米国の対北朝鮮政策―武力攻撃の時期は本当に近付いているのか?
2018年3月3日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12115
平昌冬季五輪が2018年2月25日に閉幕した。北朝鮮は五輪開催前から「対話に前向きな北朝鮮」を演出するために韓国側が提案した南北合同選手団編成に同意、五輪開会式には金正恩の妹である金与正を出席させるなど、五輪開催期間中は「魅惑攻勢(charm offensive)」を最大限発揮した。アメリカのメディアも、五輪開催期間中は、五輪開会式での文大統領と金女史の握手がセンセーショナルに報じられたのをはじめ、南北合同選手団の編成や、金与正の開会式出席など和解ムードを前面に押し出した報道が目立った。
対照的に、開会式に出席していたペンス副大統領が金与正からほんの数席しか離れた場所に座っていないのに、視線を合わせようともしなかったこと、平昌到着前にペンス副大統領が、北朝鮮代表団と握手することを拒否したことが、トランプ政権の対北朝鮮が固くなすぎるのではないか、という批判的なトーンの報道が大半を占めた。
しかし、五輪期間中は核・ミサイル実験を自粛した以外、北朝鮮が核兵器プログラムを放棄する兆候も意思も全く見えないという現実は変わっていない。それどころか2018年1月22日に米CBSニュースのインタビューに出演したマイク・ポンペオCIA長官は北朝鮮が米国に到達できる核兵器を「数カ月(a handful of
months)」に開発するだろうと発言している。
このようなことから、米国が、北朝鮮がそのような能力を開発する前に、北朝鮮に対して武力行使するのではないかという危機感が急速に高まっている。「鼻血(Bloody nose)オプション」と呼ばれる限定的武力行使オプションがささやかれるようになり、五輪終了後、ほどなく米国が限定的武力行使に踏み切るのではという観測も流れている。2月28日にはニューヨーク・タイムズ紙が、外交的解決策を模索しつつも、万が一の事態に備え、ハワイで図上演習が行われ、結果、万が一武力行使が行われた場合には最初の数日だけでも1万人近くの米軍兵士が犠牲になり、民間人犠牲者は数十万人にも上ることになるという結果が報告されたことが報じられたばかりだ。
平昌冬季五輪が終了した今、米国が対北朝鮮武力行使を決定する日は近いのか。おそらくその答えは「ノー」であろう。理由の一つは、五輪終了間際に北朝鮮が米国との対話に前向きだという意志表示を韓国の文大統領に対して行ったことだ。トランプ大統領は北朝鮮からのこのような意思表示に対して「正しい環境(北朝鮮が核開発放棄について議論する姿勢を見せること)」の下」であることが必要だと言いつつも、北朝鮮との対話についてはオープンな姿勢を見せている。
また、米国の対北朝鮮武力行使には、韓国側の同意が欠かせない。韓国政府の同意を得る鍵となる韓国大統領が対話に前向きにな以上、これを無視する形で武力行使に踏み切ることは、米韓同盟に決定的な亀裂を生む。そのような結果は、武力行使終了後の朝鮮半島情勢を考えるとき、韓国の中国への接近をますます加速させるだけで、米国の国益に決して資さない。
もう一つの理由は、平昌五輪終了間際に米国に北朝鮮に対し追加的制裁の発動を発表したことだ。いうまでもなく、経済制裁が効果を発揮し始めるまでには、早くて6カ月かかるといわれる。つまり新しい制裁パッケージを発表すると、少なくとも数カ月間は、「武力行使オプションを真剣に検討する前に、経済制裁がどれだけの効果を発揮するか見守る必要がある」という議論が主流を占める。つまり、北朝鮮が再び核実験やミサイル実験などの挑発行動に出ない限りは、少なくとも今から夏ごろまでは「まずは制裁の確実な実施と、その効果を見よう」という空気が支配的になるということだ。
