2018年2月27日火曜日

アメリカ国防予算案&国防戦略&アジア戦略

【国防予算案概要】

国防費増額の米国、これが最新「買い物リスト」だ

兵員を増強し、主要艦艇、航空機を建造

北村淳

米首都ワシントン近郊にある国防総省のビル(2015423日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / SAUL LOEB AFPBB News

 アメリカの2019会計年度(2018101日~2019930日)の国防予算案の概要が公表された。
 2019会計年度の国防予算総額は6860億ドル(約745000億円、基礎的国防予算6170億ドル、戦時補正予算690億ドル)である。トランプ政権が希望していた7160億ドルには届かなかったものの、2018会計年度の国防費6391億ドル(基礎的国防予算5745億ドル、戦時補正予算646億ドル)から7.5%増額することとなった。今回は、米国の国防費の増額が何に使われるのかをみていこう。
兵員の増強
 海軍の兵員数は、およそ2%にあたる7500名の増員が認められた。この数字が達成されると海軍常備兵力は335400名となる。海軍と同じく陸軍も2%の増員が認められた。もともと兵員数は海軍より陸軍のほうが大きいため、陸軍は11500名が増員され、常備兵力は487500名となる見込みである。
 海兵隊と空軍の兵員数増強は2%には届かず、それぞれ1%に留まった。その結果、海兵隊は1100名の増員となり、常備兵力は186100名となる。空軍は4000名の増員で、常備兵力は329100名となる。米軍全体としては24100名の増員、常備兵力は1338100ということになる。
主要艦艇の建造
 国防費の増額に合わせて、以下のように強力な艦艇の建造が加速されることになる。敵の戦略原潜(核弾道ミサイルを搭載している原子力潜水艦)ならびに敵の攻撃原潜を発見し追尾し、いざというときには撃沈する攻撃原潜(ヴァージニア級攻撃原潜)を2隻。2隻の建造費は74億ドル(およそ8000億円)である。
建造中のヴァージニア級攻撃原潜(写真:米海軍)
海上自衛隊のいわゆるイージス艦の“原型”となったイージスシステム搭載艦であるアーレーバーク級ミサイル駆逐艦を3隻、60億ドルで調達。
 沿海域戦闘艦1隻を13億ドルで建造。沿海域戦闘艦は各種トラブルが多発して建造計画が打ち切りとなっていたが、建造メーカーとの契約上の問題があるため、結局建造することとなった。このほかにも、とりわけ実戦では重要な役割を演ずる給油補給艦2隻(11億ドル)、オスプレイやヘリコプターなどの発着や兵員の補給など“海上に浮かぶ基地”の役目を果たすことになる遠征海洋基地船1隻(7億ドル)などが建造されることになった。
 さらに、これらの新造艦だけでなく、最新鋭ジェラルド・R・フォード級原子力空母とコロンビア級戦略原潜といった新型超高額艦艇の継続開発建造費にそれぞれ18億ドルと37億ドルが投入される。

