潜水艦技術を供与して台湾の苦境を救え
台湾防衛は日本防衛に直結している
安倍政権はオーストラリアに日本の高度な潜水艦技術を供与しようとしているが、日本防衛にとってオーストラリア以上に直接的影響を持つ国が先進的潜水艦を渇望し続けている。それは台湾である。
強大な潜水艦艦隊を擁する中国海軍に対して、少数の、博物館入りしていてもおかしくない老朽潜水艦で立ち向かっている台湾は、アメリカ政府が約束した潜水艦の供与を13年間待ち続けてきた。しかしながら、その実現は遠のいてしまった。そこで先日、台湾海軍は「座して死を待つことはできない」と自力で潜水艦を建造する方針を打ち出した。
ところが「とても台湾が独自に先進的潜水艦を建造することは困難である」というのが多くの米海軍関係潜水艦専門家の見方である。そしてここに来て、「日本こそが台湾海軍の苦境にとって一縷の光明である」という声がささやかれている。
台湾には老朽潜水艦しかない
安倍政権が技術供与に積極的なオーストラリア海軍と同様に、というよりもそれ以上に、台湾海軍が保有している潜水艦は時代遅れの旧式潜水艦である。
現在、台湾海軍は海獅級潜水艦2隻(海獅、海豹)と海龍級潜水艦2隻(海龍、海虎)を運用中である。いずれの潜水艦も海上自衛隊やオーストラリア海軍同様に通常動力型(推進動力が原子力ではない)潜水艦である。
海獅級潜水艦は1973年にアメリカから台湾に供与された。アメリカ海軍でそれぞれ「カトラス」「タスク」と命名されていた「海獅」と「海豹」は、70年代初頭までアメリカ海軍に在籍していた。とはいえ、設計は第2次世界大戦期であり、台湾海軍に引き渡された当時でもすでに時代遅れの潜水艦であった(カトラスは1944年に起工、タスクは1943年に起工された)。
もちろん台湾海軍は、もはや博物館展示用と見なさざるをえない2隻の海獅級潜水艦を実戦用としてではなく練習用として運用している。したがって、台湾海軍の潜水艦戦力は海龍級潜水艦の2隻だけということになる。
その海龍級潜水艦は、1982年から86年にかけてオランダ海軍のズヴァルドフィス潜水艦を原型としてオランダで建造され、「海龍」は87年に、「海虎」は88年にそれぞれ就役した。これらの海龍級潜水艦といえども就役から既に4半世紀を経ているだけでなく、そもそも原型のズヴァルドフィス潜水艦は1960年代に建造された旧式潜水艦なのである。
台湾海軍
島嶼国家防衛に欠かせない潜水艦
言うまでもなく台湾軍の主たる任務は、中国人民解放軍の侵攻を阻止することにある。そして、台湾海軍が重責を負っているのは、人民解放軍海軍(以下、中国海軍)が台湾周辺の海上封鎖を実施できないようにすることである。
台湾や日本のような島嶼国家に対する海上封鎖を実施したり、逆に阻止するために、極めて重要な役割を果たすのが潜水艦である。それも静粛性が高い現代の通常動力型潜水艦が、攻撃側にとっても防衛側にとっても海上封鎖の鍵を握っていると言われている。
台湾同様に島嶼国家である日本は、日本周辺海域での外敵による海上封鎖に対抗するために高水準の潜水艦を保有している。ただし、海上自衛隊が現在運用している実戦用潜水艦は16隻であり、とても日本に対する海上封鎖に対処するには十分な数とは言えない。
一方、台湾や日本に対する海上封鎖を実施する可能性がある中国海軍は、通常動力型潜水艦を50隻以上(うち14隻は老朽艦の「明」級潜水艦、ただし毎年3隻以上の新造艦が誕生し続ける)も保有しており、日本に対しては無理でも、台湾を海上封鎖するためには十分な数の潜水艦を取り揃えている。
このような中国海軍と対峙している台湾軍は、骨董品に近い潜水艦を2隻しか実戦投入できないという極めて心細い状態が続いているのである。
約束を果たせないアメリカ
実は、中国海軍が現在のようにアメリカ海軍すら一目置くように強力に成長する以前の2001年、アメリカ政府(ブッシュ共和党政権)は台湾政府に通常動力型潜水艦8隻を供与する約束をした。
この当時の中国海軍潜水艦隊は、現在は退役が始まっている明級潜水艦と、既に姿を消したソ連製のロメオ級潜水艦という、当時においても旧式潜水艦で構成されており、ようやくロシアからキロ級潜水艦4隻を輸入したばかりであった(これらのキロ級潜水艦は、当時の中国海軍にとっては新型であったが、ロシアにとっては輸出用のダウングレードバージョンであった)。
一方の台湾海軍は、現在と同様に老朽海獅級潜水艦2隻と旧式海龍級潜水艦2隻を運用していた。そこで、ブッシュ政権が8隻もの潜水艦を台湾に供与すると約束したため、それが実現すれば中国海軍と台湾海軍の通常動力潜水艦戦力は逆転するはずであった。しかし、アメリカには原子力潜水艦を建造する技術だけしか存在せず、通常動力型潜水艦を建造する技術は存在しなかった(そして現在も存在しない)。
つまり、ブッシュ政権が8隻の潜水艦を供与すると約束しても、アメリカ自身で建造して台湾に売却することは物理的に不可能であった。そのため、アメリカ政府が通常動力潜水艦を建造する能力を持った諸国の政府に働きかけて台湾のために建造させてアメリカ経由で台湾に供与する、というのが唯一可能な方法であった。
