2018年4月7日土曜日

米中戦争の時代 ~フィリピンと台湾は共産中国の海洋覇権戦略の橋頭保!?~

中国軍首脳、3日で台湾を占領できると豪語
メッセージは日本にも向けられている
北村淳
台湾・花蓮の陸軍基地で毎年恒例の軍事訓練を行う台湾軍の兵士ら(2018130日撮影)。(c)AFP PHOTO / Mandy CHENGAFPBB News

 トランプ政権は「国家安全保障戦略」や「国防戦略概要」などによって、中国との対決姿勢すなわち「中国封じ込め」へと戦略を変針した。そしてトランプ大統領はティラーソン国務長官を解任し、強硬派といわれているポンペオCIA長官を新国務長官に据えた。引き続き陸軍中将マックマスター国家安全保障担当大統領補佐官を解任し、後任に対中強硬派かつ新台湾派のボルトン前国連大使を据えた。さらに、アメリカ政府高官による台湾訪問を解禁するための「台湾旅行法」を制定した。 このような動きに対して中国人民解放軍首脳は、中国軍は3日間で台湾を占領することができると台湾と米国を恫喝している。
全面攻撃による軍事占領は現実的ではない
 南京軍区副司令員、王洪光中将によると、中国軍は6種の戦い方(火力戦、目標戦、立体戦、情報戦、特殊戦、心理戦)を駆使することにより、台湾を3日で占領してしまうことができるという。
 王洪光の主張が掲載された「環球時報」は中国内外の一般向けプロパガンダ色が強い中国政府系メディアであるため、王洪光は「中国軍が台湾を占領する」という単純なシナリオをぶち上げたものと考えられる。
 しかしながら、王中将が豪語するように中国軍が3日で台湾を軍事的に制圧できる能力を保持しているとしても、そうした全面的な台湾侵攻作戦を実施するとは考えにくい。 実際には、中国軍が侵攻占領部隊を台湾に送り込む「立体戦」の準備段階として、大量のミサイル攻撃や砲爆撃(「火力戦」)によって台湾側の軍事的・戦略的拠点を徹底的に破壊(「目標戦」)した段階で、台湾軍には組織的反撃能力がなくなってしまう。中国政府はこの機を捉えて台湾政府に降伏勧告を突きつけ、台湾島内での地上戦を回避しようとするだろう。
 中国政府にとっては、台湾を併合することが究極目的である。将来統治する土地で地上戦を繰り広げるのが得策でないことは、古今東西の歴史が物語っている。
「戦わずして勝つ」が中国の伝統
 現時点でも、中国軍は中国本土から台湾に打ち込める短距離弾道ミサイルを8001000発、長距離巡航ミサイルを1000発以上は保有している。また、それらに加えてミサイル爆撃機や駆逐艦、それに潜水艦などから発射する対地攻撃用ミサイルも数百発保有している。
 そのため、米軍関係戦略家たちの間で「短期激烈戦争」と呼ばれる、中国軍による敵(台湾や日本)に対する各種ミサイル集中連射攻撃により、3日といわず半日で敵の軍事拠点や戦略拠点は徹底的に破壊されてしまうだろう。台湾には、中国による短期激烈戦争を跳ね返すだけの軍事力は備わっていない。また、「台湾関係法」によって台湾が侵攻された場合に備えて軍事的対抗能力を用意することを公言している米国といえども、そして、対中封じ込め戦略に転じたトランプ政権といえども、米中戦争を前提とした対中国軍事行動を即座に発動することは考えにくい。したがって、現状では、中国が台湾に対して短期激烈戦争を発動した場合、台湾は数時間にわたるミサイル集中攻撃によって中国の軍門に降る確率が極めて高いといわざるを得ない。
 ということは、中国側にとっては、なにも実際にミサイルを発射する必要はない。「短期激烈戦争を発動する」と台湾政府を脅して、中国側の要求(とりあえずは「台湾の軍事外交権を中国共産党に明け渡せば、そのほかの自治的統治権と資本主義経済システムの維持は保証する」という要求)を台湾政府に呑ませることが可能になりつつあるのだ。「孫子」の伝統に立脚する中国軍事戦略にとって、「戦わずして勝つ」ことこそ最優先事項である。
台湾の危機は日本の危機
 中国政府にとっては、もちろん台湾を完全に併合してしまうことが理想である。だが、古今東西の数多くの事例から、軍事侵攻を経た後の占領統治が容易ではないことは明らかだ。
 そこで、「短期激烈戦争を発動する」という脅しによって台湾の軍事外交権を手中にし、香港マカオのような一国両制に持ち込めば、軍事的には「戦わずして勝つ」ことになる。なんといっても、台湾に中国人民解放軍の航空基地や海軍基地を設置するとともに各種ミサイル部隊を配備すれば、南西諸島とりわけ先島諸島は中国軍の各種ミサイルの射程圏内にすっぽり収まり、台湾から飛来する中国軍爆撃機や攻撃機のほうが沖縄から飛来する自衛隊機よりも「距離の優位」を手にすることになる。また、台湾東部に中国海軍基地を設置し、潜水艦や水上戦闘艦を直接太平洋に送り出せるようになれば、沖縄周辺海域の日米海軍艦艇を東シナ海側と西太平洋側から挟撃することも可能になる(下の図)。
中国海軍は直接太平洋に出動できるようになる

