2015年8月19日水曜日

【戦闘ドクトリン講座】意外と知らない「電撃戦」


軍事技術・戦術におけるイノベーション【1
電撃戦

野中郁次郎[一橋大学名誉教授]
【第8回】 2014718http://diamond.jp/articles/-/56194


今回からは趣向を変えて、第2次世界大戦欧州戦域で行われた軍事作戦・戦術上のイノベーションについて、マネジメントの視点から見てみたい。まず取り上げるのが、ドイツ軍によって行われた「電撃戦」である。

緒戦を制した「電撃戦」

2次世界大戦は193991日、ドイツ軍がポーランドに侵攻したときから始まった。正式にはその2日後、93日に、ポーランドと相互援助条約を結んでいたイギリスが、同盟国フランスとともに、ドイツに対して宣戦布告したことによる。この1週間前、1939823日には独ソ不可侵条約が結ばれ、同時に秘密議定書で独ソによるポーランド分割が合意された。その2日後、825日には先述したイギリスとポーランドの相互援助条約が結ばれた。各国の関係が変化するなんとも慌ただしい流れの中で、大戦が始まったのだ。この日から、ベルリンが陥落してドイツが無条件降伏する194557日(降伏文書調印は翌日)まで、人類史上未曽有の戦いが繰り広げられたのである。
 第1次世界大戦での敗北により、ドイツは過酷な賠償を課されたうえ、軍備は厳しく制限された。1919628日に締結されたヴェルサイユ条約によって、ドイツの軍備は大幅に制限された。陸軍兵力は10万人以下に、海軍兵力は15000人規模とされた。保有数兵器・艦艇なども制約された。
 政権を奪取したヒトラーが19353月に再軍備宣言をするまで、表向きにはこうした制約下にドイツ国防軍は置かれていた。だが実際には、1922年のソ連とのラパッロ条約の秘密条項に基づいて、ソ連領内などに置かれていた秘密基地で、新兵器の開発や、戦車や飛行機を使っての画期的な戦法を地道に修得していったとされる。このような水面下の動きによって、再軍備は急速に進んだのだ。電撃戦の元となるコンセプトは、こうした軍備の制約の下で考え出されたものらしい。
91日のポーランド侵攻で、「電撃戦(殲滅戦の一形態という指摘もある)」は圧倒的な威力を発揮した。17日にソ連も侵入してきたことで、ポーランド政府は1カ月も経たずに亡命を余儀なくされてしまった。

http://diamond.jp/articles/-/56194?page=2

「電撃戦」の生みの親

    この新しい戦闘スタイルは誰がどのように生み出したのであろうか。
 「電撃戦」を考案し、実践したのは、ドイツ陸軍のハンス・グデーリアンである。彼は敗戦後、陸軍に残ることはできたものの、交通兵監部に転属されていた。あまり中枢とは思えない部署だが、ここで彼は当時の新兵器である戦車や自動車などを眼前にして、こう考えた。
 将来起こることが予想される戦争が、第1次世界大戦の独仏国境で行われた塹壕戦を典型とするような陣地戦になる可能性は非常に少ない。限られた戦力のドイツ軍は、迅速に展開する機動戦によるしかない。その際に威力を発揮するのは、戦車や装甲を施した自動車による部隊であり、歩兵や騎兵に替わって、それらが戦闘部隊の主力になる必要がある。
 グデーリアンがこうした認識に至ったのは、1929年のことであり、この分野で先行していたイギリスの専門家の著書に多く学んだ。
 伍長として第1次世界大戦に従軍したヒトラーが、政権の座に就くのは33年のことだ。この年に開かれた最新兵器の展示会でグデーリアンは講演し、オートバイ兵、対戦車兵、戦車兵によるデモンストレーションを行い、ヒトラーの強い関心を喚起した。
 翌34年、ドイツ陸軍に戦車大隊が編成される。その翌年の再軍備宣言により、グデーリアンは新設された装甲師団の師団長に就く。
 そして、399月のポーランド侵攻で、騎兵主体の前近代的なポーランド軍を蹴散らし、その威力のほどを世界に示した。
 翌40510日には、ベネルクス3国への侵攻により、西部戦線が開かれる。ルクセンブルクは抵抗せず、ドイツ軍装甲部隊が進撃するのを見守るのみだった。オランダは15日に、ベルギーは28日にそれぞれ降伏した。

