2018年8月10日金曜日

仁義なき米中戦争 ~南シナ海、関税、ヒューミント~ 我が国はどう乗り切るか!?

【経済】米中の貿易めぐる対立 専門家はどう見る? 
BBC News 
2018年8月6日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13596 https://youtu.be/tq0MuDkxpvg?t=35 

経済規模が世界第1位と2位の米中が角突合せる状況に、専門家たちは対立の激化を懸念している。 米国は中国からの輸入品2000億ドル(約22兆3300億円)相当に25%の関税をかけることを検討していると報じられている。当初は10%になるとしていたが、大幅に引き上げた形だ。 一方の中国は、米国が先月350億ドル相当の中国製品への関税を導入した後に報復措置をとっている。 中国の鐘山商務相は、「もし貿易戦争をしたい者がいるなら。我々は最後まで戦う」と語った。 ドナルド・トランプ米大統領は強気で、さらなる関税をちらつかせつつ、ツイッターで「貿易戦争は良いことで、簡単に勝てる」と述べた。
動画制作:ジルマ・ダストマルチ 提供元:https://www.bbc.com/japanese/video-45042008
〈管理人〉経済戦争は、余裕のトランプ政権、たじろぐ共産中国という構図か?しかし両国の関税合戦により、農業関係者はたまらんですな。


【軍事】南シナ海の教訓、中国に取られたらもう取り返せない
再び用い始めた「サラミ戦術」、トランプ政権も手詰まり状態
北村淳
南シナ海・南沙諸島の人工島に常駐することになった中国の海洋捜索救難船「南海救-115」(出所:中国交通運輸部)

 トランプ政権は、米国国防政策の基本方針を転換し、米国にとっての主敵をテロリスト集団から軍事大国すなわち中国とロシアに設定し直した。この方針は、昨年(2017年)末から本年初頭にかけて公表された国家安全保障戦略ならびに国防戦略概要に示されていた。また、現在、米国連邦議会で最終調整中の2019年度国防予算法案(NDAA-2019)に盛り込まれている内容からも、「仮想主敵は軍事大国すなわち中国とロシア」という方針が読み取れる。このように米国のこれからの国防戦略の根本は「大国間角逐に打ち勝つ」であり、その最大のチャレンジが「中国の軍事的台頭を押さえ込む」ことにある。だが、現実には、中国に強力な軍事的圧迫を加えるどころか、中国が着々と手にしてしまった東アジア地域、とりわけ南シナ海での軍事的優勢を切り崩すことすら容易ではない状況である。

米国を介入させないための「サラミ戦術」

 本コラムでは、中国が南沙諸島に人工島を建設して中国人民解放軍の前進海洋基地群を造り出し軍事的優勢を確実に手にしつつある状況を、2014年から追い続けてきている。同時に、そのような中国による軍事的優勢確保に対してアメリカがどのように牽制したのか(しなかったのか)に関しても、指摘してきた。
しかし、南シナ海での軍事的優性を確保しようとする中国の努力は、なにも南沙諸島に人工島を建設し始めてからのものではない。
 ベトナム戦争のどさくさに紛れてベトナムが実効支配していた西沙諸島を、中国は1974年に軍事占領した。それ以降、南シナ海を含む太平洋全域の覇権を手にしていたアメリカが介入してこない程度の「ささいな」勢力拡大行動を、目立たないように断続的に積み重ねてきた。いわゆる「サラミ戦術」(サラミスライス戦術)である。中国に対して融和的なオバマ政権が誕生すると、南シナ海の軍事的優勢を一気に手にするための準備を加速させた。そして、オバマ政権の2期目がスタートすると、サラミ戦術をかなぐり捨てて、南沙諸島での人工島建設や西沙諸島での軍備強化など、露骨な勢力拡大行動を開始したのだ。
南沙諸島の現状(黄色が中国の実効支配)

