言われるほど重要ではない実戦経験の有無
米軍関係者の間で最近よく話題になるのが中国の世論である。中国のウェブで取り上げられた「財経内参」の中国の当面の敵に関する記事と、オーストラリアのシンクタンクが公表したレポート「中国の海洋意識:南・東シナ海紛争に関する世論」の調査結果の内容が、ともに「中国の世論は考えていたよりも好戦的ではない」とのことだったのだ。
もちろん、それらのデータは中国の指導者や軍事関係者たちの専門的意見ではなく、中国自身や“敵対国”に関する本格的な軍事分析とは無関係の一般的な感覚にすぎない。しかし、一般国民の感情というものは、民主主義国家ではもちろんのこと、共産党独裁国家といえどもインターネットの時代においては決して無視し得るものではない。そのために、中国軍事情勢を注視している専門家たちの関心を引いているわけである。
中国の6カ国の敵とは
「財経内参」の記事によると、現在中国が対峙している“敵”はその度合い順に日本、ベトナム、韓国、インド、フィリピン、それにアメリカである。そして、中国から見ると国家ではないが台湾もそのリストに加えられる。
それら諸国の中国に対抗できる戦力ならびに中国が対立点を克服するために、戦争に訴える可能性を評価すると表のようになる。
この表でランク付けしている敵国の度合いは、戦力比較や対立点の深刻度、それに解決が急がれる優先順位などの政治軍事的分析によるのではなく、中国がこれまで被った“国恥”の度合いに対応したものと考えられる。要するに、中国側から見ると「中国が被った屈辱を雪ぐべき順位」ということになる。とりわけ日本やベトナムに対しては「中華民族(実質的には漢民族)の歴史的鬱憤を晴らすために復讐戦に勝利すべき順位」ということになるわけである。
しかし、「財経内参」が言うところの“アメリカの手先”である日本の場合は、対中戦力(海上自衛隊と航空自衛隊との戦力という説明が付されている)が相当強大である上に、いまだに強力な軍事力を擁するアメリが背後に控えているため、当面は日本との間の懸案解決は戦争に訴えるべきではないということで、戦争可能性は“1つ星”になっている。
これは、他の国に対しても同様である。アメリカの直接干渉の可能性が当面の間は排除できないため、敵の戦力にかかわらず、戦争に訴えるべきではないとの抑制的態度に現れている。
ただし、台湾に関しては、日本をはじめとするような敵国ではなく、あくまで身内の揉め事として別枠で扱っている。そして、アメリカと日本が干渉してくる可能性が高いとしながらも、軍事力を直接行使してでも台湾だけは「取り戻す」べきであるとしている。なぜならば、アメリカの保護下にある台湾をいつまでも現状のままにしておく限り、「中華民族が西洋から被った屈辱を撥ねのけたことにはならない」からだ。
中国軍は自衛隊よりも強いが、戦争はすべきではない
一方の「中国の海洋意識:南・東シナ海紛争に関する世論」は、「財経内参」の記事のような、ナショナリズムを喚起する論調の非科学的記事とは異なる社会科学的な世論調査である。この調査は、オーストラリアのシンクタンクである「パース・米アジア・センター」が、中国の一般市民1416名に対して直接電話によるインタビューをもとにして実施した。
その調査の結果から、東シナ海や南シナ海での中国との紛争に関する中国世論動向を分析すると、「現時点においては、中国は軍事力を行使してまで東シナ海や南シナ海での“核心的利益”を確保するべきではない」という非戦的意見が優勢であることが示されたのである。
中国の海洋意識調査の結果
興味深いことに、中国の一般市民の多くは、「人民解放軍は、自衛隊だけの場合はもちろん、アメリカ軍が支援したとしても尖閣諸島ならびに南沙諸島を“奪還する”ことができる」と考えている。すなわち、中国の一般世論では、
「人民解放軍は自衛隊を蹴散らすことはもとより、アメリカ軍の軍事介入をも撥ねのけるだけの戦闘力を持っている」と考えられていることになる。
ただし、それだけ中国の軍事力が強化されていると考えてはいるものの、「まずは戦争以外の手段で国家間紛争を解決するべきである」という国際常識的な考え方が中国一般国民の大勢を占めていることが示されているわけである。
人民解放軍はいまだ日米には太刀打ちできない
「パース・米アジア・センター」による世論調査は一般国民に対して実施されたため、中国人民解放軍の戦闘能力が実際にはどの程度のものなのかといった実情は、もちろん反映されているわけではない。ただ単に、国内のテレビをはじめとする各種メディアで日常的に伝えられている人民解放軍の最新鋭兵器やそれを扱う人民解放軍の姿などから、「人民解放軍は自衛隊よりも強力だし、アメリカ軍にも負けはしない」という、自国の軍隊に対する希望的期待と考えられる(この調査では、中国国内での一般世論形成に最も影響力を持っているのはテレビ放送であることも示されている)。
しかし、当たり前ではあるが、人民解放軍内部ではそのような楽観論は許されない。兵器や装備はもとより組織構造や人的資源に関する様々な問題点が存在していることは当然であり、そう簡単に自衛隊を打ち破り、アメリカ軍に対抗し得るとは考えてはいない。
