2018年2月9日金曜日

イージスアショア ~新たな我が国のミサイル防衛の切り札となるのか?~

2023年から運用される新たなミサイル防衛システム
予算は2基約1600億円
 発想はよく理解できます。実現できれば既存のイージス艦からのミサイル迎撃とあわせて迎撃能力は格段にあがることはまちがいないでしょう。しかし兵器装備は運用されてどうか、ということがあります。実際には、テストを繰り返しながらデータを蓄積し、評価分析しながら実用化を探ることになります。まさに北朝鮮が開発を進める「究極の防衛兵器」である核弾頭+弾道ミサイルと同じでしょう。向こうは自前でミサイル開発を進め、我が国はアメリカ製のミサイル防衛システムを導入してノウハウをものにするという発想です。
我が国が核兵器を開発、装備することには反対ですが、仮想敵国のミサイルの飽和攻撃の対処への確実性を高めていくこと(盾の強化)と仮想敵国への効果的な反撃方法の確立強化(槍の確立強化)は車輪の両輪のごとく進めていくべき課題といえるでしょう。
槍は、アメリカ軍の仕事ではありません。敵地攻撃能力の確立も「専守防衛」です。

動画

イージスアショアでトマホークを運用!?
※当選の発想でしょう。正確には「トマホークも運用」状態を希望します。効果的な仮想敵国からのミサイル防衛に反対する人はいないのではないでしょうか?我々の生活がかかっていますからね。アメリカ製のトマホークですが、カスタマイズして我が国の状況にあわせた運用を確立してほしいです。



陸上イージス、東西2基配備で検討 (佐渡・対馬など候補)
20179/24() 3:02配信 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170924-00000005-asahi-pol

 政府が、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威などに備えて新たに導入する陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について、主に日本海側の地域に、東西1基ずつ計2カ所に配備する方向で検討していることがわかった。2023年度をめどに運用を開始する方針。複数の政府関係者が明らかにした。
 既存の自衛隊施設内での配備を前提に候補地選びを進めており、東日本は加茂分屯基地(秋田県男鹿市)と佐渡分屯基地(新潟県佐渡市)、西日本は海栗島分屯基地(長崎県対馬市)、福江島分屯基地(同県五島市)などが挙がっている。
 イージス・アショアは2基あれば日本列島をカバーできるとされる。本体費用は1基約800億円と見込まれ、米国との協議で金額を確定させたうえで、2018年度当初予算案に基本設計費を計上する方針だ。運用開始の時期について、小野寺五典防衛相は「最速のスケジュールで導入したい」と述べており、2023年度より早まる可能性もある。
 イージス・アショアは弾道ミサイルを大気圏外(宇宙空間)で迎撃する。政府は20178月、米国からの購入を決定。日米防衛相会談でこの方針を米側に伝えた。

思い起こせば、北朝鮮のミサイル開発、核開発も失敗の連続ではないでしょうか?
我が国はお金をかけられる経済力があり、防衛システムとして提供してくれる同盟国アメリカが存在することが、独自にミサイル開発をしなければならなかった北朝鮮とは大きく異なる点といえるでしょう。
他国の兵器システムの導入という形をとれば、同盟国とはいえ予算はかかるのは仕方ありません。要はどういう思想で、外来兵器をたたき台として、我が国にあった兵器としていけるのか、どう国家戦略の中に落とし込んでいけるのか、ではないでしょうか?
北朝鮮から我が国の国土、国民を守るために彼らが核兵器やミサイル開発にみせている粘りと熱意を凌駕する勢いで、迎撃システムを構築しなければ、北朝鮮やひいては共産中国の海洋覇権にすら勝てないでしょう。
どの国もナショナリズムのうねりの中で、生き残りに必死です。国民一人一人がどれだけ資産防衛をはかれるのか、国体を守れるのか、個人レベルだけでなく国家レベルでも強く意識していかなければいけない時代、状況にあると思います。
参考論文です。
米国ファーストの軍事戦略で抜け殻になる日本の国防

日米共同開発のミサイル迎撃システム、またもテスト失敗
北村淳


カウアイ島のイージス・アショア施設(写真:ロッキード・マーチン社)

