2018年5月3日木曜日

台湾海峡波高し ~共産中国から「政治的」独立を主張する台湾~

朝鮮半島の融和ムードをよそに、台湾を恫喝する中国

台湾の防衛は日本の防衛、他人事ではない台湾海峡情勢
北村淳
中国海軍の海上演習で、空母「遼寧」に駐機されたJ15戦闘機(20184月撮影)。(c)AFP PHOTOAFPBB News

 朝鮮半島では南北間の融和ムードが生じているが、時期を同じくして台湾海峡では中国側による台湾に対する軍事的恫喝が行われた。これに対して台湾側も、中国の侵攻に対して一歩も引かない姿勢を示すと共に、国民に防衛の意志を強固にするように呼びかけた。
台湾を威嚇する中国軍
 水陸両用上陸部隊を含む中国人民解放軍は、2018年418日、台湾海峡で実弾演習を実施した。中国人民解放軍は2018年3月下旬に、南シナ海で空母や駆逐艦、それに潜水艦を含む40隻以上の艦艇を繰り出す“海軍示威パレード”を実施している。それに引き続いて執り行われたこの軍事演習は、アメリカに対する海軍力のデモンストレーションではなく、台湾に対する軍事的威嚇と考えられている。海軍を中心とする軍事演習に加えて、台湾周辺上空には爆撃機を含む中国軍用機が接近飛行を繰り返し、空からも威嚇を加えた。
2018年3月下旬の中国大艦隊演習(写真:Planet Labs
 一方、中国軍の実弾演習に対抗して台湾軍も金門島や台湾本島各地で実弾演習を実施した模様である。
 さらに台湾軍当局は、きたる64日から5日間の予定で、中国側の軍事的威嚇に対抗して、大規模な軍事演習を実施する予定である。これは「漢光演習」と呼ばれる軍事演習で、毎年台湾軍が中国軍の侵攻に対する備えを誇示するために実施されているものだ。今年の「第34号漢光演習」は蔡英文総督が指揮を執り、スケールアップされて実施されるという。中国軍の実弾演習は、直接的には第34号漢光演習に警告を発する示威運動と考えられる。
 2018年426日には、再び多数の中国軍航空機が台湾周辺上空を“回遊飛行”し、台湾に威嚇を加えた。この軍事戦闘演習には、中国の数カ所の航空基地を発進した戦闘機、早期警戒機、偵察機、そして新鋭のH-6K爆撃機も加わっていた。中国軍当局によると、H-6K爆撃機は「中国の統治権と領域の一体性を確保するため」の各種訓練を台湾周辺を回遊飛行しながら実施したという。

中国軍のH-6K爆撃機(写真:中国軍)