もちろんアメリカの同盟国や友好国でなければ話にならない上、潜水艦を建造する能力を保有する国は極めて数が少い(このような事情は現在も同様である)。アメリカ政府が声をかけられる国としては、スウェーデン、オランダ、ドイツ、フランス、それに日本が考えられた。
アメリカとしては、当時においても高水準の通常動力潜水艦を建造しており世界で唯一つ潜水艦建造メーカーを2社(三菱重工、川崎重工)も擁している日本が理論的には最適の候補であったのは当然と言えよう。しかしながら、武器輸出三原則に拘泥していた日本は、当初より交渉の対象から外さざるを得なかった。
また、小型で高性能の潜水艦を作り出しているヨーロッパ諸国のうち、ドイツとフランスはともに潜水艦技術を中国にも輸出している疑いが持たれている。そのため、交渉相手はスウェーデンあるいはオランダが有望と考えられた。しかし、それらのヨーロッパ諸国に対して、中国側から交易関係を餌にした猛烈な働きかけがなされ、アメリカ経由とはいえ台湾向けの潜水艦を建造することにゴーサインを与える政府はなくなってしまった。
また、小型で高性能の潜水艦を作り出しているヨーロッパ諸国のうち、ドイツとフランスはともに潜水艦技術を中国にも輸出している疑いが持たれている。そのため、交渉相手はスウェーデンあるいはオランダが有望と考えられた。しかし、それらのヨーロッパ諸国に対して、中国側から交易関係を餌にした猛烈な働きかけがなされ、アメリカ経由とはいえ台湾向けの潜水艦を建造することにゴーサインを与える政府はなくなってしまった。
このように日本政府は武器輸出三原則のために蚊帳の外にあり、ヨーロッパ諸国は中国との商売を壊したくないため話に乗らず、アメリカ自身は通常動力潜水艦を建造できない、といった事情のため、アメリカ政府が台湾政府に対して公式に約束したにもかかわらず、結局、約束から13年経った現在も台湾に対する8隻の潜水艦供与は宙に浮いたままの状況が続いている。
そして、その13年間で、中国海軍は8隻の新型キロ級潜水艦をロシアから輸入し、20隻以上の新型潜水艦を自力で建造し、近年建造している最新型通常動力潜水艦は海上自衛隊の新鋭潜水艦に勝るとも劣らない性能であるとも言われている。
一方、アメリカに実質的には見捨てられた状態が続いている台湾海軍は、わずか2隻の骨董品的潜水艦で警戒を続けているのである。
技術供与に伴う危険性は台湾もオーストラリアも同じ
現在のように、台湾海軍と中国海軍の潜水艦戦力の差が決定的になる以前から、アメリカ海軍戦略家の中には次のような提案をする者が存在していた。
「どうせヨーロッパ諸国にとっての中国は商売相手でしかなく、台湾防衛など本気で考えるはずがない。台湾向けの潜水艦を作れるのは日本だけだ。
しかし、日本政府には台湾防衛がすなわち日本防衛であるという認識が欠けており、ヨーロッパ同様に中国貿易に目が曇らされてしまっているようだ。おそらくアメリカ政府が働きかけても、日本政府は武器輸出三原則を★盾★にして、台湾向けの潜水艦建造や中古潜水艦の提供などには、手を貸さないであろう。
だが、このまま台湾海軍が丸腰に近い状態でいれば、いずれは東アジアのアメリカ艦隊も日本自身も中国海軍の圧迫を受けることになってしまう。幸い日本では三菱と川崎が交代で潜水艦を建造しており、潜水艦関係技術者がふんだんに存在している。それらの優秀な技術者の半数をアメリカに招聘して、アメリカで通常動力潜水艦を建造して台湾に供与するという方策を、アメリカ海軍はアメリカ政府や連邦議会に働きかけなければならない」
現在のところ、このような提言をアメリカ政府が受け入れて日本の潜水艦技術陣をアメリカに招聘する動きが出ている様子はない。
一方の安倍政権は、武器輸出三原則を見直して防衛装備移転三原則を打ち出しただけでなく、日本の潜水艦技術の移転をオーストラリア政府に約束した。
(ただし、日本の新鋭潜水艦には、スウェーデンのエンジン技術をはじめ日本以外のメーカーの技術が盛り込まれているため、安倍政権の言う「日本の潜水艦技術のオーストラリアへの移転」の範囲は明確ではない)
したがって、台湾に対する潜水艦そのもの、あるいは潜水艦技術の供与は、日本国内の行政的束縛という面からは可能な状況にあると見なすことができる。このような状況を受けて、アメリカ海軍関係者たちの間でも「いよいよ日本が潜水艦分野で台湾の救世主になる時がやって来た」との声も挙がっている。
ただし、台湾に潜水艦を売却したり、潜水艦技術を提供するとなると、台湾と中国の多層レベルでの密接な関係から判断して、日本の潜水艦技術が中国に流れ出してしまう可能性も否定できない。しかし、やはりアメリカ海軍情報関係者によると「オーストラリア軍関係諸機関にも中国情報網は入り込んでおり、日本の潜水艦技術がオーストラリア経由で中国に流出しても何ら不思議ではない」のである。実際に、台湾軍高官がオーストラリアを経由して中国へ情報を流した事件も摘発されている。したがって、オーストラリアに潜水艦技術を供与することに前向きな安倍政権が、オーストラリア以上に日本防衛に直結している台湾の潜水艦戦力強化に何らかの協力をすることを情報流出の側面から否定することは矛盾している。
台湾の苦境を救うことは日本自身のためでもある
