米海軍太平洋艦隊・新司令官が発した中国への警告
最良の友か、最悪の敵か──それは中国の選択にある
北村淳
2018.5.24(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53152
南シナ海で米空母「セオドア・ルーズベルト」から戦闘機を発動させる兵士ら。米海軍提供(2018年4月11日入手)。(c)AFP PHOTO /US NAVY/MICHAEL HOGAN/HANDOUT〔AFPBB News〕
2018年5月17日、アメリカ海軍太平洋艦隊司令官の交代式が執り行われた。世界最大の規模を誇る艦隊の指揮が、スコット・スウィフト海軍大将の手からジョン・アキリーノ海軍大将の手に委ねられた。
「大国間角逐」下の新太平洋艦隊司令官
太平洋艦隊司令官交代式での第一声で、アキリーノ新司令官は「アメリカに敵対する姿勢を強める勢力」に対して次のような警告を発した。
「大国間角逐こそが、アメリカの国益そして繁栄に対する最大の挑戦となっている。今やインド~太平洋地域こそが最大の大国間角逐の場である。我々に挑もうとする敵に対して、マティス国防長官の言葉を借りて警告しよう──アメリカ太平洋艦隊は最良の友とも、最悪の敵ともなり得る──それはあなた方の選択だ」
新太平洋艦隊司令官アキリーノ海軍大将の言葉は、マティス国防長官がかつて総司令官を務めたアメリカ海兵隊で好んで用いられている「アメリカ海兵隊は、アメリカの味方にとっては最良の友であり、アメリカの敵にとっては最悪の敵である」というスローガンをもじったものである。
スウィフト司令官(右)から交代したアキリーノ新司令官
そのマティス国防長官が中心となって策定し、トランプ政権が打ち出したアメリカの国防戦略では、アメリカの国際関係の基本的スタンスが、集団安全保障体制を主軸に据えた「国家間協調」から、中国とロシアをアメリカとその同盟友好諸国に対する仮想敵とみなした「大国間角逐」へと大きく変針した。
アキリーノ新司令官の就任演説での警告は、まさにトランプ政権の国防戦略を具現化する強い決意表明といえる。
その言葉に真っ向から対決するように、大国間角逐の筆頭敵対勢力である中国は、南シナ海南沙諸島に建設した人工島の航空基地で、核爆弾搭載可能な新鋭H-6K戦略爆撃機を含む数機の爆撃機による前方展開訓練を実施するとともに、中国国産航空母艦の試運転の成功を発表した。
惜しまれて去ったスウィフト海軍大将
アキリーノ海軍大将に太平洋艦隊司令官の重責を委ねて退役したスウィフト前太平洋艦隊司令官は、ハワイの真珠湾基地の生まれである。海軍将校に任官した後は、ペンタゴンなど海軍中枢に勤めると同時に、前線での艦隊勤務では専ら太平洋艦隊での勤務を経験し、ついには太平洋艦隊司令官まで上り詰めた。そのためスウィフト海軍大将は、アメリカ海軍将官の中でもきっての「アジア太平洋通」とみなされており、太平洋艦隊司令官などを指揮するアメリカ太平洋軍司令官へ就任するものと考えられていた。
しかし、昨年(2017年)をとおして、太平洋艦隊所属の駆逐艦や巡洋艦が重大事故を連発させてしまい、中でも駆逐艦フィッツジェラルドと駆逐艦マッケインはそれぞれ大型民間船と衝突し、合わせて17名の将兵を失った。それら一連の事故の責任を取る形で、海軍将兵に人望が厚かったスウィフト海軍大将は退役に追い込まれてしまった。
姿を消す「アジア太平洋通」司令官たち
スウィフト太平洋艦隊司令官の退役に引き続き、2018年5月30日には、やはり「アジア太平洋通」であり、「対中強硬姿勢」で中国側から反感を買ってきたアメリカ太平洋軍司令官ハリー・ハリス海軍大将も退官する。
海軍だけでなくアジア太平洋関係の軍務に携わる多くの米軍関係者たちの多くは、スウィフト海軍大将とハリス海軍大将が時を同じくしてパールハーバーから姿を消してしまうことは、太平洋艦隊やアメリカ太平洋軍だけでなくアメリカにとっても痛恨の出来事であると歯ぎしりしている。2人とも、「アジア太平洋通」であるだけでなく、中国に対して睨みを効かせ続けてきたからだ。