また「鼻血オプション」を含め、いかなる武力行使オプションも、多くのアジア専門家や軍事専門家がオープンに反対している。2018年1月末に、ビクター・チャ氏(CSIS韓国部長・ジョージタウン大学教授)の在韓米国大使への指名が突然取り消されたが、チャ氏が「鼻血オプション」と米韓FTA協定の見直しに強く反対したことが指名取り消しの理由であるとされている。チャ氏以外にも、デニス・ブレア元太平洋軍司令官をはじめ、太平洋軍・在韓米軍・在日米軍幹部を務めた退役軍人で「鼻血オプション」はうまくいくオプションではないと警鐘を唱える元米軍幹部は多い。
政権内でも、ジム・マティス国防長官、ジョン・ダンフォード統合参謀本部議長をはじめ、「万が一の事態に備えて常に準備は怠るべきではない」という立場は堅持しているものの、武力行使の可能性を強くにおわせるような発言をしている幹部はいない。マーク・ミリー陸軍参謀長が「北朝鮮との武力行使に向けて準備せよ」的な発言をしたことが報道されることがこれまで数度あったが、その発言も、よく読むと、「軍は常に最悪の事態に備えることが必要」という文脈の中での発言であり、特に対北朝鮮武力行使が近いことを意識して行った発言ではないようだ。
これらの外的要因に加え、トランプ大統領自身が政権内に色々な問題を抱えすぎており、イラク、アフガニスタンに続いて朝鮮半島で武力行使を行うべきか否か、という大きな決定ができる状態にない可能性が高いという実情もある。2016年大統領選挙へのロシアの関与について行われている捜査や、ホワイトハウス高官100人以上が、政権が発足して1年が過ぎてもなお、セキュリティ・クリアランスが取れていないこと、様々な理由によるホワイトハウス高官の相次ぐ辞任、さらに、2018年11月に控える中間選挙など、現在のトランプ政権は、自政権を取り巻く問題や選挙など、対応しなければいけない国内問題が山積みの状態だ。このような状態で武力行使という重大な決定をすることはおそらく不可能だろう。
出口の見えない不安定な状態が続く
このような状態の中、米国は、当面の間、経済制裁の確実な履行を関係各国に対して引き続き強く求めていくことになるだろう。しかし、トランプ大統領、ペンス副大統領を始め政権幹部が北朝鮮を核保有国としては認めないと断言している中、事態を打開するための良い方策がないことも確かで、米国はもちろん、日本にとっても出口の見えない不安定な状態が続くことにある。このような中、日本ができることは月並みだが、米国と緊密な政策連携を維持すること、弾道ミサイル防衛の強化などを通じて、北朝鮮に対して断固たる姿勢を貫くこと、さらに、文政権発足以降、中国に接近しがちな韓国が対北朝鮮政策について日米韓3カ国の足並みを乱すことがないよう、米国と共に強く働きかけ続けることに尽きるだろう。
〈管理人より〉北朝鮮による「魅惑攻勢」、アメリカ政府による限定的攻撃である「鼻血オプション」。武力衝突となることを慎重に避けながら米朝両国の外交的主張を展開している状況ですね。
米国が核戦力を保持し近代化させる「4つの理由」
岡崎研究所
2018年3月6日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12078
2018年2月2日、米国防総省は、「米国の核態勢見直し(NPR)2018」を発表しました。その要点を以下に紹介します。
米国は、自国や同盟諸国の安全保障を第一に考え、将来世界から核兵器が廃絶されるまでは、近代的で柔軟な核能力を有する重要性を強調する。
前回の「NPR2010」以来、核の脅威は明らかに増大した。ロシアや中国は、保有兵器に新型の核能力を追加し、宇宙やサイバー空間を含め、一層攻撃的な行動をとるようになっている。北朝鮮は国連安保理の決議に違反して核兵器やミサイル開発を続けている。イランは包括的合同行動計画において自国の核開発の制約に合意した。しかし、同国は、その気になれば、1年以内に核兵器を開発するために必要な技術能力を保持している。
