントンは「IT革命で米国の景気がとてもよかったこと」を理由に、「偉大な大統領」と呼ばれている。はたして、クリントンは「IT革命」に何か貢献したのだろうか?「シェール革命」についても、「オバマ時代に起こった」ことで評価されるべきだろう。

<理由3 対中国リアリズム外交>

 オバマがもっとも批判されるのは、「外交」だろう。実際、彼の外交政策は、ほとんどの期間「失敗だらけ」だった。
 オバマは09年、「ノーベル平和賞」を受賞。戦争に明け暮れたブッシュ政権に疲れた米国民や世界の人々は、「平和」を強く望んでいた。ところが、オバマは11年、リビアを攻撃し、カダフィを殺害した。この戦争が戦略的にどういう意味があるのか、不明である。ちなみに、カダフィ殺害でリビアは無政府状態になってしまい、今も内戦状態にある。その責任は、オバマにある。
 そして彼は1389月、外交面でおそらく「最大の失敗」をした。オバマは138月、アサド軍が「反体制派に化学兵器を使った」ことを理由に、「シリアを攻撃する」と宣言。しかし、翌9月、「やはり攻撃はやめた」と戦争を「ドタキャン」し、世界を仰天させた。さらに、オバマ政権は、ウクライナで革命を起こし、親ロシア派ヤヌコビッチ大統領を失脚させた。
 こう書くと、日本ではおそらく「トンデモ系」「陰謀論者」とレッテルを貼られるだろう。しかし、これは筆者の想像ではなく、オバマ自身が語っているのだ。「ロシアの声」1523日から。
<昨年2月ウクライナの首都キエフで起きたクーデターの内幕について、オバマ大統領がついに真実を口にした。

 恐らく、もう恥じる事は何もないと考える時期が来たのだろう。
CNNのインタビューの中で、オバマ大統領は「米国は、ウクライナにおける権力の移行をやり遂げた」と認めた。

 別の言い方をすれば、彼は、ウクライナを極めて困難な状況に導き、多くの犠牲者を生んだ昨年2月の国家クーデターが、米国が直接、組織的技術的に関与した中で実行された事を確認したわけである。>(出所、さらなる詳細はこちら。また、オバマが関与を認めている映像はこちら)

 142月のウクライナ革命は、ロシアの「クリミア併合」を誘発した。革命で誕生した親欧米新政権は、「クリミアからロシア軍を追い出し、NATO軍を入れる」と宣言していたからだ。地政学的に超重要な軍事拠点を奪われそうになったプーチンは、速やかにクリミアを併合してしまった。そして、ウクライナで内戦が勃発する。
 この内戦は、「プーチンのせい」ともいえるが、「ウクライナで民主的に選ばれた大統領を革命によって強制追放したオバマのせいだ」ともいえる。ウクライナ革命が、米国にとって「どういう戦略的意味があるのか」、やはり不明である。このように、意味不明な他国への介入を行ってきたオバマ外交は「失敗の連続」だったが、153月の「AIIB事件」以降、彼は突然「天才リアリスト」に生まれ変わった。

