①在韓米軍&韓国国防軍「同盟」の解消・影響力の低下
変わる米韓同盟?日本への影響は
「米韓合同軍事演習中止」は東アジアに何をもたらすのか
伊藤弘太郎 (キヤノングローバル戦略研究所研究員)
2018年7月9日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13310
2018年4月に行なわれた米韓合同軍事演習(写真:ロイター/アフロ)
2018年6月12日に行われた史上初の米朝首脳会談では、共同文書に完全・検証可能・不可逆的な非核化を意味する「CVID」の文言が盛り込まれなかったことが批判された。更に、トランプ大統領自身が記者会見の場で、「今夏からの米韓合同軍事演習を中止する」と表明したことも「一方的な譲歩でないか」と大きな波紋を呼んだ。首脳会談前、多くの専門家は対北譲歩策の一つとして「B-1B爆撃機などの戦略兵器の展開中止」までは予測しており、米韓合同軍事演習に関しても、あくまで「非核化の最終段階で演習規模縮小などを段階的に行っていくだろう」といった観測が有力だった。ところが、トランプ大統領の発言を受けて行われた米韓国防当局による協議を経て、6月18日、今夏の合同軍事演習の中止が正式に発表された。翌19日には金正恩国務委員長の3度目となる中国訪問が行われた。同委員長は「米韓合同軍事演習中止」という手土産を持って、習近平国家主席との会談に臨むことができたのである。
多様な危機を想定してきた米韓合同軍事演習
米韓合同軍事演習は二種類ある。北朝鮮との全面戦あるいは局地戦を想定した米韓連合軍の作戦計画に基づき両軍の陸海空・海兵隊の4軍によって行われる大規模なものと、米韓の同じ軍種間で行われる小・中規模な演習・訓練の二つだ。前者の大規模演習には、毎年3月に行われるコンピュータによる指揮所演習「キー・リゾルブ(略称:KR)」、毎年3月から4月にかけて行われる野外機動演習の「フォール・イーグル(FE・韓国名はドクスリ)」に加え、毎年8月中旬から行われる「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン(UFG)」の3つがある。北朝鮮が事あるごとに「北侵戦争騒動」と非難し、中止を求めてきたのがこれら3つの演習なのだ。一方、後者の小・中規模の訓練には、5月に米韓両空軍が実施した「マックスサンダー」等、米韓両軍の同じ軍種間で行われる定期訓練が主体である。
当初、北朝鮮の非核化を推進するために中止となるのは、前者3つの大規模演習だと予想されていた。しかし、今回はUFGに加えて、米韓海兵隊による合同演習(KMEP: Korean Marine Exchange Program)も中止リストに加えられた。また、来春のKR&FEは、「北の非核化の進展状況を見ながら実施の可否を判断する」とし、「必要に応じていつでも再開できる体制を整える」ものとされた。
今回中止が決まったUFG演習は、韓国政府の国内危機管理担当官庁である行政自治部主管の軍官民による共同演習(乙支演習)と、米韓の軍事指揮所演習(フリーダム・ガーディアン演習)の二つで構成される。後者は、北朝鮮による局地挑発に対する韓国軍単独または米韓共同の対応能力の向上を目指し、全面戦における米韓連合軍の作戦計画に基づき、コンピュータによるシミュレーションを使用して行われる。
通常韓国大統領は乙支演習初日に、青瓦台・地下バンカーにおいて国家安全保障会議(NSC)を招集し、関係閣僚や大統領府スタッフは同会議に出席して、緊急事態対応の手順を各自確認することになっている。ここでいう緊急事態には、北による軍事挑発にとどまらず、韓国国内で発生した重大な自然災害なども含まれる。乙支演習の目的には軍事以外の多様な危機に米軍と合同で対処する能力を訓練することも含まれるのだ。