まして、日本が台湾のために建造する潜水艦は最新鋭潜水艦である必要はないし、最先端潜水艦技術を台湾に供与する必要もない。1世代前の海上自衛隊潜水艦でも、「海龍」と「海虎」で中国海軍と対峙している台湾海軍にとっては、救世主となり得るのだ。
日本が台湾に対して潜水艦部門で協力するとなれば、当然のことながら、中国政府からの対日反撃が猛烈なものとなるのは必至である。しかしながら、台湾防衛は日本防衛に直結しているという大原則を日本政府は直視し、目先の利益に惑わされず、将来の日本の防衛のためにそのような難局を乗り越える覚悟を決めて、オーストラリア以上に台湾に対する潜水艦分野での協力を実施すべきである。
【維新嵐】 北村氏の見解に全く同感です。台湾は、我が国の国防上重要な戦略拠点です。
【維新嵐】 北村氏の見解に全く同感です。台湾は、我が国の国防上重要な戦略拠点です。
【青山繁晴】日本を影で防衛する海上自衛隊潜水艦の驚くべき実力
2013/12/25 に公開。青山繁晴さんが、日本を影で防衛する海上自衛隊潜水艦の驚くべき実力について語っています。世界でも有数の実力を誇る自衛隊。その中でも日本の潜水艦は高性能で、日夜日本を防衛するために働いています。しかし、そんな海上自衛隊の潜水艦は憲法に縛られ、フルに実力を発揮することが難しい状況です。
安易に売るべきではない日本の潜水艦「先端技術」
日本の国益に適する輸出先はどこか?
ゴールデンウィーク明けの5月7日、時を同じくして日本に“関係する”潜水艦の話題が浮上した。
まず韓国海軍は、214型攻撃潜水艦の6番艦である「柳寛順」を進水させた。韓国で「孫元一」級潜水艦と呼ばれている214型潜水艦は、ドイツのホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船が開発した輸出用の潜水艦である。沿海域での運用を想定しているドイツ海軍用の212型潜水艦を遠洋での長期作戦行動にも適応するように大型化したもので、韓国内でライセンス生産されている。
この潜水艦は、朝鮮の女性独立運動家である柳寛順(1902~1920年)にちなんで命名された(ちなみに、同型潜水艦の3番艦名は伊藤博文を殺害した「安重根」である)。韓国当局によると「日本の植民地支配に抵抗し、自由と独立を叫び祖国の闇を照らした柳寛順の民族愛の精神が、祖国の海を守る最新潜水艦として復活した」との触れ込みである。
命名はともかく、アメリカ海軍の東アジア戦略家の間では、韓国当局の潜水艦運用構想に関して、以下のような疑義が生じている。
「韓国当局は北朝鮮の脅威を封じるために潜水艦戦力を強化すると称しているが、大型の外洋型潜水艦を欲しているのは、他の目的があるということなのか?」
「比較的強力な214型潜水艦を用いれば、中国海軍北海艦隊の作戦行動を、ある程度は抑制することができる。しかしながら、韓国とともにアメリカの同盟国である日本に対して中国海軍が現実的脅威を加えた場合に、韓国政府がそのような行動に出る可能性は低いと考えざるをえない。何のための214型潜水艦なのだろうか?」
214型攻撃潜水艦(Wikipediaより)
オーストラリアの次期潜水艦選定に日本が参加
続いてオーストラリアの潜水艦選定に関する話題である。
かねてよりオーストラリア当局は、日本、ドイツ、フランスに対してオーストラリア海軍の次期潜水艦選定手続きに参加するよう要請していたが、韓国の「柳寛順」が進水したゴールデンウィーク明け、日本政府はオーストラリアへの最先端技術提供を前提とした選定手続きへの参加の意向を明らかにした。
現在、オーストラリア海軍は、スウェーデンのコックムス社が開発した6隻の「コリンズ級」攻撃潜水艦を運用している。周辺海域が広いという地理的理由と、敵の脅威を自身の海岸線からできるだけ遠方の海域(たとえばインドネシアやフィリピンなどの島嶼海域の海峡部)で除去するという戦略的理由から、オーストラリア海軍はできるだけ大型の潜水艦を欲している。
ただし、オーストラリア自身は潜水艦開発建造能力を保有していない。そのため、海外からの輸入あるいは共同開発に頼らざるをえない。
オーストラリアの潜水艦運用構想に適しているのは攻撃原子力潜水艦であるが、同盟国アメリカといえども国家最高機密の1つである原潜のオーストラリアへの輸出は不可能に近い。一方、原潜に代わる大型の高性能通常動力潜水艦ならば、輸入あるいは共同開発を見込める。そこで、そのような潜水艦建造能力を持つ友好国であるドイツ、フランス、そして日本に声をかけたのである。
先端潜水艦技術は国家最高機密の1つ
オーストラリア海軍の欲している通常動力潜水艦に最も適合しているのは、海上自衛隊が運用中の「そうりゅう」型攻撃潜水艦であることは異論を待たない。ただし、国際海軍常識にしたがうと、日本が現行の主力潜水艦技術を、いくら友好国に対してとはいえ、そうたやすく提供するとは考えにくい。
そうりゅう型潜水艦(SS501)
2015/02/28 に公開。2015年2月27日に海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦の3番艦はくりゅう(SS-503)が、米国派遣訓練のためアメリカ・ハワイの真珠湾に寄港。2月6日に横須賀を出港し、ハワイ方面及びグアム方面に滞在して諸訓練を実施し、5月9日に呉へ帰港予定 .