 2018131日、ハワイ・カウアイ島にあるアメリカ軍の弾道ミサイル迎撃システム試験施設において、弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」から弾道ミサイル迎撃用ミサイル「SM3ブロックIIA」を発射して弾道ミサイルを撃墜するテストが実施された。結果は、失敗であった。
現在の迎撃成功率は3
 イージス・アショアは稲田朋美・前防衛大臣、そして小野寺五典・現防衛大臣を筆頭に日本政府防衛当局が積極的に導入を推し進めている弾道ミサイル防衛システムである。そして、日本が導入する予定のイージス・アショアには、日米が共同開発中のSM3ブロックIIA迎撃ミサイルが搭載されることになっている。

 SM3ブロックIIAミサイル(写真:レイセオン社)

 今回実験に失敗した「イージス・アショア + SM3ブロックIIAは、実験の2週間ほど前に、イージス・アショア導入に積極的な小野寺大臣がわざわざハワイの施設を訪れて“実地検分”した装置である。小野寺大臣が迎撃実験当日に招待されなかったのがせめてもの救いであるが、巨額の国税を投入してアメリカから高額兵器であるイージス・アショアを輸入調達しようとしている日本政府国防当局にとっては、タイミングが悪いテスト失敗であった。
イージス・アショアからSM3ブロックIIAを発射して弾道ミサイルを撃墜するテストは、今回の迎撃実験を含めてこれまで3回行われ、1回目は成功したものの、2回目と3回目は失敗に終わっている。もっとも、「超高速で飛翔する弾道ミサイル(の弾頭)に、海上もしくは陸上から、やはり超高速で接近する迎撃ミサイル(の衝突体)を激突させて撃墜する」というイージス弾道ミサイル防衛システムの原理は、しばしば「数メートル前から発射された拳銃弾に、こちらからも発砲して拳銃弾によって撃ち落としてしまうほど難しい」と言われている。しかも実際には「拳銃弾で拳銃弾を撃ち落とす」ほど生やさしいものではなく、それよりもはるかに困難なシステムなのだ。したがって、迎撃ミサイルの開発段階で幾度か迎撃実験に失敗するのは致し方ないことであり、これまでのSM3ブロックIIAの迎撃成功率が3割だからといって、開発を諦めるような事態ではない。
購入しても運用開始は米国次第
 とはいうものの、鳴り物入りで日米共同開発(アメリカ側は日本の技術と資金を手に入れたいため、「共同開発」という体裁をとって開発している)をぶち上げて開発を加速させているSM3ブロックIIAの開発状況が「順調ではない」ことは事実である。かねてより囁かれている「予定されている時期までに完成するのか?」という心配は現実のものとなりそうである。
言うまでもなく、いくら日本が巨費を投じてイージス・アショアという弾道ミサイル迎撃のプラットフォームを手に入れても、そこから発射するミサイルを手にしなければ何の役にも立たない。したがって、SM3ブロックIIAが完成し、日本側に売却できる状態にならなければ、イージス・アショアによる防御網はスタートしないことになる。これまでのところ、SM3ブロックIIAの供給は2023年には開始されるとされていたが、その時期が先送りになることは十二分に覚悟しておかなければならない。日本政府はSM3ブロックIIA迎撃ミサイルの共同開発のために、アメリカ側に巨額の研究開発費を拠出し、イージス・アショア2セットの購入にも2000億円以上の巨費を投じる。さらに迎撃用のSM3ブロックIIAミサイルもアメリカから購入する予定である。M3ブロックIIAミサイルは、現在のところ米軍向けが1発およそ40億円ほどなので、日本向けは少なくとも15060億円になるであろう。しかし、日本がこれだけ弾道ミサイル防衛に入れ込んでいても、2023年に確実に運用を開始できるかどうかはアメリカ側の都合に完全に左右されてしまうのだ。
「日米同盟の強化」のいびつな構造
 このように、イージス・アショアの配備(アメリカからの輸入調達)という1つの事例だけを考えてみても、日本政府国防当局の言う「日米同盟の強化」は、「日本がアメリカの国益に寄与することによりアメリカ側の歓心を得て、アメリカに見捨てられないようにする」ことを意味しているとみなさざるをえない。
 日本側のこのような態度は、もちろんアメリカ側にとってマイナスになるわけではない。そのためアメリカ政府首脳は、日本政府首脳と共に「アジア太平洋地域の平和維持にとって、"US-Japan alliance" の強化は不可欠である」と自画自賛のポーズをとるのである。
また、アメリカ国防当局者や“御用シンクタンク”なども、アメリカ製高額兵器を気前よく購入してくれる窓口となっている日本側リーダーたちを持ち上げ、あたかも本当に(軍事的にという意味)日米同盟が強化されつつあるかのごとき言説を弄している。日本側によるアメリカ製高額兵器の買い付けがますます加速されている昨今、上記のような「日米同盟の強化」の構造(実のところは“まやかし”に近い仕組み)は、日米双方に深く根を下ろしつつある。
 日本側にとって、日米同盟の強化とは「アメリカ側の意に沿うことで米国に見捨てられない状態を維持すること」にほかならない。米国は、そうした日本側の政治リーダーや政府要人たちに対して、日本周辺の軍事的緊張の高まり、とりわけ北朝鮮の脅威を取り沙汰することで「日米同盟の強化」の名の下に米国製高額兵器を売り込めば、日本側は気前よく受け入れてくれることを熟知しているのである。
 こうした米国ファーストの軍事戦略を押しつけられる「日米同盟の強化」がますます日米間に定着してしまうと、日本政府国防当局だけでなく日本国民の幅広い層にも、何の疑問もなく「当たり前の状態」のように深く浸透してしまいかねない。その結果、日本政府や国民の大多数が気がついたときには、日本自身の国防態勢は危殆(きたい)に瀕していることになるのだ。


