我が国におけるパンデミックウイルスの脅威とその対策~エボラ出血熱の特効薬!?
①抗インフルエンザ薬による治療
【エボラ対策】国内で発生の場合、未承認薬の使用を容認
読売新聞2014年10月24日(金)22時34分配信 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141024-00050139-yom-pol
政府は24日の閣議で、西アフリカで感染が拡大しているエボラ出血熱に関し、国内で患者が発生した場合、「未承認薬を医師の判断により緊急に使用することも考えられる」と明記した答弁書を決定した。
事実上、未承認薬の使用を容認したものだ。
新党大地の鈴木貴子衆院議員の質問主意書に答えた。
エボラ出血熱に対しては、富士フイルムのグループ会社「富山化学工業」が開発した抗インフルエンザ薬「アビガン」の効果が期待されている。フランスやドイツでは、緊急措置として未承認のアビガンを患者に投与し、効果があったとされる。
【エボラ対策】エボラ熱に効く薬「アビガン」が年明けにもフランスなどで承認へ・・・富士フイルムが見通し公表
2014.11.11
17:35http://www.sankei.com/economy/news/141111/ecn1411110030-n1.html
富士フイルムホールディングス(HD)は11日に開催した中期経営計画説明会で、グループの富山化学工業が製造する抗インフルエンザ薬「アビガン」のエボラ出血熱への治療効果が、早ければ年明けにもフランスとギニアの両政府に承認されるとの見方を示した。承認されれば、日本発のエボラ対策が本格化しそうだ。
緊急措置として「グローバル承認」(同社)という位置づけになる可能性が高く、必要とされる国・地域に提供されやすくなる。
ギニアには、300人分のアビガンが外交ルートですでに到着。60人程度を対象とする治験は、年内に完了する見通し。効果が認められれば、その後1カ月以内に承認される。WHO(世界保健機関)の関与により、世界的に効果が認められるかたちになりそうだという。
②マスクによる感染防止
【エボラ対策】ウィルス殺菌99%の日本製マスクが救世主
2014.10.24
05:00http://www.sankei.com/politics/news/141024/plt1410240004-n1.html
西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱の院内感染対策として、愛知県の民間企業がエボラウイルスを殺菌できるマスク計1万枚をリベリア、ギニア、コンゴの3カ国に寄贈した。防護服などの支援を行っている外務省も注目している商品で、日本の技術力が改めて評価されそうだ。
開発したのは愛知県豊橋市のフィルター製造会社「くればぁ」。同社は独自技術を駆使し、エボラウイルスの粒子を食い止め、仮にウイルスが付着した場合でも99%殺菌できるマスクの製造に成功した。
海外メディアの報道を受け、9月中旬にギニア政府から提供要請があったことが寄贈のきっかけ。同社は3カ国の駐日大使らを通じ、22日に出荷を終えた。
洗浄して何度でも繰り返し使えるのが特徴で、1枚7980円で販売中。同社の担当者は「追加支援も検討している」としている。
感染が拡大する前に、効果的な治療手段、予防手段ができたことで多くの人の命が救われた、といえるでしょう。
③緊急輸送に軍用機を活用
【エボラ対策の医療機器を緊急輸送】~イギリス海軍のマーリン
配信日:2014/11/27
22:40http://flyteam.jp/airline/royal-navy/news/article/43393
イギリス海軍第820飛行隊(No.820 Sqn.)のマーリン・ヘリコプターが、シエラレオネの山村に、エボラ出血熱対策の緊急物資を緊急輸送しました。イギリス海軍が2014年11月26日に発表しました。
イギリス海軍は、エボラ対策のため航空支援艦RFAアーガスと、3機のマーリン・ヘリコプターをアフリカ西部に派遣しています。今回の緊急輸送は、国連機関からの要請でトラックではアクセスが困難な山村の診療施設へ、5.5トンの医療機器等を輸送しました。
マーリン・ヘリコプターは、シエラレオネに到着して以来約1カ月で、36回以上飛行しています。画像を見るとマーリンは輸送型ではなく、対潜哨戒型のマーリンHM.2のようです。
【エボラ出血熱の国際緊急援助】航空自衛隊KC-767Jをガーナに運航
配信日:2014/11/28
12:10http://flyteam.jp/airline/japan-air-self-defense-force/news/article/43462
