米陸軍大幅削減の意味することとは?
岡崎研究所
2015年09月02日(Wed) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5293
米ニューヨークタイムズ紙は、陸軍を大幅に削減するという政策は賢明であり、驚くに値しないとする社説を2015年7月24日付で掲載しています。
画像:iStock
すなわち、米陸軍は、9.11当時49万人から57万人にまで増員してイラク及びアフガニスタンでの戦争に対応してきたが、現在では49万人の規模に戻っている。ここから更に4万人の兵員と1万7000人の文官職員を削減し、2017年まで45万人にまで縮小するのが現在の計画である。現在国防総省に課されている予算上の制約が解除されなければ、2019年までには42万人にまで縮小される。
議会多数党である共和党と民主党右派の中にはこの削減に反対する声が強いが、そもそも議会が求める予算削減の延長上のことであり、2014年には当時のヘーゲル国防長官が2015年度予算案の中で提案していることでもあるので、今更驚くべきでないし、規模の削減そのものは賢明な選択である。
そもそも陸軍は主要な作戦が終了する度に動員解除するのが習いである。
この背景には、陸軍州兵(平素は各州知事の監督下にあり、旅団や師団といった主要作戦部隊を編成)と陸軍予備(衛星、工兵、憲兵など主として特別の技能を持った部隊や個人の予備)を合わせれば50万人の兵力が随時動員可能であり、また海兵隊の約20万人も陸上兵力として使えるという事情がある。この他、サイバー戦や特殊作戦について高い技能を持った機能に投資していることを考えれば、陸軍が縮小されても米国は世界で最も強力な軍を持ち続けることになる。また、基地閉鎖によって地域経済がダメージを受けるという昔ながらの指摘もあるが、このようなケースで地域経済が適合し回復したケースが多いという研究すらある。
オバマ大統領と議会は、陸軍の能力を維持すべきであるが、このことは、現存する基地の閉鎖を拒み、兵力水準を現状通りに維持することを意味しない。また、米国としてそのようなことをする余裕もない、と主張しています。
出典:‘Military Cutbacks Make Sense’(New York Times, July 24, 2015)
http://www.nytimes.com/2015/07/25/opinion/military-cutbacks-make-sense.html?_r=0
http://www.nytimes.com/2015/07/25/opinion/military-cutbacks-make-sense.html?_r=0
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連邦予算削減による財政健全化が逼迫した米国での議論です。リベラルを代表するNYT紙が社論として軍削減を擁護するのは不思議ではなく、日本でも世間受けしそうな論調です。しかし、米国の事例を単純に参考にして日本に当てはめることは出来ません。少なくとも二点において日本と米国の事情の違いを認識しておくことが必要です。
第一に、米軍には約149万人の現役兵力の他に大規模で即時に動員可能な予備兵力があるということです。米軍の予備役は合計84.4万(陸軍州兵35.8万、陸軍予備20.5万、海兵隊予備4.0万、空軍州兵10.6万、空軍予備7.1万人)おり、これをいつでも動員できる態勢にあります。自衛隊にも予備制度はありますが、約24.7万人の現役自衛官の他に5.6万人の予備自衛官がいるものの、米軍のように直ちに現役に伍することができるのは即応予備自衛官と呼ばれる約1万人に過ぎません。
第二に、このような予備役制度を支持する社会基盤があるということに着目すべきでしょう。84.4万人の予備役軍人の内1割近くにあたる7.8万人が一時的に現役軍人として勤務しています。このような予備役軍人は、当然平素は一般の社会人として経済活動に従事している訳ですが、軍に動員されている間は、その空きを埋める仕組みがあり、1年ないし数年にわたって軍に勤務した後に、彼らをもう一度受け入れる社会があるということです。こうした点は、アメリカ社会全体が国防という崇高な義務を積極的に負うという姿勢をもっていることに他ならず、この点は特に日本社会にとり何らかの教訓になると思います。米陸軍の削減と日本での自衛隊削減論と同一視してはならない所以です。
【レーザーで地対空ミサイルを無力化】
ATIRMシステムが輸出解禁
配信日:2015/03/10 22:25
http://flyteam.jp/airline/united-states-army/news/article/47435
BAEシステムズは、2015年3月2日、アメリカ国防総省から先進赤外線ミサイル対抗(ATIRCM : Advanced
