2018年4月28日土曜日

苛烈化する情報戦 ~共産中国&北朝鮮~

【共産中国発?標的型メール攻撃】

防衛省OBら標的、中国ハッカー集団関与か 情報流出の恐れ

 2017年11月下旬から今年3月中旬にかけて、防衛省OBや海洋政策に携わる関係者らに向けて、内閣府や防衛省の職員を装ったウイルスメールが相次いで送信されていたことが20184月11日、分かった。数百件のメールが確認されており、中国のハッカー集団が関与しているとみられることも判明。添付ファイルを開封するとウイルスに感染し、パソコン内の情報が抜き取られる仕組みで、受信者の一部がファイルを開封したという情報もあり、安全保障に関わる機密情報が流出した恐れもある。(板東和正)
 日本最大級のサイバー攻撃監視センターを保有するセキュリティー企業「ラック」(東京)の調査で判明した。ラックによると、ウイルスメールは昨年11月下旬から、防衛省OBや、尖閣諸島領海の緊急的な警備体制の強化などを含めた2018~22年度の次期海洋基本計画案の作成に携わった関係者らに送られていた。メールに記載されたパスワードを入力して添付ファイルを開封することで、パソコンの情報が攻撃者に自動的に送信される仕組みになっていたという。
 受信者に開封させるために、メールの本文には実在する名称を使用するなどの巧妙な手口も判明。昨年11月下旬に防衛省OBに届いたメールでは、防衛省の現職職員の名前が表記され、日本語で「防衛省北関東防衛局等から提供された情報を随時お知らせいたします」などと書かれていた。


 また、2018年3月中旬に海洋政策に携わる関係者に送られたメールでは、送り主が海洋基本計画案を取りまとめる内閣府総合海洋政策推進事務局の実在する職員の名前だったという。
 情報流出の被害は確認されていないが、ラックは複数の受信者が添付ファイルを開封した事実を把握している。
 防衛省整備計画局情報通信課サイバーセキュリティ政策室はサイバー攻撃について「情報は把握しており、必要な対処をすでに行っている」と明らかにした。内閣府大臣官房サイバーセキュリティ・情報化推進室も「情報は把握している」としている。
 また、ラックが攻撃に使用されたマルウエア(不正プログラム)などを独自に分析した結果、今回のサイバー攻撃は中国政府が支援するハッカー集団「APT10」が関与しているとみられることも分かった。
 ラックの佐藤雅俊・ナショナルセキュリティ研究所長は、「中国政府はサイバー戦略として、国家の安全保障に関わる情報の獲得を重視している」と指摘している。
 中国のサイバー攻撃をめぐっては、米セキュリティー企業が今年3月、中国のハッカー集団が南シナ海で操業する米海事関連会社などに情報を窃取するサイバー攻撃を仕掛けていると発表。不正な手段で各国の機密情報を収集しているとみられる。

日本に対し中国ハッカーが防衛産業狙いサイバー攻撃 

 米ブルームバーグ通信は20184月22日、中国政府の支援を受けているとみられるハッカー集団が昨年、日本の防衛産業を標的にサイバー攻撃を仕掛けていたと報じた。北朝鮮核問題を巡る日本の政策について情報を窃取しようとした可能性がある。
 米情報セキュリティー会社「ファイア・アイ」がブルームバーグに明らかにした。
 一連の攻撃は昨年9~10月に確認され、中国の軍や情報機関とのつながりが指摘される「APT10」が実行したとみられる。国連教育科学文化機関(ユネスコ)元事務局長の松浦晃一郎氏による講義を装ったメールを通じ、情報収集を試みた形跡もあった。
 攻撃が行われたのは、北朝鮮による軍事挑発が激化していた時期と重なることから、米国と連携して北朝鮮に核放棄を迫る圧力をかけていた日本の動向を探ろうとしたとみられるという。(共同)

中国ハッカー、日本の防衛産業企業狙う 米ファイア・アイ指摘

 中国を拠点とするハッカー集団が日本の防衛企業を標的にしており、北朝鮮核問題の行き詰まりを打開する日本政府の政策決定の情報入手が目的である可能性があると、米サイバーセキュリティー会社ファイア・アイが指摘した。
 ファイア・アイが2009年から追跡を続けている「APT10」という名で知られるサイバースパイ集団が攻撃している疑いが持たれている。電子メールによる「スピア・フィッシング」では、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の松浦晃一郎元事務局長の防衛に関する講演などがおとりとして使われた。2017年9、10月に計2回のサイバー攻撃が行われた。
 ファイア・アイのアジア太平洋地域担当最高技術責任者(CTO)、ブライス・ボランド氏は「おとりの内容が防衛産業に関連していることから、サイバー攻撃の動機は北朝鮮の核問題の打開に向けた政策的処方の内部情報を得ることである可能性がある」と指摘した。中国外務省にファクスでコメントを求めたが、返答はなかった。2018年3月、米国を狙ったサイバー攻撃に関するファイア・アイによる類似の報告書が公表された後、中国外務省の陸慷報道官は、中国はいかなるサイバー攻撃にも反対すると表明していた。(ブルームバーグ David Tweed)


【北朝鮮発・身代金要求型マルウェア攻撃】
想像以上の技術力がある北朝鮮サイバー攻撃の脅威

米国議会で報告された攻撃の実態、日本も真剣に対応を
古森 義久
 北朝鮮の脅威といえば、まず核兵器であり、その次に各種ミサイルだろう。だが、この核とミサイルという二大脅威の陰に隠れてあまり注目されない北朝鮮の強力な武器がある。それはサイバー攻撃能力だ。米国ではトランプ政権も民間も、この北朝鮮のサイバー攻撃に対して厳しい警戒の目を向けている。北朝鮮のサイバー攻撃の実態を報告しよう。
ランサムウエアを政府が開発
 トランプ政権は「世界規模の脅威評価」と題する報告書の中で、北朝鮮のサイバー攻撃に対する警戒を強調した。「世界規模の脅威評価」は同政権の各情報機関が合同で作成し、20182月中旬に、米国政府の中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)、連邦捜査局(FBI)など主要情報諜報機関のトップがすべて出席した議会公聴会で公表された。公表したのは、情報諸機関を代表するダン・コーツ国家情報長官である。
 同報告書は、米国の国家安全保障にとっての「グローバルなサイバー脅威」の1つとして北朝鮮を挙げていた。その部分の骨子は以下のとおりである。
・北朝鮮は米国や韓国への軍事攻撃のため、あるいは資金の獲得、情報の獲得のために、サイバー作戦の準備をし、米韓などの公共サービスの攪乱、データの削除、ランサムウエア(Ransomware:身代金要求型不正プログラム)の拡散などの攻撃的な工作をいつでも警告なく実行できる技術や機材を用意している。
・北朝鮮政府のサイバー要員たちは「ワナクライ(WannaCry)」というランサムウエアを開発し、20175月に多数の相手に被害を与えた。また北朝鮮の要員たちは2016年にバングラデシュ銀行などから合計8100万ドルにのぼる資金をサイバー攻撃によって盗み取っている。
 上記のランサムウエアとは、ここ数年、ネット社会を恐怖に陥れてきた破壊的な不正プログラムである。感染したコンピューターは強制的にロックされたり、ファイルが破壊されたり、ロック解除のために仮想通貨での身代金の支払いを要求されたりする。ワナクライとは北朝鮮が独自に開発したランサムウエアの一種である。