 そして中国軍当局は、上記のように台湾を恫喝すると共に、台湾の背後に控えているアメリカ軍への威嚇のために、「グアムキラー」と呼ばれている東風26型中距離弾道ミサイル(DF-26)の運用を開始したとの声明を発した。核弾頭も通常弾頭も搭載可能なDF-26は、台湾有事の際にアメリカ政府が台湾救援を決心した場合に、アメリカ航空戦力の拠点となるグアムの米軍施設を攻撃するための弾道ミサイルである。
アメリカは誰でも助けるわけではない
 以上のような中国軍による一連の台湾海峡や台湾周辺空域での軍事的威嚇に対して、台湾政府は断固として中国の侵攻をはねのける決意を表明すると共に、台湾国民にも国民一人ひとりが中国の軍事侵攻と対決する意思を強固にするよう呼びかけた。中国軍の飛躍的戦力強化、とりわけ長射程ミサイル戦力、海洋戦力、そして航空戦力の強化が急速に進んでいるため、台湾の防衛戦力は大きく劣勢を強いられつつある。
「台湾関係法」を堅持しているアメリカは実質的に台湾を軍事的に支援する立場を取っているが、1979年に失効した米華相互防衛条約のように相互に防衛義務を課している軍事同盟国ではない。そのため、万が一にも中国が台湾への軍事攻撃や軍事侵攻を実施した場合に、アメリカが軍隊を派遣して台湾を支援するかどうかは定かではない。
 では、アメリカ政府・連邦議会にとって、アメリカ国民の少なからぬ犠牲を前提としてでも軍隊を投入する最大の要素になるものは何か。それは、「台湾軍はもちろん、台湾の人々に自ら中国の軍事的脅威に立ち向かう意思がどれほどあるのか?」であろう。実際に少なからぬ米軍関係者たちは、「アメリカ国民は伝統的に、『自由を守る』という名目の下にアメリカ軍を世界中に派遣して、圧迫されている国を支援してきた。しかし、自ら圧迫と対決し戦おうとしない人々を支援しようとは思わない」という趣旨の言葉を口にする。つまり、台湾国民に「防衛の意思」あるいは「防衛戦の戦意」すなわち「Will to Fight」が乏しく、はじめからアメリカに頼りきっているような場合には、中国による台湾攻撃が実施されたとしても、アメリカ国民の血を流すことが前提になる軍事的支援は行わないということだ。実際のところ、台湾国民の戦意はどのような状態なのであろうか?
 最近、台灣民主基金會が実施した世論調査によると「もし中国が台湾併合のために軍事力を行使した場合、あなたは戦うか?」という問いに対して、39歳以下の台湾国民(世論調査に返答した人々に限られるが)の70.3%が「戦う」と答え、26.5%が「戦わない」と答えた。そして40歳以上の場合には、66.1%が「戦う」、24.9%が「戦わない」と返答したという。これらの数字だけで台湾国民の「防衛の意思」の精確な姿を計り知ることはできないが、大ざっぱな傾向として「Will to Fight」は比較的低くはない、と考えることができる。
日本国民の「Will to Fight」は?
 欧米のメディアでは、北朝鮮情勢の沈静化と反比例して、台湾海峡情勢が悪化しており、今後ますます軍事的緊張が強まるといった論調が増えつつあるが、日本にとっても決して人ごとではない。台湾軍事情勢は日本の安全保障に直結しているからだ。中国人民解放軍が、九州から南西諸島を経て台湾へと連なる島嶼ラインを「第一列島線」と称して国防戦略の重要な基準に据えているからには、台湾の防衛は日本の防衛であると言っても過言ではないのだ。
 日本も台湾も、完全な島嶼国家である。また、日本も台湾も、中国の極めて強力な長射程ミサイル戦力や海洋戦力、そして航空戦力により軍事的劣勢に直面しつつある。そして、日本も台湾も中国との武力衝突の際にはアメリカによる軍事的支援を頼みにしている。このように、日本と台湾は似通った軍事環境に置かれている。
 だが、日本国民の「Will to Fight」はどうであろうか?

 日本国防当局は当然のことながら日本国民の一人ひとりが、「万が一にも外敵が軍事攻撃を仕掛けてきた場合には、自らの方法(組織化されていない非戦闘員が武器を手にして戦うことはできない)で外敵に立ち向かう」という強固な「防衛の意思」あるいは「防衛戦の戦意」を持ち合わせていなければ、アメリカが日米安保条約を根拠として日本に援軍を送り込むことはないであろう。

〈管理人〉台湾は我が国の生命線です。我が国の西の国防線は台湾海峡にあります。台湾の「独立」が損なわれると、我が国の主権域が直接共産中国の軍事的脅威にさらされることになります。そうなれば在日米軍の防衛戦略も大きな変更を強いられることになるでしょう。つまり防衛ラインの後退ということになるわけです。
台湾は、我が国にとっても、アメリカにとっても戦略上絶対に失ってはならないチョークポイントなのです。


