「米中対立時代」の到来か!? 早ければ2015年11月、南沙諸島問題をめぐり両国海軍が一触即発の危機
2015年10月19日 6時0分 http://news.livedoor.com/article/detail/10722429/
■「われわれの原則ははっきりしている」
2015年10月13日、米マサチューセッツ州ボストンで行われたアメリカとオーストラリアの2+2(安全保障協議委員会)を終えた後の米豪共同記者会見。ジョン・ケリー米国務長官は、これまでの「親中派」の仮面をかなぐり捨て、厳しい口調で述べた。
「われわれは今回、東シナ海と南シナ海において平和と安定を維持することの重要性について、深い話し合いを持った。航行と航空の自由は、国際海洋法において最も基本的な原則だ。だからこそわれわれは、この地域においてそのことを促していく。
われわれは決してクレーマーではないが、これ以上の(中国による)埋め立て、建設、土地の軍事活用化を止めさせるために主張していくことにした。それは、相手がどんな大国だろうが関係ない。われわれの原則ははっきりしている。すべての国の権利が海洋法によって尊重されなければならないのだ」
続いて、アッシュ・カーター米国防長官も、険しい顔つきでこう述べた。
「今回われわれは、ただいま国務長官が述べたような航行の自由、貿易の自由な流れといった基本的な国際慣習を維持する権益を共有していることを確認した。
われわれはまた、特に東シナ海と南シナ海における緊張の高まりに直面する中で、長年確立されている国際慣習を弾圧し、侵害しようとする(中国の)動きに対して、平和的な解決を希求するものである。
(中国は)見誤ってはならない。アメリカは、世界中の国際法が許すあらゆる地域を飛行し、航行する。それは現在の南シナ海も例外ではないし、今後の南シナ海も例外ではない。
これは単に、アメリカがコミットするだけではない。アメリカとオーストラリアは、多くの隣国の国々と歩調を同じくするものだ。日本、フィリピン、インド、ベトナムなども含まれる。どの国も地域の繁栄のために、解決を望んでいるのだ。
そしてアメリカは、この地域の安全保障の中枢を担うパートナーとしての役割を継続していく覚悟だ。それは過去70年間、アメリカがこの地域で果たしてきた使命と同様の役割だ」
オバマ政権が発足してすでに6年半が経つが、国務長官と国防長官が揃って、これほど強い形で中国を牽制したのは、初めてのことだ。
■国際海洋法では、人工島は領土とみなされない
中国はスプラトリー諸島(南沙諸島)の岩礁を次々に埋め立て、人工島を建設中である。
ヒューズ礁(東門礁)、ファイアリー・クロス礁(永暑礁)、ミスチーフ礁(美済礁)の3ヵ所では、大規模な軍事用滑走路を建設中。
その他、ガヘン礁(南薫礁)、クアルテロン礁(華陽礁)、エルダット礁(安達礁)、ジョンソン南礁(赤爪礁)、スービ礁(渚碧礁)などを埋め立て、人工島を建設中であることが確認されている。
9月下旬には、これらの岩礁を、呉勝利海軍司令員(海軍トップ)が、中国艦隊を率いて視察したという。また10月9日には中国交通運輸部が、クアルテロン礁とジョンソン南礁に、それぞれ高さ50mの灯台を建造し、その完成式典を現地で開いた。
南沙諸島は中国の他に、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイが領有権を主張しているが、中国はまさに、南沙諸島全体の実効支配を、着々と進めているのである。
だがこうしたことで、中国はアメリカを、本気で怒らせてしまった。これ以上、黙視していては、アメリカの沽券にかかわるというわけだ。
9月下旬に習近平主席が訪米した際には、オバマ大統領が習近平主席を激しく非難した。この時がオバマ大統領と習近平主席の、6回目の会談だったが、オバマ大統領が習近平主席をこれほど激しく非難したのは、初めてのことだった。
(米中首脳会談)具体的には、オバマ大統領は習近平主席に対して、次の3点を宣言した。
①南シナ海に関しては、近くアメリカ軍の艦隊を派遣し、中国側が建設した埋立地の12海里(約22㎞)の海域へ入り、かつ埋立地の上空を飛行する。これは本来は習近平主席の訪米前に行う予定でいたが、ライス大統領安保担当補佐官の建議によってストップさせていた。