海外拠点に潜むサイバー攻撃要員
 米国の安全保障やアジアの専門家たちの間で、北朝鮮のサイバー攻撃能力はよく論題とされる。現在、北朝鮮の核とミサイルが米国にとって大きな脅威となっているが、サイバー攻撃も決して軽視することはできない軍事的な懸念材料となっている。米国では最近、北朝鮮のサイバー攻撃能力を詳述した書籍『迫りくる北朝鮮の核の悪夢』が出版された。著者は民間研究機関の安全保障政策センター副所長を務めるフレッド・フライツ氏である。同氏は、これまで中央情報局(CIA)や国務、国防両省で25年以上、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの動きを追い続け、現在はトランプ政権入りも語られている。
 フライツ氏は自著で、北朝鮮がハイテクの後発国であり、国民はインターネットの使用が厳しく制限されているにもかかわらず、国家としてサイバー技術の発展に力を入れてきたという実態を詳述していた。
 サイバー攻撃の対象は、米国や韓国だけでなく、各国の宇宙産業、メディア、金融機関などに及ぶ。特に潜在敵とみる米国と韓国に対しては、資金の獲得、技術の窃取、コンピュータシステムやインフラの破壊などのためにサイバー攻撃を仕掛けてきた。米国政府機関が北朝鮮のサイバー攻撃能力を脅威として認識するようになったのは、2009年ごろだという。その後、2014年のソニーへのハッキング事件によって米国一般で「北朝鮮のサイバー攻撃」という概念自体が知られるようになる。金正恩氏をモデルに独裁者の暗殺事件を描いた「インタビュー」という映画をソニーが作ったことに北朝鮮当局が抗議して、ソニー本社などにサイバー攻撃をかけたのだ。ソニーは企業の秘密情報などを奪われ、映画の公開を止めてしまった。
 またフライツ氏は自書『迫りくる北朝鮮の核の悪夢』の中で、以下の諸点も報告していた。
・脱北者や韓国政府機関の情報によると、北朝鮮当局は合計6000人の軍事的ハッカー要員を擁し、軍事費全体の10%から20%をサイバー作戦に使っている。ここ数年は、韓国の金融機関などから資金を奪取し、その資金を核兵器やミサイルの開発にあててきた。
・北朝鮮のサイバー作戦の多くは、中国、東南アジア、ヨーロッパなどに拠点をおく要員により実行されている。同要員たちはふだんは合法的なインターネット関連の施設で働いているが、北朝鮮当局から指令を受けると違法なサイバー攻撃を実行する。拠点を海外にするのは、北朝鮮との結びつきをぼかすという狙いもある。
金正恩「斬首作戦」の資料も盗まれた
 フライツ氏は北朝鮮の実際のサイバー攻撃とみられる事例を以下のように挙げていた。
20133月、北朝鮮のサイバー攻撃が韓国の銀行、放送局に加えられた。この時の北側の技術が韓国側の想定よりずっと高度だったため、韓国側の懸念が高まった。
20159月、北朝鮮のハッカーが韓国の政府機関のコンピューターに侵入し、軍事秘密情報を盗んだ。その中には、米韓軍の北朝鮮攻撃の軍事作戦「作戦計画5015」や金正恩「斬首作戦」の資料も含まれていた。
20162月、北朝鮮政府に直結するとみられるハッカー集団「ラザラスグループ」がバングラデシュ中央銀行とニューヨークの連邦準備銀行から合計8100万ドルを窃取した。
・同じ時期にラザラスグループは、コスタリカ、エクアドル、エチオピア、ガボン、インド、インドネシア、イラク、ケニア、マレーシア、ナイジェリア、フィリピン、ポーランド、台湾、タイ、ウルグアイ、ベトナムの金融機関にサイバー攻撃を仕掛けた。
20166月、北朝鮮要員が韓国の企業、政府機関合計160拠点の計14万台のコンピューターにサイバー攻撃を実行し、ウィルスを植え付けた。その結果、F15戦闘機の設計書を含む防衛関連の書類4万点が盗まれた。
 以上のような実例をかなり割り引いて解釈してみても、北朝鮮のサイバー攻撃能力が今後の朝鮮半島をめぐる激動の中で重要な役割を果たすことは明白である。日本もすでにその攻撃対象に十二分に入っているとみるべきだろう。

【関連リンク】

※北朝鮮のサイバー戦部隊の特徴としては、ランサムウェアに象徴される身代金要求型マルウェア攻撃と優れたハッキング能力が「主力」といえるのではないでしょうか?

南シナ海の軍事情勢 ~共産中国の野望~

米海軍提督の危惧「海洋戦力は次第に中国が優勢に」

急変してしまった南シナ海の軍事情勢
北村淳
南シナ海で米空母「セオドア・ルーズベルト」から戦闘機を発動させる兵士ら。米海軍提供(2018411日入手)。(c)AFP PHOTO /US NAVY/MICHAEL HOGAN/HANDOUTAFPBB News

