2016年8月11日木曜日

アメリカの核兵器の現実と新しい軍事技術の開発 ~オバマ大統領の理想は遠く・・・~

オバマ大統領の理想と米国の核兵器の現実
1兆ドルの予算で核兵器を近代化、「日本に核武装させよ」の声も
北村淳
広島の平和記念公園で、演説に臨むバラク・オバマ米大統領(2016527日撮影、資料写真)。(c)AFP/JOHANNES EISELEAFPBB News

オバマ大統領が広島を訪れた際に語った「核兵器のない世界の実現」という言葉は、今年の広島原爆の日に広島市長によってなされた「平和宣言」や、同じく安倍首相の「あいさつ」でも繰り返して取り上げられた。日本では、アメリカにそのような方向へ向かってほしいという期待を込めて、オバマ大統領の広島訪問や「核兵器のない世界の実現」という言葉は評価されているようである。しかしアメリカでは、オバマ大統領の理想はあまり関心が持たれていない。
 オバマ大統領が日本やヨーロッパで口にしている「核兵器のない世界の実現」といった表現や、広島訪問というパフォーマンスをきっかけとして核軍縮を実現させようという反核団体なども存在する。だが、軍事関係者も一般の人々も、「核兵器のない世界」が実現するとは到底思っていない。
 その最大の理由は、多くのアメリカ国民は、アメリカ軍が7100発もの核弾頭を保有し、ロシアや中国の核戦力に睨みを効かせている現状を知っており、「核兵器のない世界」が異次元の世界に感じられるから、ということであろう。
1538発の核弾頭が実戦配備中
「アメリカが7100発の核弾頭を保有している」という表現は軍事的には正確性を欠いているといえるかもしれない。7100発(正確には2016年夏現在で7071発)のうち2500発が「退役済み核弾頭」だからだ。これらの核弾頭は、もはや実戦用兵器貯蔵庫に収納されておらず、廃棄処理を待っている状態である(ただし、それらの核弾頭は解体するまでは現役復帰させて再び使用することも不可能ではない)。
そして、4571発が「現役の核弾頭」である。そのうち1538発が実戦配備中であり、3033発が兵器庫に貯蔵されスタンバイの状態の核弾頭だ。
 ちなみに、アメリカ以外の核保有国の「現役の核弾頭」の推計値(米国防総省や米国務省の資料などを基にArms Control Associationが推定)は、ロシアが4500発(そのうちの1648発が実戦配備中)、フランスが300発、中国が260発、イギリスが215発、パキスタンが120発、インドが110発、イスラエルが80発、そして北朝鮮が8発(最大で)と見積もられている。
 このようにアメリカが依然として世界最大の核弾頭保有国であるという事実がある以上、いくらオバマ大統領が「核兵器のない世界の実現」などと口にしても、多くのアメリカ人にとっては絵空事に映ってしまうのである。
米核戦略の基本方針は不変
核弾頭保有数に加えて、日本やヨーロッパにおけるオバマ大統領の非核化宣言が、少なくともアメリカ国内では全く空虚な絵空事と受け止められてしまっているのは、オバマ政権がペンタゴンにゴーサインを出している米軍核戦略と、「核兵器のない世界の実現」とが矛盾しているからだ。
