【第1章】
中国船、もはや遠慮なくベトナム漁船に体当たり
中国が生きた手本を示している島嶼奪還の困難さ
北村淳
2019.3.14(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55735
西沙諸島のディスカバリー礁(華光礁)周辺で操業していたベトナムの漁船が、2019年3月6日、中国船に衝突されて沈没した。ベトナムのメディア(Tuoi Tre)によると、漁船に乗っていた5名は漁船の残骸にしがみつき2時間ほど海面を漂っていたところをベトナム漁船によって救助されたということである。
中国側メディア(中国共産党新聞網)が伝えた中国外交当局者の発表によると、ベトナム漁船から救難信号を受信した中国公船が直ちに現場海域に急行したところ、ベトナム漁船が沈没しつつあったため、中国の海洋捜索救難センターに通報し、中国救助船が派遣されたということである。
中国当局は、5名のベトナム漁民は救助されたとしているが、ベトナム漁船と衝突した船についての情報や、ベトナム漁船を救助したのは中国救助船なのかベトナム側の報道のようにベトナム漁船なのか、などの詳細については明言していない。
多発する衝突“事故”
西沙諸島海域、そして南沙諸島海域でのこの種の衝突事故による沈没事故は近年増加しているという。ベトナム漁船が中国船に衝突されて沈没した事例はしばしば報道されている。だが、報道されている“事故”は氷山の一角に過ぎない。ベトナムからの留学生(軍事情報研究のために渡米している)が米海軍関係者に語ったところによると、「毎週のように衝突事件が繰り返されていると言っても過言でない状況である」ということだ。
西沙諸島や南沙諸島での領域紛争で軍事的優勢を掌握しつつある中国当局は、これらの海域で海上民兵が操船する漁船を多数操業させ、ベトナム漁船やフィリピン漁船などに脅威を与えている。
アメリカ海軍などが“第3の海軍”と呼ぶ海上民兵たちは、南シナ海での中国の主権を守る“任務”に従事することが、自らの漁業権益を確保することに直結するため、積極的に任務を遂行することになるのだ。
そして海上民兵の漁船群の周辺には、“第2の海軍”である中国海警局の各種巡視船が「安全操業の確保と違法操業の監視」に当たっている。それらの周辺は、“第1の海軍”である中国海軍艦艇が警戒監視に当たっている。
それだけではない。西沙諸島のウッディー島(永興島)、南沙諸島のファイアリークロス礁(永暑礁)、スービ礁(渚碧礁)、ミスチーフ礁(美済礁)には航空基地が設置されているため、海南島や中国本土から飛来する中国海軍機は心置きなく南シナ海の警戒監視活動を実施できるような状況になっている。
ディスカバリー礁(華光礁)とウッディー島(永興島)の位置
このように、南シナ海における中国の圧倒的な軍事的優勢がほぼ確立している。そのため、西沙諸島や南沙諸島で“毎週のように繰り返されている”衝突事故は、報道されないどころか報告すらされない状態になりつつあるとのことである。
なぜならば、ベトナム当局が中国側に強く抗議すると、さらに衝突事故が頻発する結果となってしまうからだ。政府間の対応は八方塞がり状態に陥っているというわけだ。
静観するしかないベトナム当局
実際にベトナム漁船と衝突事故を起こすのは中国公船ではなく民間の漁船である。その漁船が海上民兵によって操船されていても、偽装漁船でも軍艦でも公船でもなく、あくまでも漁船である。したがって、ベトナム当局が中国側に抗議しても、漁船同士の衝突に関して中国政府には責任はないと言われればそれまでだ。
