2018年3月3日土曜日

いよいよ「米中対決」の構図を描いたアメリカ ~米朝の軍事衝突の是非は?~

中国との対決に舵を切ったアメリカ

新「国防戦略」で示されたトランプ政権の現状認識と最大の脅威

北村淳
ベルギー・ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で記者会見するジェームズ・マティス米国防長官(2018215日撮影、資料写真)。(c)AFP/JOHN THYSAFPBB News

 トランプ政権は、2018年の1月下旬に公表した「国防戦略 2018NDS-2018)」において、「大国間角逐(かくちく:互いに争うこと)」こそがアメリカ国防にとって最大の脅威であるという、国際軍事環境に対する現状認識を示した。
「大国間角逐」という現状認識
 マティス国防長官は「NDS-2018」に関連して、「アメリカ軍は世界規模での対テロ戦争に打ち勝つための努力を継続していくものの、アメリカの国防が最も重視しなければならないのは『対テロ戦争』ではなく『大国間角逐』である」と明言している。
 すなわち、トランプ政権下におけるアメリカ国防戦略の基本方針は、大国間角逐、つまり「軍事大国の間における強度な競合」という軍事環境に突入したという現状認識を大前提にして、そのような大国間角逐に打ち勝つことによってアメリカの国益を維持する、というのである。米国にとっての大国間角逐とは、具体的には「中国の軍事力、そしてやがてはロシアの軍事力、との熾烈な競合」を指す。
 米国の安全保障関係者たちの間では、このように大転換した国防戦略の基本方針を実施するためには具体的にどうすれば良いのか? といった議論が活発になってきている。とりえわけ、これまで対テロ戦争にプライオリティーが与えられていたため、力を押さえつけられてきた「中国封じ込め派」の人々の多くは、NDS-2018で表明された軍事環境認識に賛同するとともに、国防戦略の基本方針を実施していくための戦略案や具体的方策案などを提示し始めている。
繰り返されてきた「集団安全保障的心情」
 なかでも、陸軍将校退役後はCSBAという国防に関するシンクタンクを主催するなど安全保障戦略家として高名なアンドリュー・クレパインビック博士はNDS-2018を次のように高く評価している。
「マティス長官が率いるトランプ政権国防当局が、NDS-2018において『大国間角逐に打ち勝つこと』をアメリカ国防戦略の基本方針に据えたことは、第1次世界大戦以降長きにわたってアメリカの国防政策担当者たちが依拠し続けてきた『集団安全保障的心情』から目を覚まさせようとする画期的な第1歩である」
 クレパインビック博士たちによると、「集団安全保障(collective security)」とは、大国(軍事大国)が既存の国際社会というシステムに組み込まれ、もしもそのシステムをひっくり返そうとする動きを見せた構成国が現れた場合は、大国が主導する国際社会が集団で“跳ねっ返り”から既存のシステムを防衛する、ということが大前提となっていた。
 しかしながら、第1次世界大戦後の集団安全保障システムはドイツ、日本、イタリアによる挑戦を受け、第2次世界大戦後の集団安全保障システムはソビエト連邦が率いる共産主義勢力による挑戦を受け、冷戦後の集団安全保障システムは中国およびロシアによる挑戦を受けつつある。
 クレパインビック博士によると、集団安全保障システムがそのように危険にさらされる状況が繰り返されてきたのは、「集団安全保障的心情」に突き動かされていたアメリカの指導者たちが常に誤って国際情勢を認識していたからである。マティス国防長官が率いるアメリカ国防当局は、これまで幾度となく繰り返されてきた集団安全保障的心情から脱却して、国際軍事環境を大国間角逐という視点から認識するという正しい(クレパインビック博士たちにとっては)立場にスタンスを移し替えたというわけである。
その際、トランプ政権が想定している「大国間」とは、現時点においては「アメリカ対中国」である。近い将来にはそれに「アメリカ対ロシア」も加わるが、現在のアメリカ国防当局にとって喫緊の課題は、「米中間角逐」に打ち勝ってアメリカの国益を維持しなければならない、ということになる。しかしながらクレパインビック博士は、「米中間角逐(そして米ロ間角逐)に打ち勝つ」という基本戦略には深刻な問題が横たわっていると警鐘を鳴らす。すなわち、基本戦略を着実に実施するための具体的戦略あるいは作戦概念を、個々の米軍(海軍、陸軍、空軍、海兵隊)も米軍全体(統合軍)も持ち合わせていないということである。
でも指摘したように、中国は「積極防衛戦略」という確固たる具体的な国防戦略を着々と推進している。それに対してアメリカは何ら具体的な対中国軍事戦略を策定していないのが現状である。
クレパインビック博士たちCSBAが警鐘を鳴らす日本周辺での中国の軍事的優勢
日本に必要な独自の「列島防衛戦略」
 そこで具体的な対中国軍事戦略としてクレパインビック博士たちが提唱するのが、かねてよりCSBAによって機会あるごとに主張し続けてきた「列島防衛戦略(作戦概念)」である。
この戦略は、日本列島から台湾、フィリピン、インドネシアを経てマレーシアに至る、中国側のいうところの「第1列島線」と、伊豆諸島、小笠原諸島からグアム島やサイパン島などマリアナ諸島を繋ぐ「第2列島線」に、米軍(海軍、空軍、海兵隊そして陸軍)前方展開部隊を展開させ(あるいは急展開できる態勢を維持し)、中国人民解放軍海洋戦力(海上戦力、海中戦力、航空戦力、長射程ミサイル戦力、それにサイバー戦力)が、それらの列島線に接近できなくしてしまおう、というものである。ただし、この「列島防衛戦略」の提唱に対しては慎重論も少なくない。なぜなら、現状においては、南シナ海周辺諸国や米国の同盟国、友好諸国の多くは中国との経済的結びつきが、もはや捨てがたい状況となっているからだ。「中国との経済的結びつきが強い国は、『列島防衛戦略』などアメリカ側が提唱する対中国戦略はアメリカの国益維持のための戦略だと考えている。そうした対中対抗策をアメリカが持ち込もうことに対しては、さすがに面と向かって口に出してはいないものの、“ありがた迷惑”だとして心中困っているはずだ」といった声も聞かれる。
第一列島線と第二列島線 (星印は米軍拠点)
 とはいうものの、東シナ海・南西諸島の島嶼防衛の必要がある日本にとっては、「列島防衛戦略」は「アメリカの国益維持のため」というよりは「日本の国益維持のため」の国防戦略そのものである。
 したがって日本は、アメリカの対中封じ込め派の外圧要求を待つまでもなく、自主的に日本独自の「列島防衛戦略」、すなわち中国が与那国島から利尻島に至る長大な日本列島線に接近できないようにするための具体的国防戦略を打ち立て、推進する策を講じねばならない。もちろん、日本がこのような戦略を実施するに当たっては、「列島防衛戦略」を推し進めるアメリカとの協働が有用である。ただし、その際に日本側が心せねばならないのは、アメリカによる「列島防衛戦略」は「大国間角逐」に打ち勝つための具体的戦略であり、日本政府が拘泥している国連中心主義、すなわち集団安全保障的心情から離脱した世界観に立脚しているということである。
〈管理人より〉アメリカにとっての共産中国は、第二次世界大戦の時にアメリカが熾烈な、多くの同胞の犠牲の上に獲得してきた「大日本帝国の遺産」を一戦も交えずに「強奪」しにやってきた新興大国といえるでしょうか?ゆえに共産中国の海洋覇権そのものを抑止し、アメリカの既得権益を防衛、維持すべき戦略の構築がなされた、とみるべきでしょう。我が国政府も、国家戦略の確定方針を根拠に国家の抑止力たる軍事力を整備、配備していくべきでしょう。
戦略家コリン・グレイ