 中国の“科学者”の団体が、「南シナ海での科学的調査研究活動をよりスムーズに行うために、これまで『九段線』によって曖昧に示されていた南シナ海における中国の領域を、実線によってより明確に表示するべきである」という提言を行い始めた。おそらく、中国共産党政府や中国人民解放軍などが九段線を実線に書き直した地図などを公表した場合の国際的反発を避けるために「科学的理由」を持ち出したものと考えられる。いずれにしても、中国が南シナ海の8割以上の広大なエリアでの軍事的優勢を手にしつつあることへの自信の表明ということができるだろう。
中国の地図に明示されている九段線
海軍力を誇示し合う中国と米国
 2018年3月末には、中国海軍が南シナ海に航空母艦を含む43隻もの艦艇を繰り出して、「南シナ海での軍事的優勢は中国側にある」との示威パレードを行った。
 これに対抗して、トランプ政権はセオドア・ルーズベルト空母艦隊を南シナ海に派遣し、中国大艦隊の示威パレードに対抗する措置をとった。これまでトランプ政権はFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)を断続的に続けることにより、フィリピンや日本などの同盟国に対して「アメリカは南シナ海情勢から手を退いたわけではない」というアリバイ表明を続けるに留まっていた。だが、FONOPは通常1隻の駆逐艦が中国が自国領と主張している南沙諸島や西沙諸島の島嶼沿岸12海里内海域を通航するだけであるため、軍事的な示威活動とはなっていなかった。
 それに反して数十機の戦闘攻撃機を搭載した原子力空母を中心とする空母打撃群を南シナ海に展開させることは、「アメリカ海軍は南シナ海から引き下がったわけではない」という軍事的姿勢を示す行動と見なせる。
威力が衰えつつある米海軍の空母戦力
 しかしながら米海軍関係者からは、「米海軍空母部隊が深刻な脅威になっているのか?」という疑問が浮上している。かつては米海軍空母打撃群が出動してきたならば、中国海洋戦力は「なりを潜め」ざるを得なかった。だが、その状況は大きく変化した。とりわけ、中国本土から突き出た海洋戦力前進拠点としての海南島からさらに1000キロメートル以上も隔たった南沙諸島に7つもの人工島を建設して、それらを軍事拠点化してしまったという状況の南シナ海では、「米空母神話」は崩れつつある。
 南シナ海とりわけ南沙諸島の軍事情勢は急変してしまった。まもなく中国軍は、人工島のうちの3つに建設された航空基地に、米空母打撃群数個部隊に匹敵する航空戦力を配備することが可能になる。そして人工島には強力な地対艦ミサイルや地対空ミサイルが設置されて、南沙諸島周辺海域に近寄ろうとする米海軍艦艇や航空機を威圧する。また、中国本土から発射して米空母を撃沈する対艦弾道ミサイルの開発改良も順調と言われている。それらの攻撃力に先行して、すでに人工島には多数の各種レーダー装置が設置されつつあり、中国側の南沙諸島周辺海域の監視態勢は万全になりつつある。
 監視レーダー装置だけではない、南シナ海上の敵側艦艇や敵航空機のレーダーをはじめとする電子装置を妨害するための電子妨害システムも、人工島基地群に持ち込まれたようである。機密性の高い電子戦情報のため公表されているわけではないが、南シナ海に展開している米空母艦載機などは、すでに中国側の電子妨害を被っているようである。そのため、米軍側も電子戦機を繰り出して反電子妨害戦を開始しなければならない状況に立ち至っている、と言われているありさまだ。
中国のプロパガンダ動画に描かれた対艦弾道ミサイルによって撃沈される米空母
次期アメリカ太平洋軍司令官の危惧
 
フィリップ・デービッドソン海軍大将(出所:米海軍) 

 このような南シナ海における「中国海洋戦力による優勢」に関して、南シナ海や東シナ海を含むアジア太平洋戦域を統括する次期アメリカ太平洋軍司令官(現在はハリー・ハリス海軍大将)に指名されているフィリップ・デービッドソン海軍大将は、「これまでのような状況が続けば、南シナ海での米軍側の劣勢は否めない状態である」と連邦議会の司令官指命審査質疑に対して回答している。
 デービッドソン提督は議会に対して、「アメリカ太平洋軍は現状のままではアジア太平洋戦域での責任を果たすことはできない」「同戦域での責任を果たすためには、潜水艦戦力、スタンドオフ・ミサイル戦力(敵ミサイルの射程圏外から敵を攻撃する空対空ミサイル、空対艦ミサイル、艦対艦ミサイル、地対艦ミサイルなど)、中距離巡航ミサイル戦力、海上輸送戦力、航空輸送戦力、巡航ミサイル防衛能力、空中給油能力、通信能力、航法制御能力、ISR(情報・監視・偵察)能力、指揮統制能力、サイバー戦能力などを著しく強化し、ロジスティックス分野の非効率を解消する必要がある」といった趣旨の証言をしている。要するに、現代の海洋戦に必要なほとんどすべての分野で、中国海洋戦力が優勢を手にしつつあることを次期アメリカ太平洋軍司令官は危惧しているのだ。

 デービッドソン海軍大将をはじめとする米軍側の危惧についての詳細は、稿を改めて紹介することとしたいが、日本では森友・加計問題や官僚の不祥事などで不毛の外交安全保障が続いている間に、そして北朝鮮問題に気を取られている間に、日本の安全保障そして国民経済にとっては生命線ともいえるエネルギー資源搬送シーレーンが通過している南シナ海の軍事的優越者がアメリカから中国へと移行しつつあるのだ。

南シナ海で中国空母艦隊が軍事演習2018

ASEAN首脳会議、南シナ海「早期結論期待」 
中国の管轄権めぐり攻防へ
 【シンガポール=吉村英輝】東南アジア諸国連合(ASEAN)は2018428日、シンガポールで首脳会議を開く。終了後の議長声明は、一部加盟国が領有権を争う南シナ海問題で、平和的解決を目指し中国と協議中の行動規範について「早期の結論」に期待を表明する見通しだ。ただ、中国は独自の「九段線」などを根拠に同海の管轄権の主張を続け、軍事拠点化を推進する構えを崩していない。攻防の終わりは見通せない。
 先月に発行された中国の学術誌『科学通報』は、新たに発見された1951年の中国の古地図で、南シナ海の全域がU字線で囲まれていたことから、「南シナ海での中国の主権を完全に示すものだ」とする研究者らの論文を掲載した。
 中国のこの主張は新しいものではない。1940年代に当時の中華民国政府が引いた11本の境界線は、中華人民共和国が引き継いで9本に修正した「九段線」となり、近年に南シナ海の管轄権主張に使われた。
 中国は、この「九段線」が具体的にどこを含むのか明確にせず、インドネシアなどとの対立を避けてきたが、この古地図を理由に、領有権の主張をより明確に打ち出す可能性がある。
 もっとも、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年、「九段線」を含め、中国の南シナ海における主権主張は、歴史的にも根拠がないと裁定している。
 豪ニューサウスウェールズ大のセイヤー名誉教授は、このタイミングでの中国研究者の“新発見”発表が、行動規範をめぐる協議の「著しい頓挫」を招きかねないとする。
 ASEANと中国は昨年、行動規範の策定で合意し、年内にも具体的な条文を策定するとして協議中だが、ASEANが求める法的拘束力を中国は否定したまま。「九段線」の議論を蒸し返せば、中国にはさらなる時間稼ぎとなる。
 ASEANの昨年の議長国フィリピンは、中国からの経済援助の見返りに、仲裁裁定の「棚上げ」に応じた。一方、今年の議長国シンガポールは、一貫して「法の支配」を重視する立場で、中国の望み通りの議論は期待しにくい。
 海洋安保に詳しい、ラジャラトナム国際研究所(シンガポール)のコリン・コー氏は、中国が行動規範に求める効果は「南シナ海問題への第三者の介入の阻止」と指摘。「中国を国際法に従わせる力が不在という状況は変わらない」と指摘する。