おまけに強行に抗議するとさらに衝突事故が起きてしまうため、ベトナム側としては衝突事故を表沙汰にして騒ぎ立てても無意味どころか逆効果である。結果的に静観するしかなくなってしまっているのだ。
もちろん、ベトナム側が中国の海洋戦力に痛撃を加えられるレベルの海洋戦力を保持していれば、中国側としてもベトナム漁民を圧迫する“作戦”は差し控えざるを得なくなる。
だが、ベトナムの戦力は地上軍に偏重している。ベトナムは陸続きの中国からの軍事侵攻に備えて比較的強力な地上軍(ベトナム陸軍、国境警備軍)を備えている。中国軍としても、そう簡単にベトナム軍を打ち破ってベトナムに進行できるとは考えていないはずだ。しかしながら、西沙諸島や南沙諸島のように海域で作戦行動を実施する海洋戦力となると、ベトナム側が圧倒的に劣勢であり、手も足も出ないという状態に近いのだ。
島嶼の奪還は至難の技
1974年に南ベトナム海軍と中国海軍が戦闘を交えて中国側が奪取した西沙諸島は、それ以降、中国による実効支配が続いている。西沙諸島の中心となっているウッディー島(永興島)には軍事拠点だけでなく“中国の領域”である南シナ海の行政を司る政庁まで設置されており、中国の領土としての体裁が完全に整っている。
このような状況でベトナムが西沙諸島の主権を取り戻すには、再び中国海軍と戦闘を交えて、力づくで奪い返すしか方法はない。しかし、比較することすら無駄なほど海洋戦力に差が生じてしまっている現状では、そのような可能性はゼロに近い。
西沙諸島での事例は、日本にとって決して対岸の火事ではない。西沙諸島や南沙諸島にしろ尖閣諸島にしても、また中国との間に限らず竹島や千島列島にしても、ひとたび島嶼を完全に占領されてしまうと、それを取り戻すには軍事力を用いて奪還する以外には方法がない。その現実を、中国は南シナ海で、日本をはじめとする国際社会に教示しているのだ。
そして、島嶼奪還のための戦闘が極めて困難な軍事作戦となるのは必至である。島嶼周辺に限定された局地戦には留まらずに全面戦争に発展しかねないことを覚悟しなければならないのである。
〈東シナ海尖閣諸島沖合 中国漁船衝突事案〉~あの時と同じだぜ~
※何度見ても腸が煮えくり返る場面です。共産中国の「海上民兵」の手口(戦術)ですね。
〈管理人より〉
平成22年の時の東シナ海で我が国海上保安庁の巡視船に中国漁船が体当たり攻撃をしてきた事例が毎日続いていると考えていいですね。
あの時勇気ある海保の職員がとった行動が、時の民主党政権を狼狽させ、共産中国のごまかしを白日の下にさらしました。非軍属を使った海洋侵略の手口は共産中国の常套手段であるということを世界中肝に命じるべきでしょう。
南沙諸島をめぐる「第二次中越戦争」とでも呼んでもいいような海洋有事に対して、海上民兵という非軍属を使って平然と侵略戦争をしかけてくる共産中国に対して、どうベトナムの国益を守るか?
元海保職員の一色氏が東シナ海漁船衝突事案の時に義憤にかられてとられた行動を思い出してみましょう。「インターネットへの情報公開」です。相手国の軍隊に効果的反撃をさせることなく侵略するためには、民間人を活用してくる、という共産中国の侵略戦争の実態を動画におさめてネット動画に投稿していきましょう。相手に言い訳させずにおいつめるのです。共産中国に対しては、情報公開という手段を効果的に駆使した「情報戦」で勝利せよ! 共産中国にファイナルカットを突きつけていきましょう。
共産中国の身勝手な覇権侵略に対して私たちは何ができるというのでしょうか?
共産中国の身勝手な覇権侵略に対して私たちは何ができるというのでしょうか?
