2019年2月4日月曜日

低下する?アメリカ第七艦隊の軍事的影響力 変化する「戦争の形」 各国で続くデータ移転

第1章 台湾海峡を米軍艦が通航しても、中国が動じない理由

色あせていく米国第7艦隊の「世界最強神話」
北村淳
海上自衛隊「たかなみ」(手前)と並走するアメリカ海軍ミサイル駆逐艦「マッキャンベル」
 2018124日、アメリカ海軍ミサイル駆逐艦「マッキャンベル」と補給艦「ウォルターSディール」が南シナ海から台湾海峡を通過して東シナ海へと抜けた。アメリカ海軍艦艇による台湾海峡通過は、昨年(2018年)の10月下旬からは4カ月間で3回と、ペースが上がっている。
アメリカ海軍の補給艦「ウォルターSディール」
FONOPと台湾海峡通航の違い

 アメリカは、南シナ海の西沙諸島や南沙諸島での中国の過剰な海洋主権の主張を牽制するという名目で、「FONOP(公海での航行自由原則維持のための作戦)」を断続的に実施してきた。アメリカの真意は、南シナ海での中国による軍事的優勢の拡大を抑制することにある。しかしながら表向きには、あくまでもFONOPは軍事的威嚇ではなく、国際海洋法秩序の維持という大義名分を掲げている。そのため、「中国が主権を主張する海域において、基準としている線の引き方が国際ルールをないがしろにしている」、または「中国が主権を主張する海域を外国軍艦が航行する場合に事前に中国当局に通知せよという中国政府の要求は、国際海洋法秩序とは相容れない」といった国際法的な疑義を呈して、南シナ海でのFONOPを実施しているのである。ところが、アメリカ軍艦が台湾海峡を通航するのはFONOPではない。たとえ「台湾は中国の一部であり台湾省である」という中国政府の主張に従ったとしても、台湾海峡は中国の主権とは抵触せずに通過することが可能である。
なぜならば、台湾海峡の幅は最も狭い部分でも70海里近くある。よって、中国側の領海幅と台湾側の領海幅を差し引いても46海里近い公海幅があり、それぞれの接続水域幅を差し引いても22海里以上の公海幅があるからだ。
中国と台湾の間が台湾海峡。東シナ海と南シナ海をつないでいる(Googleマップ)

伝統的戦略で中国を威嚇

 では、アメリカ海軍が頻繁に軍艦を台湾海峡に派遣して通航させる狙いは何か。
 台湾海峡は台湾と中国を隔てているだけでなく、台湾軍と中国軍が常に睨み合っている軍事的緊張エリアである。したがって、台湾海峡を第三国の軍艦が航行することを中国政府が極端に忌み嫌う行為であることは当然である。そのため、台湾海峡に軍艦を派遣する(中国と台湾以外の)国はアメリカ以外には見当たらないのだが、これまではそのアメリカといえども頻繁に台湾海峡に軍艦を送り込むことはなかった。アメリカが台湾海峡に軍艦を送り込むのは、中国に対して強い政治的メッセージを与える場合、あるいは1996年の台湾危機の時のように露骨に軍事的威嚇を行う場合に限られていた。すなわち、昨年の10月以降、3回も台湾海峡へ軍艦を派遣しているということは、トランプ政権が中国に対してかなり強い政治的メッセージを与えるための軍事的威嚇を実施していることを意味している。
 アメリカ海軍は昨年の10月下旬には駆逐艦と巡洋艦を通航させ、11月下旬には駆逐艦と補給艦を、そして今回も駆逐艦と補給艦を台湾海峡に送り込んだ。そして、リチャードソン海軍作戦部長(米海軍トップの軍人)は、近いうちには空母艦隊を通過させることを示唆している。
中国を威圧したいトランプ政権は、アメリカが最大の軍事的威嚇になると考えてきた空母艦隊まで台湾海峡を通航させようとしているのだ。
海上自衛隊艦艇が護衛する第7艦隊空母「ロナルド・レーガン」(中央の大型艦、その右隣は海上自衛隊ヘリコプター空母「かが」)
空母第一主義に拘泥するアメリカ