北朝鮮にとっては量・質ともに驚異
米韓合同軍事演習の効果は、米韓連合戦力の連携強化だけでなく、在韓米軍以外の米インド太平洋軍隷下の部隊、特に在沖海兵隊を中心にした在日米軍部隊の練度向上にも重要な役割を果たしている。近年の例を見ても、岩国基地所属のF-35Bや普天間基地所属のオスプレイのような最新装備品が実戦配備後に米韓合同演習に参加している。陸海空・海兵隊の四軍を統合戦力として訓練できる絶好の機会だからだ。
韓国軍自身も演習による大きなメリットを享受している。6月14日付朝鮮日報では元韓国軍将官の「連合訓練は韓米戦闘体制を固めることはもちろん、我々がとても安い授業料を出して、世界最強の米軍から戦争ノウハウを学ぶ機会1」というコメントが報じられた。この言葉が端的に示すように、統合軍事演習は韓国軍四軍の戦力強化に大きな役割を果たしている。
また、最近の米韓合同軍事演習の特徴としては、戦略兵器である米空軍のB-1B爆撃機や海軍の原子力潜水艦が頻繁に参加するだけでなく、米韓両軍の特殊作戦部隊による合同訓練の様子を公に「見せる」ようになったことが挙げられる。昨年まで米韓両軍は「北の指導部除去」を高らかに掲げており、昨年春のKR&FEには過去最大規模の米特殊戦力が参加したとされる。北朝鮮にとっては、米韓合同軍事演習のために圧倒的な米軍戦力が朝鮮半島に集結するという「量的な脅威」だけでなく、米軍戦力の種類が多様化したことで「質的な脅威」も増すという、より深刻な状況になりつつあったのだ。
対中抑止の意味合いも 日本への影響は?
米韓連合戦力と韓国軍の能力向上が日本の安全保障に貢献してきたことは紛れもない事実である。一方、中国から見れば、対北朝鮮の圧力強化策の一環として行われる米韓、日米、日米韓による連携の強化は、脅威以外の何物でもない。
振り返れば、昨年5月以降、グアムから米空軍B-1B爆撃機が朝鮮半島に頻繁に飛来し、その都度、航空自衛隊と韓国空軍の戦闘機と共にそれぞれの防空識別圏内を編隊飛行した。日本では報道されていないが、昨年のUFG演習開始直前の8月18日、米国防衛産業大手のロッキード・マーチン社は、B-1B爆撃機からの新型長距離射程空対艦ミサイル (LRASM)発射に初めて成功したとする実験映像を自社ホームページ上で公開している2。同ミサイルは今年からB1-Bに、来年からはFA-18E/Fにそれぞれ搭載される予定であり、こうした映像が米国に対抗し海軍力を増強しつつある中国を刺激したことは確実だろう。
このように米韓合同軍事演習は対中抑止力としても機能していたのであり、同演習の突然の中止は、東アジア地域の安全保障環境に大きな変化をもたらす可能性があるだろう。ベル元在韓米軍司令官は「米韓合同軍事演習中止後、6〜9カ月以内に演習を再開しなければ、司令官を含めた軍事力が萎縮する(atrophy)」と発言している3。また、今夏在韓米軍司令官が、ブルックス陸軍大将から、米陸軍総軍司令官のエイブラムス陸軍大将に交代することが内定したとも報じられている。エイブラムス大将はこれまで中東地域を中心に作戦指揮を執って来たが、仮に同大将が今年夏在韓米軍司令官に就任しても、通常在韓米軍幹部を含む在韓米軍首脳部が1〜2年で配置転換されることを考慮すれば、最悪の場合、今後半年以上韓国との大規模統合軍事演習が行われない可能性もある。その場合には、米韓連合戦力の有事における即応性や米インド太平洋軍隷下の部隊に影響が出ることも避けられないかもしれない。
