2018年2月5日月曜日

「NPR・アメリカ核態勢見直し」でわが日本が核兵器を保有するんですか!?

核態勢の見直し(NPR)
 2017/12/25-14:31https://www.jiji.com/jc/article?k=2017122500461&g=use

核態勢の見直し(NPR)とは、米国防総省が中心となり、今後5~10年間の核戦略をまとめた報告書。1994年、2002年、10年に続き、今回で4回目。
 「核なき世界」を掲げたオバマ前政権下のNPRでは「核兵器に依存しない平和と安定」を明記し、新たな核兵器の開発を否定。海軍の核搭載型巡航ミサイル「トマホーク」(TLAM-N)の退役を発表した。(ワシントン時事)

核反撃排除せず 新戦略指針公表

毎日新聞https://mainichi.jp/articles/20180203/k00/00e/030/167000c
トランプ米政権は201822日午後(日本時間3日午前)、新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表した。米国や同盟国が通常兵器など核兵器以外の手段による攻撃を受けた場合の報復にも核使用を排除しない方針を表明し、核の先制不使用も否定。低爆発力の小型核の開発を盛り込み、「核なき世界」を目指したオバマ前政権の戦略から転換、核兵器の役割を拡大させた。

米国がNPRを発表するのはオバマ前政権下の2010年以来で、新指針は「米国は冷戦終結後、最も複雑で厳しい安全保障環境に直面している」と警告した。(共同)

新型核兵器導入へ、新指針 使用条件を緩和
毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20180203/k00/00e/030/238000c
【ことば】核態勢見直し(NPR)                                              
 冷戦終結後の安全保障環境の変化に応じた米国の核戦略の指針で、1994年にクリントン政権が初めて策定。政権が代わるたびに改変される。今回は4回目で、「核兵器のない世界」の実現を掲げたオバマ前政権時代の2010年4月以来、約8年ぶり。 

【ワシントン会川晴之】トランプ米政権は201822日、米国の核戦略の指針「核態勢見直し(NPR)」を発表した。ロシアや中国、北朝鮮が核兵器増強を進める現状に対応し、爆発力を小さくし、機動性を高めた新型核兵器の導入を明記した。また、非核兵器による攻撃に対する核兵器による報復の可能性にも言及。冷戦後の歴代米政権が目指した核兵器削減や使用回避を優先させる方針から、核兵器を「使いやすくする」方向へとカジを切る大きな政策転換といえる。
トランプ大統領は20182月2日に声明を発表。「歴代政権は必要な核兵器や施設の近代化を先送りし続けてきた」と批判したうえで、核兵器を含む米国の安全保障戦略は「21世紀の多様な脅威に対応するため、個々の状況に即した柔軟性のあるものだ」と主張し、核による抑止力の強化を打ち出した。
 新型核のうち一つは、現在の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載する核弾頭を改良し、爆発力を抑え、機動性を高める。ロシアが射程の短い戦術核の使用を想定した戦略を構築しているとして、欧州で限定的な核戦争が起きる事態に備えるとしている。また、「核トマホーク」で知られ、オバマ前政権が廃止した海上艦船配備型の核巡航ミサイルの再開発にも着手する。
 NPRでは、核兵器は「米国と同盟国の死活的な極限の状況でのみ使用を検討する」という前政権の原則を引き継ぐ一方、極限の状況は、国民やインフラなどに対する「非核攻撃を含む」とした。サイバー攻撃などが念頭にあるとみられ、使用条件を事実上緩和した。
 シャナハン国防副長官は2日の記者会見で「核兵器を使う機会を増やそうとしているわけではない」と説明したが、新型核の整備とともに、使用条件の「緩和」によって、核兵器を「使いやすい」ようにしていることを強く印象づけた。
 米軍が熱望していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)▽SLBMを搭載する戦略原潜▽戦略爆撃機--という核兵器の運搬手段の「3本柱」の強化・更新も盛り込んだ。オバマ前政権の方針を踏襲した形だ。
 米露両国は2010年に締結した「新戦略兵器削減条約」(新START)で、射程が長く、破壊力も大きい戦略核兵器の配備数の上限を1550発と定めた。戦術核を制限する合意はなく、米議会調査局によると、米国は約760発、ロシアは約4000発の戦術核を保有。ただ、ロシアは約2000発以下との説もあり、実態は不明だ。