〈管理人〉国際社会は南シナ海の共産中国の「権益」を認めない。しかしそれを徹底できる、実行力を担保できていない。周辺国は共産中国に対してNOを徹底できない事情があるようです。対して共産中国側は、どんなこじつけでも歴史的な根拠を提示してきて、昔から「共産中国の海域」ということを示す。一ついえるのは、昔は少なくとも中国共産党の南シナ海の海洋権益は「九段線」のようには存在してないだろ、ということです。

海自の護衛艦いずもを航空母艦にする!?
できれば東シナ海、南シナ海への我が国の軍事プレゼンスは向上するか?


護衛艦「いずも」、F35Bなどの運用に「高い潜在能力」防衛省調査
 防衛省は平成30年4月27日、海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」に関し、米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bなどの航空機を搭載して運用できるかの調査報告書を公表した。報告書はいずもの航空機運用能力について「高い潜在能力を有する」と評価する一方、運用には船体の改修などが必要なことも指摘した。
 調査は、いずもを建造したジャパンマリンユナイテッド(東京)に委託し、昨年4月から今年3月にかけて行われた。
 調査対象は、F35Bのほか、いずれも米国製の固定翼無人機「RQ21」、回転翼無人機「MQ8C」の3機種。それぞれに必要な改修項目や工期、費用などが記載されている。F35Bについては、臨時の発着艦や補給、格納などを想定して調査した。ただ、防衛省は「いずもの性能や調査企業のノウハウが明らかになる」として、報告書の大半を非開示とした。
 F35Bは航空自衛隊が導入したF35Aの派生型。短距離の滑走で離陸し、垂直着陸できるため、短い滑走路での運用や艦載に適しており、空自が導入を検討している。


 いずもは海自最大の護衛艦。ヘリ9機を同時運用でき、艦首から艦尾までつながる飛行甲板を持つ。防衛省は戦闘機などが離着陸できるよう改修して「空母化」を検討している。いずもが空母機能を持てば、海洋進出を強行する中国や、核・ミサイルの脅威が続く北朝鮮への抑止力や対処力が高まると期待される。野党は「専守防衛の範囲を超える」と反発している。

〈管理人〉我が国と台湾が海軍力を強化してアメリカと緊密な連携を保ちながら軍事プレゼンスを発揮していくことが、抑止の一つにはなるんでしょうが、だからといって完成し、使用している南シナ海の島嶼基地を捨てて撤退させるまでは難しいでしょう。「海はみんなのもの」なんですけどね。


2018年4月24日火曜日

米英仏によるシリア攻撃の実態 ~政治的な影響とアメリカの思惑~

シリア攻撃が示した米国の決定的な「異変」

攻撃は儀式化された劇のようでもあった

米国主導のシリア攻撃は、少なくとも今のところは終了したかもしれないが、攻撃を生み出した戦争、そしてその戦争に油を注いだより大規模な国際対立は、ますます複雑さを増すばかりだ。
2018417日早朝、シリアのメディアは、国境付近で1週間経つか経たないかの間における2度のイスラエルによると見られる空爆を報じた。西側では、週末の米国、英国、フランスによるシリアの化学兵器施設への105発のミサイル発射に対し「報い」を公言したロシアがどのように報復するか、憶測が続いた。西側当局者はロシア政府によるサイバー攻撃の可能性を特に懸念している。
米政府が直面するより厄介な状況
こうした中、西側諸国とその湾岸同盟国は、依然として次のステップを打ち出すのに苦労している。ドナルド・トランプ米大統領は相反するメッセージを送っている。すなわち、シリアからの米軍撤退を望むと言う一方、バッシャール・アサド政権による化学兵器の使用を阻止するための軍事行動を継続すると約束しているのだ(さらなる混乱状態を表すのは、エマニュエル・マクロン仏大統領によるシリアの米軍駐留継続をトランプ大統領に説得したとの主張の撤回だ)。
より広範囲にわたる対ロシア政策に対しても、不透明な状態が続いている。ホワイトハウスは、ロシアに対する一連の新制裁の予定に関するニッキー・ヘイリー米国連大使のこれまでの発言についても覆しているからだ。
これらすべてが、米政府のより大きな、より厄介になるばかりの現実を暗示している。ある意味で、シリア攻撃は米国の軍事力の及ぶ範囲や視野を強力に再認識させるものだった。これはロシアがミサイルは迎撃する、ミサイル発射点となる軍用船や軍用機には反撃を仕掛ける、という脅しを有言実行することに明らかに、米国が躊躇していたことからもわかる。
この最近の攻撃によりアサド大統領の化学兵器の再使用阻止に実際に成功したとしても、米国離れが進む中東および周辺地域のより大幅な地政学的勢力均衡を阻止するものではない。