 しかしながら、ここで疑問が生じる。アメリカ海軍のシンボルである空母艦隊を台湾海峡に派遣することが、かつてのように中国に対する軍事的威嚇になるのか? という疑問である。
 有名な軍事格言に「将軍たちは過去の戦争で現在・将来を戦う」(『Generals Always Fight the Previous War』単に『Fighting the Last War』とも言われる)というのがある。これは、かつて勝利した側の軍事指導者たちは、その勝利した戦争における戦略や戦術そして兵器などを用いて、現在の戦争を戦い、来たる戦争のために準備をすることになりがちである、という意味である。たとえば、アメリカ海軍などでしばしば持ち出される具体例として、1941年の日本海軍による真珠湾奇襲攻撃は、日露戦争の経験を繰り返した奇襲戦略であったという説明がある。日露戦争は1904年の日本海軍による旅順奇襲攻撃で始まり、結果的に日本が勝利を収めた。日本はその経験を踏襲したというわけだ(もちろん、この説明には問題山積なのであるが)。
もはや脅威ではないアメリカ海軍空母打撃群
 軍事組織は、過去の戦例や訓練などの経験から導き出した戦略や戦術そしてそれらから編み出したドクトリンによって組織を構築し、軍備を整え、訓練を積んでいる。したがって、そのような「過去の戦争経験(勝利した戦争、成功した経験)」から脱却して抜本的変革をなすことは、あたかも自己否定をすることになるようで、頭では理解していてもなかなか進んで実施できないというのが常である。
アメリカ海軍にもそれは当てはまる。真珠湾攻撃を受けたアメリカ海軍はミッドウェー海戦での逆転勝利によって、航空戦力中心主義、すなわち空母第一主義に転換して、日本海軍を壊滅させた。その後もアメリカ海軍は、世界最強の空母戦力を手にすることによって、ソビエト連邦との冷戦に打ち勝った。さらに冷戦後も世界の警察官として引き続き世界中に空母艦隊を派遣して睨みをきかせてきた。ところが、東アジア軍事情勢、とりわけ中国海洋戦力を中心とした軍事情勢は急激に変化している。中国海軍や人民解放軍首脳たち、それに中国共産党指導部は、アメリカ海軍空母打撃群が台湾海峡や東シナ海、南シナ海に姿を現しても、もはやそれを脅威に感じないで済むだけの撃破態勢を固めつつある。
 世界に先駆けて開発した対艦弾道ミサイル、膨大な数に上る多種多様な対艦ミサイル、世界最大の在庫量を誇るスマート機雷、強力なパンチ力を持った100隻近い高速ミサイル艇、静粛性を飛躍的に増しつつある潜水艦など、目白押しの中国の接近阻止戦力をアメリカ海軍も危惧している。さらに、極超音速兵器開発やレールガン開発ではアメリカをリードしていると言われており、無人航空機や無人艇の開発分野もスピードアップしている。
日米同盟にすがりついている日本も、いつまでも第7艦隊の「世界最強神話」に頼っていると、気が付いたときには取り返しがつかない状況に陥っているであろう。敵を知り、己を知り、味方も知らねば、国際軍事競争に生き残ることはできない。
アメリカ第七艦隊 「世界最強艦隊の全貌」
共産中国の迎撃能力の向上と米艦隊の練度の低下が、アジアでの米軍戦力の相対的な低下を招いているのか?

アメリカ第七艦隊旗艦ブルーリッジ




第2章【現代の戦争の形 ハイブリッド戦】

フェイクニュース、ネット世論操作、ハイブリッド戦の関係
(例をあげているのはロシア)
※軍事行動 戦闘全体の25
※ハイブリッド脅威 戦闘全体の75
戦争の7割以上は、リアルに軍事兵器を用いて行われるガチの戦争ではなく、「直接人が死なない戦争」になっているのが世界の現状です。特に我が国に軍事兵器を使った攻撃をしかける国は皆無です。しかし我が国の他国に類をみない、他国に対して優位にたてるような技術的な情報、個人、法人の財などは絶えず世界中から攻撃をうけている(=奪われている)といっていい状況です。以下にあげるのは、軍事戦争によらない戦争の形です。
ネット世論操作
  フェイクニュース
アメリカ大統領選挙で猛威をふるったフェイクニュース。
  SNS
フェイスブック、ツイッター、Google+など。
  戦略的情報漏洩
アメリカ大統領選期間中に民主党とヒラリー陣営からサイバー攻撃によって盗み出した情報を公開したような情報漏洩。公開先としてロシアとの関与を疑われているウィキリークスが使われた。
サイバーツール
サイバー攻撃、諜報活動、情報改竄、乗っ取りなど
※アメリカ第七艦隊のイージス駆逐艦の衝突事故をひきおこさしめたのは、駆逐艦のレーダーシステムへのサイバー攻撃(ハッキング?)といわれます。なおこの見解は北村淳氏は否定されていますね。
政党
相手国内の政党への支援
組織への資金提供
シンクタンクなどを使ったPR
組織的抗議運動
抗議団体などへの資金提供や扇動。
財閥
ロシアの新興財閥(オリガルヒと呼ばれる)を利用してビジネス、政治など様々な影響力を拡大。
プロパガンダ
伝統的なものからSNSまで政権の広報に利用する。
国内メディア
国内メディアは国内だけでなく同時に国外にも発信し、情報操作に使う。
宗教
ロシアはロシア正教会との関係を強化し、ヨーロッパ諸国に対する影響力を強める。ギリシャの政党資金の夜明けは、ことあるごとにロシア正教会との関係に言及している。
経済
経済制裁、経済依存度をあげて逆らいにくくするなど。
※米中貿易戦争などは関税率を武器にした経済戦争といえるでしょう。あとお互いの国同士で経済的依存関係が深化すると、軍事力行使が抑止される傾向にあります。
代理戦争
直接戦争することなく、他国などを代理にして戦争する。
匿名戦争
代理戦争のうち、正体がわからない戦争。
ツールの同期
ハイブリッド戦のツールをタイミングよく使い分け連動させることで、より高い効果をあげ、避けにくいようにする。
非合法軍事組織
正規の軍隊ではなく、私的グループを装った軍事組織。

