2015年8月10日月曜日

あくなき共産中国による「アジア太平洋覇権戦略」 ~なりふり構わず求める海洋権益~

中国の国家安全法から窺える中国共産党の不安
岡崎研究所

20150805日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5215
 エコノミスト誌74-10日号が、71日に成立した中国の国家安全法は、国内統制に向けた法整備の一環だが、そこには中国共産党が不安を抱いていることが窺われる、と指摘しています。
 すなわち、新たに全国人民代表大会で採択された国家安全法は、昨年成立した反スパイ法、近く成立の見通しの反テロ法、サイバー安全法、外国非政府組織管理法と共に、国内の統制を強化しようとするものだ。新法で目立つのは、想定する脅威の源がインターネット、文化、教育、宇宙空間と非常に多岐にわたる一方、文言が曖昧で詳細を欠いていることだ。詳細規定は後で補充されるかもしれないが、重要な文言が明確にされることはないだろう。曖昧な表現は習にとって有用な武器になるからだ。
 その目的は、第1条に「民主的独裁体制と中国的社会主義体制を守ること」と記されている。党による権力掌握と国家の安全が同義として扱われ、国家安全の重点は国内の治安に置かれ、それを脅かすものとしてテロ等の通常の要因に加え、言論の自由やリベラル・イデオロギーがもたらす脅威が挙げられている。
 習は、多くの反体制派を逮捕、ネット規制を強化し、ウイグル人テロを厳しく取り締まるなど、前任の胡錦濤より強い姿勢で治安維持に努めてきた。4月発表の草案と比べ、新法の最終文書は権力独占により重きが置かれている。
 また、第15条は、国家権力の行使について抑止と監督の強化を要請している。一見「法の支配」を認めているかのようだが、目的は党の抑制であり、党の権力に枷をはめることではない。
 もっとも、習の懸念には根拠がある。中国共産党はとうにイデオロギー的正当性を失い、経済的正当性も弱まりつつある。減速する経済、物価の上昇、増税などに、市民は不満を表明し、各地で抗議運動が起きている。何百万もの個人投資家の参入で加熱していた上海市場の株価暴落も指導層を不安にしている。
 そこで、国家安全法は市民が守るべき義務を強調する。他国のこの種の法律は、国家機密の漏洩等、してはならないことを挙げるが、新法は密告も含めてすべきことを義務付けている。既に苦境にある政治活動家はさらに追い詰められるだろう。
外国企業も不安を募らせている。新法は、国家には重要インフラや情報システムの「安全性と制御可能性」を確保する権利があるとしており、外国製品の使用の規制強化につながる可能性がある。企業に情報開示を義務付ける反テロ法や、外国NGOに警察への登録を義務付ける外国非政府組織管理法にも懸念が持たれている。国家安全法は香港にも国家の安全を守ることを義務付けている。当局は、新法は香港には適用されないと釈明したが、免除が永久に続く保証はない。国家安全法が中国の各方面にもたらした恐怖は当分消えないだろう、と指摘しています。
* * *
 本論評が指摘するように、今回の中国の「国家安全法」の制定は、中国共産党が国家の治安維持に対し、不安を抱いている証拠であると言えます。あるいは、それは「不安」というよりは「恐怖」に近いのではないかと思われます。
 習近平は党総書記就任以来、党内の国家安全面では「国家安全委員会」を設立し、その委員長になり、党内の基盤を固めてきたと見られています。ただし、党内の権力闘争(「反腐敗キャンペーン」など)はいまだ収束しておらず、さらに共産党の枠を超えた軍、政、地方政府、ウイグル族・チベット族などに関しては、多くの不安定要素を抱えたままです。
 通常の国の場合には、本記事の言う通り、国家安全法の類の法律は「機密を漏洩してはいけないこと」などの禁止事項を書き込むのが普通です。しかし今回の中国の「国家安全法」は密告などを含めて多くの面で治安維持のために国民が行うべきことを義務づける形となっている点が特徴です。
 この法律は、反体制派の弾圧、ネット規制、ウイグル人テロへの対応などを主たる対象としているように見えますが、内容ははっきりしません。特に最近では、上海市場の異常な株価暴落と政府の下支え介入の失敗から生まれた経済リスクがやがて政治リスクに変わっていくのではないかという恐れが広がりつつあります。上海株の急落はすでに、株価操作の範囲を超えて中国の実態経済を揺り動かしつつあり、それがやがては国内の治安維持に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。

