インテリジェンスを理解できないトランプ
岡崎研究所
2017年6月16日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9827
ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、2017年5月16日付の同紙で、トランプと情報機関の確執を取り上げ、トランプ政権の綻びが始まっていると書いています。論説の要旨は、次の通りです。
情報機関のコミュニティーが有する脆弱な秘密のネットワークを瀬戸物屋、そしてトランプを情緒不安定で躾のなってない雄牛と見立てて欲しい。数カ月にわたり、我々はこの両者の破滅的な衝突を見せられて来た。
最も新しいスキャンダルは携帯パソコンに仕込んだ爆弾によるIS(イスラム国)の航空機上のテロの脅威に関する秘密情報をトランプが自慢気にラブロフ外相に漏らしたというものである。愚かで無謀な行動である。続いて、去る2017年2月、トランプがコミーFBI長官に対し、解任したばかりのフリン補佐官に対する捜査を止めるよう要請したことが明らかになった。
これはホラー映画である。マクマスター補佐官は、大統領の行動は「全く問題ない」と述べてトランプの弁護に悪戦苦闘した。もし、問題がないなら、どうしてボサート補佐官がCIAとNSAの長官に電話してトランプがラブロフらに喋ったことを警告せねばならなかったのか。大統領には発言要領が必要で、トランプのような経験がなく衝動的な人間が即席でやろうとすると混乱にはまる。Lawfareという公正なサイトは、トランプは「大統領職を誠実に執行する」という宣誓に違反したのではないかという問題を提起している。これはトランプが弾劾されるべきかどうかを上品に問うたものに他ならない。
トランプに対する信頼性は綻びつつある。彼は情報機関と法執行機関の職員をいじめると思えばおだてようとした。ロシアの選挙介入疑惑をでっち上げだといった。情報機関の職員をナチになぞらえたこともある。CIAを訪問した時は彼等を英雄だといった。FBI長官には忠誠を要求し、拒否されると解任した。
大統領は誰しも有害な情報漏えいや情報関係の問題に遭遇する。カーターの時にはヨルダンのフセイン国王がCIAにカネを貰っているという話が出た。ブッシュの時には「9.11」およびイラクの大量破壊兵器の評価に係わる最悪のインテリジェンスの失敗に遭遇した。オバマの時にはアラビア半島のアルカイダに対する英国とサウジの秘密工作に係る報道の扱いで不手際を演じた。
しかし、トランプの場合の違いは、トランプは、情報機関が味方なのか敵なのかについて確信が持てないように見えることである。トランプは彼の正統性に対する挑戦だと思うとCIAとFBIの長官を攻撃する。ところが、ラブロフらに対しては凄いインテリジェンスを持っているだろうと自慢する。情報機関との愛憎関係は変わる必要がある。それは政府の品位を貶めるばかりでなく、自己破壊的である。インテリジェンスの関係は信頼の上に成立する。大統領の成功もまた信頼の上に成立する。雄牛は瀬戸物屋から出て行く必要がある。
出典:David Ignatius ‘Trump's presidency is beginning to unravel’
(Washington Post, May 16, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-presidency-is-beginning-to-unravel/2017/05/16/e27aa366-3a7a-11e7-8854-21f359183e8c_story.html
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-presidency-is-beginning-to-unravel/2017/05/16/e27aa366-3a7a-11e7-8854-21f359183e8c_story.html
「a bull in a china shop」という言葉がありますが、瀬戸物屋に雄牛が闖入し、暴れ回っては迷惑だという意味です。イグネイシャスは、トランプという雄牛には出て行ってもらう必要があると述べています。トランプには大統領を退いてもらう必要があるといっているのかも知れません。
