西山隆行 (成蹊大学法学部教授)
2018年12月25日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14898
アメリカ政治は混乱状態にある。しかも、その混乱状態が慢性化しつつあり、今後混乱の度合いをさらに増す可能性がある。
(写真:AFP/アフロ)
一部の連邦政府機関が閉鎖に追い込まれる
2018年1月、Wedge Infinityで、移民問題をめぐる対立から暫定予算が成立せず、連邦政府が閉鎖したという記事を出した(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11737)。今年最後の原稿もまた、同じく移民問題をめぐって大統領と連邦議会が対立し、12月22日から一部の連邦政府機関が閉鎖に追い込まれたという記事で締めくくらなければならない。連邦政府一時閉鎖の影響を受ける連邦政府の職員は80万人、うち38万人が一時帰休、42万人が無給で働くことになると報じられている。
トランプは、民主党が不法移民対策を目的とする米墨国境地帯の壁建設費用を予算に組み込む形で共和党と歩調を合わせない限り、連邦政府の閉鎖は「非常に長い期間」続くと発言している。トランプは、国境の壁建設に批判的な立場をとる民主党に一時歩み寄る姿勢を見せたものの、自らの支持基盤からの突き上げを受けて態度を硬化させた。今年7月にワシントンポスト紙などが行った調査によれば、世論の65%が国境地帯の安全を強化するプログラムを強化することを支持してはいる。だが、各種世論調査によれば、国境地帯の壁の建設については反対派が賛成派を一貫して上回っている。そして、今月初めにキニピアック大学が行った調査によれば、もし連邦政府が閉鎖することがあるとすれば、その責任はトランプ大統領と共和党にあるとする人は、民主党にあるとする人に対し、51%対37%で多い。
これら世論調査を見る際には、その評価が民主党支持者と共和党支持者で明確に分かれていることに注意する必要がある。先に指摘した政府閉鎖の責任の所在について、民主党支持者の90%がトランプと共和党にあるとしているのに対し、共和党支持者の76%が民主党にあるとしている(ちなみに、無党派層は48%対39%でトランプと共和党に責任があるとしている)。国境の壁建設については、共和党支持者の86%が支持し、民主党支持者の90%が反対するという状態で、有権者レベルでも党派に基づき態度が明確に分かれている。
アメリカでは現在、連邦議会の上下両院ともに共和党が多数を占め、大統領職も共和党が占めている。このように予算は相対的に通過しやすい状況にあるにもかかわらず、暫定予算は通過しなかった。今年の中間選挙の結果を受けて、来年以降は議会の上下両院の多数派政党がねじれ、その結果として議会(下院)の多数派政党と大統領の所属政党が異なるという状況が発生する。現在、議会は予算すら通すことのできない、決められない政治を大きな特徴としているが、この状態は来年以降も続き、問題はさらに悪化する可能性が高い。
元上院議員らによる意見書
アメリカ国民の間で、連邦議会と大統領に対する不信は強くなっている。
2018年にギャラップ社が行った各種機構に対する信頼度合いに関する調査によると、連邦議会を信頼している人は国民の11%に過ぎず、調査対象となった物の中でその信頼度は最低である(信頼度の高い順に、軍隊、小規模ビジネス、警察、高等教育機関、教会、大統領、連邦最高裁判所、医療システム、銀行、公立学校、労働組合、大企業、新聞、刑事司法、ニュースメディア、連邦議会となっている)。連邦議会に対する不信は今に始まったものではないものの、近年では二大政党の分極化傾向が強まるとともに、党派対立が激化しているため、議会の機能不全が以前にも増して指摘されるようになっている。国民から選出された議員によって政策決定を行うことを民主政治の基礎だと考えるならば、アメリカの民主政治が機能不全に陥っているのではないかとの懸念が示されるようになっているのである。
この懸念はかつて上院議員を務めた人々によっても示されている。12月10日、ワシントンポスト紙で「我々はかつて上院議員だった。上院は長らく民主主義を守ってきた。そして、今も守り続けなければいけない」と題する記事が発表され、注目を集めた。この意見書に名を連ねたのは、44名に及ぶ超党派から成る元上院議員である。アメリカが現在危機的状況にあるという認識の下、法の支配、合衆国憲法、統治機構や国家安全保障に対する深刻な挑戦に抗するために声を上げる義務があるとの思いからこの意見書を提出したと宣言されている。これら元上院議員は、時に対立関係に立ちはしたものの、アメリカの国益と民主主義を守るという共通の価値観を持っていたと強調している。アメリカで立憲上の危機が訪れて国家の基礎が脅かされた時、連邦議会上院がアメリカの民主主義を守ってきた。アメリカ史の決定的転機にある今、上院が再び団結してアメリカの民主主義を守らなければならないというのがそのメッセージであった。