新方針 核兵器以外の攻撃に核で反撃も

毎日新聞https://mainichi.jp/articles/20180204/k00/00m/030/032000c

【ワシントン会川晴之、モスクワ杉尾直哉】トランプ米政権は201822日、今後5~10年の核戦略の指針となる「核態勢見直し(NPR)」を公表し、新型の小型核兵器と核巡航ミサイルを導入することを明らかにした。核兵器以外による攻撃に対して核兵器で反撃する可能性があることにも言及し、使用条件を事実上緩和。「核なき世界」を掲げたオバマ前政権の方針を転換し、核の役割を拡大する。
 NPRの策定はオバマ政権下の2010年4月以来。今回のNPRでは「前回の公表時と比べ、国際安全保障環境は大幅に悪化、世界はより危険になった」と指摘。「ロシアや中国に加えて北朝鮮やイランの核保有の野心や、核を使ったテロは継続的な脅威だ」として、「柔軟かつ多様な核戦力」の必要性を訴えた。
 具体的には、ロシアが小型核兵器を先制使用した場合などを想定。機動性を高めるため、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載する爆発力を抑えた小型核弾頭の開発や、オバマ政権が廃止した海上艦船配備型の核巡航ミサイル(SLCM)の再開発に乗り出すとした。
 核兵器使用は、インフラや国民が「非核攻撃」を受けた場合も含むとしており、サイバー攻撃などが念頭にあるとみられる。トランプ大統領は2日の声明で「NPRで示した戦略は米国や同盟国への戦略的非核攻撃に対する抑止力を向上させる」と強調した。
 ロシア通信によると、露上院国防安全保障委員会のクリンツェビッチ第1副委員長は「NPRは、広島・長崎のような核攻撃を再び許そうとしている。東欧やバルト3国に米国が核兵器を配備するなら、ロシアはそれら全てを攻撃対象とする」と警告した。 


 
トランプ氏の“持論”だけでない 
「日本核武装論」が米国で本気に語られ始めている

2017.7.19 12:00更新http://www.sankei.com/world/news/170719/wor1707190001-n1.html


北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射は、オバマ前政権の「戦略的忍耐」による無策はもとより、「核なき世界」という理想論にも再考を迫っている。日韓の核武装を容認する発言をしたことのあるトランプ米大統領は“持論”を封印しているが、米国内では日本の核武装や韓国への戦術核再配備も論じられている。今年末に公表が予定される7年ぶりの「核態勢見直し(NPR)」に向け、核抑止力に関する議論はさらに活発化しそうだ。
 「韓国に米軍の戦術核を戻すか、日本に独自の核抑止力を整備させる。これほど速やかに中国の注意を引きつけられるものはないだろう」
 2017年7月4日のICBM発射を受け、米保守系の有力コラムニスト、チャールズ・クラウトハマー氏はワシントン・ポスト紙への寄稿でこう指摘した。
 トランプ政権は中国に北朝鮮への「最大限の圧力」を期待したが、本気で取り組む気配はみられない。それならば、日本や韓国への核兵器配備によって、中国を「日本が核武装しても北朝鮮を保護する価値があるのかという戦略的ジレンマ」(クラウトハマー氏)に直面させようというわけだ。
 中国やロシアは逆に「朝鮮半島の非核化」で米国に協力するふりをしながら、北朝鮮の核武装に目をつぶり、日本や韓国を保護する価値があるのかという「戦略的ジレンマ」に米国を陥らせようと画策している。


 北朝鮮がICBMを発射した7月4日、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は首脳会談で、北朝鮮の核開発と米韓合同軍事演習を同時に凍結させる「凍結対凍結」による対話を目指すことを確認した。
 北朝鮮との取引で合同軍事演習を凍結することは米韓同盟に対する韓国の信頼度を低下させることはもとより、日米同盟に対する米国の決意にも疑義を生じさせるだろう。クラウトハマー氏も指摘するように、「中露の真の利益は非核化ではなく、環太平洋地域での米国の影響力を弱体化させる」ことにあることは明らかだ。
 もちろん、トランプ政権は北朝鮮が核開発を凍結するという甘言に乗るつもりはない。