 日本の国防にとっては、台湾が中国人民解放軍に占領されて完全に中国に併合されてしまおうが、台湾政府が「短期激烈戦争」発動の脅しに屈して中国政府に軍事外交権を明け渡してしまおうが、いずれにしても極めて深刻な状況に直面することになる。王洪光中将のメッセージは、台湾とアメリカに対してだけではなく、日本にも向けられているのだ。



【管理人より】共産中国にとって台湾は、東シナ海と南シナ海という海域両方に同時に睨みをきかせられる地政学的に重要なポイントとなります。こういうチョークポイントととしての場所は、武力行使して破壊すれば、再建しなければならないためコストがかかることがあり、「戦わずに」人的、社会的インフラを使えた方が都合がいいわけです。人民解放軍による台湾への上陸戦闘はありえないとみますが、昨今のアメリカの対中戦略を考えると台湾総督府の姿勢いかんによっては、周辺島嶼への威嚇的な上陸戦はありえるように感じます。
「小国は大国に勝てない」という戦略上の要諦から考えると経済的なデメリットを覚悟してまで武力戦争に訴えるとは思えません。共産中国は三戦とサイバー攻撃という形で台湾の取り込みを図るのではないでしょうか?

フィリピンは、共産中国の「忠実な同盟国」になる予感が・・・。

南シナ海に〝不沈空母〟出現、フィリピンを籠絡した中国

水谷竹秀 (ノンフィクションライター)
 フィリピンの有力英字紙「Philippine Daily Inquirer」は201825日、南シナ海南沙諸島で中国が実効支配する7つの環礁の空撮写真を掲載した。いずれも2017年下半期に撮影されたもので、滑走路やレーダー施設などが建設され、中国が進める軍事化が完成間近にある様子が明らかになった。この報道を受け、フィリピン国内では野党議員や識者の間で安全保障上の懸念を示す声が強まり、中国から経済援助を引き出す見返りに軍事化を黙認していたドゥテルテ政権の外交政策に批判が集中した。
 筆者が同新聞社から入手した写真によると、少なくともスビ礁とミスチーフ礁には数千メートル級の滑走路が設置され、レーダー施設のほか、格納庫や灯台、15階建ての建造物が多数並んでいるのが分かる。


中国の軍事拠点化が進む南沙諸島のスビ礁。写真手前には数千メートル級の滑走路もある (写真・INQUIRER.NET/PHILIPPINE DAILY INQUIRER

 国内外に波紋が広がる中、フィリピンのロケ大統領報道官は会見で報道陣に対し、「中国が埋め立てによって軍事化を進めていたことはすでに熟知しており、特にニュースではない」と一蹴し、7つの環礁以外に実効支配を拡大しないと中国が確約した点を重視し、軍事化に抗議しない考えを示した。
 南沙諸島でフィリピンが実効支配する地域を管轄するカラヤアン町のビトオノン元町長は2年前、海外メディアとともに小型飛行機で南シナ海の上空を飛んだ経験がある。その時に見た光景を基に、筆者の取材にこう語った。
 「(中国が実効支配する)スビ礁、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁などを上空から眺めた。すでに埋め立てが進んでおり、滑走路や複数の建物を見た。上空を旋回中、中国側から『侵入禁止区域であるため直ちに引き揚げろ』と無線で警告を受けた。船で南シナ海を横断した時も中国艦船から妨害を受けた」
 南沙諸島の領有権を巡ってフィリピンと中国の緊張が高まったのは、アキノ前政権下の20124月。ルソン島中部の西方沖約230キロの海上にあるスカボロー礁で、両国の艦船が2カ月以上にわたりにらみ合いを続けた。フィリピン政府は翌13年、領有権問題の平和的解決に向け、国際仲裁裁判所に中国を相手取って提訴したが、同年後半にはすでに、中国が実効支配する7つの環礁で埋め立てが始まったとされる。


