中国の戦略原潜が太平洋に乗り出す日は近い
むなしく響くオバマ大統領の核廃絶アピール
北村淳
2016.6.2(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46978
中国海軍の094型原子力潜水艦(出所:Wikimedia
Commons)
オバマ大統領が広島を訪問し、核兵器廃絶へ向けてのアピールをした。日本ではオバマ大統領の広島訪問が、あたかも“核廃絶に向けた世紀のイベント”であるかのごとく取り上げられていたようである。
しかし、それと平行して、アメリカをはじめとする国際軍事サークルで話題となっていたのは、「中国の報復核攻撃戦力が強化されている」という“核なき世界”とは隔絶した話題であった。
まもなく始動する核ミサイル搭載の中国戦略原潜
アメリカ国防総省が作成した2016年版『中国軍事レポート』では、「中国人民解放軍海軍は、戦略原潜による西太平洋海域での核抑止パトロールを2016年中には開始するであろう」との予測が述べられていた(「今年の『中国軍事レポート』はどこが不十分なのか」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46933)。それを受けてアメリカやイギリスなどのメディアや軍事関係者たちの間では、「そう遠くない時期に、中国による太平洋での核抑止パトロールが始まる」という情報が取り沙汰され始めた。
「戦略原潜による核抑止パトロール」とは、核弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦(いわゆる戦略原潜)を、敵方の探知しえない海中深く潜航させ続けて、「万一敵が自国に対して核先制攻撃を実施した場合、戦略原潜から核弾道ミサイルを発射して敵に報復攻撃を実施する」というシナリオである。このシナリオを実施する能力を保持することにより敵の核攻撃を抑止することが期待できるため、“核抑止”パトロールと呼ばれている。
敵の核先制攻撃を抑止するための核反撃能力としては、地上固定基地(サイロ)発射型の核弾道ミサイル(ICBM)、地上移動式発射装置(TEL)発射型のICBM、それに戦略原潜発射型のSLBMが主たる手段となっている。それらのうち、TEL発射型ICBMとSLBMは、敵に存在位置を把握されにくいという特徴により、サイロ発射型ICBMよりも優れた報復手段とされている。とりわけ、ステルス性が極めて高く、大量のSLBMを搭載できる戦略原潜は、最強の核報復攻撃手段である。
アメリカ西海岸を廃虚にできるJL-2
数十年前までの中国人民解放軍は、サイロ発射型ICBMにより、かろうじて対米報復核攻撃力を維持していたが、TEL発射型ICBMとSLBMによる報復能力を手にするべく着々と努力を重ねてきた。その結果、近年はTEL発射型ICBMが充実してきていた。ただし、戦略原潜ならびにSLBMの実戦配備はなかなか順調に進まなかった。
しかし、アメリカ海軍情報筋やシンクタンクの分析によると、昨年には新型の094型戦略原潜から発射する新鋭「巨浪2型」SLBM(JL-2)が最終テスト段階に達したと見られる。そして、いよいよJL-2を装備した094型戦略原潜が西太平洋での核抑止パトロールを実施する日が直近に迫っているのである。
JL-2の最大射程距離は少なくとも8000kmと考えられている。したがって、例えば三陸沖1000kmの西太平洋の海中深く潜航する094型戦略原潜からJL-2を発射すれば、アメリカ西海岸地域を核攻撃することができる。
JL-2にはMIRV(個別誘導複数目標弾頭)と呼ばれる複数(3~4カ所)の攻撃目標を同時に攻撃することができるハイテク核弾頭が搭載可能であり、例えばロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトルそれにサンディエゴを同時に火の海にすることが可能である。
「アメリカの圧倒的な核戦力に対抗するため」
いくらオバマ大統領が「核兵器なき世界」という理想をぶち上げても、依然としてアメリカは最大の核弾頭保有国の1つであるという事実は変わらない。そしてアメリカの保有する核弾頭数はおよそ7000発である。中国のそれは260発とされており、アメリカが中国を圧倒している。また、アメリカ海軍は14隻のオハイオ級戦略原潜を運用しており、それらに装備されている「トライデント」SLBMは合計336基である。
このような状況のため、中国当局によると「中国と違ってアメリカは核先制攻撃を否定していない。そのため、中国は強力なアメリカの核戦力を抑止するため、各種報復核攻撃手段を保持しなければ、基本的な国家の安全保障能力を維持することができない」ということになるわけだ。
このような論理に基づいて、人民解放軍ロケット軍(かつての第二砲兵隊)はTEL発射型ICBMの増強に邁進し、人民解放軍海軍は戦略原潜とJL-2の運用開始を急いでいる。
現在、少なくとも4隻の094型戦略原潜が運用されていることは確認されていたが、JL-2の完成は確認されていなかった。しかしながら、間もなくJL-2を積み込んだ094型戦略原潜が西太平洋に出動することが、ほぼ確実視されるに至ったのである。
核戦力を強化する中国側の口実とは
もちろん、戦略原潜による核抑止パトロールについて、中国政府が公式なコメントを発しているわけではない。しかし、中国共産党系のメディアなどでは、JL-2を装備した094型戦略原潜の太平洋展開を前提として、以下のような議論が展開されている。
