そろそろ現実を直視せよ、米中の海軍戦力
は逆転する
練度もメンテナンス力も低下している米海軍
北村淳
2019.1.3(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55100
南シナ海で強襲揚陸艦「LHD-1」から離陸するMV-22Bオスプレイ(出所:米海軍、資料写真)
2018年は、中国の海洋権益拡大とりわけ南シナ海での軍事的優確保が着実に進展した年であった
(本コラム参照)
トランプ政権は、アメリカの国防戦略を「テロとの戦い」から「中国やロシアとの対決」に大きく変針したが、中国の拡張主義的な海洋戦略を抑え込むことはできていない。
(本コラム参照)
南シナ海をはじめとする東アジアの海洋での軍事バランスの大変革の要因は、中国海洋戦力(海軍力・航空戦力・長射程ミサイル戦力)の持続的な増強にあることは言うまでもない。しかしながら、要因はそれだけではない。東アジア方面に展開させることができる「アメリカ海軍力の弱体化」こそが、今や東アジア軍事バランス大変動の大きな要因になっている。
数量的には米海軍を凌駕している中国海軍
東アジア方面におけるアメリカの海軍力の低下は、しばしば中国海軍との戦力の比較によって論じられている。
ごく単純な方法は、米中両海軍が保有している艦艇数の比較である。2018年12月現在で、アメリカ海軍自身が「戦闘部隊艦艇」としてリストアップしている軍艦保有数は「戦闘艦艇」が227隻、「補助艦艇」が60隻、合計287隻である(このほかにも海軍が運用している補助艦船は多数あるが、「戦闘部隊艦艇」に計上されている補助艦艇は60隻となっている)。
そして、インド太平洋を重視するという米海軍の方針では、6割を太平洋側、4割を大西洋側に割り当てることを目標にしている。この目標が達成された場合には、単純には、東アジア方面に展開して中国海軍と対峙することができる戦闘艦艇は137隻、補助艦艇が36隻、合計173隻ということになる。
一方、中国海軍は、艦艇保有数などが明確に公表されているわけではないが、上記の米海軍「戦闘部隊艦艇」に準拠して数字を割り出すと、「戦闘艦艇」が356隻、「補助艦艇」が55隻、合計411隻となる。したがって、東アジア海域(南シナ海、東シナ海、西太平洋など)での米中海軍の戦闘艦艇だけを単純に比較した場合、137対356と中国側が2.6倍ということになる。
ただし、新興海軍といえる中国海軍が近代的海軍へと成長したのは過去10年程度であり、依然として旧式艦艇を多数運用している。何をもって“旧式”そして“近代的”とみなすかに関して明確な基準はないものの、NATO海軍関係者の間での慣例に従うと、中国海軍の「戦闘艦艇」356隻のうち98隻が旧式艦艇、258隻が近代的艦艇ということになる。この数字を比較しても、中国側が1.9倍ということになるのだ。
米海軍が危惧する深刻な練度低下
もちろん、艦艇保有数の単純比較だけで戦力を論ずることはできない。それぞれの艦艇自体の性能、搭載されている兵器類、レーダーやソナーなどのセンサー類、通信・情報システムなどの種類や性能、艦艇に乗り組む将兵の練度や士気、などをはじめとする「質」を比較しなければならない。
しかしながら、人的資源や、訓練内容、士気の状態はもとより、兵器やセンサーに関してすら「質」の比較は主観的要素が入り込むため困難である(もっとも、2000年当時に米海軍と中国海軍、あるいは海上自衛隊と中国海軍を比較した場合、米海軍や海上自衛隊の質が完全に中国海軍を上回っていたことに異論を挟む余地はない)。だが、米海軍の練度がかつてより低下していることは事実だ。2017年に、米海軍太平洋艦隊所属艦艇が、東アジアの海域で大きな死亡事故3件を含む数々の衝突事故を引き起こした。海軍内部で厳重に行われたその調査報告によれば、アメリカ海軍の訓練は予算削減のあおりを受けて大きくレベルダウンしており、艦長はじめ指揮官たちの資格要件も甘くなり、海軍将兵の練度が大いに低下していることが問題視されている。それに加えて、南シナ海や東シナ海での中国海洋戦力の急激な増強に対処するため、太平洋艦隊艦艇の出動サイクルが短縮され、作戦行動中の艦内での任務量も増加しているため、いわゆる過労状態となってしまい、艦艇乗り組み将兵たちの士気も低下してしまっている。
兵器類でも猛追する中国海洋戦力