韓国軍はUFG演習の中止という穴を埋めようとするかのように、5月から延期していた韓国軍単独の「太極演習」を8月中旬に、通常よりも1週間長く行うとされる4。これについては戦時作戦統制権返還を見据えた韓国軍独自の能力強化を図る動きとの分析もある。米韓合同軍事演習の中止は、単に北朝鮮の非核化を巡る動きの一環ではない。もし、こうした動きが米韓同盟の質的変化の序章だとすれば、我が国にとって無視できない問題が顕在化することもあり得るだろう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13310?page=3
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韓国が在韓米軍撤退を求めるのは合理的ではないが……
先月29日に京畿道(キョンギド)・平澤(ピョンテク)市にある在韓米軍司令部の開所式が行われ、これによりソウル中心部の龍山(ヨンサン)基地からキャンプ・ハンプフリーへの移転が正式に完了した。多くの米軍関係者とその家族はすでに新司令部に引越を済ませ新生活を始めている。同キャンプへの司令部移転は2016年に開始され、本年には移転作業が完了、2020年までには在韓米軍の家族や軍属4万人以上が居住するようになるとみられる。同移転計画にはすでに1兆5000億ウォンの韓国政府資金が投じられたとも報じられた。
筆者は先月12日の米朝首脳会談後に出張でソウルを訪れたが、現地で驚いたことがある。TVニュース番組の間に「平澤米軍基地正門前徒歩5分の優良物件」、「今後安定的な収入が見込めます」など、在韓米軍関係者居住を見込んだ投資用マンションのCMが頻繁に流れていたのだ。すでに、平澤基地のゲート周辺には米軍関係者向けの立派な賃貸一戸建て住宅が並ぶ「レンタルハウス村」も出現し、基地周辺の土地価格は他の地域に比べて大きく上昇しているという。それだけではない。移転元の南北軍事境界線に近い京畿道では、北部地域に残る米軍基地の返還が、南北融和の一環として促進されるのではないかとの期待が高まっているそうだ。総人口の半分がソウルを中心とする首都圏地域に集中する韓国で米軍基地跡地は、将来の大規模都市開発を可能とする残り少ない貴重な土地なのである。
盧武鉉政権時代に計画された米軍基地・司令部の移転は、激しい反対運動を乗り越え、地元の理解を得て、ようやくこの日を迎えたという経緯がある。日本では、「文在寅大統領が進歩系で親北だから、在韓米軍撤退を求めている」といった指摘も散見されるが、韓国政府が在韓米軍撤退を求めるという見方は現段階では合理的ではない。新たな米軍基地により地域経済が発展へ向けて動き出しただけでなく、軍事的に見ても、韓国独自の国防力建設が道半ばだからだ。韓国政府の懸念は、むしろ、トランプ大統領がこうした韓国の足元を見ながら、在韓米軍駐留費負担増や戦略兵器派遣に伴う費用負担要求などでディール(取引)を仕掛けてくることではないだろうか。
米朝首脳会談の翌日に行われた韓国の地方選挙では与党が大勝し、野党の保守政党は指導部が総退陣した。野党側の新指導部選びは党内の主導権争いによってまとまらず、その政治的影響力の低下は避けられない。1、2年前なら、米韓合同軍事演習の中止など全く考えられない状況にあったが、今や国民世論はこれを許容するようになった。このようにして、今後在韓米軍の縮小や合同演習の中止などが、なし崩し的かつ、米国単独または米韓間だけで決まっていくようになれば、我が国の安全保障に多大な悪影響をもたらすことは確実だろう。一方で、北の非核化措置に向けた動きに重大な疑義が生じれば、米朝関係が一気に昨年のような軍事的緊張状態に戻る可能性も排除できない。我が国にとっては、北朝鮮の非核化の進展度合いとは無関係に、当面座視できない状況が続くだろう。我が国が、米韓同盟の急激な構造変化にも備え、安全保障戦略の再構築を迫られる時が近いうちに来るかもしれない。
〈管理人より〉「集団安全保障」で北朝鮮を封じ込めましょう!