【北朝鮮問題】
アメリカの国防線(朝鮮半島38°線、休戦ライン)と本土防衛に関する問題

アメリカはなぜ朝鮮半島で戦うのか

ペンス副大統領の横田演説

岡崎研究所

 201828日、米国のペンス副大統領は、安倍総理や小野寺防衛大臣等との会談を含む一連の訪日日程を終え、次の訪問地韓国に発つ前に、米空軍横田基地にて、約2千人の米軍兵士や自衛隊員を前に、演説を行ないました。その要旨を以下に紹介します。

 日米両国は、長きにわたる同盟関係及び固い友情で結ばれ、自由への揺るぎないコミットメントをしている。日米同盟は、インド太平洋地域における平和、繁栄及び自由の礎石である。昨日、安倍総理と私(ペンス)は、日米の絆は今日ほど強固になったことはない、との認識で一致した。
 諸君は、どこでもどんな時でも誰にも負けない米国の強さを体現している。そして、米国は、世界史上、最も強い軍隊を有する。最高司令官である大統領は、昨年、この10年間で最高額の軍事予算の増額を決めた。本日は、大統領の指導力と超党派の議会の支持によって、レーガン政権以来の最高の国防投資を含む2年間の予算が決まったことを喜んで報告する。この8年間で最も高い軍人給与の増加を含む国防予算の増額は800億ドルに及ぶ。
 先週、政府は核戦力見直し(NPR)を発表した。核兵器を近代化することによって、我々の戦略はより柔軟性をもって、今日直面する脅威に対処可能となる。そして我々の核戦力によって、米国、米国民及び世界中の同盟諸国への戦略攻撃を抑止することができる。
 トランプ大統領も言ったように、「善が強い時のみ平和がいきわたる。」そして諸君がその強さである。諸君や諸君の前任者によってインド太平洋には平和が三四半世紀続いている。しかし、この状態を逆行させようとする者がいる。この地域における米国の影響力をそぎ、自国民を痛みつけ、世界を脅かす存在である。その典型が北朝鮮のならず者体制である。68年前(1950年)の6月、北朝鮮は自由主義の韓国に対して軍を進めた。しかし、米国軍の御蔭で、北朝鮮の征服戦争は失敗に終わった。そして今日も、将来も、米国は自由で誇り高き韓国民とともにある。
 しかし、それから数十年、北朝鮮の独裁者は、自国民を、トランプ大統領が「刑務所国家」と呼ぶところの状態においてきた。ある統計によると、およそ10万人の北朝鮮人が強制収容所に入れられている。政府に反対すれば投獄され、拷問され、さらには殺害される。彼らの子供や孫達まで、国家に対する家族の罪で処罰される。そして、 1990年代だけでも、飢餓と窮乏によって100万人以上の北朝鮮人が死亡した。全国民の70%(約1800万人)が食糧援助を必要としている。最も悲劇的なのは、5歳未満の10人の北朝鮮の子供のうち3人近くが栄養失調で衰弱している。
 北朝鮮は、今でも韓国を征服する夢を有している。そして、近年、北朝鮮は、日本、米国、そして地域の同盟国を脅かしている。北朝鮮は、自分達の目的を達成するために国際テロを長年支援してきた。そしてこの20年間は、可能な限りの資源を投入して核兵器と弾道ミサイルの開発を行なってきた。我々は、同盟国や友好国と協力して、平和的に北朝鮮の核計画を止めさせ、人々の苦痛を軽減するよう努力する。
 残念なことに、北朝鮮は、何度も約束を破り、挑発行為を繰り返しエスカレートさせてきた。昨年は、30日以内に2度、日本の領土の上空を越えて弾道ミサイルを発射し、同時期に、核実験も行った。
 日本など同盟国・友好国と協力して、米国は北朝鮮に前例のないほどの経済的、外交的圧力をかけてきた。昨日表明したように、北朝鮮が核とミサイルを放棄するまで、我々は最大限の圧力をかけ続ける。米国は常に平和を追求する。より良い未来のために努力する。ただ、全ての選択肢はテーブルの上にある。米国民や同盟国を脅かす者に対して、米国は、国土と同盟国をいつ、いかなる場所でも守る。
 諸君が負う責任は重く、不確実なことばかりである。しかし、私は、皆さんが勇気をもってそれを克服することを信じている。諸君の先輩方がかつてそうしたように。ここで私は、一人の人物を挙げたい。第45歩兵師団にいた少尉である。彼は、ここから数百マイルしか離れていない韓国に上陸し朝鮮戦争を戦った。20以上もの敵の攻撃に向かいうち、その功績が讃えられ勲章が与えられた。彼はもういないが、その勲章は私のホワイトハウスの机上にある。そこにはエドワード・ペンス大尉と刻まれている。私の父である。数時間後、私は父が戦って守った国、韓国を訪問するのである。
 今日、諸君は、このインド太平洋地域で自由を発展させようと犠牲を払った人達の歴史の線上にいる。私は諸君に心から感謝する。韓国では、父や朝鮮戦争で戦った全ての軍人を追悼したい。そして、この歴史ある土地に自由の光を絶やさないよう尽力している諸君やその家族に感謝したい。
 何世代にもわたり、米国は、素晴らし同盟国、日本とともに、インド太平洋地域を守ってきた。そして将来にもわたって守り続けるだろう。今日、時代を経ても、我々のコミットメントは揺るぎないもので、我々の精神は決して屈することがない。我々は自由を守る。日米両国は共に、何世代にもわたり、安全で繁栄した平和な将来を築くのである。
出典:‛Remarks by Vice President Pence to Troops at Yokota Air Base White House, February 8, 2018
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-troops-yokota-air-base/
201828日のペンス副大統領の米空軍横田基地における演説は、約20分に及ぶ大変力強いものでした。同じ場所で、3か月前にはトランプ米大統領が演説をしていますが、それを踏まえての今回の演説でした。
 約20分のスピーチのうち、前半は米国軍の偉大さを鼓舞する内容で、後半は、主に北朝鮮を非難した朝鮮半島に関するものでした。
 前半の米軍を讃える部分では、トランプ政権が、国防予算を大幅に増加したことを報告しています。それへの超党派の合意も得られていることで、米軍の兵士たちを喜ばせ安心させています。また、米国の核戦力見直し(NDR)が発表されて間もないこともあり、米国の核を近代化させて抑止力を高めるとも述べています。
 後半では、北朝鮮の核・ミサイルの開発を非難するのは当然ですが、それ以上に北朝鮮国内の人権問題を挙げています。自国民への圧政や飢餓が蔓延していると言います。この論調は、昨年のトランプ大統領の国連演説や今年の一般教書演説の北朝鮮を非難するくだりでも同様です。北朝鮮の体制は「ならず者」だが、一般国民は犠牲者という論調です。実際、トランプ大統領は、一般教書演説の議場に脱北者を招きましたし、ペンス副大統領は、韓国訪問の際に、脱北者と面会しました。
 今回、ペンス副大統領が、トランプ大統領の演説の後、3か月しか経ずに同じ横田基地で演説をしたのには特別の意味がありました。スピーチの最後の方で、ペンス副大統領は、朝鮮戦争に従軍した父親のことを述べました。父が、朝鮮半島で戦ったのは、自由を守るためだったと言います。全世界で戦っている米軍は自由と民主主義の擁護のためにいる、在日米軍も在韓米軍もそうである、と米国の建国の基礎を思い出させました。演説中、何度も「自由」という言葉が登場しました。そこには、核・ミサイルを放棄させるという以上の米国の理念、普遍的価値を感じ取ることができます。
 今回の演説でも、日本を含むこの地域を呼ぶ際に、トランプ大統領が昨年ベトナムで行った演説以来の、「インド太平洋地域」という言葉が使用されました。北東アジアや東アジアにとどまらない、より広い地域を対象にした「インド太平洋地域」は、広大な海洋を想像させます。これは、安倍総理がかつてインドで表明した日米豪印を結ぶダイヤモンド構想とも呼応します。
 日米同盟をますます強固にしながら、このインド太平洋地域で自由で開かれた国際秩序を維持して、平和と繁栄を享受していくためには、日本にも更なる努力が求められるでしょう。そのことをペンス副大統領の横田演説は具体的に示しています。
 まず米国の国防予算の拡大がありましたが、日本も自国の国益を守るために、それ相応の防衛予算の拡大が必要になるでしょう。本年、安倍政権は、おそらく新たな国家安全保障戦略を打ち出し、国防戦略なり防衛大綱を見直すでしょう。その過程で、日米両国の共通戦略のすり合わせも行われるものと思われます。
 また、対北朝鮮政策ですが、日米両国は、圧力を強化して北朝鮮の核実験やミサイル発射という挑発行為を止めさせ、核・ミサイル開発を放棄させることで一致しています。圧力強化と言いますと、トランプ政権が北朝鮮をすぐにでも軍事攻撃するような論調が一部にありますが、昨年の国連演説から今年の一般教書演説、そして上記の横田演説を読みますと、軍事オプションを含む全ての選択肢を考慮するが、まずは平和的解決を図り、経済的、外交的圧力を強化すると言っています。軍事=戦争、対話=平和というイメージで語られることが多いですが、実際は、平和的手段の中に、経済的、外交的圧力が入るわけです。
 核・ミサイルも含め、日本は拉致問題の解決も含めた包括的解決を従来から主張しています。この拉致問題は、まさに人権問題であり、米国が主張する北朝鮮の人権問題と呼応する形で、解決を図っていくことがより効果的に思われます。今回、北朝鮮で拘束され帰国後に亡くなった米国人大学生のオットー・ワームビアさんの父親がペンス副大統領とともに韓国を訪問し、また両親・兄弟はトランプ大統領の一般教書演説の議場に招待されました。ワームビアさんのご家族を日本に招待し、拉致被害者のご家族と面談する機会が設けられれば、北朝鮮の人権問題でも日米連携がより深くなるのではないかと思われます。