1994年の米朝枠組み合意、2005年9月に6カ国協議でまとめた共同声明での同様の約束を踏みにじり、核開発を続けてきた過去があるからだ。ティラーソン国務長官は「北朝鮮が高いレベルの(核)能力を持ったまま凍結しても対話の条件は整わない」として、核放棄の約束が先決だと求めている。
 トランプ政権は北朝鮮に対して軍事的な圧力を強め、中国に対しては北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関わった銀行に対する「セカンダリー・サンクション」(二次的制裁)に踏み切り、戦略的忍耐との違いをみせている。また、「核の傘」を含む手段によって同盟国の安全を保障する米国の拡大抑止に揺るぎはないと日韓両国に強調している。
 しかし、実際の軍事行動は北朝鮮による韓国への反撃を考えると困難を伴う。また、予想された通り、トランプ氏が期待してきた中国の圧力にも限界が見えてきたことで米国内で無力感が広がっているのも事実だ。


著名ジャーナリストのファリード・ザカリア氏はCNNテレビでキャスターを務める番組で、米国が中国に今すぐ「朝鮮半島統一時の米軍撤退」を約束し、中国との協力で朝鮮半島の非核化を目指すべきだと提案した。クラウトハマー氏でさえ、結局は北朝鮮の核保有を「黙諾」せざるを得なくなるだろうと予想している。
 2010年、前回のNPR改定はオバマ前大統領の「核なき世界」という理想に沿って、核拡散・核テロ防止や核兵器の役割低下に主眼が置かれた。北朝鮮は除外されたものの非核国を核攻撃対象としない「消極的安全保証」(NSA)は、政権末期になってようやく米軍の抑止力の重要性を学んだ鳩山由紀夫首相(当時)に歓迎された。
 北朝鮮による核・ミサイル開発の進展は、米主要都市へのICBMによる反撃が予想されても米国の「核の傘」が機能するのかという古くて新しい命題を突き付けている。
 冷戦期、欧州諸国はニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)、核使用協議、情報共有により米国が「戦略的ジレンマ」に陥ることを防いできた。脅威の高まりの中で迎えた今年のNPR改定は、アジアでの安全保障に米国を巻き込むための知恵を日本に迫っている。(ワシントン 加納宏幸)

〈管理人より〉また独立国である我が国の国防に、核兵器武装論がアメリカの核戦略の側の論理からでてきています。人類は、いつまでこの前世紀の意味のない戦略爆撃論の延長上にある絶対防衛兵器の時代遅れの抑止力思想に依存し続けるのでしょうか?
 核兵器の「兵器」としての賞味期限は既にもうおわっています。
核兵器保有国が世界の覇権を握れる時代ではなくなっているのです。今や核兵器は兵器としては、既に時代遅れ、ただその大きすぎる破壊力、殺傷力のために政治的な国益伸長のために、外交上の理由で保有が残っているだけです。人類は、この兵器として使えば地球を何度も破壊、人類を何度も殺戮できる兵器について新たな付加価値を見出す時期にきています。つまり人類の福利増進、公共の福祉のために活用すべきなのです。
 もっと極論すれば、宇宙開発に積極的に使われるべきです。そのためには現在の国連の体制をさらに拡充した国際体制が不可欠です。つまり核兵器の価値を根本から転換し、絶対平和利用するための国連改革が喫緊の課題なのです。
 その時のリーダーシップを我が国がとれるはずです。
世界で唯一の被爆国、しかし世界で唯一の核兵器使用国であるアメリカと軍事同盟関係にあり、アメリカの核戦略をセーブできる位置にあります。一部の核武装論に惑わされて、戦後営々と積み上げられてきた「平和国家日本」、「非核平和国家日本」の国際的ブランドイメージを崩しては断じてなりません。
 我が国は、非核的な手段により、核兵器抑止戦略を構築、運営し、世界平和に貢献すべきでしょう。