 アメリカ軍が保有している各種核弾頭や、それらを運搬し発射するプラットホーム(弾道ミサイル、巡航ミサイル、戦略原潜、爆撃機、ミサイルサイロ施設など)の多くが耐用年数に近付きつつある。そこで、アメリカ国内では、核兵器の老朽化を契機として核兵器保有に関して再考すべきであるという声が、反核団体だけでなく軍関係者の中からもあがった。
1つの立場は、「老朽化した核兵器を新型に変えるにあたって、大幅に保有数を削減すべきである」という立場である。反核団体などは、このような流れが実現すれば、やがて核兵器廃絶へとつながるものと期待した。
 それに対して、老朽化した核兵器をすべて新型核兵器に置き換えるのは財政的にはきわめて困難であるが「予算の許す限り新型兵器の開発を続けつつ、現存の核兵器を近代化させていく方式をとるべきである」という立場がある。
結局、オバマ大統領が採用したのは後者の「核兵器近代化」路線であった。アメリカ軍が保有している核兵器(各種プラットフォームと核弾頭)は今後四半世紀にわたって近代化していく方針が決定された。そのために投入される予算は1兆ドルとされている。
 実際に、旧式化してきている核弾頭が搭載できる空中発射型巡航ミサイル(AGM-86)に取って代わる新型ミサイルの開発が始まっており、連邦議会は研究開発費として8500万ドルの予算を認めるようだ。
LRSO」と呼ばれる新型ミサイルは(予定通りに開発が成功すれば)核弾頭も非核弾頭も搭載可能な長距離巡航ミサイルで、1970年代に設計されたAGM-86と違って、ステルス性に優れており、敵(中国、ロシアなど)の優秀な対空警戒システムを突破する能力が与えられ、より精確なピンポイント攻撃が可能となる高性能核兵器とされている。
計画中のLRSOの想像図
このようにAGM-86LRSOへと近代化しようとする構想に対して、海外に向かっては「核兵器のない世界の実現」などと理想論をぶち上げているオバマ大統領が、LRSO開発計画にストップをかけなければ核兵器の近代化路線が定着してしまう、と反核団体などからは危惧の声が上げられている。
核戦力に投入する予算を削減する方策とは
また、強力な核戦力の存続自体は容認する軍関係者などの間からも「いくらLRSOが最新鋭のミサイルであっても、LRSOの配備はAGM-86などが誕生した米ソ冷戦時代の核戦略のアイデアを継承するものであり、時代遅れあるいは時代錯誤とみなさざるを得ない。まして、軍事費が大削減されてしまった現在、莫大な費用が必要となるLRSOのような核兵器近代化に投入する予算を必要としている分野はいくらでもある」といった反対の声も上がっている。
LRSOをはじめとする核兵器の近代化はもとより、既存の核兵器を運用するだけでも莫大な軍事費が必要だ。アメリカの核戦略が現状を維持する場合、核搭載戦略原潜と核搭載爆撃機それに地上発射型大陸間弾道ミサイルを運用し近代化するための「核戦力費」は、(アメリカの軍事シンクタンクCBOの推計では)2017年度が114億ドル、2020年度が133億ドル、そして2020年度が175億ドルとされている。
半世紀以上にもわたってアメリカ核戦力の空の主役を担ってきているB-52爆撃機と各種兵器