ただし、トランプ大統領がハリス海軍大将を韓国大使へと指名したことは不幸中の幸いであり、対中警戒派にとって朗報であった。これまで太平洋艦隊(ハリス大将は太平洋軍司令官に就任する前は太平洋艦隊司令官を務めていた)そして太平洋軍のトップとして、中国や北朝鮮の軍事的冒険に正面から立ち向かい牽制してきた軍司令官が、今度は外交官として韓国から北朝鮮および中国と対峙することになるわけである。
しかしながら、アメリカ太平洋軍から時を同じくして、「アジア太平洋通」のスウィフト太平洋艦隊司令官、オショネシー太平洋空軍司令官、ハリス太平洋軍司令官が去ってしまい、彼らの後任の司令官たちが決して前任者たちのような「アジア太平洋通」とは言えないことは確かである。
もちろん、新司令官が「アジア太平洋通」ではないからといって、新司令官下の太平洋艦隊や太平洋空軍が「大国間角逐」状況に打ち勝てなくなるというわけではない。各司令部とも副司令官をはじめとする首脳陣の多くは、引き続き新司令官をサポートすることになるし、冒頭で紹介したアキリーノ新太平洋艦隊司令官の言葉のごとく、トランプ大統領そしてマティス国防長官によって指名された新司令官たちはアジア太平洋地域における「大国間角逐」に打ち勝つことを至上任務として着任することになるのである。
望まれている日本側の協力
とはいうものの、太平洋軍や太平洋艦隊、そして太平洋空軍にとって当面の主敵である中国軍は海洋戦力(海軍、空軍、ロケット軍)による南シナ海や東シナ海への積極的拡張行動をますます加速している。アメリカ太平洋軍の最高司令官たちのほとんどが交代する時期にあわせて、あの手この手でさらなる攻勢を繰り出してくることは間違いない。
しかしスウィフト大将はじめ太平洋軍関係者たちは、そのような困難な状況も日米が協力することによって打破できると希望を持っている。先日、スウィフト太平洋艦隊司令官は筆者たちに次のように語った。
「我々(スウィフト司令官、オショネシー司令官、ハリス司令官)の後任に内定している人々が、我々のようにアジア太平洋地域での豊富な経験と知見を持っていないことは確かである。したがって、今後しばらくの間、太平洋軍に若干の不安がないわけではない。しかしながら、そのような経験不足を補う手段はいくらでもある。そのうちの最も強力なものが日本側からのサポートであると考える。どうか日本側から新司令官たちを啓蒙して、日米一丸となって難局を乗り越えてほしい」
〈管理人より〉今や我が国海上自衛隊と米太平洋艦隊は、北東アジアの秩序安定のために緊密な連携が求められています。東日本大震災への被災地支援協力がよい例ですね。
【太平洋軍司令官の思想】
次期米太平洋軍司令官の「常識的な」対中認識
【太平洋軍司令官の思想】
次期米太平洋軍司令官の「常識的な」対中認識
2018年5月7日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12668
トランプ大統領は、次期太平洋軍司令官にフィリップ・デイヴィッドソン海軍大将を指名しているが、4月17日、その指名公聴会が米上院軍事委員会で行われた。ここでは、そのうち中国に関連する部分を紹介する。デイヴィッドソンの対中認識は、常識的であり、安心できる内容であると評価できる。
「国家安全保障戦略」で述べられている通り、米国は、国際法、航行の自由、商業と思想の自由を支持する地域のパートナー国と同盟国の支持を得て、自由で開かれたインド太平洋を提唱している。中国は、自らの権威主義的で上記考えに反するモデルに沿った世界を作り出そうとしていることが、ますます明らかになってきている。中国は、威圧的外交、略奪的経済政策、急速な軍拡を通じ、ルールに基づく国際秩序を掘り崩している。我々は、中国のそうした行為に対し、臆すことなく継続的に対抗しなければならない。
