2018年12月30日日曜日

さらばマティス国防長官特集 ~受け入れられなかった信念~


ついにマティス辞任でトランプがますます暴走の懸念


「同盟国に敬意を」受け入れられなかったマティス国防長官の進言

北村淳
米首都ワシントンの上院前で報道陣に囲まれるジェームズ・マティス国防長官(20181212日撮影)。(c)Thomas WATKINS / AFPAFPBB News

 トランプ政権発足時より国防長官としてトランプ大統領を支えてきたジェームズ・マティス国防長官が2019228日をもって辞任する旨を表明した。直接的な引き金となったのは、シリアからの米軍撤退というトランプ大統領の決定だった。マティス国防長官に引き続き、ブレット・マクガーク対IS(いわゆる「イスラム国」)グローバル連合大統領特使も20181231日付での辞任を表明した。アメリカはシリアにおける多国籍軍の対IS軍事作戦を主導してきた。その作戦からの米軍撤退に関しては、マティス国防長官やマクガーク大統領特使だけでなく、多くの大統領顧問たちや軍首脳たち、さらには連邦議会(共和党、民主党双方)からも強い批判が湧き上がっている。
アメリカが主導してきたシリア介入には軍事的・非軍事的な協力国が多数参加している。
また、マティス国防長官がトランプ大統領に提出した辞任に関する書簡からは、マティス元海兵隊大将と大統領の間には、シリアからの撤退という問題にとどまらず、国防政策に関する幅広い意見の相違が生じていたことが明確に読み取れる。
後任はボーイング出身のシャナハン氏

 マティス氏は2カ月間程度の移行期間が必要と考え、自身の辞任を228日と表明した。連邦議会での公聴会や、NATOの大臣級会合などすでに予定されている重要行事、国防長官の交代に伴う米軍内部の調整がスムーズに運ぶことなどを勘案した結果である。しかし、トランプ大統領は、マティス長官をはじめとするシリア撤退に批判する勢力への強固な姿勢を示すために(また、マティス長官が書簡に記した大統領に対する批判に対して我慢ならなかったためという感情も働いたと思われるが)、これまでマティス長官の下で国防副長官を務めてきたパトリック・シャナハン氏が201911日には国防長官代行に就任することをツイッターで表明した。
 シャナハン氏は軍務の経験はない。トランプ大統領によって国防副長官に任命されるまでは、政府関係機関での経験も全くない企業エグゼクティブであった。ビジネスマンとしてはボーイング社で787ドリームライナープロジェクトなどの民間航空機部門、軍用ヘリコプター部門(オスプレイも含む)、弾道ミサイル防衛部門などの要職を歴任した。マティス長官の下での国防副長官としては、国防総省内での非効率性の改善、とりわけ煩雑な官僚的手続きにメスを入れて兵器調達スピードの高速化を図る業務作業や、宇宙軍の創設といった組織改革などを推進していた。それらはともにトランプ大統領自身が固執しているアイデアであった。そのためシャナハン氏はホワイトハウス、とりわけトランプ大統領とペンス副大統領とは極めて親密な関係を維持している。
ドナルド・トランプ大統領とパトリック・シャナハン国防副長官(右)。首都ワシントンのホワイトハウスで(2017718日撮影、資料写真)。(c)Nicholas Kamm / AFPAFPBB News
同盟国への姿勢が深刻な亀裂に