②南シナ海および東シナ海で、同盟国および友好国との協力関係を一層強化する。それには、日本、韓国、フィリピン、ベトナム、インド、オーストラリアなどが含まれる。
③サイバーテロに関しては、すでに中国に対して報復措置を行ったが、中国が改めないならば、さらに広範な報復措置を取る。
アメリカは周知のように、すでに大統領選モードに突入しており、オバマ政権が少しでも中国に対して弱腰の態度を見せれば、すぐさま民主党・共和党問わず、後ろから矢が飛んでくる。だからオバマ政権は、中国に対して強硬にならざるを得ない。
9月にアメリカ海軍制服組トップの作戦部長に就任したばかりのジョン・リチャードソン作戦部長は、「就任挨拶のためのアジア歴訪」を開始した。実際は、来たる中国との南沙諸島での「対決」の事前ブリーフィングが目的だ。
リチャードソン作戦部長は、アジア歴訪の最初の訪問地、東京で、10月15日に会見に臨み、舌鋒鋭くこう語った。
「国際法で認められている海域でアメリカ軍が航行することを、中国がなぜ挑発行為と非難するか理解できない」
国際海洋法では、人工島は領土とみなされないことを受けての発言だった。
実際、アメリカ軍とフィリピン軍は2015年10月1日から9日まで、マニラ近郊の海軍基地などで、合同軍事訓練を行っている。両軍の海兵隊員ら約1500人が、中国が建設を進める人工島を想定し、海岸から小型ボートで上陸し、敵地を攻撃する訓練だ。日本から自衛隊幹部も現地に赴いて視察したという。
このようにアジアの海が緊迫するのは、1995年-1996年の台湾海峡危機以来である。当時、台湾で初の総統直接選挙が実施され、独立派の李登輝総統が再選される可能性が高まっていた。そのため、江沢民政権は大艦隊を台湾海峡に送り込み、ミサイル発射実験などで恫喝した。
台湾はアメリカに救援を要請。クリントン大統領は、空母ニミッツとインデペンデンスを派遣し、台湾海峡で米中が対峙した。だが、両軍の軍事力の差は圧倒的で、人民解放軍が撤退して危機は去った。
それから19年経って、米中は再びアジアで危機を迎えた。早ければ11月にも、南沙諸島で米中が一触即発となる可能性が出てきたのである。
■「米中対立時代」の到来
そもそも、なぜ米中関係は、かくも「漂流」してしまったのか。いまの米中関係の分析について、10月12日付『日本経済新聞』のオピニオン欄に、大変優れた寄稿文が掲載されたので紹介したい。筆者は、米エール大学シニアフェローのスティーブン・ローチ氏だ。
ローチ氏はまず、現在の米中関係をこう捉える。
〈 米国と中国は持続的な経済成長のため、ますますお互いに頼るようになり、典型的な「共依存」(お互いの関係性が過剰依存し、とらわれている状態)のわなに陥ってしまった。そしてゲームのルールが変わったことに苛立っている。
〉
米中の国交が正常化したのは、1979年のことである。アメリカはベトナム戦争後のスタグフレーションに苦しみ、中国は10年に及んだ文化大革命の後遺症に悩んでいた。その両大国が手を組み、アメリカ企業が中国に進出して安価な製品を作り、アメリカに売るという共存システムを確立した。続いて中国が外貨を蓄え出すと、中国はアメリカ国債を大量に購入してアメリカ経済を支えた。
ローチ氏は続ける。
〈 しかし経済的な共依存は人間の共依存と同じくらい不安定だ。いずれ一方のパートナーは変化し、もう一方は置いてきぼりにされ、嘲笑されていると感じるようになる。
〉
ここで言う「変化」とは、中国の急速な台頭を指す。経済発展モデルが輸出主導から消費主導へと移行し、南シナ海で力を誇示し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)新設などで国際金融システムを変えようとしている。それによって、両大国の関係にも変化が見られるようになってきたのだ。
〈 米国の対応は中国を神経質にさせた。米国の「アジア軸足(ピポット)戦略」は、中国を封じ込めるという意味を言外に含む。
〉
そうした中、9月22日から25日まで、習近平主席が国賓としてアメリカを訪問した。
〈 習主席は9月22日に米シアトルでの講演で、米国と中国が「戦略的意図の相互理解」を深めることが必要だと強調した。しかし、3日後の米中首脳会談には、まさにその点が欠如していた。
