無秩序化する世界
国際システムの破損を許すな
岡崎研究所 2016年08月26日(Fri) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7507
フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのフィリップ・スティーブンスが、2016年7月21日付同紙に掲載された論説で、世界が無秩序化していることに警鐘を鳴らしています。論旨、次の通り
垣間見える国際システムの破損
トランプが共和党の大統領候補に指名され、エルドアンはクーデター失敗を受け、権威主義的統治を強め、仏では大きなテロがあった。これに加え、西側に打撃を与えた英国のEU離脱、南シナ海での中国の仲裁裁判判断拒否があった。これらの事柄は一見無関係である。トランプは「九段線」のことを知らないだろうし、ボリス・ジョンソンはトルコの民主主義よりトルコ移民締め出しに関心がある。ニースのテロはイスラム国の宣伝によりも犯人の精神状態による。
しかしもっとよく見ると、不快なパターンが出てくる。ナショナリズムの台頭、アイデンティティ政治、規範に基づく国際システムの破損が見られる。まだホッブス的世界(注:すべての人がすべての人と闘争する世界)とは言えないが、行きつく先は明らかである。
欧州の右と左のポピュリズムは、経済困難と中東・アフリカの難民流入の恐怖で強くなっている。フランスの国民戦線、イタリアの5つ星運動、スペインのポデモス、ドイツの「ドイツのための選択」が台頭している。戦後続いてきた中道右派と中道左派間の政権交代はひっくり返されている。
トランプ指名と英のEU離脱は次元が違う。トランプは共和党を掌握し、世論調査によると、外国人嫌い、孤立主義、経済的ポピュリズム、反エリート主義に基づく彼の綱領を、米国人の5分の2の人が支持している。英には欧州懐疑派はいつもいたが、離脱投票はより広い不満による。ブリュッセルはグローバリゼーション、移民、経済困難の元凶とされた。
トランプはメキシコ移民何百万を追放し、イスラム教徒の入国の禁止を主張している。英の強硬な離脱派は、英国海峡に壁を作ると約束し、EUに残留すれば国民保健サービスは何百万のトルコ人に開放されると誤った主張をした。
ポピュリストは愛国心を民族主義で置き換え、エリートと結託した専門家や伝統的制度を軽蔑し、大企業、銀行、グローバリゼーションは白人労働者階級の敵であるとしている。この路線をもう少し行けば、1930年代の「ユダヤ陰謀」説に行きつくだろう。
ポピュリストは愛国心を民族主義で置き換え、エリートと結託した専門家や伝統的制度を軽蔑し、大企業、銀行、グローバリゼーションは白人労働者階級の敵であるとしている。この路線をもう少し行けば、1930年代の「ユダヤ陰謀」説に行きつくだろう。
有権者を責めるわけにはいかない。彼らは正当な不満を持つ。リベラル資本主義は豊かな人を優遇した。平均所得は停滞した。政治は自己満足に陥った。しかしポピュリストの処方箋は明らかにインチキである。トランプ大統領も、英のEU離脱も、米英を貧しくする。
問題は他の地域にも起こっている。エルドアンはかつて、欧州をトルコの将来と見ていたが、失敗したクーデターを神の贈り物と称し、専制的支配強化に乗り出している。彼は市場経済より国家資本主義を選好している。プーチンとの関係修復もしている。中東・マグレブで国家は崩壊しており、世俗的民族主義は宗教過激主義にとってかわられている。
ゼロサム民族主義は西側ポピュリズムの専売ではない。中国はその海洋主張を拒否した仲裁判断を拒否し、世論は主権からの譲歩を許さないと述べた。中国はその台頭前に書かれた国際法に縛られないとのメッセージを送っていると言う人もいる。
最近、西側のある外交官が中国の拒否は戦後秩序への反抗であると述べた。その後、共和党大会での演説を聞いた。そこでは国際法尊重は言われなかった。どちらかがどちらかを正当化することはない。しかし一緒にして考えると、これらは我々がどこに向かっているのかについて警告をしている。