 マティス長官とトランプ大統領の国防政策に関する意見の相違のうち最も根が深いのは「アメリカと同盟諸国との関係」、より具体的には「トランプ大統領の同盟諸国に対する姿勢」に関してである。 「海兵隊員の中の海兵隊員」といわれたバリバリの軍人であり、かつ戦史や戦略に関する読書量や知識量で人後に落ちることのなかった「戦う修道士」マティス長官は、同盟諸国や友好諸国との関係を安全保障・軍事戦略の視点から解釈していた。(参考:本コラム2016128「もう1つのニックネームこそふさわしい米国新国防長官」)。これは、軍人としてはごく自然な姿勢である。しかし、軍人ではないトランプ大統領は、NATO諸国や日本それに韓国などの同盟諸国の「価値」を、軍事戦略の視点からよりは金銭的視点から評価する傾向が強い。
 たとえば、トランプ大統領にとっての日米同盟の価値は、アメリカが日米同盟に関して支出する予算額と、日本側によるアメリカに対する金銭的貢献(軍事面に限らず貿易なども含めて)を差し引きして、アメリカ側が黒字になるならば、日米同盟は「良い同盟」ということになる。アメリカ側が赤字ならば、軍関係者たちが日米同盟の軍事的価値を力説しても、トランプ大統領にとっては「悪い同盟」としか映らない。 実際に、トランプ大統領のNATO諸国(とりわけドイツやフランスそれにカナダ)に対する姿勢が算盤勘定的な感覚に立脚していることは明白だ。このようなトランプ大統領による同盟国に対する姿勢に対する懸念を、マティス長官は辞任の書簡で強く表明している。たとえばマティス長官は、アメリカの強さはアメリカが同盟諸国や友好諸国との間に張り巡らされたネットワークと密接に関係している、と指摘している。また、同盟関係を維持するとともに同盟国に対し敬意を持って接しない限り、アメリカはアメリカの国益を確保しつつ自由世界の盟主としての地位を維持することはできない、とも述べている。
同盟国には敬意を払え
 マティス長官は特に「同盟国に敬意をもって接する」という点を繰り返し強調している。このような信念は、海兵隊指揮官として多くの同盟国や友好国とともに戦闘や訓練などの共同作戦に従事してきた経験からマティス長官が身につけた鉄則と考えられる。
 そんなマティス長官にとって、トランプ大統領の同盟諸国に対する姿勢は受け入れがたいものであり、アメリカを危うくするものに映っていた。そして、マティス長官が辞意を表明した直接の引き金となったシリアからの米軍撤退も、マティス元海兵隊総司令官の感覚では、シリアでともに戦ってきた多国籍軍の同志たちに対する裏切り行為ということになるのだ。これまでも、トランプ大統領はドイツ、フランス、カナダをはじめとするNATO諸国に対して暴言を吐いており、日本に対しても「真珠湾を忘れるな」といった暴言を吐いている。その都度、マティス長官は同盟諸国に敬意を持って接するよう大統領に進言してきたものと思われる。軍人からも政治家からもアメリカ国民からも同盟諸国からも最も尊敬されていたマティス長官が政権から去ることが、トランプ政権の安全保障政策に対して深刻な打撃を与えることは間違いない。それと同時に、これまでマティス長官が心を砕いてきた同盟諸国(とりわけドイツ・フランス・日本・韓国)との関係にも、トランプ大統領の価値観によって壊滅的悪影響が生ずる可能性が高まっているといえよう。
※トランプ政権の安全保障政策がぶれないことを願っています。マティス長官、中国について語る。
アメリカ海兵隊のジャングル戦のトレーニングセンターの一つは沖縄にありますね。マティス氏の思想には、海兵隊の思想が根底にあると思えます。