もっとも、オーストラリアが次期潜水艦選定を模索し始めた数年前には、日本は武器輸出三原則が存在していたため、「そうりゅう」型潜水艦の輸入あるいはその技術移転は望むべくもなかった。オーストラリア海軍にとっては、幸運にも安倍政権が武器輸出禁止三原則を転換し、兵器や軍事関連技術の輸出解禁政策に踏み切ったため、日本の潜水艦あるいは潜水艦技術を入手できる可能性が生じたのである。
しかし、上記のように、国家最高機密の1つである最先端潜水艦技術を積極的に外国に(この場合、当然のことながら同盟国や友好国に限られる)提供しようという国家が存在することは想定しにくい。おそらくオーストラリアにしても、すんなり日本政府が「そうりゅう」型潜水艦の先端技術を提供するとは考えてはいなかったと思われる。
しかし、日本政府は安倍政権が打ち出した「防衛装備移転三原則」の実施を急ぐためなのか、最先端潜水艦技術の提供という国際的には稀有な方針を積極的に推進しようとしている。
オーストラリア海軍はともかく、アメリカ海軍関係者には、このような日本政府の「潜水艦先端技術売り込み」方針に驚きを隠せないものが少なくない。「神以外はすべてを疑え」をモットーにする米海軍情報部の関係者などは次のように指摘している。
「いくらオーストラリアが友好国であるといっても、つい最近には親中派が政権を担ったこともあるオーストラリアに最先端潜水艦技術を提供することの危険性を、日本は考えるべきではなかろうか?」
「アメリカにとって日本は重要な同盟国ではあるものの、原子力潜水艦を日本に提供することは極めて困難だ。海自のAIP潜水艦(「そうりゅう」型潜水艦)技術は、日本にとってはアメリカの原潜技術に匹敵する。日本政府は最先端潜水艦技術の重大性を正しく認識しているのだろうか?」
東南アジア諸国に輸出するほうが日本の国益にかなう
米海軍関係者が指摘するまでもなく、日本の潜水艦技術陣が培ってきた、「日本国防技術の宝」とも言える最先端潜水艦技術を“気前よく”オーストラリアに提供するのは、海千山千の国際軍事社会においてはあまりにも“お人好し”に過ぎる、特異な風景と言わざるを得ない。
その最先端潜水艦技術は、一歩間違えば海上自衛隊の主力潜水艦を危殆(きたい)に瀕せしめかねない。そんな技術を他国に提供するくらいならば、同じ潜水艦分野でも一世代前の潜水艦や技術を輸出したほうが国防上安全であることは言うまでもない。
一世代前の海自潜水艦でも台湾や東南アジア諸国には強力な助っ人になる
(おやしお型潜水艦「いそしお」SS594、写真:海上自衛隊)
(おやしお型潜水艦「いそしお」SS594、写真:海上自衛隊)
2014/12/28 に公開。海上自衛隊の潜水艦の内部にANNのカメラが入りました。「おやしお型」の潜水艦は現在、海上自衛隊の主力で、日本周辺の海域で領海の警護などにあたっています。 おやしお型潜水艦の「やえしお」は、全長82mで対艦ミサイルなどを装備しています。
もちろん、オーストラリアに「そうりゅう」型潜水艦関連技術を提供したり、共同開発を実施することにより得られる利益もある。その利益を日本自身の潜水艦調達に投入することで、海自の潜水艦戦力の強化が図れるかもしれない。しかし、オーストラリア海軍の調達予定数は6隻であり、上記のような危険性と利益衡量(こうりょう)すると、日本にとって決定的に“美味い話”ということにはならない。
このような経済的見返りに着目するならば、海自の一世代前の潜水艦をアメリカ経由で台湾に供与したり、シンガポール、インドネシア、マレーシアそれにベトナムなど東南アジア諸国に輸出したほうが、日本にとっての経済的効果は大きい。
(アメリカは台湾に通常動力潜水艦8隻を供与する約束をしているが、アメリカ自身が通常動力潜水艦を建造する技術を持っていないため、その約束が長らく実現できない状況が続いている)
戦略的に考えても、オーストラリア海軍の潜水艦戦力が強化されるよりは、台湾や南シナ海周辺の日本にとって友好国の潜水艦戦力が強化されるほうが、「南シナ海を縦貫するシーレーンの自由航行を中国海軍の魔手から防御する」という日本の国益により直結する。
日本政府は躍起になってオーストラリアに最先端潜水艦技術を売り込もうとしているのであるから、やや古い世代の潜水艦やその技術を輸出することに関しては、全く国内的な問題はないはずである。したがって、日本の防衛に“より直結”するとともに経済効果も大きい台湾や東南アジア諸国への潜水艦輸出を、オーストラリアへの技術移転より優先させたほうが、日本の国益に資することは明らかであろう。
【維新嵐】 我が国の潜水艦の供与、共同開発を望む国はアジアではたくさんあるでしょう。タイも好きで共産中国の潜水艦を導入したわけではないでしょうし。ただ「武器市場」は熾烈な生き馬の目を抜くような側面もあり、まずは外交戦略、経済戦略で市場へ売り込める準備を。
【維新嵐】 我が国の潜水艦の供与、共同開発を望む国はアジアではたくさんあるでしょう。タイも好きで共産中国の潜水艦を導入したわけではないでしょうし。ただ「武器市場」は熾烈な生き馬の目を抜くような側面もあり、まずは外交戦略、経済戦略で市場へ売り込める準備を。
日本の先進技術
次期潜水艦に搭載が予定されている新技術リチウムイオン蓄電池