防衛省は国際連合エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)から要請を受けているエボラ出血熱の感染拡大の防止に向け、個人防護具の提供の要請について航空自衛隊の空中給油機KC-767Jを使用し、ガーナへ輸送すると発表しました。準備、調整が順調に進んだ場合、12月6日に日本出発、12月8日にガーナに到着する予定です。
外務省が支援する物資のうち、2万着分について自衛隊の部隊による協力要請を受け、防衛大臣は「西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に対する国際緊急援助活動に必要な物資の輸送に関する自衛隊行動命令」を発出したものです。これを受け、航空自衛隊では「西アフリカ国際緊急援助空輸隊」などを編組し、KC-767Jでガーナ共和国まで輸送活動を行います。
【エボラは「国防」】BSL-4ラボを動かせず(前篇)
村中璃子 (医師・ジャーナリスト)
2015年08月04日(Tue)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5229
米ユタ州のソルトレイクシティに本拠地を置くバイオファイア・ディフェンスの検査パネル「バイオスレット−E」が、2014年10月25日、米国食品医薬品局(FDA)よりエボラウイルスの臨床診断用キットとしての緊急認可を受けた。同社が2014年10月18日に緊急認可を申請してからわずか1週間後の出来事。アメリカ政府の対応は速い。
防護服を着てエボラ疑いの4歳の少年に向かい合うリベリア保健省職員(写真:GETTYIMAGES)
緊急認可された検査キットは米軍用
バイオファイア社は1990年、ユタ大学のPCR技術をライセンス化してスピンオフした企業で、アメリカ保健省からの資金援助を受け、環境中のバイオハザード検出機器を開発してきた。2003年には米軍より「共同生物因子同定診断システム(JBAIS)」の開発契約権を獲得。より精密で広範なバイオハザード検出機器の開発を約束した。11年に承認された「レイザーEX」は、ラボレベルの精度をもって生物学的脅威を検索できる手持ちサイズの画期的なマシンで、なんとバッテリーでの稼働も可能。現在も国防省との間に、8年間2400万ドルの契約がある。大学から民間へと出ていった技術に、国が資金提供して軍事機器開発を進めるアメリカ。おそらくは、開発資金の他、エボラや炭疽菌など高い危険性をもつ病原体そのものや、それらを扱うための安全基準を満たしたラボの使用なども国が準備して開発を進めてきたのだろう。アメリカではすでに10年以上もの間、産官学が一丸となって感染症・バイオテロ対策に取り組んでおり、今回はその過程で生まれた軍用機器が医療用に緊急認可された。感染症はまさに軍事の問題であり、医療の問題であることがうかがえる。
バイオファイア社以外に少なくとも5社が緊急認可の申請を行ったというが、同社のキットだけが取り急ぎ承認された。民間の検査キットとしての認可は初めて。バイオファイア社のカーク・ライリーCEOは「国防省やFDA、その他政府機関との長年の協力の賜物」としている。
エボラかどうかを判断する簡易検査のPCRは通常、結果が出るまでに半日から1日程度かかる。しかし、「バイオスレット−E」を、トースターサイズで総重量9キロというこのバイオファイア社の検査機器「フィルムアレイ」にセットすれば、作業者の感染のリスクを減らしつつ、たった1時間でエボラかどうかの判断がつく。それは、手動で行う煩雑な作業をすべて自動化・閉鎖化しているから。パネルと検体をセットするための作業時間は約2分。今回、緊急認可されたパネルで、エボラ、炭疽菌、マールブルクなど計16種類の危険な病原体の存在を一度に調べることができる。
フィルムアレイはすでに全米で300の病院が、ニューヨークとニュージャージだけでも116の病院が所有している。よって、「バイオスレット−E」が各病院に行き届くだけで、一気に「エボラ検出網」が広がることになる。緊急認可前ではあったが、アメリカで最初のエボラ患者が訪れたダラス・プレスビテリアン病院にも、この機器はあったという。バイオファイア社によれば、現在パネルの在庫は800個ほど。