建造中のジェラルド・R・フォード級原子力空母(写真:米海軍)
 上記のように、トランプ政権は莫大な予算を投入して海軍の増強に着手しており、2019会計年度だけでも主力戦闘艦6隻が建造を開始されることになる。ただし、建造に時間がかかる軍艦などの主要兵器の場合、建艦予算が割り当てられるということであり、2019年会計年度内に調達されるわけではない。
 また、トランプ政権が打ち出し法制化された海軍増強策によると、アメリカ海軍の戦闘艦艇数を最低でも77隻は増強しなければならないこととなっている。実際には現有艦艇には近々退役していく艦艇があるため、77隻増強ということは、90隻以上の艦艇を作り続けていかなければならないことを意味している。ということは、もし2019年会計年度のペースで建造され続けた場合、計算上は15会計年度が必要となり、軍艦建造に必要な時間を考えると「355隻海軍」が誕生するのは2035年以降になってしまう。
航空機の調達
 航空戦力も強化される。艦艇ほど単価そのものは超高額ではないものの、極めて高価な航空機も多数調達されることとなる。
 それらのうち“目玉”となるのは、航空自衛隊も調達を開始したF-35ステルス戦闘機である。F-35戦闘機には、空自が購入している空軍仕様のF-35A型、強襲揚陸艦からの垂直離着陸機能が付与されている海兵隊仕様のF-35B型、それに航空母艦からの発着が前提となっている海軍仕様のF-35C型の3種類がある。いずれもすでに運用が開始されてはいるものの、いまだに改良開発中である。これらの3種のF-35戦闘機を合わせて77機、107億ドルで調達する。このほか、
VH-92大統領専用ヘリコプター6機(海兵隊、9億ドル)
F/A-18
艦載戦闘攻撃機24機(海軍、20億ドル)
KC-46
空中給油機15機(空軍30億ドル)
CH-53K
キングスタリオン重輸送ヘリコプター8機(海兵隊、海軍16億ドル)
AH-64E
アパッチ・ガーディアン戦闘ヘリコプター60機(陸軍、13億ドル)
P-8A
ポセイドン対潜哨戒機10機(22億ドル)
などがある。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52410?page=4
 さらに、航空機から発射される武器、たとえば統合直接攻撃弾(JDAM:無誘導爆弾に装着して精密誘導爆弾化するための装置)43594個(12億ドル)などが調達される。それらの兵器購入に加えて、新型長距離戦略爆撃機(核爆弾搭載機)B-21Raider」の開発(ノースロップ・グラマン社が研究開発を推進)に23億ドル、核戦略の大転換と連動する形で戦術核搭載航空機発射型巡航ミサイル(LRSO)の開発費に6億ドル、空軍が運用することになる次世代地上発射型大陸間弾道ミサイル「GBSD」の研究開発費に3億ドルが投じられることになった。
開発中のハイテク長距離戦略爆撃機B-21(写真:ノースロップ・グラマン社)
軍用車輌の購入
 軍艦や軍用機のような高額兵器ではないが、国防費の増額に伴って多くの軍用車両も購入される。たとえば、
JLTV 統合軽戦術車輌(陸軍)5113輛(20億ドル)
AMPV
多用途装甲車(陸軍)197輛(8億ドル)
ACV-1.1
水陸両用装甲車(海兵隊)30輛(3億ドル)
M-1
エイブラムス戦車(陸軍、海兵隊)近代化改修費(27億ドル)
などである。

5千両以上の調達が認められたJLTV(写真:米陸軍)

日本への影響は?   
 アメリカ軍がどのような兵器を取り揃えようが、それが自衛隊や日本にとって直接影響を及ぼすわけではない。しかし、たとえばF-35ステルス戦闘機のように、自衛隊が購入すればするほどF-35の単価は低下するため、アメリカ軍が多数取り揃えていくためには、日本にも多数購入してもらった方が望ましいことになる。したがって、F-35に限らず、米軍による高額兵器の調達が加速されると、それらの単価を低下させるために、今後ますます日本政府当局に対する売り込み圧力が強まることは確実である。

〈管理人より〉アメリカからみると東(大西洋)における欧州への国防線は、イギリス、ドーバー海峡、西(太平洋)での国防線は韓国、日本、台湾、38°線~台湾海峡、というところでしょうか?
 イギリスは、情報戦略(エシュロン)と核戦略で重要な同盟国、韓国、台湾は軍事的な意味で共産中国やロシアを抑える同盟国、我が国日本は軍事よりは、アメリカの財布、つまり経済パートナーという位置づけになろうかと思います。
 ただ近年は、共産中国の覇権が急速に拡大する中で、軍事面での支援が希薄な我が国の軍事的な貢献を拡大する方向にあります。