AIP推進機関型潜水艦より敏捷性が高く、長く潜航できる。
日本はディーゼルエンジンに強い
当初は輸入を目指していた
米国海軍の高官は日本を支持
日本の安全保障にも有益なのだが・・・
オーストラリアは日本の潜水艦を買うのか
外交問題というより日本国内に横たわる課題
2015年05月23日http://toyokeizai.net/articles/-/70703
フリージャーナリスト 竹内修
政府は(2015年)5月18日に開催した国家安全保障会議で、オーストラリアへの技術情報移転を認めることを決定した。オーストラリア政府が同国の将来潜水艦プログラムにおいて、日本との共同開発・生産を検討していることを受けてのことだ。
情報移転の対象となる潜水艦については日本側は明らかにしていない。しかし、オーストラリア国防省の報道官は、海上自衛隊のそうりゅう型の技術情報を要求したことを認めている。
技術情報の移転にあたっては、防衛装備移転三原則で情報の適性管理が求められているが、今回移転される技術情報は、潜水艦の全部または一部の建造を可能とするものではなく、オーストラリア政府内での検討に用いられる主要な寸法や性能情報などに限定されており、検討以外の目的への使用や、第三国への技術情報の移転などの可能性がなく、情報の適性管理が行われると判断されて今回の決定に至った。
この決定により、日本がオーストラリアの将来潜水艦の選定コンペに参加する道が開けたことになる。
日本はディーゼルエンジンに強い
オーストラリアの将来潜水艦の選定コンペには、フランスとドイツも技術情報の提供をオーストラリア政府から求められている。ここに米国やイギリスの名がないことを、不思議に思われる方もおられることだろう。米国は1950年代、イギリスは1960年代から攻撃型潜水艦、つまり敵の潜水艦や水上艦艇を攻撃する潜水艦の動力を原子力推進に切り替えており、オーストラリア政府が求めている、ディーゼルエンジンで推進する通常動力型潜水艦を開発・建造する能力を失っている。
http://toyokeizai.net/articles/-/70703?page=2
通常動力型攻撃潜水艦は広く世界に普及しているが、その開発・建造能力を持つ国は極めて少ない。今回、オーストラリアから技術情報の提供を要請された日本、フランス、ドイツ以外で通常動力型潜水艦の建造能力を持つ国としては、ロシア、中国、スウェーデンといったところだが、ロシアと中国を共同開発・建造のパートナーとすることはオーストラリアの外交政策からいってありえない。
現在運用されているコリンズ級潜水艦は、スウェーデンのコックムス社が設計しており、実績面では有利だが、騒音が大きく、また不具合も数多く発生していることから、オーストラリア海軍の評価は極めて低い。このためオーストラリアのアボット首相は今年2月、スウェーデンが20年以上潜水艦の新規建造を行なっていないことなどを理由に、選定コンペから同国を排除し、日本、ドイツ、フランスの3カ国を選定コンペの対象とすることを明言している。
フランスはチリ、マレーシア、インドなどへの潜水艦の輸出実績がある。ドイツも、イタリア、韓国などに輸出実績がある。それに対し、潜水艦はおろか武器の輸出実績をほとんど持たない日本は、選定コンペでは不利な立場にあるとの見方もある。ネット上では「しょせん日本は当て馬」との意見も見受けられる。しかし、この見方は正しくない。
当初は輸入を目指していた
実のところオーストラリアは、当初、日本で建造した「そうりゅう型」をそのまま輸入する意向を示していた。ただ、日本側には防衛装備移転三原則で完成品の輸出を認めた分野を、輸送、救難、警戒、監視、掃海に関連したものに限定しているため、完成品を輸出することは極めて難しい。
また、オーストラリア側にも日本で建造した潜水艦を輸入すると、国内の造船所の雇用が喪失するため、産業界や野党の労働党からの大きな反発を受けた。こうした、それぞれの事情から完成品の輸入という方針を転換し、コンペによって選定した外国との共同開発・生産が決定した。
選定コンペという形になった現在でも、オーストラリア側の意向は変わっておらず、依然として日本は有利な立場を維持し続けている。5月13日から15日までの3日間、横浜で日本初となる武器展示会「MAST Asia 2015」が開催されたが、オーストラリアはこの展示会に参加した企業や組織の中で最も大きなブースを出展し、自国の造船業界の現状のアピールに務めていた。
日本が有利な立場を占めている最大の理由は、フランス、ドイツが現在建造している通常動力型攻撃潜水艦が、オーストラリアの要求性能に比べて小さいことにある。
これに対してフランスはオーストラリアの要求を充たせる新設計の潜水艦と、現在、建造している潜水艦の拡大型の二段構えを見せている。また、ドイツは現在建造している潜水艦の拡大型をオーストラリアに提案する意向を示している。ところが、オーストラリア側は、コリンズ級において、大型潜水艦の設計・建造実績の無いスウェーデンに設計を任せた事がトラウマとなっている。そのため、大型の通常動力型攻撃潜水艦の建造実績の豊富な、日本を共同開発・建造のパートナーとすることが、最もリスクの少ない方法であると考えている。