米国の核能力は、核・非核攻撃の抑止に不可欠である。通常戦力だけでは、自国及び多くの同盟国を安心させるには不十分であるし、米国の拡大核抑止は核不拡散にも貢献している。ただ、米国の核戦力は、核・非核攻撃の抑止や同盟諸国等への安心提供のみならず、抑止が失敗した場合の米国の目標達成や不確実な将来に対する防衛手段にもなり得る。
米国は、欧州、アジア、太平洋地域の同盟国を守るという拡大抑止の強い決意を有している。米国は、極端な状況においてのみ核兵器の使用を考慮する。抑止ができなかった場合、米国は、米国や同盟国等の損害を最小限に抑え、最良の条件で紛争を終結させる努力をする。
現在の戦略核の三本柱は、1980 年代かそれ以前に配備されたものだが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を装備した潜水艦(SSBN)、陸上配備型大陸間弾道ミサイル(ICBM)、無誘導爆弾及び空中発射式巡航ミサイル(ALCM)を運搬する戦略爆撃機から構成される。
今、低出力オ プションを含む柔軟な米国の核オプションを拡大することは、地域侵略に対する信頼性ある抑止力の維持にとって重要である。それは、核のハードルを引き上げ、潜在的な敵対国が限定的核エスカレーションにより優位になるのを防ぎ、核使用の可能性を低減する。国防総省と国家核安全保障庁は、敵対国の防衛を突破することが
可能な迅速対応を保証するための低出力SLBM弾頭を開発する。この短期的措置に加え、米国は長期的に核装備 SLCMを追求する。SLCM は必要とされる非戦略的な地域プレゼンスを提供する。
過去数十年、米国の核兵器インフラは老朽化と資金不足の影響を受 けてきた。現在は、戦略物資と核兵器の構成部品を生産するために必要な物理的インフラへの資金増強を速やかに行う必要がある。
米国は、核装置を獲得・活用するテロリストを支援する国家、テロリスト・グループ等を認めない。核拡散防止条約(NPT)は核の拡散防止体制の礎石である。同条約外で 核兵器を追求しようとする者に代価を強いる国際努力を強化する。北朝鮮がNPT に直接違反し、数多くの国連安保理決議に反対して、核保有の道を追求している。北朝鮮以外では、イランの挑戦が浮上してきている。
米国は包括的な核実験禁止条約の批准は求めないが、包括的な核実験禁止条約機関準備委員会や国際監視システム、国際データ・センターへの支持は継続する。米国は、核兵器を保有する全ての国に核実験の
一時停止を呼びかける。ロシアは一連の軍備管理条約に違反し続けている。ロシアの最も重要な違反は、中距離核戦力全廃条約に関する違反である。米国は、潜在的な結果が米国や同盟国等の安全保障を改善するならば、さらなる軍備管理交渉を受け入れる用意がある。
出典:Office of the Secretary of Defense ‘Nuclear Posture Review 2018’ February 2018,
https://media.defense.gov/2018/Feb/02/2001872891/-1/-1/1/EXECUTIVE-SUMMARY-TRANSLATION-JAPANESE.PDF)
https://media.defense.gov/2018/Feb/02/2001872891/-1/-1/1/EXECUTIVE-SUMMARY-TRANSLATION-JAPANESE.PDF)
米国は、「核態勢見直し」(NPR)の報告書を、1994年に初めて発表し、その後2002年、2010年と8年ごとに見直し、今回は、4度目のNPR報告書となりました。
「核態勢見直し2018」は、全72頁に及ぶ報告書です。そのうち、概要約11頁を、米国防総省のホーム・ページで、英語の他、ロシア語、中国語、韓国語、日本語、フランス語で読むことができます。オバマ政権下の「核態勢見直し2010」では、日本語、韓国語訳はなく、国連公用語のアラビア語とスペイン語の要約でした。これらの変化からは、米国がアジアの同盟諸国を重視し、多くの日本人や韓国人に、内容をより良く理解してほしいと思っている表れなのかもしれません。そして、日本と韓国には、米国の核の傘、すなわち拡大抑止を保証するから安心して、核武装など考えないようにと言うことなのかもしれません。