(出所)各種資料を基にウェッジ作成
(写真3点・INQUIRER.NET/PHILIPPINE DAILY INQUIRER) 


 仲裁裁判所は20167月、南シナ海ほぼ全域に主権が及ぶと主張する中国の境界線「九段線」について、「中国が主張する歴史的権利には法的根拠はない」とする判断を下した。これで中国による軍事化に歯止めがかかるはずだった。しかし、中国と対峙(たいじ)してきた前政権に代わり、20166月末に発足したドゥテルテ政権は、それまでの親米路線から親中へと舵(かじ)を切っていた。
 ドゥテルテ大統領は、漁民のスカボロー礁での操業再開に加え、中国から巨額の経済援助を受けることと引き換えに、南シナ海問題を事実上棚上げした。この結果、中国はすでに埋め立てを行っていた7つの環礁の軍事化を着々と進めた。これまでにも米国のシンクタンク戦略国際問題研究所による空撮写真の公開でその進捗(しんちょく)状況は明らかにされてきたが、今回のInquirerの報道で軍事拠点の規模や整備の様子がより詳細に明かされた。海事分野に詳しいフィリピン大学のバトンバカル教授は、「中国の軍事化を黙認したドゥテルテ大統領の思惑は中国からの経済援助だ。しかし、中国がこれまでに表明した巨額のインフラ整備事業は何一つ行われていない。フィリピン政府は譲歩しすぎだ」と批判した。
 フィリピンは201610月、中国からインフラ建設支援など総額240億ドルという巨額の経済援助の約束を取りつけた。その内実についてジェトロアジア経済研究所企業・産業研究グループ長代理の鈴木有理佳氏は、「240億ドルのうち、約150億ドルは民間企業の投資が大半で、実現性は不透明。インフラ整備に関しては、案件の確定に時間がかかっているようで、現時点で着工に至ったものはない」と語る。
 中国からの援助としては、銃器類の供与や昨年5月に紛争が勃発(ぼっぱつ)したミンダナオ島マラウィの復興支援(300万ドル)などが挙げられるが、同教授によると、南シナ海問題の棚上げに比べればフィリピンが受けた利益ははるかに少なく、「不公平な取引」だという。しかし、ロケ大統領報道官は、スカボロー礁におけるフィリピン人漁師の活動再開や、中国人観光客や中国からの投資増などを挙げ「両国の互恵関係を発展させ、わが国民に明らかな利益をもたらしている」と述べている。
「フィリピンを中国の州に」大統領発言に批判続出
 Inquirerの報道から2週間後、ドゥテルテ大統領による発言がまたもや物議を醸した。マニラのホテルで開かれた、中華系フィリピン人が集まるビジネス会合でドゥテルテ大統領は、スカボロー礁に実効支配を拡大しないと約束した習近平国家主席を称賛した上で、こう発言した。
 「フィリピンを中国の一つの州にしよう。中華人民共和国、フィリピン州」
 会場からは失笑を買い、その中には趙鑑華(ジャオジャンファ)駐比中国大使の姿もあった。これはリップサービスとみられるが、政治家や有識者からは「フィリピン人を侮辱しているようで、到底受け入れられない」「国家の尊厳を失わせる発言で、一国の大統領として恥ずかしい」などといった批判が続出した。