【アメリカ国家戦略】

テロとの戦いの間、中露を増長させてしまった米国

岡崎研究所
 米国防総省は2018119日、10年ぶりに「国防戦略(NDS)」を発表した。今回のNDSは、中露を名指ししつつ「今や安全保障上の関心事はテロではなく国家間の戦略的競争である」と明確に記述し、注目を浴びた。公開版のサマリーのイントロダクションが、今回のNDSの思想をよく表しているので、以下にその要旨を紹介する。
  我々は、長年続いたルールに基づくグローバルな秩序の衰退に特徴づけられる、世界的無秩序の高まりに直面している。今や、テロではなく国家間の戦略的競争が、米国の国家安全保障上の主要な関心事である。
 中国は、南シナ海の地形を軍事化しつつ近隣国を略奪的経済手段で脅迫している、戦略的競争相手である。ロシアは、近隣国の国境を侵し、近隣国の経済、外交、安全保障上の決定に拒否権を獲得しようとしている。国連による非難、制裁にも拘わらず、北朝鮮の無法な行為と向こう見ずなレトリックは続いている。イランは、暴力の種をまき続け、中東の安定にとり最大の脅威となっている。ISISは、物理的なカリフ国としては打倒されたが、テロ組織としては存続している。
 急速な技術革新、あらゆる作戦領域における敵からの挑戦、米国史上最長となる武力紛争に起因する軍の即応体制への影響が、複雑さを増す安全保障環境を定義づけている。こうした環境では自己満足は許されない。我々は、殺傷力の高い、弾力性のある、迅速に適応できる統合軍を展開するために何が最も重要なのか、困難な選択と順位付けをしなければならない。米軍は今や、戦場で勝利を約束されてはいない。
 より殺傷力の高い、弾力性のある、革新的な統合軍が、強固な同盟・パートナーと相まって、米国の影響力を維持し、自由でオープンな国際秩序を守るのに好ましいパワー・バランスを保証することになろう。我々の軍の態勢、同盟およびパートナーシップの構造、国防総省の近代化が相まって、紛争における優位と力を通じた平和の維持に必要な能力を提供するだろう。この戦略に失敗すれば、米国のグローバルな影響力は低下し、同盟国・パートナー国の間の調和は損なわれ、市場へのアクセスが低下し、我々の繁栄は衰退することになる。我々の軍の即応体制の回復と近代化のための持続的で予測可能な投資がなければ、急速に米軍の軍事的優位は失われる。
出典:‘Summary of the 2018 National Defense Strategy of The United States, United States Department of Defense, January 19, 2018)
 戦略には、まずもって、正確な情勢認識が不可欠である。その点、2018年版のNDSの「安全保障上の最大の関心事はテロではなく国家間の競争である」との認識は適切である。さらに本文では「米国の繁栄と安全にとり中心的な挑戦は、修正主義勢力(注:中国とロシア)による長期的、戦略的競争である」とも明言している。その通りであろう。今回のNDSの認識は、国際秩序、戦争、平和を決定するのは国家間のパワー・ポリティクスであるという当然の現実に立ち返ったものと評価できる。9・11の後、その衝撃があまりにも大きかったせいもあろうが、テロとの戦いに力点が置かれ過ぎてきた。しかし、その間、中国は大規模な軍拡を敢行し海洋進出を強め、ロシアはジョージアやウクライナで侵略的行為をするなどしている。国家間の戦略的競争は存在したにもかかわらず、それを直視してこなかった。オバマ政権は、米ロ関係の「リセット」や、アジアへの軸足移動の掛け声倒れなどで、かえって中国やロシアを増長させたように思われる。
 今回のNDSは、戦略環境について正しい認識を示した点だけでも評価に値するが、具体的なアプローチも常識的で妥当である。
 まず、米軍の能力向上の面では、核兵器、サイバー及び宇宙における能力、C4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察)能力、ミサイル防衛の強化などである。このうち、サイバー空間における国際的ルールは未確立の部分が多い。NATOがサイバー空間の国際法について研究した文書「タリン・マニュアル」を発表するなどしてリードしているが、日米間でもよく協議する必要があるのではないか。
 2番目の柱は、同盟とパートナーシップ構造である。これには、インド太平洋における同盟とパートナーシップの拡大、NATO同盟の強化、中東における永続的なコアリションの形成、西半球における優位の維持、アフリカにおけるテロ対処支援が含まれる。インド太平洋における同盟とパートナーシップは、我が国が精力的に取り組んでいる日米豪印の防衛協力、「自由で開かれたインド太平洋戦略」などとも整合的であり、当然、歓迎できる。NATO同盟の強化についてのくだりでは、NATO条約第5条(相互防衛)へのコミットメントが死活的に重要である、と述べている。トランプは就任当初、NATO条約第5条へのコミットメントを明言しようとせず問題となった。そうした懸念を払しょくする意図と思われ、よく気を配って書かれた文書であるとの印象を受ける。
 ただ、一つの大きな懸念材料として、予算の問題がある。マティス国防長官はNDS発表の記者会見で、「議会は予算決定の運転席に座るべきで、予算管理法の観客席に座っているべきではない。米軍の優位を維持するには予測可能な予算が必要だ」と述べている。