出典:Philip Stephens,‘Global disorder: from Donald Trump to the South China Sea’(Financial Times, July 21, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/7146f3b6-4e6c-11e6-88c5-db83e98a590a.html#axzz4F0yXOZ5r
http://www.ft.com/cms/s/0/7146f3b6-4e6c-11e6-88c5-db83e98a590a.html#axzz4F0yXOZ5r
この論説は問題提起としては良いですし、論者の危機意識もよく理解できます。しかし、世界の諸地域で起こっていることを、ポピュリズム、民衆の怒りで説明しようとすることには無理があります。世界全体を理解できるキーワードがあれば便利でしょうが、そういうものは見つけられないと思います。それを見つけようとするよりも、地域、分野の特定の問題を深く分析し、それをベースに適切な処方箋を書いていくのが適切でしょう。
国際秩序を守らせるべく覚悟を決める
国際法秩序の順守の問題については、ウクライナ問題、南シナ海問題など、あからさまな侵害に対する反応が弱すぎる傾向があります。現在の国際秩序を守るのが良いとする勢力が、もっと腹を決めてきちんと対応するべきでしょう。今なお世界の最強国である米国は、「世界の警察官にはあらず」と強調するのではなく、秩序維持のためには相応の対応をする意思を示すべきでしょう。現状に鑑みると、オバマ政権は、何を強調すべきかの判断が悪いように思われます。
ナショナリズムは「国民国家」からなる国際社会では常に存在し、それを批判してみても始まらないことです。ナショナリズムの健全化を課題とすべきです。同時に、グローバリゼーションは経済面での現実であり、経済相互依存の象徴とも言えるサプライ・チェーンの存在なしには世界経済は成立しえませんし、この状況に適応しないでは、各国経済の繁栄もないでしょう。ナショナリズムとグローバリゼーションは、両者間のヒッチはありますが、共存関係にあるしかないでしょう。
この論説の筆者スティーブンスは、「ユダヤの陰謀説」のようなものに行きつく危険への警告もしています。「何々をした」ということではなく、「何々である」ということで他人を差別したり罰したりする思想がファシズムの特徴であり、人間を不幸にする悪であると思います。政治的主張の中に潜むそういう病弊に気を付けていくことが、ナチスやファシズムの再来を防ぐためには大切なのではないでしょうか。
【既存の国際秩序を壊し、中華思想の下に新たな国際秩序をめざす共産中国の戦略にどう対抗していくのか?】
ハーグ判決が高めたアジアの戦争危機
岡崎研究所
2016年08月25日(Thu)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7505
米国のシンクタンクAEIのマイケル・オースリンが、2016年7月20日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙で、南シナ海問題に関する国際仲裁裁判所の判決を契機に、関係国が相互に強硬な対応に出て、アジア情勢の緊張が高まり戦争の危険もあると述べています。オースリンの論旨は、次の通りです。
iStock
日本の満州事変を想起させる
1933年、日本は満州問題で国際連盟を脱退した。その後、日本は西洋列強と対決し、太平洋戦争につながった。同じことが中国との間で起きるのか。ハーグの仲裁裁判の判断への中国の反応は日本の国際連盟の脱退を想起させる。
2013年、フィリピンが南シナ海問題で訴訟を提起した際、中国は国際仲裁裁判所の管轄権を否定した。これは誤りであった。中国は、国連海洋法条約に従い、土地の所有権に関する訴訟を拒否しうるが、今回の訴訟は海洋権益に関するものであった。判決は、中国が当事者である国連海洋法条約により拘束力がある。
中国はずっと南シナ海での所有物は「島」であり、排他的経済水域、建設などの権利も持つと言ってきた。しかし、裁判所は「岩」または「低潮高地」であるとした。また、裁判所は、中国が主張していた「九段線」内の資源に対する歴史的権利を否定した。判決は法的問題をはっきりさせたが、地政的競争を解決することにはならない。北京は判決を無視するとし、国際社会に反対する姿勢をとっている。中国は、協力ではなく、隣人に脅威を与える政策を強化しかねない。