例えば、北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル開発の問題にしても一番の武器は、戦略核ではありません。「毒には毒をもって制する」とはいっても直接核兵器を使うことは許されません。まずは国際協調体制による外交圧力が重要でしょう。




「米韓による北朝鮮への共同戦線」に足りない視点

岡崎研究所

 米国のシンクタンク、ウッドローウィルソンセンターのロバート・リトワク上級副所長が、201813日付けニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説で、米韓は共同戦線を張って、北朝鮮に対し核開発の凍結を求めるべきである、と述べています。要旨は以下の通りです。

 金正恩は元旦の演説で、核のボタンに言及すると同時に、南北の話し合いを呼び掛けた。金正恩の呼びかけは、米韓が北朝鮮の核計画を現状で凍結し、情勢のさらなる悪化を防ぐための戦略で共同歩調を取る機会をもたらしている。米政府は北朝鮮との話し合いの前提条件として北朝鮮が非核化に同意することを求めているが、金政権が続く限り北朝鮮が核兵器の廃絶に同意しないことを認める必要がある。北朝鮮の指導部の最大の関心は生存であり、北朝鮮の行動はこの観点から見るべきである。
 韓国は北朝鮮の挑戦的脅しには慣れており、最新のギャロップの調査によれば、国民の58%は北朝鮮の攻撃は無いと考えている。韓国国民が恐れている新しい要因は、米国政府の口上である。文在寅大統領のジレンマは、金正恩が漠然とした半島の緊張緩和を提唱する一方で、米韓の共同軍事演習の中止、経済支援の増大といった具体的な譲歩を求めてくる可能性であり、そのような譲歩は米韓関係の緊張を高める。金正恩の意図は警戒すべきである。話し合いの呼びかけは米大陸攻撃能力の獲得に必要な実験のための時間稼ぎかもしれず、経済支援を引き出すためかもしれない。あるいは米韓間に楔を打ち込むという戦略的考慮かもしれない。
 米韓は金正恩の思惑に乗じられることなく、米韓の共同戦線で北の申し出に外交的に対処すべきである。
 北朝鮮の核の野心を制約するための話し合いは、現在の危機を回避し、時間を稼ぐこととなろう。北朝鮮にとって核開発の現状での凍結は、具体的な経済的譲歩をもたらすとともに、金政権の生存戦略の中心である最小限の抑止の維持を可能にする。制裁は金体制の政策を変えることはできなかった。考えられ得る唯一の短期的目的は、長年の同盟国が一緒になり、北朝鮮のミサイルと核の実験を凍結する合意を求めることであるべきである。
 マティス国防長官は、北朝鮮は未だ米国を攻撃する能力は示していないと言ったが、これは未だ外交の窓が開いていることを意味する。しかしその窓は長くは開いてないだろう。
出典:Robert S. Litwak,‘A United Front Against North Korea’New York Times, January 3, 2018
https://www.nytimes.com/2018/01/03/opinion/united-against-north-korea.html