中国と粘り強く戦うベトナム、日本ができること
岡崎研究所
2018年6月15日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13023
2018年5月31日、安倍晋三総理は、国賓として来日中のベトナムのチャン・ダイ・クアン主席と日越首脳会談を行い、その後、日越共同声明が発表された。42項目、約8頁にわたる様々な分野における日越協力を記した共同声明のうち、特に、安全保障分野に関する主要点を紹介する。
海洋国家、日本とベトナム
・両首脳は、日本とベトナムが海洋から非常に貴重な恩恵を受けている海洋国家で あることを認識しつつ、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持及び強化を通じて、地域において平和、安定及び繁栄を確保するために協力する決意を共有した。
・両首脳は、日本国海上保安庁の船艇の寄港等を通じ、海洋安全保障協力を更に強化することを確認した。安倍総理は、ベトナムの海上法執行能力の向上のための支援を継続する日本の意図を表明した。クアン国家主席は、日本による中古及び新造巡視船の供与を高く評価した。安倍総理は、ベトナム側の具体的な要望を踏まえ、総合的な海洋政策についての日本の知見及び経験を共有する用意がある旨を表明した。
・両首脳は、南シナ海における情勢に対して引き続き懸念を示した。両首脳は、
平和、安全保障、安全並びに航行及び上空飛行の自由の維持、自制及び法的・外交的プロセスの完全な尊重を通じた海洋における紛争の平和的解決、海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)を含む国際法の尊重、並びに南シナ海に関する行動宣言(DOC)全体の完全かつ実効的な履行の重要性を改めて表明した。両首脳はまた、非軍事化の重要性を強調し、現状を変更し、又は南シナ海における状況を複雑化させ得るいかなる一方的行動もとらないよう関係国に求めた。両首脳はまた、南シナ海行動規範(COC)に関する交渉の進展を認識し、包括的かつ実効的なCOCの重要性を強調した。両首脳は、地域の平和及び安定を確保するため、このような外交的取組がUNCLOSを含む国際法の完全な遵守及び平和で安定した南シナ海の実現につながる べきであるとの認識を共有した。
「自由で開かれたインド太平洋戦略」
・安倍総理は、日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略」につき説明した。両首脳は、インド太平洋地域及び世界における法の支配、平和、安定、協力及び繁栄を確保するため、国連憲章及び国際法の遵守並びに国家の独立及び主権の尊重に基礎付けられた自由で開かれた秩序の重要性を強調した。両首脳は、この目的に資する貢献及び取組を歓迎した。安倍総理は、日本がその外交政策においてベトナム及びASEANを重要なパートナーと考えていることを再確認し、協働していくためにベトナム及びASEANを支援していく日本の意図を新たにした。
北朝鮮問題
・両首脳は、2018年4月に開催された南北首脳会談を含む、朝鮮半島に関する諸懸念の包括的な解決に向けた、最近の前向きな進展を歓迎した。両首脳は、国際的な協力及び関連する国連安保理決議に基づく義務の完全な遵守の重要性を強調するとともに、地域と世界の平和、安全、安定、協力及び発展のため、関係当事者が朝鮮半島の完全な、検証可能な、かつ不可逆的な非核化を含む課題の平和的・外交的解決
を目指す取組を継続することの緊急性を確認した。両首脳はまた、拉致問題を直ちに解決するための協力を強化することに対するコミットメントを再確認した。
幅広い分野の防衛協力
両首脳は、両国の防衛大臣により2011年10月に署名された「日本国防衛省 とベトナム社会主義共和国国防省の間の防衛協力及び交流に関する覚書」及び2018年4月に署名された「日本国防衛省とベトナム社会主義共和国国防省の間の次の10年に向けた日越防衛協力に関する共同ビジョン声明」に基づき、防衛分野における協力を強化する意図を共有した。両首脳は、日本国自衛隊の艦船及び航空機のベトナ
ム訪問を含む軍種間交流を強化し、人材育成、防衛装備品・技術、航空機による捜索・救難、防衛医学、国連平和維持活動、サイバーセキュリティ、人道支援・災害救援等 の分野における協力を促進することで一致した。
