2018年4月28日土曜日

南シナ海の軍事情勢 ~共産中国の野望~

米海軍提督の危惧「海洋戦力は次第に中国が優勢に」

急変してしまった南シナ海の軍事情勢
北村淳
南シナ海で米空母「セオドア・ルーズベルト」から戦闘機を発動させる兵士ら。米海軍提供(2018411日入手)。(c)AFP PHOTO /US NAVY/MICHAEL HOGAN/HANDOUTAFPBB News

 中国の“科学者”の団体が、「南シナ海での科学的調査研究活動をよりスムーズに行うために、これまで『九段線』によって曖昧に示されていた南シナ海における中国の領域を、実線によってより明確に表示するべきである」という提言を行い始めた。おそらく、中国共産党政府や中国人民解放軍などが九段線を実線に書き直した地図などを公表した場合の国際的反発を避けるために「科学的理由」を持ち出したものと考えられる。いずれにしても、中国が南シナ海の8割以上の広大なエリアでの軍事的優勢を手にしつつあることへの自信の表明ということができるだろう。
中国の地図に明示されている九段線
海軍力を誇示し合う中国と米国
 2018年3月末には、中国海軍が南シナ海に航空母艦を含む43隻もの艦艇を繰り出して、「南シナ海での軍事的優勢は中国側にある」との示威パレードを行った。
 これに対抗して、トランプ政権はセオドア・ルーズベルト空母艦隊を南シナ海に派遣し、中国大艦隊の示威パレードに対抗する措置をとった。これまでトランプ政権はFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)を断続的に続けることにより、フィリピンや日本などの同盟国に対して「アメリカは南シナ海情勢から手を退いたわけではない」というアリバイ表明を続けるに留まっていた。だが、FONOPは通常1隻の駆逐艦が中国が自国領と主張している南沙諸島や西沙諸島の島嶼沿岸12海里内海域を通航するだけであるため、軍事的な示威活動とはなっていなかった。
 それに反して数十機の戦闘攻撃機を搭載した原子力空母を中心とする空母打撃群を南シナ海に展開させることは、「アメリカ海軍は南シナ海から引き下がったわけではない」という軍事的姿勢を示す行動と見なせる。
威力が衰えつつある米海軍の空母戦力
 しかしながら米海軍関係者からは、「米海軍空母部隊が深刻な脅威になっているのか?」という疑問が浮上している。かつては米海軍空母打撃群が出動してきたならば、中国海洋戦力は「なりを潜め」ざるを得なかった。だが、その状況は大きく変化した。とりわけ、中国本土から突き出た海洋戦力前進拠点としての海南島からさらに1000キロメートル以上も隔たった南沙諸島に7つもの人工島を建設して、それらを軍事拠点化してしまったという状況の南シナ海では、「米空母神話」は崩れつつある。
 南シナ海とりわけ南沙諸島の軍事情勢は急変してしまった。まもなく中国軍は、人工島のうちの3つに建設された航空基地に、米空母打撃群数個部隊に匹敵する航空戦力を配備することが可能になる。そして人工島には強力な地対艦ミサイルや地対空ミサイルが設置されて、南沙諸島周辺海域に近寄ろうとする米海軍艦艇や航空機を威圧する。また、中国本土から発射して米空母を撃沈する対艦弾道ミサイルの開発改良も順調と言われている。それらの攻撃力に先行して、すでに人工島には多数の各種レーダー装置が設置されつつあり、中国側の南沙諸島周辺海域の監視態勢は万全になりつつある。
 監視レーダー装置だけではない、南シナ海上の敵側艦艇や敵航空機のレーダーをはじめとする電子装置を妨害するための電子妨害システムも、人工島基地群に持ち込まれたようである。機密性の高い電子戦情報のため公表されているわけではないが、南シナ海に展開している米空母艦載機などは、すでに中国側の電子妨害を被っているようである。そのため、米軍側も電子戦機を繰り出して反電子妨害戦を開始しなければならない状況に立ち至っている、と言われているありさまだ。
中国のプロパガンダ動画に描かれた対艦弾道ミサイルによって撃沈される米空母
次期アメリカ太平洋軍司令官の危惧
 
フィリップ・デービッドソン海軍大将(出所:米海軍) 

 このような南シナ海における「中国海洋戦力による優勢」に関して、南シナ海や東シナ海を含むアジア太平洋戦域を統括する次期アメリカ太平洋軍司令官(現在はハリー・ハリス海軍大将)に指名されているフィリップ・デービッドソン海軍大将は、「これまでのような状況が続けば、南シナ海での米軍側の劣勢は否めない状態である」と連邦議会の司令官指命審査質疑に対して回答している。
 デービッドソン提督は議会に対して、「アメリカ太平洋軍は現状のままではアジア太平洋戦域での責任を果たすことはできない」「同戦域での責任を果たすためには、潜水艦戦力、スタンドオフ・ミサイル戦力(敵ミサイルの射程圏外から敵を攻撃する空対空ミサイル、空対艦ミサイル、艦対艦ミサイル、地対艦ミサイルなど)、中距離巡航ミサイル戦力、海上輸送戦力、航空輸送戦力、巡航ミサイル防衛能力、空中給油能力、通信能力、航法制御能力、ISR(情報・監視・偵察)能力、指揮統制能力、サイバー戦能力などを著しく強化し、ロジスティックス分野の非効率を解消する必要がある」といった趣旨の証言をしている。要するに、現代の海洋戦に必要なほとんどすべての分野で、中国海洋戦力が優勢を手にしつつあることを次期アメリカ太平洋軍司令官は危惧しているのだ。