元上院議員がこのような意見書を出さねばならないと考えた背景には、アメリカの政治社会の分極化と対立激化に加えて、アメリカの民主政治を支えてきた根本原則に対する信頼の揺らぎ、アメリカ社会全体の統一性・一体感の欠如とでもいうべき状況があるだろう。これらの問題は、ジョージ・W・ブッシュ政権期、バラク・オバマ政権期からみられていたが、現在のドナルド・トランプ政権になって以降、より深刻化している。
党派的な大統領という特徴が強いトランプ
大統領に対する不信も、今後さらに強まる可能性がある。
先程紹介したギャラップ社による信頼度調査によれば、大統領に対する信頼度は37%と、連邦議会と比べると高いとはいえ低い。特筆に値するのは、トランプ大統領に対する支持率も分極化していることである。12月10日から16日にかけて行われたギャラップ社の調査によると、トランプ大統領に対する支持率は全体としては38%である。共和党支持者の間では86%と高いのに対し、民主党支持者の間では7%と極端に低い。現在、2016年大統領選挙におけるロシアの干渉疑惑についての調査がロバート・モラー特別検察官によって行われているが、この件をめぐって更なる事実関係が明らかになり、弾劾への動きがみられるようになると、大統領の正統性はさらに低下するだろう。
伝統的に、アメリカの大統領は国家の元首として、尊厳的な役割を果たすことも期待されてきた。また、連邦議会にみられる党派対立を乗り越えて、アメリカ国民を統合する存在ともしばしば位置付けられてきた。だが、トランプ大統領は尊厳的な役割を果たすことはできていない。また、全国民の大統領というよりも、党派的な大統領という特徴が強くなっている。この事態がさらに国民の間での政治不信を強化しているといえよう。
司法部と大統領の衝突は異例
統治機構に対する不信は、司法部にも及んでいる。先のギャラップ社の信頼度調査によれば、連邦最高裁判所に対する信頼度は37%だった。1980年代や90年代には最高裁判所に対する信頼度が60%近くに達したことがあったが、2005年ごろからその信頼度は4割を下回っている。
2000年の大統領選挙で、共和党候補のW・ブッシュと民主党候補のアル・ゴアの獲得した大統領選挙人の数が逼迫し、その勝敗はフロリダ州の選挙結果に委ねられることになった。フロリダ州の結果は僅差であり、開票方法や開票期日をどう定めるかが党派的対立点となって、その判断いかんによって勝者が決まる事態となった。最終的にはそれらに関する連邦最高裁判所の判断がブッシュに勝利をもたらしたのだが、そのような時期にあっても連邦最高裁判所に対する信頼度は5割ほどあった。アメリカの裁判所は日本と比べると政治的特徴が強いが、とはいえ、司法部は党派的対立からは一定の距離を置く、正統性のある機構という信頼感が存在していた。
だが、連邦最高裁判所に対する信頼感はその後徐々に低下していく。党派を分断する争点を連邦最高裁判所が積極的に取り上げ、その判決が判事の党派性によって明確に分裂する事態になるに及び、裁判所に対する不信が強まっていった。それはとりわけ、同性婚を認めた2015年のオバーゲフェル判決をめぐって顕在化した。
そして今日では、大統領と連邦裁判所が相互に批判しあうという事態が発生している。2016年大統領選挙の際にリベラル派判事のルース・ベイダー・ギンズバーグがトランプをイカサマ師と呼んだり(後に謝罪した)、2017年に一部の国からの渡航禁止命令を覆す判決を出した判事をトランプが「ばかげた」見解を持つ「いわゆる判事」と呼んだりしたこともあった。トランプは今月20日、自らの難民政策を却下した判事を「オバマの判事」と呼んで中傷した。それを受けて、連邦最高裁判所長官のジョン・ロバーツは、「ここにはオバマの判事もトランプの判事も、ブッシュの判事もクリントンの判事もいない」と反論する声明を発表した。それに対し、トランプはツイッターで「オバマの判事」は実際に存在し、彼らが下す判決が「この国の治安を悪くしている!とても危険で愚かだ!」と反論している。このような形で、司法部と大統領が衝突するのは極めて異例である。
共通の基盤が失われ、熟議が喪失しつつある時代
このように、現在のアメリカでは統治機構全体に対する不信感が強まっている。それに加えて、今日のアメリカでは、アメリカ社会の根底を支えてきた「社会契約の喪失」とでも言うべき事態が進んでいるように思われる。
建国期以来多くの移民を受け入れてきて、多民族性・多宗教性をその特徴としてきたアメリカは、独立宣言や合衆国憲法のような文書に、自由や民主主義などのアメリカ的信条とでも呼ぶべきものを記し、それを守るという一種の擬似契約を結んできた。だが、近年の移民人口の増大、とりわけ、中南米系移民の増大をめぐって様々な議論が展開されており、中南米系や移民の人々と、トランプ大統領を支持している労働者階級の白人の間には共有されるものが少なくなっているように思われる。