 リトワクは、20172月ウィルソンセンターから“Preventing North Korea’s Nuclear Breakout”と題する長文の論文を発表し、北朝鮮が米国を核攻撃できる能力を獲得する前に、交渉で北朝鮮の核開発の凍結を求めるべきである、と論じています。上記の論説は、その趣旨を踏まえたものです。
 リトワクの主張は、このまま放置すれば、北朝鮮は米国を核攻撃できる能力を獲得することになり、米国としてはこれを阻止する必要があり、これまでそのため制裁を強化してきたが、その効果は上がっていない、そうとすれば、米国としては交渉で目的を達成すべきである、ということです。そして、ここでいう凍結の対象は、あくまでも米国を攻撃する核・ミサイル能力です。北朝鮮はすでに日本を射程内に収めるミサイル、ノドン、テポドンを持っています。これらに核を搭載すれば、北朝鮮は日本を核攻撃できます。日本の安全保障に関する限り、このような兵器体系の凍結は考えられません。北朝鮮はこれらの兵器体系の廃絶に応じそうもないので、日本としては、これに対抗する手段、すなわち、ミサイル防衛とさらにできれば北朝鮮の基地攻撃能力の整備を図る必要があります。
 金正恩の元旦の南北の話し合いの呼びかけの意図には警戒すべきです。北朝鮮の核の脅威に対する見方は、米国と韓国で温度差があり、特に文在寅大統領は北朝鮮に融和的な態度を取りたがっています。平昌オリンピックは韓国が威信をかけた国家事業であり、金正恩は平昌オリンピックを梃子に、文在寅からできるだけ代償を取ろうと考えるでしょう。金正恩が米国と韓国の間に楔を打ち込もうと考えているのは確かであり、米韓は金正恩に付け込まれないよう、十分な警戒する必要があります。
 リトワクは「米韓の共同戦線」と言っていますが、日本も北朝鮮の核の脅威をまともに受けており、共同戦線は日米韓三国のものであるべきです。なお、リトワクが2月に発表した論文で述べている北朝鮮の“Nuclear Breakout”とは、米国を核攻撃できる能力の取得のことです。2月以降、北朝鮮はいくつものミサイル実験、核実験を行い、この能力は飛躍的に向上したと見られます。しかしマティス長官の判断では、北朝鮮は未だこの能力を獲得していません。したがって、北朝鮮の核攻撃能力を現状で凍結することには、米国にとっては大きな意味があるということになります。
〈管理人より〉また、かつて日米の国際的な軋轢から実質上崩壊してしまった同盟関係の再構築が静かに進行しています。

今なぜ日英同盟「復活」なのか

膨張する中国とロシアに「平和と安定の正三角形」で対峙

秋元千明 (英国王立防衛安全保障研究所アジア本部所長)

 現代の世界は第一次世界大戦前と酷似しているという英国の歴史家は多い。大国が衰退を始め、それに乗じて別の国家が膨張し、混沌(こんとん)と不確実性が世界中に蔓延している。欧州では統合を率いてきた英国がEU(欧州連合)からの離脱を決めた。ロシアはウクライナ領のクリミアを事実上併合、第二次世界大戦後初めて中東に軍事介入し、バルト海では軍の活動を活発化させている。
 一方、アジアでは中国が南シナ海の島々に軍を駐屯させ、空母の建造を推進、太平洋の西部にまで海軍を展開させ、海のシルクロード構想のもと海洋進出を着々と進めている。そして、米国は世界の警察官としての座から退くことを表明、海外の紛争に関わることに消極的になっている。こうした時代にあって、最も重要なことは同盟の相手を増やし、安全保障の傘を大きく広げることである。19世紀の英国の著名な政治家であり、2回にわたって首相を務めたヘンリー・ジョン・テンプルは1848年、英国下院での演説の中で、「英国には永遠の味方もいなければ、永遠の敵もいない。あるのは永遠の利益だけだ」と述べた。混沌とした時代の中で国家が生き抜くためには敵と味方を峻別(しゅんべつ)し、堅固な戦略的自律を維持することだ、とテンプルは説いたのである。そして、その言葉は現代の日本に対して同盟関係の再編を宿題として提起している。
 2017830日、英国のテリーザ・メイ首相が日本を訪問した。アジア諸国の歴訪でもなく、メイ首相はただ日本の安倍晋三首相らと会談するためにだけ、日本にまで出向いて来たのである。その目的は、英国と日本の安全保障協力を新たな段階に押し上げることにあった。