【台湾はアメリカから潜水艦を購入する】

台湾に潜水艦が必要なこれだけの理由

岡崎研究所
 昨今の台中関係を鑑みるに、潜水艦は台湾の中国に対する抑止力を高めるためのカギとなる存在の一つである。航空戦力は既に圧倒的に中国側が有利であり、中国から台湾への攻撃があった場合、単純に両国間の戦力差を比較すると台湾は23日で制空権を失うと言われている。これに関しては台湾の中国に対する、「A2AD(接近阻止・領域拒否)」的な能力の向上が重要であるが、実現には新鋭の潜水艦が不可欠である。しかし、現在台湾が保有する4隻の潜水艦(2隻は米国製、2隻はオランダ製)は、老朽化が進んでいる。これに対し、中国は約60隻もの潜水艦を保有している。
2001年に米国のブッシュ(子)政権は、台湾に8隻のディーゼル推進式潜水艦の売却を決めたものの、結局、実現していない。そこで蔡英文政権は米国からの購入を断念し、自主建造に方向転換、2026年までに1隻目を就役させることを目指している。台湾の王定宇・立法院議員は、台湾の海中戦闘能力向上のための防衛計画は10年前に始まっていて然るべきものであり、潜水艦建造は既に予定より20年遅れている、と強い懸念を示している(49日付、台北タイムズ)。また、船体は自主建造できるにせよ、エンジン・武器システム・騒音低減技術等は海外から導入する必要がある。
 状況を俯瞰すると、米国から台湾に潜水艦技術が供与されることが望まれる。この点、49日、台湾国防部は、台湾の潜水艦自主建造計画を支援するために米企業が台湾側と商談をすることを米政府が許可したと明らかにしている。台湾の経済団体「台湾国防産業発展協会」は、510日に台湾南部の高雄市で「台米国防産業フォーラム」を開催し、米国の軍事企業と技術協力について議論するとしている。同フォーラムでは、艦船の製造、宇宙空間・サイバースペースの安全に重点が置かれ、米台間でハード・ソフト両面での協力が推進される予定だ。米国からロッキード・マーチン社など15社以上が参加する。これを機に、潜水艦技術の輸出についても商談が進む可能性もある。
 ただ、商談が成立したとしても、実際に輸出されるには米政府の許可が必要となる。この点は不透明な要因ではあるが、最近の米国の潮流は台湾への武器供与に積極的になっているように思われる。20167月、米議会では、台湾関係法と「6つの保証」(1982年にレーガン大統領が発表)を米台関係の基礎とすることを再確認する両院一致決議が採択されている。台湾関係法は、台湾防衛のために米国製の武器を供与することを定めている。「6つの保証」の内容は、1.台湾への武器売却の終了時期は合意されていない、2.台湾と中国の間で米国が仲介することはない、3.台湾に中国と交渉するよう圧力をかけることはない、4.台湾の主権に関する立場を変更することはない、5.台湾関係法の規定を変更することはない、6.台湾への武器売却決定に当たり事前に中国と協議することはない、となっている。トランプ政権は、昨年6月、14億ドル相当の武器を台湾に売却すると議会に通知し、同12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」では、台湾関係法に基づく台湾への武器供与が明記されなどしている。
 台湾は、日本の潜水艦技術にも強い関心を持っていると言われている。日本の潜水艦技術は世界でもトップクラスであり、特に騒音軽減技術が優秀である。台湾が最新鋭の潜水艦を導入することは、日本の安全保障にとっても当然プラスになる。