もうひとつの大きな理由と言えるのが、コリンズ級後継艦に米国製の戦闘システムの搭載が決まっていることだ。潜水艦の「頭脳」であり、その戦闘力を左右する戦闘システムは極めて機密性が高く、米国は重要な同盟国であるオーストラリアに戦闘システムを提供することに依存はない。
米国海軍の高官は日本を支持
とはいえ、設計や建造の段階で、戦闘システムの機密にはなるべく手を触れられたくないという気持ちが強い。筆者は2月にUAEのアブダビで開催された、海軍関係の兵器展示会「NAVDEX 2015」の会場で、フランスとドイツの潜水艦メーカーの担当者は米国製戦闘システムの搭載に問題はないのかと質問してみた。すると、彼らの回答は「ノー・プロブレム」だった。ただ、潜水艦の戦闘システムを手がける米国の企業の担当者に同じ質問をしてみたところ、フランスに関しては戦闘システムの機密情報が盗まれる可能性があるため、「できれば避けたい」とも本音を漏らしていた。
海上自衛隊の潜水艦の戦闘システムは、日本製であって米国製ではない。しかし、海上自衛隊は米国海軍と密接な関係にあり、戦闘システムに大きな互換性が持たされている。そのため、日本のそうりゅう型をベースとしたほうが、ドイツやフランスの潜水艦の戦闘システムに比べてシステムの統合の面でも、また機密保持の面でも米国にとっては望ましい。
3月にオーストラリアのアデレードで開催された、コリンズ級潜水艦のあり方を協議する「フューチャー・サブマリン・サミット」に出席した米国海軍の高官からは、「そうりゅう型をベースにすべき」との意見が出されている。
ただ、こうした有利な状況にあるにもかかわらず、潜水艦の設計・建造を手がける三菱重工、川崎重工の両社が、積極的な姿勢を示していない。「フューチャー・サブマリン・サミット」にはオーストラリア側から両社に対しても招待状が送られたのだが、結局、参加を見送っている。
両社が積極的な姿勢を示していない理由は明確ではないが、このビジネスに参加することで、結果として企業イメージを損ねることを危惧している可能性が考えられる。
両社は長年にわたって日本の防衛産業では中核の位置を占めているが、これまで日本には防衛産業を積極的に評価していく土壌がなかった。そのため両社にかぎらず、大多数の企業は防衛産業に積極的なイメージを持たれることを好んでいない。コンペに参加することになれば、防衛省だけを相手にビジネスをしてきたこれまでとは異なり、対外的に積極的なアピールをしていく必要が生じる。これまでの経緯を踏まえれば、この方針転換には大きな勇気を必要とするだろう。
日本の安全保障にも有益なのだが・・・
また、欧米の大手メーカーと異なり、日本の防衛関連企業には、米国と行なったごく一部の例を除いて、共同開発・生産を行なった経験がない。兵器の共同開発・生産には参加国の思惑の違いなどから、トラブルが生じることも少なくない。民間企業の立場とすれば、このビジネスに参加することが、トラブルのリスクを抱えたとしても参加する意義のある、さらに言えば本当に利益を生むものなのかを見極めたいという気持ちもあるだろう。
コリンズ級後継艦は12隻の建造を予定しており、今後、防衛費の大幅な伸びが望めない現状においては、三菱重工、川崎重工の両社にとって大きなビジネスチャンスとなる。また、コリンズ級後継艦は、中国の海洋支配を牽制することも目的としており、日本の安全保障にとっても有益であることに疑いの余地はない。
日本政府はコリンズ級後継艦の選定コンペに積極的な姿勢を示している。しかし、肝心のメーカーがその気にならなければ、選定コンペに勝ち抜くことはおろか、参加することすらできない。防衛産業の健全な成長と安全保障環境のさらなる強化を望むのであれば、政府には強いリーダーシップを持って企業を牽引し、企業が安心して参加できるフレームを構築するための交渉力が求められる。つまり、外交問題のようでいて、その実は、国内の問題なのである。
【維新嵐】 豪州政府は、我が国の潜水艦共同開発を決断しませんでした。世の中こんなものです。製品の質がいいだけでは物は売れませんね。
【維新嵐】 豪州政府は、我が国の潜水艦共同開発を決断しませんでした。世の中こんなものです。製品の質がいいだけでは物は売れませんね。
米国に衝撃、タイが中国から潜水艦を購入へ
米国の失策と日本の無策の隙に中国が売り込みに成功
北村 淳 2015.7.2(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44179
タイの国防体制は中国に取り込まれてしまうのか? バンコクで行われたプミポン・アドゥンヤデート国王の誕生日を記念した式典で行進する士官候補生(2014年12月5日撮影、資料写真)。(c)AFP/Nicolas ASFOURI〔AFPBB News〕
先週、タイ国防当局の調達委員会が、中華人民共和国から3隻の潜水艦を購入することを決定した。このニュースはアメリカ国防当局、ホワイトハウスならびに連邦議会に衝撃を与えている。
2013年に発生したタイでの軍事クーデター以降、オバマ政権はタイ政府に対して、人権抑圧を理由として政治的・軍事的に「あまりにも冷たい態度」をとっていた。そのことに懸念を表していたアメリカ軍関係戦略家たちは、このようなオバマ政権の対タイ政策の失策を嘆いている。
中国製潜水艦は「リーズナブルなトヨタ車」?