※訪日のためだけにユーラシアを越えるほど、メイ英首相にとって日本との安全保障協力は重要だ。

 英国は1968年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明した。以来、英国はグローバルパワー(世界国家)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきた。ところが、その英国は今、EUからの離脱を決め、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指している。そして、そのために欠かせないのが、アジアのパートナー、日本の存在である。日本と英国は第二次世界大戦前後の不幸な時期を除いて、日本の明治維新から現代に至るまで最も親しい関係を続けてきた。
「スエズ以東」に回帰し始めた英国
 日本の安倍首相とメイ首相は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、その中で、「日英間の安全保障協力の包括的な強化を通じ、われわれのグローバルな安全保障上のパートナーシップを次の段階へと引き上げる……」と述べ、日英関係をパートナーの段階から同盟の関係に発展させることを宣言した。そして、「日本の国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の政策と英国の『グローバルな英国』というビジョンにより」と述べ、英国がグローバルパワーとして、日本との同盟関係を活用して、インド太平洋地域の安定に関与していく方針を明確にした。
 この方針は、201712月にロンドンで開催された日英の外務・防衛担当閣僚会議、通称2プラス2に引き継がれ、両国間で詳細に協議された。協議の後に発表された共同声明によれば、日英両国はインド太平洋地域の安定のため、英国が近く配備する予定の最新型空母をこの地域に展開させることや、北朝鮮の脅威に対して協調して対処すること、自衛隊と英軍との共同演習を定例化し、部隊間の交流を深めていくこと、さらに、将来型の戦闘機の共同研究を進めることなど23項目について合意した。
河野太郎外相は会談後の記者会見で、「英国がスエズの東に戻ってくることを大いに歓迎する」と述べ、英国のグローバルパワーへの復帰を強く促したのである。
 このように2017年は日英の安全保障関係がパートナーの関係から同盟国の段階へと劇的に進展した年となった。日英が互いを「同盟国」と公式に呼び合ったのは、1923年に日英同盟が解消して以来、おそらく初めてのことであろう。ただ、多くの人にとっては日英関係が突然接近したかのように思えたことだろうが、実はかなり以前から日英の安全保障面での接近は始まっていた。
 例えば、英国政府と関係の深いシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は20121月、日英安全保障協力を側面支援するため、東京にアジア本部を開設し、活動を始めた。そして1310月、英国からエリザベス女王の次男であるアンドルー王子を招聘(しょうへい)して、東京で初めての日英安全保障会議を開催した。この会議には日本から安倍首相が参加し、日本が英国との安全保障協力を強化していく方針を表明した。この日英安全保障会議は、以後、ロンドンと東京で定期的に開催されている。
 また、歴史的につながりの深い海上自衛隊と英海軍は、先達(せんだつ)を務めるように日英の部隊間の交流を活発化させた。152月、横須賀の海上自衛隊自衛艦隊司令部に英海軍から連絡将校が派遣され、常駐するようになった。英海軍から連絡将校が派遣されるのはかつての日英同盟解消以来、初めてのことであった。また、ソマリア沖で、海賊対策の任務に当たっている多国籍の海軍部隊、第151統合任務部隊(CTF−151)の司令官に海上自衛隊の海将補が着任するときは、慣例のように英海軍から補佐役として参謀長が派遣されるようになった。
 この動きは16年から一気に加速する。10月、英空軍の戦闘機、ユーロファイターの部隊が日本の三沢基地に飛来し、航空自衛隊と共同訓練を行った。米国以外の空軍戦闘機の部隊が、日本本土に展開して、自衛隊と共同訓練を実施したのはこれが初めてであった。同じ時期、陸上自衛隊富士学校のレンジャーが英国のウェールズの基地で、英陸軍や米海兵隊の部隊といっしょに偵察活動の共同訓練を実施した。175月には、陸上自衛隊、英陸軍、米海兵隊、それにフランス海軍が参加した日米英仏の共同演習も初めて実施された。多国籍の演習ではあったが主導しているのは日英であった。