いつまでこの政権に我慢するつもりか
米国民は何時までこの政権に我慢するつもりかが問われる状況になりつつあるように見えます。ニューヨーク・タイムズ紙のトム・フリードマンは、ウォーターゲートの時のように、トランプの権力濫用に立ち向かう共和党議員はいるかと問い、答えはNOだと匙を投げ、2018年の議会選挙で民主党ないし無所属が共和党多数をひっくり返すしかないと書いています。マクマスターは大統領を擁護しようとして長い年月をかけて得た彼の名誉を台無しにしたなどと書いて、遅くならないうちにトランプの周りの人間は逃げ出した方が良いと早々と書く向きがあります。大統領の最小限のブレーキ装置がはずれることは、それはそれで迷惑なことではあります。
文芸春秋の3月号に脳科学者の中野信子という人がトランプについて書いています。中野氏によれば、トランプは脳科学者にとって興味深い研究対象であるそうですが、彼は「サイコパス」だといいます。「サイコパス(織田信長が日本人の典型例だという)」の最大の特徴は、冷酷な合理性にありますが、弱みもあって、飽きて投げ出す傾向があるといいます。中野氏は「サイコパスには飽きっぽい人が多く、長期的な人間関係を築くことができません。また、利害のみが物事の判断基準となっているため、大統領職が『自分の価値を発揮できない』、『メリットがない』と判断すれば躊躇なく辞任するでしょう」と書いています。そういうことがあるのかも知れません。
《維新嵐》中野氏のご指摘は、まさにドナルド・トランプ氏のことをいっているように聞こえてきますよ。
他国の大統領選挙に「干渉」できるハッキング。もはやサイバーインテリジェンスは、「攻撃兵器」です。
【アメリカ・トランプ政権とは?】トランプ政権を牛耳る「対日強硬派」の正体
HARBOR BUSSINESS ONLINE 平成29年6月17日
◆ロスチャイル系のハゲタカと、日米貿易戦争で戦った男を任命
選挙中から物議をかもしてきたトランプ大統領の誕生に際し、各国首脳が言葉を慎重に選ぶなか、安倍首相は「これこそ民主主義のダイナミズム」と手放しで祝辞を送った。その後の日米首脳会談でも、安倍首相はトランプとゴルフを1.5ラウンドも楽しみ、仲の良さをアピールした。
しかしこうした現在の蜜月ムードは、長くは続かないかもしれない。
「トランプは対日外交、こと通商政策においては強硬路線を打ち出してくる可能性が高い」
米経済誌『フォーブス』元アジア太平洋支局長で作家のベンジャミン・フルフォード氏はそう指摘する。トランプ政権の閣僚人事に、隠された“牙”が見え隠れするという。
「その1人が、ウィルバー・ロス商務省長官。商務省は、経済成長と技術競争力、持続的発展を促進させるためのインフラの整備を担当するとともに、海外のアメリカ大使館に出先機関を置き、経済界と極めて密接な部署。そんな商務省のトップに就任したロスは、ロスチャイルド系企業の企業再建部門に在籍していた頃、’99 年に破綻した幸福銀行の再建にも携わった過去がある。また、これが縁で1907年に設立された歴史ある日米交流団体『ジャパン・ソサエティー』の会長も務めた『知日派』とされているが、決して親日というわけではない。対日貿易赤字の削減を訴える彼は就任早々、日本から輸出された鉄筋が不当廉売に当たると認定。206.43%から209.46%の反ダンピング関税を課すことを決定している」
さらにロスには“裏の顔”もある。
「24年間務めたロスチャイルド系企業を退社した彼は、自身の投資会社を設立しているが、これが典型的なハゲタカ・ファンド。例えば’08年のサブプライム危機の際には、ヘッジファンドから多くの資産や債権を次々に買い叩き、その後、市場が平穏を取り戻すとすぐに売却して大儲けしている。こうしたハゲタカ的手法で、日本を食い物にする気でいるはず」
ちなみにロスが長官就任前に開示した彼の個人資産は380億円に達している。
そしてもう一人の“牙”としてフルフォード氏が名指しするのが、米国通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザーだ。