そして誰もいなくなった、マティス長官辞任の衝撃

「大人の枢軸」の最後の一人、トランプ政権の分水嶺に

(英フィナンシャル・タイムズ紙 20181221日付)
ジェームズ・マティス米国防長官(2018329日撮影、資料写真)。(c)Brendan Smialowski / AFPAFPBB News

 そして誰もいなくなった。
 米国防長官を退任するジェームズ・マティス氏はドナルド・トランプ大統領の「大人の枢軸」の最後の一人だったと言っても、多少の誇張でしかない。世界中で米国の同盟国と敵国が一様にマティス氏のことを、安心感を得る源泉として扱ってきた。
米軍の最高司令官がどれほど衝動的であっても、その衝動を抑えてくれるマティス氏がいた。この2年間というもの、マティス氏は休むことなく世界を駆け巡り、根本的に変わったことは何一つないと言って米国のパートナー諸国を安心させてきた。時には、これらの国はマティス氏を信じた。そのマティス氏が政権を去る。政権発足時にトランプ氏を取り囲んでいた威厳のある――そして、さほど威厳のない――現役・退役大将や外交官の面々に加わる格好だ。最初から、マティス氏はかけがえのない側近と見なされていた。
同氏はトランプ氏の内閣でほぼ唯一、公の場で大統領を熱烈に称賛することを拒んだ。そして、内々にトランプ氏に耳の痛いことを直言することで広く知られていた。大統領就任1年目には、トランプ氏は概してマティス氏の助言を聞き入れた。マティス氏がいなかったら、トランプ氏はさらに北大西洋条約機構(NATO)を蔑ろにしただろう。また、米韓合同軍事演習を中止し、米軍をアフガニスタンから撤収させ、もっと早くに米国のシリア撤退を発表していたはずだ。  トランプ氏は当初、退役海兵隊大将のマティス氏の物腰が大好きだった。
「マッド・ドッグ」の異名を持つマティス氏のことを、まさに完璧な配役と描写していた。問題は、マティス氏が名前負けしていたことだ。トランプ氏がそれこそ正気の沙汰でない考えを抱くたびに、国防長官がその矛先を鈍らせたからだ。マティス氏の退任を、ほかの閣僚の辞任と同等に見なすのは間違いだ。それよりもはるかに深刻だ。レックス・ティラーソン氏は国務長官を解任された。国家安全保障担当の大統領補佐官だったHR・マクマスター氏は、どんなにひいき目に見ても、建設的に更迭された。
大統領首席補佐官を退任するジョン・ケリー大将は就任初日から、奔放な大統領と角を突き合わせていた。世界がマティス氏の存在から得ていた安心感と比べると、彼らの存在から得た安心感ははるかに少なかった。
 マティス氏の辞任は、意外性がないのと同じくらい衝撃的だ。というのも、軍人たる者は辞任しないからだ。もしイラク戦争に向かう時期にジョージ・W・ブッシュ大統領の国務長官だったコリン・パウエル退役陸軍大将が辞任していたとしたら、それが唯一の前例になっていたろうが、パウエル氏は辞任しなかった。
軍人は命令に従うものだ。自分の助言が退けられたら、ただ懸命に仕事に取り組む。マティス氏はほぼ2年にわたり、これに甘んじてきた。
 友人たちは、マティス氏は本来、トランプ氏が米軍の職員に対し、中米難民の侵略とされるものから米国とメキシコの国境を守るよう命じた10月に辞任すべきだったと話している。マティス氏はあの時初めて、おとなしく命令に従ったことで激しい批判を浴びた。
中間選挙に先駆けた典型的なトランプ劇場だった国境警備策は、文民と軍の一線を越えた。だが、最後のとどめになったのは、米軍のシリア撤退に関する19日のトランプ氏のツイートだった。
 撤退はマティス氏――そして、同氏以外のほぼすべての人――の切迫した助言に反していたからだ。さらに、テロ組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を打倒したというトランプ氏の前提は、事実によって否定されている。シリア、そして中東全般の一部の地域では、ISISは勢力を盛り返している。これから何が起きるのか。誰がマティス氏の後任になるにせよ、世界は――筆者が見ていた人気ゲームショーのように――貴重なライフラインを失った。世界はまだ大勢の友人に電話することができ、みんなが同情してくれるだろう。視聴者に助けを頼むこともできる(ここでも同情してもらえるだろう)。だが、米国の政治の世界では、軍人は辞任しないことも分かっている。マティス氏がもう国防長官の仕事に耐えられなかったことは、残された信頼性をも急速に失っているトランプ政権にとって分水嶺となる。
By Edward Luce

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“裸の王様”になったトランプ、嫉妬に狂い、マティスに報復



佐々木伸 (星槎大学大学院教授)  

2018年12月27日  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14921

マティス国防長官の2月辞任をいったんは受け入れたトランプ大統領は長官が辞表の中で大統領を批判したことに激怒、辞任時期を年内に前倒しするという報復に出た。事実上の解任だ。「メディアが長官を英雄視したことに嫉妬した」(専門家)というのが大きな理由だ。マティス氏が去って政権にはイエスマンばかりが残り、大統領は“裸の王様”になった。