2004年大統領選挙の際、民主党候補となったジョン・ケリーに対する応援演説で、オバマは、黒人のアメリカ、白人のアメリカ、中南米系のアメリカ、アジア系のアメリカというようなものはなく、あるのはアメリカ合衆国だけなのだと主張し、アメリカ社会の団結を訴えた。多様な背景を持つ人々が集まる国であるがゆえに、自由や民主主義などのアメリカ的信条と呼ぶべき共通の価値の下にアメリカ国民が集うよう提唱したのだった。だが、今日、アメリカ国民の間に果たして基本的価値観が共有されているといえるのかと疑問に思わされるほどに、社会的分裂が顕在化している。社会的対立は、人種やエスニシティのみならず、ジェンダーやセクシュアリティ、宗教の問題をめぐっても顕在化しているのはこれまでの論考でも指摘したとおりである。現在のアメリカでは、女性団体やLGBT団体と、宗教右派の間でも対話が成立しなくなっているのである。
このように、様々な争点をめぐってアメリカ社会がイデオロギー的に分極化し、政治不信が強まっている。アメリカ社会内部で共通の基盤とでもいうべきものがなくなっている状況において、健全な議論は展開されなくなる。民主政治とは、あらゆる人々が真理の一端を担っている可能性があるという前提に立つこと、言い換えれば、真理を独占するものは存在しないという前提に立ったうえで、互いに熟議を積み重ねることで真理に近づき、よりよいものを実現しようと目指すことに重要性がある。にもかかわらず、今日では、有権者レベルでも政治家レベルでも、建設的な議論を通してよりよきものに到達しようと試みるのではなく、自らの絶対的な正しさを信奉して相手を糾弾する傾向がみられるようになっている。共通の基盤が失われ、熟議が喪失しつつある時代の民主政治をどう考えればよいのだろうか。2019年も引き続きアメリカの政治社会の行方に注目する必要があるだろう。
※アメリカのトランプ政権の今後を不安視する論調は、この記事だけではありません。オバマ政権の初期は、アメリカ初の黒人大統領というふれこみで、その政策手腕というより言動に注目が集まっていました。トランプ氏は、就任当初から前政権の批判、修正からスタートしたためか、のっけから政治的な結果、成果を求められすぎている気がしないでもないです。国際情勢自体がそれを求めているから仕方ないことではありますがね。
トランプ流成功の定義
グーグル検索で「愚か者」から「独裁者」になったトランプ ホワイトハウス「完全崩壊」
2018/12/24 14:21 https://www.msn.com/ja-jp/news/world/グーグル検索で「愚か者」から「独裁者」になったトランプ-ホワイトハウス「完全崩壊」/ar-BBRmS4T?ocid=spartandhp#page=2
© Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 2018年11月下旬、メキシコとの国境にある壁に鉄条網を設置する米海兵隊員たち。中南米から米国に向けて大挙してきた移民キャラバンを例に挙げ、トランプ大統領は広範囲にわたる国境の壁建設の必要性を訴えている (c)朝日新聞社
連鎖する政府高官の辞意表明や予算案をめぐる対立、政府機関の一部閉鎖。マティス国防長官が辞表を出した2018年12月20日以降も米政権を取り巻く混乱は続き、不安定さが際立つ中での年末となった。火種は自分自身なのに、率先して火に油を注ぐ言動を繰り返すトランプ大統領。火消し役不在の米国政治は、炎上したまま新年を迎える。
クリスマス前最後の週末だった12月22、23両日、トランプ大統領はフロリダでの休暇を延期し、ワシントンにいた。大統領が望むメキシコ国境の壁建設費をめぐる議会での与野党調整が決裂し、期限内の可決ができなかった予算案の対応を強いられたためだ。クリスマス休暇に入った上下両院で次の審議は27日までなく、その間の予算は失効。国務省など一部の政府機関が閉鎖状態に追い込まれた。
国境の壁のデザイン図まで投稿して壁建設の重要性を連日ツイートし、予算を通すよう議会に圧力をかけていた大統領だが、22日夜になって突然、思い出したようにマティス国防長官について書き込んだ。
「オバマ大統領に不名誉にも(中央軍司令官を)クビにされたジム・マティスに、私は再びチャンスを与えた。(中略)同盟国はとても重要だが、それは彼らが米国を利用しようとしない場合の話だ」
マティス長官は20日に提出した辞表の中で、大統領に国際連携の重要性を説き、同盟国に敬意を示すよう訴えていた。
このツイートの20分前には、長官の辞意表明につながったとされる米軍のシリア撤退についても大統領は言及。米兵を母国に戻す決断は通常なら評価されるのに、トランプ大統領だから批判されたとして、自身を「標的とするメディアのフェイクニュース」の問題だと強調した。
トランプ政権に関する複数の書籍や分析記事によると、報道を極度に気にするトランプ大統領は、メディア中毒になっているという。主要テレビ局で政治討論などの報道番組がある週末は、すぐにツイートできるようパソコンをそばに置いたまま、可能な限り毎週見るらしい。マティス長官へのツイートが突然復活したのも、直前の番組で議論となったからだ。トランプ大統領は23日朝、2019年1月1日付でパトリック・シャナハン国防副長官を国防長官代行とする人事を発表。AFP通信によると、長官の辞表に関する報道に気分を害したと伝えられており、19年2月末だった長官の辞任時期を2カ月前倒しさせた。
シリア撤退をめぐる週末のツイートは、もう一つあった。