「USTRといえば’80~’90年代から『日米貿易摩擦』という名の経済戦争で、アメリカの利益代表機関としてタフ・ネゴシエーターを演じたことで記憶している方も多いはず。そのトップであるライトハイザーこそ、この時代、レーガン政権下でUSTR次席代表を務め、日本製品に対する輸入抑制を主導して日本側に鉄鋼の輸出自主規制を飲ませた張本人。そんな彼を再びUSTRに、しかもその代表として復帰させたトランプの念頭にあるのはこれから始まる日本や中国をはじめ、各国と始まる「二国間交渉」にほかならない。そんなトランプの意向の下、彼が就任直後に議会に提出した『2017通商政策課題』には、アメリカの貿易主権を擁護し、二国間交渉を進めていくと明記されている。これは過去20年間にわたるアメリカの通商政策を全否定し、新たにアメリカ中心の貿易体制を構築するというもの。そのうえで、『農業分野の市場拡大は、 日本が第一の標的』と名指しして宣言しているのです」
こうしたなか、アメリカによる日本の“属国化”が強化されるという。
「クリントン政権下では、USTRによる交渉で当時の宮澤喜一内閣に規制緩和の実行を飲ませた。以降、これに基づく『年次改革要望書』という、アメリカから日本への事実上の命令書を民主党に政権交代する’08 年まで毎年出してきた。この命令によって日本では、独占禁止法の解禁や郵政民営化、人材派遣の自由化など“構造改悪”が行われた。また、日本人が長年蓄えてきた資産の多くも吸い上げられることとなった。この年次改革要望書が、トランプ政権下で復活させようとする動きもある」
日本はいよいよ、これまでのアメリカ追従を見直すべきときに来ているのではなかろうか?
◆トランプ政権を牛耳るゴールドマン・サックス
暴利を貪るウォール街を批判することで白人労働者の支持を獲得して当選したトランプだが、彼が布陣した政権はゴールドマン・サックス(GS)の“傀儡”と揶揄されるほど、GS出身者が多い。
代表格が、財務長官のスティーブン・ムニューシンだ。彼はGSで上級役員にまで上り詰め、在籍17年間で総額50億円の報酬を得ている。
また、経済担当補佐官・国家経済会議委員長のゲイリー・コーンは、政権入りする前までGSの社長兼共同COOの座にあった。同社を離れるにあたり彼に支払われた退職金は1兆円以上といわれている。さらに、首席戦略官・大統領上級顧問のスティーブン・バノンや、SEC委員長ジェイ・クレイトンもGS出身だ。
また“乗っ取り屋”として名高いカール・アイカーン(規制改革特別顧問)などもおり、トランプ政権の経済・金融面での政策が「富裕層に有利」になることは間違いなさそうだ。
《維新嵐》経済政策の方面では、情報戦の素養がある面々ばかりで、トランプ自身もビジネスマンとして情報には通じているはずですがね。国家的なインテリジェンスはまた経済とは別ということですか。
【共産中国の情報戦・国外編】
リスク回避からリスク許容へ
サイバー空間において積極的に動く中国
2015年8月10日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5231
米ジェームスタウン財団のマティス研究員が、National
Interest誌ウェブサイトに2015年7月6日付で掲載された論説にて、最近の中国のサイバー攻撃等の活発化について解説し、中国はインテリジェンス政策において、リスク回避からリスク許容へと態度を変えた、と論じています。
すなわち、2000年代のどこかの時点で、中国はインテリジェンス政策において、リスク回避からリスク許容へと態度を変え、特にサイバー空間において、より積極的に活動するようになった。
中国の方向転換は、二つの意味で注目すべきである。一つは、中国の表面的な協調姿勢にもかかわらず、インテリジェンス活動の積極化は、中国が対立と競争を想定している点である。二つ目は、中国ウォッチャーの多くが、中国のサイバー空間での活動と国家のインテリジェンスおよび安全保障部門の動きとを結びつけて来なかった点にある。
1985年、中国情報部門の職員が米国に亡命した事件を契機として、鄧小平は外交部の主張を容れ、改革開放政策に悪影響が及ぶとの理由で、海外でのインテリジェンス活動に制限を加えた。だが2010年に、スウェーデンにおいて中国の諜報活動が発覚した。おそらくその前に、中国は対外インテリジェンス活動の制限を撤廃したように見受けられる。近年に至り、アメリカなどの政府関係ネットワークへの侵入事件と中国の関連が頻繁に指摘されている。