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②「外国人拉致」が暴露されること
拉致被害者は政府認定の12人だけではない
民間団体や警察が拉致された疑いとみる500人超を見捨てるな
森清勇
2018.7.2(月)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53440
東京・元赤坂の迎賓館で、横田めぐみさんの母・早紀江さん(中央)ら北朝鮮による拉致被害者の家族と面会したドナルド・トランプ米大統領(左、2017年11月6日撮影)。(c)AFP/Kimimasa MAYAMA〔AFPBB News〕
米朝首脳会談でドナルド・トランプ米大統領が日本人の拉致問題を提起し、金正恩朝鮮労働党委員長は「安倍晋三首相と会ってもよい。オープンだ」と述べていたとされる。その後は元の木阿弥みたいに国営放送は「拉致問題は存在しない」「日本の妄言」などと発言しているようであるが、米朝の首脳が昨年やり合った非難応酬と同じく、一種の駆け引きであろう。
ともあれ、大統領が金委員から否定的でない返事を引き出したことから、日朝首脳会談の可能性が模索されているともみられる。安倍首相も日朝の首脳が会って解決すべき問題である趣旨の発言をしている。拉致問題には本来米国は関係なく、日本と北朝鮮間で解決すべき問題であることは言うまでもない。しかし、なかなか進展してこなかった。その点で、今回の米朝首脳会談を通じて北朝鮮に対して影響力を持つことになったトランプ大統領が直接日本人拉致問題を提起し、それに対して金委員長が語った言葉は一定の重みがある。
2002年9月の小泉純一郎首相(当時)の訪朝に携わり、去る6月21日の日朝国交正常化推進議連総会に出席した田中均元外務審議官は、安倍首相が拉致問題の提起をトランプ米大統領に依頼したことについて、「恥ずかしい」との認識を示した(時事通信社 2018/06/21)とされる。
しかし、帰国した5人の扱いなどをめぐる発言などからは、田中氏こそが「拉致」という事実に真剣に向き合っていなかったことを暴露している。委員長発言を契機に、日本政府はあらゆるチャンネルを活用して拉致被害者を取り戻すべきであるが、何度も騙された経緯を決して忘れず生かさなければならない。
12人の外に500人以上が拉致されている可能性
ただ、一抹の不安がある。
ここで確認しなければならないことは、「拉致被害者」という用語が固有名詞化され、政府が認定した17人という狭い範囲に限定してしまっているのではないかということである。また、17人のうち既に5人は解放され、子供たちも含め帰国している。従って、現在の政府認定は12人であり、この被害者をとり戻すことはもちろんであるが、その他にも拉致の疑いがもたれる日本人が多数いることを忘れてはならない。
政府が拉致認定を行うには、(1)北朝鮮の国家的な意思の推認(2)本人の意思に反して連れ去られた(3)行方不明者が北朝鮮にいる、という3つの要件を満たす必要があるとされる。
しかし、冷静に考えると、これらの条件は被害者本人や北朝鮮からしかクリアーできない。となれば、これらの条件設定は、あえて言えば、易きに走って被害者見殺しも仕方ないと考えているとみられても致し方ない。辛うじて、この条件に叶うとして政府が認定したのが17人である。正確に言えば、曽我ひとみさんは認定どころか名前すら把握されておらず、帰国者リストで初めて分かったという報道もあった。
このように、政府さえ把握していない被害者がいたわけで、政府認定の17人が政府の取り戻すべきすべてとは言い難い。現に政府は認定していないが北朝鮮に拉致された疑いがあるとして、救出活動などを行っている民間団体「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表、平成15年発足)が把握する「特定失踪者」は約470人である。
特定失踪者問題調査会の独自調査とは別に、警察当局も900人近くの失踪者について、拉致の疑いを視野に捜査を継続しているとされる。政府認定と民間団体や警察が拉致の疑いも排除できないとする特定失踪者らとの落差は大きい。
