日本語では「情報」という一語で括られてしまう用語であるが、英語で表現すると4つのカテゴリー、定義がある。
メタデータ
「データについてのデータ」という意味。あるデータが付随して持つ、そのデータ自身についての付加的なデータを指す。例えば、図書館の本に付随する書店データなど、あるデータに関連するほかのデータを検索するのに役立つ。
データ
ニーズの発生を受けて、収集される。
インフォメーション
データを整理・分類して何かを読み取れる形にする。
必要に応じて検索できるようにしておく。
インテリジェンス
インフォメーションを評価・検討・分析して信頼性が低いデータを切り捨てたり、信頼性が高いデータをより分けたりして、評価、判断を付け加える。こうした作業を通して意思決定に必要な情報資料を提示する。
アメリカ軍参謀養成課程(Armed Forces Staff College)で使用されているテキスト「統合軍情報担当参謀教範」(The Joint and Combined Staff Officers Manual)でのインテリジェンスの定義。
「計画にとって、直接的ないしは潜在的に重要で、作戦地域や諸外国の各種の様相に関して利用できるすべての資料の収集・評価・分析・統合・解釈による産出物をいう。」
一国の指導者をはじめとする政策決定者が、安全保障や外交の分野で、国家の生き残りをかけて決断を下す際に判断のよりどころとなるよう選り抜かれた情報をいう。国家の情報機関は、安全保障、国防、軍事、治安、組織的テロなどに関する膨大雑多な情報群であるインフォメーションから精緻なインテリジェンスに精進し、「インテリジェンス・リポート」を提出し、政策決定者を誤りなき判断に導くことを目指している。
インテリジェンス・オフィサーは、各国の政府が秘匿している各種の情報を極秘裏に入手し、極秘裏に本国政府に報告する。これらの極秘情報は、現地の工作員を使ったスパイ活動や通信の傍受、さらには政権の中枢に対する秘密工作などを通じて入手される。したがって外交官による通常の情報収集とは明らかに異なる手段によって得られる情報なのである。それゆえ国家の政策決定者にとっては、極秘のインテリジェンスは極めて有用な情報となるが、一方で非合法な手段で得られた極秘情報が多く含まれるため、民主主義国家の掲げる自由の理念に反するとして、しばしば論争を巻き起こしてきた。
インテリジェンスは、政策決定者の求めに応じて提供されるため、インテリジェンスの提供側とインテリジェンスの利用側は、常に一定の距離を保っておくことが求められる。インテリジェンスの提供者が政策決定のプロセスに関与することを許せば、「情報の政治化」を招いてしまう恐れがある。インテリジェンス・オフィサーが好ましいと考える政策に決定者を誘導することで、特定のインテリジェンスだけを提供しがちになるためだ。インテリジェンスに関わる者は、政策の決定から距離をおいて客観的な報告をあげることが求められる。
情報とは何か?
きちんと説明できますか?
情報プロセスとは?
資料が収集され、情報に変えられ、使用者が利用できる産出物(output)となる手段。
その手段については一般的に3つの段階を経てまとめられる、とされている。
① 収集(collection)
情報問題に関連するデータの入手と選択。
② 製造(production)
収集したデータの信頼性の判断、分析、関連の推定。そして計画という視点から推定について説明をまとめる。
データの評価作業は必須である。
収集したデータを整理して、関連づけ・検索・相互参照を行えるようにする必要がある。
③ 配布(dissemination)
情報資料を必要としている組織、機関に対して、それぞれに適した形で伝達する。
口頭で行うことがあれば、文書化することもある。
情報資料収集の手段
(引用文献:『軍事のリアル』冨澤暉 新潮新書742 2017年11月)
(A)「演繹法的収集」と(B)「帰納法的収集」について考える。
(A)「演繹法的収集」
当方の任務・行動を原点とし、その行動・任務達成に最も影響のありそうな敵の可能行動を推察し、そのいくつかの可能行動が生起する兆候を情報要求として収集者に与え、その要素に指向性アンテナを集中して解答を得る方法である。収集・分析時間が短く当方の行動の幅が狭い戦闘情報収集では、通常この方法がとられるが、当方の推察が根本的に外れた場合には、敵の奇襲を受ける可能性が高くなる。
(B)「帰納法的収集」
敵方だけではなく、互いの友軍の動きや広い世界の動きなどが定まらず、当方の行動方針の目安も立たない段階で、長期戦略的な判断に資する情報を探るものである。
軍事のみならず経済、文化の動きをも踏まえた全般情勢を捉え、一見、当面の政策(作戦)に関わりのない分野まで、全方向アンテナを立てて多数の資料を求め、時間をかけて分析し、絞って抽出し、我が戦略的大方向を求めるものである。極めて非効率的な方法であるが、漏れのない確実な情報収集のためには重要な手段である。
情報の種類
■ヒューミント(Human intelligence)
標的とする外国に潜ませた情報要員を情報源にして入手する機密情報をさす。