〈管理人より〉イラク戦争は、アメリカにとって「大義のない戦争」であり、フセイン政権が倒された後、大量破壊兵器がみつからなかったこと、戦闘停止からイラクの戦後処理にかけて、超大国アメリカの「警察機能」の低下と信頼性の低下を招いた戦争と考えると政策的には失敗であったといえるのではないでしょうか?


【アメリカ・アジア戦略】

中国が台湾を取ることは困難であろう

岡崎研究所
 ワシントン・ポスト紙元北京支局長のポンフレットが、中国が台湾を取ることは困難であるとする最近の研究を紹介しつつ、米台が台湾防衛に引き続きコミットする必要があると論じています。要旨は次の通りです。

(iStock.com/paylessimages/flowgraph/Tatyanash/ Meilun/Ingram Publishing)

 201813日、習近平は、軍の会議で初めて「戦闘態勢」を命じた。中国では、中国が2020年までに軍事的手段で台湾を奪取すると予測する人達もいる。一方、トランプ政権は、米台関係の強化を約束し、米海軍の艦船の台湾への寄港を示唆した。長年、米国の専門家達は、台湾の「事実上独立した民主国家」という地位は、巨大中国の台頭で維持できなくなると考えてきた。ヘンリー・キッシンジャーもその一人である。
 しかし、近年、米国の専門家達は、中国が台湾を吸収するという想定に疑問をもち始めている。最近、ハワイの東西センターのDenny Roy上席研究員、とタフツ大学のMichael Beckley教授は、それぞれの研究で、中国が台湾を取れる能力及び意思について疑問を呈した。
 両者は、台湾の歓心を買うという点で中国の政策は失敗していると指摘する。台湾を標的にしたミサイル配備、台湾の人権活動家の投獄といった脅しは、統一への台湾の反対を強めた。昨年の世論調査では、台湾人の4分の3が中台は別の国と考え、一つの国とした者は14%だけだった。台湾人の半数が中国人とみなした20年前からは大きな変化だ。20161月には、独立派の民進党が初めて立法院で多数を獲得し、同党の蔡英文も総統選で勝利した。台湾との親善に失敗したら、中国は経済的梃子を使い得るのか。中国は台湾の最大の貿易相手国兼対外投資先だ。しかし、中国が台湾への投資を止めれば、台湾人の反感を買う。
 さらに、RoyBeckleyは、中国の継戦能力を疑問視する。Royは、中国が台湾に対して軍事的手段をとれば、中国経済は打撃を受け、たとえ戦争に勝利したとしても、米国がアフガンやイラクで直面したような状況に陥ると指摘する。Beckleyは、中国による攻撃を検討し、封鎖、侵略、戦略爆撃、いずれも成功の見込みはないとする。台湾は15万の兵士を直ちに動かす能力を持っているし、台湾の海岸線の10%しか上陸に適さない。米国が台湾防衛に乗り出せば、8隻の米潜水艦により人民解放軍の上陸侵攻部隊の40%が沈められる。
 現在、中国は軍事予算の3分の1を台湾奪取戦争の準備に充てている。RoyBeckleyは、米台政府には台湾の安全保障で協働し続ける義務があると主張する。 台湾は防衛費を継続的に増額する必要がある。昨年7月、蔡英文総統は、防衛予算を年3%増額し得ると述べたが、米国は台湾が防衛費を倍増することを望んでいると米政府高官は述べた。
 トランプ政権も台湾防衛強化の努力を継続する必要がある。12月に発表された国家安全保障戦略は、米台の強い紐帯の維持にコミットした。今や、米海兵隊が米国在台協会を防衛しようとし、大使館の態様が強くなる。昨年2月、初めて台湾の立法委員のグループが国務省の歓迎を受け、6月にはトランプ政権は14億ドルの対台湾武器売却を発表した。しかし、まだ出来ることはある。中台間ゲームの勝利は、まだ決まっていない。