中国は、地域への米国のアクセスと影響力を減らす長期戦略を追求しており、既にそれに沿って大きな成功を収めている。中国はもはや台頭する勢力ではなく大国であり、地域で米国と競争する対等の勢力である。2018年の一般教書演説でトランプ大統領は中国を「ライバル」と呼んだが、私(デイヴィッドソン)も全面的に同意する。
中国は、インド太平洋において、米国を安全保障上のパートナーとしての選択肢から除外し、取って代わろうとしている。人民解放軍は、急速な国防予算の拡大により世界で最も野心的な軍の近代化を図ろうとしている。人民解放軍は、先進的なプラットフォーム、対艦ミサイル、米国と同盟国の基地を標的とし得る中距離弾道ミサイル、サイバー・宇宙能力、極超音速兵器を含む、長距離打撃力に焦点を当てている。これらは、米国を第一列島戦の外側に追いやり、中国の近隣諸国を孤立させ、米国による中国周辺における地域紛争への介入を阻止することを目標にしている。
地域における米国の同盟とパートナーシップを侵食しようとの中国の明確な意図も懸念される。中国は「冷戦の遺物」と呼ぶが、我々の同盟とパートナーシップは、過去70年にわたりインド太平洋地域の安定の礎であり、今後とも我々の国防戦略の中核であり続ける。
南シナ海における軍事施設建設により、中国は何千マイルも南に影響力を拡大し、オセアニアまで兵力を投射できるようになるだろう。米軍のプレゼンスにも対抗できようし、主権を主張する他の南シナ海沿岸国を軍事的に容易に圧倒できよう。中国は、今や、米国との戦争以外のあらゆるシナリオにおいて、南シナ海を支配する能力がある。
米国は、外交的手段で紛争を解決するよう勧奨し続ける。安定を維持するには、航行の自由作戦を含む、南シナ海における米国の定期的な作戦を続けなければならない。私の考えでは、海空で少しでもプレゼンスが減るようなことがあれば、中国の拡張を許すことになる。
一帯一路構想(BRI)については、融資や関連事業の略奪的性格を考えれば、私は、中国は各国を威圧し中国の影響下に置こうとする道具として使っていると信じる。BRIは、中国軍を海外の空軍基地、港湾にアクセスさせ、世界中に到達する機会を与えるものである。中国軍は、南シナ海からアデン湾に至るまで、打撃、偵察が可能になるだろう。中国は、米軍基地、米軍との共同行動などを阻止するための圧力としてもBRIを用い得る。それは、米国が国際秩序と規範を維持することを困難にさせる。
中台関係は、2016年の蔡英文総統選出以来冷え込んでいる。中国は台湾に外交的圧力をかけ、中国軍近代化を続け、台湾のいかなる独立の動きも阻止し、必要とあれば武力による台湾併合も辞さない構えである。両岸関係は2008年よりは安定しているが、関係は依然として緊張しており、近いうちに改善される見込みは極めて薄い。 米国は、中台間の仲介もしないし、台湾に交渉に臨むよう圧力もかけない。しかし、台湾関係法に基づく我々の台湾の安全保障への関与は、台湾が強い立場から中国に関与するのに必要な自信を与えている。
出典: US Senate ‘Advance Policy Questions for Admiral Philip Davidson, USN Expected
Nominee for Commander, U.S. Pacific Command’ (April 17,
2018)
https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/Davidson_APQs_04-17-18.pdf
https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/Davidson_APQs_04-17-18.pdf
デイヴィッドソンの軍歴は、第6艦隊(地中海および大西洋東部を担当)司令官、アメリカ艦隊総軍(大西洋軍を母体とする)司令官を歴任するなど、太平洋とは縁が薄いのではないかとの懸念も一部にはあった。しかし、上記の証言の通り、明確で常識的な対中認識を持っており、太平洋軍司令官としての資質は十分備えていると見られる。前任のハリー・ハリスは対中強硬派として知られていたが、その路線がおおむね引き継がれると判断してよいであろう。なお、本人も、自らの経歴を踏まえ、公聴会でも「あらゆる機会を捉え、地域に関する知識を高める」と述べている。