「ずばり、米朝開戦はあるのか?」米下院議員に聞く

海野・明大教授の緊急リポート@ワシントンDC

海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

 今回のテーマは、「北朝鮮問題とロシア疑惑」です。現在、米国社会で関心が高まっている外交・安全保障問題について、下院外交委員会及び監視・政府改革委員会に所属するジェリー・コノリー下院議員(民主党・バージニア州第11選挙区選出)に、226日(現地時間)、ワシントン事務所でインタビューを行いました。
 本稿では、まずコノリー議員を対象にしたインタビューの内容を紹介します。次に、首都ワシントン郊外で221日から同月24日まで開催された保守強硬派の政治集会「米政治行動委員会(CPAC)」年次総会に参加したトランプ支持者にも取材をしましたので、彼らと同議員の北朝鮮問題並びにロシア疑惑に関する意見を比較してみます。
コノリー議員に聞く
Q ずばり「米朝開戦」はありますか?
A  北朝鮮が米国本土を狙った挑発的な行動に出ない限り、トランプ大統領は北朝鮮を攻撃しないでしょう。米国が先制攻撃を行なえば、北朝鮮は韓国と日本に反撃をして、同盟国に犠牲者が出ます。
Q 現時点における米議会の雰囲気は開戦ですか? それとも非戦ですか?
A 米議会は米朝開戦を考えていません。
Q どうしてこれまで米国は、北朝鮮の核開発を止めることができなかったのですか?
A ブッシュ政権の8年間に責任があります。クリントン政権は食糧支援を含めた人道支援を行いましたが、ブッシュ政権は北朝鮮に対してクリントン政権とはまったく逆の政策をとったからです。
Q なぜこのタイミングで米国は、核戦略を変更したのですか?
A  北朝鮮への牽制に加えて、ロシアや中国の核兵器に対する懸念があるからです。米国の核兵器は老朽化しており、性能を高める必要があります。敵国に対して、小型核兵器で迅速に対応しなければなりません。
Q 米国では11月に中間選挙が行われます。トランプ大統領は支持率を高めるために、中間選挙の前に金正恩北朝鮮労働党委員長と会談を持つでしょうか?
A トランプ大統領の心理状態を理解することが重要です。彼は自分が常に勝者であり、取引の達人として見られたいのです。トランプ大統領が金委員長と会談を行うという大胆な行動に出る可能性はありますが、私はその可能性は極めて低いとみています。というのは、リスクが高いからです。会談を行っても北朝鮮が核放棄をしなかった場合、トランプ大統領は米国民から敗者であり、取引の達人ではないと認識されてしまうからです。