そもそも北朝鮮の弾道ミサイル、核兵器防衛強化のきっかけを作ったのはアメリカ、ひいては日米同盟の脇の甘さを指摘する声もありますね。

【脇の甘さ・アメリカ編】

北朝鮮の核・ミサイル開発を過小評価してき

た米情報機関

岡崎研究所
 201816日付のニューヨーク・タイムズ紙で、同紙記者のサンガーとブロードが、米国の情報機関はこれまでの北朝鮮の核・ミサイルの開発の速度を過小評価してきたが、今は過大評価しているきらいがあるとの解説記事を書いています。解説記事の要旨は以下の通りです。
米国は、北朝鮮の核・ミサイル開発を今まで過小評価してきた。米国の情報機関は、重要な要因を見落としていた。1つは、旧ソ連のミサイル科学者が北朝鮮に移住し、重要な技術移転をしたことである。
 2006年、米国は北朝鮮の最初の地下核実験に驚いた。2008年、当時のライス国務長官は、北朝鮮が長距離ミサイルの開発に着手していると述べた。
 金正日を引き継いだ金正恩について、米国の情報機関は、若くて未経験で、軍に不信感を持たれているので、長続きはしないだろうと考えた。その後4年間、北朝鮮のミサイル実験は失敗続きであった。しかし、その間、金正恩は権力の基盤を固め、抑止力としての核開発を進めた。
 現在、米国の情報機関の中でも、北朝鮮の能力に関して見解の相違がある。北朝鮮の保有する核兵器の数は20~30とされるが、国防省の情報局は50としている。北朝鮮の弾頭の大気圏再突入能力につき、ポンペオCIA長官は、獲得するのは何か月かの問題であると言った。マティス国防長官は、昨年11月のICBM実験は、北朝鮮がすでに世界のどこでも攻撃できる能力を持っていることを示していると述べた。米国政府は過去北朝鮮の能力を過小評価してきたが、今はそれを過大評価していると指摘する専門家もいる。
 元ロス・アラモス研究所長のヘッカー博士は、北朝鮮が米国の諸都市に脅威を与える兵器を開発するには、少なくともあと2年と何回かのミサイル・核実験を要するので、現在の緊張を和らげ誤解を避けるための対話を始める時間は未だあると述べた。
出 典:David E. Sanger & William J. Broad ‘How U.S. Intelligence Agencies Underestimated North Korea’ (New York Times, January 6, 2018)
https://www.nytimes.com/2018/01/06/world/asia/north-korea-nuclear-missile-intelligence.html?_r=0
サンガーとブロードは、米国の情報機関が北朝鮮の核・ミサイルの開発の速度を過小評価してきた理由として、1)ソ連崩壊後旧ソ連のミサイル科学者が数多く北朝鮮に移住し、北朝鮮に貴重な技術移転をしたことに注意しなかったこと、2)金正恩が核・ミサイル開発を最優先課題として全力を注入したことの二つを挙げています。
 ソ連の影響については、ソ連は1960年代から北朝鮮の核関連科学者を受け入れ、これら科学者が北朝鮮の核開発を担ってきました。北朝鮮の核開発にソ連が果たした役割は大きいです。2)については、北朝鮮の核開発は金日成が始めたものであり、金正日もそれを受け継ぎましたが、金正恩の取り組みは2人を上回る熱心さで行われたのは確かなようです。金正恩は北朝鮮、金体制の存続に対する危機感が2人より強く、何としてでも米国の核の脅威に対する抑止力を獲得しようと考えたに違いありません。
 北朝鮮が米国東海岸を核攻撃できる能力の取得にとって残された課題は、大気圏再突入の際の熱に耐えられる弾頭の開発といわれます。これについて米政府高官は、北朝鮮がすでにその課題を克服したか、数か月で克服すると見ており、他方有力な研究者は、あと2年はかかると見ていると言います。ただ前者を北朝鮮の開発速度の過大評価というのは言い過ぎで、いずれにしても、近々北朝鮮は最後に残された壁を突破することは確実と見られています。米国、日本、その他の関係国は、この見通しを前提に北朝鮮政策を考える必要があります。
【脇の甘さ・日本編】