中国がインテリジェンス活動に関するリスク計算を変更した理由として、以下の数点の要因の組み合わせが考えられる。一つ目が、必要性の増大だ。急速に拡大する海外権益を保護するために、インテリジェンス能力の向上は急務である。二点目に、官僚組織の力関係の変化がある。
1980年代、インテリジェンスを司る国家安全部と軍内の関連部門は外交政策において大きな影響力を持っておらず、「中央外事工作領導小組」にも参加していなかった。しかし、近年、中国の対外政策の決定プロセスは多元化し、外交部の影響力は相対的に低下し、国家安全部の影響力は増大している。
三点目に、過去に海外活動のリスクを過大評価していたとの中国の判断もあろう。それと関連して、四点目に、中国の経済的重要性の急増もあり、中国の脆弱性は低下したと判断されている。中国の指導者は、海外でのインテリジェンス活動が中国の平和発展に影響を与えるとはもはや考えていないように見受けられる、と指摘しています。
出典:Peter Mattis,‘The New Normal: China's Risky Intelligence Operations’(National Interest, July 6, 2015)
http://nationalinterest.org/feature/the-new-normal-chinas-risky-intelligence-operations-13260
http://nationalinterest.org/feature/the-new-normal-chinas-risky-intelligence-operations-13260
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中国のいわゆるスパイ活動は、主に中国系の人脈を通して行われて来ました(例えばD.ワイズ『中国スパイ秘録:米中情報戦の真実』参照)。旧ソ連と比べてもかなり立ち遅れていました。最近のサイバー空間での活動の活発化は、その遅れを、ハイテクを駆使した手法により挽回しようとするものなのでしょう。実際に諜報要員を海外に展開するよりは手間も省けますし、一見、安全です。
インテリジェンス活動の活発化は、中国の対外姿勢に関する大きな質的変化の最中の動きであり、中国の対外強硬姿勢の顕在化と軌を一にしています。鄧小平の重しが取れたということであり、資金も豊かになり、国家安全部及び軍情報部門の活動はさらに活発になることを覚悟しておくべきでしょう。
しかし、中国にとり安全な職務達成手法であったはずのサイバー攻撃が、目下、米国をはじめ世界の強い反応を引き起こしています。米側は、そのために必要な措置は取り始めているはずであり、ここでも中国は「作用・反作用の連鎖」に入り込んだと言えるでしょう。
中国の諜報分野での活動の度合いが、中国の自国に対する敵対度を測るメルクマールとなります。これは、まさに軍事安全保障の世界の話です。つまり、実際の行動がすべてであり、世界はそれにより相手の意図を判断します。外交と違い「玉虫色の解決」はありません。南シナ海や東シナ海の問題と同様に、習近平の新外交路線は、厳しい試練に直面しています。9月の訪米までにどう調整するのでしょうか。それによって中国の対外姿勢の見定めがつくと思われます。
【共産中国の情報戦・国内編】
「インターネット安全法」が映し出す、中国の情報統制強化
大西康雄 (日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・上席主任調査研究員)
2017年6月19日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9869
中国では、わが国では考えられないほど国家により個人情報が管理されているが、2017年6月1日施行の「インターネット安全法」は、これをさらに一歩進めようとするものだ。もともと、個人の経歴は中国共産党や公安警察が所管する「档案(とうあん)」(以下、個人情報書類)に記され、当人の移住・転職ごとに移転先の党・機関(以下、国家)に送られる体制である。