【上記出典:外務省「クアン・ベトナム社会主義共和国国家主席の国賓訪日の際の日ベトナム共同声明 」、2018年5月31日】
【上記出典:外務省「クアン・ベトナム社会主義共和国国家主席の国賓訪日の際の日ベトナム共同声明 」、2018年5月31日】
今回のベトナムのクアン主席の国賓としての来日は、昨年の天皇皇后両陛下のベトナムご訪問を受けての返礼でもあり、また日越外交樹立45周年の祝賀の意味合いもあった。
日本は、自由で開かれ、国際法秩序に基づく海洋を維持するという普遍的価値を米豪英仏等と共有している。そして今、この価値観とヴィジョンを、ベトナムとも共有する。南シナ海で中国と領有権を争っているベトナムであるが、中国は一方的に人工島を建設し、そこを「防衛」という名目で軍事化している。中国を刺激しないように、「中国」という固有名詞こそ上げないが、中国を意識して、日本がベトナムを支援し、ベトナムも日本に感謝していることは、明らかである。
ベトナムは海洋のみならず、陸でも中国と国境を接している。かつて中越国境紛争もあった。ある時、ベトナムの外交官が話してくれた。山にある中越国境線上に「平和の門」が設置された。中国とベトナムそれぞれの兵士が監視していたが、中国は、毎日、その「平和の門」を少しずつベトナム側に移動させてくる。すなわち、中国は、徐々に徐々に自国の領土を広げてきた。ベトナム側は、負けじと毎日、その「平和の門」を元の位置に戻したと言う。この話を聞いたのは確か1998年頃であり、今より約20年も前である。ベトナム人は辛抱強いのだろう。そして、おそらく、ベトナム戦争で大国の米国を「名誉の撤退」に追いやったように、大国に対しても毅然と戦う粘り強さを持ち合わせているのだろう。
日本は、そのベトナムを様々な角度から支援している。特に、南シナ海をめぐる海洋安全保障の分野では、すぐに軍事衝突にならないように、海上保安庁の役割が大きくなっている。以前、ベトナムの海上警察はベトナム海軍に入っていたが、それを別組織にして海上保安庁のような組織を創設することは、日本が知見を与えたものである。巡視艇供与はハード面の支援であるが、こういうアイデアを出すというのは、目に見えにくい日本のソフト・パワーであろう。今後も、日本の海洋大国としての知見や経験は、インド太平洋地域の中小諸国に、多々役立つことだろう。そうすることで、国際社会が求める「自由で開かれた海洋」が保たれるのだろう。
脱韓国へ、対中作戦で米陸軍・海兵隊が陸自と一体化
米朝首脳会談後の大きな変化、喫緊に求められる日本の複眼思考
用田 和仁
2019.3.12(火)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55716
比首都マニラの北方に位置するサンバレス州サンアントニオで行われた合同訓練で、南シナ海に面した海岸を走行する自衛隊の水陸両用車(2018年10月6日撮影)。(c)TED ALJIBE / AFP〔AFPBB News〕
1 日本の生死に無関心でいいのか
2回目の米朝首脳会談が終わっていろいろな議論があるが、日本では米朝首脳会談が失敗か成功かの論評ばかりが語られ、そこを起点として日本はどう朝鮮半島情勢に対応していくのか、どう中国に立ち向かっていくのかの具体的な議論がなされないのは残念だ。
相変わらず国会は日本にとって死活的重要なアジア情勢について深く分析し、対応手段を講じようとしない。
政治家も国民も、米国の庇護の下、この国は未来永劫続くと思っているのならば大きな間違いだ。このような時に必要なのは、複眼思考である。
2 米朝首脳会談の成果とは何か
米朝首脳会談を評価するうえで、絶対に外してはならないことがある。
1つは、どんなに北朝鮮が騒いでも、北朝鮮問題はインド太平洋地域で起きている米中対決の「前哨戦」に過ぎず、「本丸」は中国だという複眼思考である。
そして、進行中の朝鮮半島情勢が、混沌とした日清戦争前の状況に近づきつつあるとの認識だ。
2つ目は、我々は預言者ではないということだ。
将来を見通すときは1つのシナリオでなく、幅を持った複眼思考で将来を捉える必要がある。そして変化に応じプランAからプランBへ変化させていくことだ。その切り替えが難しい。
その視点から考えると1回目の首脳会談の最大の成果は、前哨戦たる北朝鮮対処一辺倒から、「本丸」中国対処に米国が本気になり、大きく舵を切ったことである。
米国が北朝鮮対処に忙殺されている間に、中国は2017年10月の中国共産党大会で、新たな目標を設定した。