三沢基地から飛び立つ英空軍のユーロファイター。手前は航空自衛隊のF2

(写真・THE ASAHI SHIMBUN/GETTYIMAGES

 そして、18年、英国陸軍の部隊が日本の富士山麓の自衛隊演習場に派遣され、陸上自衛隊との初めての共同演習を行うことや、海上自衛隊と英海軍の対潜水艦共同演習も予定されている。
 一方、こうした部隊間の交流を進めるための法整備も順調に進められ、171月、日英の部隊同士で互いの補給物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)が結ばれたほか、部隊が相手国を訪問する際の法的地位を定めた訪問部隊地位協定(VFA)の締結についても現在、日英間で作業が進んでいる。
歴史の偶然ではなく地政学的な必然
 このように急ピッチで進む日英協力だが、「復活」とは言っても、厳密に言えば、かつての旧日英同盟とはその目的も構造もまるで違う。21世紀の世界にふさわしい新しいタイプのものである。
 旧日英同盟はユーラシアのランドパワー(内陸国家)であるロシアが領域外に拡大しようとするのを、シーパワー(海洋国家)である英国と日本が連帯してこれを阻止しようとする軍事同盟であった。1902年に最初の条約が調印され、その後2回、条約が更新され、23年に解消されるまで、20年余りにわたって続いた。
 当時の日本は大陸への進出を果たしたいと考えており、ロシアが満州に関心を示していることを警戒していた。他方、英国もロシアが中国や中東地域へ進出を図ろうとしていることを警戒していた。しかし、当時の英国は南アフリカでの戦争に注力しており、アジアに力を注ぐ余裕がなかったため、新興国だった日本の力を借りる必要があったのである。それは、日本にとって国際社会での日本の地位を高めるという効果が期待されたし、事実、そのようになった。04年に起きた日露戦争で日本が勝利すると、日本は史上初めて欧州を下したアジア国家として世界から注目を集めるようになったのである。ただ、その後、米国が日本の台頭を警戒するようになり、旧日英同盟は23年、解消した。
 日本が近代国家として初めて結んだ旧日英同盟が極東の新興国、日本をアジアの大国に押し上げ、日本の国際社会での地位を揺るぎないものにした歴史的意義は極めて大きい。
 これに対して、21世紀の新日英同盟は戦争に備える軍事同盟ではない。海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、インテリジェンス、人道災害支援、平和維持活動、防衛装備品開発など、多様化する安全保障のあらゆる分野で包括的に協力し合う関係づくりを目指すものである。
 それでは、日英が同盟を結び、安全保障面での協力を強化することは、世界の安定にとって、どのような意義があるのだろうか。
 東西冷戦時代から今日に至るまで、アジア太平洋地域では、米国を中心に、日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアがそれぞれ別個に同盟を結んでいた。それは「ハブ・アンド・スポークの同盟」と呼ばれ、米国が常にハブであり、スポークがその相手国であった。これに対して、欧州のNATOのように複数の国が互いに同盟を結び、協力し合う関係を、「ネットワーク型の同盟」と呼ぶ。
 ハブ・アンド・スポーク同盟の最大の問題は、協力し合う相手が常に一国しかないために、国同士の利害が一致しない場合、機能不全に陥ることである。また、二国間の力のバランスに大きな差があると、弱い側が常に強い側に寄り添う追従主義に陥りがちであり、スポークの国は戦略的に自律するのが難しい。そのため、2000年代以降、スポークの国同士の協力が急速に進展してきている。
 具体的には、日本では安倍政権発足以来、政府の首脳陣がほとんど毎月のように東南アジア、南アジア、さらに欧州諸国に足を伸ばし、安全保障協力を拡大しようとしているし、自衛隊も、オーストラリア、インドなどと定期的に共同の演習を実施している。また、日米とオーストラリア、日米と韓国、日米とインドといった三国間での安全保障協力も進んでいる。米国との同盟関係を共有する国同士が個別に同盟関係を築き、米国との同盟を支えようとしているのである。
 ただし、このようなネットワーク型の同盟には、NATOにとっての米英がそうであるように、コア(中軸)となる二国間関係が必要である。日英同盟はまさにそのコアになりうる。
 日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っている。日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできた。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えるが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのである。
 また、日英はともに米国の重要な戦略的パートナーである。日英はそれぞれ米国と深い同盟関係で結ばれ、情報や軍事、外交などあらゆる分野で深い協力関係にある。つまり、日英が今、同盟関係に進もうとするのは歴史の偶然ではなく、地政学的な必然である。
 英国は核保有国であり、国連安保理の常任理事国であり、米国と肩を並べる最強最大の情報機関を持ち、ロイターやBBCのような世界に影響力のある報道機関があり、国際石油資本を持ち、ロイズ保険機構のような世界の保険料率を決定する機能を持ち、さらに、世界の金融センターであるシティーを持つ。日本が、このような国家と「同盟国」と呼び合える関係を築くことは極めて大きな国益である。
「正三角形」の一角として独自性を問われる日本
 ただ、そこで重要なのは、日英共にその関係を既存の米国との同盟関係とどう調和させるかという問題である。そして、それは結局、日英米の三国による同盟関係の追求に発展するだろう。それは覇権の三国同盟ではなく、新しい安全保障の枠組みとしての「平和と安定の正三角形」でなくてはならない。そこにこそ、新日英同盟の本当の意味があり、それが実現すれば、日本の国際的地位と外交力は飛躍的に向上することになるだろう。
 他方、それは日本にとって、日米同盟だけに依存してきた現状から脱し、第二次世界大戦後初めて戦略的自律を手に入れることを意味する。日本は安全保障や外交面で常に独自性を問われることになろう。
 英国はNATOEU、英連邦など多層的に同盟を維持し、これらを使い分けながら自律を維持してきた。日本も米国、英国との「正三角形」を軸に、アジア太平洋諸国との同盟をバランス良く組み合わせ、多層的に同盟を構築、運用しなくてはならないだろう。