なぜ中国の潜水艦は尖閣諸島に近づいたのか

小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)
 2018111日午前、中国海軍のものとみられる潜没潜水艦と中国海軍フリゲートが、尖閣諸島周辺の日本の接続水域に入域し、同日午後同海域から離れた。中国海軍の水上艦は20166月に一度同接続水域に入域しているが、中国海軍の潜水艦が、尖閣諸島沖の接続水域に入域するのが確認されたのは今回が初めてだ。この事案の発生を受けて、日本政府は事態を一方的にエスカレートする行為だと中国政府に抗議したが、中国政府は海自の護衛艦が先に接続水域に入ったためと自らの行動を正当化している。
 今年は日中平和友好条約締結40周年で、昨年から両国は関係改善に向けた努力を続けている。にもかかわらず、その動きに水を差すような行動をなぜ中国海軍は取ったのであろうか。以下、防衛省の発表とメディアの報道から、中国側の意図を分析する。

共産党中央の指示か、現場の指揮官の独断か
 まず、今回の事案は共産党中央からの指示に基づいていたのだろうか、それとも現場の指揮官の独断によって偶発的に発生したのだろうか。前者の場合、何らかの政治的な意図に基づいて、潜水艦とフリゲートが連携して今回の動きを見せたことになる(潜没航行中の潜水艦が水上艦と通信を行う手段は限られているため、突発的に連携を行うことはまず考えられない)。現場の判断だったとすれば、潜水艦が何らかの理由で接続水域を潜没航行し、これを追尾する海自護衛艦が接続水域に入ったため、東シナ海中間線付近にいた中国海軍フリゲートも同海域に入域したのだろう。この場合、フリゲートは潜水艦の動きを把握していなかった可能性がある。
 共産党中央からの指示があったとすれば、習近平指導部は、自らが進める一帯一路構想に日本が協力の姿勢を示すことを歓迎し、日中関係全体の改善は進めたいが、日本に対して尖閣諸島に関して一歩も引いていない姿勢を見せようとしたと考えられる。あるいは、中国側に、一帯一路への協力に引き続き日本側が条件を設けていることへの反発もあるのかもしれない。または、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの運用開始が近いと報道されているが、中国側は危機管理の必要性を示す事態を作る中で、その運用に関しても中国側の意向の尊重を求めているのかもしれない。中国共産党第19回全国代表大会で、習近平総書記は権力をさらに固めたと見られるが、日中関係は国内的に敏感な問題なので、その改善は慎重に行う必要がある。今月中に河野太郎外務大臣が、日中韓首脳会談の調整のために訪中する予定だが、その前に日本側に政治的なシグナルを送ろうとしたのではないか。
 一方、現場の独断だった可能性はあるだろうか。中国海軍の潜水艦は2004年に一度石垣島東岸の領海を潜行したまま侵犯し、海上警備行動に基づいて海上自衛隊の追尾を受けている。その後、中国は領海侵犯を「技術上のミス」と釈明した。他に中国のものと思われる潜水艦が、2013年に3回、2014年に1回南西諸島沿いの接続水域で確認され、2016年2月には対馬沖の接続水域でも確認されている。しかし、習近平国家主席が人民解放軍の統制を強める中、日中間で最も機微な問題である尖閣諸島で、軍が独断で行動を起こすとは考えにくい。