Q 37ページにわたるFBIの起訴状によって、ロシアが米国の民主主義に介入したことが立証されました。しかし、トランプ大統領は、一貫してプーチン大統領を批判しません。どうして批判しないのでしょうか?
A CIAFBIを含めた17の米情報機関が、ロシアが2016年米大統領選挙に介入したと結論を下しました。トランプ大統領が指名したコーツ米国家情報長官とポンぺオ中央情報局(CIA)長官は、ロシアによる秋の中間選挙への介入を懸念しています。トランプ大統領は、一般教書でロシア介入について一言も触れませんでした。反ロシア色が強いはずの米政治行動委員会での演説でも、民主主義を攻撃したロシア問題を取りあげていません。ロシア介入を強く非難するべきだと批判されても、トランプ大統領は抵抗を示しています。恐らく、セックススキャンダルや金融支援に関してロシアに弱みを握られているからでしょう。
Q ロシア疑惑に関して、米議会では2つの機密文書が公開されました。下院情報特別委員会ニューネス委員長(共和党・カリフォルニア州第22選挙区選出)の「ニューネス文書」(注1)と、それに対抗する民主党の文書です。どちらの文書が米国民から支持を受けるでしょうか?
A 「ニューネス文書」が先に公開されましたので、米国民の記憶に残っているでしょう。しかし、ニューネス文書によって共和党の矛盾点が明確になりました。共和党は、FBIのロシア疑惑捜査が英国元情報部員クリストファー・スティール氏の文書によって開始されたと主張しています。ニューネス文書によれば、それは間違いです。トランプ大統領の元外交顧問パパドポロス氏がオーストラリア外交官に、ロシアがクリントン元国務長官を傷つける情報を掴んでいると発言したことがFBIによる捜査のきっかけになったのです。
Q 民主党の文書は、「ニューネス文書」の誤りを証明したといえますか?
A 民主党の文書は10ページにわたり、ニューネス文書よりも詳細です。ニューネス文書の主張を反証しました。
Q ロシアの2016年米大統領選挙介入が、選挙結果に影響を与えたと考えていますか?
A 12800万人の米国人が、インターネット上で米国人になりすましたロシア人が作った政治広告に触れました。米国人は、背後にロシアの組織が存在していることに気づいていませんでした。ロシア介入は、選挙結果に影響を及ぼしたと思います。
Q トランプ大統領は、モラー特別検察官によるロシア疑惑の捜査を監督しているローゼンスタイン司法副長官を辞任に追い込むでしょうか?
A トランプ大統領はそうしたいと思っているでしょう。
Q  トランプ大統領が、ローゼンスタイン司法副長官を解任した場合、第2の「土曜日の夜の虐殺」(注2)になる可能性はあるでしょうか?
A 当時、米議会の多数派は民主党でしたが、現在は共和党です。トランプ大統領がローゼンスタイン司法副長官を解任しても、「土曜日の夜の虐殺」にはならないでしょう。
(注14ページにわたる「ニューネス文書」の主題は、司法省と連邦捜査局(FBI)による外国諜報活動偵察法(FISA)に基づく偵察活動権限の乱用。トランプ陣営の元外交顧問でロシアスパイの疑いが強いカーター・ペイジ氏に対する盗聴監視許可の延長を得ようとして、FBIFISA裁判所に提出した「スティール文書」が争点となっている。「スティール文書」は、親クリントン・親民主党の元英国情報部員(MI6)クリストファー・スティール氏が作成した。
(注219731020日土曜日、ウォーターゲート事件の渦中にあったリチャード・ニクソン大統領(当時)は、アーチボルド・コックス独立特別検察官を解任した。その過程で、エリオット・リチャードソン司法長官及びウィリアム・ラッケルズハウス司法副長官が辞任に追い込まれた一連の出来事。その後、世論は司法妨害とみなし、ニクソン弾劾に一気に動く。
トランプ支持者の声
 リベラル派と見られているコノリー議員の北朝鮮問題に関する見方には、意外にも保守強硬派のトランプ支持者のそれと類似点がありました。米政治行動委員会年次総会の会場で、熱狂的なトランプ支持に北朝鮮問題及びロシア疑惑についてヒアリング調査を実施しましたので、以下で彼らの声を紹介しましょう。
マーク・ジョンソン(31)白人男性。
 「トランプがオバマよりも北朝鮮に対して、厳しい態度で臨んでいることに満足しています。トランプは北朝鮮に強い言葉を発していますが、軍事攻撃はしません。北朝鮮が反撃をするからです。フェイク(偽)メディアが戦争を行うと誇張しているだけです」
ルース・ベガ(21)白人男性。
 「トランプは北朝鮮に対して、軍事行動には出ません。言葉のみの戦争です」
ジェフ・ジョンソン(60)白人男性。
 「良いアイデアがあります。トランプと金正恩を入れ替えるのです。そうすれば、北朝鮮が再び偉大な国になります(Make North Korea Great Again)。もう一つ良いアイデアがあります。トランプが北朝鮮から核を買えば、問題は解決します」
スザンヌ・モンク(45)白人女性。
 「北朝鮮を攻撃するよりも、日本を含めた同盟国が結束することが重要です。日本は米国にとって極めて大切な国です」
類似点と相違点
 米世論調査会社ギャラップが行った調査(201821日-同月10日実施)によれば、米国民の51%が北朝鮮を最大の敵国と考えており、2位のロシアの19%32ポイントも引き離しています。20162月の同調査では、米国民の16%が北朝鮮を最大の敵国と捉えていましたので、2年間に北朝鮮に対する脅威が35ポイントも増加したことになります。ただし、上で紹介しましたように、コノリー議員及びトランプ支持者は、北朝鮮に対する「軍事攻撃はない」とみています。
 一方、ロシア疑惑に関してはコノリー議員とトランプ支持者には深い溝が存在しています。上の4人のトランプ支持者全員が、「ロシアは、2016年米大統領選挙の結果に影響を与えていない」と明言しました。マーク・ジョンソンさんは、「ロシア疑惑そのものがフェイク(偽)です」と言い切り、スザンヌ・モンクさんは「FBIの捜査は信頼できません」と主張しました。
 クイニピアック大学(米東部コネチカット州)が行った世論調査(201822日-同月5日実施)では、「FBIはトランプ大統領に偏見を持っているか」という質問に対して、全体で55%が「偏見を持っていない」と答えています。ところが、党派別にみますと共和党支持者の約6割は「偏見を持っている」、民主党支持者の約8割は「偏見を持っていない」と回答をしています。
 さらに同調査によれば、「2016年米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシア政府との共謀に関する捜査は合法的か、それとも政治的魔女狩りか」という質問に対して、全体で50%が「合法的」と回答しているのですが、共和党支持者になると約8割が「政治的魔女狩り」と答えています。逆に、民主党支持者は約8割が「合法的」と捉えています。トランプ大統領は、227日、自身のツイッターに「魔女狩り!」と投稿しました。
 コノリー議員及びトランプ支持者を対象にしたヒアリング調査の結果に加えて、世論調査からもロシア疑惑が米国社会を分断する一要因となっていることは明白です。

【改めて活用が模索されるアメリカの核兵器】

トランプ政権の新たな核戦略と日本への影響 (前編)
「意図」を示す宣言政策を読み解く

村野 将 (岡崎研究所研究員)

 201822日、トランプ政権は米国の核戦略や核戦力態勢を定める文書Nuclear Posture ReviewNPR)を8年ぶりに公表した。NPR2018は筆者が201711月に指摘した内容(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10992)をほぼそのまま反映しているが、本稿ではNPR本文を改めて読み解き、従来のNPRからの継続性と変化の双方の面から、日本の安全保障に与える影響について分析してみたい。