国際法秩序の正統性が、中国により試練を受けている。北京は「南シナ海での領土主権と海洋権益は影響されない」と言っている。中国はこれからも隣国の漁船にいやがらせをするだろう。さらに北京は南シナ海での建設を決してやめないと言っている。スカボロー岩礁に軍事基地を作るとの決定をしかねない。法を後ろ盾に、中国の隣国はもっと力強く中国を押し返すだろう。海洋での衝突の可能性は劇的に増加する。中国も譲歩していないことを示すために自己主張を強めるだろう。米国は、地域の同盟国・パートナーを支持するように、航行の自由作戦を強化し漁船への嫌がらせを阻止するように、との要求に直面する。
ハーグ判決はアジアの海洋の支配のための闘争を解決しなかった。代わりにそれを悪化させ、戦争の危険を増大させた。
出典:Michael Auslin ‘China Takes Asia Back to the 1930s’ (Wall
Street Journal, July 20, 2016)
http://www.wsj.com/articles/china-takes-asia-back-to-the-1930s-1469032195
http://www.wsj.com/articles/china-takes-asia-back-to-the-1930s-1469032195
このオースリンの論説はあまり感心しない論説です。国際常設仲裁裁判所の判決は尊重されるべきであって、そのことを強く主張していくことが重要です。中国が判決を拒否し、強引なことを続ける以上、アジアの緊張が激化するのは当然です。南シナ海は重要な通商路に当たること、中国の「九段線」と歴史的権利の主張は法外に過ぎることに鑑みれば、国際社会はこういう緊張の激化やリスクを冒すに値します。ここはしっかりと対応しておくということでしょう。
中国のサラミ戦術
アジアの海域の支配をめぐる闘争が先鋭化、戦争の危険が増大するなどと評価し、警鐘を鳴らすのは対中宥和策の提案につながりかねません。航行の自由作戦の際の小競り合いや、中国の埋め立てとその妨害での小競り合いはあるでしょうが、戦争になることはないと思います。まだ中国の海軍は米海軍と互角に戦えるものではありません。今度の中国の国際仲裁裁判の判決拒否を、日本の国際連盟脱退と比較するのも適切とは思えません。
中国はサラミ戦術で少しずつ攻め込んでくることを得意とします。情勢の悪化を懸念して、少しずつ譲るという対応をすると、ずるずると後退することになります。
今回の判決を、国際社会は中国の理不尽な「九段線」主張や歴史的権利の主張を、断固として排撃する材料にすべきです。そうすることが、中国に反省をさせ、情勢の健全化に資することになります。中国の李克強首相は、この判決が出た後も、中国の行為は国際法に合致していると安倍総理に述べたと報じられていますが、中国が国際法の内容を決められるかのような前提での発言です。こういう発言を聞くと、ますます中国は牽制しておくべきと考えます。
中国の伝統的発想は「力が国境を決める」
織田邦男氏が講演
2016.8.25 23:57更新http://www.sankei.com/politics/news/160825/plt1608250036-n1.html
沖縄「正論」友の会の第39回セミナーが平成28年8月25日、那覇市の沖縄都ホテルで開かれ、元空将の織田邦男氏が「中国の台頭と日本の課題」と題して講演した。
織田氏は中国について、領土に対する伝統的発想は「力が国境を決める」というもので、「東日本大震災で混乱している際は尖閣諸島(沖縄県石垣市)を奪うチャンスだと捉える。そういう国だと頭に入れて付き合っていく必要がある」と指摘。
沖縄に関しても「米軍が撤退すれば、その空白を突いて必ず前に出てくる。だから空白をつくってはならない」と強調した。
対処策として「日本は弱さを自覚した上で米国を巻き込む知恵が求められる」とし、「日米同盟の活性化には集団的自衛権の行使は必要で、国際情勢を踏まえた安全保障法制に関する国民的議論を活発化させるべきだ」と締めくくった。
