【第1章】ようやく対中防衛策の第一歩を踏み出した防衛省
最大射程400キロ以上の空対艦ミサイルを開発
北村淳
2019.3.21(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55827
空対艦誘導ミサイル(XASM-3)。射程を400キロメートル以上に延伸する新たな開発が行われる。写真は超音速空対艦誘導弾用推進装置に関する研究時のもの(出所:防衛装備庁ホームページ)
防衛省が最大射程距離400キロメートル以上の航空機発射型空対艦ミサイルを開発する方針を決定したと報じられている(参考「『相手の射程外から攻撃可能』戦闘機ミサイル開発へ」読売新聞、など)。遅ればせながら、スタンドオフミサイル(敵のミサイルの最大射程圏の外側から敵を攻撃するミサイル)の取得に踏み切るわけである。
日本は空対艦ミサイル(ASM)のみならず可及的速やかにスタンドオフミサイルを手にしなければならない状況に陥っているのであるから、国防当局の決定は極めて妥当であるといえよう。ただし、スタンドオフ空対艦ミサイルを日本で開発した方が早く手にすることができるのか? 輸入した方が早く手にすることができるのか? という問題は別の論点である。
直視されてこなかった中国海洋戦力の脅威
スタンドオフASMを手に入れる決定を防衛省が行ったということは、中国海洋戦力が「張子の虎」などではなく深刻な脅威になっていることを公式に認めたということを意味する。
中国海洋戦力が「虚仮威し(こけおどし)にすぎない」と考えたがる傾向は日本だけでなくアメリカ軍当局者たちの間にも存在していた。
中国海洋戦力の情報分析を主たる任務にしている米海軍情報局関係者の多くは、すでに10年ほど前から中国海洋戦力(海軍艦艇、空軍航空機、海軍航空機、ミサイル、海軍陸戦隊、海警局巡視船、海上民兵)が強化されている状況を機会あるごとに警告してきた。筆者が属するグループを含めて少なからぬシンクタンクなどでも、中国海洋戦力が自衛隊はもとより米海軍などにとっても極めて深刻な脅威となるとの予測分析を提示し続けきた。
(本コラム2013年12月12日「中国の『張り子の虎』空母が生み出す将来の脅威」、2015年1月29日「『日本の海自にはまだかなわない』謙遜する中国海軍の真意とは?」、2016年1月28日「日米両首脳はなぜ中国の脅威から目を背けるのか」など参照)
しかしながら米軍当局や多くのシンクタンクなどでは、「どうせ中国の艦艇や航空機などは見せかけだけで、米海軍や米空軍と比較するにも及ばない代物に違いない」と考えられており、中国の海洋戦力が米海軍とその同盟軍にとって深刻な脅威になると分析していた「対中強硬派」の警告には、あまり耳を貸そうとはしなかった。
何と言っても、その当時、アメリカの主敵はアルカイダなどのイスラム原理主義テロ集団であった。そのため、ワシントンDCの軍首脳や政府首脳それに政治家にとって、中国海洋戦力の脅威などは関心ごとではなかったのだ。
そのような状況であったからこそ、太平洋沿岸のアメリカの同盟国や友好諸国の海軍が2年ごとにハワイを中心に集結して実施されている多国籍海軍合同演習「RIMPAC(リムパック)」に、仮想敵海軍である中国海軍を参加させることになってしまったのである。
(本コラム2013年7月18日「『中国封じ込め』にブレーキをかけるアメリカ海軍」参照)。当然「対中強硬派」は猛反発し、公の場で中国による対日攻撃「短期激烈戦争」の可能性まで公表するに至ったが、無駄であった(本コラム2014年2月27日「『中国軍が対日戦争準備』情報の真偽は?足並み揃わない最前線とペンタゴン」参照)
しかし、リムパックでの中国海軍の行動や、南シナ海に人工島まで築いて軍事化を強化する動きなど、さすがのアメリカ国防当局や政府首脳も中国海洋戦力の強大化に危惧の念を抱き始めた。
(本コラム2014年7月24日「ホノルル沖に出現した招かれざる客、中国海軍のスパイ艦『北極星』」
さらに2017年には東アジア海域で米海軍艦艇が続けて4件も衝突事故を起こし多数の死傷者を出すに至って、アメリカの海軍力は大丈夫なのか? という危惧が表面化してきた。それと連動するように、「対中強硬派」を煙たがっていた陣営も、中国海洋戦力の強大化が「張子の虎」などと言っていられない状況に至っていることをいよいよ受け入れざるをえなくなってきたのである。
(本コラム2018年5月31日「とうとうリムパックから閉め出された中国海軍」、2019年1月3日「そろそろ現実を直視せよ、米中の海軍戦力は逆転する」参照)
中国海軍など「張子の虎」!?