中露との「大国間競争」への回帰
 まず大きな変化の1つとして挙げられるのが、脅威認識の変化である。NPR2018の冒頭では、安全保障環境が過去8年間でいかに不確実化しているかが述べられ、特に核問題の焦点がロシア・中国との「大国間競争(great power competition)」に回帰しているとの認識が強調されている。この記述は、「核テロ」と「核拡散」の防止を核問題の最優先事項としていたNPR2010とは対照的である。この「大国間競争」という表現は、2015年末頃から用いられ始め、201712月に発表されたトランプ政権の「国家安全保障戦略(National Security StrategyNSS)」や181月に発表された「国家防衛戦略(National Defense StrategyNDS)」でも同様の認識が述べられている。このことは、近年ワシントンの安全保障コミュニティにおいて、中露の行動に真剣に向き合うべきという共通認識が形成されつつあることを反映したものと言える。
 中露に対する脅威評価は、程度の差こそあるものの、(1)国際約束の違反・不履行、(2)戦略核・非戦略核(戦術核)戦力の増強、(3)(2)を背景とした米陣営の通常戦力優位への挑戦(対宇宙・サイバー、接近阻止・領域拒否[A2/AD]能力、地下施設の拡充等)、(4)力による現状変更と国際秩序への挑戦、という諸点で整理されている。こうした問題認識は、これまでにも別個の論点として政府や軍の高官の口から語られることはあったものの、NPRという核戦略を示す文書の中で、核兵器の作用が核戦争領域にとどまらず、通常戦争領域や紛争に至る以前の「グレーゾーン領域」においても影響を及ぼすことが繰り返し強調されている点では画期的と言えるだろう。
 一方、北朝鮮とイランは、保有する(核)ミサイル戦力の質・量こそ中露に劣るものの、その能力向上は米国にも脅威を与える可能性があることを指摘するとともに、それが周辺国の核保有欲求を助長したり、関連技術を暴力過激主義組織などに移転しうる可能性に言及し、核拡散や核テロのリスクとしても描写されている。
再定義された核兵器の役割
 NPR2018が注目を集めた論点の1つに、核兵器の使用基準をめぐる表現ぶりがある。オバマ政権のNPR2010では、核兵器の役割を他国から核攻撃への抑止に限定する「唯一目的(sole purpose)論」を採用する条件は整っていないとしつつも、それは目指すべき目標であるとして、核によらない攻撃を抑止する上では通常戦力の活用の幅を拡げるなどして、核の役割を低減させていく方針が示された。
 だが今次NPRは、「核攻撃の抑止は核兵器の『唯一の目的』ではない」と断言して、NPR2010との違いを明確にしている。更に、核使用を検討するのは、米国や同盟国、パートナー国の死活的利益を守る「究極の状況」に限るとしながらも、「究極の状況」には、核によらない重大な戦略攻撃(significant non-nuclear strategic attacks)――米国や同盟国、パートナー国の民間人・インフラに対する攻撃、核戦力に対する攻撃、核戦力の指揮統制・警戒・攻撃評価能力に対する攻撃――を含むとして、その解釈を大幅に拡大した。同時に、オバマ大統領が任期末に検討した「核の先制不使用(no first useNFU)」についても、同盟国やパートナー国への抑止と安心を担保する上で、現在米国がNFUを採用することは正当化されないと念押ししている。
 これらの書きぶりについては、既に核軍縮の専門家などを中心に、核使用の閾値の低下や使用基準の曖昧さなどを問題視する声が上がっている。NPR本文に明記されてはいないものの、ここで想定されている状況の1つには、軍の指揮統制機能や民間の重要インフラに対する大規模サイバー攻撃、あるいは電磁パルス(EMP)攻撃といったノンキネティックな攻撃によって、作戦遂行が著しく困難になったり、多くの人の日常生活にかかわる甚大な被害が発生することが予想される場合に、核報復の可能性を示唆してその懲罰的抑止効果に期待するといったケースが考えられる。
 この種の攻撃は、現在のところ有効な損害限定(防御)手段を講じるためのコストが著しく高く、かといって策源地を何らかの手段で先制的に無力化することも確実でないことから、核による懲罰的抑止に頼る余地を残そうとしておくこと自体が間違いとは言い切れない。ただしそれは、万一敵からの攻撃が実行された場合に、何を標的にどの程度の規模の核報復を行うのかが明確ではないことから報復の信憑性を欠き、結果的に期待した抑止効果を発揮できないという曖昧戦略特有の問題があることにも留意しておく必要があるだろう。
 他方で、NPR2018が唯一目的化とNFUを明確に否定していることは、米国の核兵器が報復のためだけではなく、先制的に使用されるケースが存在しうることを示している。核作戦の実施に際し、NPR本文では「武力紛争法と統一軍事裁判法に則り、(相手の)民間人被害を最小限にとどめ、抑止を回復して紛争終結に努める」と断わりつつ、「米国や同盟国に対する損害限定のためには、ミサイル防衛に加えて、敵の移動式システムを発見、追跡、狙い撃つ能力を含む適応的な計画立案が求められる」との説明がなされている。
 この記述からは、ロシアや中国、北朝鮮の核・ミサイル戦力が移動発射台(TEL)搭載のミサイルを中心に構成されていることを踏まえ、それらに対しても米国が核を用いたカウンターフォース(対兵力打撃)を行うことも辞さない姿勢を誇示する狙いが読み取れる。核運用政策におけるカウンターフォース重視はこれまでにも謳われてはいたが、NPRが具体的なターゲティングの在り方に言及するのは初めてであり、踏み込んだ記述と言えるだろう。
ロシア・中国・北朝鮮・イランに対する
具体的な抑止戦略
 NPR2018では、今日必要とされる抑止の在り方として、「万事に適用できる一つの型(one-size fits all)」ではなく、それぞれの脅威の様相に合わせた「テイラード(tailored)」アプローチの必要性が説明されている。こうした考え方は、多少の表現の違いはあっても、ブッシュ政権の「4年毎の国防見直し(QDR)」2006、オバマ政権のQDR2010NPR2010などでも踏襲されてきたもので、特段新しい発想ではない。それよりも特筆すべきは、欧州とアジアへの拡大抑止の在り方に加えて、ロシア・中国・北朝鮮・イランの4カ国を対象とした各国別の戦略を明記していることだ。
 ロシアについては、限定的な核の先制使用の可能性を示唆し、自ら状況をエスカレートさせることで、最終的にロシアにとって望ましい形で紛争を終結させようとする戦略("escalate to de-escalate" doctrine)をとっていると分析した上で、米国や地域諸国に対する核の先制使用は、それが限定的であったとしても受け入れられず、露指導部にとって耐え難いコストが生じることを理解させる必要があるとしている。その上で西側は、米国の大陸間弾頭ミサイル(ICBM)、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)及び戦略ミサイル原潜(SSBN)、戦略爆撃機からなる「核の三本柱」、欧州に展開されたNATOの非戦略核戦力、英仏の核戦力を組み合わせた、高い残存性と柔軟性、即応性を有する核・非核の能力によって、ロシアの目標をリスクに晒しうる態勢を維持するとしている。
 これに続く欧州における拡大抑止に関する項目では、核・非核双方の任務を行う戦術航空機(dual-capable aircraftDCA)の残存性やその計画立案能力の改善を図り、核作戦支援を含むNATO同盟国の役割を拡大することを訴えている。現在NATOでは、核作戦計画の共有は行われておらず、DCAと非戦略核の配備こそ続けられていても、それらは米国の防衛コミットメントを示す象徴としての意味合いが強く、実際の使用は想定されていない。もしこうした方針がNPR2018を受けて見直されるとすれば、欧州の核抑止態勢は冷戦以後、再び重要な転換点を迎えていると言えよう。なお、DCA任務における同盟国の役割拡大については、DCA配備基地の防護強化や現在の5カ国(オランダ、ドイツ、ベルギー、イタリア、トルコ)以外の加盟国からもパイロットを招集し、訓練を行わせることなどを検討していると考えられる。
 一方中国については、その核能力と運用ドクトリンの因果関係をロシアほどは明確にしていない。しかし、「中国の軍事近代化と地域ドミナンスの追求は、アジアにおける米国の利益に対する主要な挑戦」とした上で、周辺国と歴史・領土問題を抱えていることや、米国に到達しうる防護されたICBMSLBM、地域の同盟国や米軍基地・戦力をカバーする戦域弾道ミサイル能力を警戒するとともに、米国の戦力投射を阻害するA2/AD能力についても続けて言及している。その上で、「米国の対中戦略はいかなる限定的な核使用であっても、それによって中国が有利となると中国指導部に誤解させないようにすることだ」として、「米国は核・非核の侵略に対し、断固として対応する用意がある」と明記している。
 北朝鮮については、同国の最優先事項は金正恩体制の生き残りであると評価し、「米国や同盟国に対する核攻撃は体制の終わりを招く」と警告。加えて、金体制と重要な装備・指揮統制能力が地下化され堅固に防護されていることを指摘しつつ、それらは米国の核・非核攻撃の対象となっており、北朝鮮のミサイルを発射前に弱体化させることのできる早期警戒・攻撃能力も保持しているとして、具体的なカウンターフォース能力が強調されている。
 これらの戦略との関連で目を引くのが、アジアにおける拡大抑止に関する説明である。そこでは、アジアは欧州と異なり(1)脅威が多様であること、(2NATOのような単一の多国間同盟が存在せず、二国間同盟・協力を通じて、それぞれ程度の異なる協力と役割分担を行っていること、(3NPR2010を経て潜水艦搭載型核トマホーク(TLAM-N)が退役したことにより、アジアにおける核態勢は戦略核戦力への依存が強くなっていることなどから、拡大抑止に関する協議・調整の形式が欧州とは異なっていると述べられている。
 この論理構成はやや遠回しであるが、後述する核戦力構成の見直しと合わせて考えると、その意味するところが見えてくる。すなわち、拡大抑止環境の改善を図る手段として、時折提唱されるNATO型の核共有(nuclear sharing)メカニズム(=DCAと非戦略核の展開)をそのままアジアに適用することは積極的には検討していないものの、TLAM-Nの退役によってエスカレーションラダーにギャップが生じていることは認めざるをえず、それを補完するためにアジア太平洋地域における核戦力構成の見直すに至ったということだ。この点については、次回詳しく分析を加える。