 中国側が、尖閣の接続水域に入った場合の日本側の出方を試した可能性も考えられなくもないが、当該潜水艦は尖閣諸島沖の接続水域に入る前に宮古島沖の接続水域を潜行しており、少なくともその頃から哨戒機から投下されるソノブイと、護衛艦の艦載ヘリが投下するディッピングソナーで逐一位置を特定され、(潜水艦映画でよくあるように)艦内にはソナーの不気味な音が響き渡っていたに違いない。そのような状況で自衛隊の出方を試す必要はない。むしろ、潜水艦の艦長は一刻も早く現場海域から立ち去ることを望んだだろう。
 このため、今回の事案は共産党中央からの指示に基づいていた可能性が高い。なお、一部報道によれば、当該潜水艦の情報は米国「など」から日本に持たされたとされているが、実際の情報源は台湾である可能性が極めて高い(2004年の領海侵犯事案も、最初の情報は台湾からもたらされたとされる)。蔡英文政権が発足して以来、中国は台湾に対する圧力を強めているが、最近は中国の艦船や爆撃機が台湾を周回している。2018年に入って、中国の空母が台湾海峡も通航している。今回尖閣諸島の接続水域に入域した潜水艦が中国のどの艦隊に所属しているかは不明だが、南シナ海方面から、バシー海峡を抜けて太平洋に入り、宮古海峡から尖閣に向かったと思われる。そうであれば、習近平指導部は、海軍の作戦能力の向上とともに、台湾と日本に対する政治的圧力を目的としていたと考えられる。
日本政府が抗議よりもすべきこと
 最後に、今回の事案を受けて日本政府は中国政府に抗議をしたが、国際法上接続水域での潜水艦の潜没航行は認められており、その点で中国の行動に問題はなかった。また、日本政府は潜水艦の国籍を特定しておらず、潜水艦の行動について直接抗議をしたわけではなく、あくまでフリゲートの動きを含めた事態全体の発生についての抗議であった。ただ、日米両政府は防衛協力の指針に基づく同盟調整メカニズムを通じて、常時情報と情勢認識を共有していたはずだが、米側は国際法上問題がないにもかかわらず、日本政府が抗議をしたことに理解を示したのだろうか。米国海軍は潜水艦も含めて中国の接続水域も航行していると考えられ、そうであれば、米国政府は日本政府が中国政府に抗議をしたことを懸念している可能性がある。
 中国の行動が一方的に尖閣諸島をめぐる緊張を高めたことは確かだが、日本政府の対応として必要なのは中国政府に抗議するよりも、今回の中国の動きを可能な限り詳細に国際社会に示すことではないだろうか。現時点での防衛省の発表では、日中の艦船の細かい動向など、わからないところがまだあり、中国側の「自衛隊が先に接続水域に入った」とする主張に反論できる材料ともなっていない。国際法上の問題がないことを中国政府に抗議をするよりも、国際社会に中国が事態を悪化させる行動を取っていることを発信することの方が、同様の事態の再発を防ぐより賢明な方法ではないだろうか。