兵器類に関しても、米中の差が逆転するまでには至っていないものの、トータルで考えると拮抗状態に近づいている。
過去数十年にわたって、アメリカ海軍は航空母艦を主戦力として位置づけており、米海軍空母打撃群は米海軍そしてアメリカの力の象徴と考えられてきた。そのため米海軍は、航空母艦と空母艦隊を敵の航空機や潜水艦から守り抜くための防御システムの充実に心血を注いできた。その傑作がイージスシステムと呼ばれる超高性能防空戦闘兵器である。イージスシステムに組み込まれている防空ミサイル(SM-2、SM-3、SM-6など)も極めて性能が高い。
対空防御だけでなく、恐ろしい存在である潜水艦に対しても、艦載ソナー、対潜水艦ヘリコプター、対潜哨戒機をはじめ対潜攻撃兵器も充実させた。
しかし、水上戦闘艦艇対水上戦闘艦艇という戦闘形態は過去のものとなったと判断した米海軍は、敵水上艦艇攻撃能力にはそれほど力を入れてこなかった。一方、中国海軍にとっての主たる任務は、西太平洋から東シナ海や南シナ海に接近してくる米海軍艦艇や海上自衛隊艦艇を攻撃して、中国沿岸海域への接近を阻止することにある。そのため、水上戦闘艦艇からも、潜水艦からも、航空機からも、そして地上からも敵艦艇を攻撃する戦力の強化に努めた。
その結果、様々な種類の対艦ミサイルが誕生し、DF-21CやDF-26といった対艦弾道ミサイルまで手にするに至っている。さらには、弾道ミサイル以上の高速で敵艦に突っ込む極超音速兵器の開発では、ロシアとともに中国がアメリカに先んじているとも言われている。このように、防空力ではアメリカ海軍がリードしているかもしれないが、対艦攻撃力では中国海洋戦力(海軍、航空戦力、長射程ミサイル戦力)が、東アジア方面に展開してくるアメリカ海軍を凌駕していることは確実である。
低下する米海軍の造艦メンテナンス力
このような状況に危機感を強くした米海軍当局そしてトランプ政権は、海軍強化策を打ち出し、「355隻艦隊の建設」すなわち上記の「戦闘部隊艦艇」の数を少なくとも355隻に増強させる方針を決定し、実行に移し始めた。
単純に言うと、戦闘艦艇の建造を加速させて295隻にすることにより355隻艦隊を生み出そうという施策である。今後退役する艦艇も少なくないので、少なくとも80隻以上の戦闘艦艇を建造する必要があると見なされている。ただし、増強著しい中国海軍や今後再興が見込まれるロシア海軍などと対峙するには、355隻という目標では低すぎ、400隻艦隊あるいは500隻艦隊が必要であるといった分析も少なくない。いずれにしても、80隻ないしは100隻あるいはそれ以上の多数の軍艦を建造しなければ、アメリカ海軍が中国海軍を牽制して、東アジアでの中国の軍事的台頭を押さえ込み、同盟諸国の盟主として役割を維持することはできない。
しかしながら、現在のアメリカ自身の軍艦建造能力ならびに軍艦メンテナンス能力では、355隻艦隊の誕生には少なくとも30年を要すると言われている。
たとえば、米海軍の軍艦は、米国内の民間造船会社(インガルス造船所、バス鉄工所、ニューポート・ニューズ造船所、ジェネラル・ダイナミックス・エレクトリック・ボート、オースタルUSAなど)が建造しているが、有能な技術者や熟練工の不足傾向に苦しんでいる。現在においてすらそうした状態の造船会社が、建艦能力を飛躍的に高めることは至難の技である。それに、大艦隊を維持するためには軍艦のメンテナンスや修理が欠かせないが、そのメンテナンス能力も、頭打ちというよりは欠陥状態に直面しているのが現状である。
米海軍艦艇のメンテナンスや小規模な修理は、かつては海軍工廠と呼ばれていた米海軍造船施設(ノーフォーク、ポーツマス、ピュージェット・サウンド、パールハーバー)で実施される。ところがそれらの海軍メンテナンス施設での作業実績は極めて悪い。過去5年間で作業がオンタイムに完了した率は、各施設で45%、34%、29%、14%であり、逆に70日以上遅延した率は27%、30%、25%、40%となっている。その結果、海軍の作戦が阻害された述べ日数は、2945日、2066日、4720日、4128日という惨憺たる状況に陥っている。これらの海軍施設の設備の老朽化は進んでおり、作業員の安全対策も遅れているため、作業員の質の低下が加速している。海軍当局や議会調査局それに会計検査院などは、メンテナンス状況はますます劣化していくものと警鐘を鳴らしている。