世界中の敵とあっという間に和解!ターゲットを中国に絞ったオバマ

AIIB事件」とは、英国、フランス、イタリア、ドイツ、イスラエル、オーストラリア、韓国などの「親米国家群」が、米国の制止を無視し、中国が主導する「AIIB」への参加を宣言したこと。参加国の数は、実に57ヵ国に達した。
 オバマは、日本以外のほとんどすべての同盟国が自分の要求を無視し、中国の誘いに乗ったことに大きな衝撃を受けた。ここに至って、米国はようやく「中国は、覇権一歩手前まで来ている」ことを悟ったのだ。
 そして、オバマは変わった。ウクライナ内戦は、152月の「ミンスク合意」で停戦が実現していた。米国は当初、「ウクライナに武器を送り、停戦をぶち壊そう」と画策していたが、「AIIB事件」を受けて「停戦容認」に態度を変えた。  155月、米国は、13年から始まっていた中国による「南シナ海埋め立て」を突如問題視しはじめ、米中関係は急速に悪化していく。この月、日本のメディアも、「米中軍事衝突」の懸念を報じるようになった。一方、ケリー国務長官は同月にロシアを訪問し、プーチンと会談。「制裁解除もあり得る」と語り、ロシア政府を驚かせた。
 これ以降、米国とロシアの関係は「ウクライナ問題」「イラン核問題」「シリア問題」の共同解決作業を通し、急速に改善してきている。157月、米国、ロシア、他4国とイランは「歴史的合意」に達し、「核問題」を解決した。161月、対イラン制裁は解除された。162月、米国とロシアは「シリア内戦終結」を呼びかけ、アサド政権と反体制派の停戦が実現した。
 こうしてオバマは、「アッ」という間に、「ウクライナ問題」「イラン核問題」「シリア問題」を解決した。そして、中国との和解だけは拒否している(北朝鮮もあるが)。
 この動きを、「戦略的」に見るとどうなるだろう。米国には、戦略的に重要な地域が3つある。すなわち、欧州、中東、アジアだ。
・欧州には、「ウクライナ問題」「ロシア問題」がある。・中東には、「イラン問題」「シリア問題」「IS問題」などがある。・アジアには、東シナ海、南シナ海を支配したい「中国問題」がある(北朝鮮問題もあるが)。
 いくら米国が「世界最強」とはいえ、同時に、欧州でロシアと、中東でイラン・シリア(アサド)・ISと、そしてアジアで中国と戦うのは不可能だ。そこで、オバマは、欧州と中東の問題を迅速に解決し、米国の覇権を脅かす中国にターゲットを絞ったのである。

リアリストに変身した後のオバマは日本にとって大恩人だった

 以上、オバマが偉大な大統領である「3つの理由」を挙げた。オバマは、まもなく引退する。そして筆者は、彼の引退を心から惜しんでいる。
 日本が現在抱えている最大の問題は、「日本には沖縄の領有権もない」と主張する中国の存在だろう(証拠はこちら)。
 オバマは15年、ようやく中国の脅威に目覚めた。そして、世界中の問題を解決し、中国と対峙しはじめた。米国が日本の望む方向に動きはじめてからわずか1年半で、彼は引退する。
「リアリスト」に変貌したオバマの後に続くのは、「金をもっと出さなければ米軍を撤退させる!」と脅迫するトランプだろうか?それとも、「中国から長年賄賂をもらっていた」と噂されるヒラリーだろうか?あるいは、「戦争はもうたくさんだ」「格差をなくせ」と主張する、平和主義、社会主義者のサンダースだろうか?誰が大統領になっても、最末期のオバマほど、「日本にとってよい大統領」が現れるか疑問である。
 ブッシュから大きな「負の遺産」、つまり「100年に1度の大不況」「大混乱の中東」を引き継いだオバマは、この2つの大問題を解決し、去っていく。
 彼は10年、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こった際、「尖閣は、日米安保の適用範囲である」と宣言し、日本を救った。また、東日本大震災直後の「トモダチ作戦」も、決して忘れてはならないだろう。そして今回、「広島訪問」を果たす。
 日本にとって大恩人であるオバマ。「史上最悪の大統領」と呼ぶのは、あまりにも酷だろう。影響力はないにしろ、筆者は心から、オバマ大統領に感謝したい。そして、彼の業績が、日米だけでなく、世界中で正当に評価される日がくることを、心から願っている。


オバマの広島訪問は日米それぞれの外交に何をもたらすのか
G7サミットへの関心は薄れる?

辰巳由紀 (スティムソン・センター主任研究員)
20160525日(Wed)  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6861