〈管理人より〉アメリカ。トランプ政権による核態勢見直しについては、様々な、特に被爆者から大変な批判がおこってきています。これはアメリカの戦略の問題です。我が国は協力することはやぶさかではありませんが、核兵器による武装論については、アメリカを納得させるだけの核なき防衛論理を構築しておくべきでしょう。
「非核・平和国家日本」という戦後の我が国のブランドイメージは、損なうべきではありません。我が国の国益ですからね。この線は担保した上での核抑止戦略の構築が重要です。

米核態勢見直し:「核戦争時代の前兆」 被爆地に怒り
毎日新聞 201824

トランプ米政権が公表した「核態勢見直し(NPR)」は、世界を核軍拡の時代に突き落としかねない内容だった。「核と人類は共存できない」。広島や長崎で原爆の熱線や放射線を浴び、今も続く苦しみを訴えてきた被爆者の声は、核廃絶運動の原動力となってきたが、その思いを踏みにじるような政策だ。被爆者からは落胆や反対の声が上がった。【竹下理子、寺岡俊、今野悠貴】

 8歳の時に被爆した岡田恵美子さん(81)=広島市=は「これまでもトランプ大統領は核戦力の増強をちらつかせる発言をしてきたが、パフォーマンスだと思っていた。『核兵器なき世界』を掲げたオバマ前大統領とは真反対の方向に進んでいる」と肩を落とし、「オバマ氏の広島訪問や核兵器禁止条約の採択など核廃絶へ向かう機運に水を差すもので、絶対反対だし、考えられない」と語気を強めた。一方で「市民も人ごとではなく、危機感を持つべきだ。再び核兵器が使われないために被爆証言も続けていかなければ」と力を込めた。

 同じく8歳の時に被爆し、体験を英語で証言している小倉桂子さん(80)=広島市=の元には、米国の新たな核戦力の指針の内容について事前に報道が出た頃から、米国で平和活動をしている知人らから「事態を憂慮している。皆で声を上げなければ」といったニュースメールが続々と届いたという。
 小倉さんは米国で証言すると、多くの人に「核兵器の恐ろしさを知らなかった」と言われるといい、「無知や無関心が、核運用の拡大につながる。トランプ氏は核被害に無関心だ。広島に来て被爆者の話を聞き、人間性を何よりも大切にしてほしい」と注文した。
 長崎の被爆者で原水爆禁止日本国民会議議長の川野浩一さん(78)も「核なき世界から核戦争時代への前兆ではないか」と懸念。今後、小型核の開発が進めば、「核が使用されてしまう可能性が高まる」とも指摘した。
 2017年、国連で採択された核兵器禁止条約やノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)を「被爆者の希望の灯」とした上で、今回のNPRについて「その灯をかき消す冷や水のようで、がっくりきている」と批判した。




0 件のコメント:

コメントを投稿