共依存のクモの巣にからまった米中関係は、摩擦と非難に満ちたものになった。人間の行動において、こうした病理が通常行き着くところは、痛みを伴う別離だ。米中首脳会談も、この可能性を排除できなかった。
〉
図らずも、習近平主席の訪米は、「米中対立時代の到来」を世界に印象づける結果となってしまったのである。
■「守りの外交」を余儀なくされる中国
結果的に、こうした流れに一番うまく乗っかった形となったのが、日本の安倍晋三政権だった。
10月7日に発足した安倍改造内閣は、下着ドロボー大臣やらヤクザと親密な大臣やらが暴露され、早くも迷走気味だ。だがこと外交に関しては、きっちり上述のような「2015年のアジアの潮流」を捉え、その流れに見事に乗っている。
具体的に言えば、軍事面では9月19日に安保法を整備し、経済面では10月5日にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の基本合意に達した。
この軍事と経済の「両輪」によって、これから本格的に南シナ海に「介入」しようとしているアメリカに寄り添う頼もしいパートナーとして、アジアでにわかに存在感が増しているのである。
同じ東アジアにおけるアメリカの同盟国でも、中国に擦り寄ってきた韓国は、アメリカから「矯正」されるハメになった。朴槿恵大統領が訪米し、10月16日にホワイトハウスで米韓首脳会談を行ったが、オバマ大統領は次の3点を、朴大統領に突きつけたのだった。
①北朝鮮という危険な共通の敵に向けたアメリカとの軍事同盟の強化
②中国への過度の接近からの修正
③同じアメリカの同盟国であり、自由・民主の価値観を共有する日本との関係改善
③の日韓関係について言えば、10月31日か11月1日にソウルで行われる安倍首相と朴槿恵大統領の初めての日韓首脳会談が、こうしたアメリカの要求に韓国がどれだけ答えられるかの試金石となる。
一方、アメリカに睨まれた中国は、「守りの外交」を余儀なくされている。このままアメリカ艦隊が南シナ海に押し寄せれば、当然ながら、中国海軍は太刀打ちできない。
前述のように、1996年の台湾海峡危機では、ニミッツとインデペンデンスという2隻の航空母艦が台湾海峡に向かい、中国軍はお手上げとなった。あの時に較べると、人民解放軍は格段に進化したが、やはり現在においても、アメリカ海軍とガチンコで戦えるほどの戦力は持っていない。なにせアメリカの軍事費は圧倒的に世界一で、2位の中国から10位までを合わせた額よりも多いのだ。
だが、そうかといって、中国がアメリカに怖じ気づいて、いまさら南シナ海の埋立地を元に戻したりすれば、東南アジア諸国には感謝されるだろうが、習近平政権が国内で保たなくなる。だから表向きは、アメリカに対して、あくまでも強硬な態度で臨まざるを得ない。
そこで中国は、周辺外交をソフト外交に転換させる戦術に出た。中国語には、「多一個朋友、多一条路」(友達が一人多ければ、開ける道が一本多くなる)という諺がある。この言葉を地で行く戦術に出たのである。
具体例を挙げれば、これまで「敵国扱い」だった日本および北朝鮮との関係改善を図り始めたのだった。
■外交分野の最高責任者が「訪日」
まず、中国の対北朝鮮外交の変化から見てみよう。
9月3日に習近平主席は、北京で「抗日戦争勝利70周年軍事パレード」を挙行した。中国の外交関係者によれば、習近平主席は最後まで、金正恩第一書記の参加にこだわったという。
それは、中朝両国が1950年代の朝鮮戦争を共に戦い、1961年に友好協力相互援助条約を結んだ軍事同盟関係にあるからだ。この条約は、「両締約国が改正または終了について合意しない限り、引き続き効力を有する」(第7条)という半永久的軍事同盟なのである。
ところが、8月に入っても北朝鮮から「参加」の回答は来ない。中国は、経済援助の縮小などのカードをちらつかせて、北朝鮮に返事を迫った。ついに北朝鮮は8月下旬になって、「(韓国との)準戦時体制に入ったので、最高司令官である金正恩第一書記は国外へ出られない」と返答してきた。
代わって北京にやって来たのが、崔竜海書記だった。金日成主席の盟友だった崔賢国防相の次男である崔竜海書記は、2013年5月に訪中した時、習近平主席との間に一悶着あった。