出典:John Pomfret Can China really take over Taiwan? (Washington Post, January 5, 2018)
https://www.washingtonpost.com/news/global-opinions/wp/2018/01/05/can-china-really-take-over-taiwan/
 中国が経済的にも、軍事的にも、台湾を中国の望む条件で統一するということはきわめて困難である、とワシントン・ポスト紙元北京支局長のポンフレットが論じています。ポンフレットは、米国の二人の専門家の研究を例にとりながら、台湾問題についての最近の米国人専門家たちの見解を紹介しています。興味深い論評です。
 これまで、米国の専門家たちの中では、台湾の「事実上独立した国家」という地位は、いずれ中国の経済力、軍事力の増大とともに維持できなくなるとの見方が一般的でした。その代表的人物はヘンリー・キッシンジャーで、彼は台湾と中国の「再統一は不可避」と主張していました。また、米国が台湾を放棄することにより、中国との友好関係を維持することが得策である、と主張した者もいました。しかし、ポンフレットは、現在の米国の専門家たちは、中国が台湾を取れる能力をもつことには疑問を呈するようになってきた、と言います。
 他方、台湾問題は、中国にとっては、「核心的利益」の最右翼に位置する重大事です。台湾を統一することが困難であっても、独立に向かう動きを無視することは到底考えられません。そのような観点から、2020年には「軍事的手段」を用いてでも、中国は台湾を奪取しようとするだろう、との中国人の研究者の見方も一概に無視することはできないでしょう。
 現に、台湾周辺では中国軍機の活動が活発化していること、また、中国の空母「遼寧」が台湾周辺を航行して軍事的な威圧活動を行うこと、などが常態化しつつあります。習近平体制としては、「中華民族の偉大な復興」というスローガンのもとに、優先事項として、台湾統一を位置付けていることは、想像に難くありません。カリスマ性に欠ける習が、名実ともに毛、鄧に次ぐ指導者としての権威を確実にするためには、なんらかの実績を残す必要があります。台湾対岸の福建省で十年以上勤務した経験を持つ習近平にとっては、とくに台湾問題において目に見える実績を上げたいところでしょう。
 「台湾の歓心を買うという点では、中国の政策は失敗している」とポンフレットは指摘します。中国の打ち出す硬軟両様の方策も、台湾人の歓心を買うことが出来ず、逆に、中台間の距離は拡大する方向にあるというのが今日の実態でしょう。昨年の台湾における世論調査の結果が引用されているとおり、いまや台湾人の4分の3が中台は別の国であると考えており、両者が一つの国に属するとするものは14%にすぎません。これは、20年前の調査で、台湾人の約半数が自らを「中国人」と考えていた状況からの大きな変化を示しています。ビジネスの世界では、中国は台湾にとっての最大の貿易、投資の相手先で、台湾にとって中国の存在が重要であることに変わりはありません。が、台湾人にとっては、中国の実態を知れば知るほど、自由で民主主義の定着した台湾と中国の違いを認識せざるを得ません。
 トランプ政権になってから、一時、米中間において「一つの中国」をめぐり、米中間の確執が表面化しました。しかし、その後は、北朝鮮をめぐる緊張状況に対処するために、米中間の交渉・駆け引きが続いており、台湾問題は喫緊の課題としては浮上していないようです。ただし、今後については、台湾をめぐり米中間の緊張状況が浮上する可能性は考えられます。特に、最近、米国議会において「国防授権法」が通過したことや、「台湾旅行法」が議論されていることを見れば、それは明らかであります。日本にとっても、いかに日台間の交流の一層のレベル・アップを図るかということが今後の主要な課題となるものと思われます。