「15年にオバマ大統領に任命され、私は知りもしないブレット・マクガークが2月の任期を待たずに辞める。身勝手? 何でもないことをフェイクニュースが一大事に仕立てている」
マクガーク氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討で米軍が率いてきた有志連合の調整を担当する米大統領特使。ISの掃討は終わっていないと主張してきた。米メディアによると、マティス長官が辞意を表明した翌日の21日、ポンペオ国務長官に年内の辞任を伝えたという。ISを掃討したとしてシリア撤退を強行した大統領への抗議の辞任が連鎖した形だ。
マティス長官の辞意表明をめぐっては、米国外からも懸念が示された。ロイター通信がそのいくつかを紹介している。
「マティス氏は軍人のみならず外交官としても多くの尊敬を得ている」(北大西洋条約機構=NATO=報道官)
「マティス氏はトランプ大統領の最も悪い性質を抑制し、NATOおよび多国間主義を強く支持してきた」(欧州議会議員)
全てはトランプ政権の米国第一主義への懸念であることを理解せず、単にメディアに責任転嫁する大統領の姿勢が、国際連携や同盟を軽視する姿勢をかえって浮き彫りにしている。
大統領選挙中から広報を担当し、ホワイトハウス広報部長も務めたホープ・ヒックス氏は再三、「自分で自分を銃撃している」などとしてツイートの自粛を求めてきた。ツイートの原案作りや校閲なども提案したが、大統領は取り合わず、書きたい時に自由に書くという悪癖は止まらなかった。いつ、どんなツイートが出るのか、政権内部で知る人はおらず、ヒックス氏が3月に政権を去った後はツイートに苦言を呈す人物もいない。
報道は過剰に気にかけるのに、閣僚や政府高官の話には耳を傾けない。大統領は日常的に上がってくる重要課題の報告書には目を通さず、ブリーフィングにも興味を示さない。事前の周到な準備は「第六感」を鈍らせる。自身が要請した内容の最終文書にサインすることしか意義を見いださないのだという。
そんなホワイトハウスの内情を描写した暴露本『FEAR(訳書名・恐怖の男)』で、コーン前国家経済会議議長の言葉が紹介されている。
「あまりにも異常で混乱が激しく、いつまで政権にいられるか自信がない。現実的で意味あるブリーフィングをしても、大統領が聞く耳を持つことは絶対にない。最初から結論ありきだ」
同盟国との連帯や国際的な枠組みの尊重を訴えてきたコーン前議長やティラーソン前国務長官、マティス国防長官がたびたび直面した問題だった。それならば、と3者は時に協力し、大統領が求める文書の作成にわざと時間をかけたり、合同で企画した会議で大統領を囲い込んだりして、過剰な自国優先政策を阻止しようと躍起になってきた。
一方で、特に保護主義路線を推進するロス商務長官やナバロ通商担当補佐官は、国際協調派を排除した形で大統領と個別に政策を練ったり、大統領執務室にアポなしで自由に行き来したりした。ムニューシン財務長官は国際協調派に近寄ったり離れたりしながら、最後はトランプ大統領の言いなりだ。家族であることを武器とする長女イバンカ夫妻は、さらに自由な振る舞いを黙認されている。
それぞれが独断で行動することが当たり前になって、ホワイトハウスの秩序は完全に崩壊。全てを管理する権限を持ち、ホワイトハウスで最も重職であるはずの首席補佐官の存在は軽視され、プリーバス氏に代わって首席補佐官についていたケリー氏も年内で辞任する。そんな首席補佐官には誰もなろうとはせず、ケリー氏の後任には代行を置くというありさまだ。
政権発足から2年、国際協調派は次々と辞表を出し、政権に残ったのは米国第一主義派だけになった。マティス長官の辞意表明が各国に衝撃と懸念を与えたのは、政権に残る国際協調派の最後の一人だったからだ。結果的に政権内部から異論者の追い出しに成功したトランプ政権は、19年に向け、米国第一主義の牙を一層むき出しにする環境を整えたことになる。
18年7月、グーグルの画像検索で「idiot(愚か者)」と入力すると、トランプ大統領の写真が多く出てくることが話題になった。いま「dictator(独裁者)」と入力すると、ヒトラーなどと並びトランプ大統領の写真が複数枚出てくる。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長よりもはるかに多い。新年を迎えるにあたり、これが現実とならないことを祈りたい。 (アエラ編集部 山本大輔)※AERAオンライン限定記事
トランプ大統領を悩ます・・・いや世界的にやっかいなフェイクニュースという戦争手段
北川景子さん主演の『フェイクニュース』はNHKのドラマながら非常に興味深い核心をつく作品だったと思います。平成30年は1月に民放で『ファイナルカット』という武器としての情報公開をとりあげたドラマもありましたが、現代がまさに「ハイブリッド戦」のさなかにあり、一般人も無関係でないことを多くの人々が実感できたかと思います。確かフェイクニュースも作品の要所でとりあげられていました。今やインテリジェンスこそ最強の武器なんですね。
そういう意味では、以下のような記事もリテラシー向上にお役にたつのではないでしょうか?