 この国家安全法は、香港、マカオのみならず、中国の統治下にない台湾をも対象としており、これら地域の市民たちが中国の治安を守るよう義務付けています。このような国内法の制定とその実施は、恐怖が恐怖を呼び起こすきっかけともなり得るものであると言えるでしょう。
※納得できる論考かと思います。民族問題に株価暴落に象徴される経済の問題と共産中国の中枢を揺るがすような事態が内包されすぎています。この国家はそもそも連邦制による法治主義の方が効率的に統治できるのではないでしょうか?
中国共産党による「一党独裁」の行き着く先はどこなのか?
我が国も隣国としてこの赤い大国の動向に無関心ではいられません。「戦略的互恵関係」はともかくそれ以上に「仮想敵国」としての対処戦略が必要なのではないでしょうか?
【南シナ海と東シナ海の連動・予期せぬ衝突が起きる可能性】中国の力による現状変更を阻止できるか?
小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官)

20150804日(Tuehttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/5226
 プラットフォームにレーダーを配備する可能性がある。空中偵察などのためヘリコプターや無人機の活動拠点として活用する可能性もある」
 2015710日の衆議院平和安全法制特別委員会における、中谷防衛大臣の発言である。中国が東シナ海の日中中間線付近で建設している海上プラットフォームが、安全保障上の懸念になり得るとの認識を示した。
防衛省が公開した東シナ海にある中国の海上プラットホーム(防衛省/AP/アフロ )
 中国の海上プラットフォームが軍事利用される可能性があるということだ。しかし、中国は最近になって新たなプラットフォームを建設し始めたわけではない。
中国は、東シナ海の日中中間線付近においてガス田の開発を継続してきた。2013年から現在に至るまで、新しい海上プラットフォームを建設し続けている。
裏切られた中国の楽観的な予想
 この時期に日本政府が公表したのには、日本周辺の安全保障環境の変化を示し、国会における安全保障法制の議論を有利に運びたいという思惑があるかも知れない。
それにしても、中国は、二正面で、力による現状変更を試みようとしているのだろうか? 中国は、南シナ海でも、米国と対立を深めているのだ。
 2015520日、米海軍は、P-8A哨戒機にCNNのテレビ・クリューを搭乗させて南シナ海の監視飛行を実施し、中国の人工島建設の様子などを報道させた。CNNの報道を見て、北京は驚き、腹を立てただろう。そうでなくとも、北京の指導者たちは、米国の監視飛行に苛立っていたはずだ。
 一方で、国際会議等で発言する外交部や研究者には、楽観的な空気もあった。「これだけ、米中経済相互依存が進む中で、米国は最終的には中国との衝突を避けるはずだ」と言う。現に、これまでは、米海軍機が中国の人工島周辺空域を飛行しても、米国はそれを公表してこなかった。米中間の、水面下の駆け引きのはずだったのだ。
 しかし、中国の楽観的予想は裏切られた。米国は、対立のステージを上げたのだ。中国が南シナ海で行っていることを、世界中に知らしめたのである。CNN報道の後、日本のみならず、欧州でも、中国の行為が、「航行の自由」という国際規範を脅かす可能性があると考え始めた。
 さらに、米国防総省スポークスマンのウォレン中佐が、「ポセイドン(P-8A)が、中国が人工島周辺に主張する12NMの領界に入ることは、将来、起こりうる」と述べたのだ。これは、中国にとっては決して受け入れられない。米国は、中国の南シナ海コントロールの根拠を、軍事力を用いて根こそぎ否定してやると公言したに等しいからだ。
中国が南シナ海に主権が及ぶとする根拠は、南沙(スプラトリー)諸島の領有にある。「中国は、南沙(スプラトリー)諸島及びその付近の海域に対して、議論の余地のない主権を有している」という外交部による発言が、中国の論理を示している。
南沙(スプラトリー)諸島に対する領有権が否定されると、中国は南シナ海における権利主張の根拠を失ってしまう。
 中国は、これまで、表向き、人工島建設が軍事目的だとは言ってこなかった。429日には、テレビ電話による会談で、呉勝利・中国海軍司令員がグリナート米海軍作戦部長に対して、岩礁埋め立ては「航行や飛行の自由を脅かすものではなく、国際海域の安全を守るという義務を履行するためだ」と述べ、米側の理解を求めた。
米国にとって、埋め立て完了だけでは不十分
 さらに、呉司令員は、「気象予報や海難救助などの能力向上につながる」と説明し、将来、条件が整った際は「米国を含む関係国や国際組織が施設を利用することを歓迎する」とも強調した。中国は、表面上は協力姿勢を保ちつつ、米国と駆け引きするつもりだったのだ。
 しかし、中国は、新たな対応を迫られることになった。中国外交部のスポークスマンは、「こうした行動(P-8Aの監視飛行)は、事故を引き起こす可能性があり、無責任で危険であり、地域の平和と安定を害するものである」と述べて、米国をけん制した。