Threat Infrared Countermeasures)システムの輸出承認を得たと発表しました。
ATIRCMシステムはヘリコプターなどに搭載され、BAEシステムズの共通ミサイル警報システム(CMWS : Common Missile Warning System)が発見した地対空ミサイルに、高エネルギーレーザーを照射して赤外線シーカーを破壊、ミサイルの誘導を不可能にします。
ATIRCMシステムは、アメリカ陸軍と共同開発され、2009年からイラクやアフガニスタンで実際にヘリコプターに搭載され使用されています。アメリカ陸軍最新の報告では、しばしば軍の要求を上回る信頼性を発揮しています。
ATIRCMシステムはヘリコプターなどに搭載され、BAEシステムズの共通ミサイル警報システム(CMWS : Common Missile Warning System)が発見した地対空ミサイルに、高エネルギーレーザーを照射して赤外線シーカーを破壊、ミサイルの誘導を不可能にします。
ATIRCMシステムは、アメリカ陸軍と共同開発され、2009年からイラクやアフガニスタンで実際にヘリコプターに搭載され使用されています。アメリカ陸軍最新の報告では、しばしば軍の要求を上回る信頼性を発揮しています。
【維新嵐こう思う】
アメリカ陸軍の人員削減の背景には、予算的な要素、陸軍組織の伝統的な側面の他に、最新の人手をかけない攻撃手法の活用という意味もあるように考えられます。
アメリカ陸軍の戦闘訓練
ジャングル戦・市街地戦・155mmりゅう弾砲など
米国は戦争を直視せよ 現実にそぐわぬ兵員
数削減
岡崎研究所
2015年12月03日(Thu) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5663
2015年10月28日付のウォールストリート・ジャーナルに、米ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン上席研究員が、「オバマの軍事政策:脅威が増える中、縮小」との論説を書き、米陸軍兵員数の削減を批判しています。
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すなわち、オバマ政権の地上軍に関する政策は「大規模で長期の安定化作戦」のための規模はいらない、と言うものである。「大規模で長期の安定化作戦」は反乱鎮圧、国家建設、大規模テロ作戦、大規模救援活動など、諸任務を含む。強制予算削減で軍事予算は減っているが、オバマの政策は他の軍種は削減せず、地上軍は減らすというものである。
イラク、アフガン戦争後、オバマ大統領が手の汚れる地上作戦を避けようとして、無人機、コマンド攻撃などの特殊作戦に頼ろうとするのはわかるが、長期的な兵力計画として大規模任務を実施する能力をなくすのは危険である。
この方針について心配すべき理由は多い。国防省は2013年の政府閉鎖危機の時、陸軍を38万にすることを考えた。これはレーガン時代の半分、ブッシュ大統領、オバマ政権初期より20万少なく、クリントン時代より10万少ない。にもかかわらず、海軍の前作戦部長ラフヘッドは30万以下の陸軍を主張している。これでは世界の10位以内にとどまるかどうかである。海兵隊18万を加えても、米地上軍は中国、北朝鮮、インドより小さい。
こういう「小さくて十分」思考は米国のロマンティックな過去の反映である。南北戦争まで米陸軍は1万5千人ほどで、南北戦争後、そのレベルに戻った。20世紀初頭、米陸軍は世界で20位に入るかどうかであった。第2次大戦後も、米国は急速に動員解除し、1950年の朝鮮戦争では北朝鮮軍と戦うのに苦労した。ベトナム戦争では米国は戦争の本質を忘れ、反乱鎮圧に戦車、大砲、B-52、ナパーム弾を過剰使用した。
ベトナム後、手の汚れる地上戦への反発と1990~91年の砂漠の嵐作戦での精密打撃技術重視が伝統的地上戦はもうないと考えさせた。その結果、イラク、アフガンで反乱鎮圧作戦では不意を突かれた。
国防費が減り、中国が台頭し、ハイテクのフロンティアが広がる中、サイバー作戦、ハイテク航空・海上作戦、ロボット、宇宙技術、特殊部隊に頼る誘惑がある。これらは重要だが、すべてをそれに賭けるのでは不十分だと歴史は示している。
米国は、大規模地上作戦を念頭に置いておくべきである。プーチンのバルト諸国侵攻、朝鮮での紛争、インド・パキスタン紛争やシリアでの和平執行など、色々なケースがある。
抑止が働けばいいが、そうでない場合もある。米国の参加が必要とされることがありうる。米陸軍は大きくなる必要はないが、これ以上削減されるべきではない。オバマ大統領が中東での泥沼を避けようとすることと、軍をありうる任務のために準備しておくことは別の事柄である。防衛計画立案に際し、古いボルシェビキの言ったこと「あなた方は戦争に興味はないかも知れない。しかし戦争が君たちに興味があるのだ」、を思い起こすべきである、と述べています。