これまで、FDAが開発中の製品を緊急認可した前例はあまりない。しかし、13年のパンデミック・オールハザード事前準備法で、公衆衛生上の危機に際しては、単純な危機対応をするのではなく「積極的に備えること」を定めた。その中には、備えに必要な開発中の製品の審査基準を緩めることを盛り込んでいる。今回の緊急認可も同法を受けての措置であり、現在流行中のエボラ・ザイール株に限り、アウトブレイク終息の宣言が出るまでの期間の使用認可となっている。アメリカの感染症・バイオテロ対策予算は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の起きた03年以降、毎年50億ドル以上計上しており、13年度の合計額は55億400万ドルにのぼる。76年からアフリカ大陸の中だけで小さな流行を繰り返してきたエボラ出血熱。14年、この病気は中央アフリカから密林を越えて西アフリカへと場所を移して爆発的に流行し、遠くアメリカ大陸にまで上陸した。これまでの日米の対応を改めて振り返り、問題点を探ってみたい。
渡航禁止は不要 科学的には正しいオバマの判断
終息しないエボラ出血熱の不幸中の幸いは、先進国で感染し、発症した症例が、未だに医療関係者に限定されていることだ(2014年11月11日現在)。エボラ出血熱は、感染しているが症状の無い潜伏期には感染力がない。また、せき・くしゃみなどの飛沫で感染するインフルエンザとは異なり、患者と同じ店や飛行機に居合わせたり、町ですれ違ったりすることもリスクではない。発熱しか症状のない段階での感染力は、ゼロではないが低いとの見方も強い。こう考えると、他人との距離が遠く、医療制度の整った先進国において、一般人の間でエボラが流行する要素は少ない。
「事態が収束する前に、さらなる感染者の隔離がアメリカで行われるのを見るだろう。しかし、我々は西アフリカと距離を置くことは出来ない。渡航禁止令は事態を悪化させるだけだ」
オバマ大統領は2014年10月17日の土曜日定例演説において、議会筋の要求を退け、リベリア、シエラレオネ、ギニアとの間に渡航禁止令を出す意向の無いことを明らかにした。検疫は完璧ではないという前提に基づき、国内におけるエボラ患者の早期発見による封じ込め政策に切り替えたのだと見てよい。
米軍4000人という大規模支援を送って、リスクの元である西アフリカの流行をたたく。感染者を早期発見・早期治療し、「罹っても回復する」という実績を積み上げる。それにより、医療者の不安も緩和され、医療者のトレーニングも進んで患者の扱いにも慣れていく状況を作るという目算だろう。
実際、9月30日に検疫をすり抜けた全米初のエボラ患者が確認された際には、この患者をケアしていた2名の看護師が二次感染していた。しかし、10月24日にニューヨークでエボラと確定したリベリア帰りの医師のケースでは、今のところ医療者への二次感染は報告されていない。また、診断が遅れた最初の症例以外は、全員が回復もしくは安定した状態にある。エボラ政策で批判を受け、民主党は中間選挙で敗北したが、オバマの渡航禁止不要との判断は科学的には間違っていなかった。バイオファイア社製検査キットの緊急認可は、オバマの「早期発見戦略」に沿ってなされたもの。ウイルスサンプル数不足のため臨床診断での使用は未認可だったこのキットは、これから、いきなり実用の場で精度検証を重ねていくことになる。
血液はなぜ村山庁舎に?エボラ確定後の扱い
ひるがえって日本。エボラ疑いの最初のケースは、リベリアに滞在し、羽田空港で発熱していたという男性だった。エボラかどうかを調べる簡易検査のPCRで陰性が確定。3日間の隔離後、無事退院した。塩崎恭久厚生労働相は2014年10月28日、閣議後記者会見で、発熱男性への一連の対応を「準備の段取りどおり」と評価した。男性を国立国際医療研究センター(国際医療センター)に搬送し、血液検体を国立感染症研究所(感染研)村山庁舎に送り、陰性の判定がでるまで約14時間。PCR検査そのものに7時間かかったことを考えれば、まずまずの結果だろう。しかし、このエボラ上陸「予行演習」から見えてきたのは、日本の感染症危機対策の甘さだ。
口から出血した妻を黄色いバンで国境なき医師団(MSF)のケアセンターに運び、うなだれる男性。手袋やマスクがないため、ビニール袋で手足を防護している。(写真:GETTY IMAGES)
それは、日本では、エボラ患者と分かれば強制的に入院させられるが、「退院はできない」という、衝撃の事実に象徴されている。患者状態を評価する際に基本となるのは、血液中で活性をもつ生きたウイルスの量。エボラ患者が「回復した」との確定診断も、血液中に生きたウイルスがいないことの確認で行う。
しかし、この血中ウイルス量の測定は、BSL-4(レベル4)と呼ばれる厳しい安全基準を満たしたラボでしかできない。幸運にも、世界に44か所しかないレベル4ラボのひとつが、日本にも感染研村山庁舎内にある。しかし、周辺住民の反対で正式稼働していないからだ(注1)。厚労省によれば、「エボラ疑い」の患者から採取された血液検体に不活化処理を施すPCR検査は、安全基準の落ちるレベル3の施設でも実施することができる(注2)。しかし、エボラと確定して以降、エボラウイルスの含まれた血液などの検体は、レベル4でしか取り扱えない。「疑い」と「確定」では、まったく扱いが違うのだ。