誰もが予想しなかった中国のスピード

 2014年春、中国が南沙諸島の数カ所の環礁を埋め立てて人工島を誕生させようとしているらしいとの情報が、フィリピン政府やアメリカ海軍によってもたらされた。当時、アメリカ海軍を含む米軍当局やホワイトハウスをはじめ国際社会の誰が、わずか2年半足らずの時間で、満潮時にはそのほとんどが海面下に没してしまうような環礁が立派な島に姿を変えてしまうと予測しただろうか? それも7つもである。
また、埋め立て作業開始後わずか4年ほどで、7つの人工島に各種レーダー施設や港湾施設や航空施設それに灯台をはじめとする軍事拠点とみなしうるだけの設備が設置され、海洋基地群へと生まれ変わってしまうと、誰が想像したであろうか? それら人工島の3カ所には、3000メートル級滑走路まで誕生しているのだ。
 オバマ政権が中国に対して腰が引けていたことは事実である。だが、アメリカ軍当局が中国の人工島造成能力を把握しきれず、南シナ海でのサラミ戦術から一気に軍事的優勢を掌握してしまう戦術に転換した中国の動きに対応することができなかったこともまた事実である。

手詰まり状態のトランプ政権

 では、トランプ政権はどうか。実はトランプ政権も、大統領選挙期間中は南シナ海での中国の覇権主義的動きに対して極めて強硬な姿勢を示していたものの、結果的に判断すると、それはオバマ政権を批判し民主党に大統領選挙で打ち勝つ戦術の1つであったにすぎなかった。トランプ政権発足後には、北朝鮮問題で中国の協力が必要になったという事情も生じたために、中国に対する強硬な姿勢は示さなかった。
連邦議会や海軍などの対中強硬論も無視できなかったトランプ政権は、オバマ政権下でしぶしぶ開始された南シナ海での「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)を再開した。しかしながら、オバマ政権下での倍以上の頻度でFONOPを実施し始めた矢先、アメリカ太平洋艦隊軍艦が立て続けに重大衝突事故を起こしたりしたため、FONOPのペースを上げることができなくなってしまった。もっとも、米海軍が南シナ海でFONOPを実施すると、それに対して中国は「アメリカの軍事的脅威からの自衛」を口実にして、ますます西沙諸島や南沙人工島の軍備を強化する、というイタチごっこが続いている状況だ。
要するに、中国による軍事的優勢掌握が完成しつつある反面、かつて軍事的優勢を手にしていたアメリカは有効な巻き返し策を見出せないでいる、というのが現在の南シナ海の軍事情勢である。

再び用い始めたサラミ戦術

 このような状況下で、米国の積極的な軍事介入を避けつつ、南沙人工島の軍備をさらに増強させ、人工島以外にも実効支配する領域を拡大していくことが中国の戦略である。そこで中国は、再びサラミ戦術を用い始めたようだ。
 フィリピン軍によると、中国人工島の1つであるミスチーフ礁とフィリピンが軍隊を駐屯させているラワック島の中間に位置するジャクソン礁を、中国海軍が軍艦の「泊地」化しつつあるという。ジャクソン礁はかつてはフィリピン漁民たちにとって漁場として親しまれていたが、昨今は中国側によってフィリピン漁民は排除されてしまったそうである。そして、人工島基地群の完成が近づきつつある現在、ジャクソン礁では数多くの中国海軍艦艇などが投錨したり出動準備をしている状況になっている。
このように、中国はジャクソン礁を、アメリカをはじめとする国際社会の耳目を集める人工島建設ではなく、静かに軍艦の停泊地としてしまうことにより実効支配を確立してしまおうというのである。まさにサラミ戦術そのものだ。そして8月に入ると、中国政府は海洋捜索救難船「南海救-115」(中国交通運輸部南海救助局所属)をスービ礁(人工島の1つで3000メートル級滑走路が設置されている)に派遣すると発表した(冒頭の写真)。南海救-115はスービ礁に一時的に派遣されたのではなく、今後はスービ礁を母港として南沙諸島での海難事故に備えるとのことである。やはり、国際社会の耳目を集める軍艦の母港化ではなく、救難船を配置に付けるというサラミ戦術によって、より一層中国の実効支配体制を固めていくのが狙いであろう。
このように、南シナ海での海洋前進基地群が完成に近づいた中国は、再びサラミ戦術を用い始めた。徐々に軍事的有性を強化しつつ、次なるチャンスを持ち続け、再び機会が到来したならば、さらに露骨に覇権を拡大しようというわけだ。