「オバマ大統領が“核なき世界”などと言ったところでアメリカの核戦力は国際社会で突出しており、中国の核戦力を凌駕している。そして中国は先制核攻撃を否定しているが、アメリカは場合によっては先制核攻撃を選択することをオプションとしている。そこで中国は、核戦力の規模は小さくとも効果的な核抑止能力を保持しなければならない。このような報復核攻撃能力こそが中国の防衛力の最も重要な要素なのだ」
「アメリカは世界で初めて核兵器を保有し、強大な核戦力を構築した。それとともに強力なミサイル防衛戦力をも構築して、他国の核戦力を徹底的に破壊する能力を手に入れつつある。このように、アメリカ一国だけが強力な核戦力を独占してしまおうという計画を、中国は阻止しなければならない」
「戦力均衡こそが平和を保つというのは歴史的事実である。オバマ大統領が言う“核なき世界”というのは、アメリカ核戦力の圧倒的優勢な状況のもとでは生じ得ない。核戦力が均衡してからでないと、実現不可能なのだ」
日本がこのような中国による核戦力強化の口実に与することができないのは言うまでもない。しかし日本は、中国に口実を与えてしまっているアメリカの核戦力によって庇護されていると同時に、やはり中国の口実の1つであるミサイル防衛戦力の強化の最大の協力国でもある。そのことを日本は忘れてはならない。
《維新嵐》 オバマ大統領は、確かに原爆の被災地へ足を運び、献花を捧げましたが、本人自身もいみじくも話されているように、アメリカは将来的に核兵器の廃絶にむけて進むことを宣言したものの今すぐ核廃絶とは決して話していません。オバマ氏の主張の意味は、大きな戦略上の目標は、核兵器の完全な廃絶であるが、その政治目標を達成するためには、核兵器を保有し続けることを宣言したものであり、「核兵器の再保有宣言」ともいっていいものである。
アメリカの核兵器は、小型化、ステルス化、精密化を備えるべく進化している。敵対国から自国を防衛するという意味において保有していくことは、共産中国と変わりはない。
【現代アメリカの核戦略の実体】
共産中国・新型戦略原潜の運用を開始
オバマ広島演説再読 歴史のくびき解いた日米同盟…「アジア回帰」が抑止する中国の覇権
産経新聞
オバマ氏の広島訪問でさえ、いくら名演説しようとも、核軍縮や核不拡散への効果はほとんどない。広島訪問の意義を問わば、やはり大統領が被爆地に足を運び、黙祷(もくとう)し、献花することで、勝者と敗者に残る感情のくびきを解くことにあったと思うのだ。
広島、長崎に投下された核兵器の威力のすさまじさから、米国の核研究者らは深い自責の念にかられた。原爆投下からわずか数カ月後に、米軍の主たる目的が「戦争の勝利」にあるのではなく、「戦争の抑止」にあると主張を始めている。
とりわけ、核が米国の独占物でなくなれば、なおのこと戦争の抑止戦略が重要になってくる。
「アメリカが先制攻撃を行い、ソ連の核による報復から逃げ切ることがもはや不可能であるなら、核兵器を無制限に用いる戦争は、どちらにとっても自殺行為であろうと結論づけた」(クレピネビッチ、ワッツ『ザ・ラスト・ウォーリアー』)
オバマ氏の広島演説は、確かに「核なき世界」を目指す崇高なものだった。核不拡散への努力は、歴代の米大統領も70年余にわたり政策的に積み重ねてきた。彼は追悼と理想はうたい上げたが、どう核不拡散に立ち向かうか、という戦略は語らなかった。
直後の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、オバマ氏の対外関与について、「オバマ政権のイラン、ロシア、シリア、イラク、中国、北朝鮮に対する政策のために、重要な同盟国はむしろ、米国の決意を疑うようになった」と酷評している。
オバマ政権の対外政策を振り返れば、指摘の通りなのである。ただ、目の前の対中抑止という意味では、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)前の5月23日、旧敵であるベトナムと和解し、武器禁輸措置を解除した点を評価したい。
この決定は、オバマ政権が中国指導部に対して国際法無視の力の行使には、必ずそのしっぺ返しがあることを明確にした。
すでにフィリピンとは、5つの基地を米軍が使用できる協定を結んでいる。南シナ海で覇権を求める中国の拡大阻止と、偶発的な衝突の抑止である。
ベトナムは米越戦争後に、中国から領有していたパラセル諸島の一部を奪われ、2014年にも排他的経済水域に中国が石油探査リグを設置したことから、両軍がにらみ合った。
米国の対ベトナム武器禁輸解除により、オバマ政権は実体のなかった「アジア回帰」に魂を入れた。ベトナムは米製武器の購入や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を通じて、中国の脅威が米越の政治体制を超えて、関係の発展を促したといえる。
かつて、中国の最高実力者の鄧小平は覇権主義に反対し、仮にもその中国が覇権を求めるならば、日本は反対すればよいと述べたことがあるという。日米同盟にとっては、それが今なのである。(東京特派員)
《維新嵐》 アメリカのオバマ大統領は政治家である。広島訪問で非核化を宣言したといってもその主張の背後には、細やかな政治的な戦略的打算があるのはしかたないことでしょう。今、海洋覇権を獲得してくる共産中国に対して日本や韓国、豪州、ベトナム、フィリピンなどとより関係性を深めて共産中国を抑止しなければ、アメリカの地域の優越性と権益が損なわれるという危機感が根底にあるのだろう。
アメリカは、将来的な構想としては世界で唯一核兵器を使用した国の「道義的責任」として核兵器廃絶をめざすが、アメリカの国益を損ねる国家が出現してきたときは、先制的に核兵器を使うことも厭わない、として共産中国や北朝鮮、ロシアを牽制する形となっているようにみえる。
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