永きにわたって潜水艦を保有してこなかった王立タイ海軍にとって潜水艦の保有は悲願であり続けた。しかしながら、タイには自国で潜水艦を建造する能力はないし、外国から調達するにしても極めて高価であるため、なかなか潜水艦調達予算を捻出するには至らなかった。
ところが、数年前から、中国による南シナ海やインド洋拡張戦略に対応する形で東南アジア、南アジア諸国海軍では、潜水艦の調達に向けての機運が高まってきた。そのような周辺諸国の動きに対応し、2011年、王立タイ海軍はドイツから6隻の小型潜水艦を77億バーツで購入する計画を建てた。しかし、時のインラック政権によって計画は承認されなかった。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44179?page=2
その後、クーデターにより軍事政権が誕生すると、一度葬られた潜水艦購入計画は復活することに成功した。正式に潜水艦調達調査予算も計上されたため、王立タイ海軍に対して韓国、ドイツ、フランス、スウェーデン、ロシアそれに中国が潜水艦の売り込みを開始した。
かつて冷戦中は、王立タイ海軍が外国から軍艦を調達する場合はアメリカやNATO諸国から輸入していたのだが、近年は韓国や中国に発注あるいは購入するようになっていた。また、上記のようにドイツからの購入計画も存在していたため、アメリカ海軍関係者などは、性能面ではドイツやスウェーデン、あるいは価格面では韓国といったところが有望と見ていた。
ところが、韓国、ロシアそして中国が最終候補リストに残り、性能、価格、付加サービスを総合的に判断して中国製潜水艦を調達することに決定されたようである。
タイ政府当局において、潜水艦の専門家以外からは「いくらヨーロッパ製やロシア製より価格が安いからといって中国製で信頼できるのか?」という危惧が上がっていた。これに対して調達委員会は「信頼性が高いとはいえ、高額なメルセデスを購入してガソリン代が枯渇してしまうよりは、信頼性が高くリーズナブルなトヨタを購入してガソリン代を捻出したほうが良いではないか」といった論法で、今や50隻近い近代的潜水艦を製造し運用している中国からの調達を決定したという。
この決定は、あくまで調達委員会の決定に過ぎず、タイ政府の正式な承認が必要である。だが、王立タイ海軍は中国から1隻120億バーツ(およそ440億円)で3隻の潜水艦を購入することになる可能性が高い。
海軍間の強固な関係構築につながる潜水艦の取引
アメリカ海軍関係者たちは、このニュースを以下のように深刻な事態と考えている。
「オバマ政権がタイ軍事政権に対して頑ななほど冷たい態度をとり続けていたのを絶好の機会として、中国共産党政府がタイ政府やタイ国防当局を取り込みつつある成果の1つと考えねばならない」
もちろん、潜水艦を中国から購入するというだけで、タイ軍が中国に取り込まれてしまったと見なすわけではない。しかしながら、国家機密の塊とも言える潜水艦の取引は水上戦闘艦の取引とは比較にならないほど当事国の海軍間の強固な関係構築につながる。したがって、少なくともアメリカ政府の対タイ政策が現状のままならば、潜水艦調達を機に、やがては海軍だけでなくタイ軍部と人民解放軍の関係が強化され、これまで培ってきたタイ軍とアメリカ軍の関係が弱体化していく可能性は大きいと考えざるをえない。
いずれにせよ、東アジア、東南アジアにおけるアメリカの影響力を減殺させようという中国の外交軍事戦略が着実に進んでいることは、今回の潜水艦調達を見ても明らかである。「オバマ政権の“アジア・ピボット”は、一体いかなる成果を上げているのか!」というアメリカ軍関係者の怒りはもっともと言えよう。
王立タイ海軍と日本製潜水艦の接点
オバマ政権による対タイ政策の失敗に対する批判に加えて、「まだ中国からの潜水艦調達が正式に決定されたわけではない。オバマ大統領自らが、タイ軍事政権にアメリカの対タイ政策の調整と引き換えに潜水艦調達の再考を促す、という最後のオプションが残されている」という声もある。
ただし、アメリカ側にとって大きな問題がある。というのは、アメリカ自身がタイに輸出できる潜水艦建造技術を持っていないことである(王立タイ海軍が調達したいのは通常動力潜水艦であり、アメリカには原子力潜水艦建造能力しかない)。したがって、タイ政府に働きかけるといっても、自ら中国製潜水艦に取って代わる潜水艦を提示するわけにはいかないのである。
そこで、登場するのが日本製潜水艦である。かねてよりアメリカ海軍関係者たちがアメリカが台湾に供与することを約束している8隻の潜水艦の製造国として日本が名乗りを上げることを期待している(「潜水艦技術を供与して台湾の苦境を救え」、2014年11月20日)のと同様に、同盟国日本の潜水艦を王立タイ海軍が調達することは、アメリカにとってだけでなく日本にとってもタイとの戦略的相互協力関係を構築する妙手と言えよう。
実は王立タイ海軍と日本製潜水艦には接点がある。
かつて王立タイ海軍は潜水艦を運用していたことがあった。1910年、王立タイ海軍は潜水艦導入を計画した。しかし極めて高額な潜水艦調達費の捻出が議会の承認を得たのは4半世紀後の1935年であった。そしてタイ当局が調達先としたのが日本であった。