 そこでアメリカの軍事戦略家や政治家の間には、自然発生的に次のようなアイデアが登場しつつある。
「莫大な軍事予算を核戦力を維持していくために支出し続けていては、アメリカ軍全体の戦力が弱体化して行きかねない。まして、その核戦力は、アメリカ自身を守るためだけではなく、日本のような自ら核武装をしない同盟国を守るためにも用いられている。
 したがって、日本やオーストラリアのようにアメリカに“歯向かってくる恐れがゼロに近い”同盟国に核武装させれば、それだけアメリカの核戦力費用の負担が減少する。
 たとえば、アメリカによる監視制御態勢を組み込んだ形で日本に強力な核武装をさせれば、アメリカ自身の核戦力への財政負担は大幅に軽減されるが、東アジア方面での核抑止戦力は弱体化どころか飛躍的に強化され、アメリカにとってはまさに一石二鳥ということができる」
 アメリカ大統領候補のトランプ陣営からもこのような声が聞こえてくるが、なにもトランプ氏の思いつきではなく、アメリカの国防予算が八方手詰まり状態から抜け出せない限り、核武装分散論に類する論調が出現することは何ら不思議ではない。

 そのような要求を突きつけられる前に、空想的平和論ではない具体的な日本自身の核抑止戦略(非核を貫くにせよ、何らかの核武装を始めるにせよ)を確立しておかなければならない時期に突入しているのだ。