トランプ政権の新たな核戦略と日本への影響 (後編)
「能力」を司る戦力構成を読み解く

村野 将 (岡崎研究所研究員)


 前回見てきたのは、米国の核戦略のうち、その「意図」を示す宣言政策に関する記述だが、NPRにおいてより重要度が高いのは、米国の「能力」を司る戦力構成(とそれを支える核関連インフラ)に関する記述である。世界がトランプ大統領の発言やツイートに日夜翻弄されている現状に象徴されるように、宣言政策は短期間で変更される余地があるが、戦力態勢やそれを支えるインフラは、長期間の戦略的投資の積み重ねによって形作られるため一夜にして大幅な増減をすることはできないからだ。NPRのような中長期の戦略文書や予算教書の分析が重要な理由はそこにある。
 この点、マティス国防長官はNPR2018の冒頭においてオバマ政権が決定した核戦力の近代化計画1を「最も費用対効果に優れ、抑止を確実にする手段」として全面的に評価し、それを着実に履行していくことを再確認している。NPRによって近代化計画の継続が強い政治的後押しを受けたことは、同盟国として素直に評価すべき点と言えるだろう。他方、既存の計画とは別に注目を集めているのが、NPR2018で新たに盛り込まれた2つの低出力(low-yield)核オプションである。
START条約には影響なし
低出力核弾頭の搭載とは
 第一の計画は、配備済みのトライデントD5SLBMのうち少数に、新設計の低出力核弾頭を搭載するというもので、非公式には「戦術トライデント」とも呼ばれている。現在トライデントD5には、W76-1100キロトン)ないしW88455キロトン)核弾頭が1基あたり36発搭載されていると見られているが、これらの弾頭はいずれも水爆であり、プライマリーと呼ばれる小型の起爆用原爆と爆発力を増幅させるセカンダリー(核融合デバイス)の2つから構成されている。
 核兵器の設計を担当するローレンス・リバモア国立研究所の関係者によれば、これらの核弾頭からセカンダリーを取り除き、プライマリーだけを使用する方法であれば、理論上核実験を行うことなく、早ければ2年以内に弾道ミサイル用の低出力核弾頭を再構成可能だという。ここで言う「低出力」がどの程度の威力を想定しているかは明示されていないものの、現存する重力落下型戦術核爆弾(B61-3/-4)の最低出力が0.3キロトンであることからすると、それに準ずるかせいぜい5キロトン程度になると予想される。なお、トライデントに搭載する新型弾頭の威力が戦術核並みであったとしても、本計画はあくまで既存の高出力核弾頭を置き換える形で配備するとしており、新START条約上の弾道ミサイル用弾頭数2には影響がないと説明されている。
 NPR本文において、低出力核オプションは「地域侵攻に対する信頼に足る抑止力を担保するためのもので、『核戦争の遂行("nuclear war-fighting")』を意図したり、それを可能とするものではない」と述べられている。つまり、戦術トライデントの数量を少数にとどめるのであれば、それを用いてロシアや中国が保有する第二撃能力に対するカウンターフォースを行っても完全第一撃を達成することは不可能であるから、戦術トライデントはあくまで相手の段階的な核エスカレーションに対応する柔軟な抑止力として位置づけられるという理屈である。
1:オバマ政権から進められている核戦力の主な近代化プログラムとしては、(1)ミニットマン3ICBMの後継(地上配備型戦略抑止[GBSD])開発、(2)オハイオ級SSBNの後継(コロンビア級)の開発とトライデントSLBMの改修、(3)新型ステルス戦略爆撃機B-21の開発、(4AGM-86B空中発射型核巡航ミサイルの後継(LRSO)の開発、(5F-35Aへの核運搬能力付与、(6)重力落下核爆弾B61シリーズの更新・統合および誘導能力付与(B61-12)、(7)各種核弾頭の近代化がある。詳しくは、拙稿「トランプ政権が進める核・ミサイル防衛政策見直しの行方(前編)」Wedge Infinity』(2017111日)。
2現在、米露の戦略核戦力の構成は、2011年の新START条約によってそれぞれ以下のように制限されている。(1)実戦配備戦略核弾頭(1550発)、(2)運搬手段保有数(800基・機)、(3)運搬手段配備数(700基・機)。
ICBM並みの射程と高い命中精度
攻撃対象国以外の誤認を回避した軌道選択も可能
 ただし、それをもって低出力核の具体的な使用局面が想定されていないとは言い切れない。むしろ、NPR全体を通してカウンターフォース重視の運用政策や各国別の抑止戦略が詳述されていることを踏まえると、実際には具体的なターゲティング計画に基づいて、低出力核と弾道ミサイルの組み合わせが必要となる状況が検討されたと考えるのが自然である。
 その一例と考えられるのが、北朝鮮や中国、ロシアが核戦力の主軸とするTEL搭載のミサイルやその防護シェルター、またはICBMを格納している強化サイロや地下施設への攻撃だ。核を用いたカウンターフォースでは、TELやその防護シェルターを撃破する場合、核弾頭を目標上空で起爆させ、核爆発に伴う強力な過圧によって目標を一掃する方法を用いる。他方、ICBMサイロ並みの強化目標を撃破する場合には、核弾頭を目標の地表付近で起爆させるという方式を2回繰り返し、地下施設を機能不全にする方法が想定されてきた。
 しかし、現在ミニットマン3やトライデントD5に搭載されている核弾頭は100455キロトンと極めて爆発力が大きく、地表核爆発の場合には、放射性物質を含んだ土や粉塵が大量に飛散するフォールアウト被害が発生するため、武装解除に使用する場合のハードルは自ずと高くなってしまう。このような被害を避けるには、爆撃機やDCAによってバンカーバスター(地表貫通)型の核爆弾を用いる方法もあるが、これらは進出速度が遅い上、敵の防空システムへの対処も考慮しなければならず、即時的武装解除には適していない。
 こうした状況において、戦術トライデントは極めて有効なオプションとなる。即応性だけを考慮すれば、常時警戒態勢に置かれているミニットマン3に低出力核を搭載するという方法も考えられなくはないが、ICBMは発射場所が米本土に固定されるため、ユーラシア大陸の目標を攻撃する場合にはロシアの領空を通過したり、三段目のモーターが同領内に落下する可能性がある上、最悪の場合には核攻撃と誤認され、意図せぬ核報復を受ける危険性がある。しかし、SLBMであるトライデントは、ICBM並みの射程と高い命中精度を活かして広大な海洋のどこからでも発射が可能であり、攻撃対象国以外の誤認を回避した軌道を選択することもできる。
 更に、目標地点に接近して発射すれば、着弾までの時間を短縮できることから、敵の防空システムを確実に突破し、タイム・センシティブな移動目標や強化サイロを付随被害を抑えつつ瞬時に破壊する上でも有効である。例えば、トライデントをグアム周辺海域から発射する場合であれば、18分以内に北朝鮮のミサイル基地を攻撃できる計算になる。これは韓国の烏山基地や青森の三沢基地に配備されている戦術航空機が発進準備を整え、北朝鮮上空に到達するよりも早く、迎撃される恐れもないという点で、強力かつ迅速な打撃力となることも念頭に置いておくべきだろう。
TLAM-Nの事実上の後継と位置付けられる
海洋配備型核巡航ミサイル
 第二の計画である核SLCMは、NPR2010で退役が決定されたTLAM-Nの事実上の後継と位置付けられる。開発にあたっては、既に解体されているTLAM-N用核弾頭とトマホークを再度組み立てるのではなく、B61核爆弾の寿命延長プログラムか、現在開発が進められている空中発射型核巡航ミサイル(LRSO)とそれに合わせて設計されているW80-4核弾頭を流用し、潜水艦発射型に改修することが計画されているようである。