「取られたら、取り返せない」という教訓

 西沙諸島や南沙諸島での中国による軍事的優勢確立の事例は、どんなちっぽけな島嶼や環礁でもいったん占領されてしまうと、それを元の姿に差し戻させるのは極めて困難であることを如実に物語っている。すなわち、外交的圧力や軍事的示威行動程度の手段で中国に西沙諸島や南沙人工島から手を退かせることが不可能であることは明白だ。
 米軍関係者の間でも、中国が巨費を投じて創り出した人工島海洋基地から中国軍を撤収させるには米中戦争に打ち勝つことしか選択肢はないということが、もはや常識となっている。とはいえ、トランプ政権や米連邦議会、それに米軍当局が、アメリカの領土ではない「ちっぽけな環礁」(それもほとんどのアメリカ人が知らない場所)を巡る紛争に介入して米中戦争に突入する意思決定を下す公算はもちろんゼロに近い。
 このような現在進行中の南シナ海での中国による覇権確立状況は、万が一にも日本の「ちっぽけな島嶼」が中国に軍事占領された場合、どのような運命をたどることになるのかを誰の目にも見える形で示唆しているといえよう。
 日本国防当局関係者の一部は驚くべきことに、「いったん敵に島嶼を取らせて、しかる後にその島嶼を奪還する」というアイデアをしばしば口にしている。しかし、そうしたアイデアを絶対に島嶼防衛戦略に組み入れるべきではない。どんなに「ちっぽけな」島嶼といえども、絶対に中国軍に占領されてはならないのだ。いったん占領されてしまった場合は、米中戦争の危険を冒してまでアメリカが本格的に軍事介入する可能性はゼロと考えねばならない。そして、多数の長射程ミサイルが日本全土に降り注ぐ状況下で自衛隊が独力で人民解放軍を撃破する以外に、いったん取られた島嶼を取り戻す方策は存在しない。
〈管理人〉我が国の北方領土(樺太、千島列島)もソビエト連邦の侵略にあって以来、実行占領され、戦後の日ソ共同宣言により色丹島と歯舞群島に関しての返還と平和条約締結が決められたにすぎず、これさえ実際のアクションがおこされたのは第二次安倍内閣になってからです。大陸国家が周辺の島嶼群を実行占領するのは、相応の国家戦略に基づいて行われるものであり、いったん実行占領を許すと取り戻すのは実に困難なことです。だから主権国家は領域の境界、国境周辺の防衛に絶えず神経を使わないといけません。軍事力の展開、再編もその手段の一つなのです。とられた領土を取り返す効果的な手段の一つは「軍事力の行使」でしょうが、そういうオプションが最善の方法なのか?基本をふまえながら、個々のケースに応じて解決する粘りが不可欠でしょう。
護衛艦いずも、南シナ海でアメリカ海軍と共同訓練
南シナ海の問題は、我が国にとっても他人事ではありません。
【アメリカの国防周辺国日本国と共産中国・知られざる情報戦争】
共産中国のヒューミントをめぐる情報戦戦略、カウンターインテリジェンスの手法について参考になる論文をご紹介いたします。
カウンターサイバーアタック~誰もが狙われる時代~
中国で逮捕される日本のスパイが急増、その理由と対策
法の不知はこれを許さず:中国ではどのような行為がスパイ活動に当たるのか
中国・北京で外国人スパイへの注意を促す漫画を読む女性(2017523日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / GREG BAKERAFPBB News

 最近の新聞報道によると、中国で長期拘束されている日本人が年々増えているという。2015年以降、スパイ行為に関わったなどとして日本人8人が相次いで逮捕・起訴されている。そして、本年710日には愛知県の男性がスパイ罪で懲役12年の実刑判決を、713日には神奈川県の男性がスパイ罪で懲役5年の実刑判決をそれぞれ受けた。これら有罪判決を受けた2人以外にも、温泉開発の地質調査中に拘束された男性ら6人が逮捕・起訴されている。8人のうち6人がスパイ罪、2人が国家秘密等窃盗罪などで起訴されている。
菅義偉官房長官は、平成30年730日の記者会見で次のように述べるなど、日本政府は一貫してスパイ行為への関与を否定している。
 「日本政府が中国に、スパイ行為に関与する民間の人を送り込んだという事実はあるのか」との記者の質問に対して、「我が国はそうしたことは、絶対にしていないということを、これはすべての国に対して同じことを申し上げておきたい」
 日本の新聞各紙は日本人の動静しか報道していないので拘束された8人という数字が他の国々と比較して多いのか少ないのか分からない。すなわち、中国で日本人スパイがそんなに多数活動しているのか、あるいは中国がことさら日本人を標的としているかが不明である。
 官房長官の日本政府は今回のスパイ行為に一切関与していないという発言を信じるならば、今回身に覚えのないことで身柄を拘束された日本人にとっては青天の霹靂どころか恐怖と不安で生きた心地がしないであろうと推察する。このように日本人が外国のスパイ対策などに関する法制に無知であるがゆえの不幸な事態に巻き込まれることは二度と起こしてはならない。