オバマ大統領が2016521日、ベトナム・日本歴訪に向けて米国を出発した。日本では伊勢・志摩G7サミット出席に加えて、安倍晋三総理との日米首脳会談、サミット終了直後に広島を訪問することがすでに発表されている。
 すでにメディアではオバマ大統領の訪日中の日程については「広島訪問」がクローズアップされ、大統領が広島で何を言うのか、言わないのかに始まり、オバマ大統領の広島訪問に応えて、安倍総理がオバマ大統領の任期中に真珠湾を訪問するかどうかについてまで憶測するような論調が飛び交っている。
23日ベトナム、ハノイを訪問したオバマ大統領(Getty Images
米外交の文脈としても重要な広島訪問
 たしかに、現職のアメリカ大統領としては初めてとなるオバマ大統領の広島訪問は、日本にとって非常に重要なことだ。終戦直前に原爆の被害を受けた広島と長崎は、日本が戦後外交の中で一貫して掲げてきた「核のない世界」という目標の出発点となった土地であるという意味で特別な場所であることは言うまでもない。
 しかし、米国でもオバマ大統領の広島訪問は非常に重要なのだ。1945年に当時のハリー・トルーマン大統領が広島と長崎に原爆を投下する決定を下したことは、「戦争指導者の判断として正しかったのかどうか」という点が今でも議論される。
「原子爆弾の投下がなければ、戦争が長引き、日本の本土決戦でより多くの死者が出ただろう。原子爆弾の投下により、それが回避され、本土決戦まで戦争が長引けば戦場に送られていたであろう多数の米国の若者の命を救っただけでなく、そのような事態になっていれば確実に日本人の犠牲者数も増えていた」として、決定は正当なものであったと主張する議論がある一方で、広島と長崎で合わせて14万人ともいわれる犠牲者が出たこと、そしてその大多数が非戦闘員であったことや、当時、米国とソ連の間で「新型爆弾」の開発の競争が進んでいたことを指摘し、原爆投下の決定は、決して正当化できるものではない、という立場もある。
 また、「オバマ大統領が広島を訪れることは、『日本に対する謝罪』と受け取られる可能性がある。当時、日本軍とたたかった米軍兵士とその家族の心情を傷つける」という議論もある。
 オバマ大統領は、以上のような様々な議論が米国内で依然としてあることを考慮したうえで、広島訪問を決めた。つまり、米外交の文脈の中でも、この決定は極めて重要な決定なのだ。
米外交を模索し続けたオバマ政権の8年間
 ではなぜ、オバマ大統領は広島訪問を決めたのか。単に「核のない世界」に対する決意を再び訴えるだけならば、「核のない世界」について初めて訴えたのがプラハであったことを見てもわかるように、広島のように、原爆の記憶が今でも生々しく残る土地を訪問する必要は必ずしもない。安倍総理への配慮だという指摘もあるが、前述の米国の議論を見てもわかるように、日本への配慮という観点だけで決められるような単純なものでもない。
 振り返れば、オバマ政権の8年間は冷戦時代以降アメリカ外交が抱えてきた「過去の負の遺産」に、どのように一定の区切りをつけ、今後のアメリカ外交にどのような新たな方向性と意義付けを持たせるかを模索し続けた8年間であったといってもいい。核プログラムに関するイランとの合意、キューバやミャンマーとの国交回復、ベトナムやフィリピンとの関係強化……オバマ大統領は、その任期中、これまでのアメリカ外交でいわば「タブー」とされてきた課題に取り組み、新しい方向性に舵を切る端緒をつけてきた。
 その判断の是非は、後世に任されるものとなるが、少なくとも、アメリカの国力が相対的に低下しているという現実を踏まえ、それでもアメリカが、指導的役割を発揮し続けるためにはどうすればよいのか、という課題に真正面から取り組んだのがオバマ政権の8年間だったのではないだろうか。
 そうだとすれば、オバマ大統領が「歴史を直視することは重要だ。歴史について対話を持つことは重要だ」(ベン・ローズ国家安全保障担当大統領副補佐官)という心情に基づいて広島を訪問し、そこで第二次世界大戦で命を落としたすべての人々を追悼し、未来志向の声明を出すことは、ある意味、自然な流れであるといえる。