当時、朝鮮人民軍で金正恩最高司令官に次ぐナンバー2の軍総政治局長だった崔竜海は、習近平主席との会談に際して、軍服にこだわった。だがその3ヵ月前の北朝鮮の核実験に激怒していた習近平主席は、平服でないと会見に応じないとした。この服装問題で中朝会談がご破算となる一歩手前まで行ったのである。この時は、崔竜海が涙を呑んで妥協した。
その崔竜海書記が、2年4ヵ月ぶりに訪中した。習近平主席は表向きは、崔書記を相手にしなかったが、カメラを入れずに非公式で会見したという。そして北朝鮮が何よりも重視する10月10日の朝鮮労働党創建70周年を祝う軍事パレードには、中国共産党ナンバー5の劉雲山党中央政治局常務委員を派遣し、北朝鮮との関係改善をアピールしたのだった。
日本に対しては、習近平政権で外交分野の最高責任者である楊潔篪国務委員(前外相)を派遣し、関係改善を模索した。
10月15日に首相官邸を表敬訪問した楊国務委員は、安倍首相と会談した。だが安倍首相は、南シナ海の埋め立てに関して中国を非難したのはむろんのこと、中国が「南京大虐殺」を国連記憶遺産にゴリ押ししたことについても抗議したのだった。
■東シナ海の実効支配を許してはいけない
さて、今後の展開だが、日本は安保法制を整備したからと言って、南シナ海の紛争に、自衛隊を派遣するのは、明らかに時期尚早だろう。アメリカ軍はもしかしたら派遣を求めてくるかもしれないが、日本としては慎重になるべきである。
それよりも、日本がまず優先すべきは、東シナ海における中国のガス田開発を、ストップさせることだ。
2008年5月に、胡錦濤主席(当時)が来日し、福田康夫首相との間で、東シナ海のガス田を共同開発することで合意した。翌6月には、日中当局の実務者協議が開かれている。それなのに中国は、昨年頃から勝手にガス田開発に乗り出したのだ。
今年7月に日本外務省がホームページで、その模様を撮った写真を公開したが、中国が日中中間線近くに、計16基もの建造物を建造中であることが明らかになった。中国は南シナ海ばかりか、東シナ海においても、着々と実効支配を進めているということだ。
日本としては、この中国が進めるガス田開発を、「2008年の状態」にまで戻すことが、何よりの先決問題だ。それには、アメリカと中国と東南アジアの3方を睨みながら、かなり高度な外交手腕を展開しなくてはならない。
日本にとって追い風となっているのは、習近平政権が発足以来初めて、日本を正視し始めたことである。これまでの習近平政権の対日外交は、簡単に言えば、「日本の親分であるアメリカと中国が決めれば、日本はそれに付き従ってくる」というものだった。つまり、日本は「アメリカの一部」のように捉えられていたのである。
それが、アメリカ軍が南シナ海に迫ってくるという危機感の中で、中国は対日外交を急転換させつつある。その証拠に、これまで重要な日中交渉というのは、常に北京で行っていた。それが今回、楊国務委員が、習近平政権発足以来、「初来日」したのである。
日本としては、次は習近平主席の早期の訪日を求めて、その際の「目玉」に、東シナ海のガス田の共同開発を持ってくるというのも悪くない。
ともあれ、このまま行けば中国は、南シナ海の「埋め立て→実効支配」という「成功体験」を、次は東シナ海においておっ始めるのは、火を見るより明らかだ。日本としてはそうなる前に、これを阻止する手立てを考えておかねば手遅れになってしまう。
重ねて言うが、日本としては、南シナ海問題を「利用」して、東シナ海問題における妥協を迫る外交を展開していくべきである。
《維新嵐》南沙諸島の「人工島」構築をみれば、この事実そのものが共産中国が尖閣諸島を「核心的利益」と主張するわけがよくわかるでしょう。
尖閣諸島に滑走路や灯台を造られたら、ヘリポートや港湾施設、戦略原潜の半地下ドックの構築など東シナ海の海洋要塞にされれば、北と南の南沙諸島で台湾は完全に孤立し、シーレーンもおさえられてしまうことは、専門家がシュミレーションとして示すまでもなく素人でも予測可能です。
軍事力よりも海洋法権力で治安を確保するやり方に間違いはありませんが、日本、台湾、韓国、フィリピン、ベトナムなど海洋沿岸国との連携と有事への抑止力としての海上ミリタリーパワーは外すことはできません。
自国が不利益になるような隣国の国家戦略をさせないことも国軍の「専守防衛」としての抑止力といえるのではないでしょうか?