 2015531日、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において、孫建国・中国人民解放軍副総参謀長は、中国が南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での埋め立てについて、「軍事防衛上の必要性に加え、海上救難などの国際的な義務も果たせる。埋め立ての速度や規模は大国としてふさわしい。合理的で合法的なものだ」と、軍事的な目的を含む作業の正当性を主張した。
 孫副総参謀長の発言は、中国高官が、初めて「人工島が軍事防衛上の目的を有している」ことを公式に認めたものとして、国際社会の関心を集めた。また、孫副総参謀長は、「公正と客観性を原則に、国際的な問題を見るべきで、各国がとやかく言って、対立をあおるべきではない」と、中国を非難する国際社会をけん制した。
 米中両国は、互いにけん制した後の、2015623日及び24日、ワシントンで開催された戦略・経済対話(SED)で、再び南シナ海問題を議論している。この際、リベラルで知られるバイデン米副大統領が、開幕の演説で 「海上交通路が開かれ、守られていることがこれまで以上に重要になっている」と、中国をけん制した。
 これに対して、杨洁篪・国務委員は「中国は航行の自由を強く支持している」と述べ、汪洋副首相は「対抗すれば双方が代価を払う。対抗より対話がよりよい選択だ」と応じた。中国は、米国との対決を避けた形だ。実は、中国指導部は、戦略・経済対話に出席する中国側代表団に、お土産を持たせて、米国の反応を見るつもりだった。
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16日、中国外交部が、岩礁埋め立てについて「既定の作業計画に基づき、埋め立て作業は近く完了する」と発表していたのだ。
 しかし、米国にとって、埋め立て完了だけでは不十分だ。ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、中国外交部発表2日後の618日、戦略・経済対話を前に記者会見し、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での岩礁埋め立て及び軍事拠点化の中止と、「航行と飛行の自由」の尊重を中国側に求める考えを示した。
現段階では、米軍機に人工島の12NM以内を飛行されても、中国には有効に対処する手段がない。追い詰められているのは中国の方だ。海底の珊瑚を積み上げただけの人工島は、地盤の強度に問題があるだろう。航空機を運用するには、高温多湿の悪条件の下で扱いの難しい燃料と弾薬を貯蔵する施設が必要だ。また、人工島には水がないため、搭乗員や整備員を常駐させるとすると、これら人員のための真水を蓄えておく必要もある。こうした設備を建設できるかどうかは疑問なのだ。
 しかし、中国も対処できないでは済まされない。パトロール中の中国戦闘機が、米軍機と遭遇することができたとしたら、必要以上に、「何かできる」ことを示そうとすることが考えられる。危険な示威行為をする可能性があるのだ。却って、予期せぬ衝突が起きる可能性が高くなるという見方もできるのである。
“力”を用いず、議論を通じて解決のための努力をするというのは、最低限のルール
 さらに、中国は、日本が南シナ海においてパトロール等を実施する決定をすれば、東シナ海において、海警局や海軍の活動を活発化させ、日本牽制を強めるだろう。
海上プラットフォームも、空域監視或は日米潜水艦の活動を探知するために使用されるかもしれない。中国軍事力等の活動が活発化するという意味において、短期的には対中抑止は効かない。
 南シナ海と東シナ海における問題は、連動するということである。中国にとっては、二正面というより、日本に南シナ海の問題に関与させないための陽動かもしれない。いずれにしても、日本が対処しなければならない事象は増加するだろう。
 しかし、日本は、誰かが“力”を用いて一方的に「現状」や「国際規範」を変更しようとすれば、これを止めることができるのは、他の“力”だけだ、という事実を、認識しなければならない。国際社会が抑止しなければならないのは、力による現状変更である。
 世界政府が存在しない国際社会において、問題を解決する際に、“力”を用いず、議論を通じて解決のための努力をするというのは、最低限のルールである。日本は、国際社会の一員として、この最低限のルールを守るべく、各国との協力を深めなければならない。
米海軍があ然、中国「新鋭巡視船」の驚きの戦法とは
「我々はどう対処すべきなのか・・・」
北村 淳 2015.8.6(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44462
日本の海上保安庁の大型巡視船「しきしま」。中国がさらに大型の12000トン級巡視船を建造しているという(写真:海上保安庁)