コープ・ノース2018、グアムではじまる

 2018/02/16 12:35
https://flyteam.jp/airline/united-states-navy/news/article/90653
コープ・ノース2018

 アメリカ太平洋軍は2017214()から、アメリカ、日本、オーストラリアの3カ国が参加し、グアムのアンダーセン空軍基地で「コープ・ノース18(COPE NORTH 18)」を開催しています。
「コープ・ノース18(COPE NORTH 18)」演習は、アメリカ空軍、アメリカ海軍、アメリカ海兵隊、航空自衛隊、オーストラリア空軍(RAAF)が参加し、アメリカ軍が2,000名超、空自とRAAFをあわせ850名規模で、演習には全体で100機超、飛行隊21個が参加します。公開された画像には、韓国空軍も入っています。
 訓練は、戦闘機による戦闘訓練、ファラロン・デ・メディニラ対空地射爆撃場での空対地射爆撃訓練をはじめ、多数の演練項目が予定されています。訓練のうち日米豪人道支援、災害救援共同訓練を皮切りとし、C-130H45-1073」が公開されるなど各航空兵力を動員します。
「コープ・ノース」は三沢基地で1978年に実施されていた訓練を1999年にアンダーセン空軍基地に移転し、インド・アジア太平洋地域の安全保障を高める狙いから、毎年実施されています。
なお、空自はF-15J/DJ8機、F-2A6機、U-125A2機、E-2C2機、C-130H2機、KC-767J1機、計21機に加え、人道支援・災害救援共同訓練に小牧の第1輸送航空隊と航空機動衛生隊の約100名とC-130H2機、U-125A2機を派遣しています。
 また、日本のアメリカ軍基地からは、嘉手納のアメリカ空軍第18航空団(18WG)と、岩国基地所属のアメリカ海兵隊第12海兵航空群(MAG-12)から人員660名程度、F-1512機程度、F/A-188機程度、空中給油機が2機、早期警戒管制機が2機が参加、単独で三沢の第35航空団(35FW)から人員は300名程度、F-1614機程度、派遣されています。
 〈管理人より〉アメリカ、日本、韓国の海洋権益を既にもつ国々の軍事演習ですね。大陸国家に対してのメッセージ性も同時に有しています。


コープノース・グアム2018


2018年2月22日木曜日

米中、北朝鮮、そして我が国のサイバー戦略  ~核兵器よりリアルな戦争~

米中サイバー規制が企業に強いる〝変革〟とは

急速なクラウドシフトが進むワケ


國分俊史 (多摩大学大学院教授)