外国人もその対象であり、ひとたび中国に長期滞在すれば、自分の個人情報書類が作成されていると覚悟する必要がある。その一方で、外国のインターネットサービスであるグーグル、フェイスブック等は基本的に利用できないなど情報鎖国状態にある。
こうした現状を踏まえて今次法律を見ると、第一に注目されるのは、インターネット上の個人情報や、ビジネス活動を通じて企業が得た個人情報の国家管理を明文化したことだ。
「総則」部分で、「いかなる個人や組織も情報ネットワークを使って、国家の安全や栄誉、利益に危害を与えること、政権や社会主義制度の転覆を扇動すること、国家分裂や国家統一の毀損(きそん)を教唆すること、テロリズムや過激主義を流布すること、民族への憎悪や差別をあおること、暴力やわいせつな情報を流布すること、デマを流して経済や社会の秩序を混乱させること(中略)などを行ってはならない」としていることは国家が何を恐れているのかを示している。
第二は、広範な義務規定を設けるとともに、官民共同でネットを管理するとしていることだ。
具体的には、①ネット運営者に利用者個人情報の登録義務付け、②ネット業者に国家への協力(情報提供等)を義務付け、③国内で収集した重要データを国内で保存することを義務付け、④ネット運営者に違法情報を削除できる権限を付与したほか、⑤「社会安全にかかわる突発的事件の場合は」ネットを遮断できるとしている。
第三は、ネットワーク関連サービスへの参入障壁が高く、罰則が重いことだ。
①企業が情報ネットワーク製品・サービスを提供する際は国家の審査・許可を必要とするほか、②各種ネットワークサービスに登録・加入する際に「実名登録」を求め、③公安・国家安全機関が安全維持活動、犯罪捜査を行う際に協力を義務付けている。
違反すると、重要インフラ運営者の場合は10~100万元(170~1700万円)の罰金を課すほか、業務の一時停止を命じることができるとしている。
( 写真・XtockImages/iStock/Thinkstock)
外国企業にとって問題なのは、抽象的で不明確な規定が多いことだ。現地外国企業からは法の運用を懸念する声が上がっている。
また、個人情報については、「ネット決済を通じて既に国家に把握されている」(現地邦人ジャーナリスト)のも事実であろうが、それを使って国家が個人レベルにまで統制力を及ぼそうとしていることは、現政権の志向を示すものとして注意しておくべきであろう。
《維新嵐》中国大陸へ旅行するときは、どこで個人の情報をとられているか、どう活用されているか、わかったものではありませんな。
佐藤優のインテリジェンス入門「ハニートラップ」
世界最悪の中国サイバーセキュリティ法
岡崎研究所
2017年6月30日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9958
中国サイバーセキュリティ法が狙うネット主権
英フィナンシャル・タイムズ紙が、2017年6月2日付け社説で、中国のサイバーセキュリティ法は、個人の言論と思想を統制し、外国企業にとっての非関税障壁となるばかりでなく、中国企業の競争力を阻害し中国の経済的利益にも反する、と批判しています。社説の要旨は次の通りです。
中国は常に、世界で最悪のインターネットの自由の侵害者である。2017年6月1日、施行されたサイバーセキュリティ法は、明らかに、市民の言論と思想の統制を強化することを目的としている。同法は、グローバル企業の中国での操業に障害となり、中国企業が世界で競争する能力も阻害することになろう。
同法は、共産党が国家の名誉を害したり、経済的・社会的秩序を乱したり、社会主義体制の転覆に寄与すると看做す、ネット上の如何なる情報も犯罪であると明記している。表向きは中国のインターネットユーザーのプライバシー保護が目的だが、実際は、インターネットにログオンする全ての個人を国家が監視する権限を強化し、中国で操業する全ての企業に監視の共謀を強いるものである。
同法の対象は、曖昧・広範囲であり、共産党の見解に反する情報を発信した者は殆ど誰でも起訴し得る。そうした情報を自分のサーバーに保管する企業も対象である。