【今週の東アジア関連推薦図書】
『誰も知らない新しい日米関係』
著者:日高義樹
(海竜社、税込み1,728円)
著者:日高義樹
(海竜社、税込み1,728円)
本文で述べた、アジアにおける米中激突時代を、アメリカの側から解説した日高義樹氏の新著である。アメリカ取材半世紀の日高氏は、日本人が思いもよらないアメリカの現実を、本書で突きつけている。
例えば、第5章「アメリカが中国と戦うと思っているのか」では、次のように記している。
〈 ワシントンで大勢のアメリカ人と話をして気がつくのは、世界の超大国アメリカの首都の人々が、いまや自分たちのことにせいいっぱいで、国際問題などに関わりたくないと思っていることである。(中略)
アメリカの人々がいま心配していることは四つある。まず、健康と医療保険である。二番目は年金をはじめ老後の生活費をどう確保するかという問題である。三番目の心配は住む所である。四番目は大学に行くための費用である。 〉
すっかり内向きになっているのは、何も日本人ばかりではないということだ。
続く第6章の「誰にもよく分からない日米関係」では、次のように記す。
〈 アメリカの人々のこうした孤立主義的な思考は、南シナ海の岩礁を埋め立て、軍事施設を建設するという中国の不法行為に対する姿勢にも現れている。ある意味では歴史的とも言える中国の不法行為に対してオバマ政権は口先で抗議するだけで、大国としての責任をとろうとしていない。(中略)
アメリカはいまや不法行為に対してすら戦いをする気持ちはないのである。むしろ戦いが起きないように努力するのが政策になっている。 〉
本書は、南シナ海が緊迫している中で、アメリカのホンネを読み解くのに格好の「参考書」と言えるだろう。
例えば、第5章「アメリカが中国と戦うと思っているのか」では、次のように記している。
〈 ワシントンで大勢のアメリカ人と話をして気がつくのは、世界の超大国アメリカの首都の人々が、いまや自分たちのことにせいいっぱいで、国際問題などに関わりたくないと思っていることである。(中略)
アメリカの人々がいま心配していることは四つある。まず、健康と医療保険である。二番目は年金をはじめ老後の生活費をどう確保するかという問題である。三番目の心配は住む所である。四番目は大学に行くための費用である。 〉
すっかり内向きになっているのは、何も日本人ばかりではないということだ。
続く第6章の「誰にもよく分からない日米関係」では、次のように記す。
〈 アメリカの人々のこうした孤立主義的な思考は、南シナ海の岩礁を埋め立て、軍事施設を建設するという中国の不法行為に対する姿勢にも現れている。ある意味では歴史的とも言える中国の不法行為に対してオバマ政権は口先で抗議するだけで、大国としての責任をとろうとしていない。(中略)
アメリカはいまや不法行為に対してすら戦いをする気持ちはないのである。むしろ戦いが起きないように努力するのが政策になっている。 〉
本書は、南シナ海が緊迫している中で、アメリカのホンネを読み解くのに格好の「参考書」と言えるだろう。
『習近平は必ず金正恩を殺す』
著者: 近藤大介
(講談社、税込み1,620円)
中朝開戦の必然---国内に鬱積する不満を解消するためには、中国で最も嫌われている人物、すなわち金正恩を殺すしかない! 天安門事件や金丸訪朝を直接取材し、小泉訪朝団に随行した著者の、25年にわたる中朝取材の総決算!!
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『日中「再」逆転』
著者: 近藤大介
(講談社、税込み1,680円)
テロの続発、シャドー・バンキングの破綻、そして賄賂をなくすとGDPの3割が消失するというほどの汚職拡大---中国バブルは2014年、完全に崩壊する! 中国の指導者・経営者たちと最も太いパイプを持つ著者の、25年にわたる取材の集大成!!
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日本がじれったい米国
~南シナ海の中国人工島がどれだけ日本を脅かすか分かっているのか?
北村 淳
2015.10.22(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45040
軍用機から撮影した南沙諸島(英語名:スプラトリー諸島)のミスチーフ礁(2015年3月11日撮影、資料写真)。(c)AFP/RITCHIE B. TONGO〔AFPBB News〕
南沙諸島(スプラトリー諸島)に中国が建設している人工島をめぐって、アメリカと中国の間で応酬が激しくなっている。ところが、日本では南沙諸島や南シナ海の問題はさしたる関心が持たれていないようである。
南沙諸島問題の渦中にあるアメリカ海軍関係者の中には、「国際社会に向かって積極的平和主義を標榜し、国内でも新安保法制を成立させた安倍政権は、国際平和秩序を揺るがしつつある南シナ海問題に積極的に関与してくるものと思っていた。だが、その動きが見られない。相変わらず南沙諸島紛争は“対岸の火事”と考えているのであろうか?」と疑問の声を上げる者もいる。
激しさを増す米中間の応酬
アメリカでは、中国の人工島建設に関して、太平洋軍の主導のもとに国防当局が強硬スタンスに舵を切り始め、オバマ政権としても口先だけの強硬姿勢では済まなくなってきている。