 2017年に大手の金融機関や商社などの基幹システムに相次いでアマゾンやマイクロソフトなどの米国系クラウドが導入された。一方、20176月に、中国政府が施行したインターネット安全法は、日本企業を大きく動揺させた。中国国内の情報の持ち出しが制限されるだけでなく、中国政府が認証したサイバーセキュリティ技術や製品の利用が義務付けられる可能性もあり、中国市場で成長を目指す日本企業にとっては事業の前提条件を根底から覆すルールである。一見関連のないように見えるこの2つの事象の裏には米国と中国との間のサイバーセキュリティを巡る標準争いがあるとみられる。この両大国が主導するルールの理解を誤ると日本はビジネス面でも大きな痛手をこうむる。
安全保障のため知的財産の保護を図る
 ことは2010年にさかのぼる。201011月、オバマ大統領は大統領令(Executive Order 13556)を発行し、CUIControlled Unclassified Information)と呼ばれる「取扱注意情報」を扱う米国内の官民全ての組織に対して、米商務省国立標準技術研究所(NIST)が策定したサイバーセキュリティのガイドラインに沿った管理を義務付けた。CUIとは、機密情報そのものではないが、これらを広範囲に集めれば機密が特定される可能性がある情報である。20169月には連邦規則で、CUIを「処理、格納、通信」する民間企業に対して、情報システムを特定の技術体系で構築して、CUIの保護を義務付けた。
 各業界の中で最初に対応を迫られたのは防衛産業だ。国防総省から、20171231日までに同省と契約する企業とその全てのサプライヤーに対応を求める通達が出されたからだ。その他の業界は実施時期を検討しているが、多くの業界が2019年上期までに対応することになると、米国では予測されている。問題は米国政府が指定するCUIが軍事外交に関する国家レベルの情報にとどまらず、幅広い産業の企業秘密も含まれていることである。例えば自動車業界であれば試験走行データ、電力業界であれば燃料の輸送ルートや設備情報、ヘルスケア業界では個人の健康診断記録までもが該当する。
出所)米国国立公文書記録管理局などの資料を基に筆者作成  
 なぜこのような情報がCUI指定されるのか? それは、米国政府が民間企業の知的財産を中心としたデータの保護を、安全保障に不可欠な米国経済の強さを維持するうえで重要視しているからだ。企業秘密であっても、米国企業がサイバー攻撃によって競争力を失わないように、徹底した管理を促しているのである。これは日本にも多大な影響を与える。米国政府はCUIを取り扱う場合はサプライチェーン全体において当該の情報システムでの管理を求めているからだ。もちろん、それには中小企業も含まれる。米国企業のサプライヤーとなっている多くの日本企業は米国企業のCUIを無意識に保有している。そうした企業も、どの部門がCUIを取り扱っているのかを特定し、米国政府の基準に適応したシステムへの移行を迅速に行わなければ米国企業と取引ができなくなる。
 当該システムの構築には、クラウドへの移行が必須だ。要件を満たそうとすると、クラウドの利用なしでは膨大なコストがかかるからだ。ちなみに、日本のITベンダーでこの基準を満たすクラウドを有しているのはまだ1社しか存在しない。その理由はITベンダーにとって、クラウド化はビジネスモデルを破壊する「イノベーションのジレンマ」そのものだからだ。彼らはハードをクライアントに販売し、SEを現場に張り付けて異なるスペックの大量のハードウェアとソフトウェアをつなぎ合わせ、クライアント独自仕様のシステムを構築して儲けている。
 米国にはCUIに関する規則とは別に機密情報を取り扱うために必要な技術体系も存在し、米国はこれをISOにしようとしている。この基準では、クラウドの仕様を決め、データを処理するCPUや格納するメモリー、ディスクの物理的な場所をリアルタイムで特定し続けられることを求めている。推奨商品例としてNISTはインテルのTXTチップが搭載されたクラウドをあげている。こうした推奨製品には米国企業のものが多い。