日本は現状を直視せよ
以上のように、トランプ政権は「中国との対決」「大海軍の再建」といった威勢の良い目標を掲げているものの、実際に東アジア海域に展開するアメリカ海軍戦力が中国海軍を抑止できるだけ強力になりうるのか? という問いには大きな疑問符を付けざるを得ない。日本政府・国防当局は、上記のようにアメリカ海軍力は弱体化しているという現状を認識するとともに、その再強化には多大の困難が伴うという事実を直視する必要がある。そのうえで、これまで通りアメリカにベッタリ頼り切って、アメリカの軍事戦略に組み込まれ中国との対決姿勢を貫いていくという方針を維持し続けるのか、あるいは日本独自の防衛戦略を打ち立てそのための戦力を再構築するのか、2019年こそは真剣な議論が望まれる。
新たな在留資料と米中経済戦争 坂東忠信氏〈管理人〉米中のアジアにおける海軍力の艦艇数の共産中国の「優位性」は、北村さんの論文でよく理解できます。しかし数字で比較できることは、トランプ政権も先刻承知ずみのことであろうと思います。だからこそ軍事力以外の戦争も絡めながら「対中優位性」の確保をめざしているのではないでしょうか?
時代は今や軍事力だけで決まるわけではありません。軍事力プラス軍事力以外の国力も加味しながら国際的な戦争を考えるべきでしょう。いわゆる「ハイブリッド戦争」の時代なのです。
トランプの支持率が下がらない理由
2019年トランプ政権の行方
海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
今回のテーマは「2019年トランプ政権の行方」です。ドナルド・トランプ米大統領は、就任から3年目を迎えます。この2年間で、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」及び環太平洋経済連携協定(TPP)離脱、イスラエルの首都エルサレム移転など、次々と選挙公約を果たしてきました。その一方で、やり残している課題もあります。就任当初から続いているロシア疑惑は、ロバート・モラー特別検察官の捜査範囲が拡大し、トランプ大統領の過去のビジネス取引にすでにメスが入っているとみられています。今年は、大統領候補指名争いを戦う野党・民主党候補の「顔」が出揃います。さらに、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)問題と、90日の猶予期間が3月1日で切れる米中貿易交渉にも目が離せません。そこで本稿では、19年トランプ政権の行方について述べます。
公約の中の公約
1月3日から開催される第116議会において、共和・民主両党は米連邦政府機関の一部閉鎖の原因となったメキシコとの国境の壁建設予算を巡って、再び激しい攻防を繰り広げることが予想されます。
再選を目指すトランプ大統領にとって、壁建設は「公約の中の公約」です。昨年の中間選挙で西部モンタナ州及びアリゾナ州で開催されたトランプ集会に参加しましたが、壁建設は支持基盤からかなりの支持を得ています。
トランプ大統領は18年12月25日、「2020年の米大統領選挙までに古い壁を修復するか、新たな建設によって、国境の壁を完成する」と、大統領執務室で記者団に語りました。加えて、自身のツイッターに「国境管理が2020年の争点になる」と投稿し、次の大統領選挙において、民主党とこの問題で対決する姿勢をみせました。
是が非でも壁建設実現を1期目の成果として誇示したいトランプ大統領は翌26日、イラクに駐留する米軍部隊を電撃訪問した際、「皆さんは他国の国境を守るために戦っている。民主党は自国の国境を守ろうとさえしない」と主張しました。
これには驚きです。戦闘地域の米軍部隊に向かって、大統領が党派色を丸出しにして支持を訴えたのです。裏返せば、そこまでしても国境の壁建設で成果を上げたいわけです。
トランプ大統領の壁建設実現の強い思いはツイッターにも現れています。言葉の使い方に長けた同大統領は、国境の壁建設に猛反対する民主党の行動を「OBSTRUCTION(妨害)」と大文字で自身のツイッターに投稿しました。