両国の友好関係は、ドゥテルテ大統領が所属する政権与党、PDPラバンの活動にも及ぶ。同党党首のピメンテル上院議員率いる一団は昨年、中国福建省を訪れ、中国共産党員と親交を深めていたことが明らかになっている。東アジアの国際政治を専門にするデ・ラ・サール大学のデ・カストロ教授は、「大統領は中国のような権威主義体制を望んでいる。自身も『独裁者』と認めているように、メディアからの監視をはじめとしてチェック・アンド・バランスを極度に嫌う。だが、大統領の中国寄りの思想と国民の認識の間にはズレもある」と指摘する。
 民間調査機関ソーシャル・ウエザー・ステーションによる、フィリピン国民の関係各国に対する信頼度を調査した最新結果(175月)では、1位の米国に日本、オーストラリアが続き、中国はワースト2位だった。中国の軍事化には国民の間でも懸念が相次ぎ、麻薬撲滅戦争など国内政策ではドゥテルテ大統領が高支持率を維持する裏で、外交政策は賛同を得られていないという現状が透けて見える。ドゥテルテ批判の急先鋒、アレハノ下院議員は「大統領は、中国との良好な関係をアピールし、『中国も地域の安定を望んでいる』と持ち上げているが、それは一時的にすぎない。中国は最終的に、南シナ海全域を支配するだろう」と危機感を募らせる。
 中国の軍事化が連日メディアで騒がれている中、フィリピンを訪問中の米海軍幹部は2月半ば、海外の報道機関に対し、「人工島における中国の軍事拠点に阻まれることなく、米軍は南シナ海上での航行を続ける。国際法はこの地域におけるわが国の航行、そして飛行を認めている」と語った。
 米国のイージス駆逐艦が1月半ば、スカボロー礁の領海に侵入したことで国際社会に再び緊張が走った。中国外務省の報道局長は、中国の主権と安全に損害を与えたとして「強烈な不満」を表明。中国はその対抗処置として南シナ海で戦闘機による「戦闘パトロール」を実施した。こうした米中間の抗争について、日本国際問題研究所主任研究員の小谷哲男氏は、「中国は米軍が航行の自由作戦を行う度に、これへの対抗を口実にさらに軍事化を進めるが、米国は航行の自由作戦を止めるわけにはいかない。米中とも軍事衝突を望んではいないが、不測の事態が起こる可能性は高まる」と分析する。
 米駆逐艦によるスカボロー礁の領海侵入では、ロケ大統領報道官が「比は米中間の問題に立ち入りたくない」と発言し、あくまで米中間の争いとの認識を示した。だが、中国と良好な関係を築くドゥテルテ政権の任期は2022年まで。次期政権が親中路線を継承するとは限らない。仮にアキノ前政権と同じく親米路線に軸足を戻した時、南シナ海を巡る現在の〝均衡〟状態は大きく崩れ始めるだろう。

※「米中戦争」は軍事的なものとは限りません。共産中国の度重なる知的財産権侵害に苦しむアメリカはどうでるか?軍事の前に「経済戦争」

米国の「貿易戦争」は意外と合理的かも

塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

 米国は、中国が知的財産権を侵害しているとして、対中制裁関税を課することを検討しています。「知的財産権の侵害をやめろ」「米国の対中国貿易赤字を1000億ドル減らせ」「そうしないと、600億ドル相当の対中輸入に高い関税をかけるぞ」と言っているわけです。それと並行して、鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限する措置を発動しています。トランプ大統領が支持者である製造業労働者のご機嫌をとっているが、それは米国や世界の利益にならない、というのが一般的な理解でしょう。経済学の教科書を読めば、誰でもそう考えるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。

【関連記事】

米、技術移転の強制懸念 中国の知財侵害「4つの手口」

2018/3/25 21:00 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2855745025032018FF8000/
情報元
日本経済新聞 電子版
【ワシントン=鳳山太成】トランプ米政権は中国の知的財産の侵害を巡って制裁措置を発動する方針を決めた。背景にあるのは電気自動車など国際競争が激しい分野で中国に先端技術を奪われたとの懸念だ。外資規制に伴う技術移転の強制や技術を盗むためのサイバー攻撃を特に問題視し、年間500億ドル(約5兆2000億円)の損失を被ったと主張する。

