9・11から15年
終わらないアフガン戦争
岡崎研究所 2016年06月16日(Thu) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6981
ニューヨーク・タイムズ紙は2016年5月12日付社説で、タリバンとの政治交渉を実現するためにパキスタンに圧力をかけるべき時だと主張しています。社説の要旨、次の通り。
9・11から15年になるがアフガニスタンの戦争は終結していない。責任の大半はパキスタンにある。330億ドルを支援し関係再構築の試みを何回かしてきたが、パキスタンは虚偽に満ちた、危険なパートナーのままだ。
責任はパキスタンにある
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アフガン駐留米軍の兵員数がどうなろうと、問題の核心は長期の平和はタリバンとの交渉によってしか達成できないということである。その交渉のカギを握るのはパキスタンだ。
パキスタンの軍隊と諜報機関は長年タリバンとハッカニ・ネットワークを支持してきた。それでパキスタンの権益を守り、同時にインドの影響力増大を防ごうとしてきた。米国の圧力によりパキスタン軍は最近一部地域で対タリバン軍事作戦を行ったが、ハッカニは未だ自由に動いている。専門家によればパキスタン軍はハッカニをタリバンの指導部に組み込むことを目論んでいるという。
パキスタンのやっている二重のゲームに長年米国は不満を持ってきたが、それは一層悪くなっている。コーカー上院外交委員長は8機のF16のパキスタン売却に対する米国援助付与を差し止めたが、賢明なことである。パキスタンは米国の援助なしで戦闘機を購入することはできるが購入額は約3.8億ドルから7億ドルに増える。
アフガニスタンのガニ大統領もパキスタンに対する姿勢を硬化させている。ガニはタリバンとの交渉のためにパキスタンと関係改善に努めてきたが、暴力の増大を受けて見切りをつけた。4月にガニはパキスタンが同国内でタリバン指導者に軍事行動をとらない場合は安保理に提起するといった。
パキスタンに圧力をかけるべきだが関係断絶は賢明でない。米国とパキスタンは引き続き諜報を共有しているし、パキスタンは米国の無人機の使用を許している。パキスタンは世界で最も急速に核兵器保有を増やしているので、米国は対話を維持し核兵器が過激派に渡らないようにする必要もある。
昨年のアフガニスタン文民・軍人の死者数は2001年のタリバン崩壊以来最大になった。2014年に大統領に就任したガニはカルザイよりは信頼できるが、同政府は政治抗争、汚職、財政枯渇、高い軍人犠牲者数のために十分機能していない。
このような情勢のためオバマは米軍を現状で維持し、場合によっては政策を変更してタリバンとの直接的な戦闘をすることにするかどうかにつき難しい決断を迫られている。16カ月前オバマは「米国の歴史の中で最も長い戦争は責任ある終結に近づいている」と述べたが、それは楽観過ぎた。如何にタリバンを政治交渉に引き込むことができるか。それはパキスタンによる戦争助長を止めさせることができるかどうかにかかっている。
出典:‘Time to Put the Squeeze on
Pakistan’(New York Times, May 12, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/05/12/opinion/time-to-put-the-squeeze-on-pakistan.html
http://www.nytimes.com/2016/05/12/opinion/time-to-put-the-squeeze-on-pakistan.html
過去15年、アフガニスタンでは多くの軍事作戦が行われ、日本を含め多くの国が莫大な援助をつぎ込みました(日本だけでも約58億ドルの支援を実施)。しかし、国際社会の努力が無益だったということでは決してありません。国際社会の支援がなかったらアフガニスタンはもっと酷いことになっていたでしょう。また、完全には上手くいっていませんが、15年間の過程を通じてアフガニスタンは文明的な政治のやり方に触れてきたという学習効果は大きいです。