昨年12月の「国家安全保障戦略」では、中国を競争相手と明言し、今年1月の「国防戦略」では、中国を修正主義勢力と位置づけている。上記証言も、当然のことではあるが、これらと軌を一にした内容となっている。すなわち、米国は同盟国・パートナー国とともに、ルールに基づいた自由主義的な国際秩序の維持を目指すが、中国はそれに反対し米国を地域から排除し自らの勢力圏を拡大しようと目論んでおり、それには断固たる態度で臨まなければならない、という論理である。日本としても、当然、歓迎できる内容である。上記では割愛したが、デイヴィッドソンは、中国の各種通常戦力、核戦力、宇宙・サイバー戦力、電子戦力など、あらゆる戦力の急速な発展ぶりを詳細に取り上げ、米国にとっていかに脅威であるか描写している。かなり本気であるとの印象を受ける。
4月24日には南シナ海上空で、米空軍の戦略爆撃機B52が訓練飛行を実施している。4月12日の南シナ海での中国海軍の大規模軍事パレードや4月18日の台湾海峡での実弾演習に対するメッセージの意味もあろう。デイヴィッドソン証言でも南シナ海について、「海空で少しでもプレゼンスが減るようなことがあれば、中国の拡張を許すことになる」とある。今後とも、南シナ海における航行の自由作戦など、米軍のプレゼンスを示す行動は、継続されるであろう。
台湾については、台湾関係法が基礎になると繰り返し述べるとともに、台湾にできる部分は自主開発を促し、足りない部分は技術供与等をする、としている。最終的には米政府の判断次第であるが、台湾の潜水艦自主建造への技術供与なども期待される。なお、3月にトランプ大統領の署名を受け、米台間の高官交流を勧奨する「台湾旅行法」が成立したが、デイヴィッドソンも、台湾への将官訪問を積極的に進める旨、公聴会証言にて述べている。
中国への警戒心をあらわにする米国
中国への警戒心をあらわにする米国
2018年6月14日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13022
・米太平洋軍は、地球の半分以上の面積を占める広い地域を管轄し、人口も多種多様で、ハリス提督の言葉を借りれば、ハリウッドからボリウッドまで、北極熊からペンギンまでをカバーする。
・太平洋岸に面した米国の5つの州のうちの1つであるワシントン州で育った私(マティス)は、昨日、このハワイに来る飛行機の窓から広い太平洋を眺め、アメリカ合衆国は、現在も、そして2世紀の間ずっと太平洋国家であったことを再認識した。
・米国の国家防衛戦略は、米軍のロード・マップであり、世界がどうあってほしいかではなく、世界がどうなっているかをありのままに直視し、現実を認めるものである。我々の2018年の国家防衛戦略は、この10年で初めてまさにそういうものになっている。それは、太平洋における諸問題を認め、米国のインド太平洋における継続的かつ確固たる関与を記している。
・米国のヴィジョンは、地域のほとんどの諸国に共有されている。全ての国家は、その大きさに関わらず、主権が尊重される。インド太平洋地域は、投資及び自由で公正で相互主義の貿易に開かれている。この地域は「多帯多路」を有しており、いかなる国家の略奪的経済や威圧の脅威に縛られることがあってはならない。
・米国は、引き続き、インド太平洋の安定に積極的に投資する。自由かつ開かれた、ルールに基づく国際秩序を強化し、この地域が成長し、70年以上繁栄することを可能とする。
・米国の国家防衛戦略は、対立の戦略ではなく、それは理想主義、実利主義そして協力のバランスを取ったものである。我々は、我々の国際的利益と同盟諸国・パートナー諸国の利益及び安定に合致するならば、競争相手とも協力と開かれた対話の機会を求め続ける。