人民解放軍の潜水艦に対抗・P3C部隊を保有
アメリカが台湾に潜水艦技術を支援

【かつてあった台湾・潜水艦購入は、未遂に終わっています】

台湾の潜水艦と日本の関与の可能性
岡崎研究所
台北在住のジャーナリスト、Michael Cole が、2018415日付The Diplomat誌ウェブサイト掲載の論説で、台湾は米国からの潜水艦調達を諦め、自前で潜水艦を建造しようとしている可能性があり、台湾が潜水艦技術を獲得するに当たって、日本が果たす役割があり得る、と述べています。
 すなわち、ブッシュ大統領が、8隻のディーゼル・エレクトリック式の潜水艦を台湾に売却すると宣言してから、十年以上経つ。米国がこのタイプの潜水艦を製造するのを何年も前に止めてしまったので、計画は立ち往生しており、台湾は潜水艦を自ら建造しようとしている可能性があるという推測が出てきている。最近のレポートが正しければ、日本が果たす役割があり得る。
 台湾国防部の公式な立場は、米国から潜水艦を調達するということで変わっていないが、台湾が潜水艦隊の近代化に成功するには米国からの直接売却に代わる手段を見つけなければならないであろうということは、今や、ほぼ確実である。
 公式の立場とは矛盾するが、台湾の海軍当局者は、レポートの筆者に、国防部のチームが一度ならず欧州の国々を訪問して、そうした国々からの潜水艦獲得、あるいは、潜水艦の国産計画への協力の可能性を評価した、と非公式に語っている。2011年後半には、長年、潜水艦プログラムに携わってきた、米国の防衛専門家が、台湾は米国からの潜水艦獲得を諦めており、今や国産計画にコミットしている、と言っている。
 それ以来ほとんど動きはなく、新しい潜水艦計画が実現することはないであろうとの結論に達しかけていたが、414日のUnited Evening News のレポートは、台湾の当局者が、最近の非公式会談で、日本からの技術移転の可能性について議論したと、報じている。
 台湾国防部はそのことを直ちに否定したが、匿名を条件にThe Diplomat に対して語った日本の防衛当局者は、そうした非公式対話は確かに行われた、と言っている。
 北京の反応への恐れがあるので、台湾との技術交換は厄介であろう。就役後16年で退役することになっている日本の古い潜水艦の調達を台北が求めない理由の一つはそれである。国産計画への日本の支援は、それよりは問題が少ないであろうが、既に緊張が高まっている日中関係を複雑化させる危険がある。
 ベターな選択肢は、東京が米国とノウハウを共有して、その情報を台湾のNaval Shipbuilding Development Center が利用できるようにすることである、と情報源は言っている。
 この線で何らかの進展があるかどうかは、不確実であり、多くの要因に依存している。最も大きいのは、台湾軍が潜水艦建造にコミットし続けるか、台北が、何年もの年数と何十億ドルもの金額を要するプログラムに資金を出す用意があるか、である。米国がそうした計画を許し、米国の防衛業者が台湾のレーダーや武器システム開発を支援することを許すことも必要となろう。米国でこうした計画を主張する者は、ワシントンにおいて、台湾海峡、南シナ海、アジア太平洋に潜水艦を追加する結果をもたらすいかなる計画にも反対する勢力に対抗しなければならないであろう。
さらに、日本がこうした計画に何らかの関与をするとすれば、それは、東京が北京との関係にダメージを与えるリスクを冒す用意があることが前提である。
 そのようなシナリオは、尖閣問題が続けば、想定できないことではない。既に、台湾との漁業協定に調印することで、東京は、台湾との協力を高め、台湾の主権的地位を支持するような協定に署名することに前向きであることを示している。日中関係の緊張の高まりの中で、東京は、台北と北京の亀裂をさらに広げるような政策に関与する誘惑に駆られよう。台湾の潜水艦建造を助けることは、まさにそういうカテゴリーに属する政策である、と論じています。
 * * *
 著者のコールは、カナダの諜報機関に勤務した経験もあり、これまでも台湾に関する多くの論説を発表しています。その多くは、かつての情報関係者らしく、正確でバランスの取れたものであり、今回の論説も、それなりに信頼性があると思われます。
 台湾の防衛上潜水艦が重要なこと、戦略上、戦術上、自明の理ですが、提供を約束した米国がディーゼル潜水艦の建造を中止したために、その後この話は中断されたままとなっています。
 日本への期待については、確かに、武器輸出三原則を緩和して以来、武器または武器技術と輸出は形式的な枠でなく、時の政府の決断次第で出来るようになっていると言えます。
 しかし、対台湾潜水艦あるいは潜水艦建造技術の提供は、対中関係の考慮の上では、現状では、この論説でも言っているように、今後、領土問題などで日中関係が真に悪化したような場合は別にして、日本政府にとっては困難な問題でしょう。ただ、本論説の言うように、一部ノウハウを米国に提供して、米国からの援助の形とするのは一つのアイデアでしょう。そのノウハウが、現在米国では失われていても、過去に米国が保有し、特に新しいものでない場合は、それは可能と思われます。
 この論説も指摘しているように、ワシントン内で台湾の軍事力強化については反対もあります。特に、第二期オバマ政権が中国との対話路線を取りつつあるこの時期には反対も強いのでしょう。
 しかし,時勢は変わるものです。米中関係も、第二期オバマ政権の対中対話政策の今後の成り行き如何によって変わる可能性もあります。
 台湾内部でも、第一期馬政権の間は、こういう議論は出て来る余地もなかった状況でしたが、この論説を見ると、現在は台湾の安全保障を真剣に議論する雰囲気が再び生まれて来ているのかもしれません。

台湾が我が国の中古潜水艦の購入を検討
我が国は潜水艦を軍事作戦として運用できる「潜水艦大国」です。我が国と同じ潜水艦装備を台湾と共有できることは、同じ海洋防衛戦略を共有することになります。むしろやらなければならないことでしょう。


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