《維新嵐》 なんと「核兵器のない平和な世界」をめざすオバマ大統領の政策の本音は、「核兵器の近代化」でした。核兵器は、「廃絶」する、できる代物ではないのかもしれません。核兵器は、「使わせない」「兵器として運用させない」戦略の方が的を得ているように考えています。しかし1538発の核兵器の実戦配備はすごいな。
新たな核兵器の開発の動きについては、以下の論文にも詳しいです。人類にとって最大にして最強の破壊力をもち、高レベル放射性廃棄物によって、核攻撃後も土地を荒廃させる力?をもつ核兵器を大国ほど手放すつもりはないようです。

米露中がしのぎ削る新たな核開発
岡崎研究所
20160525日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/6826

2016416日付のニューヨーク・タイムズ紙で、同紙ワシントン支局長のデイヴィット・サンガーとウィリアム・ブロード同紙記者が、米露中の3カ国は、新世代の、より小型でより破壊的な核兵器を追求しており、冷戦時代の軍拡競争が再現され、半世紀以上続いた核の平和が脅かされる恐れがある、と述べています。解説記事の要旨は以下の通りです。

新兵器開発に力注ぐ米露中

 ロシアは、小型核弾頭を搭載した大型ミサイルを配備し、またロシアの報道によれば、水中で爆発させ、放射能の汚染をまき散らかし、目標の都市に人が住めなくなるような水中ドローンを開発している。
 中国は「超音速滑空飛行体(hypersonic glide vehicle)」と称する新しい弾頭の実験をした。それは従来の長距離ミサイルで宇宙に打ち上げられた後、大気圏で秒速1マイル以上で曲がり疾走する。ミサイル防衛が役に立たなくなり得る。
 他方米国も超音速兵器を開発していて、2014年の実験は失敗したが、来年試験飛行が再開される。米政府は核兵器近代化の一環として、5種類の核兵器と運搬手段の改善を計画し、米国の兵力は小型、ステルス、精密の方向にある。
 新兵器登場の一つの懸念は、冷戦時代の「相互確証破壊」による抑止理論が有効でなくなるかもしれないということである。精密で、破壊力の少ない新兵器は、使う誘惑にかられるのではないかとの懸念である。
ペリー元米国防長官は、ロシアが包括的核実験禁止条約から脱退するのではないかと心配している。ペリーはロシアが新しい爆弾を開発しているのは間違いなく、実験をするのはプーチン次第だと述べた。
偶発核戦争の危険性も
 米国は最新の巡航ミサイルを開発している。この巡航ミサイルは爆撃機から発射され、地上に沿って長距離飛行し、敵の防空網をかい潜って目標物を破壊する。米国はまた、中国に先行して超音速弾頭を開発している。米国の超音速弾頭は非核で、その速さと正確さ、物理的衝撃でミサイル基地などを破壊するものである。非核なので核兵器依存を減らすというオバマの約束を満たすが、その技術にかなわない相手は、核兵器で対抗しようとするかもしれない。
 ペリー元国防長官は、米国の小型核兵器の開発の結果、「考えられないこと」が起こり得る、すなわち核兵器がより使用可能と見られるようになると述べた。
 米国の新兵器開発で最も脅威を感じているのは中国である。中国は太平洋の米艦隊の対ミサイル迎撃機を懸念し、新しい誘導爆弾、最新の巡航ミサイル、新しい運搬手段を含む米国の核の近代化に恐れおののいている。中国はすでに長距離ミサイルの多弾頭化など、対応策を講じていて、今後10年間対応し続けるだろう。中国軍部は昨年、核戦力のための戦略早期警戒を改善すると述べた。早期警戒は偶発核戦争の危険を増すとの批判が強い。
 核兵器専門家のノースカロライナ大学Mark Gugrudは、超音速の兵器の開発が続けば、操作可能な弾頭は今後10年で世界中で現実のものになるだろう、「世界は核の精霊を瓶に戻すことに失敗した。今や新しい精霊が広まっている」と述べた。
出典:David E. Sanger & William J. Broad Race for Latest Class of Nuclear Arms Threatens to Revive Cold War(New York Times, April 16, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/04/17/science/atom-bomb-nuclear-weapons-hgv-arms-race-russia-china.html
“相互確証破壊”無効化する恐れ
 米露中の3カ国が、最新兵器の開発にしのぎを削っていて、戦略状況が変わりつつあるのは事実です。その一環としての核兵器の小型化が、核使用の敷居を低くする恐れがあるのはその通りでしょう。核兵器の小型化のほかにも、もし米国が中国を超音速弾頭で攻撃した場合、中国が核で反撃する恐れも指摘されています。「相互確証破壊」が有効でなくなるのではないかとの懸念です。
 しかし、いくら核兵器が小型化されたからと言っても、そう簡単に使用されるとは思われません。たとえ小型核兵器による破壊が、従来の場合より限定的であっても、使用は戦争状態を意味し、相手は報復する可能性が大きいです。米国が中国を超音速弾頭で攻撃する場合も同様です。その過程で攻撃がエスカレートする恐れが多分にあります。小型核兵器とはいえ、その放射能物質の影響から考えれば、使用のリスクは大きく、核の精霊が瓶を飛び出したという状態ではないのではないでしょうか。
 ペリー元国防長官は、ロシアの包括的核実験禁止条約からの脱退を懸念しているとのことですが、ロシアが条約を批准しているのに対し、米国は中国同様、条約を批准していません。ロシアが条約から脱退するとすれば、地下核実験をするためと思われますが、米国はロシアの条約からの脱退を非難する強い立場にはありません。