2018年12月26日
現実空間と同じようにサイバー空間を守るために必要なこと
問題は「海賊版サイト」だけじゃない
人口減少・少子高齢化・過疎化等が進む日本。その状況下で注目されているキーワードが、「Society 5.0」である。Society 5.0は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」である。例えば、IoT(Internet of Things)を通じて私たちの行動がデータ化され、クラウド上のAI(人工知能)がそれをビッグデータとして集積・解析して、リアルタイムでロボットを作動させるといった未来像が描かれている。
Society 5.0に不可欠なのが情報通信ネットワーク、特にモバイルネットワークである。2019年からサービス開始予定の次世代通信規格「5G」は、現在の4Gと比べて通信速度が10~100倍になり、膨大な数の端末の同時接続も可能にし、また超低遅延を実現して、Society 5.0を支えるインフラとなるはずである。
サイバー空間への介入は一歩間違えれば独裁国家に
今後のサイバー空間は私たちの生きる空間そのものとなり、情報通信ネットワークの重要性は飛躍的に高まる。技術的可能性や経済的関心だけでなく、公正な社会を維持し民主的な政治・行政の実効性を高めるためにも、情報通信ネットワークやサイバー空間の秩序をめぐる規範的な議論が必要である。例えばネットワークを整備・維持する負担を社会的にどのように公平に配分するかという論点は、「ネットワーク中立性」の問題として、各国で盛んに議論されているところである。
しかし現時点では、こうした検討は政府の一部や関係する企業、専門家の間で閉じた形で進められているにすぎない。その結果として、社会全体として情報や意識の格差が拡大し、建設的な議論と社会的合意を形成するのが困難になっているように思われる。
例えば政府が2018年4月、海賊版サイトへのアクセスを遮断する措置(ブロッキング)をとるようにISP(インターネットサービス事業者)を促したことは、大きな論争を巻き起こした。実はインターネットの構造上、ブロッキングは海賊版サイトへのアクセスを超えて、全ての利用者を巻き込まざるを得ない。ISPはブロッキングの前提として、全ての利用者の全ての通信の宛先を網羅的に検知して、ブラックリストと突合する仕組みを構築・運用する必要があるからである。
このような仕組みは一歩間違えれば、独裁国家で現に行われているサイバー空間の大量監視(massive surveillance)につながる。従来から政府や通信業界が、ブロッキングは憲法と電気通信事業法が保障する「通信の秘密」を侵害する極めて重大な措置であるとして、慎重な姿勢を取ってきたのはこのためだった。このたびの議論は報道も含めて、情報通信ネットワークのあり方、サイバー空間が生み出す便益とリスクの双方への目配りが十分でないまま迷走してしまった。
この問題から教訓とすべきことは、こうした議論環境の不安定さであり、その改善なくしてSociety 5.0の推進も危ういのではないか、と思われる。
「自律・協調・分散」がインターネットの強靱さをもたらす秘訣であるが、それが同時に匿名のまま違法有害情報を発信できたり、大規模なサイバー攻撃を可能にしたりもしている。私たちはサイバー空間の便益を高めリスクを抑えるために、進歩する情報通信ネットワークのあり方を適切に理解して、バランスのとれた解決策を議論し続けなければならない。
「媒介者」に背負わせてきたサイバー空間の責任
これまでは、サイバー空間で生じた問題の責任を、「媒介者」(intermediary)である電気通信事業者や検索エンジン、プラットフォーム事業者等に負わせるという提案が、繰り返しなされてきた。検索エンジンで氏名を検索しても、前科等の個人情報が掲載されているURLが表示されないように求める、いわゆる「忘れられる権利」も、その一例にすぎない。
しかし、自由な情報流通のボトルネックである媒介者に、過剰な責任を負わせることは、利用者のサイバー空間における自由をも壊死させる劇薬となりうる。むしろ情報化社会における政府の役割は、媒介者による情報の公正・中立な媒介を確保する規制を通じて、情報流通とそれによるイノベーションを促進することであろう。
先に触れた「通信の秘密」は、ISP等が業務上必要な限度を超えて利用者のアクセスに手を触れないよう求めるものである。日本法がこのように媒介者としての電気通信事業者の役割を規定し、サイバー空間の自由を実現してきたことは、EUの「一般データ保護規則(GDPR)」の定める、データ越境移転のための十分性認定の手続きでも、高く評価されたところである。
今後求められる議論の方向性は、サイバー空間で現に起きつつある問題を的確に捉えた上で、媒介者任せではなく、政府、企業や国民を含む利用者といった各主体が「何をすべきか」「どこまでの責任を負うべきか」を明確化していくことであろう。そのような全体的構図のないまま場当たり的な規制を試みても、実効性がないどころか弊害を生みかねない。