1.中国のスパイ対策に関する法制の実態

 法律に関する格言に「法の不知はこれを許さず」というものがある。
 例えば、日本で自衛隊基地を撮影しても罪にならないからといって、中国で軍事基地を撮影して拘束されても、「中国で軍事基地を撮影することが罪になることだとは知らなかった」では済まされず、スパイ罪で罰せられるということを肝に銘じるべきである。そのためには、中国を観光または仕事で訪れる日本人は、どのような行為がスパイ容疑に該当するか、関連する法律を知っておかなければならない。本稿ではその点に焦点をあて中国のスパイ対策に関する法律の要点を紹介する。関連する法律には、刑法、国家秘密保護法、スパイ防止法および軍事施設保護法がある。各法律の日本語版をインターネットで検索したが見当たらなかったので、各法律の関連条文の要点のみを筆者が翻訳し、以下に紹介する。翻訳の適否について大方のご教授を賜りたい。
1)刑法(中華人民共和国刑法)
 中国は、197971日制定の旧刑法典を1997年に全面改定した。そして、2015年には一部改定した。本稿に関連する改定箇所としては第311条がある。同条文では、これまで証拠提出拒否罪がスパイ犯罪のみであったが、今回の改定で、スパイ罪に加えてテロリズム犯罪と過激主義犯罪の証拠拒否罪へと拡大した。
 関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.次のような国家安全に危害を及ぼすスパイ行為は、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処する。比較的軽度の場合は3年以上10年以下の有期懲役に処する。(110条)
スパイ組織に参加する又はスパイ組織若しくは代理人の任務を遂行する。
敵に攻撃目標を指示する。
イ.外国の機関、組織、個人のために国家秘密を不法に入手し、それらを不法に提供する者は、5年以上10年以下の有期懲役に処する。
 特に重度の場合は10年以上の有期懲役又は無期懲役に処する。比較的軽度の場合は5年以下の有期懲役、拘留、監視又は政治上の権利剥奪に処する。(111条)
ウ.戦時中に、敵に、武器、装備、軍用物資又は資金を提供した者は、10年以上の有期懲役あるいは無期懲役に処する。比較的軽度の場合は3年以上10年以下の有期懲役に処する。(112条)
エ.上記のスパイ行為等により、国家と人民に対して特別に重度の危害を及ぼした場合は死刑に処すことができる。(113条)
(2)国家秘密保護法(保守国家秘密法)
 中国は2010年に旧国家秘密保護法を改定した。改正法ではネット業者に対し、ネット上で当局が「国家秘密」と判断した情報の漏洩が発見された場合、ただちに配信を停止し、記録を保存して公安機関に報告することなどが義務づけられた。関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.   次に掲げる事項について、その漏洩により国の政治・経済・国防・外交等の分野における安全及び利益が損なわれるおそれがある場合には、国家秘密に指定しなければならない。(9条)
イ.   国家事務の重大な政策決定における秘密事項
国防建設及び武力活動における秘密事項
ウ.   外交及び外事活動における秘密事項並びに対外的に秘密保護義務を負う秘密事項
国民経済及び社会発展における秘密事項
エ.   科学技術における秘密事項
国家安全の擁護活動及び刑事犯罪の調査における秘密事項
オ.   国家秘密行政管理部門が指定したしたその他の秘密事項
政党の秘密事項で前項の規定に合致するものは、国家秘密に属する
カ.   イ.次の行為の一つを犯した者は、法律に基づき罰せられる。違反行為が犯罪となる場合は起訴され、法律に基づき刑事責任が問われる。(48条)
キ.   国家秘密に属する物件(国家秘密体)を不法に取得又は所有する
国家秘密に属する物件を購入、販売、移動又は破壊する
ク.   国家秘密に属する物件を秘密防護手順に従わず、通常郵便又は速達便などで送達する
関連する当局の許可なく、国家秘密に属する物件を国外へ郵送若しくは配送する又は国外に携行若しくは移動する
ケ.   不法に国家秘密をコピー、記録又は(データ)保存する
個人的な接触又は手紙のやりとりにおいて国家機密に言及する
コ.   インターネットもしくは他の公共情報ネットワーク又は秘密保護措置が適用されていない有線若しくは無線によって国家秘密を送信する