出 典:Michael O’Hanlon‘Obama’s
Military Policy: Down-Size While Threats Rise’(Wall
Street Journal, October 28, 2015)
http://www.wsj.com/articles/obamas-military-policy-down-size-while-threats-rise-1446073142
http://www.wsj.com/articles/obamas-military-policy-down-size-while-threats-rise-1446073142
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今後も「大規模で長期の安定化作戦」実
施はあり得る
上記オハンロンの論説は、良い論説です。
オハンロンは、陸軍重視の考え方をしています。それで、この意見を海陸空軍間の主導権争いの一環と見る人もいるでしょうが、そう片付けるのは適当ではありません。「大規模で長期の安定化作戦」は今後しない、したがって陸軍の規模は縮小されるべしと言うオバマ政権の政策は、羹に懲りてなますを吹く類で、感心しません。
今後もかなりの兵員投入が必要となる事態は考えられます。今後の脅威の見通しについての判断と必要兵力の問題は慎重に検討すべきです。中東の泥沼に懲りて、もう「大規模な長期の安定化作戦」はしないから、そのための準備もしないで済むということにはなりません。
オハンロンがこの論説で引用しているボルシェビキの発言は、トロツキーがブレストリトフスクでのドイツとの講和交渉に行った後に言った言葉です。
戦争がどういうものになるか、戦争になるか否かはこちらの都合だけで決められるものではありません。もう大規模地上戦はないなどと決めても、相手がそれを仕掛けてくれば、対応せざるを得ません。宮沢元総理は良く「君たち、戦争だけはするな」と言っていましたが、戦争になるか否かは一方的に日本が決められるものではありません。戦争の態様もこちらが一方的に選択しうるものではないのです。
ただ今日、陸軍の戦闘能力は、兵員数よりも装備の質量に依存する面が大きいので、兵力数をさほど重視することはないとは言えます。米陸軍はいまでも中国、北朝鮮、インドより小さいなどのオハンロンの議論は適切ではないかもしれません。それでも一定の兵力数は維持しておくべきだと思います。
《維新嵐こう思う》
今や戦争は、兵士の数が勝敗を決する最大の要素ではないと思います。ご指摘のように「装備の質、量」に依存する側面が大きいことはありますが、それ以前に軍事力について質の高い情報収集と解析を元に、軍事以外の手段で無力化していくという要素が大きくなっているのではないでしょうか?
サイバー戦、インテリジェンス戦、広報戦、宣伝戦、思想・文化戦、攻撃対象国の政治制度を利用してステルスコントロールすることも戦いの要素になるでしょう。兵員養成には、時間と予算がかかるものです。平時はそこは最小限にしておき、あらゆる要素において周辺国の軍事力を含めた「国力」を相殺していくことも戦略であれば、効果的に戦えるのではないでしょうか。要は「隣国に大国を作らせない、脅威になる国を隣国に作らない」戦略ということですね。
【イベントに参加してアメリカ陸軍にふれてみて感じてみましょう!】
キャンプ座間「日米親善キャンプ座間桜まつり」を開催
配信日:2015/03/10 22:35
http://flyteam.jp/airline/united-states-army/news/article/47322
神奈川県の在日アメリカ陸軍キャンプ座間で2015年4月4日(土)、「日米親善キャンプ座間桜まつり」が開催されます。開催時間は10時30分から18時までです。
キャンプ座間にはUH-60Aが配備、運用されています。キャンプ座間桜まつりでは、人気のアメリカのフードブースをはじめ、子供ゲーム広場、音楽演奏、フリーマーケット、ボクシング試合などが予定されています。
なお、敷地から入門時には、身分証明書の提示が必要です。18歳以上の方は、運転免許証、パスポート、または顔写真付き住民基本台帳カードを持参する様に薦めています。
入場は徒歩のみで自転車、車などは入場できません。また、ゲートでは持ち物検査を実施し、入門に時間がかかる場合があるとしています。
※当初配信の内容で日付が誤っておりました。お読みになられたみなさまにお詫びすると共に修正致します。
《維新嵐コメント》リトルペンタゴンといわれるキャンプ座間は、アメリカ陸軍第一軍団の前方展開司令部のあるところです。イベント会社ではなく、アメリカ陸軍兵士が企画するイベントにふれて、話してみて彼ら彼女らへの理解を深めてみるのも大切なことでしょう。
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