【油断できない共産中国】
共産中国はもはや軍事においては、発展途上国とはいえないようです。

AIの軍事利用、米国に追いつきつつある中

岡崎研究所
 米国のシンクタンクCenter for a New American Security非常勤フェローのElsa B. Kaniaが、Foreign Affairsウェブサイトの2017125日付けSNAPSHOT欄で、中国は人工知能(Artificial IntelligenceAI)の軍事利用で、急速に米国に追いつきつつある、と述べています。論説の要旨は以下の通りです。
 米国は技術力で長年軍事的優位を保ってきたが、最近中国の人民解放軍は、米国が力を入れている最新技術に挑んでいる。AIがその最たるものである。
 AIは今後新しい軍事能力を生み、軍の指揮、訓練、部隊の展開を変え、戦争を一変させうる。その変化は大国間の軍事バランスを決めるだろう。
 米国は現在AIで世界をリードしているが、中国は「新世代AI開発計画」を発表し、2030年までにAIで「世界をリードする」との野心的計画を明らかにした。
 いろいろな指標から中国はすでにAI大国といえる。中国は米国に次ぎAI関連特許申請が多く、中国の学者はすでに米国の学者より多くのAI論文を発表している。AI推進協会の2017年年次会議で、中国の研究者は初めて米国の研究者と同数の論文を提出した。中国の官民は何十億ドルもの投資をし、有能な若者を育てる努力をしており、中国は米国を追い越しそうである。
 中国の軍事指導者は、AIが戦争の性質を変えると考えている。AIはいずれドローンの大群を支援することとなるだろう。AIは指揮官が戦場で素早い決断を下す能力を高めるだろう。
 本年6月「中国電子技術グループ社」は、119個のドローン軍の飛行実験に成功した。戦時に中国軍は米国の航空母艦などをドローン群で攻撃できる。
 AIやロボットが戦争で使われるようになるにつれ、中国では戦闘のほとんどを人間のいないシステムで行うことが予期され始めている。すでに兵器の自動化は進められており、例えば米国のパトリオットは、目標のミサイルを自動的に追跡できる。将来はAIが人間より早くサイバーの弱点を見つけ、修正するようになるだろう。
 人民解放軍は、教育程度の高い技術的に有能な人材の確保に苦労している。
 AIは人材に代わってある程度軍事機能を代替できる。
 しかし複雑なAIシステムは高度に訓練された人材を必要としており、そのような人材の確保は容易でない。
 これまでの中国のAIでの進歩に照らせば、米軍部は、中国が急速に米国と同列の競争者になりつつあることを認めるべきである。
 米国は何をなすべきか。
 米政府関係者は、中国の戦略目的の中での人民解放軍の進歩を注意深く検討するとともに、将来の競争力の基礎となる優位を維持すべきである。第一に米政府はAIとその応用についての長期的研究にはるかに多い投資をすべきである。  
 トランプ政権は国家科学財団の知能システム研究に1.75億ドルの支出を提案したが、中国は次世代のAIの研究に今後何十億ドルも支出する計画である。
 第二に人材の確保に万全を期すべきである。世界のトップのAI人材を集めるとともに、高校、大学での教育計画を発展させるべきである。
 そして米国政府は、中国による米国経済の機微な部門への投資や買収の監視を強めるなど、不法な技術移転の防止に努めるべきである。
 米国軍部は中国のAI大国としての登場の挑戦を認め、米国の技術優位が保証されない将来に備えるべきである。
出典:Elsa B. Kania,‘Artificial Intelligence and Chinese Power’Foreign Affairs, December 5, 2017
https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2017-12-05/artificial-intelligence-and-chinese-power
AIは軍事面で戦争を一変させ得る最先端技術ですが、上記論説は、中国はすでにAI大国で、米国はAI大国中国の挑戦に備えるべきであるとの警告です。
 米国はこれまで技術力で軍事的優位を保ってきました。戦後最初は核戦略で、1970年代半ばにソ連に追いつかれると、精密誘導ミサイル、偵察衛星、ステルス戦闘機などを開発しました。このような技術でもロシア、中国に急速に追い上げられた今、米国は第三の相殺戦略として無人ステルス戦闘機、小型ドローン、無人潜水艇、電磁レールガン、レーザーガン等の開発に力を入れています。
 その中にあって中国がAIで米国の後を追うのではなく、急速に米国と同列の競争者になりつつあるといいます。
 AIはドローンを群れのように同時に運用する構想や、ミサイル防衛での迎撃の判断、戦場での指揮の一部の代替など、軍事面で多岐にわたる応用が考えられ、将来の戦争の性格を一変させ得るものであり、その中での中国の台頭の意味は大きいものがあります。
 さらに中国がAIのみならず、「第三の相殺戦略」の他の技術でも米国を急速に追い上げ、米国と肩を並べるほどの進歩を遂げている可能性もあります。
 米国の技術開発能力は世界に冠たるものですが、中国の技術開発力も侮れません。
 米国は技術優位を維持すべく、あらゆる努力をするでしょうが、論説は米国の技術優位が保証されない将来に備えるべきであると述べています。技術優位が保証されないということは軍事的優位が保証されないことに繋がり得ます。

 もしかりに米国の中国に対する軍事的優位が保証されないような事態になるとすれば、その国際政治上の影響は甚大でありえます。我々は果たしてそのような事態が到来するのか、もし到来するとしたらそれは何を意味するのか、日本にとってどういう意味を持つのかを十分フォローし検討する必要があります。

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