例えば、サイバーセキュリティについて考えてみよう。重要インフラ事業者には、高度な安全基準の順守、情報共有などのサイバーセキュリティ対策が求められているが(サイバーセキュリティ戦略本部、2018年7月決定)、一般の企業や個人利用者の対策や意識は必ずしも十分ではない。仮に弱い初期設定のまま、ルーターのパスワードを放置していると、管理画面に不正にアクセスされて、アクセス認証に用いるID等の情報を盗まれる危険がある。
個人のプライバシーは消滅しても良いのか
今後、IoTが家庭内にも普及してくるとサイバーセキュリティをめぐる課題は一層複雑化するが、とりわけ深刻なのは、個人利用者が知らぬまま加害者の片棒を担ぐ可能性である。マルウェアに感染した大量のIoT端末がある日突然、攻撃者のサーバからの指令とともに大量のパケットを送信するDDoS(Distributed Denial of Service)攻撃を仕掛けて、重要インフラの機能を停止させる─。こうした例は既に世界にあり、2020年オリンピック・パラリンピックで憂慮されているシナリオでもある。
それでは、電気通信事業者に契約者のホームネットワークを常時監視する義務を負わせればよいのだろうか。それが利用者の同意なく実施されるならば、家庭内のプライバシーはもはや消滅したに等しい。
そう考えるならば、IoTを設置する個人利用者は自分の財産やプライバシーを守るためだけでなく、サイバー空間とフィジカル空間が融合する社会の構成員として、強いパスワードを設定する、端末のソフトウェアを定期的にアップデートする等、相当な範囲での責任を引き受けるべきではないか。それは自動車の保有者が定期的に車検を受ける、歩行者が信号標識を守るのと、同種の責務に高まりつつある。
情報通信ネットワークの安全な利用のためには、当然ながら電気通信事業者の果たすべき役割は大きい。ISP等は自己のネットワークを管理運用し、攻撃に対処する権限と責任を有している。しかし大規模なサイバー攻撃が多数のネットワークを同時に介して行われることを踏まえれば、十分な能力と規模を有する電気通信事業者に、サイバー空間全体の安全を守るために協力する責務を法律により課すことも、考えられる。
2018年の通常国会で成立した改正電気通信事業法によって、サイバー攻撃に関する詳細な情報を集約した第三者機関が、マルウェアに指令を出している疑いのあるサーバを分析し、それに基づき電気通信事業者が対策を講じることが可能になった。そのためには電気通信事業者は利用者の「通信の秘密」に関わる情報を提供する必要があるが、それを適法化することと合わせて、第三者機関の側に秘密遵守を義務づけたものである。
このようにサイバー空間の秩序を維持するために情報の共有・分析等が不可避なのであれば、その濫用を防ぎ自由やプライバシーを確保するための組織的・手続きの保障もまた不可欠である。その先例は裁判所の令状による通信傍受にあるが、サイバー空間の拡大とフィジカル空間との融合が進む中で、世界的にこうした仕組みの発展が見られている。
例えば従来米国では、捜査機関が携帯電話の基地局位置情報を取得・利用するためには、簡易な裁判所命令(court order)によれば足りるとされてきた。しかし18年6月、米国最高裁は現代の技術の発展を踏まえて、より厳格な令状(warrant)を求める判断を示すに至っている。
政府は2018年12月の閣議で新たな防衛計画の大綱を決め、サイバー防衛能力を抜本的に強化することを明記した。特にサイバー反撃を行うとすれば、政府がサイバー空間の動向を監視する必要が高いが、そのためには独立性の高い第三者機関による「監視の監視」を組み込む必要があるだろう。また、防衛や公共の安全の目的で個々の通信を検知するためには、裁判所による厳格な令状審査と発布が必要となるが、その最低限の条件として、米国の外国情報監視法における令状審査裁判所のように、サイバー空間について高度の判断能力を有する裁判所の部門を設置して審査を委ねるべきではないか。
サイバー空間の秩序を維持することは、個人の尊重と民主主義社会を確保するために求められる国家の責務であるが、同時に国家の権限行使が必要な限度を超えて人権を侵害することを防がねばならない。そのための適切な実体的・手続的・組織的規制の導入を検討し、真に必要であれば「情報監視院」のような独立性の高い機関を設置する等の憲法改正をも含めた議論が必要な時期だと思われる。
Society 5.0のための、個人・企業・国家等の各主体の役割の設定に向けて、必要な知見が社会全体で共有され、サイバー空間をめぐる冷静な議論が深まることを望みたい。
※それぞれ先進国がしのぎを削り、態勢を整えている「ハイブリッド戦」に勝利するために必要なアイテムは、核弾頭ではないようです。
政府情報の漏洩を防止することを狙った「特定秘密保護法」だけでは、まだ不十分ですね。インテリジェンスを駆使したハイブリッド戦に強靭な国家にするために、どうすればいいか?一緒に考えましょう!