もちろんアメリカ海軍が強硬姿勢を取り始めたといっても、南シナ海に空母打撃群を派遣して威嚇しようというわけではなく、中国人工島の12カイリ内水域や上空に軍艦や航空機を派遣しようというだけである。
アメリカ海軍は、このような作戦の公式の目的として「中国が国際海洋法的に認められている自由航行の原則を尊重しているのか?」を確認することを挙げている。「中国人工島が中国の領土であることをアメリカは認めない」という姿勢を示すためではない。
しかしながら現実には、中国の人工島建設、そして人工島への軍事施設の設置に対するアメリカ海軍による警告という意味合いの作戦であることは見え見えである。そのため、ことここに至ってもオバマ政権内には躊躇する雰囲気も少なくない。
また、連邦議会などの対中強硬派やメディアなどは、アメリカ海軍の強硬姿勢を中国人工島の領有権問題と結びつけてしまっているため、中国当局はそのようなアメリカでの論調を逆手に取って、米海軍の12カイリ内接近パトロールは中国の主権に対する軍事的威嚇であると騒ぎ立てて、オバマ政権に対して警告を発している。
いずれにしても、アメリカ軍、アメリカ政府、中国当局のあいだで、南沙諸島をめぐる三つ巴の駆け引きは激しさを増している。そして、フィリピンをはじめとする南シナ海沿岸諸国や、人工島軍事基地によって脅威を受けかねないオーストラリアなどでは、この問題について高い関心が持たれている。
遮断される南シナ海のシーレーン
ところが、南沙諸島や南シナ海での中国の動きにきわめて密接な影響を受けることになる日本政府からは、何ら真剣な反応が聞こえてこない。
そのため、アメリカ海軍やシンクタンクの戦略家たちから、「積極的平和主義を喧伝し、平和安保法制を誕生させても、日本の防衛姿勢は何ら変わる兆候を見せないではないか」との声が聞こえてきている。
南沙諸島の中国人工島には、3000メートル級滑走路を有する3カ所の航空基地をはじめとする海洋基地群が設置されている。それらが稼働し出すと、日本と中国が決定的な対立状態に陥った場合、南シナ海のシーレーンとフィリピン海を迂回するシーレーンが共に人民解放軍によって遮断されてしまう(この問題は本コラムでも繰り返し指摘している)。
南シナ海シーレーン・迂回航路・大迂回航路
これらのシーレーンはアメリカ海軍にとっても重要なルートである。アメリカ海軍関係者の多くは、「人工島の3カ所の航空基地は、ある意味では空母10隻分に相当する。それだけではない。人工島に強力なセンサー類が設置されるのは言うまでもなく、地対艦ミサイルや地対空ミサイルも持ち込まれるであろう。我々にとってはまことに厄介な軍事拠点が誕生しつつあり、早急に対抗策を打ち出さなければならない」と危機感を強めている。
そして彼らは「日本政府は、南シナ海のシーレーン確保について、なぜ深刻に受け止めていないのだろうか?」と不思議に思っているようだ。
同時に、「南シナ海に限らず世界中の日本のシーレーンは我々(アメリカ海軍)が守ってきている。しかし、いつまでもこれまでの状況が続く保障はない」と同盟国日本のシーレーン防衛意識を危惧している。
国際海洋法秩序に挑戦する「海洋国土」という概念
シーレーン問題以上に、今後アメリカ側から疑義が呈されると思われるのが、大戦略レベルでの安倍政権の消極的な姿勢である。
南沙諸島での7つの人工島建設、そしてそれら人工島への軍事施設の設置によって、中国政府による「海洋国土」の主張が具体的施策として表れてきた。しかし、安倍政権はなんの反論も行おうとしない。
中国共産党政府によると、中国大陸に接している東シナ海と南シナ海の多くの部分は中国の海洋国土であるとされている。そして「東シナ海や南シナ海への海洋権益拡張ではなく、もともと中国の領域である海洋国土における主権的権益を守っているのだ」というスタンスになっている。
この海洋国土という主張を具体的に示しているのが南シナ海の「九段線」である。具体的に示しているといっても、大雑把な短い9本の点線によって海洋国土の限界を定義しているため、かなり曖昧なボーダーラインとみなさざるをえない。
中国「海洋国土」を示す九段線
地理的な曖昧さ以上に曖昧なのが海洋国土の意味合いである。中国の主張からは海洋国土と、国際海洋法で言う領海、接続水域、排他的経済水域がどのような関係になるのかは明確ではない(もともと曖昧な概念だから当然なのであろうが)。
しかし、海洋国土の概念の出発点である九段線」の概念はすでに1930年代(共産党はまだ国家を樹立しておらず中国国民党政府であったが)に誕生しており、「国連海洋法条約などよりはるか以前から存在していたもので、中国の既得権である」ということになるであろう。
そもそも、アメリカが振りかざしている国際海洋法秩序に対しても、中国共産党政府によれば「暴力によって世界を支配した欧米の都合によってつくり出されたものであり、そのような欧米の横暴にいつまでも付き従わねばならなう道理はない」ということになる。
したがって、中国政府は「中国に歴史的に存在する中国固有の権利である海洋国土と抵触しない範囲で、国連海洋法条約は有効となる」と解釈する。そのことを我々は認識しておかねばならない。
国際法秩序に味方するのか? 中国に味方するのか?