 核SLCMの位置付けについては、核軍縮の専門家のみならず、核戦略の専門家の中でも様々な議論がなされてきた。NPR2010の策定に中心的役割を果たしたブラッド・ロバーツ元国防次官補代理や、NPR2018の助言役ともなったフランク・ミラー元大統領顧問らは、TLAM-Nの役割は戦略爆撃機とLRSOの組み合わせや、DCAによって代替可能である上、核・非核両用のミサイルを潜水艦内で扱わなければならない海軍にとって運用・管理上大きな負担を強いることで、潜水艦が果たすべき本来の役割を損ねてしまうとして、その再開発には否定的な見方を示している。
 一方、TLAM-Nに準ずるシステムの再配備を推奨してきたのが、オバマ政権で政策担当国防次官を務め、自身もNPR2010の策定に携わったジェームズ・ミラーやサンディ・ウィネフェルド前統合参謀本部副議長である。彼らは、ロシアがINF条約 に違反して配備を進めている地上配備型巡航ミサイル(GLCM)に対抗する必要性や、DCAを展開する場合のように展開先の(主として同盟国の)支援に頼る必要がないことをその利点として挙げている。
 実際NPRの本文では、INF条約交渉時の1980年代に、ソ連のSS-20を相殺し、軍備管理交渉のテーブルに着かせるレバレッジとして、米国がパーシング2GLCMを配備した「二重決定」の教訓が引用されており、当時と同様「もしロシアが条約遵守に回帰して、非戦略核備蓄を削減し、不安定化させるような行動を改めるのであれば、米国は核SLCM計画を再検討するかもしれない」としている。
 以上の議論は、ここ数カ月のうちに、米国防コミュニティ内でロシアのINF条約違反に対してどのような対抗措置をとるかにつき、方向性の整理が行われたことの結果のように見受けられる。既にFY2018の国防授権法は、INF水準の移動式ミサイルの研究開発に6500万ドルを授権するとの条項を含んでおり、国防省もそれに沿う形でGLCMの研究に着手することを許可している。ところが、NPR2018における米側のGLCM計画に関する記述は限定的なものに留まっている。このことはロシアのINFに対抗する手段としては、元々条約の制限対象ではなく、軍事的にも非脆弱な核SLCMLRSO、戦術トライデントを重視するとともに、米側が条約から進んで脱退する素振りを見せて、ロシア側に余計な批判材料を与えないようにしていることが考えられる。
SLCM:アジア戦域への影響
 SLCMに関連してもう1つ忘れてはならないのは、NPR2010TLAM-Nの退役が決定された際に懸念されたのは、アジア太平洋地域におけるエスカレーションラダー・ギャップの問題であったということである。ロバーツが指摘しているように、NPR2010ではTLAM-Nの役割は爆撃機やDCAによって代替可能であり、むしろその可視性(visibility)は抑止対象に米国と同盟国の集合的な決意を伝達するという点において、潜水艦搭載型のシステムよりも効果的だと評価されていた。確かに、敵に姿を見せないことを最大の軍事的アドバンテージとする潜水艦の特性上、戦術トライデントや核SLCMに航空機と同じシグナリング効果を期待するのは難しいかもしれない。
 しかし、爆撃機やDCAをもってしても、TLAM-Nが担っていた軍事的効果を完全に代替できない状況があることにも目を向ける必要がある。例えば、爆撃機から運用されるLRSOは、地域における抑止アセットの柔軟性を確保する1つのオプションとして重要ではあるものの、爆撃機は航続距離の問題から一カ所に長時間滞空することはできない。更にA2/AD環境の悪化によって、爆撃機やDCAはグアムなどの前方展開拠点に駐機しているところを、先制攻撃で撃破される恐れがあることから、展開のタイミング次第では「危機における安定性」を損ねやすいアセットになりつつあり、実際には柔軟な運用が難しくなる局面も予想される。
 対照的に、潜水艦搭載型のシステムは、特定海域に長時間留まることができる上、空中や地上配備のシステムに比べても残存性が高い。発射に際して潜水艦の位置が露呈し、肝心の残存性を低下させてしまうという批判については、展開海域での対潜水艦戦(ASW)や十分な距離をとることによって安全を確保することは可能であり、大きな懸念にはならないとも言える。またかつてTLAM-Nがそうであったように、平時には核SLCMを外部の貯蔵施設に保管しておき、安全保障環境が悪化した場合に、それを潜水艦に配備することを宣言するという方式をとることで、一定の抑止シグナルの効果を果たすことも可能であろう。
 これらを総合すると、核SLCMの役割は、ロシアのINF条約違反への対抗を表面上の理由とはしているものの、実際には北朝鮮や中国への柔軟な抑止力を担保し、日本を含む東アジアの同盟国を再保証する場合にも重要な役割を果たすと考えられるのである。
宣言政策の実効性はいかに
 トランプ政権のNPR2018で示されている全体の方向性は、拡大抑止の提供を受ける同盟国として基本的に評価できるものである。だが、NPRはあくまで米国がとるべき方針を示す文書に過ぎない。掲げられた政策が着実に実行され、最終的に効果的な抑止戦略として機能するかどうかを考える上では、今後の内外の情勢と合わせて精査すべき点も残されている。
 第一の課題は宣言政策の実効性である。NPR2018では、核兵器の使用を考慮する状況を拡大した上で、具体的脅威として名指しした4ヵ国に対して米国の強い決意を示す記述が多く盛り込まれた。しかし、そうした警告にもかかわらず、これらの国が核の脅しを背景とした活動に突き進んだ場合に、米国が宣言通りの行動に出なければ、却ってその信憑性を低下させてしまいかねない。
 第二の課題は、中露との「戦略的安定性」に関連する。戦略的安定性とは、相互脆弱性を背景とした、双方の先制攻撃誘因が働きにくい状態を指す抑止・軍備管理上の概念であり、その維持のためには、相手の核戦力を対象とした攻撃能力やミサイル防衛能力を過度に向上させることは望ましくないと考えられてきた。オバマ政権のNPR2010は、戦略的安定性を中露との関係を考える上での重要な要素と位置づけていたが、NPR2018では同概念や軍備管理への言及が非常に限られており、どのような整理がなされているのか必ずしも明確ではない。
 もっとも、NPR2018では、実戦配備戦略核とその運搬手段の数量について、新START条約が定める水準を変更する必要性は特段語られていない上、戦術トライデントや核SLCMはあくまで戦域レベルの段階的エスカレーションに対応するものと説明されていることからすると、安定性に対する基本的な考え方は変わっていないのかもしれない。しかし米側の説明がどうであれ、中露からすれば、NPR2018の姿勢は、戦略的安定性を軽視し、カウンターフォース能力の向上を通じて相互脆弱性からの脱却を模索するものと映り、両国の核戦力の質的・量的向上を正当化する口実とされる可能性が高い。この点については、まもなく発表される「弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense ReviewBMDR)」において、米本土のミサイル防衛能力がどの程度強化されていくのかといった点も含めて、総合的に読み解いていく必要があるだろう。
 第三の留意点は、核戦力の近代化に対する予算的・技術的裏付けである。米軍が今後30年で核戦力の近代化に必要とする予算は約1.2兆ドルと見積られている。この額は年間国防予算の中では23%、ピーク時でも6.4%に過ぎず、連邦予算全体の1%にも満たない。ただし米国の国防予算には、現在でも2011年の予算管理法に基づき、歳出の上限が設けられている。マケイン上院軍事委員長をはじめとする一部の議員はこの制限を一刻も早く撤回すべきと主張しているものの、財政支出をめぐる問題は民主・共和両党にとって双方を批判する政治的レバレッジとなっていることから協調が困難であり、この制約が早期に撤回される見通しは立っていない。