同法は、中国で操業するグローバル企業にとり非関税障壁としても働く。中国で集めた全ての情報を中国のサーバーに保管するよう企業に求めることにより、政府は国内企業を有利にしている。中国における広範な知的所有権侵害(その多くは政府が支援している)を考えると、ソースコードを中国政府に渡すべしとの企業への要請は、効果的に彼らを市場から締め出すことになる。
今日、Alibaba、Tencent、Baiduといった中国のテクノロジー企業は、中国国内で巨人となっているが、世界的にはまだ「小人」である。グローバルな競争相手が世界で最も厳しい検閲により遠ざけられてきたため、彼らは中国で繁栄できたのである。
少なくとも、検閲はイノベーションを阻害し、中国のテクノロジー企業のグローバルな競争力を損なう。この法は、中国のテクノロジー産業の閉鎖性を悪化させ、国内企業の競争力を弱める。この法律で影響を受けるグローバル企業は、中国の立法者に、同法が間違っているばかりでなく中国の経済的利益に反すると一致協力して納得させるべきである。
出典:‘China’s
cyber security law and its chilling effects’(Financial
Times, June 2, 2017)
https://www.ft.com/content/60913b9e-46b9-11e7-8519-9f94ee97d996
https://www.ft.com/content/60913b9e-46b9-11e7-8519-9f94ee97d996
中国は「サイバー安全保障法」を施行しました。その内容はインターネット上の情報統制法というべきものです。社会の安定、社会主義体制に悪影響を及ぼすインターネット上の情報拡散を処罰しようとしています。
我々自由民主主義国とは全く異質の政権
中国は、自由な情報の流通により社会主義体制、要するに共産党の支配が揺るがされかねないと危惧しています。これがこういう法を施行する背景でしょう。国民に隠し事をしなければならない、要するに情報の自由、言論の自由を抑圧しなければならない政権には、正統性はありません。中国の政権は自由な情報流通に対し脆弱性を持つこと、我々自由民主主義国とは全く異質の政権であることを、もう一度想い起すべきでしょう。
インターネットの普及によって、国民の情報アクセスが改善され、専制主義の国の民主化に資すると言う論があります。しかし、インターネットもサイバー空間も要するに道具であって、良い目的にも悪い目的にも使えます。独裁国や権威主義政権はこれをうまく使っています。サイバー攻撃、サイバー・エスピオナージ、産業スパイ活動などに、この新しい情報技術が使われています。
同時に、独裁国、権威主義の国はインターネットの情報拡散機能を統制するために苦労もしています。トルコも中国もそうです。
全体として社会がこれでどう変わるかは興味深い問題ですが、まだよく分かりません。
この社説は、今回の法が海外のテクノロジー企業の中国における活動を阻害することに懸念を表明しています。ソースコード(色々なプログラム作成の元になる機械言語ではなく、人間が判る言語で書かれたもの)を中国で活動する会社は中国政府に開示すべしとの要請がこの法にあると言いますが、例えばマイクロソフト社は、ソースコードは開示していません。したがって、今後、中国での活動がどうなるのか、よく分かりません。
今回の法は非関税障壁ではないか、自国企業優先策ではないかという議論はあり得ます。これはWTOで争うべき問題でしょう。ソースコードを開示している会社もあり、こういう会社にとっては今回の法の影響は小さいかもしれませんが、これらの会社が中国の言論統制に加担するのはあまり感心できません。中国企業が競争にさらされず弱体化するなど、経済的コストが中国側に生じることを理由に西側がこの法の問題点を一致して指摘することを社説は推奨しています。しかし、共産党支配体制維持のために必要ということであれば、中国側がそういう議論に耳を傾ける可能性はほぼゼロです。対抗措置をとるか、その内容をどうするか、を考える方が良いでしょう。
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