1935年10月、当時すでに世界でも有数の潜水艦建造技術を身につけていた三菱重工が1隻あたり82万バーツで4隻の潜水艦建造を受注した。それとともに、合わせて100名以上の王立タイ海軍の将兵たちが日本に派遣され、日本海軍によって潜水艦操艦技術の特訓を受けた。
1937年9月4日、マッチャーヌ級潜水艦1番艦マッチャーヌと2番艦ウイルンが三菱重工から王立タイ海軍側に引き渡された。現在でも王立タイ海軍では9月4日は「潜水艦記念日」とされている。引き続き3番艦シンサムッタと4番艦プライチュンポーンも完成し、1938年6月、日本での訓練を完了したタイ将兵たちにより4隻の日本製潜水艦は神戸港からタイに回航された。
王立タイ海軍マッチャーヌとウイルン(神戸港にて、Wikimedia)
その後、4隻の潜水艦は主としてタイ沿海防衛に従事した。第2次世界大戦中、日本と同盟国であったタイ王国はアメリカ軍の爆撃を被ったが、1945年4月14日のバンコク大空襲に際して発電所が破壊され、バンコクは電力を失ってしまった。そこでマッチャーヌ級潜水艦が港に係留されて発電し、路面電車を動かしたという逸話がある。第2次大戦後は、日本が敗北しメンテナンスや部品供給が途絶してしまったため、1951年11月末をもって4隻の日本製潜水艦は全て退役することとなった。
それ以降、現在に至るまで、王立タイ海軍は潜水艦を手にしてはいない。また、三菱重工が建造した4隻のマッチャーヌ級潜水艦が、現在に至るまで日本が輸出した唯一の潜水艦である。
潜水艦建造能力を戦略的に使え
タイだけでなく、台湾、ベトナム、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ミャンマー、パキスタンそれにインドなどのアジア諸国海軍では、通常動力潜水艦購入計画あるいは購入の機運が高まっている。それらの潜水艦市場に売り込みをかけられる国は、中国、ロシア、ドイツ、スウェーデン、フランス、オランダ、韓国、それに日本と極めて限られている。そして、潜水艦建造メーカーが複数存在しているのは日本だけである。
現在、日本政府は、オーストラリアへの潜水艦技術移転に固執しているが、このような共同開発では、やがてそれらの日本の技術が諸外国に拡散してしまうのが関の山であり、企業側にとっても利益を生み出さない、理想から程遠いビジネスである。
東南アジア、南アジア諸国だけではなく、多くの新興国海軍が通常動力潜水艦を欲している。その状況に呼応して、日本企業を保護しつつ日本製潜水艦(もちろん輸出バージョン)の輸出戦略を打ち立てることこそ、日本国防当局の責務である。
【潜水艦といえばこれ!水中での不意の攻撃・事故への危機管理】
【潜水艦といえばこれ!水中での不意の攻撃・事故への危機管理】
もし潜水艦が沈没したら…潜水艦救難母艦「ちよだ」&潜水艦救難艦「ちはや」 その世界一の救難能力とは?
海中での隠密行動を基本とする潜水艦も、故障や敵からの攻撃で“沈没”してしまう可能性がある。水面への浮上を前提とした“潜行”とは異なり、自力での浮上が不可能になった最悪の状態を指す。潜水艦が沈没してしまった場合、艦内に残された乗員を救助することが急務となる。その役割を果たすのが、海上自衛隊の潜水艦救難母艦「ちよだ」と潜水艦救難艦「ちはや」の2隻だ。
海自幹部は「水上船の沈没と違い、密閉された潜水艦では乗組員が生存している可能性が高い。イージス艦のような華はないが、救難艦の任務は重い」と指摘する。
沈没した海の深度が浅ければ潜水艦ごと引き上げる救助も検討されるが、近年の潜水艦は潜行可能深度も増し、艦体も大型化している。そのため、乗員のみを救う方法が基本となる。
救難艦に搭載された深海救難艇(DSRV)を沈没した潜水艦のハッチに接続し、救助活動を行う。DSRVは最大約300メートルまでの潜行が可能で、1度に12人の乗員を救助・収容が可能。接続した潜水艦内の気圧を調節することもできる。
2隻の救難艦のうち、ちよだは「母艦」と冠する通り、救助機能に加え、潜水艦への食料や水、燃料などの補給機能も備える。潜水艦1隻分の乗員にあたる80人分の休養・宿泊施設も整備されている。船体の全長は113メートル、幅17・6メートル、基準排水量3650トンで、乗員は120人。艦名は江戸城の別名「千代田城」に由来。昭和60年に就役した。
一方、ちはやはDSRVに加え、人員輸送カプセルや艦上減圧室、無人潜水装置などを搭載。手術室やレントゲン室など医療施設も充実している。全長128メートル、幅20メートル、基準排水量5450トン、乗員125人。艦名は「千早城」に由来し、平成12年に就役している。
海自は5月22日~6月7日に韓国で行われる西太平洋潜水艦救難訓練「パシフィック・リーチに、「ちよだ」と練習潜水艦「おやしお」を派遣する。米国やオーストラリア、韓国、マレーシアなど約20カ国が参加するが、武居智久海上幕僚長は海自の潜水艦救難技術について「かけ値なく世界一だ」と豪語する。
幸いなことに、ちよだ、ちはや共にこれまで実任務への出動実績はない。しかし、いつ起こるとも知れない潜水艦の沈没という最悪の事態に備え、救難・救助技術を日々、磨き続けている。(政治部 石鍋圭)
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