内容に関しては、オバマ政権の2010年版は、核軍縮・軍備管理や核不拡散について多くの記述がありました。一方、今回の2018年版のNPRは、米国が、自国や同盟諸国、パートナー諸国の安全保障を守るためには、核戦力を保持し、近代化することが重要であることが強調されています。特に、潜在的敵対国と述べつつ、念頭に、ロシアと中国、北朝鮮とイランがあることが明確に示されています。この4か国については、昨年12月の米国国家安全保障戦略でも、2018年1月の米国国防戦略でも、触れられています。ロシアや中国が一方的な行動をとっている現状を懸念し、今後対立する可能性を示唆しています。また、北朝鮮に関しては、その核・ミサイル開発が国連安保理決議に違反して継続されていることを非難しています。イランについては、「P5+1」(国連安保理常任理事国とドイツ)との合意はあるが、まだ十分信用できない、と報告書の中で述べられています。
上記NPRでは、米国が核戦力を保持し近代化させる理由を4つ挙げています。最も重要な理由は抑止力を高めることだと言います。これは「相互抑止」の伝統的理論に基づく考え方とも言えます。そして、同盟諸国やパートナー諸国への拡大抑止を行なうことで、核不拡散にも貢献すると言っています。これは、日本や韓国等を安心させ、これらの国内にある核武装論を宥める意味もあるでしょう。そして、NPR2018では、核戦力の有用性として、新たに、抑止が失敗した際の防衛手段、また将来の安全保障環境の不確実性が高くリスクが大きい中で担保としての防衛手段としても必要だとしています。究極の目標としての核廃絶は正しいとしても、現状では、使える核を米国は追求すると言うことです。
その使える核として、今回のNPR2018では、非戦略核の低出力核兵器の開発が計画されています。このことに関しては、欧米のメディア等(2018年2月3日付ワシントンポスト紙社説、2018年2月5日付英IISSハリーズ上席研究員の論説等)から、非戦略核の開発は不必要ではないかとの批判の声が出ています。米国の戦略核で十分ロシアに対抗できるし抑止にもなるという考えです。一方、非戦略(戦術)核ではロシアが優位にあるので、その優位を許さないためにも、米国も戦術核を増強すべきだと考え、それが核の柔軟性と多様性を強化し、ひいては将来の不確実性に備えるというのが米国の立場なのでしょう。
日本では、「唯一の被爆国」として、核兵器の廃絶や、最近では福島の事故の影響で核の平和利用としての原発をゼロにしようと主張する声が大きくなっています。ただ、現実的には、北朝鮮や中国等の脅威が増大する中、米国の核の傘の下で、自国の通常戦力を向上させ、着実に抑止力を高めていくことが重要です。
日本は、核不拡散体制の中では、核の平和利用を徹底させている優等生と言われています。その日本が、北朝鮮の核開発を放棄させるために、IAEA(国際原子力機関)を始めとする国際社会と連携して役割を果たせることは少なくないと考えます。その意味でも、2018年2月15日にウィーンで行われた河野太郎外務大臣と天野之弥IAEA事務局長との会談は大きな意義があったと思われます。日本は核兵器保有国ではありませんが、日米同盟を基軸に、日米韓の連携を図り、国際社会と協力しながら、北朝鮮に圧力を強めて核兵器を放棄させることは不可能ではありません。
〈管理人より〉アメリカにとっても核兵器は「絶対防衛兵器」であり、対外的な抑止力を担保する戦略、戦わずに相手より優位にたつ戦略の主力オプションになっています。ここからみえてくることは、核兵器は「使用する兵器」ではなく、「保持するための兵器」ということです。
では実際には、現在どういう形で対外的な「戦争」が実行されて、国家の国益伸長に資する形になっているのか?以下の記事をご紹介いたします。
外貨を狙う北朝鮮のサイバー攻撃、米国は武力制圧にゴーサインか?