中国の身勝手な言動を許さないためのスパイ防止法
北朝鮮や中国による拉致・拘束は過去の話ではない
森清勇
2018.12.20(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55020
華為技術(ファーウェイ)の問題は、米中貿易戦争の一環である。
同時に中国の覇権確立の道しるべとなる「中国製造2025」の技術がサイバー攻撃で日本を含めた先進国(特に米国)から窃盗したのではないかという疑いから、米国がカナダの協力を得て警告を発したということであろう。身柄を一時拘束され、現在は監視付き釈放の身である孟晩舟容疑者は、米加中の諸々の取引に大いに活用されることであろう。
2015年以降、日本人10人がスパイ活動などに関与したとして拘束され、うち2人は解放されたが、8人が起訴され、すでに4人に対し、5年から12年の実刑判決が下された。ほとんどの国ではスパイ防止法などがあり、外国で拘束され刑に服している自国の人間を救出する一助として活用している。すなわち、スパイ防止法は機密情報の保護という一面だけでなく、人権擁護の面にも役に立つということである。
日本にはスパイ防止法がないので、スパイ行為を取り締まれない「スパイ天国」とされている。国益を毀損する情報などが盗まれている点で不名誉この上ない。
自民党議員が昭和60(1985)年に議員立法で提出したが、野党の反対で廃案になった経緯がある。当時、野党は「基本的人権や自由が侵される」として反対したが、拉致事案などは法の不備がもたらした人権被害と言えなくもない。また、外国スパイは従来のプロを介する方法も存在し続けるが、留学生・旅行者など広く一般人を使った方法やサイバー攻撃などの高度技術を駆使するなど、形を変えて脅威の度合いを高めている。第一には「国益の擁護」上からスパイ防止法が不可欠と思うが、ここでは拉致被害者や被拘束日本人の救出という人道・人権の側面から取り上げてみる。
自国都合で日本人を拉致・拘束する北朝鮮や中国
北朝鮮に拉致された日本人は、政府が確認している12人のほか、拉致の可能性が否定できないとされる800人前後がいるとみられている。しかも、拉致は過去の話ではなく、今日も続いているとさえ言われる。多くの被害日本人を取り返せないだけでなく、なぜそうした横暴を許すのか寒心に堪えない。また、中国で拘束された日本人は、日本と中国の友好増進や単なる貿易などに従事する者たちで、理由が公表されず、疑心暗鬼は募るばかりである。
日本の首相の7年ぶりの訪中(10月25、26日実現)折衝が行われていた7月以降、2人は懲役12年と5年の実刑判決を受けた。首相訪中から1か月半後の最近、別の2人に6年と12年の実刑判決が下された。日本人拉致は北朝鮮の都合によるものであるし、北朝鮮の行動は日本の国家主権の侵害である。解決の糸口となる合意を北朝鮮は何度も反古にしてきた。
他方、中国による日本人の拘束は交渉を有利にするための取引材料として行っているとみられる。中国の行動は普遍的価値観を無視する近代国家にそぐわない行動である。先の首脳会談では「前向きの対応」を安倍晋三首相が求めたのに対し、中国は法令に基づき適切に処理したい旨の発言を繰り返した。しかし、裁判を公開しないで実刑を科した点からみると、習近平国家主席は聞く耳をもたないと言わざるを得ない。
人権重視の日本が拉致被害者を取り戻せない矛盾
カナダで拘束された孟晩舟は「イラン制裁違反に絡む金融機関に対する詐欺容疑」がもたれている。ファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)とはいえ、明確な容疑が持たれているのであり、無垢な少女が学校からの帰り道に外国人に連れ去られ拉致されたのとはわけが違う。しかし、日本人の多くが何と無関心であることか。被害者家族にとっては「日本人である」ことの苦悶や恨みが日夜頭をよぎり、政府も国民も信じることができないのではないだろうか。こうした事象が起きてしまったことについての問題点の指摘はいろいろあるであろう。しかし、現実に、北朝鮮という国家が拉致犯罪をやったという事実が判明した暁には、国家・国民を挙げて救出に立ち上がるべきであった。国家・国民を挙げてというのは、場合によっては「“自国民奪還”戦争」になることも覚悟してというほどの強い決意のことである。
しかし、そうした決意をする時はとうに過ぎてしまった。今では相手は日本を射程に収める核弾頭搭載可能な弾道ミサイルさえ開発して、脅迫もできる状況である。日本に決定的な威嚇や対抗手段がなかったし、国家の釈放努力と国民の団結も見られなかったからであろう。そうした結果、国民は「国家」の存在も重みも感じないようになり、国家に対する敬意も持ち得ない時代になってしまっている。
国民の多くが、「いざという時には」自分の身に代えても「国家の防衛」に立ち上がるか、といった類の問いに対する答えでは、消極的な答えや否定的な答えを合わせると80%以上に達し、外国と全く対照的である。国家主権があって初めて、自由や民主主義、そして人権や法の支配といった、国民が普遍的価値とみなす諸々の恩恵を享受できている。
拉致は日本の国家主権が侵害された事態である。そうであるからには、侵害排除の権利が日本にはあり、日本国民は権利を留保するための義務を果たすべきはずであろう。「戦争」という過激な行動は良しとしない日本であるが、無辜の拉致被害者を取り戻し、異常行為を中止させるためにも、外国人スパイなどを取り締まる法律を整備すべきであったし、今すぐにも整備すべきではないだろうか。米英と中露朝などは、相手国の人物をしばしばスパイ事件に関わったなどとして摘発・拘束することがある。最近では米国が北朝鮮に拉致されていた自国民を取り戻したし、米英とロシア間ではしばしば人質交換が行われてきた。
華夷秩序の復活を夢見る中国?