尖閣に漂着する中国漁民の狙いは「漁」ではなく「領」なのだ…ギリシャ船との衝突事故で見えた悪魔のシナリオとは
2016.8.29 14:00更新http://www.sankei.com/premium/news/160829/prm1608290003-n1.html
平成28年8月11日、沖縄県石垣市の魚釣島沖でギリシャ籍の大型貨物船と中国漁船「ミンシンリョウ05891」が衝突し、沈没した。海上保安庁のボートにより乗組員は救助される。
平成28年8月24日夜、悪夢にうなされて起きると、額にべっとりと脂汗が。夢に出てきたのは、同日行われた日中外相会談などの再現シーンであった。
現実の外相会談と同様、夢の中で王毅外相(62)は岸田文雄外相(59)に言った。
「東シナ海における不測の事態回避は重要だ」
相変わらず加害者としての意識がまるでない。それどころか、神妙な態度を装ってはいたが、会談後、王外相は記者団に言った。
「(日本側が)騒ぎ立てているだけの話だ」
「事態は基本的に正常な状態に戻った」
絵に描いたごとき見事な「舌の根の乾かぬうち」発言だった。主権を侵犯されて「騒ぎ立て」ない国家があろうか。むしろ、日本側は「遺憾」を連呼するばかりで、「騒ぎ」方がひ弱過ぎる。日中外相会談が行われた24日にも、尖閣諸島(沖縄県石垣市)強奪を企図する中国の海警局公船4隻が接続水域を航行。これで22日連続で侵入された。中国では、かくなる危機を「正常な状態」と呼ぶらしい。
夢の中で、王外相は岸田外相にスクリーンの前に座るよう促した。映し出されたのは、大海原だった。映像はアップされ、島が現れた。さらにレンズが寄ると、武装した中国人民解放軍将兵の背後に対艦ミサイルや対空機関砲、兵舎などが見えた。
小欄はこの時点で、事態が飲み込めた。「夢中外相会談」の舞台は24日と同じ東京・霞が関の外務省ではなく、北京の中国外務省。島は、人民解放軍が駐屯する尖閣諸島最大の島・魚釣島だった。
「遺憾の意」は「何もしない」の意
夢の中で、小欄は「魚釣島占領」後の、王外相発言をたどっていた。
「東シナ海における不測の事態回避は重要だ」
「(日本側が)騒ぎ立てているだけの話しだ」
「事態は基本的に正常な状態に戻った」
夢の中の岸田外相は日本の「外交用語」としてすっかり定着した「遺憾の意」を連発し反論していた。しかし、日本語に堪能な王外相は「遺憾の意」が、何もしないという意味だと熟知していた。武力奪還も辞さぬ旨を警告し、確固たる意志も覚悟も示さず、魚釣島の実効支配、いや完全占領は既成事実になってしまったのだ。中国にとって「正常な状態」を完了したのである。
悪夢は覚めたが、今度は幻聴に悩まされた。中国漁船とギリシャ船籍の貨物船が衝突した11日もそうだったが、安全保障をなりわいとしていると、悪魔が耳もとでささやく時がある。海上保安庁の巡視船が11日、沈没した中国漁船の乗組員14人の内6人を救助したが、残る8人の安否は依然不明だ。8人の無事を祈っていた最中、悪魔が寄ってきて、小欄に言った。
「8人は尖閣諸島の無人島・魚釣島に泳ぎ着いた…」
悪魔のささやきが耳から離れず、8人の無事を祈る気持ちが薄れていく中、小欄は悪魔に反論した。
「衝突海域は、魚釣島の67キロも北西で、ドーバー海峡横断の実質遠泳距離50~60キロを上回り、不可能ではないが、泳ぎ手は非常に限られる」
悪魔は「そうかな」とニヤリとするや、「中国に伝授した」シナリオを口にした。
「潜水具や水中スクーターなどの支援を受ければよいではないか。ギリシャ船に故意に衝突。漁船沈没は擬装で、6人は海保の目を引き付ける陽動作戦要員だ。8人は…」
専門家とのシミュレーションを何度も繰り返してきた小欄は、もはや悪魔による説明は必要なかった。過去何回か詳述紹介をしてきたので、今回はザックリと。
《海保の巡視船が6人を収容し、残る8人を捜索している間に、中国海警局の武装公船数隻が魚釣島に接近し、公船が降ろした数隻の小型高速艇を使い制服の武装要員数十人が急襲上陸した。もちろん海保は、捜索・救難活動に全巡視船を投入してはいなかったが、尖閣諸島周辺の警戒は著しく手薄で、間隙を突かれた》