「中国海警の新型巡視船は強力である」という人民日報(英文ウェブ版729日 )の記事に、アメリカ海軍関係者たちの話題が集中している。
人民日報が衝突戦法を誇示
 人民日報が紹介したのは中国海警の新鋭12000トン級巡視船である。その巡視船自体の情報は以前から明らかになっていた。
 これまで世界の沿岸警備隊が用いる巡視船(アメリカでは「カッター」と呼ばれる)のなかで最大の船体を誇っていたのは、日本の海上保安庁が運用している「しきしま型巡視船」(PLH-31しきしま、PLH-32あきつしま)であった。その満載排水量は9300トンであり、アメリカ沿岸警備隊が運用している巡視船のなかでも最大の「バーソロフ級カッター」の満載排水量が4500トンであるから、巡視船としては突出して巨大なものである。
アメリカ沿岸警備隊の「バーソロフ」(写真:アメリカ沿岸警備隊)

 その巨大な「しきしま型巡視船」よりさらに大型(中国当局が公表している12000トンという数字は総トン数であり、満載排水量はさらに大きい数字となる)の巡視船を中国が建造しているということで、海軍関係者などは気にしていたところであった。ちなみに、アメリカの沿岸警備隊が第2海軍的な役割を負っている以上に、中国海警は第2海軍としての地位を与えられているため、アメリカ海軍が中国海警の動向に関心をもつのは当然と言える。
 このように超巨大な中国海警巡視船の記事が問題となっているのは、何もその船体の大きさのためではない。国営メディアである人民日報による新鋭巡視船の紹介内容が“国際的スタンダード”とは全く乖離した、以下のような“中国独特”な説明となっているからである。
「軍艦構造の船体である中国の新鋭12000トンクラス海警巡視船は、2万トンを超える船舶へ体当りするパワーを持っており、9000トン以下の船舶との衝突では自らはダメージを受けないようになっている。そして、5000トンクラスの船舶に衝突した場合は、相手を破壊して海底の藻屑としてしまうことができる」
 中国以外の“普通の国”であるならば、巡視船や軍艦を紹介する場合には、船体の寸法やエンジン性能、それに搭載武器などを列挙することになる。にもかかわらず、中国当局は新鋭巡視船の性能を「どのくらいの船を体当りして沈められるか」によって誇示している。これには、さすがのアメリカ海軍関係者たちも度肝を抜かれてしまったのだ。
中国海警の12000トン級巡視船(中国のインターネットより)