そうなれば、米軍は必然的に調達計画の再調整や優先投資分野の取捨選択を迫られる。特に、核の三本柱のうち2つを有する空軍は、核戦力以外にも、F-35KC-46A空中給油機など大型の優先投資プログラムを抱えている。その際、非核任務でも重要な役割を果たすB-21F-35への投資を優先し、ミニットマン3の後継となる地上配備型戦略抑止(GBSD)プログラムが後回しにされることも考えられるかもしれない。
 技術的裏付けとしては、核兵器の信頼性を支える関連インフラの問題がある。米国は冷戦後、新たな核兵器の開発・製造を行っておらず、その心臓部となるプルトニウム・ピットも1989年までに製造されたものに寿命延長措置を続けることで信頼性を維持してきた。本稿では紙幅の関係上詳しく取り上げなかったものの、NPR2018では核爆発に関連する部分(Nuclear Explosive Package)に手を入れず、老朽化した部品の交換・再利用を繰り返す現在の方法が限界に達しつつあることを指摘しており、今後の寿命延長措置と新たな核能力が必要となる場合に備え、現在研究開発用に限って少数生産されているプルトニウム・ピットの年間製造数を2030年までに80個まで引き上げるよう要求するとともに、地下核実験能力の維持を訴えている。こうした背景から、核戦力の近代化をめぐっては、FY2019以降の予算審議における議会の反応が注目される。
日本への影響は?
 最後に、トランプ政権のNPRが日本に与える影響について述べておきたい。今日のアジアにおける拡大抑止の枠組みは、(1)核・非核からなる柔軟な攻撃能力、(2)ミサイル防衛、(3)演習等を通じた共同コミットメント、そして(4)日米拡大抑止協議や米韓拡大抑止戦略協議体などの協議調整メカニズムの4つの要素から構成されており、その構造自体はNPR2010からそれほど変化していない。戦力態勢に関し、NPR2018DCAと非戦略核兵器を北東アジアに展開する可能性を否定していないものの、今後更なる深刻化が予想されるA2/AD環境に鑑みれば、DCAを展開可能(deployable)なアセットと捉える続けることは自明視できなくなってくるように思われる。
 それだけに、アジア太平洋地域における米国の核戦力態勢は、潜水艦搭載型システムを重視していく傾向が強まることが予想される。特に、戦術トライデントの即時性や、SLBMよりも相対的に速度が遅く、射程の短い核SLCMの役割を最大限に発揮するためには、日本を含む同盟国が周辺海域のASWをしっかりと行い、これらのアセットが近海での抑止任務に集中できるよう安心を供与していくことが、米国の抑止力といざというときの打撃力を下支えすることになる。
 また、海洋配備戦術核がすべての米艦艇から撤去された1994年以降、米艦艇の日本寄港に伴う「核持ち込み」の問題は、事実上想定しなくてもよい問題となっていた。しかし、将来核SLCMを搭載した潜水艦が再びアジア正面に配備される場合には、この問題が国内政治上の争点として再燃することも考えられる。もっとも、潜水艦搭載型システムの導入にあたっては、展開先の支援に依存しないことが利点として説明されているため、それらを日本を含めた同盟国に寄港させることは原則として想定していないように思われる。また仮に、核任務と非核任務を帯びた潜水艦が混在するような態勢になったとしても、それらを核・非核両方の任務を帯びるB52が飛来する場合と同じように扱うのであれば、さしたる問題にはならないとも言えるだろう。 
 最後に、拡大抑止協議体制の更なる深化を図る上では、核兵器の使用をも想定した、シームレスな共同作戦計画の立案に参画するハードルをどのように乗り越えるかが課題であろう。
 今日の米軍の核作戦計画は、冷戦期の単一統合作戦計画(SIOP)とは異なり、脅威対象や事態の推移、エスカレーションの烈度に応じて、攻撃を担当するアセットと目標との組み合わせを柔軟かつ迅速に修正していく適応型のターゲティング能力が重視されている。このプロセスは、戦略軍の限られた作戦立案者によって選定・決定される秘匿性の高い情報であり、いずれの同盟国とも共有されていない。こうした計画立案プロセスへの関与を少しでも高めるには、官民学軍がそれぞれの立場から米国を核戦略について理解を深めると同時に、在韓米軍や太平洋軍のみならず、戦略軍を交えた演習を定期的に繰り返し、その課題を常時共有・修正していくことが重要であろう。また柔軟な核作戦の計画立案に求められる能力は、通常作戦における敵地攻撃能力や移動目標に対するターゲティング能力と重複する部分もある。その意味では、我が国が持つあらゆる情報・監視・偵察(ISR)アセットを投じて、平時からなるべく多くの情報を取得・蓄積できる態勢を整えておくことが、米国との共同計画調整プロセスに参画する足がかりとなり、ひいては自らの環境に最適な拡大抑止のあり方を整えていく日本なりのテイラード・アプローチとなるはずだ。







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