 ドイツ軍がフランス国境を破るのは65日のことである。それからわずか6週間ほどで、欧州最強、つまり世界最強の陸軍国と謳われたフランスは、ドイツの猛攻の前に矛を収めることとなった。

 西部戦線と侵攻・反撃計画


「電撃戦」の核心とは

電撃戦の核心とは、保有するすべての戦車を集めた装甲師団のほぼ全力を戦略的な要点に集中投下し、敵に対応する余裕を与えないまま、迅速に作戦を遂行し、作戦の目標を達成することにある。
 下の図は、ドイツ装甲師団を例にした電撃戦の概念図である。


電撃戦とは

 戦車を中核とした部隊が先陣を切り、それに装甲車両やオートバイで機械化された部隊が随伴する。トラックに乗り自動車化された歩兵が続き、迅速に部隊を展開する。こうした機械化が1つのイノベーションである。
 その結果、指揮命令においてもイノベーションがなされた。少なくとも当時の常識では、司令官は後方から各種情報を総合して指揮を執るのが通例だったが、電撃戦においては、師団長自らも指揮車に乗り、前線で指揮を執った。グデーリアンの工夫は、単に機械化するだけでなく、通信機器を効果的に使用した点にも表れている。
 第1次世界大戦で無線技術を取得していた彼は、戦車内部と通話できる通信装置を戦車の後方に設置した。これにより、ハッチを開けて危険に身をさらしながら意思疎通を図る必要はなくなった。ところが、フランス軍はこうした配慮がなされておらず、実戦において甚だしい困難に直面することになる。
 電撃戦では敵の一点を突破し、その背後に回り込み、挟撃して殲滅する戦法だが、その露払いとして、強力な火力が敵陣地を襲う。後方からの砲兵射撃が行われ、急降下爆撃機による地上部隊の掩護がなされる。時には空挺部隊(ドイツ軍では降下猟兵)が敵の要塞陣地に降り立ち、火砲やトーチカを破壊する。このような空陸一体作戦がもう1つのイノベーションである。
ロンメル将軍

  西部戦線では、森林と湿地で囲まれたルクセンブルク北部からベルギー南部にかけて広がるアルデンヌ地方を、主力である装甲部隊が突き進んだ。少なくともフランス軍首脳は、このような悪条件の地域を戦車や自動車が進撃してくるとは想定していなかった。その虚を突く形で、ゲルト・フォン・ルントシュテット指揮下のドイツ軍A軍集団がここを突破した。このA軍集団には、グデーリアンはもとより、のちに北アフリカ戦線で名を馳せるロンメルもいた。
  ルントシュテットとロンメルは、その4年後のDデイを、ともに元帥としてフランスの地で迎えることになるとは、その時には想像だにしなかっただろう。


 フランス国境を越えたドイツ軍装甲部隊は、英仏連合軍を北海沿岸に追い詰めて行った。フランス最北の港町であるダンケルクから、大陸派遣イギリス軍を中心に奇跡の脱出劇が繰り広げられる。それが「ダイナモ作戦」であり、この日から4年間、イギリスは大陸反攻の機会を臥薪嘗胆、待ち続けるのだった。(つづく)