これまで中国は、2020年までに東・南シナ海を排他的に支配し、2050年までに太平洋を2分割して米国から覇権を奪うことを目標としてきた。
その中間の2035年までに西太平洋における軍事覇権を確立するとの目標を設定したものであり、その意味するところは極めて重大である。
また、2018年6月の中央外事工作会議で中国独自の価値観やシステムに基づいて新たな国際秩序を作ると宣言し、中華民族の支配の下、世界に運命共同体を作ると宣言した。
これに対し米国は、大国間競争の時代に入ったとの認識を前提として国家安全保障戦略(2017年12月)や国防戦略(2018年1月)を策定し、まずその手始めとして中国に対して貿易戦争を開始したのも第1回米朝首脳会談の結果を反映していると見ることができよう。
2回目の首脳会談の成果は、現時点において、北朝鮮は核ミサイルの開発計画を全面凍結する意思がないことが国際社会に明白にされたことであり、金正恩労働党委員長が裸の王様で、国際情勢を正しく理解していなかったことが白日の下に晒されたことである。
また、今回はお友達感覚でトランプ大統領を籠絡することができるだろうと高をくくっていた認識をへし折り、米国と北朝鮮の格の違いと軍事力や情報の圧倒的な差を再認識させたことだろう。これでまた金正恩は、米国の軍事的脅威の前に立たされることになるだろう。
確かに北朝鮮の非核化の時期は遅くなっただろう。
しかし、トランプ大統領は、国際社会に北朝鮮が核を真剣に放棄せず、時間稼ぎに入ったことを説明する必要はなく、改めて米国の選択肢に軍事行動を含めることができるようになる。
今後の展開において、トランプ大統領は韓国に遠慮することなく、北朝鮮が米国はまさか情報を掴んでいるはずがないと考えていた軍事施設を奇襲的に攻撃し、金正恩を強制的に成果のあるテーブルに付かせることもあり得よう。
一方、トランプ大統領のトップダウンのやり方は、複雑な核廃棄交渉には向かないとして事務レベルに落として詰めの作業から入るべきとの意見もあるが、それは時間稼ぎをしたい北朝鮮や中国の思惑通りになってしまう。
独裁国家である北朝鮮や中国にはトップダウンで打開をしていかなければ決して解決には結びつかない。日本人流の安易な考えは捨てるべきだ。
3 2回目の会談の負の遺産
もちろん、負の遺産も明瞭になってきた。
第1に、米国は、北朝鮮にすり寄り、日本との問題を大きくする韓国を見限ったかもしれない。
2019年1月、文在寅大統領政権発足後初めて発表された韓国の国防白書では、「北朝鮮は敵」の文言が削除され、対北朝鮮作戦における「大量反撃報復(KMPR)」などの用語も消えた。
そのような韓国は、もはや米韓同盟の継続を望んではいないと考えられても仕方があるまい。
今後は米海空軍に対する反撃能力を持たない北朝鮮に対しては、軍事的合理性に基づき海空軍を主体とした打撃を柱にするつもりだ。
従って、在韓米陸軍はいずれ撤収するし、この流れを止めることはできないだろう。
朝鮮戦争前に米国がアチソンラインという防衛線を日本と朝鮮半島の間に引いたが、それが復活する。そして、日本の防衛は、南西諸島に引き続き、五島列島、対馬にその防衛拠点を拡大しなければならない。
第2は、核兵器は依然として北朝鮮に残る可能性があるし、また、短・中距離ミサイルの廃棄までは進まない可能性が大きい。しかし、米国を責めても何の意味はない。
そもそも日本の防衛を他人事として、米国による核の持ち込みすら拒否する日本の態度や、防衛に十分な投資をしなかった日本の責任である。
北朝鮮や中国に対して日本のミサイル防衛を根本的に解決するには、すでに何度か書いてきたが(「中国の日本侵略への備えを明確にせよ」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55316)、防衛大綱にあるサイバー・電磁波兵器(マイクロウエーブ兵器、電波妨害兵器)の早急な開発・装備化・日本全土への展開しかない。
これが主でありミサイルは最終手段としての従の手段である。
第3は、2回目の会談にかかわらず極めて大切なことだが、北朝鮮と本丸中国を同時に視界に入れながら、日本防衛を考えなければならないということだ。
特に複眼思考を持たない日本は、米国が中国に対して本気で戦いを挑んでいるのに対し、日本があたかも第三者として米中の仲介役を気取っているように映ることは、米国をいら立たせることになろう。