シリアの地上では、アサド大統領は引き続き自らの権力を堅固にしている。反政府勢力のグループが主要な地域で退却するなか、政府による通常の空爆が週末も続いた。イスラエル、イラン、トルコは、これまでにない規模の軍隊をもって自国内のそれぞれの代理戦争を続けている。
そして17日、米政府は新たな計画を発表した。ここへきてシリアの米軍のうち約2000人をアラブ軍に置き換えたいというのだ。これはトランプ政権が地域の意思決定を地元の権限に任せるしか選択の余地がない、と考えている兆候である。
ロシアも中国も野心を持っている割には…
シリア攻撃によって、米政府は米国が依然として地中海における支配的な軍事力であることを実証した。少なくとも軍隊を強化しようと決める際には、だ。しかしほかの地域でロシアや中国の活動が増強しており、米国の軍事力が広がっていたとしてもそれぞれの地域における影響力は弱まっていることを、意味している。実際、米海軍が対ロシアとシリアを対象に空母を地中海に移動させていたとき、南シナ海では中国が過去最大の海軍訓練を行っていた。
これらに続き、418日は中国が、台湾海峡で実弾演習を行った。これは中国政府の潜在的な敵国、さらには米同盟国を、この地域で萎縮させるためのむき出しの試みであると見られている。
ロシアも中国も、世界的な野心を持つ割には、いまだに東欧やアジアといったお互いの周辺地域にわざわざ焦点を絞っている。それぞれの軍がそれぞれの地域において、米軍を押し返すことができるように意図的に企てているのである。
イランや北朝鮮といったより小規模の敵国も、同じような判断を下そうとしている。これらの国は、米国がいまだに1回限りの打撃を即決で与えられる能力を保持していることを14日、思い知らされることになったものの、これらの国の最大の焦点は、大規模な政権交代を迫るような措置を米国にさせないことにある。

最近の対シリア戦でおそらく最も顕著なのは、米政府においてアサド大統領に対するより広範囲に及ぶ措置を強める議論がほとんどなされなかったようだ、ということである。化学兵器使用の文脈でよく口にされた「レッドライン」の徹底以外に、シリアの指導者を失脚させようという欲求は実際にはもうほとんど残っていない。とりわけ、イラクでサダム・フセインの失脚により数々の問題が残されてしまった後では。
こうした中、米政府の敵、特にロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、これらの対立を利用し、米国の裏をかくような新たな策をいろいろと試している。先週にはロシア政府がシリアの一部でGPS信号を遮断していたことが報告されている。それによって米国による無人機の活動に干渉していたとされる。
トランプ政権が事態を悪化させる可能性も
加えて、ロシアの情報戦活動も増強しており、西側諸国の分裂を加速させようとしている。ロシアは、実際に米国のミサイルを撃ち落とすよりは、「もう落とした」と言い切ることに決めたようで、すでに混乱状態にある国際議論が、より訳のわからないことになっている。
こうした傾向は、もっと前から起こっていても不思議ではなかった。そして、米国のどんな政権であれ、その対応には苦労させられたことだろう。トランプ政権は、オバマ政権が2年前に想像だにしなかった、より混沌とした、そして敵国がより自信を持ち創造力に富んだ世界に直面しているのだ。
それでも、トランプ政権の特異体質が事態をより悪化させる可能性がある、と結論づけないわけにはいかない。これはジョン・ケリー首席補佐官についてもっと当てはまるかもしれない。孤立を深めていると報告されているし、大統領はロバート・ミューラー特別検察官によるロシア調査で頭が一杯だからだ。
ある意味で、14日のシリア攻撃は、極めて儀式化された劇のようなものだった。レッドラインを徹底し、ロシアの脅迫に立ち向かうという、米国内におけるほとんど無血の軍事演習だ。どちらの側にも大規模な死傷者を出さずに対処できたということで、ある意味では安心させてくれたといえるだろう。だが、今後このような危機がもっと起こることが予想される。しかも、もっとずっと危険な危機が訪れるかもしれないのだ。
著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。


シリア攻撃に秘めた米軍の北朝鮮防空網向け「威力偵察」


軍事上の偵察には、察知されぬよう行う《隠密偵察》と、故意に攻撃を仕掛けて「敵の所有武器や配置」など敵情を知る《威力(強行)偵察》がある。シリアのアサド政権が反体制派支配地域で化学兵器禁止条約に違反し化学兵器を使用したとして、米英仏軍は14日午前(日本時間)、巡航ミサイルで精密攻撃を加えたが、米軍にとり北朝鮮攻撃を想定した“威力偵察”だったと、筆者を含む一部安全保障関係者は考えている。
 注目したのは、ロシア軍がシリア軍に供与したり、自ら持ち込んだりしたミサイル迎撃システム《S300》と《S400》だった。特にS300は北朝鮮に供与され、北は改良型を配備済み。そこで米軍は、ロシア軍やシリア軍を“威力偵察”し→S300のミサイル発射を誘発し→能力を掌握した上で→朝鮮半島有事への備えを強化した、との推論を立てた。

 米軍は、シリア国内所在のロシア系軍事拠点を24カ所と分析する。そのうち、ロシア軍は少なくとも北西部ラタキア近郊のヘメイミーム露空軍基地にS400、西部タルトスのシリア海軍基地(ロシア海軍の補給拠点)にS300を配備する。


 果たして、シリア国内に所在する化学兵器の研究開発施設&貯蔵施設などに対し、米英仏軍は艦艇や攻撃機に装備した巡航ミサイル105発で攻撃し、全弾命中を果たした。ところが、ロシア・シリア軍はS300やS400のミサイルで迎撃しなかった。米軍の“威力偵察”は「音無しの構え」を貫いたシリア駐留ロシア軍にいなされた可能性は否定できない。
 迎撃ミサイル発射の封印が事実とすれば、ロシアは自国製兵器の性能秘匿は言うに及ばず、朝鮮半島における中国の影響力復活を憂い、S300改良型を配備する北朝鮮にも恩を売ったことなる。
 もう一つ、米軍が北朝鮮有事を濃厚に意識し、投入した兵器がある。米海軍協会ニュースは《複数のB-1B戦略爆撃機も攻撃に参加した》と伝える。仮に、B-1Bが発射したステルス巡航ミサイルが過去に使用されていない種類であれば、シリア攻撃に隠された新兵器の「性能試験」「演習」といった側面が浮かび上がってくる。

「第2次キューバ危機」回避か?