(もっとも、自軍が十二分な戦力を擁しておりさしたる問題点は存在しない、などと軍当局が表明したならば軍事費の削減につながってしまうため、自軍内の問題点をあげつらうのは、人民解放軍にもアメリカ軍にもいかなる国家の軍事組織にも共通している。)
そのような人民解放軍内部での問題提起や論争や提言などの分析をもとにして、中国人民解放軍の戦闘能力の弱点を導き出したのが、『中国の不十分な軍事転換:人民解放軍の弱点に関する評価』というレポートである。このレポートは、アメリカ連邦議会の米中経済安全保障検討委員会の支援を受けてアメリカのシンクタンク「ランド(RAND)研究所」が実施した研究成果である。
武器や兵器それに軍隊の規模などの比較といった単純な戦力分析ではなく、人民解放軍内部で問題となっている将兵の教育訓練の内容や将兵そのものの人的能力などをはじめとする、目に見えることがあまりない、数量分析などでは扱いづらい質的データの分析から導き出されており、人民解放軍の戦力評価としては興味深いレポートに仕上がっている。
尖閣諸島をはじめとする東シナ海での日米との軍事衝突における中国の戦闘能力に関してこのレポートが下している評価によると、人民解放軍の戦闘能力は自衛隊、アメリカ軍に全く太刀打ちできないほど無力というわけではないものの、作戦全体が失敗する可能性が大きいレベルであるとされている(ちなみに、南シナ海での島嶼をめぐる紛争では、作戦の一部が達成できない可能性があるレベルと評価されている)。
実戦経験を欠く軍隊は弱体なのか?
ランド研究所はこのレポートで人民解放軍のとりわけ人的資源面での数々の専門的分析を実施し、「湾岸戦争以来、現代戦を継続し続けているアメリカ軍と違って、人民解放軍には現代戦の実戦経験が欠乏しているため、たとえアメリカ軍と戦火を交えることになっても人民解放軍の戦闘能力はアメリカ軍には太刀打ちできないであろう」と指摘している。
しかしながら、(ランド研究所のレポートのデータそのものに異を唱えることはないにしても)「現代戦の実戦経験の欠落」を将来の軍事衝突における戦闘能力に関する優劣の判断基準にすることに対しては異論を唱える軍事関係者は少なくない。
例えば、「米国海軍大学校」に設置されている「中国海事研究所」のゴールドシュタイン博士は、中国海軍内部での「“実際の戦闘経験の欠如”を重大な問題と考えるべきではない」(論者:趙輝)という論考を引き合いに出して、警告を発している。
趙輝氏は、第1次世界大戦初頭におけるイギリス軍とドイツ軍の事例(注1)や、湾岸戦争でのイラク軍とアメリカ軍の事例(注2)などの歴史的分析をもとに、「実戦経験は必ずしも将来の戦闘に利しているわけではない」と主張している。
(注1)第1次世界大戦直前まで植民地での戦闘経験が豊富であったイギリス軍が普仏戦争以降戦闘経験に乏しかったドイツ軍に撃破され続けた。
(注2)イラン・イラク戦争での戦闘経験が豊富であったイラク軍が、ベトナム戦争以降グレナダ侵攻程度の本格的実戦経験しかなかったアメリカ軍にあっという間に撃破された。
そして、「アメリカ軍は過去20年以上にわたって世界各地で戦闘をし続けており、戦闘経験が豊富なことは確かである。しかし、アメリカ軍の戦闘相手は、アメリカ軍に比べると著しく弱体な非対称的軍隊であった。・・・ アメリカ軍は戦闘経験だけに頼って次の戦闘に勝利しているのではなく、理論的研究、臨機応変な発想、新技術や兵器の開発、効果的な組織変革、そして何よりも“危機感の維持”などが勝利の源なのである」と分析している。
したがって、「人民解放軍には実戦経験が欠落しているという理由だけで、アメリカ軍より戦闘能力が低いというわけではない」と趙輝は指摘し、「ただし、平時における教育訓練や組織改革などが、“近いうちに戦争などは起きないだろうし平和が長らく続くに違いない”といった意識のもとでなされていては強力な戦闘能力は維持できない」とも警告している。
ゴールドシュタイン博士は、「戦闘経験がない軍隊の戦闘能力は低いに違いない」という単純な発想は見直されるべきであり、上記の人民解放軍内部での議論は十二分に検証されるべきであると指摘している。
そして、同博士だけではなく少なからぬアメリカ海軍や海兵隊関係者たちも「もし、アメリカが中国と一戦を交えるようなことになった場合、それは海洋での戦闘が中心となる大規模な戦闘となるに違いない。つまり、海軍力と航空戦力を投入しての本格的な海洋での戦闘が主体となる。しかしながら、アメリカ軍がこの種の海洋決戦を最後に実施したのは70年前の日本との戦争である。つまり、我々(アメリカ海軍・海兵隊・空軍)も、この種の戦闘では実戦経験を持っていないのである」と考えている。
中国が人民解放軍の戦力を強化し、南シナ海と東シナ海に対する積極的拡張政策も露骨になってきている今日、「中国軍とアメリカ軍(それに自衛隊)はどちらが強いのか?」といった命題は、興味本位の話題から、軍事科学的分析対象へと移行しつつある。
鳴霞氏
これが中国軍の現状?