DA.PAMP USA

自分の方が英雄だ

 まず今回の辞任劇で驚がく的なのは何といっても、トランプ大統領がマティス国防長官の辞表を読んでいなかったことだ。マティス氏は辞表の中で「米国は持てる力すべてを使って同盟国を率いなくてはならない」「強固な同盟維持、同盟国への敬意なしに国益は守れない」などと述べ、同盟関係こそ米国の力の源泉であることを強調している。
 これは同盟国を軽視し、貿易赤字の解消や軍事費の公平分担を優先させる大統領の世界観を厳しく批判したものだったのは言うまでもない。大統領が独裁的な政権に寛容であることも批判、「当初から世界観をめぐる違いにより、衝突は必至と見られていた」(米紙)ことが現実になった。
 大統領がマティス氏の辞表の内容を知ったのは提出された辞表を読んだのではなく、テレビなどのメディアを通じてだった。大統領が文書類をほとんど読まないことは政権を去った元高官らが何度も指摘している通りで、もはや意外でもないが、辞表に目を通さなかったのはそうした大統領の習慣性の延長であり、ルーズな業務遂行ぶりを示すものだろう。米メディアによると、大統領はテレビで初めて自分が批判されていることを知り、怒りが増幅していったという。とりわけメディアがマティス氏について、大統領を諫めた人物として英雄視していることに我慢がならなかった。過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させ、シリアから米国の若者を無事に帰国させようとしているのは「大統領である自分であり、私こそ英雄だ」とメディアの報道に反発した。
 「この背景には大統領のマティス氏に対する嫉妬心がある」(専門家)。「己が一番」と自尊心の強い大統領はなによりも、自分よりも目立つ部下が嫌いだ。かつて大統領の側近中の側近といわれたバノン元首席戦略官がホワイトハウスを動かしているのが自分だとばかりに振る舞い、タイム誌の表紙をも飾ったが、これに大統領が嫉妬し、更迭につながる要因になった。
 幾多の戦争経験を持ち、「勇者」とのあだ名を持つマティス氏に対して、大統領が同様の感情を持ったと推察するのは容易だろう。トランプ氏は12月23日、マティス氏の2月辞任を撤回し、パトリック・シャナハン国防副長官が来年1月1日に国防長官代行に就任する、と一方的にツイッターで発表した。
 マティス国防長官は2月のNATO国防相会議に出席し、欧州を防衛するという米国の公約をあらためて確約することを望んでいたが、大統領の発表は長官の意向をくだく報復人事だった。マティス氏には大統領の指示でポンペオ国務長官が伝えた。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14921?page=2
世界各地の軍撤退の序章か
 トランプ大統領はメキシコ国境の壁建設費をめぐる民主党との対立で政府機関が閉鎖されたあおりを食い、フロリダでのクリスマス休暇をキャンセルし、ホワイトハウスに留まることを余儀なくされている。こうした不満が爆発したのか、24日のクリスマスイブには「ひとりぼっちで、かわいそうな私」などとつぶやき、トランプ砲を連発した。
 マティス氏にも批判の矛先を向け、「彼は米国が豊かな国の軍隊を援助しているのを問題視しなかった」とツイート、米国が同盟国に利用されているという持論を展開した。さらに、マティス氏に続いてシリア撤退方針に抗議して辞表を提出したマクガーク有志連合大統領特使に対しても「あのひどいイラン核合意に携わった人物だ」と当たり散らした。
 心配されているのは、マティス氏の辞任を追って軍の幹部の辞任が相次ぐのではないかという点だ。特にマティス氏と親しいマーク・エスパー陸軍長官、ヒーザー・ウイルソン空軍長官、リチャード・スペンサー海軍長官の名前が取りざたされている。軍の指導部が辞任するようなことがあれば、前代未聞の出来事になるだろう。
 トランプ氏が国防長官代行に指名したシャナハン副長官は航空宇宙大手ボーイングの元副社長。昨年7月に国防副長官に就任し、ペンタゴンをより効率的に運営することを重視してきた。制服組が反対する中、トランプ氏が提唱した宇宙軍創設に諸手を挙げて賛同し、大統領の覚えがめでたい人物でもある。制服組との対立がささやかれており、軍指導部に混乱が生じる恐れがある。
 同盟国として懸念されるのは、マティス氏辞任の引き金になったシリアからの撤退、アフガニスタン駐留軍の半減という決定が、世界各地に駐留する米軍撤収の「序章にすぎないのではないか」(ニューヨーク・タイムズ)という点だ。
 トランプ大統領は軍事費の公平負担などが是正されなければ、NATOや日本、韓国から撤退するなどと恫喝してきたが、それが現実になるかもしれない。とりわけ米朝協議が進展し、北朝鮮の非核化がより鮮明になれば、トランプ大統領が同盟国の意向を無視することは十分あり得ることだ。そういう意味でも、年明けの米朝首脳会談が重要になる。
 ピュリッツアー賞を3回受賞した筆者の畏友、著名なコラムニストのトーマス・フリードマン氏は24日付のニューヨーク・タイムズへの寄稿で、トランプ大統領がいかに歴史や米国の重要性に無知なのか、マティス氏の辞表に書かれている通り明白だと断じ、与党共和党に対し、大統領の行いを改めさせるよう辞任勧告を検討するよう呼び掛けた。
※マティス氏は、今度は政権の外野からメディアを介して、政権のご意見番になっていってほしい方です。
そして将来は芸能界に新風をふきこんで、ご意見番になっていってほしい橋本環奈さんです。
橋本環奈 『12人の死にたいこどもたち』


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