サ.   国家秘密を扱っているコンピュータ又は他の記憶装置を、インターネット又は他の公共情報ネットワークに接続する
シ.   保護措置を講ぜずに、秘密情報システムと、インターネット又は他の公共情報ネットワークの間で情報を交換する
ス.   国家秘密情報を保存又は処理するために、国家秘密を扱っていないコンピュータ又は他の記憶装置を用いる
3)スパイ防止法(反間諜法)
 1993年に制定された国家安全法(旧国家安全法)に代わるものとして、スパイ防止法(反間諜法)が2014111日に第12期全国人民代表大会の常務委員会によって制定され、即日施行された。
 同法の特筆すべき点は、第36条でスパイ行為を定義していることである。関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.本法が言うところのスパイ行為とは、次のような行為を指す。(36条)
スパイ組織が実施する、その代理人が実施する、スパイ組織等から資金を援助された者が実施する、又は国内外の機関・組織・個人が結託して実施する、中華人民共和国の安全に危害を与える行為
スパイ組織又はその代理人からの指示を遂行する行為
海外の機関・組織・個人が、又は海外の機関・組織・個人が国内の機関・組織・個人と結託して、情報を不法に入手する又は不法に提供する行為
中国の国家公務員を扇動、誘惑又は買収して国家を裏切るようそそのかす行為
敵に、攻撃目標を指示する行為
その他のスパイ活動
4)軍事施設保護法(施保
 1990年に制定された軍事施設保護法が2014年に改定された。
 改正法では軍事施設の保護範囲の拡充や「軍事禁区」「軍事管理区」の定義の詳細化などが行われた。関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.   次の建物、場所、設備を軍事施設とする。(2条)
イ.   作戦指揮所(地上及び地下)
軍用の空港・港・埠頭
ウ.   隊舎、訓練場、試験場
軍用の地下壕・倉庫
エ.   軍用の通信、偵察、航法及び観測塔並びに測量、航法及び航路標識
軍用の道路、鉄道、通信回線及び送電回線並びに軍用の送油管及び送水管
オ.   国境警備及び海洋警備の管理施設
国務院と中央軍事委員会が指定する他の軍事施設
カ.   イ.軍事禁止区域保護のための禁止事項(15条)
キ.   軍事禁止区域への関係者以外の人員、車両、船舶の侵入を禁止する
軍事禁止区域における撮影、ビデオ撮影、録音、実地調査、測量、スケッチ及びメモを禁止する
ク.   ウ.次の行為には、「中華人民共和国治安管理処罰法第23条」(注)の規定が適用される。(43条)
ケ.   不法に軍事禁止区域及び軍事管理区域に入り、制止を無視する
コ.   軍事禁止区域には入っていないが軍事施設から一定の距離にある軍事管理区域に入り、軍事施設の安全と効果的な使用に危害を加える行動を行い、制止を無視する
サ.   軍用空港の保護区域に入り、飛行安全と空港施設の効果的な使用に影響する行動を行い、制止を無視する
シ.   軍事禁止区域及び軍事管理区において、不法に撮影、ビデオ撮影、録音、調査、測量、スケッチ及びメモを行い、制止を無視する
ス.   その他、軍事禁止区域及び軍事管理区域の管理秩序を乱し、軍事施設の安全活動に危害を及ぼしたが、状況が刑事処分の対象となるには軽微である場合
セ.   (注)第 23 条の罰則は、警告又は200 元以下の罰金で、情状が比較的重い場合は、5日以上10日以下の拘留と500元以下の罰金の併科である。
ソ.   エ.次の行為に該当し、犯罪を構成すれば、法律に基づき刑事責任が問われる。(46条)
タ.   軍事施設を破壊する
軍事施設の装備・物資・器材を窃盗、略取又は強奪する
チ.   軍事施設の秘密を漏えいする
海外の機関・組織・個人のために軍事施設の秘密を不法に入手し、不法に提供する
ツ.   軍用固定無線施設の電磁環境を破壊し、軍用無線通信を妨害し、その影響が重大な場合
テ.   6)その他、軍事禁止区域及軍事管理区域の管理秩序を乱し、軍事施設の安全活動に危害を及ぼし、その影響が重大な場合
ト.   オ.武装警察部隊所属の軍事施設及び国防関連産業の重要な武器装備に関する研究・生産・試験・貯蔵等の施設の保護についてもこの法律の規定が適用される。
ナ.    以上が中国に行く日本人が最低限知っておくべき法律・条文の要点である。

