2017年6月20日火曜日

「接続性」の地政学の必要性

なぜ「接続性」の地政学が重要なのか?

中西 享 (経済ジャーナリスト)
「地図に描かれている国境線はあまり意味がなくなり、輸送、エネルギー、通信のインフラネットワークがこれからの世界秩序を考えるキーワードになる」
 インド出身のパラグ・カンナ・シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員は日本記者クラブで講演、「従来の国境線を土台にした地政学は再考すべきで、複雑化する世界情勢を理解するためには『接続性』(Connectography)をベースにした新しい解釈が必要になり、インフラによる都市間の『接続性』が新しい国際秩序を作る」と指摘した。

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間違った地図
 人類は6万年の歴史で、輸送、エネルギー、通信の3分野のインフラを構築してきた。特に冷戦終了後の25年間に、インフラの「接続性」の量が拡大し、あらゆる国境を圧倒するボリュームになっている。このため、これまでは自然環境を表した地図、政治状況を示した地図だったが、これからはインフラの機能を示した地図が最も重要になる。
 しかし、この機能を表した地図はオフィスや学校の教室には掲げられていない。このことが今世紀、大きな心理的、メンタル面で大きな間違いを生んでいると言いたい。私はこの誤った世界の見方を変えたい、革命を起こしたいと思う。最近は世界の動きを「接続性」でとらえようとする機運が出てきている。
 島国である日本にとって「接続性」は重要な意味がある。これからの「パワー」は、日本がその他の社会とどの程度「接続性」を持つかを地図の上に表し、定量化することが必要になる。
国境を超えたメガシティ
 国境を超えた「接続性」がいかに重要かという事例を2つ挙げる。一つは、マレーシア、シンガポール、インドネシアの3か国で、もう一つは中国南部の広州から香港までの珠江デルタ地帯だ。2つの共通点は、インフラが国境を再定義し、2から3の当事者がインフラを通して経済統合で合意したことだ。マレーシアの中で最も急成長しているのがシンガポールに近い南部地域で、インドネシアと一緒に経済特区などができ、電機、造船、繊維、不動産などが伸びている。珠江デルタ地帯には、英国が香港を中国に返還された1977年以降、中国が相当程度の投資を行った結果、この地域はいまでは東京を上回るほどの世界で最大規模のメガシティになっている。予測では、珠江デルタ地帯は20年か25年までには経済規模は25兆㌦になり、インドより大きな規模になる。
 世界の中では、4050の都市が最も重要になり、「都市列島」ができてきている。世界の人口は頭打ちになりつつあり、100億人を超えることはないだろう。この中で、人口は大きな都市に集中するようになる。日本の企業がインフラに技術を輸出する場合は、こうした都市に向けられるべきだ。
「接続性」強化が重要
 パラグ・カンナ インド出身の新進の研究者。1977年生まれ。米国ジョージタウン大学で博士号を取得。ブルッキング研究所などを経て、現在はCNNグローバル・コントリビューター、シンガポール国立大学公共政策大学院上級研究員。今年1月に原書房から『接続性の地政学「『接続性』の地政学 グローバリズムの先にある世界」』(上下2巻)を刊行した。

 チリで20173月に行われたTPP(環太平洋連携協定)加盟国の会合には、TPPを提唱した米国は来なかったが、中国が参加した。貿易関係は地政学的には歴史に基づいたものだが、いまでは変化してきている。かつては国境をめぐる戦争が起きていたが、いまや「接続性」、マーケットアクセスをめぐる戦いが起きている。中国はいまや世界の120か国の最大の貿易相手国になりつつある。パキスタンや東アフリカの国が重要な貿易相手国になり、同盟関係を強め軍事関係を強めてもサプライズではない。
 グローバリゼーションは弱まることはなく、今後、強まるだろう。
 20世紀は欧州と米国の関係が大きかったが、21世紀になってからは欧州とアジアの関係が欧米の関係を凌駕してきている。欧州と中国、インド、日本、東南アジアの貿易量は年間15兆ドルにもなっている。欧州とアジアとの関係ではインフラ整備ができておらず、だからこそ、中国の習近平国家主席が広域経済圏構想「一帯一路」を打ち出した。3週間前に北京で開催された「一帯一路」サミットは、地政学的にも大きな意味がある。ユーラシア大陸にある国は、これにより戦略的目的、野心が変わってくる。
 「一帯一路」構想のプロジェクトは実現には収益性などで懸念があるが、最終的には実現されるだろう。日本がアジア諸国に影響力を行使したいのであれば、相手国との間の「接続性」を強めなければ影響力を行使できない。
新たなグローバルシステム
 東南アジアのインフラをめぐって世界的に競争になっているが、最終的には力の源泉は軍事力ではなく、エンジニアリングの力による。欧州には世界のトップ25のエンジニアリング・建設会社があるが、米国には3つしかない。このため、欧州はアジアのインフラ整備に力を入れようとしている。
 地政学の土台は、領土を支配する大きさに規定されていたが、新しい考え方を取り入れなければならない。今の時代の「力」は、「接続性」の密度と価値で測るべきだ。イデオロギーや歴史、文化のつながりではなくサプライチェーンに関する相互補完性で考えなければならない。
 米国と欧州は西欧文明による文化を共有しているが、いまや欧州はアジアとの「接続性」を強めようとしており、根本的に欧州の戦略は変わってきている。このように「接続性」をめぐる競争は、新たなグローバルシステムを誕生させて、いまよりも良いものになる。「接続性」が強じんになれば、多様なオプションが生まれる。
 その最たる事例が石油だ。イラン、イラクなど中東で不安定リスクはあるが、石油価格は安くなっている。その理由は、石油需給を調整させる道筋があるからだ。昨年は米国の石油の最大の消費国が中国だった。5年前には中東の石油を巡って戦争がおきるかもしれないとささやかれていたが、いまや両国は石油の売買をしている。「接続性」には矛盾がある。場合によっては戦うこともあるが、米中のように長期的には石油価格を安定化させる面もある。
中国の情報量の伸びは相乗的
 中国ではフェースブック(FB)、イーベイ、アマゾンなど欧米の製品を使いたい意欲をそぐことができるが、国内ではこれらが使えなくても、これよりもっとベターなアリババ、ウィーチャットが通信手段として使われている。覚えておいてほしいのは、情報のオープン度合い、開放度合いは、ニューヨークタイムズやFBを読んでいる人の数だけでは測れないことだ。データの流れを調べるには、どの程度の情報交換がさまざまなサービスを通じて行われているかを調べなければならない。世界と中国をつなぐ情報の「接続性」は、FBがあるなしにかかわらず、相乗的に伸びている。

《維新嵐》地政学上の対立構造があった感があったTPPとAIIBでしたが、アメリカがトランプ政権になってからTPPから抜けて以降は、様相が変化してきましたな。
国際政治は、一寸先は闇、どうなるかわからないものです。昨日の敵は今日の友となるものですな。
学校では教えてくれない地政学



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