 もちろん、断定はできない。シリアのアサド政権を支えるロシアは「米軍巡航ミサイル71発の撃墜」を主張。アサド大統領も「旧ソ連製の防空兵器が迎撃に有益だった」と語る。だが、米側は「シリア軍の地対空ミサイル40発の発射は攻撃終了後。ロシア軍の防空システムは作動しなかった」と反論した。


 真相は明らかではないが、米軍はエスカレーションを回避せんと、ロシア軍と専用回線で連絡をとり、シリア上空における不測の事態を防ぐ手立てを講じた。2回=2日間の攻撃延期にも「米側の配慮」がにじむ。「着弾予定地点までロシア側に、シリアに筒抜けになるのを見越して事前通報した」との情報も、日米の安全保障関係者の間で流れている。
 マティス米国防長官は「外国人(ロシア)将兵の被害を避けるよう、配慮した」とハッキリと話しており、情報の確度は低くはない。情報が正しいとすれば、ロシア軍の防空能力を試さず、ロシア軍の作戦行動を牽制した「米側の配慮」説にポイントが加算される。
 米軍は昨年4月にも、反体制派支配地域で化学兵器を使ったシリア軍の航空基地などに巡航ミサイル攻撃を実施。60発の巡航ミサイルを撃ち込み、不発の1発を除き59発が目標破壊に成功した。ただ、このときもロシアが米国側から事前に攻撃を知らされていたにもかかわらず、シリアに配備した対空ミサイルが使われた形跡がなかった。
 ロシア上院国防委員長は露メディアに「シリアのロシア軍基地はS300とS400が安全に守っている」と明言したが、迎撃の有無は触れていない。当時も今回同様、安全保障関係者の間で「米国との対立激化を避けようと、攻撃を黙認したのでは」という観測が広がった。 


 昨年と今回の米軍による2回の攻撃とも、史上初となる米露直接交戦といった戦局のエスカレートに、米国が、あるいは米露双方が配慮した結果なのだろうか。ロシアにしても、シリアは中東~地中海をにらむ橋頭堡としての価値は高いが、シリアのために「第2次キューバ危機」を誘発する軍事行動など、全く視野に入れてはいないのだ。米国に至っては言わずもがな、だ。

ロシア製防空網の盲点を突いた米英仏軍

 だが、別の見方をする安全保障関係者もいる。
 米英仏軍が既にロシア製防空システムの能力を掌握。「S300や、もっと優秀なS400の防空エリアをつかんでいる証拠を暗に伝えるべく、レーダーの盲点を突き、防空エリアを正確に避けてみせた」か、「露レーダーが米軍の新型ステルス巡航ミサイルを捕捉できなかった」との仮説も視野に入れ、追加分析する必要があろう。
 このシナリオが正しければ、北朝鮮・朝鮮人民軍は大きな衝撃を受けたはず。なぜなら北朝鮮はS400に比べ性能の劣るS300の改良型を保有する。しかも、米英仏軍が発射した巡航ミサイル数は105発と発表されている。いたって抑制的な数だ。米海軍は1隻で最大154発の巡航ミサイルを発射可能な原子力潜水艦を有する。同型潜水艦や水上艦艇、航空機を多数投射して一斉攻撃すれば、S300はもとよりS400の迎撃能力をも凌駕する。


 北朝鮮は米軍を本気にさせれば、105発というシリア攻撃で使われたミサイル数に、ゼロが幾つも付く文字通りケタ外れの飽和攻撃を受ける。
 北朝鮮は核のみならず化学兵器開発もやめず、シリアに化学兵器・ミサイル関連製品と技術者をセットで密輸・提供してきた事実は、国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの報告書でも明らか。シリア攻撃は、シリアへの「ケジメ」であるとともに、北朝鮮に対する「ケジメ」予告宣告なのだ。

「カダフィ大佐の最期」想起させたシリア攻撃

 一方で、保守系の安全保障関係者ですら「カダフィ大佐の血だらけの最期」が北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩委員長にもたらした悪影響を主張し、シリア攻撃を下策と断じている。
 こうした意見に筆者は懐疑的だ。「血だらけの最期」に至る過程を振り返る。
 国連安保理が反政府勢力を鎮圧するカダフィ政権に軍事制裁決議を採択し、仏英米軍を主力とする多国籍軍がリビア政府軍を攻撃。反政府軍に追われたカダフィ大佐が2011年10月に拘束→殺害され、42年間続いたカダフィ政権が崩壊した。リビアとは「反米同志」関係で、ミサイルや核物質を密輸していた北朝鮮の金正日・正恩父子はカダフィ大佐の血まみれの最期に、「明日のわが身」を想像したとしても不思議はない。


 金父子は、西側に譲歩し、核・ミサイル開発放棄など武装解除すれば命取りになるとかたくなに信じ、民主化をせず、独裁体制=先軍政治を一層強化。弾道ミサイル発射や核実験を繰り返した。
 けれども、北朝鮮の核・ミサイル開発はカダフィ政権崩壊のはるか以前より強行されてきた。カダフィ政権の崩壊で核・ミサイル開発への決意を強めた側面はあろうが、北朝鮮の核・ミサイル開発に関わる「放棄」「実験停止」「凍結」を約束しながら、破りまくった歴史は忘れてはならない。
 シリア攻撃を受け、「中国+ロシア+イランが北朝鮮に『米朝核廃棄合意』に向けた時間稼ぎや合意内容の微妙なすり替えに関し、『水面下で知恵を授ける』」との懸念も、安全保障関係者の間で少なくない。しかし、中国+ロシア+イランは今も昔も、北朝鮮に『水面下で知恵を授ける』行為を、ずっとやっている。
 シリア攻撃に異を唱えることは、北朝鮮の核・ミサイル完成に猶予を与え→次の「四半世紀」も北が繰り出す核の恫喝に震え→命じられるがままに「延命資金」を拠出し続けろと、声を張り上げているに等しい。

〈管理人〉アメリカはまだ対北朝鮮軍事攻撃のオプションを捨てたわけではなく、有力な選択肢の一つとして、残していますな。

米、対露強硬姿勢続く

毎日新聞2018422 2159(最終更新 423 0031)  http://mainichi.jp/articles/20180423/k00/00m/030/081000c
対立深まる米露関係 画像リンク 

シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、米国が英国、フランスとともにシリアの関連施設を攻撃してから21日(日本時間)で1週間が過ぎた。アサド政権の後ろ盾のロシアが化学兵器の使用そのものを否定する中、米国はロシアへの強硬姿勢を強めており、米露の関係修復は極めて難しくなっている。【トロント高本耕太、モスクワ大前仁】
 マティス米国防長官は20日、国防総省での日米防衛相会談の冒頭、シリアの化学兵器関連施設に対する攻撃は国際社会の「完全な支持があった」と強調。アサド政権がそれを無視すれば「対処する用意がある」と述べ、再度の軍事攻撃があり得ることを示唆した。
化学兵器使用とみられる攻撃後、シリアのアサド政権が制圧した首都ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマ。路上にシリア国旗が掲げられていた=4月20日、ロイター
 また対露強硬姿勢で知られ、今月着任したボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は19日、アントノフ駐米露大使と初会談。ロシアによる米大統領選介入疑惑や3月の英国で起きたロシア元情報機関員の暗殺未遂事件に触れ、「ロシアは我々の懸念に対処すべきだ」と迫った。
 政権の対露強硬姿勢とは裏腹に、トランプ大統領に関しては、プーチン露大統領に対峙(たいじ)しない姿勢や大統領選での自陣営とロシアとの癒着疑惑が影響し、「弱腰」との批判が消えない。こうした国内世論を意識し、政権の対露政策が硬化の一途をたどる悪循環に陥っている側面がある。
 対露政策を巡る政権内の亀裂も露呈している。15日にテレビ出演したヘイリー国連大使は、シリアの化学兵器使用に絡み、「16日に対露制裁を発表する」と明言したが、実際には発表されなかった。17日にクドロー国家経済会議(NEC)委員長が「ヘイリー氏は先走りすぎた」と指摘すると、ヘイリー氏が反論。米メディアによると、トランプ大統領が反対したため、検討されていた制裁が発表されなかった模様だ。
 一方、ロシア側は米国への対抗策を慎重に練っているようだ。プーチン大統領は20日、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長と会い、シリア情勢の報告を受けた。露政府は19日にも安全保障会議を催しており、米国が対露強硬姿勢を鮮明にしていることで「我が国の安全保障への脅威が強まっている。追加的な措置が必要だ」(パトルシェフ安全保障会議書記)との立場を示した。
 今回のシリア攻撃に先立ち、ロシアは米国との関係が冷え込んでいた。露元情報機関員の暗殺未遂事件について「ロシアの犯行」と断定した英国と連携し、米国が欧州諸国とともに露外交官の国外退去措置に踏み切ったこともあり、ロシアは柔軟に対応する余地を失っている。
 また、米国は今月上旬、米大統領選介入を含むサイバー攻撃などロシアの対外「有害活動」に関与したとして、露企業と個人を対象にした制裁を発表。国際的なアルミニウム製造企業ルスアルなども対象に含まれており、ロシアからすれば、何らかの対抗措置を打ち出さざるを得ない状況にある。

 ロシア国内では「米国で政権が交代しない限り、関係改善は期待できない」(カーネギー国際平和財団モスクワセンターのトレーニン所長)という悲観論が強まっている。 

【管理人より】シリア軍事攻撃で米英仏に出し抜かれたロシアは、サイバー攻撃で直接アメリカからデータを収集。情報戦と軍事攻撃は表裏一体ですな。


米英仏によるシリア攻撃の意義

岡崎研究所

 シリアのアサド政権が同国の東ゴーダ地区で民間人に対し化学兵器を使用したとして、2018年414日、米英仏はシリアの化学兵器関連施設3カ所を巡航ミサイル等で攻撃、破壊した。この件につき、トランプ大統領が行った演説の要旨は次の通り。

1年前、アサドは自国の無辜の民に対し、野蛮な化学兵器攻撃を行った。米国は58発のミサイル攻撃で対応、シリア空軍の20%を破壊した。
 2018年47日、アサド政権は、ダマスカス近郊で無辜の民を虐殺した。これは、アサド政権による化学兵器使用のパターンの重大なエスカレーションだ。
 この悪魔的で卑劣な攻撃が、母親、父親、幼児、子供にとんでもない苦痛を与えた。これは人間の所業ではなく、モンスターの犯罪である。
 第一次大戦後、文明国は化学兵器を用いた戦争を禁止した。化学兵器は、酷い苦痛を与えるだけでなく、少量でも広範囲に惨害をもたらし得る点で特異である。
 今晩の我々の行動の目的は、化学兵器の製造、拡散、使用に対する強力な抑止力を確立することである。それは、米国の安全保障上の重大な国益である。我々は、シリアの政権が禁止された化学物質の使用をやめるまで、共同の対応を続ける用意がある。
 犯罪的なアサド政権を支持し、装備を与え、資金を提供している、イランとロシアに対し、メッセージがある。どういう国が、無辜の民の虐殺者の仲間だと思われたいのか。世界中の国は、いかなる友人を持つかにより判断される。ならず者国家、残虐な暴君、殺人的な独裁者を助長するいかなる国も、長期的には成功し得ない。
 2013年にプーチン政権は、シリアの化学兵器を除去すると世界に約束した。アサドの最近の攻撃と今日の対応は、ロシアが約束を守れなかったことへの直接的な結果である。
 ロシアは、この暗い道を転落し続けるのか、それとも文明国に加わるのか選択しなければならない。我々は、ロシアともイランともうまくやっていきたいと望んでいるが、そうならないかもしれない。
 米国には、提供できるものが多くある。昨年、シリアとイラクでは、ISISに支配されていた領域のほぼ100%を解放した。米国は、中東のいたるところで友情を回復してもいる。
 米国は、いかなる状況においても、シリアへの永続的な駐留を求めない。他の国々が貢献を増し、米兵が帰国できる日を楽しみにしている。
 問題の多い世界を目の当たりにして、米国はいかなる幻想も抱いていない。我々は世界中のすべての悪を無くすことはできない。
 我々は、中東を良くするよう努力するが、中東は厄介な地域である。米国は中東のパートナーであり友人であるが、中東の運命は地域の人々自身の手にある。
 前世紀、第一次大戦終結までに、100万人以上が化学兵器により死亡したり傷ついたりした。我々は、その再現を見たくない。それゆえ、米英仏は今日、野蛮と残虐性に対し、正義の力を行使したのである。
出典:‘Joined by Allies, President Trump Takes Action to End Syrias Chemical Weapons Attacks, White House, April 14, 2018

 今回の空爆の目的は明確であり、化学兵器の使用を罰し化学兵器の使用を抑止するということである。本演説でも、第一次大戦後、化学兵器の使用が禁止るようになった経緯に触れ、化学兵器の使用が国際法上違法であることを強調している。国防総省のホワイト報道官は、今回の攻撃では標的だけを攻撃しており、シリアの化学兵器使用に相応の処置であり合法的である、と述べている。その通りであろう。また、アサド政権の次の目標と見られるイドリブ県の制圧作戦で再び化学兵器が使用される惧れもあったので、時宜に適った必要な措置であった。
 前回、昨年4月の攻撃では、59発の巡航ミサイルがシリアの空軍基地に撃ち込まれたが、今回は約2倍となる105発が撃ち込まれた。3か所の化学兵器の製造・貯蔵関連施設の破壊を攻撃の目標としたことは、化学兵器の使用阻止という目的を明確にしていると言える。そして、最も重要なことは、今回は米英仏という国際的枠組みによって実施された点である。この3か国は、いずれも安保理常任理事国である。米国による単独行動よりも、化学兵器の使用は許されないとする国際社会の考えを、より強いメッセージとして発することができ、適切であった。ただし、トランプも言う通り、アサドが化学兵器の使用を止めるようになるまで、しっかり対処し続ける必要がある。
 今回の攻撃の目的は、上に述べた通り限定的なものであり、シリアにおけるパワーバランスを変えるとか、レジームチェンジを直接目指したものではない。米英仏側はロシア軍に被害が出ないよう配慮し、ロシア側もシリア防衛のために最新の防空システムを用いなかったとされている。双方とも、全面的な軍事衝突は望んでいないと見られる。