《警戒中の1隻は、日本の領土・領海であると告げ、退去を要めた。だが、海警局の武装公船は『釣魚島(魚釣島の中国名)は中国領である。現在、遭難・漂流した中国籍の漁民保護活動を実施中である。日本の海上保安庁の船は即時、領海・接続水域を出なさい』と、逆に警告を返してきた》
《警告に合わせるように、魚釣島の最高地で、私服姿の漁民8人が手を振るのを海保が確認。眼鏡を通して見た漂流者8人は、漁民にしてはマッチョでGIカット、目つきも鋭い。全員私服なのに、そろいの軍靴を履いていた。自動小銃やロケットランチャーを携行。最高地に中国国旗=五星紅旗がひるがえるに至っては、工作員と認める他なかった》
魚釣島が実効支配された瞬間だった。
故障に台風、擬装テロに乗じる海上民兵
気になったのは、「緒戦」が衝突・沈没事故で、小欄らのシミュレーションと違っていた点だ。擬装漁民と中国海警局の武装公船を組み合わせたシミュレーションでは、「故障」して流れ着いた“中国漁船”や台風を避けて退避してきた多数の“中国漁船”を、中国海警局の武装公船が「保護」する目的で、魚釣島に近付き、上陸を果たすシナリオをはじき出すケースが多かった。他に、(1)「操業違反」を犯し「中国領の島」に逃げ込んだ“漁民”を追って(2)“漁民”を人質に、「中国領の島」に立て籠もった“テロリスト”を、「逮捕」「掃討」すべく-上陸する想定も導かれてはいた。
漁船乗組員や漁民は《海上民兵》の擬装に他ならなかった。8月に入り、尖閣諸島の領海に、中国海警局公船と“漁船”が初めて同時侵入した。一時は接続水域に、230隻に上る漁船が集まり、10隻以上の公船とともに日本の領海や接続水域を脅かした。“漁船”には100人以上の海上民兵が乗り込んでいた。
海上民兵について、ざっとお復習いしてみたい。
多くの漁船団が人民解放軍海軍の補助金を受け出港する。補助金を得る条件は、外国船舶の情報収集などに向けた軍事教練を受けること。軍事教練は各地の民兵を統括する人民武装部の地方支部が担任する。人民武装部の地方支部は地方政府=共産党の地方当局と人民解放軍の二重統制下に置かれる。
軍事教練には参加費が支払われる他、船建造への助成金や燃料・水も人民解放軍海軍が供給する。特に、木製に比し体当たり攻撃に効果的な金属製への買い替えを、助成金を介して奨励している。当然、一部の“漁船”には小型武器が搭載されている。
「主権」を守る特別任務が下令されれば、人民解放軍海軍や海警局の指揮下に入る。尖閣諸島やベトナム/フィリピン/インドネシアの各領海やEEZで“中国漁船”が侵入するや、すかさず海警局公船や人民解放軍海軍艦艇が後詰めに入るが、多くは軍事作戦を兼ねていると覚悟すべきだろう。
帰港後は、任務の内容・達成度+船の大きさ+航行距離により数十万~300万円ほどの手当てが付く。小欄は、海上民兵には練度別に、供与される装備・武器が決まり、装備・武器に伴い任務付与があると、分析している。任務は、例えば(1)海保や海上自衛隊艦艇に関する位置通報(2)一定の精度を有するレーダーや探知機器を使った情報収集(3)擬装上陸での先鋒(4)人民解放軍海軍との共同作戦…などだ。烈度・難度の高い夜陰に乗じた上陸ゲリラ戦などは、最高度に調練された海上民兵でも任が重く、人民解放軍海軍の特殊作戦部隊が担任すると、考えられる。
今回の中国漁船衝突・沈没事故で救助された6人も海上民兵であっても不思議はないが、潜水具や水中スクーターを駆使して魚釣島に隠密上陸する任務は人民解放軍海軍の特殊作戦部隊のみが完遂できる。また、既述したシミュレーション上、人質役の漁民は海上民兵だが、テロリスト役は人民解放軍の特殊作戦部隊員を想定している。
衝突・沈没事故は、擬装沈没を起点にした策動も有りうべしとの、得難い「戦訓」ともいえ、海保や自衛隊が対抗策を再点検する契機となろう。
いや、貴重な「戦訓」を得たのは中国も同じ。ひょっとしたら、「沈没漁船作戦」なる新たな戦法に、悪魔によって目覚めさせられたかもしれない。
一方、「沈没漁船作戦」が、もともと考案されていた戦法か、その予行演習だったとすれば、疑問も残る。沈没時、海警局公船が尖閣周辺の接続水域を航行していたことは、海保が確認している。海上民兵を潜ませた“漁船”も付近に相当数遊弋していたにもかかわらず、なぜ海保巡視船の機先を制して漁民(海上民兵)を収容できなかったのか?