パキスタンの問題はつとに指摘されていることです。社説は、アフガニスタン問題の大半の責任はパキスタンにあると厳しく批判しています。米国も手を焼くほどですから、パキスタン軍組織は驚くべき深淵さを持っているのでしょう。しかし、パキスタンの手強さのもう一つの側面は、その複雑な地政学的位置と、それを利用する政治力であるように思われます。パキスタンは依然として中国と深い関係を維持しています。中国は、パキスタンとインドの競争関係を利用し、アフガニスタンへの影響力を強め中国のプレゼンスは格段に高くなっています。更に、パキスタンはインドと並んで核を保有しています。
トランプは撤退を主張
アフガニスタンから米軍が撤退するわけにはいきません。撤退すれば今までの努力が元も子もなくなります。オバマは2015年10月、16年末までに駐留米軍を撤退させるとの方針を撤回、16年の大半は9800人の駐留規模を維持し、大統領の任期末の17年1月時点でも5500人を残すと発表しました。当初、15年末までに5500人に減らす予定でした。オバマはこのまま約1万人を維持していくのか、あるいは昨年の発表通り5500人に削減するのかどうかを決断しなければなりませんが、削減できる状況ではありません。
そしてオバマの後は次の大統領が決めることになります。クリントンは、昨年のオバマの決定を支持するとともに、アフガニスタンの民主主義と安全保障にコミットすると述べています。他方、トランプは13年頃には、アフガニスタンから撤退すべきだ、米国は多大の金を浪費している、と主張していましたが、今年3月の共和党討論会では、当面アフガニスタンに残るべきだと見解を変えています。また、パキスタンには厳しい見方をしているようです。
《維新嵐》 2001年の911同時多発テロ以降、首班と目されたウサマ・ビンラディンをかくまったとして、ほとんど一方的にブッシュ政権下のアメリカがアフガニスタンになだれこみ、タリバン政権に「報復戦争」とでもいうべき惨憺たる戦争をしかけました。正規軍による戦闘では、ほとんど勝敗はついているんではないでしょうか?タリバン首謀者もビンラディン本人も殺害されたわけですが、戦争自体はおさまってはいない様子がこの記事からうかがわれます。アメリカ合衆国の西の国防線の端であり、対イランの最前線に位置するアフガニスタンは、アメリカにとっては「親米政権」を打ち立てて、イラクと同様イラン包囲の要として拠点化したいという思惑があったのではないでしょうか?
しかし時代は、アメリカとイランの融和が進み、共産中国の海洋覇権主義とむきあって空軍、海軍力を投射していかなければならない現実を考えるとアジアむけの戦力をアフガニスタンにはりつけておく状態にはアメリカ政府もつらいものがあるでしょう。正直、ここまで戦ったわけですから、アメリカの希望を盛り込む形でタリバンと講和できないだろうか、とは思います。
今後どういう展開をみせるのでしょうか?撤退の時期の見定めが難しい地域といえます。
オバマがアフガン撤退を見直した理由
アフガン駐留米軍の撤退計画をオバマが見直したことにつき、ワシントン・ポスト紙の2016年7月6日付社説が、これを高く評価するとともに、クリントンとトランプはアフガンについてどうするつもりなのかはっきりすべきである、と言っています。要旨、次の通り。
遺産に固執しなかったオバマ
オバマは、4年前の再選を目指す選挙運動で、米にとり「戦争の潮流は退きつつある」と主張したが、7月6日、その潮流が戻ってきた現実をついに認めた。オバマはかつて、2017年1月までに少数の米兵を除いてアフガンから撤退させることを熱望していた。しかし今回、8400人(秋には5500人にするとしていた)を遺産として残すことにした。立場の変更は、タリバンによる不安定の増大を含むアフガン情勢はさらなる撤退を正当化し得ないとのペンタゴンとNATO同盟国の主張を受けたものである。オバマは、遺産として望んだことに固執するのではなく、彼らの助言を受け入れた。称賛に値する。
部隊の拡大は、オバマが説明した通り、3つの重要な結果をもたらす。第一に、米軍は、アフガン軍のタリバンに対する抵抗力を強化し続けることができる。タリバンは、昨年、政府軍に多大な犠牲を強いながら、いくつかの領域を獲得した。米軍が駐留するアフガンの東と西にある2つの重要な基地は、閉鎖されずに残る。米の約束は、米軍以外に6000人の兵士を送り込んでいるNATO率いる41カ国の有志連合による軍事的関与の拡大にも道を開くことになろう。ワルシャワでのNATOサミットでは、有志連合からアフガン軍への2020年までの資金提供の約束が期待される。