浜田和幸
2018年3月4日 http://www.mag2.com/p/money/389935
プロフィール:浜田和幸(はまだ かずゆき)
国際政治経済学者。前参議院議員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。『ヘッジファンド』『未来ビジネスを読む』等のベストセラー作家。総務大臣政務官、外務大臣政務官、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会委員、米戦略国際問題研究所主任研究員、米議会調査局コンサルタントを歴任。日本では数少ないフューチャリスト(未来予測家)としても知られる。
国際政治経済学者。前参議院議員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。『ヘッジファンド』『未来ビジネスを読む』等のベストセラー作家。総務大臣政務官、外務大臣政務官、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会委員、米戦略国際問題研究所主任研究員、米議会調査局コンサルタントを歴任。日本では数少ないフューチャリスト(未来予測家)としても知られる。
韓国が平昌五輪を使って南北融和の筋道を探るなか、北朝鮮のミサイル開発やサイバー攻撃は加速している。それに業を煮やした米国は、北朝鮮攻撃の覚悟を決めたようだ。
朝鮮半島も中東も制覇したいトランプ大統領。3月18日から動く?南北融和に奔走した韓国
ぶっちゃけ、平昌オリンピックが無事終わったので、ホッとしたものだ。
開会式に出席した安倍首相は日本選手団を応援するという名目で、競技会場の地下シェルターの視察に時間をかけていた。
日本人の安全を確保したいと願う立場からすれば、当然のことだが、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はあまり良い顔をしなかったようだ。
今回の冬季オリンピックの場を利用し、韓国と北朝鮮の間では様々な接触と対話が展開された。
特に、文在寅大統領は北朝鮮の代表団を手厚くもてなし、何とか南北融和と将来の統一に道筋をつけようと必死であった。
堪忍袋の緒が切れた米国
しかし、トランプ大統領や安倍首相が繰り返す「核なき朝鮮半島のための対話」は難しい状況が続く。というのも、国際社会の期待とは裏腹に、北朝鮮による非合法な活動は収まるどころか加速する一方となっているからだ。
そのため、トランプ政権は「北朝鮮への最大限の圧力を強める」との立場から、「北朝鮮と公海上で物資の密輸に携わっている」として30社近くの中国の船会社や船舶を名指しで制裁の対象に指定した。中国政府は猛反発しているが、この措置は明らかに北朝鮮への攻撃を前提にしたもの。
要は、中国に仲介役を期待したが、「堪忍袋の緒が切れた」というわけだ。このままでは、北朝鮮がアメリカ全土を射程内に収めるICBMを完成させてしまう。トランプ大統領とすれば、そうなる前に、北朝鮮の脅威を取り除くのが「アメリカ・ファースト」を掲げる自分の責任だと考えているに違いない。
猛威を振るう北朝鮮のサイバー攻撃部隊
実は、金正恩体制下ではサイバー攻撃を専門とする部隊が編成され、バングラデッシュ中央銀行からの9億5100万ドル強奪を皮切りに、ベトナム、エクアドル、フィリピンなど途上国の銀行を次々に狙っては資金を奪っているのである。
その手法は「踏み台戦術」と呼ばれ、ポーランド政府のサイトを始め、メキシコ、ブラジル、中国、米国など31か国の104機関を経由するもの。
しかも、2017年からはビットコインに狙いを定めた模様で、「WannaCry 」と称されるウィルスを150か国30万台のコンピュータに侵入させた。最近大きなニュースとなった日本のコインチェックのNEMもターゲットにされていたことが判明しており、その腕前は見上げたもの。
覚悟を決めた米国。決行はパラリンピック後か
「もはや対話では決着がつかない」との判断から、トランプ大統領は「金正恩斬首作戦」にゴーサインを出したと思われる。となれば、2018年3月18日に閉幕するパラリンピック後が危ない。イギリス外務省は既に在韓イギリス人に避難勧告を出している。
ぶっちゃけ、この春は花見気分とはなりそうにない。
米大使館のエルサレム移転を前倒し
ぶっちゃけ、イスラエルのネタニヤフ首相が絶体絶命のピンチに陥っている。
来る2018年5月には建国70周年を迎えるイスラエル。それに合わせて、アメリカのトランプ大統領はテルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転すると発表。当初は来年と言っていたのを、急きょ、5月に前倒しするというのである。現在のアメリカ大使館はテルアビブの一等地にあり、眼前には青い地中海が広がる。