共産中国が、台湾政権に対してしかける戦争の形 ハイブリッド戦


第3章【データの世紀】情報資源に国境線 脱EUで英孤立/中露にリスク
~曇るネットの自由、経済圏分立も~

 データ資源が自由に行き交うネット空間に「国境」が引かれ始めた。各国の個人情報保護規制や国際政治の動きをうけ、大手IT企業が重要情報の保管場所を変更した。欧州連合離脱で混乱する英国や監視社会化が進む中国からデータを遠ざける。経済圏が分立し、世界のデータ流通が滞る懸念が出ている。
 ネットサービスが分断し、企業は対応コスト増に苦しみかねない。安倍晋三首相が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で円滑なデータ流通の国際ルール作りを提唱するなど懸念解消にむけた声も高まる。
拠点移す企業続々と
 アイルランドはデータセンターの建設ラッシュだ。米フェイスブックは2018年の秋、首都ダブリン郊外にのべ床面積約6万㎡の巨大施設を完成させた。早くも数百億円規模の拡張工事に着手した。Googleやアマゾンドットコム、マイクロソフトも既存施設の増強を決定。同国のデータセンター建設投資は、2019年に60億ユーロ(7500億円)超と2016年の2倍を見込む。
 特需は欧州連合離脱の余波だ。多くのIT大手はロンドンを欧州のデータ拠点の軸とし、他の欧州諸国とデータをやりとりして顧客情報の分析などを行う。だが英国が離脱するとEUとの規制にずれが生じる。データ移動の手間やコストがかさむ恐れが出てきた。
 EU2018年に域外への個人情報の移転を原則禁じる一般「データ保護規則(GDPR)」
を施行。英国が離脱すれば他のEU諸国からデータを持ち出すために利用者の同意を取り直すか、特別な契約を結ぶことなどが必要になる。こうした煩雑さを避け、EU内のアイルラ
ンドにデータ連携の軸を移す企業が増えた。同国政府産業開発庁のシェーン・ノーラン上級副社長は「複数社が『英国ではなく貴国を選ぶ』という。」と話す。
 企業のデータセンターは通信速度を保つため、大市場の近くに置くのが常識だった。最
近は地域を越えてデータをやりとりする機会が増え、各国の規制内容も重要な判断基準になる。さらに国家体制の違いも企業のデータ戦略に影響する。
「間違った判断だ。」香港の個人情報保護機関のトップ、ステファン・ウォン氏は2018年秋に悔しさをにじませた。フェイスブックのアジア初の大型データセンター誘致に失敗、代わりにシンガポールが選ばれた。同社の決定理由は不明だが、監視社会化する中国の影響を嫌ったとの観測がある。ウォン氏は「香港の法制は、中国本土と違う。」と強調。“中国リスク”の懸念を他社に広げまいとする。
 中国は国家ぐるみのデータ収集を進め、米企業などが警戒を強める。元グーグル最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏は20189月に「インターネットは米主導と中国主導の2つに分かれる。」と予言している。米IT大手のロビー団体、情報技術産業協議会のジョン・ミラー公共政策部長も「欧米やアジアなどで中国とは別の経済圏を発展させたい。」と話す。
対応コスト重荷
経済圏の細分化はさらに進みかねない。フェイクニュースで米大統領選に介入するなどデータ悪用が疑われるロシアにも、神経をとがらせる動きがみられるからだ。
 2007年にロシアから大規模サイバー攻撃を受けたエストニアは2018年、ルクセンブルクに「データ大使館」を設置。データ防衛のため、国民情報を国外に保存する。ロシアの情報セキュリティー大手、カスペルスキー研究所は、2018年自社ソフトのデータをスイスへ移転。自社につきまとう「ロシアのスパイ活動に協力」との疑惑の払拭を狙う。中立国のスイスでデータ監査を受け、「適正な取り扱い」のお墨付きを得ようとする。
 複数のデータ経済圏の出現は、企業のデータ管理やネットサービスの分断を招き、重い対応コストは成長の足かせになり得る。
 安倍晋三首相は、ダボス会議で123日、企業や消費者が生む膨大なデータについて「自由に国境をまたげるようにしないといけない。」などと演説。世界貿易機関(WTO)加盟国によるデータ流通のルール作りを提案した。十分なデータ保護と円滑な流通を両立する枠組みを構築できるか、各国や企業の力が問われる。(日本経済新聞 平成31127日日曜版 兼松雄一郎氏、寺井浩介氏記事より抜粋)

国際的な傾向:政治や規制が安定する場所にデータが移動している
エストニア データ大使館をルクセンブルクに設立し国民情報を保存。(バックアップ)
ロシア カスペルスキー研究所が、データをスイスに移動。
アイルランド 英国の欧州連合離脱で特需も 大手IT企業の建設投資が進む。
米フェイスブックがアジア初のデータセンターをシンガポールに建設。(香港を避ける)





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