というのも、人民解放軍海軍では、5万隻の“漁船”にGPS(全地球測位システム)を提供、レーダーや無線機なども払い下げ、人民解放軍海軍艦艇や海警局公船と情報共有して、前進・停泊・撤退などの一体作戦を遂行する能力を向上。人民解放軍や海洋機関の地上基地でも、衛星を利用して漁船や擬装漁船の位置情報を追跡しているはずだからだ。
確かに、GPSは中国の独自開発で、ギリシャ船が発した救難信号=位置情報が感知不能だった見方も出ているが、小欄は裏付け情報を持たない。
技量未熟に人命軽視…どこまでも「中華風」
衝突・沈没事故が実は軍事作戦か、その予行演習で、海保に救助された6人が海上民兵だと仮定すると、日本政府の出方次第で“漁船”に潜伏していた事実が発覚する恐れがあった。作戦要員の収容失敗は、技量未熟と不良装備も裏付けてしまう。
沈没したのが「真正漁船」であれば人命軽視も疑われ、国際条約をウンヌンする以前に、中国が痛みを覚えなくとも、シーマンシップの欠如をあらためて国際社会に印象付ける。
いずれにしても、海保の中国人救助で、現場海域周辺が「日本の海」と認める結果まで生んだ。「漁船の安全確保」という海警局公船の侵入「理由」が、ウソではなく大ウソだとも証明した。
やること・なすこと、あくまでも「中華風」なのであった。
そういえば、衝突・沈没事故は早朝だったのに、中国外務省の日本向け“謝辞”は夜に入って。ネット上で、救難の遅れや人命軽視に関する非難の大合唱が自国で起き→炎上し、渋々、かの有名な女性報道官様が口頭で表明したのが、こちら。
「日本側の協力と人道主義の精神に称賛の意を表す」どこまでもエラそうで、心を込めたフリもできず、外交辞令にも成っていない。
《維新嵐》
軍事力だけでは、国家主権は守れないと考えます。尖閣諸島防衛に端を発したようにみえる南西諸島の防衛は、今までに比べると自衛隊のあり方はずいぶんと強化されてきたと感じます。一時期の在日アメリカ軍頼みのころを考えると隔世の感があるといえるくらい自衛隊は「増強」され、海上保安庁は活躍しています。
しかし何か政府だけでなく、日本人そのものの考え方の中に「自衛隊の正面装備だけ強化して、それを核にしていけば南西諸島防衛は大丈夫」的な考えがあるようにみえて仕方ありません。
自衛隊や海保が戦略的にまず「奇襲」をうけないためにも相手の出方を探り、動向を探らなければなりません。「情報は最大の武器」とはいわれますが、相手の手の内を探り、動きを把握し、自軍や自国の外交の効果的な戦略の構築を考えていかなければ「国家主権」や領土領海領空、海洋権益は守れないでしょう。
かつて日ソ不可侵条約を破られて樺太や千島の主権を奪われて久しいですが、竹島の主権奪還も含めて、外国による「侵略」の悲劇を繰り返さないためにも、国家を守る手段は自衛隊の正面装備を強化することだけではない、ことを国民の共通認識として刻み込むべきでしょう。国破れては何もありませんからね。
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