米メディアが指摘する人民解放軍の弱点に「幹部は昇進しか考えていない」「腐敗した軍隊に国は守れない」―中国ネット
2015年4月14日 6時53分 http://news.livedoor.com/article/detail/10003061/
2015年4月12日、環球時報は、米国メディアが最近、中国人民解放軍の弱点について指摘する記事を相次いで掲載したことを伝えた。
環球時報は、米国メディアが最近、人民解放軍には実戦経験や職業軍人が不足していること、腐敗問題、兵士の士気が高くないことなどの弱点を指摘し、中国に現代戦争を戦う力はないと分析したことを紹介した。
その上で、「このようは報道で、中国脅威論に対する心配を小さくすることができ、隣国も中国の軍事力を過度に心配しなくなる。さらに、指摘された弱点を改善し、軍改革が加速するので、中国にとって利点は多い」と伝えた。
このニュースに対して中国のネットユーザーからさまざまなコメントが寄せられた。
「戦争してみなければ分からないだろ。撃ってこいよ」
2015年4月14日 6時53分 http://news.livedoor.com/article/detail/10003061/
2015年4月12日、環球時報は、米国メディアが最近、中国人民解放軍の弱点について指摘する記事を相次いで掲載したことを伝えた。
環球時報は、米国メディアが最近、人民解放軍には実戦経験や職業軍人が不足していること、腐敗問題、兵士の士気が高くないことなどの弱点を指摘し、中国に現代戦争を戦う力はないと分析したことを紹介した。
その上で、「このようは報道で、中国脅威論に対する心配を小さくすることができ、隣国も中国の軍事力を過度に心配しなくなる。さらに、指摘された弱点を改善し、軍改革が加速するので、中国にとって利点は多い」と伝えた。
このニュースに対して中国のネットユーザーからさまざまなコメントが寄せられた。
「戦争してみなければ分からないだろ。撃ってこいよ」
「朝鮮戦争で中国に負けて以来、米国は中国に対して口を動かすことしかできないのさ」
「こんなに腐敗した国で、腐敗した軍隊が国家を守れるだろうか?俺は信じられないね」
「軍でそこそこの地位にある親戚がいるけど、実際のところはイメージプロジェクトがほとんどで、軍に関するニュースの多くが嘘なんだって」
「退役軍人の1人として言わせてもらうと、今の軍は暇人が多い。訓練の主な目的は幹部たちに見せるためで、幹部はいかにして昇進するかしか考えておらず、兵士たちはいかに実利を得られるかしか考えていない」
「中国では金が法律よりも上だ。権力のある人で国や国民のために何かしようと真剣に考えている人などいない。ただいかに権力を金に換えるかしか考えていないのだ。改革開放から数十年たっても車一台まともに作れず、科学技術を輸入する国がまともに戦争できるだろうか」(翻訳・編集/山中)
「こんなに腐敗した国で、腐敗した軍隊が国家を守れるだろうか?俺は信じられないね」
「軍でそこそこの地位にある親戚がいるけど、実際のところはイメージプロジェクトがほとんどで、軍に関するニュースの多くが嘘なんだって」
「退役軍人の1人として言わせてもらうと、今の軍は暇人が多い。訓練の主な目的は幹部たちに見せるためで、幹部はいかにして昇進するかしか考えておらず、兵士たちはいかに実利を得られるかしか考えていない」
「中国では金が法律よりも上だ。権力のある人で国や国民のために何かしようと真剣に考えている人などいない。ただいかに権力を金に換えるかしか考えていないのだ。改革開放から数十年たっても車一台まともに作れず、科学技術を輸入する国がまともに戦争できるだろうか」(翻訳・編集/山中)
※共産中国・人民解放軍内部のようすが、具体的にうかがえますね。
武力紛争を外国とおこしたくないのは、共産中国もアメリカや我が国と同じ。ただ理由が違うだけです。人民解放軍は、よほどの勝ち戦でない限りは、紛争になっても兵士の士気があがらない。戦死者があれば、末端から士気が崩壊していって組織が維持できなくなる恐れが高いということです。
兵器装備は確かに近代化されましたが、兵士のモチベーションまでは「近代化」が及んでいないようです。
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