実はこれには少なくとも二重の意味が含まれています。民主党を壁建設の妨害者とレッテル貼りをすることです。それと同時に、ジェームズ・コミー前米連邦捜査局(FBI)長官の解任を巡り、ロシア疑惑捜査に対する司法妨害と疑われているトランプ大統領は、有権者の目をそらすために意図的に「妨害」という言葉を民主党に向けて発信したのです。
壁の攻防
ではトランプ大統領は今年、この壁建設の問題を解決できるのでしょうか。それはかなり困難でしょう。
というのは、壁建設は民主党にとって「争点の中の争点」だからです。民主党は壁建設を阻止できれば、20年米大統領選挙において優位な立場に立てると読んでいます。
仮に壁建設が実現しなかった場合、民主党にとって来年の大統領候補テレビ討論会で公約違反だと徹底的に追及できる大きなメリットが生まれます。そこまで計算に入れて、民主党は今年、壁建設阻止にエネルギーを注ぐでしょう。
ロイター通信とグローバル世論調査会社イプソスが行った共同世論調査(18年12月21-25日実施)によれば、米連邦政府機関の一部閉鎖に関して、47%がトランプ大統領、33%が議会民主党の責任であると、回答しました。国境の壁建設費に端を発した一部閉鎖において、民主党は有利にゲームを進めており、トランプ大統領は苦戦を強いられています。
結局、新議会で下院多数派となる民主党が壁建設費の予算をつけない限り、壁の完成はあり得ません。となると、トランプ大統領の最終目的は、支持基盤に民主党と戦っている姿を演出し、票を固めることになります。
一方、来年の大統領選挙で政権奪還を狙う民主党は、「壁」を人質にとり、たとえトランプ大統領が何らかのディールを持ちかけてきても、安易には乗らないでしょう。
モラー最終報告書
モラー特別検察官は昨年、ロシア疑惑に関する最終報告書を出しませんでした。仮に今年、報告書を提出しなければ、来年は大統領選挙の年ですから、捜査結果が政治的影響を及ぼす可能性が高まります。そこで何らかの報告書を、今年出すはずです。
前述した通り、モラー特別検察官はロシア疑惑の捜査範囲をトランプ大統領の過去のビジネス取引まで広げているといわれています。それに激怒したトランプ大統領は、モラー検察官の捜査は、「大統領に対するハラスメントだ」と強く抗議しています。
世論調査で定評があるクイニピアック大学(東部コネチカット州)の調査(18年12月12-17日実施)によれば、モラー特別検察官の仕事に対して、66%の共和党支持者が「支持しない」と回答しました。さらに、同党支持者の63%が、モラー検察官の捜査に関して「公平に行われていない」と答えました。
同調査ではトランプ大統領によるモラー検察官解任を阻止する法案についても、55%の共和党支持者が「反対」と回答しています。つまり、同党支持者の間では、トランプ大統領がモラー検察官よりも支持を得ているということになります。加えて、米司法省の規定では現職大統領は起訴されません。これはトランプ大統領にとって朗報です。しかも、新議会では上院民主党の議席数は無所属を含めると47議席で、弾劾に必要な67票には到底達しません。トランプ大統領にとって、弾劾を免れる環境が整っています。
しかし、トランプ大統領にとってまったく予断を許さない状況です。同調査で全体の約7割、共和党支持者の約5割が、「現職大統領でも起訴されるべきだ」と回答しているからです。モラー特別検察官が確固たる犯罪の証拠をつかみ、最終報告書の中で「黒」と結論を出したとき、それがトランプ政権を揺るがす最大要因になることは間違いありません。
民主党下院の動き
モラー特別検察官による捜査と並行して、下院では民主党から選出された各委員会の委員長が、独自捜査を実施します。今年、特に注目する新委員長は、司法委員会のジェロルド・ナドラー議員(ニューヨーク州第10選挙区選出)と情報特別委員会のアダム・シフ議員(カリフォルニア州第28選挙区選出)の2人です。
ナドラー議員は、トランプ大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告が同大統領の不倫相手とみられる2人の女性に支払った「口止め料は弾劾できる罪だ」と主張しています。