・我々は常に平和を強い立場から追求する。我々は既存の同盟を強化し、域内の新たなパートナーを増やして行く。そのために、我々の戦略的ヴィジョンの礎石を打ち立てる。全ての国家の主権を尊重するという共有されたヴィジョンであり、テロ、自由貿易の阻害、災害等共通の脅威と闘うことを可能とする強固な安全保障体制を作って行く。
・インド太平洋地域の安定を維持する上で、この地域の同盟諸国、パートナー諸国との関係は、不可欠のものである。我々(米国)はパートナー諸国の側に立ち、彼らの国家主権の決定を支持する。何故なら、世界的平和に不可欠な海洋の安定を維持するには、大小全ての国家が存在することが地域にとって重要であるからだ。
・今日、インド洋と太平洋の連結性が高まっていることを認識し、我々は、米太平洋軍を米インド太平洋軍と改名する。何十年もの間、この太平洋軍は変化する状況に繰り返し適応させてきた。そして今日、このレガシーをもって、米国は西に焦点をあてる。
・ハリス提督は2015年にここで舵を取ってから、しばしば海洋の波の流れが変わる中でも、しっかりと船を進めてきた。提督は、卓越した洞察力をもって我が国(米国)が必要なことを予見し、国際法に基づき、お互いが協力する精神を共有する諸国と共通の目標を立てた。
・提督は、国家間の信頼醸成の重要な要素である外交官たちを支援しながら、我々の統合軍を準備が整った、能力もあり、決死の覚悟もあるものにしてくれた。適切に設定した目標を掲げてパートナーシップを追求した提督の積極的な努力により、この重要な地域における我々の信用性と能力は確かなものとなった。
・提督は、また、米国にとって、どんな関係も当たり前のものではないことを示してくれた。休むことなく多国間関係を向上させるために努力し、緊急テロ対抗措置でパートナー諸国と連携し、対処してくれた。
・同時に、提督は、北朝鮮に対する国連安保理の制裁を維持するために統合パトロールを実施した。また、提督は、公海は全ての国家に開かれていなければならないことを示すために、航行の自由作戦を指揮した。このような行動の成功は、ハリス提督が国際法の役割を認めたことと提督の戦略的ヴィジョンによるものである。
・今、デイヴィッドソン提督が舵を握り、国家防錆戦略の3つの柱を担うことに私(マティス)は信頼を置いている。インド太平洋軍の決死の覚悟を高め、ハリス提督が発展させた同盟諸国やパートナー諸国との関係の上に、さらに安定と国際法遵守を強化する信頼の絆を固くし、同時に、インド太平洋軍内の行動を改善して行くことである。
・デイヴィッドソン提督は、司令官承認の公聴会で、インド太平洋軍が史上最も強固で闘える軍隊となるよう全力であたることを約束してくれた。今日、米国及び広いインド太平洋地域の国々は、あなた(デイヴィッドソン司令官)を頼りにしている。
出典:Secretary of Defense James N. Mattis ‘Remarks at U.S. Indo-Pacific
Command Change of Command Ceremony’ May 30, 2018
マティス国防長官の演説は、ハリー・ハリス太平洋軍前司令官に対し賛辞を送り、フィリップ・デイヴィッドソン新インド太平洋軍司令官を歓迎し鼓舞したものである。
同盟諸国(allies)、パートナー諸国(partners)、諸国(countries)という言葉は多々使用されているが、国の固有名詞が出てきたのは北朝鮮のみである。しかし、演説内容から、明らかに中国に対して警告を発していることが分かる。特に、中国が掲げる「一帯一路」構想に対して、多帯多路(many belts and many roads)という言葉を使用していることからも、それは明白である。
大小かかわらず国家主権が重要と言っているのも、大国を自負する中国に対して、インド太平洋地域の他の様々な中小諸国を仲間として、同盟国ないし友好国として受け入れる用意があることを示している。この内容は、5月2日にターンブル豪首相とマクロン仏大統領が、「大魚が小魚や小エビを食べてしまってはいけない」と言っていた比喩とも重なる。