では、「エボラ疑い」発熱男性の検体は、なぜ、複数のレベル3ラボをもつ感染研の本部(戸山庁舎)ではなく、遠く村山庁舎まで運ばれたのだろうか。戸山庁舎は、患者が入院した国際医療センターから早稲田側に坂をのぼってすぐのところにある。戸山の感染研本部でやる方が時間も節約でき、検体輸送に関わるリスクも軽減できる。
これには理由がある。感染症法によれば、「エボラ疑い」としてレベル3で検査された検体であっても「エボラ確定」となれば、確定から2日以内に廃棄するか、レベル4に運ばなければならないとされている。しかも、エボラと同定されたウイルスを施設外に運ぶとなれば、どの信号を何時何分に通過する予定であるといった、詳細な内容も記した分厚い書類を事前に警察に届け出なければならない。この手続きを2日でやるのは事実上不可能だ。
今回の検査が、感染研村山庁舎内の、このレベル4ラボのすぐそばにあるレベル3ラボで行われたのは、もし患者が本当にエボラだった場合、検体を廃棄するという選択肢がなかったからだろう。陽性患者が出れば、厚生労働大臣は急遽、村山庁舎のレベル4ラボを正式稼働させ、追加検査を行って患者の状態の適切な評価を行うつもりだったのではないか。
(注1)感染症法の表現としては、「1種病原体等取扱施設として厚生労働大臣の指定を受けていない」。
(注2)正確には、疑い患者の臨床検体の取り扱いについては法的な基準がなく、感染研の規程でレベル2以上、エボラウイルスのようなリスクの高い病原体が疑われるものはレベル3以上と定められている。
参考資料 バイオファイア社の詳細については、プレスリリース、ソルトレイク・トリビューン、GenomeWeb等の記事を参照した。
(注1)感染症法の表現としては、「1種病原体等取扱施設として厚生労働大臣の指定を受けていない」。
(注2)正確には、疑い患者の臨床検体の取り扱いについては法的な基準がなく、感染研の規程でレベル2以上、エボラウイルスのようなリスクの高い病原体が疑われるものはレベル3以上と定められている。
参考資料 バイオファイア社の詳細については、プレスリリース、ソルトレイク・トリビューン、GenomeWeb等の記事を参照した。
【ウイルスを奪い合う列強】BSL-4ラボを動
かせず(後篇)
村中璃子 (医師・ジャーナリスト)
2015年08月05日(Wed)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5230
ウイルス検体共有 仲間外れのニッポン
検体を廃棄することでもうひとつ問題になるのは、「プライマー」と呼ばれる、エボラウイルスの遺伝子情報に基づいて作ったPCR検査キットのアップデート。エボラは遺伝子変異を起こす可能性があるため、患者が出れば、必ずウイルスの遺伝子情報を解析し、必要に応じてプライマーを書き換えていく必要がある。
仏リヨンにあるBSL-4ラボ(写真:GETTY IMAGES)
いま日本にあるエボラのプライマーは、米疾病予防センター(米CDC)の協力で開発され、00年と08年に、実際にエボラウイルスを検出できるかどうかを調べるテスト(精度検証)をパスしたもの。しかし、08年以降に流行したエボラウイルスについての精度検証は、一度もされていない。今回流行しているエボラ出血熱ザイール株を含め、いま日本が保有しているプライマーで本当にエボラを検出できるのかは不透明だ。
エボラのような人類の脅威となる病原体の場合、ウイルス検体の共有は、重要な国際的課題でもある。プライマーの精度検証に必要なのはもちろんのこと、治療薬やワクチンの開発などにも不可欠である。そして、このような国際的ネットワークへの参加には、レベル4ラボを持つことが求められる。
01年の9.11米国同時多発テロ事件や炭疽菌事件を受けた先進各国は、世界的な健康危機管理とテロリズム対応について連携のため、保健相レベルの会合「世界健康安全保障イニシアティブ(GHSI)」を発足させた。GHSIには実務レベル(局長クラス)の〝ジーサグ〟(GHSAG)と呼ばれる作業チームがあるが、レベル4ラボを持たないメキシコを除いては、日本だけが、このウイルス共有ネットワークから外れている。
日本で使用されるエボラウイルスのプライマーを開発した、感染研の森川茂・獣医科学部長は、「分離されたエボラウイルス等を廃棄すれば国際社会の非難を浴び、笑い者になる」と警鐘を鳴らし、レベル4ラボ稼働の重要性を改めて指摘した。