G7サミットには関心が向けられない?
 安倍総理にとっての課題は、「現職アメリカ大統領の広島訪問」のインパクトがあまりに大きく、その直前に自身が主催者となって行われるG7首脳会談が完全に埋没してしまう危険性があることだ。特に、G7サミット前にオバマ大統領がベトナムを訪問することを考えると、ベトナム訪問と広島訪問の間に挟まれたG7サミットにほとんど関心が向けられないままこの会合が終わってしまう可能性が今のままだと非常に高い。
 しかし、今回のG7会合は現在の国際情勢を考えると非常に重要な会合だ。ロシアがサミットのメンバーから外れ、G20の限界も認識されつつある今、G7は、人権、民主主義、市場経済、法の支配など、第2次世界大戦以降の国際秩序を支えてきた価値観を共有する先進国の集まりとして、その重要性を再確認する必要がある枠組みだ。
 特に、日本にとっては、今回のサミットで日本政府がフォーカスしたいと考えている女性のエンパワーメントや、世界の保健衛生問題に加えて、南・東シナ海問題や北朝鮮問題など、ともすればこれらの問題を地域問題として捉えて、積極的な関与を好まない英、仏、独、加、伊各国に対して、これらの問題は、国際規範の観点からみても重要な問題で、国際社会が一致して対峙しなければならないものであることを首脳レベルで訴え、理解を求める絶好の機会だ。
 そのG7サミットが、事後のオバマ大統領の広島訪問に飲み込まれてしまうことは、日米関係の上では「これほど熾烈に争ったかつての敵が、今や、信頼と同盟関係で結ばれたパートナーである」ことをアピールするまたとない機会になることを考えればプラスだが、日本外交全体から見れば必ずしもプラスではない。
 オバマ大統領の広島訪問に大半の関心が向けられることは不可避だ。しかし、それを踏まえたうえで、G7首脳会合を日本が主催するという7年に1度の年に、日本が、サミット議長国としていかに存在感を示すことができるか――安倍総理の外交手腕が問われることになるだろう。



2016年5月28日土曜日

【米中戦争の様相】共産中国の「A2/AD戦略」の今

今年の「中国軍事レポート」はどこが不十分なのか

最新鋭の対艦弾道ミサイルとA2/AD戦力への言及は?

北村淳 2016.5.26(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46933


中国人民解放軍の「東風26型(DF-26)」対艦弾道ミサイル(出所:Wikimedia Commons

 アメリカ国防総省は毎年中国の軍事力に関する報告書を作成して連邦議会に提出している。その最新版である『Annual Report To Congress: Military and Security Developments Involving the Peoples Republic of China 2016』が今年も公開された。
今年の『中国軍事レポート』は、これまで15年にわたって発行されてきた中で最も分量が多い。現在の装丁がスタートした2012年版は52ページであったが、本年版は156ページと大幅に分厚いレポートとなった。
 分量が3倍になっただけではない。15年前、このレポートの主たる関心は「中国による台湾侵攻能力」の分析であった。その後も、このテーマは毎年、主たる関心であり続けていた。しかし、今回のレポートでは、アメリカ軍当局の主たる関心が「中国による台湾侵攻能力」ではなく、「中国人民解放軍の地球規模での展開能力」に完全にシフトしたことが明示されている。
 毎年公開されている『中国軍事レポート』は、アメリカ国防総省による中国軍事力に関する公式見解である。そのため、米国内や中国はもとより、広く国際社会からも関心を持たれており、毎回様々な批判や提言などが噴出するのが常である。今回のレポートに対しても、様々な反応が見られる。中国当局はもちろん例年の通り厳しい非難を加えている。
 一方、米国のシンクタンクや米軍関係の対中戦略家などの間からは、様々な問題点を指摘する声が上がり始めている。それら問題提起の1つに、最新鋭の「東風26型(DF-26)」対艦弾道ミサイルならびにA2/AD戦力の脅威に関する言及が極めて不十分であるというものがある。
 この論点には筆者も同感であるだけでなく、日本にとっても重要な論点であるため、本コラムで紹介してみたい。
進化を重ねる対艦弾道ミサイル
中国はかねてより鳴り物入りで対艦弾道ミサイルの開発に邁進していた。
 対艦弾道ミサイルというのは、中国本土に展開する地上移動式発射装置(TEL)から発射する弾道ミサイルで、はるか沖合を航行する敵の大型軍艦(主たるターゲットはアメリカ海軍航空母艦)を攻撃するシステムである。
 いくら目標が超大型の軍艦であるとはいえ、長さ300メートル、幅75メートル程度の船体で、それも最速時には時速60キロメートルもの高速で海上を移動する目標に命中させるには、極めて高性能な弾道ミサイル本体が必要になる。具体的には、ミサイルが目標に接近すると自ら目標を捕捉し針路を調整する機能などだ。それに加えて、水平線のはるか彼方の攻撃目標を探知し誘導するための衛星測位システムと超水平線(OTH)レーダーが必要となる。
 人民解放軍は中国独自開発の「北斗」、アメリカの「GPS」、それにEUの「ガリレオ」といった衛星測位システムを使用して、万全なるミサイル誘導体制を固めつつある。また、人民解放軍のOTHレーダーの技術的進展は、レーダーシステム自身だけでなく偵察衛星などの関連システムを含めて、目覚しいものがあると米軍情報関係者たちは分析している。
 このような対艦弾道ミサイルシステム開発の成果の第1弾として登場したのが、「東風21丁型(DF-21D)」対艦弾道ミサイルであった。
DF-21Dは、主として日本を攻撃するために多数配備されているDF-21弾道ミサイルをベースに、対艦弾道ミサイルに仕上げられたものであり、射程距離は1450キロメートル程度と言われる。したがって、沖縄の太平洋沖を航行中のアメリカ空母を攻撃することが可能であり、佐世保や横須賀の軍港に停泊中の米空母や海上自衛隊大型艦も“有望”な攻撃目標ということになる。
DF-21Dはすでに数基が配備されているものの、対艦弾道ミサイルの開発に成功しているのは“中国だけ”であり、洋上を航行する艦船に対して実際にDF-21Dを発射して命中させる実戦的実験が実施された形跡がないため、その実態については懐疑的な専門家も少なくない。
このように能力が若干疑問視されていた中国の対艦弾道ミサイルであるが、昨秋になると人民解放軍はDF-21Dの進化形としてDF-26を完成させた。
DF-26の射程距離はDF-21Dに比べると大幅に延伸されて2500マイル(およそ4000キロメートル)に達すると言われている。たとえこの推測値の8割の2000マイル(およそ3200キロメートル)だとしても、中国本土から発射されたDF-26はグアム周辺海域のアメリカ空母に命中することになる。
 そして米海軍情報局やシンクタンク関係者たちは、このような長射程での、しかも移動する小型目標を捕捉しDF-26の弾頭を誘導するための各種衛星群、ならびにOTHレーダーシステムの改良も飛躍的に進んでいると分析している。