太平洋軍がインド太平洋軍と改名した5月30日の翌日、5月31日、この改名を象徴するかのように、米海軍は、インド海軍及び海上自衛隊とともに日米印の3か国共同軍事演習「マラバール2018」をグアム沖で行った。
なお、デイヴィッドソン新司令官の政策等に関しては、上院で行われた指名承認のための公聴会が参考になる。本ウェッジのサイト上の岡崎研究所の記事でも扱っているので、参照されたい。(5月7日掲載、5月8日掲載、及び5月15日掲載。)
ウィラード太平洋軍司令官 基地機能の分散に否定的見解
ハリス司令官の東アジア観
中国側は日系人であることを攻撃するが…
2018.5.28 10:30
http://www.sankei.com/world/news/180528/wor1805280007-n1.html
古森義久(ワシントン駐在客員特派員)
東アジアの変動とも混迷とも呼べる現状を米国はどうみるのか。北朝鮮や中国の脅威として映る動きを米側がどう認識するのか。今年3月中旬の太平洋統合軍ハリー・ハリス司令官の上院軍事委員会での証言が、その最も有力な指針となるようだ。
ハリス海軍大将はそれまでの3年間、インド太平洋の陸海空を管轄する米軍全体の最高司令官を務め、その最後の議会登場がこの証言だった。
「金正恩(キムジョンウン)は国際的な規則や責任、そして抑制された言動に対する侮蔑の念を数えきれないほど誇示してきた」
ハリス氏は金正恩朝鮮労働党委員長に対しても、こんな批判を正面から述べた。3月中旬といえば、同委員長がすでに米韓両国への唐突な微笑外交を始めた後である。
だがハリス氏は、北朝鮮の核兵器や長距離ミサイルの危険性を具体的に報告した。インド太平洋全域で最も切迫した脅威は、北朝鮮の核軍拡と好戦的な態度だとも強調した。
日本や韓国への北朝鮮の軍事脅威についてもハリス氏は警鐘を鳴らした。
「北朝鮮は世界で第4の規模の120万もの軍隊を維持し、長距離ロケット、火砲、短距離弾道ミサイルを多数備え、通常戦力でも韓国や日本への脅威となる。これらのロケット類は化学兵器や生物兵器をも発射できる。高度に訓練された特殊作戦部隊は、金正恩のさらなる奇襲攻撃の手段である」
ハリス氏のこの報告はトランプ政権の見解であると同時に、最近の世論調査や専門家の発言をみると、米国官民の全体の懸念だともいえる。北朝鮮はいくら平和や和解を説いても、この懸念を減らす実効措置はとっていない。 トランプ大統領との米朝首脳会談を求める金委員長の背後には、こんな現実が揺らがないまま、厳存するのだ。
その北朝鮮はいまや中国との距離を縮めてきた。金正恩政権は非核化をめぐる米国との駆け引きのために中国への依存、あるいは中国の利用とみえる動きを取り出したのだ。
ハリス司令官はその中国についても同じ議会証言で、インド太平洋地域では長期的には最大の脅威だとする認識を率直に述べていた。
「中国は近隣諸国を脅して屈服させ、自由で開かれた現在の国際秩序を崩すために軍事力と経済力を行使している。米国は中国の軍事力や強制力の行使に断固、反対する」
ハリス氏のこうした鋭い批判に対し、中国側が同氏の家族背景を理由に非難することは広く知られている。新華社通信や環球時報という国営メディアが、「ハリスが反中的な発言を続けるのは彼の血や出自が原因だ」という趣旨の論評を繰り返したのだ。母が日本人であることを反中と結びつける不当な反日の民族差別の攻撃だった。
だがトランプ大統領の厚い信を得たハリス氏は、この2018年5月には韓国駐在の大使に任命された。同氏が北朝鮮や中国について表明してきた認識はオバマ前政権時代から一貫しており、議会でも超党派の同調を得てきた。今後活動の拠点を朝鮮半島へと移すハリス氏の言動は、日本外交にとっても意味ある基準となるだろう。
【アメリカの太平洋の中核・空母打撃群】
空母ロナルド・レーガン艦載機、硫黄島で着陸訓練 2018年5月3日から13日
2018/05/01 20:55