 


核兵器の近代化と並行して、核兵器に頼らない軍事抑止力の開発も進行しています。

【中国を突き放すため】米国の新軍事技術開発

岡崎研究所

201561319日号の英エコノミスト誌は、圧倒的だった米国の軍事的優位は急速に崩れつつあるので、米国は、優位を維持するために新世代の軍事技術の開発に乗りだした、と報じています。
 すなわち、米国はこれまでも、新技術の開発によってライバルの優位を相殺してきた。先ず、1950年代初期にソ連の大規模な通常戦力に直面すると、核戦力の開発で対抗し、1970年代半ばに核戦力でソ連に追いつかれると、精密誘導ミサイル、偵察衛星、ステルス戦闘機等を開発した。これらの新技術の威力が示されたのが1991年の湾岸戦争だった。
 しかし、その後、これらの新技術が拡散する一方、米国はアフガニスタンやイラクで反乱勢力とのローテク戦争に気をとられ、その機に乗じて中国、ロシア、さらにはイランや北朝鮮までもが軍事面で急速な進歩を遂げてしまった。
 中でも、中国は軍を増強、高度化させ、周辺諸国への強硬な姿勢を強めている。また、ロシアもここにきて軍の近代化を急速に進め、旧ソ連圏での影響力回復を狙っている。
 だからこそ、米国は第三の相殺戦略(the third offset strategy)を打ち出す必要があった。ただ、それは、敵に大きなコストを負わせるような軍事技術の開発でなければならない。
 米国が開発に力を入れるのは、(1)無人ステルス戦闘機(2)小型ドローン(3)無人潜水艇(4)長距離ステルス爆撃機(5)電磁レール・ガン及びレーザー・ガン、だろう。
 防衛予算の逼迫が続く中、新技術開発のための資金は、どこか別の所から持ってくる必要がある。課題は、増大する軍人の給与・福祉手当を抑制することだ。不用な基地の閉鎖や軍の調達の改善も助けになる。
 軍自身も身を切る覚悟が必要かもしれない。例えば、射程距離の短いF-35戦闘機の購入数の縮小や、脆弱性が増している空母の一部放棄が考えられる。ただ、空軍は戦闘機に、海軍は空母に強い愛着があるので、実行は容易ではない。陸軍も規模を縮小しなければならない。
 ところで、これらの障害を全て克服したとしても、第三の相殺戦略は、第一や第二ほど長くは西側の優位を保てないだろう。インターネットの影響もあり、技術は以前よりはるかに早く拡散し、消費者市場での激しい競争のおかげで技術革新自体の速度も増している。
 また、同盟国が開発に協力してくれれば助かるが、あまり期待はできない。英国などは国防費をGDP2%以下にすべきかどうかを議論している。
最後に警告する。相殺戦略は、核抑止の論理が有効であることが前提になっている。しかし、「危険を犯す競争」で勝てると思えば、敵は相手の技術的優位を前に核の瀬戸際作戦に走る可能性がある、と報じています。
***
 「第三の相殺戦略」は、米国が再び世界での軍事的優位を確立しようとする努力の一環です。
 米国が、アフガニスタンやイラクでのローテク戦争に集中している時、他国、特に中国が軍事力を高め、米国の技術優位を脅かすようになってきました。そこで、米国は、「第三の相殺戦略」を打ち出す必要を認識しました。したがって「第三の相殺戦略」は中国の軍事能力の増大を念頭に置いたものであると言ってもよいでしょう。
 「第三の相殺戦略」の中核的技術は、高度な自律性を備えた無人機や無人潜水艇などのロボティクス、それらの運用を支える強靭性の高いネットワーク、次世代長距離ステルス爆撃機、電磁レール・ガンとレーザー・ガンなどです。これら技術の開発に必要な研究の多くは、シリコンバレーなどの民間ハイテク企業が行っていると言われます。歴史的にはいわゆるdual use 技術(軍事・民生の両方に利用可能な技術)はコンピューターのように、まず軍事技術として開発され、後に民生用に広く使われるようになったものが多いですが、最近ではカーボン・ファイバーのように、まず民生用に開発され、それがのちに軍事用にも使われるようになったものが増えています。最近注目を集めているドローンは典型的なdual use技術です。論説は、英国を念頭に同盟国の協力はあまり期待できないと言っていますが、ロボティクスをはじめ、民生用技術が得意な日本は協力する余地が十分にあります。
 米国が世界で軍事的優位を維持することは日本の安全保障にとっても極めて重要です。さる4月に新日米ガイドラインが策定され、10月には、新たに「防衛装備庁」が設置されることもあり、日本は米国の「第三の相殺戦略」確立に向けて、防衛技術面で積極的に協力すべきでしょう。
《維新嵐》 そしてアメリカの情報戦略からはじまる戦略ステージは、宇宙空間やサイバー空間へと拡大しています。
危険な対決の場になりつつある宇宙 米国と中露の間で宇宙戦争は防げるか?
岡崎研究所  20150731日(Fri) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5191