中国の対艦弾道ミサイルの射程圏

アメリカはA2/AD戦力に跳ね返される
『中国軍事レポート』は、なにも人民解放軍の兵器や武器の分析を目的とするものではない。そのため、DF-21DDF-26といった対艦弾道ミサイルそのものに対する記述が不十分なのはさしたる問題ではない。それよりも米国のシンクタンクや対中戦略家が問題にしているのは、それらの新鋭兵器が投入されている「接近阻止領域拒否戦略」(A2/AD戦略)が米軍や同盟軍に大きな脅威を与えている事実が等閑視されていることについてである。
 本コラムでもしばしば登場している「A2/AD戦略」とは、中国本土に近寄ろうとするアメリカ海軍や航空戦力を中国からできるだけ遠方の海域で迎撃して、中国本土には絶対に接近させないための人民解放軍の基本戦略である。そのために中国は「第1列島線」「第2列島線」という概念を生み出した。
 九州から南西諸島、台湾を経てフィリピンへと続く第1列島線周辺海域にはアメリカ海洋戦力を寄せ付けない防衛体制を固めつつある。そのために用いられる人民解放軍の主たる戦力が、各種長射程対艦ミサイルと対空ミサイルである。
 長射程ミサイルのほとんどは巡航ミサイルであり、中国本土沿岸地域に展開するTEL、中国沿海の安全海域(米軍や自衛隊の攻撃が行われない)洋上の軍艦、中国沿海部上空の安全空域を飛行する航空機、それに西太平洋に進出し海中深く潜行する攻撃原子力潜水艦などから発射可能な準備態勢が固められつつある。
 そして、第1列島線に近づくアメリカ海軍空母打撃群を撃破するために、それらの各種巡航ミサイルとともに発射されるのがDF-21Dということになる。
 巡航ミサイルは、ひとたび米軍や自衛隊の高性能レーダーシステムによって探知補足された場合、(理論的には)撃墜されてしまう。そこで、超高速(マッハ12)で軍艦に突入する対艦弾道ミサイルが、数多くの巡航ミサイルとともに発射されることになるのだ。超高速の対艦弾道ミサイルならば、イージスシステムをはじめとするアメリカ側の高性能ミサイル防衛システムといえども迎撃は不可能に近い。
 第1列島線までの接近阻止態勢が整ってきた中国にとって、次なるステップは、第2列島線周辺海域でのアメリカ海洋戦力の自由な作戦行動を封じることである。第2列島線周辺海域とは、伊豆諸島から小笠原諸島を経てグアム島をはじめとするマリアナ諸島に至る海域だ。
 そのために登場したのが、グアムに停泊する艦艇はもとよりマリアナ諸島周辺海域を航行するアメリカ空母を撃破するためのDF-26ということになる。ただし、DF-26だけでは、アメリカ海軍の行動を阻止することは難しく、DF-26を補強する各種巡航ミサイル戦略による第2列島線周辺海域への攻撃能力を構築しなければならない(これには、今しばらくの年月を要する)。
 いずれにせよ、極めて大量の各種巡航ミサイルとDF-21DそれにDF-26を人民解放軍が手にしているということは、少なくとも第1列島線に近づくアメリカ海洋戦力に対するA2/AD戦略が効果的に機能するであろうことを意味している。そこで、少なからぬ対中戦略専門家たちが、「このような状況を、多額の税金を投じて作成している『中国軍事レポート』で詳述しないのは、納税者の対する裏切り行為である」と強く危惧しているのである。