それを聖地エルサレムとはいえ、アルノラ地区にある領事館に一時的に移転するという。
この古くて狭い領事館はエルサレムの旧市街に位置しており、目の前にはガソリンスタンドや自動車修理工場が並び、実に雑然とした雰囲気。ぶっちゃけ、アメリカ大使館の立地条件としては相応しくないだろう。
トランプ大統領は「中間選挙」を意識している
では、なぜ、そんな場所に急いで大使館を移転させようというのであろうか。
アメリカ国務省では「より広い土地を探し、新たな大使館を建設する」と説明するが、まだ土地の確保のメドは立っていないようだ。要は、アメリカで11月に予定されている中間選挙を意識してのこと。
アメリカ人口の4分の1を占めるキリスト教福音派が長年求めていた「エルサレムをイスラエルの首都へ」とする運動への理解を示すためである。トランプ大統領にとっては彼らの支持で当選したようなもの。彼らの支持をより確実なものにすることで、来る11月の中間選挙で勝利し、議会の主導権を共和党にもたらしたいわけだ。
ネタニヤフ首相を援護
さらに言えば、スキャンダル問題で窮地に追い込まれているネタニヤフ首相を支援する狙いも込められているに違いない。4期目の首相として強い指導力を発揮し、トランプ大統領とも胸襟を開く仲のネナタニヤフ氏だが、過去10年間に多額のワイロを受け取っていた容疑が連日メディアを賑わせ、かつてない窮地に立たされている。本人のみならず、妻や息子も連座することになりかねない。
カジノ王の資金を頼るトランプ大統領
実は、このネタニヤフ首相一家やトランプ大統領一家を資金面で支えてきたのがイスラエルのカジノ王と呼ばれる「ラスベガス・サンズ」のアデルソン会長である。
トランプ氏に大統領選挙資金を提供したことで有名だが、エルサレムへのアメリカ大使館移転経費も寄付すると申し出ている。例えれば、北朝鮮の金持ちが「日本大使館を平壌に開設してくれれば費用を負担する」と申し出ているようなもの。この2018年3月5日には、ネタニヤフ首相が急きょワシントンを訪問し、トランプ大統領と首脳会談に臨むことになった。ぶっちゃけ、怪しい取引の場になりそうだ。
〈管理人より〉そして情報戦はサイバー攻撃だけではなく、フェイク情報を使って仮想敵国の国内を「攪乱」するという手段もありますね。『孫子』用間編のノウハウは現在もしっかりと生きています。
米国の「シャープ・パワー」議論の虚実
2018年3月5日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12077
「ロシアが情報工作をして米国大統領選をねじまげた」という話が、米国の政界とマスコミを席巻していますが、最近、不正手段を用いて虚偽の情報をばらまいては敵対する国をかく乱することを「シャープ・パワー」と名付け、あれこれ議論されています。
ここでは、Project Syndicateに2018年2月1日付で掲載された、全米民主主義基金の研究分析担当副会長Christopher Walkerによる論説を紹介します。論説のあらましは次の通りです。
近年、ロシアと中国は、マスコミ、文化、シンク・タンク、学界等「ソフト・パワー」と目される分野に、数十億ドルもの金をつぎ込んできた。その割には、両国は相変わらずソフト・パワーを欠いている。やはりすべてを管理したがる専制的な体制は、魅力ある文化、ソフト・パワーを生むことができないのである。
この両国はハード・パワー=軍事力にのみ依存しているわけでもなく、他方ソフト・パワーも十分には持っていない。しかも、両国がソフト・パワーと称するものは、外面上はそうでも、中身はシャープ・パワーとでも称するべきものである。つまり両国が拡散する情報は自由でオープンなものではなく、検閲され、歪曲され、操縦されたものなのである。
世界の民主主義国は、中ロ両国のしていることに、ソフト・パワーとは明確に区別した言葉を付して、適正な対策を講じなければならない。
出典:Christopher Walker,‘The Point of Sharp Power’(Project Syndicate,
February 1, 2018)
https://www.project-syndicate.org/commentary/soft-power-shortcomings-by-christopher-walker-2018-02
https://www.project-syndicate.org/commentary/soft-power-shortcomings-by-christopher-walker-2018-02
Christopher Walkerは、2017年12月、勤務先の全米民主主義基金(National Endowment for Democracy)のサイトに“Sharp