 デービッドソン海軍大将をはじめとする米軍側の危惧についての詳細は、稿を改めて紹介することとしたいが、日本では森友・加計問題や官僚の不祥事などで不毛の外交安全保障が続いている間に、そして北朝鮮問題に気を取られている間に、日本の安全保障そして国民経済にとっては生命線ともいえるエネルギー資源搬送シーレーンが通過している南シナ海の軍事的優越者がアメリカから中国へと移行しつつあるのだ。

南シナ海で中国空母艦隊が軍事演習2018

ASEAN首脳会議、南シナ海「早期結論期待」 
中国の管轄権めぐり攻防へ
 【シンガポール=吉村英輝】東南アジア諸国連合(ASEAN)は2018428日、シンガポールで首脳会議を開く。終了後の議長声明は、一部加盟国が領有権を争う南シナ海問題で、平和的解決を目指し中国と協議中の行動規範について「早期の結論」に期待を表明する見通しだ。ただ、中国は独自の「九段線」などを根拠に同海の管轄権の主張を続け、軍事拠点化を推進する構えを崩していない。攻防の終わりは見通せない。
 先月に発行された中国の学術誌『科学通報』は、新たに発見された1951年の中国の古地図で、南シナ海の全域がU字線で囲まれていたことから、「南シナ海での中国の主権を完全に示すものだ」とする研究者らの論文を掲載した。
 中国のこの主張は新しいものではない。1940年代に当時の中華民国政府が引いた11本の境界線は、中華人民共和国が引き継いで9本に修正した「九段線」となり、近年に南シナ海の管轄権主張に使われた。
 中国は、この「九段線」が具体的にどこを含むのか明確にせず、インドネシアなどとの対立を避けてきたが、この古地図を理由に、領有権の主張をより明確に打ち出す可能性がある。
 もっとも、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年、「九段線」を含め、中国の南シナ海における主権主張は、歴史的にも根拠がないと裁定している。
 豪ニューサウスウェールズ大のセイヤー名誉教授は、このタイミングでの中国研究者の“新発見”発表が、行動規範をめぐる協議の「著しい頓挫」を招きかねないとする。
 ASEANと中国は昨年、行動規範の策定で合意し、年内にも具体的な条文を策定するとして協議中だが、ASEANが求める法的拘束力を中国は否定したまま。「九段線」の議論を蒸し返せば、中国にはさらなる時間稼ぎとなる。
 ASEANの昨年の議長国フィリピンは、中国からの経済援助の見返りに、仲裁裁定の「棚上げ」に応じた。一方、今年の議長国シンガポールは、一貫して「法の支配」を重視する立場で、中国の望み通りの議論は期待しにくい。
 海洋安保に詳しい、ラジャラトナム国際研究所(シンガポール)のコリン・コー氏は、中国が行動規範に求める効果は「南シナ海問題への第三者の介入の阻止」と指摘。「中国を国際法に従わせる力が不在という状況は変わらない」と指摘する。

〈管理人〉国際社会は南シナ海の共産中国の「権益」を認めない。しかしそれを徹底できる、実行力を担保できていない。周辺国は共産中国に対してNOを徹底できない事情があるようです。対して共産中国側は、どんなこじつけでも歴史的な根拠を提示してきて、昔から「共産中国の海域」ということを示す。一ついえるのは、昔は少なくとも中国共産党の南シナ海の海洋権益は「九段線」のようには存在してないだろ、ということです。

海自の護衛艦いずもを航空母艦にする!?
できれば東シナ海、南シナ海への我が国の軍事プレゼンスは向上するか?


護衛艦「いずも」、F35Bなどの運用に「高い潜在能力」防衛省調査
 防衛省は平成30年4月27日、海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」に関し、米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bなどの航空機を搭載して運用できるかの調査報告書を公表した。報告書はいずもの航空機運用能力について「高い潜在能力を有する」と評価する一方、運用には船体の改修などが必要なことも指摘した。
 調査は、いずもを建造したジャパンマリンユナイテッド(東京)に委託し、昨年4月から今年3月にかけて行われた。
 調査対象は、F35Bのほか、いずれも米国製の固定翼無人機「RQ21」、回転翼無人機「MQ8C」の3機種。それぞれに必要な改修項目や工期、費用などが記載されている。F35Bについては、臨時の発着艦や補給、格納などを想定して調査した。ただ、防衛省は「いずもの性能や調査企業のノウハウが明らかになる」として、報告書の大半を非開示とした。
 F35Bは航空自衛隊が導入したF35Aの派生型。短距離の滑走で離陸し、垂直着陸できるため、短い滑走路での運用や艦載に適しており、空自が導入を検討している。


 いずもは海自最大の護衛艦。ヘリ9機を同時運用でき、艦首から艦尾までつながる飛行甲板を持つ。防衛省は戦闘機などが離着陸できるよう改修して「空母化」を検討している。いずもが空母機能を持てば、海洋進出を強行する中国や、核・ミサイルの脅威が続く北朝鮮への抑止力や対処力が高まると期待される。野党は「専守防衛の範囲を超える」と反発している。

〈管理人〉我が国と台湾が海軍力を強化してアメリカと緊密な連携を保ちながら軍事プレゼンスを発揮していくことが、抑止の一つにはなるんでしょうが、だからといって完成し、使用している南シナ海の島嶼基地を捨てて撤退させるまでは難しいでしょう。「海はみんなのもの」なんですけどね。


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