米国は、韓国から譲歩を引き出した
 上記とは別に、米国は韓国との間でFTA(自由貿易協定)の再交渉を行って、妥結しています。韓国のウォン安誘導を禁じる為替条項を盛り込むなど、米国の圧勝と言えるでしょう。その背景には、トランプ大統領が米軍の韓国からの撤退をほのめかすといった強面の交渉姿勢があったようです。このあたりは、トランプ大統領が商売人である事による交渉術なのでしょう。本当に米軍を引き上げる用意があったのか否かは筆者にはわかりませんが、「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅すことにより、相手が折れれば、「戦わずして勝つ」ことが出来るのですから、極めて有効な戦略と言えるでしょう。
 ただし、この戦略が成功するためには、相手が「あいつだったら本当に喧嘩を始めるかもしれない」と怯えることが必要です。米国の大統領が「普通」だったら、「韓国との喧嘩で1でも痛みが生じるなら喧嘩はやめよう」と思うでしょう。韓国からそれを見透かされたら、米国の交渉は失敗したでしょう。でも、米国の大統領がトランプ氏であったため、韓国はビビったのです。
対日鉄鋼輸入制限も、交渉の道具と理解
 トランプ大統領は、鉄鋼の輸入制限の相手国として、日本を適用除外していません。「日本は同盟国なのに、バカにされている」等々のコメントが聞こえて来ますが、筆者はそうは思いません。
 第一に、日本の対米鉄鋼・アルミニウムの輸出額は年間2000億円程度と少額です。したがって、仮に発動されても日本経済への影響は極めて限定的です。それで日米関係が大きく悪化することはなく、トランプ大統領としては「同盟国であっても巨額の対米貿易黒字を稼いでいる日本は課税対象にした」という断固たる措置を支持者にアピールできるわけです。もちろん、日本が様々なお土産を持って訪米して課税の撤回を願い出るのを待っているだけだ、という可能性も大きいでしょう。その場合でも、「日本から大幅な譲歩を引き出した」と支持者にアピールできるので、大満足でしょう。
 現在の国際情勢を考えても、米中が長期的な視野での軍事的な緊張を強めつつあり、日本の同盟国としての重要性が長期的に増していくことが明らかな時に、本格的に日本との貿易戦争を戦って日本の世論を反米にするのは得策ではありません。したがって、日米は「適度な落とし所」を水面下で探っているということだと思われます。

米中貿易戦争にトランプ大統領はどこまで本気か
 米中貿易戦争についても、対韓国と本質は同じです。米国は中国に対して「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅しているわけです。対韓国では在韓米軍の引き上げが選択肢でしたが、対中国では米中全面貿易戦争が米国の選択肢です。
 米国の対中国輸入は中国の対米輸入より遥かに大きいので、米中間の貿易が止まると中国の輸出が激減し、米国より遥かに大きな打撃を受けるでしょう。加えて、米国は中国からの輸入品を国内で作ることができますが、中国は米国からの輸入品を国内で作ることができず、日欧から輸入せざるを得ません。そもそも人件費の高い米国から輸入しているのは、自分で作れないからです。米国が中国から輸入しているものが「自分でも作れるが、中国の方が安いから」というのとは事情が異なるのです。あとは、米国がどこまで本気なのか、ということですね。どこまでの「お土産」で手を打つつもりなのか。本気で米国が頑張るつもりならば、中国が相当真剣に著作権保護の仕組みを作る必要があるでしょうが、それは容易なことではなさそうです。あるいは、「それができないなら、北朝鮮に核を放棄させろ」という事もありそうです。それも中国にとって容易なことではなさそうですが。
 ただ、トランプ大統領の対中強硬姿勢が支持者向けのポーズである可能性も否定できません。その場合には、中国からの「お土産」が包装紙だけになるかもしれません。たとえば「著作権保護法を作る」けれども、国内では法律違反を取り締まらない、といった具合です。
 対米貿易黒字を減らすのはさらに簡単です。中国がカナダから輸入しているものを、米国にある中国の商社がカナダから輸入して中国に輸出すれば良いのです。米国の貿易赤字も失業も減らないけれども、米国の対中国赤字は確実に減るわけです。まあ、実際には「包装紙だけ」ということはなく、ある程度の中身は伴ったものになるのでしょうが、いずれにしてもそれで米中貿易戦争が防げるのであれば、世界経済は安泰でしょう。
 上記のように考えると、トランプ大統領が「メチャクチャな米国ファーストで世界の自由貿易体制を崩してしまう」といった懸念は、杞憂かもしれないですね。もちろん、上記が誤っていて、本当に貿易戦争が始まってしまう可能性も否定はできませんが。何といっても「相手が屈することを前提として脅してみる」ほど、危険なことはありませんから


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