現在は南シナ海で「九段線」という海洋国土を主張して周辺諸国と紛争中の中国は、やがて東シナ海でも海洋国土の概念を持ち出して日本に対して攻勢をかけてくることは間違いない。
しかしながら、海洋国土は、国際海洋法秩序とは一線を画する中国独特の立場である。日本が既存の国際社会のルールに則って中国の海洋国土獲得の動きに対処していくのであるならば、中国共産党政府と妥協する余地はない。
つまり、中国との東シナ海での領域確定問題は外交的な手段だけによって解決することは不可能に近いと肝に銘じておかねばならない。したがって、外交の延長である軍事的手段も用いて、尖閣諸島を含めて東シナ海での日中境界線確定を決着させるという覚悟が必要である。
このような状況であるにもかかわらず、積極的平和主義を国際社会に向かって喧伝しまくっている安倍政権が、国際海洋法秩序への真っ向切っての挑戦である海洋国土を振りかざす中国政府に対して何ら積極的な対抗措置を打ち出さないとなると、近いうちにアメリカをはじめ国際社会から「日本政府は国際海洋法秩序の味方なのか? それとも、中国の主張に妥協するつもりなのか?」といった疑念を抱かれることは必至である。
もちろん、その選択は日本自身にあり、アメリカなどにとやかく言われる筋合いのものではない。当然のことであるが、日本が国際海洋法秩序陣営から離れるときは、同時に日米同盟は終結する。
《維新嵐》自衛隊も海上保安庁も北村氏に指摘をうけるまでもなく、国連海洋基本法など海洋治安関連法規から逸脱することはできない。
国連法規へのコンプライアンスを忘れて国軍を動かせば、国連常任理事国たる共産中国の思うツボだろう。
南シナ海、東シナ海のシーレーンの海上治安の確保は、日本だけではなく、海洋周辺国共通の課題であるはずだから、この場面で、今こそ「集団的自衛権」を発揮して共産中国による領土、領海侵犯に対抗しなくてはならないはずである。
米国の「航行の自由作戦」・日本の対応、日米同盟のリトマス試験に?
辰巳由紀 (スティムソン・センター主任研究員)
2015年10月30日(Fri) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5553
2015年10月26日、米海軍駆逐艦が南シナ海のスプラットリー諸島地域で、中国が建築を進めている人口島から12カイリ以内の海域を航行した。中国政府はこれを「不法行為だ」と批判しているが、米国は、「国際法が許す限り、世界中のいつでもどこでも、飛行し、航行し、作戦活動を行う」(アシュトン・カーター国防長官、2015年5月28日シャングリラ会議での演説にて)という従来の立場を崩しておらず、両国の立場は平行線をたどっている。
南シナ海での米国の対応をめぐる米国内の議論は対中認識の厳しさの反映
この米海軍駆逐艦の航行は、目新しいものではない。今回実施された「航行の自由プログラム(Freedom of Navigation Program, FON)」は、米国務省のホームページによると、1979年から実施されており、その目的は「米国は国際社会が持つ公海上の航行および飛行の自由に対する権利を抑制するような一方的行為を受け入れない」という意思を表明することにある。
南シナ海で中国が建造を続ける人工島から12カイリ以内の海域を航行することで米国は、中国のこの地域での活動を黙認しているわけではないというメッセージを発するべきだ、という議論は、この数カ月、米国内で活発になってきた。9月18日に連邦議会の上院軍事委員会で「アジア太平洋の海洋安全保障」をテーマに公聴会が行われた際に、冒頭でジョン・マケイン上院軍事委員長が行った「(海洋の自由という原則に対する)米国のコミットメントを最も明確に示すのは、南シナ海で中国が領有権を主張するエリアから12カイリ以内を航行して見せること」という発言は、アメリカが今後もアジア太平洋で指導力を発揮し続けるべきだと考える人の多くの気持ちを代弁したものだ。
特に、共和党議員や保守系論客の間では本稿冒頭で引用した「(米国は)「国際法が許す限り、世界中のいつでもどこでも、飛行し、航行し、作戦活動を行う」という発言をカーター国防長官が今年5月に行ってから、航行の自由作戦がこの海域で行われるまで実に5カ月を有したことに対するオバマ政権の対応の遅さを批判する声がこの1、2カ月強くなってきている。
前述の9月18日の公聴会では、公聴会が開催された時点で、米海軍が、中国が領有権を主張する海域、特に人工島から12カイリ以内での航行を2012年以降行っていなかったことに対して、マケイン上院議員が「12カイリ以内に入らなければ、実質的に中国の領有権を認めていることと同じではないか」と主張し、公証人として出席したデイビッド・シアー国防次官補やハリー・ハリス米太平洋軍司令官と厳しいやり取りを交わした。
このように南シナ海における中国の行動により強い姿勢で臨むことを米政府に求める国内の雰囲気は、現在の米国の対中認識が厳しさを増していることの証左でもある。そもそも、上院軍事委員会のアジア太平洋小委員会ではなく、本委員会でアジア太平洋の海洋安全保障をテーマにした公聴会が開催されること自体、めったにあることではない。