2.日本が採るべき対策など

 中国で長期拘束されている日本人が年々増えているという事実に対して日本はどう対処すべきか。
 まず、日本人のスパイ・リテラシーを向上することである。筆者が考えるスパイ・リテラシーには3つの側面がある。
 1つ目はスパイ活動(諜報、謀略、宣伝工作など)に対する理解力である。
 2つ目はスパイ対策活動(防諜)に対する理解力である。
3つ目はスパイ活動の意義に対する理解力である。
 諜報、防諜という用語は読者の方々には聞きなれないかもしれないが、旧軍で用いられていた。そこでは諜報とは、その行為の目的を秘匿して行う情報収集活動であり、防諜とは、相手の我に対するスパイ活動を阻止・破砕する活動であり、防諜意識向上のための教育・啓蒙等(消極的防諜)と外国の非合法的な諜報活動等を探知・逮捕(積極防諜)から構成されるとされた。
 3つ目のスパイ活動の意義は、国家の外交政策、防衛政策等の立案・遂行の前提条件は相手国の国情を知ることであるとされた。
 すなわち、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」ということである。諸外国では、スパイ活動は政府の通常の機能であると考えられており、そのため、行政機関の1つとしてスパイ組織を保有し、国外におけるスパイ活動を行っている。戦後、日本ではスパイ活動のみならず諜報、防諜という用語が軍国主義を想起させるとしてタブー視しされてきた。それが今日の日本人のスパイ・リテラシーを低くしている要因である。
 我が国でも「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」が衆議院に提出されたが廃案となった経緯がある。戦後73年を経たが、いまだスパイ防止法は制定されていない。このような我が国の現状が国民のスパイ・リテラシーを低くしているのである。
早急にスパイ防止法を制定し、我が国において多数の外国のスパイが活動していることを公式に認めるとともに外国情報機関員等の非合法のスパイ活動を決して許さず、スパイを確実に逮捕するとい強い姿勢を明らかにすべきである。そうすれば自ずと国民のスパイ・リテラシーは向上するであろう。
 次に、外国のスパイ対策の実態を国民に教育・啓蒙することである。再発防止策の定番は事例紹介である。
 しかし、今回、中国においてスパイ容疑などで拘束された8人がどのような経緯で拘束されたかが明らかにされていない。政府は海外でスパイ行為とみなされる行為をしないよう教育・啓蒙を行っているのであろうか。海外における邦人の安全確保は外務省の重要な責務であることは間違いない。しかし、外務省が発信している情報の中にスパイという用語は一語もない。
 例えば、外務省安全情報の中に「撮影した対象が国家機密に触れた場合は重罪となる場合がありますので、決して興味本位でこれらの施設等を撮影しないようにしてください。」との注意喚起がある。これでは、スパイ・リテラシーの低い日本人には、撮影した行為がスパイと見なされ、 最高刑が死刑であるスパイ罪で逮捕される恐れがあることまでは理解できないであろう。これはまさに「教えざる罪」である。
 政府は、海外で無実の罪で逮捕・起訴される日本人を二度と出さないために、早急にスパイ活動(諜報等)、スパイ対策活動(防諜)およびスパイ活動の意義等について国民を教育・啓蒙しなければならない。その前提としては我が国のスパイ活動やスパイ対策活動などの法制の整備が必須である。しかしながら、政府がこのような施策に着手するには時間がかかるであろう。したがって、海外に出かける国民には、自らの安全を確保するために事前に訪問国の関連する法律を理解する努力が必須である。本稿がその一助となれば幸いである。

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