 トランプは、シリアへの米軍の駐留を早期に終わらせると言っているが、他方、米国の国益が守られることが重要であるとも繰り返している。ロシアもさることながら、トランプ政権が敵視するイランがアサド政権支援を止めることは考えられず、イランが地域における影響力を伸長させるとなると、米国としては、やはりシリアから早期に撤退するということは難しいと思われる。地域の安定化に必要な駐留は続けざるを得ないということであろう。なお、現在はロシアとイランの側についているトルコはアサド政権と強く敵対しており、今回の攻撃を強く歓迎している。トルコはNATOの同盟国であり、潜在的にはイランとライバル関係にある。シリア情勢をめぐっては、トルコの動向も注視する必要がある。


露、米国防総省にサイバー攻撃 シリア駐留情報狙う

 ロシア政府から指令を受けたハッカー集団が2018年3月上旬、米国の国防総省や陸軍のシステムに情報を窃取するサイバー攻撃を相次いで仕掛けていたことが22日、分かった。攻撃の痕跡や標的などを分析した結果、ハッカー集団はサイバー攻撃で、シリアなどに駐留する米軍の機密情報を盗もうとしていた事実も判明。シリア情勢が緊迫化する中、ロシアが米軍の動向を探る諜報活動を行っていたとみられる。(板東和正)
 米情報セキュリティー大手や、内閣官房情報セキュリティ対策推進室(現・内閣サイバーセキュリティセンター)の元委員が立ち上げたサイバー攻撃を解析する民間の研究機関「情報安全保障研究所」(東京)が独自調査で確認。産経新聞の取材で明らかにした。
 調査によると、攻撃を仕掛けていたのは、ロシア軍情報機関「参謀本部情報総局」(GRU)の傘下にある「ファンシーベア」と呼ばれる露ハッカー集団。
 ファンシーベアは3月上旬に複数回、米国防総省や陸軍の幹部と職員らのパソコンにウイルスを仕込んだファイルを添付したメールを送信。ファイルを開封するとファンシーベア側に情報が流出する仕組みだった。標的になった対象のパソコンや攻撃の痕跡などを分析した結果、シリアやアフガニスタンに駐留する米軍の配置状況のほか、物資や燃料の補給などの情報を盗み出そうとしていたことも分かった。具体的被害の有無は明らかでない。

 また、ファンシーベアが2~4月の期間中、欧州の政府機関にも情報窃取の攻撃を仕掛けていたことも判明している。
 ファンシーベアは、2016年米大統領選で民主党全国委員会(DNC)のサーバーに侵入し、電子メール情報を盗み出したと指摘されている。今年1月にも、ファンシーベアが昨年、米上院を標的としたサイバー攻撃で上院関係者らのメール情報を盗み出そうとしていた諜報作戦が発覚した。
 ロシアのサイバー攻撃をめぐっては、米英仏のシリア攻撃後の16日、米国土安全保障省と米連邦捜査局(FBI)、英サイバー安全保障センターが、ロシア政府傘下のハッカー集団が世界各国の政府機関や企業、重要インフラに対する大規模攻撃を仕掛けようとしているとして警報を共同発令した。
 米情報セキュリティー会社「ファイア・アイ」でロシアのサイバー調査などを指揮するベンジャミン・リード氏は「今後、シリア問題などで米露関係が悪化すれば、ロシアのハッカー集団によるインフラ攻撃が増える可能性はある。米政府機関などは警戒が必要だ」と指摘している。


 ロシアの軍事情勢に詳しい未来工学研究所の小泉悠特別研究員の話 
 ファンシーベアが米国防総省などにサイバー攻撃を仕掛けた3月上旬は、シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区でアサド政権やロシアによる反体制派への攻撃が激化していた時期だ。米軍が今後、アサド政権に対し、どのような軍事行動に出るかが当時のロシア政府の関心事だったことは間違いない。シリアに駐留する米軍の最新の情報を欲しがったのは自然な流れだろう。
 また、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンを軍事支援しているとされるロシアは、タリバンに軍事的圧力を継続するアフガン駐留米軍の動きも把握しようとしたとみられる。今後も地政学的な課題に絡み、ロシアはサイバー攻撃を駆使した諜報活動を加速させる恐れが高く、米国にとって脅威になると予測される。


【ロシアはルーターへの標的型ウイルス攻撃が可能でした。】

露系ハッカー集団、コンピューターのルーター標的に大規模サイバー攻撃計画か 米英当局が警報発令


【ワシントン=黒瀬悦成】米国土安全保障省と連邦捜査局(FBI)、英サイバー安全保障センターは16日、ロシア政府傘下のハッカー集団が、世界各国の政府機関や企業、重要インフラに対する大規模攻撃を仕掛けようとしているとして警報を共同発令した。
 国土安全保障省などによると、ハッカー集団は、全世界にある数百万台規模の家庭用や業務用のルーター(コンピューターをインターネットに接続するための通信機器)をウイルスに感染させ、これらのルーターに接続されているパソコンやスマートフォンに対して将来、一斉にサイバー攻撃をかける態勢を構築しているという。
 同省は、露政府系ハッカー集団が約2年前からルーターにウイルスを送り込み続けていたことが判明したと指摘。ハッカーらはこれらのルーターから政府の機密情報や企業の知的所有権に関する情報、個人情報などの盗み出しを図っているとみられるほか、ロシアとの緊張が高まった国に対し、ルーターに仕込まれたウイルスを使って選挙への干渉や電力施設の遮断、企業活動の妨害などの行為を仕掛けてくる恐れが高いとしている。
 同省は、一般にパソコンのウイルス対策に対する意識は高いのと比較して、ルーターのウイルス対策は見過ごされていると指摘し、企業や事業者らにルーターのパスワード変更などの対策を励行するとともに、電子機器メーカーにもルーター自体の対策強化を要請した。