9月下旬、習近平国家主席の訪米が国賓待遇だったことについても、ドナルド・トランプ氏、ジェブ・ブッシュ元知事やマルコ・ルビオ上院議員をはじめとする複数の共和党大統領候補から強い批判が出た。また、10月26日の米海軍駆逐艦の人工島12カイリ以内の海域の航行についても、CNNをはじめとする主要メディアでかなり大きく取り上げられているが、これも、2016年大統領選挙や中東情勢がメディアの関心の大勢を占めている現在では珍しい現象だ。米国内で厳しい対中認識が定着しつつあることを示唆するものだろう。
今後の焦点は何か
それでは、南シナ海の人工島をめぐる米中の対立についてこれから見ていくとき、注目すべき点はどこにあるのだろうか。
第一に、米国の今後の動きである。国防省はすでに、今回の航行がこの地域での航行としては最後のものにならない旨を明らかにしている。今後は、中国が領有権を主張する他の地域や、フィリピンやベトナムなど、中国以外の国が領有権を主張する地域でも、今回のように航行の自由作戦の一環として航行することになるだろう。これがどのくらいの頻度で行われるか、行われる場合、どのようなアセットを用いて行うのか、などに注目すべきだろう。
第二に、中国の反応である。今回の航行については、習近平主席の訪米の前後の時期から、ジョン・リチャードソン海軍作戦部長をはじめとする国防省・米軍の幹部が様々なところで「南シナ海での航行の自由作戦実施の可能性」に時間をかけて言及を続けた。これは、そうすることで実際に航行したときの対応について考える時間を中国政府に与え、現場の部隊の過剰反応を防いだ、という見方もある。
しかし、今後、米軍が南シナ海における航行の自由作戦を継続する場合、中国が例えば、現在、抑えている7カ所以外にも、さらに建造物を構築する場所を見つける、あるいは、まだ終わっていない建築活動のペースを上げる、などの対抗措置に出てくることは十分に考えられる。また、南シナ海での米軍の行動に対抗して、例えば、東シナ海や、より米国本土に近いアラスカ付近に再び現れるといった行動に出てくるかもしれない。
いずれの場合も、米軍と人民解放軍の正面衝突には発生しないまでも、緊張が高まる可能性は十分にある。
またに、米国が今後、航行の自由作戦に、地域の同盟国やパートナー国への参加を求める可能性が出てくることも当然、考えられる。米海軍だけが航行の自由作戦をしていると、中国との緊張が高まる一方だ。むしろ、多国籍の有志でこの活動を行い、中国の行動に不満を持つ国がいかに多いことを示すことで、地域での中国の外交的孤立化を目指す方が現時点での政策としては合理的だ。
米軍との共同行動、同盟国同士やパートナー国同士での行動など、組み合わせはいろいろ考えられるが、今回の米国の行動に支持を表明した国を中心に、そのような打診が来る可能性は高いだろう(今、すでに内々に打診されている可能性もあるだろう)。
日本はすでにオーストラリアやフィリピンと共に、「米国の行動を支持する」という立場を政府として表明している。明確な発言を避けている韓国と比較すれば、米国の目には頼もしく映る。しかも、米国では、先般の海上自衛隊の観艦式で安倍総理が、戦後、日本の総理としては初めて、米空母に降り立ったことや、観閲式の様子などが報じられたばかり。
米政府の幹部クラスでは、4月の総理の議会での演説、直前の日米防衛協力の指針の改定、安全保障法制の制定などを通じて日本がこれまで一貫して打ち出してきている「積極的平和主義」「国際秩序の維持のために努力する国」によって、日本も南シナ海での「航行の自由作戦」のような活動に、躊躇なく参加できるようになったというイメージを持っている人が圧倒的に多いだろう。米海軍が海上自衛隊と南シナ海で共同演習を行うことが最近、報じられたばかりだが、このような対応を取ればとるほど、米側の期待値は上がっていく。
しかし、現時点では、実際に共同パトロールを米国から求められた場合にすぐに対応できるかは、南シナ海情勢が今般成立した安保法制で定められた「重要影響事態」や「存立危機事態」に該当するという認定を国会がするかどうかにかかっている部分が出てくるため、どういう形でなら自衛隊が参加できるのかは不透明だ。しかし、日本のこの事情を実際に理解している人は米政府の中でも少ない。
「支援の表明は口だけだったのか」と言われるようなことがないよう、日本は、これまで以上に、東南アジア諸国の海上保安庁や海軍の能力構築など、自衛隊や海上保安庁による訓練の提供など、今すでにできることにより一層、力を入れるべきだろう。少なくとも、南シナ海情勢における対応が、日本のアジア太平洋地域の安全保障でどのような役割を果たす覚悟があるのかを問うリトマス試験になってしまうような事態だけは避けなければならない。
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