ナチス・ドイツ軍の電撃戦 「ソ連侵攻・バルバロッサ作戦」

完全実録 第二次世界大戦ドイツの電撃戦


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映画で知る第2次世界大戦〈5ヨーロッパでの戦い
太平洋の島国に住む日本人にはその関係性が今一つとらえきれないことが多いように思える欧州戦域や大西洋での戦いですが、これらを描いた映画は数多くあります。戦いの全貌を理解するため、比較的史実に沿った内容の作品を中心に紹介していきます。

イタリア戦線

 北アフリカに続く連合軍のシチリア上陸、そしてイタリア本土上陸を許したことでムッソリーニは逮捕され、イタリアは枢軸国の中でいち早く連合国に降伏してしまいました。194398日のことです。
 このイタリア本土上陸戦を描いたのが「アンツィオ大作戦」です。ドイツ軍の間隙を突いて上陸はしたものの、迅速な展開ができず、壊滅的な打撃を被りました。本作より6年前に公開された「史上最大の作戦」でおなじみのロバート・ミッチャムが主演しています。
 イタリアの不穏な情勢を察知していたドイツ軍は、降伏後のイタリアに進撃し、昨日までの友軍と戦火を交えるようになります。「コレリ大尉のマンドリン」は、独伊軍が占領中のギリシャの島で起きた両軍間の悲劇を描いた作品です。コッポラ監督の甥っ子である主演のニコラス・ケイジはイタリア系の俳優です。
 戦後のイタリアではネオレアリズモと呼ばれる作品群が一世を風靡します。ロベルト・ロッセリーニ監督は、「無防備都市」と「戦火のかなた」の2本で、イタリア戦線の記憶をフィルムに焼きつけました。無防備都市とは、戦火の波及を防ぐため軍がいないことを宣言した都市のこと。ドイツ軍占領下に置かれたローマを舞台に、「無防備都市」ではドイツ軍に抵抗する市民がゲシュタポやファシストの残党によって虐殺される様子をまるでドキュメンタリーのように生々しく描いていきます。脚本はフェデリコ・フェリーニが担っています。
 もう1本、「戦火のかなた」は、シチリアから始まる米軍の進撃下で起こる6つのエピソードで綴られた作品です。後ろ手に針金で縛られ、ドイツ軍にポー川に突き落とされ処刑されるパルチザンやイギリス軍特殊部隊の兵士の姿など、涙なくして見ることはできません。この作品中にも黒人兵のエピソードがありますが、「セントアンナの奇跡」は、NYで起きた殺人事件をきっかけに明らかになる、トスカーナ地方に進撃したアメリカ軍黒人部隊「バッファロー・ソルジャー」が体験した奇跡の物語です。
 最後に、ヒトラーとはだいぶ異なる独裁者ムッソリーニのお話しを。「愛の勝利をムッソリーニを愛した女」は、20年にわたってイタリアを率いたファシストの頭目と、彼を愛し支えながらも歴史から抹殺された女性描きますが、イタリアのマンマは実に強いということをしみじみと実感できることでしょう。
アンツィオ大作戦The Battle for Anzio 1968米伊仏西

[監督] エドワード・ドミトリク [主演]ロバート・ミッチャム、ロバート・ライアン、ピーター・フォーク
コレリ大尉のマンドリンCaptain Corelli's Mandolin2001英仏米
[監督] ジョン・マッデン [主演]ニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルス、ジョン・ハート
無防備都市Roma, città aperta 1945
[監督] ロベルト・ロッセリーニ [主演] マルセル・パリエーロ、アルド・ファブリッツィ、アンナ・マニャーニ
戦火のかなたPaisà1946
[監督] ロベルト・ロッセリーニ [主演] カルメラ・サツィオ、ロバート・ヴァン・ルーン、ベンジャミン・エマニュエル
セントアンナの奇跡Miracle at St. Anna 2008米伊
[監督] スパイク・リー [主演] デレク・ルーク、ラズ・アロンソ、ジョン・タートゥーロ


[監督] マルコ・ベロッキオ [主演]ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、フィリッポ・ティーミ

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