積極的に備えず ただ消え去るのを待つ日本
感染症が限定した地域で流行するのではなく、先進国を含めてグローバルに流行することを「パンデミック(世界的大流行)」と呼ぶ。歴史上、パンデミックを起こしたウイルスは、インフルエンザだけ。09年の新型インフルエンザでは、WHOがパンデミックを宣言して世界を不安にさせたが、予測されたよりも「致死性が低い」というウイルスの性質に助けられ、大きな被害はなかった。
エボラ出血熱
アウトブレイクの歴史 (出所)WHO
エボラ出血熱の致死性は高く、すでにアフリカを中心に多くの死者を出している。しかし、飛沫で流行しやすいインフルエンザとは異なり、エボラは体液に直接触れることでしか感染しない「流行しづらい」病気。09年の新型インフルエンザが「致死性の低さ」に助けられたように、エボラもまた「流行しづらさ」に助けられ収束していく可能性も高い。
とはいえ、エボラは比較的遺伝子変異を起こしやすいとされるウイルスでもある。今後、遺伝子変異など何らかのきっかけを得てパンデミックを起こす可能性を完全には否定できない。パンデミックでは最悪の場合、医療制度が崩壊するだけではなく、社会全体が機能を失う。そうなれば、エボラはもはや医療にとどまらず、地震や原発事故、戦争のような治安の問題となってくる。世界はこれまでもパンデミックを、防衛省をはじめとする各省庁が連携すべき「国防の問題」として準備してきた。
各国は、西アフリカ諸国にエボラ収束に向けた積極的援助を開始した。もちろん、火の元を絶つために国際社会が連携するという意味もあるが、この動きを冷静に見てみると興味深いことが言える。
ひとつには各国が軍を伴う援助を展開していること、もうひとつは援助の過程で、各国がウイルス検体を集めようとしていることだ。プライマー、新薬、ワクチンなど、エボラに有効な対処法を開発するためには、ウイルスそのものの入手は必須だ。米CDCは過去のアウトブレイクにおいても多くの検体を採取し、軍用ヘリで自国へ持ち帰っているというが、解析されたウイルスについての詳細は機密で公開されていない。
現在西アフリカでは、アメリカからは米CDC単独、米CDCと国立衛生研究所(NIH)の合同チーム、米軍の研究所の3つの形で、欧州からはカナダ、フランス、イギリス、ドイツなどの共同チームが、アフリカからは南アフリカ、ナイジェリア、ダカールのパスツール研究所など、計13カ所のラボが稼働している。検体処理能力は、1日に平均して50~100検体とのこと。
また、2014年11月3日付の「サイエンスインサイダー」のニュース速報によれば、中国もシエラレオネ・リベリア・ギニアの西アフリカ3カ国に200人の医療者とアドバイザーを派遣。中国疾病予防管理センターの高福・副センター長は、シエラレオネにモバイルラボを設置し「1日に40から60の採血を実施している」と電話で答えたという。シエラレオネでは、すでに03年のSARS時に活躍した30人の医療者が北京第302軍病院から派遣されて、検疫の隔離センターを運営しており、数週間のうちに、中国人民解放軍からさらに480人の医療者が派遣される予定だ。
ウイルス採取にいそしむ各国 情けは人のためならず
いま、西アフリカでは援助という名の下、各国の軍隊とラボが入り乱れようとしている。日本にも前出の森川氏らが開発したステンレス製の小型グローブボックス(下の図、写真参照)があり、WHOからもこれを持ち込んで現地にラボを建設して欲しいという要請がある。
バイオセイフティレベル(BSL)の違い (出所)ダルトンのウェブサイトを基にウェッジ作成(画像提供:ダルトン)
米CDCと米NIHの協力でリベリアに8月に新設されたモバイルラボでグローブボックスに手を入れる医師(写真:GETTYIMAGES)
このグローブボックス、小型の衣装ケースサイズの箱の中に必要なものがすべて納まるコンパクトさの優れもの。重量は90キロと、機内持ち込みが可能となるぎりぎりのラインに設計されている。もちろん援助が第一義ではあるが、仮に日本からもラボ建設の援助を行い、エボラ検体を得るチャンスに恵まれても、国内のレベル4を稼働させなければ、せっかく得られたエボラ検体を持ち帰ることもできない。
各国が援助の手を差し伸べる中、日本だけがこの体でよいのだろうか。各国の狙いは、リスクの元を絶つという国際協調のアピールだけではない。アフリカでエボラ検体の採取にいそしむ主眼は、ウイルス情報を獲得し、自国の危機に備えることにある。まさに、情けは人のためならず、だ。
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