再三、中国の軍艦(公船は軍隊の指揮下に入った)が尖閣の領海を侵犯しているのに、安倍晋三首相は、繰り返し中国とは「完全に正常な軌道に戻った」とし、米国と真逆な「競争」から「協調」へと向かうとする見解は異常だ。
韓国のみならず、防衛力の格段の強化を怠る日本も見捨てられることもあることを認識すべきである。
そのような中で、昨年から陸上自衛隊と米陸軍は第1列島線沿いに対艦ミサイルによる「壁」を作る戦略と装備のすり合わせを進めている。さらに米海兵隊もこれに参画することになった。
すなわち、固定配置型の陸上主体の3軍種が、機動戦力である海空軍と一体となって、本気で「船を沈めよ」の実現に取り掛かったのである。複眼思考なくしてこの一体化は考えられない。
4 第1列島線の壁の日米による一体化
くしくもこの3月下旬、奄美大島に対艦ミサイル、防空ミサイル、普通科部隊を中核とする島嶼配置型の部隊が新編される。
2009年に非公開の陸海空自の統合演習において、対艦ミサイル部隊は初めて海を渡り、奄美大島に展開し、統合訓練を行ったのがすべての始まりだ。そしてクロスドメイン(領域横断作戦)作戦はすでに10年前に始まっていた。
その後米国では、前米海軍大学のトシ・ヨシハラ教授によって地上発射型による対艦ミサイル防衛の有効性が広められ、2015年に筆者らがCSBA(戦略予算評価センター)を訪問した時は、クレピナビッチ所長によって、列島線防衛が具体化されていた。
そこでは、米陸軍は陸自の作戦・編成を学ぶべきだと言っていたが、当時、米陸軍は頑なに拒否していたものだ。
それが、昨年、陸自と米陸軍の対艦ミサイル部隊が、米海軍のリムパック演習に参加したことは間違いなくCSBAの考えがハリス前太平洋軍司令官に伝わり、新たな海軍戦略である「打撃力の分散」と連動し「船を沈めよ」に集約され、実現したものだ。
出典:米国戦略予算評価センター(CSBA)
一方、海兵隊司令官は、上陸作戦一辺倒の考え方を変更し、「シーコントロールの戦いで海軍を支援するため、可及的すみやかに長射程対艦ミサイルを選定し配備したい」と米海軍ニュースに語った。
それをジョセフ・ハナセック海軍大尉は具体化し、地上兵力はエアシーバトルで価値を持つとして「島の砦(Island Forts)」のタイトルでプロシーディング誌(2019年2月号)に論文を発表した。
今後はINF条約が破棄されることから、米陸軍・海兵隊共に長距離対艦ミサイル保有に向かうだろう。
すでに空自が導入するLRASMは約1000キロの射程を持つF-18空母艦載機用の対艦ミサイルであるが、イージス艦からも発射可能で、また、簡単に地上発射型にも発展させることができる。
これを日本や台湾、フィリピン、ベトナムなどに配置したら、中国艦隊は東・南シナ海で壊滅するだろう。日本も早急に1000キロ射程の対艦ミサイルに改造すべきである。
出典:プロシーディング誌2019.2 ジョセフ・ハナセック大尉(赤矢印は筆者)
これは南西諸島防衛の雛形の初歩的な絵ではあるが、特筆すべき点は、対馬に対艦ミサイルを配置している点である。
中国海軍は最近日本海に進出している。
これは南西諸島を抜けて西太平洋に至るだけではなく、日本海側から東京や米軍施設を攻撃し、あるいは津軽海峡などを抜けて太平洋へ進出する危険な兆候であり、韓国配慮で対馬の対艦拠点化を躊躇してはならない。
5 北朝鮮対処と中国対処は同一線上にある
北朝鮮対応は、結局、ミサイル防衛とゲリラ(ハイブリッド戦)対処そして、韓国からの邦人救助や避難民への対応措置に集約されるだろう。
これはすべて対中対処のケースにも含まれる。
このため、日本は一番厳しい対中国対処を柱として防衛力を至急構築していくことが喫緊の課題である。
孫子は、その「謀攻篇」で「故上兵伐謀」と言っている。
これは、「戦いで最も重要なことは、敵の戦略(核心)を攻撃すること」を意味し、その格言の通り、日本の最大の狙いは、中国の拡大覇権戦略の中核である海軍、その「船を沈めよ」である。
繰り返すが、複眼思考のできない単純な判断だけは避けるべきである。
我が国が誇る88式地対艦誘導ミサイル(SSM-1)
最新・12式地対艦誘導ミサイル
我が国は、地対艦誘導ミサイルに関しては、「先進国」の部類に入るでしょう。南シナ海沿岸国とこれらの地対艦誘導ミサイルを効果的に共有して、抑止力としたいものです。
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