特定失踪者としてリストアップされた人の家族などでつくる「特定失踪者家族会」(大沢孝司会長、平成30年5月発足)は、国際的な人道犯罪などを裁く「国際刑事裁判所」(ICC) に対し、働きかけをして拉致全体の解決を目指すという。
正攻法であろうが、この種の国際機関が違法性や悪辣非道を非難しても、端から無視する国家も多い。
仲裁裁判所が南シナ海の人工島造成は国際法を無視するものと裁定したが、中国は判決書を「紙屑」と批判し、軍用機用の滑走路ばかりでなくミサイル用レーダーなども配備して軍事拠点化を鋭意進めている例もある。
家族会は可能性のあるものは何にでもすがろうとする必死の思いからであろうし、正しく「溺れる者は藁をも掴む」心境であろう。
国際機関に訴える、こうした迂遠な方法も大切であろうが、政府は家族会の意を汲んで、また、政府認定の「拉致被害者」と区別する必要があるならば、拉致された疑いがもたれる「拉致被疑者」などとして、首脳会談などにおいては取り上げるべきであろう。
徹底的に証拠隠滅した北朝鮮
産経新聞の阿部雅美記者の拉致報道などをみても、日本人が連れ去られたとは思えないような場所や状況も多い。それほど、北朝鮮は巧妙に国家の全力を傾注して日本人を「拉致」し、痕跡を残さない隠蔽努力をしていたのだ。
日本の政府としては、証拠が固められないものを「北朝鮮が拉致したではないか」とは言いにくいであろう。
拉致された疑いがあるとしてリストアップされた人が確かに拉致されたのであれば、北朝鮮は日本の調査能力を馬鹿にできないと思うであろうし、拉致していないとウソをつけなくなろう。
かの国柄から、それでも「拉致していない」「解決済み」を主張し続けるかもしれないが、そうした嘘の代償は大きいことを知らせなければならない。
他方で、実際は拉致されていない場合、逆に日本の調査能力に疑問符がつき、相手はますます嘘の主張をしてくるかもしれない。
その辺りの勘案は大切であろうが、認定条件を満たさないから拉致被害者にリストアップされず、未来永劫、救出の手が差し向けられない状態に置かれるのはあまりに非情であり、国家として無責任ではないだろうか。
政府が被害者認定するにあたって厳しい条件を課していることは理解できる。しかし、曽我さんがいい例で、政府が掌握していない人が拉致されているということは大いにあり得る。
神戸のラーメン店で働いていた田中実さん(拉致当時28歳)は拉致被害者として政府が認定しているが、田中さんを同ラーメン店で働くように誘った金田龍光さんを政府は被害者認定していない。
2014年には北朝鮮が田中、金田両人を拉致したと日本側に伝えていたにもかかわらずである。
2人は幼少期から同じ養護施設に預けられ、肉親とは音信不通になっていた。
また2人が働いていたラーメン店の経営者である韓龍大は北朝鮮の秘密工作機関「洛東江」に所属していた人物で、日本人拉致にも関わっていたことが暴露されている(福田ますみ「拉致被害者2名『生存』情報と野放し実行犯の名前」、『新潮45』2018年5月号所収)。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53440?page=4
ラーメン店「來大」で働き始めた金田さんは在日朝鮮人で本名は金。その金さんが親とも兄とも思っていた來大の経営者である韓は秘密組織で拉致に関わっていたのである。ここまで経歴や失踪に至る過程が明瞭になっても、一方は拉致被害者と認定され、他方は政府の認定がなく民間団体の特定失踪者どまりである。
拉致担当大臣が「拉致」と確信しても認定されない失踪者
また、2015年10月1日、松原仁元拉致問題担当大臣が記者会見し、拉致の疑いが排除できない特定失踪者2人の生存情報を得ていたことを明らかにした。政府に拉致被害者として認定するよう迫るためである。
松原氏が生存情報を明らかにしたのは、昭和49年に新潟県佐渡市で失踪した大沢孝司さん(失踪当時27)と、51年に埼玉県川口市で消息を絶った藤田進さん(同19)。
松原氏によると担当相を務めた平成24年1~10月の間に得た複数の情報から「間違いなく拉致されていたと確信した」という。
大沢さんと藤田さんは拉致問題を調べる特定失踪者問題調査会が「拉致濃厚」と判断。特に藤田さんは北朝鮮から持ち出された写真が「本人」とする鑑定結果が出ているにもかかわらず、政府は「拉致被害者」と認定していない。