https://flyteam.jp/airline/united-states-navy/news/article/93858
空母「ロナルド・レーガン」
訓練機種は、空母ロナルド・レーガン艦載固定翼機全機種で、F/A-18E、F/A-18F、EA-18G、E-2D、C-2Aです。なお、硫黄島で天候などの事情で所要の訓練を実施できない場合は、5月10日(木)から5月13日(日)に三沢飛行場と岩国飛行場、5月9日(水)から5月13日(日)に厚木飛行場で、各日10時から22時まで訓練が実施されます。
詳しくは、防衛省のウェブサイトを参照ください。
■ロナルド・レーガン艦載 CVW-5所属飛行隊
・第102戦闘攻撃飛行隊(VFA-102)ダイヤモンドバックス F/A-18F
・第27戦闘攻撃飛行隊(VFA-27)ロイヤルメイセス F/A-18E
・第115戦闘攻撃飛行隊(VFA-115)イーグルス F/A-18E
・第195戦闘攻撃飛行隊(VFA-195)ダムバスターズ F/A-18E
・第141電子攻撃飛行隊(VAQ-141)シャドウホークス EA-18G
・第125早期警戒飛行隊(VAW-125)タイガーテイルズ E-2D
・第30艦隊支援飛行隊(VRC-30)プロバイダーズ 第5分遣隊 C-2
・第12海上戦闘ヘリコプター飛行隊(HSC-12)ゴールデンファルコンズ MH-60S
・第77海上攻撃ヘリコプター飛行隊(HSM-77)セイバーホークス MH-60R
【軍事力の行使の前に北東アジアにとって重要な体制】
日米共同の諜報体制、インテリジェンス戦略体制が、北東アジアの安定を維持している、
という見方もできるようです。
日米が一体化した諜報活動の実態
NHKスペシャル「日本の諜報 スクープ 最高機密ファイル」
田部康喜 (東日本国際大学客員教授)
2018年5月23日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12887
NHKスペシャル「日本の諜報 スクープ 最高機密ファイル」
(2018年5月19日放送、再放送予定:5月31日午前1時~)は、
米国の国家安全保障局(NSA)および中央情報局(CIA)の元職員だった、
エドワード・ジョセフ・スノーデンが在職中に入手した「スノーデン文書」に基づいて、
これまでほとんど知られていなかった日本の諜報機関の実態について明らかにしたスクープ
である。
大韓航空機撃墜事件の「もうひとつの真実」
米国を中心とする諜報活動においては、英国とカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの
各国を加えて「ファイブ・アイズ」と呼ぶ。世界的な諜報戦をともに戦っている。米国を頂点として
「セカンド・パーティ」、日本はその下に位置する「サード・パーティ」と位置付けられている。
「スノーデン文書」のなかに、最高機密指定がある「ジャパン・ファイル」が大量に発見された。
NHKの取材チームが裏付け取材を積み重ねた結果、日本の諜報機関は米国と一体化して
「セカンド・パーティ」にほぼ匹敵する役割を果たしていることがわかった。
「ジャパン・ファイル」に頻繁に登場する、日本の諜報機関は「DFS」である。
これは防衛省の電波部。組織図すらなく、部員は最高度の機密保持を求められる。
この存在がその姿を現すのは、1983年の大韓航空機がサハリン沖で墜落した事件である。
米国はソ連が撃墜した、と国際社会に訴えた。当時のレーガン大統領が主導してソ連の軍事無線が
国際連合の安全保障委員会で公開された。それは、DFSの稚内分遣所が傍受したテープであった。
「目標 撃墜」というソ連の無線の音声が、安保理で繰り返し流された結果、ソ連はついに
大韓航空機の墜落の責任を認めた。
「ジャパン・ファイル」は、この事件に隠されていたもうひとつの真実を記している。
「目標 撃墜」の音声テープは2本あった。もう1本は米側が録音したもので、
NSAの判断でこれは公開されなかった。誰が、どのような方法で情報を収集しているか、