一方、シフ議員は口止め料について、「明らかになっていれば、(16年米大統領)選挙の結果が違っていたかもしれない」と、米メディアのインタビューに答えました。そのうえで、「彼(トランプ大統領)は陰謀を指示した受益者である。(コーエン被告は実刑判決を言い渡されたのに)彼が服役しないのは、とんでもない二重基準だ」とトランプ批判を展開しました。シフ議員によれば、選挙期間中の16年6月9日、長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏はロシア人女性弁護士とニューヨークのトランプ・タワーで面会する直前に、ロシアと通話を2回しています。そこで、同議員は通信会社を議会に召喚し、通話記録を提出させると意気込みを語っています。
シフ議員はロシアがトランプ一族が経営するトランプ・オーガニゼーションのためにマネーロンダリング(資金洗浄)をしたという仮説も立てており、その点も徹底的に調査する構えをみせています。これだけみても今年は、民主党下院がトランプ大統領の疑惑に対してかなり厳しい追及を行うことが分かります。
民主党の「顔」
中西部アイオワ州党員集会に参加する可能性が高い民主党支持者を対象に、地元の有力紙デモイン・レジスター、米CNN及びメディアコムが共同世論調査(18年12月10-13日実施)を行いました。民主党の大統領候補指名争いはアイオワ州から来年2月3日に始まる予定です。
この世論調査によれば、ジョー・バイデン前副大統領が32%でトップ、続いてバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)が19%で2位、ベト・オルーク下院議員(テキサス州第16選挙区選出)が11%で3位につけています。2桁以上の支持を獲得できたのは、この3名のみでした。ところが、米ギャラップ社が実施した「最も尊敬する男性」に関する世論調査(18年12月3-12日)をみますと、バラク・オバマ前大統領が19%を獲得し、11年連続で1位、トランプ大統領が13%で2位です。出馬が予想されるバイデン前副大統領及びサンダース上院議員はともに1%で、オルーク下院議員はそれ以下です。つまり、デモイン・レジスターなどによる調査で上がった上位3人の民主党候補者よりも、トランプ大統領に対する尊敬の度合いの方が、圧倒的に強いという結果がでています。
オバマ前大統領を除くと、トランプ大統領に尊敬の度合いで対抗できる人物はミシェル・オバマ夫人のみです。ミシェル夫人は「最も尊敬する女性」で15%を獲得し、1位にランクされています。米NBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙による共同世論調査(18年12月9-12日実施)もみてみます。同調査によれば、60%がミシェル夫人を肯定的に捉えており、否定的の22%を38ポイントも上回っています。今年ミシェル夫人に対する待望論が沸き起こったとき、彼女が出馬を決断するのか、そこにも注目です。
ファーウェイと米中貿易戦争
ロイター通信が昨年12月、トランプ大統領が中国製通信機器に対する米企業の使用禁止を盛り込んだ大統領令を、早ければ今年1月に発令することを検討していると報道しました。仮にその報道が真実であれば、その意図は複数存在するとみた方がよいでしょう。
まず、ファーウェイと同じ中国通信大手の中興通訊(ZTE)製機器を米市場から排除するためです。ファーウェイの5G(第5世代移動通信システム)参入に対する米国の警戒感が働いたと見ることもできます。それらに加えて、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで昨年12月1日に開催された米中首脳会談で決定した3月1日までの90日の猶予期間に、中国側から通商協議で譲歩を引き出す思惑もあると解釈できます。
ただ、トランプ大統領の本当の狙いは違うところにあります。率直に言ってしまえば、世論形成、票の獲得及びロシア疑惑に対する米国民の意識の希薄化にあります。
中国政府とファーウェイがサイバースパイ活動で協力をしているという有権者の疑念を強化し、事実化してしまうのです。中国政府と「民間企業」の仮面を被ったファーウェイが、次世代通信機器を利用して米国政府や米企業から機密情報を吸い取り、しかも通信網を破壊できる能力まで有しているという認識を有権者の間に広めます。そうやって同社が極めて危険企業であるというレッテルを貼り、世論形成を図ります。ポイントは、中国とファーウェイに対する有権者の恐怖心を最大限煽ることです。トランプ大統領は16年米大統領選挙で、恐怖心が票につながることを充分学習しました。