元担当相の松原氏は会見で拉致認定の3要件に「あてはまるというような確信を持っていた」と述べたそうであるが、出席した大手メディアの社会部記者は「どのような経路で情報を入手したかも明かされず、『拉致と確信している』では説得力がない」と述べ、認定に「影響はない」と言い切ったそうである。
松原氏は自身が担当大臣であったとき、「拉致されたと確信」したにもかかわらず認定しなかったのかが問われるのではないだろうか。
捜査関係者は3要件のうち2つをクリアするものはあっても、3つすべてをクリアするのは困難という。失踪から長い時間が経過し、被害者の意思や北朝鮮の国家意思を確認する術に乏しいためである。
特定失踪者の家族からは「厳しすぎる」との声もあがるが、関係者は「政府が認定をした被害者が実は“拉致ではなかった”場合、北朝鮮につけ入る隙を与える」と指摘する。
その危惧が分からないでもない。しかし、拉致に関わる人物に徹底した訓練を施し、実行は夜陰に紛れて行うなど最大の隠蔽工作をしたわけで、拉致の痕跡が見つからないのが当然という見方もできるのではないだろうか。
日本で見つかる被疑者がいてもいいではないか
失踪者が国内で発見されたならば、不幸中の幸いというだけの話しではないか。そもそも、善良な日本人を拉致するという国家犯罪を起こしておいて、日本が万一被害者と見た人がそうでなかったとしても、面目を失う必要はないであろう。
秘密工作員が全力を傾けて、巧妙なやり方で連れ去っているわけで、証拠を掴めないとみるのがまずあっていいのではないだろうか。
失踪者の半分、いや1割が実際の拉致被害者であったとしても、政府認定に至らないばかりに、日朝首脳会談から外されるというのでは余りに理不尽である。
ここは、認定条件の1つにも該当しないが、国内で失踪する理由が見当たらないというただ1つの理由だけでも、まずは拉致の被疑者として持ち出すべきではないだろうか。
該当しない人が大部分で政府は恥をかいた、いやそれ以前に持ち出すべきではないというのは余りに消極的すぎるし、被害者の見殺しでしかない。
特定失踪者が、拉致と全く関係なく日本国内で突然発見されることがあるのは確かである。日雇い現場で元気に働いていたり、漁網に白骨死体でかかってきたなどが報告されている。
しかし、それがなんだという開き直りがいま必要ではないだろうか。
痕跡がなくて当たり前、あるのは勿怪の幸いでしかないのだ。北朝鮮が日本に不法に侵入して、日本の領土から日本人を拉致していったのである。
拉致問題に関係する外務省を筆頭とする官庁は、官僚的発想に閉じこもり、日本が被害者ということを忘れ、異常に萎縮し過ぎてしまっていないだろうか。
おわりに
北朝鮮は8人死亡、4人未入国などと平気で嘘をつく国だ。日本は3条件のうち2条件が満たされても認定しない。被害者認定の条件は、日本の過剰な潔癖性を示している。これでは、実際は拉致された人物であるにもかかわらず、特定失踪者どまりにされかねない。
北朝鮮流に「1万人を拉致した。無条件に返せ」と主張するくらいの国家的度量があってもいいのではないか。
政府は国益棄損を何とも思わない外務省の言いなりになってきた。外交交渉においても自己保身が先立ち、日本たたき売りも厭わないために、良識ある人は害務省とさえ蔑称したりする。冒頭で述べた田中均氏は、帰国した5人を再度北朝鮮へ送りかえすように主張したとされる。もともと不条理に日本から連れ去られた日本人たちという根本を忘れていたからであろう。
拉致問題提起
〈管理人より〉「完全かつ検証可能で不可逆的な」解決とは、拉致問題にもいえることです。そしてこの忌まわしい問題が完全に解決し、拉致被害者がそれぞれの母国に帰国したとき、北朝鮮の金政権体制はまちがいなく崩壊、拉致に「活躍した」英雄工作員は一転、朝鮮国家の「犯罪者」になるでしょう。だからこそ我が国は、この拉致問題については絶対に譲ることはできません。譲るべきではありません。我が国の最大の武器であり、意に反して北朝鮮の国家機関に拉致された被害者が帰国し、ご家族と再会し、日本人としてのあたりまえの生活が取り戻せるその日まであきらめるべきではないのです。北朝鮮の戦後の「侵略」に勝利することになるのです。
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