このような米軍関係者たちの中国海洋戦力に対する認識の変化が日本国防当局が伝染したのかどうかは定かでないが、スタンドオフASMの開発という方針は、もはや現在の自衛隊海洋戦力では中国海洋戦力に対応しきれないと判断したからに他ならない。
もっとも、中国の隣国である日本では、アメリカ以上に中国海洋戦力を「見かけ倒しの虚仮威し」とみなす、というよりはみなしたがる傾向が強い。そのような感情は、軍事音痴の多くの政治家たちや国民の間に幅広く浸透してしまっているようである。
そのため、中国軍の新鋭艦艇や新鋭航空機をはじめとする各種装備は「アメリカの兵器の猿真似で、外観はそれらしいが、中身は空っぽのようなもので恐るるに足りない」「いくら中国が多数の戦闘機や軍艦を作り出しても稼働率が低い上、将兵の練度も低い。練度も高く稼働率も高い自衛隊の相手ではない」といった論調がまことしやかに語られ、拍手喝采されている。
しかし、すでに中国海洋戦力の脅威を真剣に直視し出した米軍関係者やシンクタンクなどでは、「中国軍艦や中国軍用機の稼働率」あるいは「中国軍将兵の練度」などが話題に上がることは皆無に近い。
かつて日本と戦った際、「猿真似の日本軍戦闘機などまともに飛べるのか」とバカにしていたマッカーサーの米フィリピン防衛軍は日本軍に完膚なきまでに叩きのめされ、米軍史上最大の敗北を喫した。このような歴史の教訓をもとに、米軍では敵の稼働率や練度などは米軍と同等と考えているのだ。
それでも「攻撃兵器」などと言っていられるのか
スタンドオフASMの開発に踏み切る日本国防当局の方針に対して、おそらく日本では、またぞろ長距離ミサイルなどは「周辺諸国に脅威を与える」「専守防衛に合致しない攻撃的兵器だ」といった批判が向けられるであろう。
しかし、そのような批判を口にする前に、2020年のオリンピック・パラリンピック終了時期における日中の戦力差を直視すべきである。その頃、日本の航空自衛隊の戦闘機保有数はF-35Aが20機ほど、F-2が87機、F-15J(近代化された機体)が102機、F-15J(近代化できない機体)が99機、合計308機である。それに対して中国軍は、空自の近代化できないF-15Jと同等以上の性能を有する戦闘機(戦闘攻撃機、戦闘爆撃機を含む)を空軍が少なくとも898機、海軍が少なくとも320機、合計1218機以上保有していることになる。
現代戦では重要性が著しく高まっている無人航空機に関しては、中国軍と自衛隊では比較することすらできない状況だ。現代の国際標準では軍用無人航空機とは呼べないレベルの無人ヘリコプターしか保有していなかった自衛隊は、ようやく無人航空機の重要性に気がつき、アメリカから無人偵察機グローバルホークを3機調達することになった。これに対して中国では数百社にのぼるベンチャー企業が無人航空機の開発と売り込み競争を繰り広げており、中国軍は少なくとも6000機以上の無人偵察機と無人攻撃機を保有している。
戦闘機や無人機だけではない。早期警戒機、電子戦機、空中給油機、爆撃機、それに潜水艦、攻撃原潜、航空母艦、“中国版イージス”駆逐艦、ミサイルフリゲート、高速ミサイル艇などが航空自衛隊や海上自衛隊の戦力を圧倒しているだけでなく、日本各地を灰燼に帰すことができる長距離巡航ミサイルと弾道ミサイルを6000発以上手にしているのだ。
中国軍による対日短期激烈戦争の概念図
このような状態でも、スタンドオフASMの開発が「周辺諸国に脅威を与える」「攻撃的兵器」などと本気で口にすることができるのであろうか?