上で紹介した米NBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙による共同世論調査によれば、米国民の10%が中国を肯定的に捉えているのに対して、46%が否定的にみています。中国叩きは票に直結するのです。
トランプ大統領には中国をモンスター(怪物)に、自身を米国第一主義を貫く強いリーダーに描き、民主党候補に対して高得点を稼ぐというシナリオがあります。このシナリオは、中国に批判的な議会民主党の協力も得やすいという計算に基づいたものです。
トランプ大統領は、「(前回の大統領選挙で)サイバー攻撃を仕掛けたのは、ロシアかもしれないし、中国や北朝鮮かもしれない」と述べて、ロシア疑惑から米国民の関心をそらそうとしてきました。中国政府とファーウェイが協力して、サイバースパイ活動を行っているとなれば、持論を正当化でき、しかもロシア疑惑に対する米国民の意識を希薄化させる絶好の機会も得ます。要するに、ファーウェイ問題は今年、経済的よりも、政治的意味合いが一層濃くなるでしょう。
トランプ大統領はこの2年間、共和党支持者に守られてきました。上で紹介したクイニピアック大学の調査をみますと、共和党支持者の同大統領に対する支持率は81%で、依然として高水準を保っています。
今後、トランプ大統領はモラー特別検察官によるロシア疑惑捜査に対する対抗措置として、ファーウェイ問題及び米中貿易戦争を支持率維持のための「材料」として利用し、ロシアから中国に米国民の目先を変える戦略にますます出てくるでしょう。
トランプ大統領は、19年と20年を密接に連動させています。従って、今年は来年11月3日の投票日を強く意識した言動をとるはずです。
アメリカ株、大暴落 今後の株価の見通し
我が国の経済はどうなのか?
はっきりいって昨年平成30年には、二通りの予想がありましたね。
冬が比較的暖かだったから、暖冬のときは翌年景気が悪くなる予想を前提に、10月の消費税増税により、景気の悪化に追い打ちをかけるという解釈。
もう一つは、アベノミクスの効果により労働者の失業率が下がってきていて、労働市場は人手不足になっていることを前提に、人手不足の後は「賃金上昇」の年になる、という解釈。しかし消費税増税により景気は腰をおられるから、年明けから過熱ぎみくらいに景気をあげておけ!という解釈予想。
正直どちらにいくのかわかりません。ただ一労働者の希望としては、手取りと賞与はこの好景気により、賃金上昇の年になってほしいものです。
株価が暴落しても2019年の日本経済が好調を
持続するワケ
塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
2018年12月31日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14907
今回は景気楽観派を自認する久留米大学商学部教授の塚崎公義が、2019年の日本経済もメインシナリオは好調持続だ、と説きます。
景気は自分では方向を変えない
2018年の日本経済は、特に大きな波乱もなく、概ね順調な景気拡大を続けました。株式市場は終盤にかけて混乱しましたが、実体経済は順調です。
景気の先行きを考える時に、最も重要なことは、景気は自分では方向を変えない、ということです。
「景気が拡大すると、物が売れるので、企業は増産のために労働者を雇う。雇われた元失業者は給料を受け取って買い物をするので、物が一層売れるようになる」「企業が増産のために工場を新設すると、鉄やセメントや設備機械が売れる」といったことが起きるわけです。
今回は、景気拡大に伴う労働力不足が深刻化しているため、企業が省力化投資を積極化しはじめています。安い時給で雇ったアルバイトに皿を洗わせていた飲食店が、アルバイトが集まらないので自動食器洗い機を購入しはじめた、というわけですね。
したがって、何事もなければ今後も景気の拡大が続くと考えてよいことになります。あとは外部から景気の方向を変える力が働くか否かを考えればよいのです。外部から働く力としては、財政金融政策、海外の景気後退が主なところでしょう。
じつはバブルの崩壊も、場合によっては景気の方向を変えることがあります。もっとも、今回はバブルがそもそも発生してい ないので、これについては本稿では触れる必要はないでしょう。財政金融政策と海外の景気後退の可能性について、以下では検討しましょう。