《維新嵐》 共産中国は、中国共産党自らが情報統制できる国ですから、軍事リポートにしても知られたくない兵器については詳述しないということもあるでしょう。特に対艦弾道ミサイルは海軍力でアメリカに劣る人民解放軍にとっては、これに対抗しうる切り札になるわけですからね。

対艦ミサイルと並走した戦闘機の映像

ノドンより中国のミサイル「東風21」が日本にとって脅威
「3本の矢」で迎撃強化可能
2016.5.26 18:57更新 http://www.sankei.com/world/news/160526/wor1605260038-n1.html

2013年7月、軍事パレード(平壌の金日成広場)中距離弾道ミサイル「ノドン」登場。

 オバマ米大統領が広島を訪問することになり、核軍縮や軍備管理に向けた機運が再び高まりつつある。しかし東アジアでは、北朝鮮が今年1月に4回目の核実験を強行したのに続き、弾道ミサイルを立て続けに発射するなど軍事的挑発を繰り返している。中国も核弾頭が搭載可能な中距離弾道ミサイル「東風(DF)21」を配備。日本がミサイル防衛を早期に強化することは、これまで以上に重要となっている。(水沼啓子)

 ■進化する中朝ミサイル
 北朝鮮が開発中の弾道ミサイルの中で、日本にとって直接の脅威となっているのがノドンだ。射程は約1300キロで、東京や各地の在日米軍基地、原子力発電所など、日本のほぼ全域を標的におさめる。
 北朝鮮は1980年代初頭にノドンの開発に着手。当初は北朝鮮南東部の発射場から日本海に向けて発射されていたが、2014年3月と今年3月の発射は移動式発射台(TEL)を使い、北朝鮮の西岸から行ったとされ、実用性能の向上をうかがわせる。
 実は日本にとり、北朝鮮のミサイルよりも現実的な脅威となっているのが中国の東風21だ。複数の専門家は、中国が「仮想敵」と見なすインドと日本に照準を合わせて東風21を配備済みとみられると指摘する。

 英国際戦略研究所(IISS)が世界の軍事情勢を分析した報告書「ミリタリー・バランス2015」によると、中国は東風21を116基保有。その中には1基に複数の核弾頭を搭載し、それぞれの核弾頭が別の攻撃目標に向かう多弾頭個別誘導式(MIRV)化されているものもある。

 ■2段構えで迎撃
 これらのミサイルに対抗するのが、弾道ミサイル防衛(BMD)システムだ。
 日本のBMDは、「2段構え」で迎撃するのが特徴だ。日本を狙ってノドンが発射された場合、発射の兆候を捉えた米国の衛星から早期警戒情報(SEW)がもたらされ、海上自衛隊のイージス艦や、地上配備レーダーがミサイルを追尾。日本への着弾が予測されれば、イージス艦に搭載された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が大気圏外でミサイルを撃破する。仮に撃破し損ねた場合は、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が落下してくる弾頭を高度数十キロ上空で地上から迎撃し、着弾を阻止する。
 PAC3は現在、全国15カ所に配備。正確な保有数は非公開だが、発射機は数十基、ミサイルは数百発を保有しているとみられる。