Power: Rising Authoritarian Influence”を発表 してシャープ・パワー論議を先導している人物です。シャープ・パワーというのは、ジョセフ・ナイの提唱した「ソフト・パワー」概念をもじったもので、武力を用いる「ハード・パワー」と文化の徳をもって他人をなびかせる「ソフト・パワー」の中間に位置するものです。つまり、武力は用いないが、フェイク・ニュース等、不法な手段を用いる工作活動のことです。
上記論説は、字面だけを見れば、反対することは何もありません。海外のロシアの外交官は近年、本省からの訓令をそのまま奉じて「ソフト・パワーが大事だ」と叫んで走り回っています。しかし、ロシアの現代文化に素晴らしいものは多いのですが、保守的な政府関係者はそれらを知らない上に海外であまり紹介しないので、一向にイメージ・チェンジができないでいます。すなわち、ソフト・パワーは生み出されていないということになります。
中国の外交官は、任国のアジア専門家に電話をしては、「今晩うちの大使がお話をしたいと言っている」と言い張り、日本関係の催しへの出席を妨害するなどしています。こういう専制主義国が使えるものは、確かに、筆者のWalkerが言うように、ソフト・パワーならぬシャープ・パワーでしかあり得ないのでしょう。
しかし、Walkerがこの論説で当てこすっている、ソフト・パワーの御本家ジョセフ・ナイは、Foreign Affairs誌ウェブサイトに1月24日付で“How Sharp Power Threatens Soft Power”という論文を発表し、中ロではなく、米国内のシャープ・パワー騒ぎそのものに水をかけています。
ナイによれば、「シャープ・パワーのようなことは、昔から行われてきたこと」であり、「シャープ・パワーに対抗するために、自分もフェイク・ニュースや違法手段をあえて用いようとするのは、自分で自分の品位を落とし、自由・公正・開放性という米国のソフト・パワーを自ら失ってしまうことを意味する」のです。その通りだと思います。
別の言葉で言えば、この論説の筆者のWalkerが言いたいのは、「米国もシャープ・パワー発揮のための予算を増やせ」ということであり、ナイはそれに懐疑的だということです。Walkerが属するNational Endowment for Democracyはこれまでの諸報道、英文Wikipedia等によれば、レーガン大統領時代、CIAの肝いりで作られた民間団体で、その任務は議会が当時共和・民主超党派で設けた毎年約1億ドルの連邦予算を国務省とともに、民主化・人権向上運動NPO諸団体に配布して、途上国、旧社会主義諸国での民主主義の普及を促進することにあります。これら米国のNPO諸団体は(共和・民主両党とも、傘下に同種NPOを有する)、海外の反体制野党、あるいはこれを称する者達に資金を与えたり、デモ等によって政権を転覆するノウハウを指南することもあります。これは、その活動の対象となる諸国の政府から見れば、「米国のシャープ・パワー」に他ならず、ウクライナ等が混乱する一因を作ったと目されるものです。
中ロは、この米国の宣伝攻勢に危機感を抱いて、自らもソフト・パワー、シャープ・パワーの展開を強化しています。筆者のWalkerはそれを口実にして、米国政府の対応強化を求めているのです。これでは、両国の宣伝・煽動機関間のマッチ・ポンプ・レースになってしまいます。
トランプは、2017年国連総会での演説が示すように、強いアメリカを維持しつつも、他国のレジーム・チェンジを図って主権を冒すようなことはしない旨を明らかにしています。そのためか、レジーム・チェンジ路線諸勢力は息をひそめてきたのですが、「ロシアの米国大統領選介入」騒ぎに乗って、この1年の失地回復を図ろうとし始めたのではないかと思われます。
日本としては、ソフトとかシャープとか「呪文」に惑わされることなく、米国で行われている議論の背後の諸勢力、その思惑、相互の力関係、それが合わさっての米国の対中、対ロ政策の方向性変化の有無を見ていればいいのです。
〈管理人より〉我が国でも自前での核兵器保有を主張される方たちがいますが、議論をしていただくことはやぶさかではありませんが、国家戦略的な観点から考えた時は、絶対防衛兵器の保持よりも以前に、情報戦を制する、という方向へ考えるべきではないかと思います。どう考えても今の我が国に不可欠な力は、使用を前提としない核兵器よりも国家の命運を左右するようなインテリジェンスを官民の垣根なくコントロールすることではないでしょうか?つまり国民の国家や生まれた故郷を愛する帰属意識、日本国民としての帰属意識が問われてくる時代になっていると考えます。
アメリカ独立戦争
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