一般的には、情報収集の標的国に協力者であるエージェントを配して、秘密情報を探る技法がとられる。情報機関は、標的国に工作員を秘かに送り込み、現地で情報活動を担うエージェントに金を与えたり、亡命を保護するなどしてリクルートする手法がとられている。
ヒューミントによる情報収集は、標的国の中枢で進められている極秘の計画を知り、、指導部の意図をつかむ場合に威力を発揮する。電波傍受などと比べると費用は安くすむが、良質なエージェントを確保するのが難しく、ダブルスパイの浸透を許してしまうリスクもある。
■オシント(Open source intelligence)
オシントとは、新聞、雑誌、テレビ、インターネット、メディアなどを通じて公開される情報である。つまりオープンソースなで得られる様々な情報を分析、活用することを意味する。近年重要性が高まっている情報ソースであるが、非軍事分野でれば、オシントを通じて秘密情報の95~98%が得られ、軍事情報では80%前後の情報はオシントから得られるという報告もある。公開情報を読み解くことで得られる情報であるため、違法行為を全く犯さずに得られることが最大の特徴といえる。一般の公開情報は膨大な量になるため、最近ではデータ処理の技法を使ったオシントの有効性が指摘されている。
■シギント(Signal intelligence)
シギントとは、一般の電話やファクシミリ、インターネット、さらに暗号を用いて交信される特殊な回線などにアクセスして、交信内容、電磁波、信号などシグナルを傍受し、その内容を分析することで、監視対象とする国家やテロ組織の意図を探るインテリエンス活動をいう。主に通信の傍受、暗号解読、通信回線の交信分析をするコミント(communication intelligence)もその一つである。
一方でシギントは、民主主義の原則である通信の自由に触れる危うさを秘めている。
シギントによる情報活動を効果あるものにするには、傍受した情報を迅速、的確に翻訳し、その内容を精緻に分析し、外交安全保障政策の決定に役立てることが重要である。そのためには、日々増大する通信をさばく高い傍受技術だけではなく、高い語学力をもつ要員を育成し、監視対象国やテロ組織の政治、社会、文化に精通していることが求められる。
■エリント(Electronic inteligence)
敵がどんなレーダーを使用しているのか、周波数、波形、パルス反復率、ピーク出力、平均出力などその特性はどのようなものかということを事前に調べておくと、効果的な妨害を行うことができる。そうした電子情報収集のことをエリントという。これは、平時からどの国も行っている。
味方のレーダーがどんな電波を使用しているかを知られては困るため、平時に使う電波と戦時に使う電波を別にしておく。そうなると敵にとっては、本当に知りたいのは、戦時にどんな電波を使うか、であるから平時にも関わらず、戦争状態一歩手前の状態を意図的に作り出すことができる。
■マシント(Measurement and Signatures Intelligence)
電磁波、放射線、金属反応、赤外線、地震波、音響、大気、地層成分などの物理、化学的指標を測定して分析して得られる情報のこと。
■コリント(Collective intelligence)
良好な関係にある各国のインテリジェンス機関が機密情報を交換すること。「協力諜報」と呼ぶこともある。冷戦後のインテリジェンスでは、ヒューミントやシギントに比べてコリントの果たす役割が大きい。
例えば北朝鮮の機密情報については、我が国が丹念に収集した膨大な公開情報をCIAやSVR、モサドなどの情報機関が持っている北朝鮮機密情報と引き換えに入手している。
またサイバーインテリジェンスにおいては、卓越したサイバー戦能力を保持するイスラエルと互恵的なコリント態勢を構築していく、ということである。
■ウェビント(Websight Intelligence)
ウェブサイトに現れる様々な情報を収集し、その内容を精緻に分析して、監視対象の国際テロ組織などの意図を解き明かすインテリジェンス活動をいう。サイバー攻撃による秘密情報の入手などもウェビント活動を通じて行う場合もある。
インテリジェンス活動の主要な舞台は、インターネット空間と宇宙空間の二つに移りつつあるといわれている。このようなITスペースには、一般のウェブサイトだけでなく、世界最大の動画共有サイトYouTubeをはじめ、動画サービスも含まれ、ウェビント活動の重要な監視対象になっている。
ウェブサイトは、情報へのアクセスを容易にし、情報をコピーし、転送して拡散させる舞台となって、現代社会への影響力を増大させつつある。このため各国の情報機関は、専門のスタッフを組織して国際テロ組織のウェブサイトを常時監視する体制を敷いている。国際テロ組織がいかなるアドレスを使い、どこから、どのようなルートを介して、情報や映像をアップしているのか、それらを迅速・的確に把握して分析することは、今やテロ組織の動向をつかむ最重要の手段になりつつある。インテリジェンス活動に占めるウェビントの重要性は今後もさらに高まっていくだろう。
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