 ■3本目の矢
 ただ、PAC3の射程は20キロ程度で、迎撃できるのは90度ほど扇形に広げた範囲に限定される。

 軍事ジャーナリストの恵谷治氏は「配備中のPAC3では日本全土を守りきれない。守ろうと思ったら全国数百カ所への配備が必要だ」と指摘し、「真に日本の国土防衛に資するのは高高度防衛ミサイル(THAAD)だ」と強調する。
 THAADとは、最高高度150キロで敵の弾道ミサイルを迎撃するもので、現在の「2段構え」のシステムに追加すれば迎撃態勢は一層強化される。中谷元・防衛相も昨年11月、THAADの自衛隊への導入を検討すると表明した。
 ただ、THAADの導入には膨大な費用が必要で、限られた防衛予算の中で調達費用をどう捻出するのかといった課題も残る。
 また、日本のBMDは敵のミサイル発射の兆候を確実に把握することが大前提だ。軍事アナリストの小都元氏によれば、「北朝鮮の弾道ミサイルは発射後、約7~10分で日本本土に着弾する」とされ、イージス艦ならば兆候を捉えてから約5分以内に迎撃態勢に入らないと撃破できない。所在を知らなかったTELから突然発射された場合、迎撃は一層厳しくなる。

■敵基地に先制攻撃
 そのため、敵にミサイルを撃たれる前にその発射基地を無力化させる「敵基地攻撃」もかねて議論されてきた。敵基地攻撃は、自衛の範囲内として憲法解釈上も認められている。航空自衛隊のF15戦闘機と空中給油機、空中警戒管制機(AWACS)を使えば、日本が独力で攻撃するのも理論上は可能だ。
 ただ、小都氏は「日本では北朝鮮の防空能力が過小評価されている。北朝鮮が保有するSA2やSA5といったロシアの地対空ミサイルは侮れない。また北朝鮮には地下にミサイル基地が多数あるとされる。日本には地下基地をたたく能力はない。米軍の特殊貫通弾バンカーバスターや戦術核でしか破壊できないだろう」としている。



対艦弾道ミサイルDF-26D

《維新嵐》 戦域核弾道ミサイルは、数多く発射することはありませんので、現状のBMDシステムで防衛できるでしょうが、中距離ミサイルの飽和攻撃をうければ、BMDの抑止は怪しいものになるでしょう。また共産中国には、長射程の巡航ミサイルが保有されていますから、弾道ミサイルとは別のミサイルディフェンスが必要になります。
 ミサイルは陸上から発射されるだけでなく戦略型原潜をプラットフォームにして攻撃もありますから、共産中国と北朝鮮のミサイルは、開戦奇襲の切り札になりますね。

しかし海上戦力の拡充は足踏み状態のようです。特に以下の記事から将来的な中国版空母打撃群の主力戦闘機のメンテナンスの技術力の低さが海上戦力の向上、最新化に悪影響を及ぼしているようです。
 所詮人の物まねばかりではうまくいきません。人からノウハウを盗め、ということはよくいわれますが、盗むとはあくまで合法的にその情報を検証し、独自の発想で開発しなければ意味はありません。パクリをやってるうちは共産中国は、アメリカに勝てないでしょう。



中国の空母艦載機「J15」お払い箱に?…欠陥露呈で“パクリ先”ロシアに支援要請か
産経新聞
 覇権獲得のためになりふり構わぬ軍拡を続けている中国だが、やはりそのひずみはそこかしこに出ているようだ。中国が初めて保有した空母「遼寧」の艦上戦闘機J15に技術的な欠陥が見つかり、ロシアに技術支援を要請するか、代替機を探さざるを得ない状況になっている。もともとJ15はロシアの艦上戦闘機Su33を模倣して製造したものだ。要するに未熟さ故に模倣しきれず、“パクリ先”のロシアに泣きつこうとしているということになる。