財政金融政策による景気腰折れは見込まれず
景気が拡大を続けると、インフレになる場合があります。そうなると政府と日銀が「景気をわざと悪化させてインフレを防ごう」と考えるようになります。そこで、財政金融政策で景気を抑制するのです。具体的には金融引き締めで金利を引き上げたり、急がない公共投資を先送りしたりします。
もっとも、今次局面ではインフレを抑制するための財政金融政策は考えられないので、こうした可能性については検討不要でしょう。
今次局面で検討を要するのは、消費税の増税です。もっとも、前回(5%→8%)よりも増税幅が小さく、しかも様々な景気対策も講じられるようなので、景気の腰を折るようなことにはならないと思っています。
中国の景気後退はメインシナリオだが過度な懸念は不要
米国が中国からの多くの輸入品に高率の関税を課しているわけですから、中国の景気は、後退するでしょう。日本は中国に大量の輸出をしていますから、中国の景気後退が日本の景気に悪影響を及ぼすとの懸念は当然です。しかし、米国が中国から輸入しているものが、他の途上国から輸入されることになるとすると、その途上国の景気が良くなるので、その途上国に日本からの輸出が増えることになるはずです。したがって、過度な懸念は不要です。
もしかすると、米国が中国から輸入している物の一部が、日本からの輸入に振り替わるかもしれません。そうなれば、日本にとっては漁夫の利です。それから、資源を大量に輸入している中国の景気が減速すると、世界的な資源価格が下落して、資源輸入国である日本にはメリットがあるかもしれません。そもそも中国の輸出が減った分は中国政府が景気対策を採って景気の下支えをするから大丈夫だ、という考え方もあります。いずれにしても、過度な懸念は不要だ、と考えてよさそうです。
米国の景気は拡大持続がメインシナリオ
米国の景気後退を予想する市場関係者は多いようです。しかし、これも過度な懸念は不要だと思います。最大の根拠は米国の中央銀行であるFRBが利上げを続けていることです。
FRBが景気の先行きを懸念しているのであれば、利上げを止めるか、少なくとも半年程度は利上げを先送りして様子を見るはずなのに、そうしていないわけですから、FRBは景気をそれほど懸念していないということになるわけです。そうであれば、FRBと市場関係者のどちらを信じるか、ということになります。どちらも筆者よりは米国経済に詳しそうですが、筆者はFRBを信じます。仮に筆者の予想が外れた場合には、読者各位におかれましては、筆者ではなく、FRBを批判して下さいね(笑)。
冗談はさておき、米国の景気が後退すると市場関係者が考えている根拠が、いまひとつ定かではありません。多くの株式市場参加者から聞こえてくるのは「長短金利(実際には2年物と10年物)が逆転しそうだから」というものです。過去に逆転した時は遠からず景気が後退した、というのが根拠のようです。しかし、それでは「債券市場の参加者は景気後退を予想しているようだ。それなら景気は後退するのだろう」と言っているに等しいわけで、株式市場参加者の自尊心が疑われます(笑)。
ふたたび冗談はさておき、石油ショックなどでインフレが懸念され、FRBが引き締めを行なっている時には長短金利は逆転しやすく、また景気も後退しやすいのですが、今回はそうではないので、過去の長短金利逆転時との比較は危険でしょう。
リスクを考えればキリがないが゙……
その他、欧州の景気を心配している人もいます。英国のEU離脱が何の協定も結ばれずに実行されてしまったら欧州経済が大混乱するかもしれない、フランスのデモが拡大して全土の経済が混乱するかもしれない、等々ですが、筆者が見聞きしている範囲内では、そうした可能性は大きくないようです。
中国と米国については、万が一の場合には経済が大きく落ち込んで日本の景気を腰折れさせる 可能性もありそうですが、それほど可能性が高くないことを過度に懸念しても仕方ありません。リスクシナリオについては、次回検討するとして、とりあえずは明るいメインシナリオを信じていただき、落ち着いた気持ちで正月を楽しんでいただければ幸いです。
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