防衛省の方針はベストな方策の1つ
すでに中国軍に大差をつけられてしまっている軍用機や軍艦の戦力を挽回し、逆転するにはかなりの年月と莫大な予算が必要だ。その間、中国海洋戦力の脅威に対抗するためにベストな方策の1つは、今回防衛省が打ち出したスタンドオフミサイルを身につける方針である。
ただし、スタンドオフASMだけでは、戦闘攻撃機数がわずか87機と少ないために、不十分である。陸上自衛隊にもスタンドオフ地対艦ミサイルを装備させ、海上自衛隊にもスタンドオフ艦対艦ミサイルを装備させ、国防当局が打ち出したスタンドオフミサイル戦力を身につける方針をより徹底して実施していくことが急務といえよう。
【管理人より】「相手(仮想敵国)に脅威を与える」兵器装備でなければ効果的な「抑止力」にはなりません。
軍事兵器の性能だけの問題ではなく、要は優れた軍事兵器を担保にして、いかに政治、外交に活用するのかが重要であると思います。
共産中国(人民解放軍)や朝鮮人民軍を侮るなかれ。
軍事組織は、兵器の性能よりも、持てる兵器装備を活用してどのような合理的な戦術を駆使してくるのか、厳正な規律を保持徹底できて、一貫した行動をとることができるのか、が強さの基準になるかと思います。我が国自衛隊は、なぜか「国防軍」というネーミングを許そうとすると意味不明な批判が国会で起きてきて案がつぶされますが、国防軍として必要な規律や軍事組織としての行動は備えています。そう信じたいです。組織として完結した軍隊は、そう簡単に崩れません。
必殺技(戦闘ドクトリン)の研究、開発を怠らない。
かつて戦国時代の風雲児といわれる織田信長は、有名な桶狭間の戦いの前哨戦である村木城攻撃の際に、当時新兵器の火縄銃を連続射撃で攻城兵器として運用するドクトリンを開発し実践していました。それから時が経ち、武田勝頼と雌雄を決することとなる長篠の戦いにおいて、信長は火縄銃を攻城兵器としてだけでなく、陣地防御としての運用(防御兵器」として運用するドクトリンを開発して挑んでいました。
どんなに優れた戦闘ドクトリンでも、時代によって「賞味期限」があるものです。いつも同じやり方で確実にターゲットを始末できる必殺仕事人のようにはいかないでしょう。いつも新しいアイディアを出し合い、研鑽を重ねることが不可欠となります。
【第2章】国防のための重要なチョークポイントとなる宮古島の「軍事要塞化」をめぐるジレンマ
宮古島の軍事要塞化に募る懸念 有事に「島中が敵の標的」リスクも
2019/03/21 17:00
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/宮古島の軍事要塞化に募る懸念-有事に「島中が敵の標的」リスクも/ar-BBV2sn9?ocid=spartandhp
© Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 3月中に開所する上野野原の隊庁舎では、軟弱地盤や空洞が見つかっている(撮影/ジャーナリスト・桐島瞬)
宮古島への陸上自衛隊配備が2019年3月中に始まる。だが島が軍事要塞化していくことへの島民の懸念は消えない。
* * *
「3月2日、平良港に100台ほどの陸上自衛隊車両と50人ほどの隊員を乗せた船が入ってきました。いよいよ来たかという感じです」
宮古島への陸自配備に反対する市民で作る「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の清水早子事務局長は、怒りを含んだ声でそう話した。