生産数はたったの16機どまり

 カナダの軍事情報サイト「漢和防務評論」や米華字ニュースサイト多維新聞によると、J15は配備から4年がたつが、これまで生産数は16機にとどまっている。量産化が大幅に遅れているため、空母向けのパイロット養成に大きな支障が出る可能性がある。
 J15は旧ソ連・ロシアの戦闘機Su27の艦上機型であるSu33を中国が国産化したものだ。中国はSu33を購入しようとロシアと交渉していたが、技術提供や価格などで折り合えずに決裂。このため、中国は旧ソ連崩壊で独立したウクライナに接近し、ウクライナが保有していたSu33の試作機を入手し、艦上戦闘機に関する技術を取得。J15の開発にこぎ着けた。遼寧そのものも建造に着手されながら、ソ連崩壊のあおりを受けてスクラップ同然となった未完成の空母「ワリヤーグ」をウクライナから購入し、改修したものだ。

戦力化は間近との見方もあったが…

 中国の国営新華社通信は2012年11月、遼寧で艦載機による発着訓練が実施され、成功したと報道。中国のテレビニュースでは2機のJ15が遼寧に着艦してスキージャンプ台を使って発艦する様子が放映された。
 J15に関しては、中国海軍司令員の呉勝利上将が2015年12月に遼寧やその航空部隊を視察したことなどを受けて、駆逐艦や補給艦などを従えた遼寧が機動部隊として洋上を航行する日はそう遠くなく、2016年夏ごろには戦力化されるとの分析もあった。
 「漢和防務評論」は、「J15は技術的な問題が多く、遼寧への配備後も、艦上でのメンテナンスが行われていない」としているが、今のところ技術的な問題がどのようなものかは定かになっていない。しかし、J15の元になったSu27は今から40年近く前の1970年代に開発された点を考慮に入れると、特にエンジンに関するトラブルを抱えている可能性が高い。

技術不足で高性能エンジンの開発ができず

 J15に限らず、空母の艦上戦闘機は急激な発着を繰り返すため、陸上で発着する戦闘機に比べて機体やエンジンにかかる負担が大きくなる。また、潮風にさらされるためにメンテナンスも容易ではない。
 J15に搭載可能な中国が独自に開発したエンジンとしてはターボファンエンジンの「WS-10」がある。しかし、エンジンの寿命が短いなど性能や信頼性の面で問題があるといわれている。中国がウクライナからSu33の試作機を購入した際、完璧な設計図を手に入れることができなかったのではないかという軍事問題専門家の指摘もある。
 こうしたことから中国は、空母艦載用として適しているとされるロシア製のエンジン「AL31F」をJ15に搭載しているが、Su33を無断でコピーしてJ15を製造した中国は正式なルートでロシアから「AL31F」を購入することができない。現在、J15が積んでいる「AL31F」は、中国が合法的にロシアから輸入したSu30MKKやSu27SKなどから“転用”したものだ。ただ、これではSu30MKKやSu27SKは本来の性能を発揮できるわけがない。J15の問題は中国の航空戦力に深刻な影響を与え始めていることになる。

空母機動部隊運用の夢が遠のく?

 「漢和防務評論」は代替機を導入する場合、ロシアが開発し、インド海軍が導入している空母艦載機Mig29K戦闘機か中国の第5世代戦闘機のJ31を候補に挙げている。
 しかし、ロシアがMig29Kを売却するかどうかは中露両国の軍事協力の行方やロシアと西側諸国との関係に影響されるなど不確定要素が多い。また、艦上機型のJ31の製造・運用にこぎつけるまでには10〜15年は必要になる。一日も早い空母機動部隊の運用を夢見る中国がそんなに待てるはずがない。
 「漢和防務評論」は、中国にとってJ15の改良を続けることが最も可能性のある案で、Su33を製造したロシアのスホーイ社から専門家を招請し、設計図を入手するのが現実的な方法だと指摘している。

 もちろん、ロシアに対して正式に技術支援の要請をすることは、中国がSu33を勝手にコピーしたことを認めて、“わび”を入れることにもなるが、「漢和防務評論」は、資金さえ出せばロシアは中国にSu33の設計図を渡すはずだと分析している。