を伏せるために、公表することはないからだ。
NSAの元分析官のカーク・ウィービーは次のようにいう。
「レーガン大統領は、日本が傍受したテープである、ということもいうべきではなかった」
日本が傍受したソ連の秘密の電波帯は以後使われなくなり、諜報活動に支障をきたすことになる。
稚内分遣所で問題のソ連の音声を傍受していた、佐藤守男は語る。
「極論すれば、アメリカの出先機関だった。日本はごく自然に、いつものようにアメリカに情報を渡した。
ここ(稚内分遣所)はアメリカ、日本のなかのアメリカだ」
「国家が一般市民の情報を手に入れる」
日本が米国と一体化して、世界規模での諜報戦に加わっている実態についても、
「ジャパン・ファイル」から浮かび上がる。
「CROSSHAIR」作戦は、世界規模で通信を傍受するものである。1990年代から2000年代に、
米国が主導した日本のかかわりの詳細は明らかになっていないが、米国の軍事予算が削減するなかで、
「サード・パーティ」の諸国にそれを補完する能力と意欲がある、としている。
米国は関連25カ所を閉鎖せざるを得なかったのである。
この作戦が展開されていたと同じこと、米国は対イラク戦争とアルカイダの掃討作戦を展開していた。
「ジャパン・ファイル」は、そのころ日本にある横田基地において、日本の費用負担によって新型の
20種類のアンテナが開発され、通信傍受に役立った、としている。機器の開発に660万ドル、
その人件費37万5000ドルに上っている。日本が国内にある米国の軍事基地向けに編成している、いわゆる
「思いやり予算」の一部と推定される。
NSAに対して、日本の諜報機関・DFSは2012年、新たに通信傍受のサイバー化に成功したと報告している。
インターネットによる情報収集の体制である。これは、米国と一体化して進められており、「MALLARD」作戦
といわれている。
専門家は、この体制とは衛星通信を経由しているインターネット上の情報収集ではないか、と推定している。
かつ、その諜報拠点は、福岡県にある大刀洗通信所である。大型のドームに覆われた6基と最近までに建設された
5基のアンテナがそれである。これらのアンテナは、通信衛星200機を追尾することが可能である。
アジア諸国は、海底ケーブルなどの光ファイバー網によるインターネット通信とともに、
衛星経由の通信が多い地域である。軍事・安全保障情報のほかに、一般市民の情報も飛び交っている。
元HAS職員のウィリアム・ビームは次のように懸念を表明する。
「国家が一般市民の情報を手に入れる」
ロシアに亡命中のスノーデンが登場して、「ジャパン・ファイル」のなかの次のような文章に警告を鳴らしている。
衛星経由の情報を収集する「MALLARD」は、1時間に50万回の情報収集をおこなっているが、安全保障上の危機に
関する情報は1回だけだった。それは、防衛省のシステムに対する攻撃だった。
スノーデンはいう。
「50万回の残り49万9999はいったいなんなのか。日本政府は一般市民の情報は読むことはない、
というだろう。しかし、何を収集して何を読んでいるかは彼らが決めているのである」
【軍事的圧力をかけながらも決して軍事力では解決しない
北朝鮮問題のジレンマ】
アメリカは、北朝鮮問題にどうオチをつけるのでしょうか?
約束破りと悪罵の国に翻弄された米国
樋口 譲次
2018/05/28 06:00
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e7%b4%84%e6%9d%9f%e7%a0%b4%e3%82%8a%e3%81%a8%e6%82%aa%e7%bd%b5%e3%81%ae%e5%9b%bd%e3%81%ab%e7%bf%bb%e5%bc%84%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%9f%e7%b1%b3%e5%9b%bd/ar-AAxTsc1?ocid=spartandhp#page=2