沖縄は名護市辺野古だけでなく、宮古島もまた国防のために政府に翻弄されている。宮古島など南西諸島への陸自部隊配備は、2013年12月に閣議決定された防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画で打ち出された。中国の海洋活動の強化や核・ミサイル開発を進める北朝鮮の動きを念頭に、空白地域となっている南西諸島に部隊やミサイル配備を進めるのが狙いだ。
計画では、奄美大島、宮古島、石垣島に、警備部隊、地対艦(空)誘導弾部隊を合わせて合計2千人規模で配備を進める。このほか与那国島には、すでに16年3月から160人規模の沿岸監視隊が置かれている。
宮古島に造られるのは2カ所の施設だ。島の中央部に近い上野野原に隊庁舎、東側の保良鉱山跡地に弾薬庫や射撃訓練場を置く。このうちの隊庁舎がほぼ完成し、今月26日には開所式が開かれる予定だ。
だが、問題も多い。防衛省が調べた建設現場の土質調査結果を琉球大学工学部の複数の研究者などが分析したところ、地盤の硬さを示すN値がゼロでマヨネーズ状だと分かった。同じ軟弱地盤は、米軍普天間飛行場の移設先となる名護市辺野古の建設現場でも表面化し、改良工事を行うことが決まったばかり。
土質調査資料を分析した土木技術者の奥間政則氏が説明する。
「700トンの燃料保管施設が置かれる地下部分に、軟弱地盤と空洞が見つかりました。島には活断層が走り地震が多いため、揺れで施設が傾くなどのリスクがある。島の水源は地下ダムですが、地震で燃料タンクが損傷して油漏れが起これば、深刻な影響を及ぼすことになります」
また、これから工事が始まる保良地区では、防衛省の住民説明会が行われるより前の17年12月に部落会が建設に反対する決議を出している。昨年11月には防衛省との間で交渉が行われたが、納得できる説明は得られなかった。保良地区で基地に反対する住民の会の活動をする下地博盛氏が言う。
「基地から保良の集落まではわずか200メートルほど。弾薬が暴発したら住民が身の危険にさらされます。ところが、防衛省に弾薬の保管量や集落との安全が保たれる保安距離を尋ねても『機密に触れるから具体的な内容は言えない』の一点張り。建設容認など到底できません」
さらに清水氏は、島の軍事要塞化に危機感を募らせる。
「内閣府は平良港を大型クルーズ船が接岸できるよう整備することにしましたが、これは米軍の護衛艦が接岸できるようにするためだとも言われています。上野野原の隊庁舎には弾薬を保管することも最近分かりました。軍事施設が広がれば有事の際に島中が敵の標的になる。建設容認派は声を上げても変わらない現状に諦めただけで、本音は反対の人が多いのです」
一方、防衛省は軟弱地盤について、「関係法令に基づいて適切な建設工事をしている」と安全性を強調。隊庁舎の弾薬庫は「警備に必要な小銃弾などを安全に保管するための保管庫。誘導弾を保管する弾薬庫は整備しない」(報道室)と話す。
沖縄県議で宮古島の自衛隊配備の問題に取り組む亀浜玲子議員が言う。
「防衛省は当初、造成工事だけ進めると話していたが、納得いくような住民説明もしないまま結局は基地を造ってしまった。建設ありきのこうした姿勢を許すことはできません」(ジャーナリスト・桐島瞬)※AERA 2019年3月25日号
【管理人】今時誰だってリアルな戦争などしたくないし、家の近所に軍事施設ができるとなると小さからず不安がわきおこるものでしょう。この宮古島の場合が自衛隊・防衛省ですから、原発の場合と同様に基地を作るなら、見返りをもらってもバチはあたらないでしょう。
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