さらに決定は、オバマが指摘する通り、タリバンに「この紛争を終わらせて外国軍を撤退させる唯一の道は、永続的な政治的解決を通じて以外にない」と認めさせることになる。かつて、オバマの米軍撤退のタイムテーブルは、タリバンの指導者に、米軍の撤退によりカブール政府が崩壊するのを待てばよい、と期待させたはずである。今や、米とNATOの新たなコミットメントにより、ガニ大統領は、和平交渉を開始する力を得たかもしれない。
最後に、オバマの動きは、後任大統領に比較的安定した軍事状況を引き継ぎ、米の対アフガン関与についての自らの判断を下すことを可能にさせるだろう。ヒラリー・クリントンはアフガンについてほとんど何も語っていない。他方、トランプは自己矛盾している。両人とも11月までに、就任したならばどうするのか、説明しなければならない。
オバマは、2300人の死者を含む、アフガンにおける15年間の米の投資と犠牲を、任期中に破滅的な終わらせ方をしないための、最小限のことは実施した。後任の大統領は、オバマの恣意的な撤退タイムテーブルの設定という誤り、そして、それを改めた政治的勇気の双方から学んで然るべきである。
出典:‘Mr. Obama makes the right call
in his final commitment to Afghanistan’(Washington
Post, July 6, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/a-final-commitment-to-afghanistan/2016/07/06/6b83c14c-43a0-11e6-bc99-7d269f8719b1_story.html
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/a-final-commitment-to-afghanistan/2016/07/06/6b83c14c-43a0-11e6-bc99-7d269f8719b1_story.html
オバマの勇気を称賛
今回、オバマは退任時、駐アフガン米軍を8400人残すとの決定をしました。任期中にほぼ完全撤退するとの選挙運動中の公約を変更したのですが、社説は、こういう変更をしたオバマの勇気を称賛しています。公約違反を咎めてはいません。
撤退予定の公表は敵の期待に大きな影響を与えます。いつまで頑張ればいいのかを敵に示すことになり、戦局に大きな影響を与えることになります。それに、撤退の判断は現地の状況にかかわるので、タイムテーブルを前もって示すこと自体、賢明とは言えません。オバマ大統領が撤退のタイムテーブルを前もって示したことは過ちでした。これをいま変更したのは勇気ある決断と言ってよいでしょう。自分のレガシー残しなどを考慮外に置いたとすれば、これも立派なことです。
タリバンがこの決定にどう対応するかはまだ分かりません。和平交渉に出てくるか、どうせ米は引き下がると見て、攻勢を強めてくるか、分かりません。しかし、後任の大統領に色々な決定の可能性を残したことは確実です。ただし、それがクリントン、トランプにとって歓迎できることかどうかは分かりません。難しい決定を先送りしたという面もあるからです。
アフガン政府軍は今なお弱体であり、タリバンとの交渉に持ち込めるような力があるのか、疑問です。今回の決定で和平交渉が始まるかどうかについては、否定的に考えるべきでしょう。15年以上支援してきても、ものにならない政府軍に期待しても、どうしようもない気もします。米国の資源も限られているので、アフガンにどれほど注力するかはよく考えるべき論点でしょう。
オバマはタリバンが任期中にカブールに凱旋するのを避けたい、NATO同盟国も参加している戦闘を放棄する形になることを避けたかった、との解釈もあり得ますが、動機を詮索してもあまり意味はありません。ともあれ、この決定によりアフガンの現状は今しばらく続くことになりました。
オバマはタリバンが任期中にカブールに凱旋するのを避けたい、NATO同盟国も参加している戦闘を放棄する形になることを避けたかった、との解釈もあり得ますが、動機を詮索してもあまり意味はありません。ともあれ、この決定によりアフガンの現状は今しばらく続くことになりました。
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