2015629日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は、社説で、米国と中露の間で宇宙戦争が起きることを防止するために、欧州提案の宇宙活動に関する行動規範の作成に中露が参加することが望ましい、と述べています。
 すなわち、宇宙が危険な対決の場になりつつある。米国は宇宙での中国やロシアなどとの対決に適切な準備ができていないと米国防関係者は述べる。具体的には、国際宇宙ステーションなど地球を回る何千という衛星の安全について懸念が出ている。米国は長い間宇宙で圧倒的な優位を保ってきたが、今や多くの国が衛星を飛ばしている。
 米国防省は、衛星を通じて、戦場で敵の居場所を確定し、軍縮条約の遵守を確認し、あるいはICBMに対し早期警戒を確保している。
 冷戦時代に米ソは限定的な衛星攻撃兵器(ASAT)を開発したことはあるが、今や、中国が、そしてロシアが、活発に電波妨害、レーザー、サイバー武器などを開発している。2007年に中国が初めてASAT実験に成功したが、これが転機になった。更に、中国の専門家が台湾危機の際には中国は米の早期警戒衛星を撃ち落とすだろうと述べたことで、疑念が一層強まった。
 宇宙戦争を防止するには、外交が必要だ。従来この問題を国際的に議論することを拒んできた中国が、米中戦略経済対話で、宇宙協力と衛星衝突回避について定期的に米国と協議することに合意した。今秋のオバマ・習近平首脳会談までに何らかの具体的な前進が見られれば有益だ。
 中国とロシアは、法的拘束力を持つ条約により宇宙での武力行使を禁止することを主張してきたが、専門家は検証が難しいとする。より実際的な方策は、米国とEUが推進している行動規範の作成に中露が参加することである。
 オバマ政権は、防御措置の開発への投資を増やすことにしている。関係者によると、ジャミング対抗措置などの開発のために、向う5年間に、追加的に50億ドルの予算が投入されるだろう。また国防省は高い強靭能力を持つ衛星を開発しようとしている。宇宙対決がエスカレートすれば、すべての大国が損をするだろう、と述べています。
出 典:New York TimesPreventing a Space War(New York Times, June 29, 2015)
http://www.nytimes.com/2015/06/29/opinion/preventing-a-space-war.html?_r=0
***
 今後の軍事フロンティアは、宇宙とサイバースペースです。米国の2015年国家安全保障戦略は、共有スペースのアクセス確保が重要であるとして、空と海の他、サイバーと宇宙について言及し、宇宙空間の平和利用を否定しようとする勢力に対応する必要がある、米国は行動規範の作成など宇宙での国際協力を拡大している、米国の宇宙システムへの攻撃に対する抑止技術も開発すると記述しています。中国の2015年国防白書は、「宇宙での競争」に触れ、中国は宇宙でのダイナミクスに遅れない、中国の宇宙資産を防護していくと述べています。
 622 - 24日の米中戦略経済対話では、宇宙に関する米中定期協議の開始について合意しました。良いことです。
 2008年、欧州は行動規範作りを提案し、その後、米国や日本なども参加し「宇宙活動に関する国際行動規範」の作成交渉を行っています。外務省によると、その中には、衛星衝突、スペースデブリのリスク低減、ASAT実験・行為の制約、通報・協議メカニズム等が含まれているようです。
 宇宙で圧倒的優位を持つ米国としては、中露が主張する法的拘束力を持つ条約の作成には、賛成できません。同時に、米国は、衛星防御措置の開発に乗り出しています。宇宙で攻撃、防御、両面での技術競争が起きることは避けられないように思われます。
 宇宙利用は、民生活動にも深く関係します。2012年に外務省も総合政策局に宇宙室を設置し、規範作りなど国際協力に当たっています。

【続くアメリカと対テロリストとの闘い】

オバマがアフガン撤退を見直した理由
岡崎研究所 20160810日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7454