軍艦の領海侵犯にも巡視船が立ち向かうのが原則
 中国の海洋侵出政策に対して腰が引けているオバマ政権は、中国が人工島まで建設して軍事拠点化を強化しつつある南沙諸島周辺海域にアメリカ海軍艦艇を派遣してパトロールをする方針を、最近になりようやく打ち出した。そして、中国によるフィリピンなどに対する軍事的圧迫の強化に対応して、場合によっては中国の人工島周辺12海里の“中国領海内”にも軍艦を乗り入れて中国側の「勝手な領海主張」をアメリカは決して認めないという姿勢を具体的に示すことになっている。
もし尖閣諸島周辺12海里海域(これは間違いなく日本の領海であるが)に、中国艦船が侵入しようとした場合には、まずは海上保安庁巡視船が侵入船に対して警告を発し、侵入船の航路を遮断(インターセプト)するような機動をして領海侵犯を阻止あるいは領海外へ退去させようとする。中国も、自国の領海としている海域にアメリカ軍艦が“侵入”した場合、中国海警当局が然るべきインターセプト措置を取ることは当然予想される。
 たとえ領海に侵入しようとする、あるいは領海侵犯してきた船が軍艦であっても、いきなりこちらも軍艦によってインターセプトしないことは、日本でもアメリカでも中国でも同様である。巡視船(カッター)の武装は通常は機関砲と機銃であるため、より大口径な機関砲や魚雷、それに対艦ミサイルなどで武装している軍艦に対して巡視船は武力では勝ち目はない。
 しかし、相手国の艦船に対して先に軍艦が発砲した場合、その軍艦側の国の先制攻撃により戦闘が開始されたと解釈されるため、領海侵犯に対するインターセプトは軍艦ではない巡視船が担当したほうが有利となるのだ。
 したがって、南沙諸島の中国人工島周辺12海里以内の海域にアメリカ軍艦が乗り入れた場合、その海域は中国側にとっては“領海”であるため、中国海警巡視船がインターセプトを実施するためにアメリカ軍艦に接近してくることになる。
当たり前のものとされている「サラミス海戦」の海軍戦略
 常に実戦を念頭に作戦を考えている米海軍作戦家たちの多くは、このような事態を想定して、上記の人民日報の記事を深刻に受け止めている。
「アメリカ軍艦をインターセプトしようとする中国海警巡視船が新鋭12000トンクラス巡視船であったら、アメリカ海軍としてはどう対処すべきなのか?」
 昨今南シナ海で頻発している中国海警など法執行機関公船によるフィリピンやベトナムの漁船や公船に対するインターセプトでは、中国船艇による「体当たり戦法」が多用されている。実際に沈没させられた船もある。また、海警巡視船ではなく、中国軍艦ですらアメリカ軍艦に対して体当たりを実施しようとした事例もあるし、人民解放軍幹部なども「体当たり」を口にすることが少なくない。そして、民間漁船ですら日本海上保安庁巡視船に体当たりを敢行したこともある。
 インターセプトの際に体当たりをすることは珍しくはないが、中国の「体当たり戦法」は船を衝突させて相手船を破壊あるいは沈めてしまうことを意味している。そのため、米海軍作戦家たちの間では以下のような声が上がっている。
「中国ではサラミス海戦(紀元前450年、ギリシア連合軍艦隊とアケメネス朝ペルシア軍艦隊の大海戦。当時は敵船に衝突して沈める戦法が取られた)の海軍戦術がごく普通のものとして認識されている。よって南シナ海で作戦行動をする米海軍の司令部や艦長は、巡視船による体当たりインターセプトを想定しなければならない」
「我々は自艦を敵から自衛する権利があるだけでなく、海軍将校としてはそれは義務である。しかし、通常は敵の発砲やミサイル攻撃に対しての対処が想定されているわけであり、体当たりに対しては回避して逃げるしか対処法はないのか?」
海自艦にも体当たりするかもしれない
 いくら総トン数12000トンの軍艦構造の巡視船とはいえ、9000トンクラスの船に体当りして自艦がダメージを受けないというのは誇張表現ではないか? と見られている。しかし、2万トンクラスの船に対しても「体当たり戦法」を敢行する可能性があることは十二分に予想できる。そして、5000トンクラスの船を衝突によって沈めてしまうこともまた否定できない。
 国防予算の大幅削減により戦力が低下しているアメリカ海軍が、現在南シナ海のパトロールを担当させることになっている軍艦はフリーダム級沿海域戦闘艦(LCS)である。LCSには大口径機関砲や多数の機銃、それに対空ミサイルなどが装備されており、最高速力も47ノットと高速を誇っているが、満載排水量は3500トンである。つまり、もし多数の中国海警巡視船に取り囲まれて12000トンクラス巡視船に体当りされた場合、LCSは南シナ海の海底に叩き込まれてしまうことになるのである。
 もっとも、アメリカ政府が期待しているように、アメリカ海軍の劣勢を補強するために海上保安庁の大型巡視船「しきしま」(満載排水量9300トン)や海上自衛隊イージス駆逐艦「あたご」(満載排水量10000トン)が南シナ海に出動しても、いずれも2万トン以下の艦船であるため、中国海警12000トンクラス巡視船は体当たり戦法によってインターセプトしてくるかもしれない。もちろん、尖閣周辺海域を含む東シナ海にも新鋭巡視船が投入され体当たり戦法を駆使するかもしれない。
 まさにアメリカ海軍作戦家が言うように「我々は、21世紀におけるサラミス海戦の戦法を研究しなければいけなくなった」のである。
中国海警(南シナ海)
中国海警(東シナ海)
 ※国際海洋基本法の精神に基づいて、海軍の前に各国とも海上治安を担当する巡視船が対応します。我が国の東シナ海の秩序を守っている尖兵は「海上保安庁」になります。尖閣諸島には「海難救助」の目的のためのヘリ施設や巡視船のための港湾施設が不可欠です。無人島でいつまでも放置しておいていいということはありません。



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