ファーウェイの副会長がカナダ当局に逮捕されたとき、中国外務省の報道官は「理由を示さないままの拘束は人権侵害だ」と批判したが、中国における日本人拘束では全く理由など示していない。自分のやることと他人に要求することが完全に相反している。産経新聞(12月13日付)は「主張」で、「一連の日本人拘束、さらに中国国内での人権弾圧をみれば、どの口で人権を口実に他国を非難するかとあきれるばかりだ」と書いた。しかも、カナダは米国の要請で拘束したが、中国は中国で活動するカナダの元外交官と事業家を「国家安全に危害を与える行為にかかわった疑い」で拘束したことを3日後に認めた。
日本人被拘束者の犯罪内容も裁判状況もほとんど公表しない中国であるが、カナダに対する中国の行為はやはり米国の圧力を間接的ながら感じ取っているからであろう。国際社会の普遍的価値観さえ認めようとしない異質・異形の中国であるが、覇権を握っていないゆえに、米加を相手にはとても太刀打ちできないというところか。
国家間の関係ではウィンウィンが望ましいが、残念ながら弱肉強食の世界である。
岩倉具視を団長とする遣米欧使節団がプロシアの大宰相ビスマルクから聞いた話も国際法は強者に味方するということから、帰国後の使節団は「富国強兵」を合言葉に国力増大に邁進した。鄧小平の中国が隠忍自重しながら国力増大に邁進してきたことは、「韜光養晦」を掲げてきたことからも伺える。
明治維新後の日本もそうした立場にあったが、日本は文明国家の証として日清戦争や日露戦争においては国際法の専門家を戦場に同行して、法の支配に従う努力をした。
ところが、今日の中国は日本を含めた米欧諸国が確立してきた普遍的価値観までも一蹴する強硬姿勢で、有無を言わせぬ頑なな態度を取り続けるようになってきた。習近平主席が掲げる「中華民族の偉大な復興」は、漢民族だけでなく中華(帝国)を形成する辺疆国家の民族をも含めた復興を目指すというもので、それはほかでもなく現代版の華夷秩序の形成であり、儒教思想に由来した古典的意識ではないだろうか。一帯一路でインフラ建設の恩恵を受けると思い込んでいた国々は、そこに気づき反発を見せるようになっているのであろう。
同胞を取り返す意志を示せ
中国外務省(陸慷報道局長)は中国(香港)籍の男が靖国神社境内でボヤを起し、建造物侵入容疑で逮捕された事件に関し、「既に日本側に懸念を伝えた。日本がこの件を適切に処理し、関係する人物の合法的な権益を確保するよう要請する」と述べた。日本人を何人も拉致していながら、容疑すら明確にしない中国が、日本が逮捕した中国人に対しては、「適切な処理」や「合法的な権益の確保」などとよく言えたものだと思う。ともあれ、拘束された後で身に覚えのないような罪状を着せられ、服役する日本人を救出できない日本でいいのか。日本以外の国がスパイ行為などで外国人を拘束することは時折起きてきた。その報復行為も当然の様に起きる。
そして外交交渉で、相互に釈放などが合意される。国家はその大小に関わりなく主権という点では同等であり、内外にウィン・ウィンを見せなければならない。ところが日本にはスパイ防止法がない。スパイもどきの行為で嫌疑がかけられても、あっさり逃げられてしまう。こうして、日本には拉致被害者を取り戻す材料が外交交渉以外にない。国会でモリ・カケ問題にかけた貴重な時間を、こうした国家主権に関わる拉致被害者や拘束日本人奪還の議論に振り向けないのか。
この際、日清戦争や日露戦争を思い出して、負け覚悟でもいいから、日本に不法侵入して日本から連れ去った日本人を取り戻す意志表示を同盟国の米国と世界に向かって行ってはどうか。北朝鮮の日本人拉致や中国での日本人拘束では、日本に一点の非もないからである。
日本がその覚悟を闡明にしたならば、いかに同盟国とはいえ米国も戦争はご免であろうから、戦争に至らないあの手この手で日本の側面援助に乗り出さざるを得ないであろう。イスラエルを米国が庇わざるを得ないと似たような状況を日本が作為するのである。
本気度を示す日本の初動をスパイ防止法の制定にするのはいかがであろうか。日本の国益を毀損する活動を行う組織や団体、企業、個人などを対象とするもので、野党がいう人権弾圧でも自由の束縛でもない。憲法擁護の政党やデモ行進で「改憲反対!」を叫ぶ日本人諸氏に再考を促したい。
「平和憲法」と言われて久しいが、拉致被害者も拘束日本人も取り返すことに役立たない憲法である。人権を無視し、人道を蔑にし、日本人を骨抜きにしてきただけの無脊椎国家憲法で、スパイ防止法さえ制定できなくしてきたのである。
※邦人の拉致を政治的解決の手段として、人道的な視点から北朝鮮に迫ることで彼らを追い込むことはできないでしょうか?
邦人拉致は、人権侵害という人道的な問題であると同時に国家主権の侵害、「侵略行為」です。北朝鮮も共産中国も追い込まれなければ動かないでしょう。インテリジェンス戦、ハイブリッド戦で彼らに勝利し、中国大陸に拘束された人たちや朝鮮半島に拉致された被害者、拉致の疑いが濃厚な「特定失踪者」の方の帰国を実現する、まさにこれが最大の勝利であり、外国からの今後の干渉への抑止力になるのではないでしょうか?
なぜ日本にはスパイ防止法がないのよ!
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