アフガン駐留米軍の撤退計画をオバマが見直したことにつき、ワシントン・ポスト紙の201676日付社説が、これを高く評価するとともに、クリントンとトランプはアフガンについてどうするつもりなのかはっきりすべきである、と言っています。要旨、次の通り。
遺産に固執しなかったオバマ
オバマは、4年前の再選を目指す選挙運動で、米にとり「戦争の潮流は退きつつある」と主張したが、76日、その潮流が戻ってきた現実をついに認めた。オバマはかつて、20171月までに少数の米兵を除いてアフガンから撤退させることを熱望していた。しかし今回、8400人(秋には5500人にするとしていた)を遺産として残すことにした。立場の変更は、タリバンによる不安定の増大を含むアフガン情勢はさらなる撤退を正当化し得ないとのペンタゴンとNATO同盟国の主張を受けたものである。オバマは、遺産として望んだことに固執するのではなく、彼らの助言を受け入れた。称賛に値する。
 部隊の拡大は、オバマが説明した通り、3つの重要な結果をもたらす。第一に、米軍は、アフガン軍のタリバンに対する抵抗力を強化し続けることができる。タリバンは、昨年、政府軍に多大な犠牲を強いながら、いくつかの領域を獲得した。米軍が駐留するアフガンの東と西にある2つの重要な基地は、閉鎖されずに残る。米の約束は、米軍以外に6000人の兵士を送り込んでいるNATO率いる41カ国の有志連合による軍事的関与の拡大にも道を開くことになろう。ワルシャワでのNATOサミットでは、有志連合からアフガン軍への2020年までの資金提供の約束が期待される。
 さらに決定は、オバマが指摘する通り、タリバンに「この紛争を終わらせて外国軍を撤退させる唯一の道は、永続的な政治的解決を通じて以外にない」と認めさせることになる。かつて、オバマの米軍撤退のタイムテーブルは、タリバンの指導者に、米軍の撤退によりカブール政府が崩壊するのを待てばよい、と期待させたはずである。今や、米とNATOの新たなコミットメントにより、ガニ大統領は、和平交渉を開始する力を得たかもしれない。
 最後に、オバマの動きは、後任大統領に比較的安定した軍事状況を引き継ぎ、米の対アフガン関与についての自らの判断を下すことを可能にさせるだろう。ヒラリー・クリントンはアフガンについてほとんど何も語っていない。他方、トランプは自己矛盾している。両人とも11月までに、就任したならばどうするのか、説明しなければならない。
 オバマは、2300人の死者を含む、アフガンにおける15年間の米の投資と犠牲を、任期中に破滅的な終わらせ方をしないための、最小限のことは実施した。後任の大統領は、オバマの恣意的な撤退タイムテーブルの設定という誤り、そして、それを改めた政治的勇気の双方から学んで然るべきである。
出典:‘Mr. Obama makes the right call in his final commitment to Afghanistan’(Washington Post, July 6, 2016
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/a-final-commitment-to-afghanistan/2016/07/06/6b83c14c-43a0-11e6-bc99-7d269f8719b1_story.html
オバマの勇気を称賛
 今回、オバマは退任時、駐アフガン米軍を8400人残すとの決定をしました。任期中にほぼ完全撤退するとの選挙運動中の公約を変更したのですが、社説は、こういう変更をしたオバマの勇気を称賛しています。公約違反を咎めてはいません。
 撤退予定の公表は敵の期待に大きな影響を与えます。いつまで頑張ればいいのかを敵に示すことになり、戦局に大きな影響を与えることになります。それに、撤退の判断は現地の状況にかかわるので、タイムテーブルを前もって示すこと自体、賢明とは言えません。オバマ大統領が撤退のタイムテーブルを前もって示したことは過ちでした。これをいま変更したのは勇気ある決断と言ってよいでしょう。自分のレガシー残しなどを考慮外に置いたとすれば、これも立派なことです。
 タリバンがこの決定にどう対応するかはまだ分かりません。和平交渉に出てくるか、どうせ米は引き下がると見て、攻勢を強めてくるか、分かりません。しかし、後任の大統領に色々な決定の可能性を残したことは確実です。ただし、それがクリントン、トランプにとって歓迎できることかどうかは分かりません。難しい決定を先送りしたという面もあるからです。
 アフガン政府軍は今なお弱体であり、タリバンとの交渉に持ち込めるような力があるのか、疑問です。今回の決定で和平交渉が始まるかどうかについては、否定的に考えるべきでしょう。15年以上支援してきても、ものにならない政府軍に期待しても、どうしようもない気もします。米国の資源も限られているので、アフガンにどれほど注力するかはよく考えるべき論点でしょう。
オバマはタリバンが任期中にカブールに凱旋するのを避けたい、NATO同盟国も参加している戦闘を放棄する形になることを避けたかった、との解釈もあり得ますが、動機を詮索してもあまり意味はありません。ともあれ、この決定によりアフガンの現状は今しばらく続くことになりました。



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