米国がクラウドシフトをする背景には、サイバーセキュリティ人材を企業ごとに集めることが困難な事情がある。そのためサイバー攻撃に対処する人材をクラウドサービスの提供会社に集約し、セキュリティレベルの高いサービスを普及させることで民間企業への攻撃にも対応できる体制をつくろうとしている。
 これらを認識して対抗したのが中国だ。中国は法律で中国国内で事業展開する企業が利用する情報機器や情報サービスは中国の国家安全審査を受けることを義務付けた。つまり、中国政府の定めた規格でなければ審査が合格しない仕組みを法的に確立したのである。中国は今後、AIIBの投資対象国に対し、資金力を梃子にして中国の審査基準を認めさせ、中国IT製品の普及を目指すと見るべきである。
米国系クラウドベンダーが活況を呈する理由
 これに対して欧州の動きはどうか。167月、欧州情報ネットワークセキュリティ庁がNIS Directiveを施行。内容はEU市場で活動する企業が前述の米国基準に事実上準じた標準で指定された技術体系の採用を義務付けるものだ。期日は2018510日までであり残り時間は少なく、欧州でも情報システムのクラウド移行を加速している。アマゾンをはじめとする米国のクラウドベンダーが活況を呈しているのはこのためだ。冒頭の日本企業がクラウドに移行したこともこれに追随した動きだと思われる。一方、多くの日本企業のCIO(最高情報責任者)はいまだにクラウド不信を持つことに加えてサイバーセキュリティの観点からの有効性の認識が低い。そのため、日本企業はクラウド化が遅れてしまっている。
 確かに現段階ではクラウドでは実現できない技術課題は残っているが、安全保障目的で米欧が進めているルール形成の潮流を理解すればクラウドに移行せざるを得ないだろう。
 問題は、このような文脈でルール形成していることの認識を日本政府、民間企業の双方で行えていなかったことである。実はいまだにこうしたサイバーセキュリティのルールを統合的に説明している文書を米国政府は発信していない。日本の場合、経済産業省に米国防総省の調達基準をフォローする義務はなく、防衛省は米国防総省の動向が日本の一般的な民間企業に与える影響を考慮する義務がない。内閣サイバーセキュリティセンターは国内の官庁と重要インフラのサイバー攻撃への対応力の向上が義務であり、管轄外である。つまり、官庁には安全保障政策を起点としたルール形成が日本企業に及ぼす影響を分析し、対応をリードする機能がそもそも存在しないのだ。
 WTOISOという国際標準を作る場で公然と話し合われる状況にならない限り、他国の政府調達基準には内政干渉となるため意見が言えない。さらに言えば、今回の米欧の政策連携は諜報機関同士での協議も行われてきた。こうした情報はそれと同様の組織ではない日本の省庁ではキャッチできない。この構図は深刻である。
 今後、この手のパターンで米欧主導のルール形成に、中国がカウンタールール形成で打ち返すという安全保障政策起点のルール形成の応酬が続くだろう。サイバーセキュリティは安全保障を大義名分とした保護主義を促し、特定陣営間の標準争いになる恐れがある。
 日本においては官民が連携して、この米中を中心としたルール形成の動きを察知し、対応しなければならない。解決策は、まず民間企業が安全保障政策の情報収集能力を高めることだ。各社には安全保障政策研究者の採用、安全保障政策を研究している各国シンクタンクへの出向や研究プログラムへの参画を勧める。これらは欧米企業においては経営判断に必要なインテリジェンス能力を獲得する手段として常識である。

 また日本政府も企業活動に影響を与える安全保障政策動向を捉え、日本の調達基準に戦略的に反映させることが必要だ。それが官民双方の各国のルール形成に対する意識を変え、その動きに対する牽制を行う能力を培うことにもつながるだろう。

【進むアメリカのサイバー対策】

米、電力インフラへのサイバー攻撃に専門部署 原発や送電網の安全確保

【ワシントン=塩原永久】米エネルギー省は2018214日、原子力発電所や送電網へのサイバー攻撃に対処する専門部局を新設すると発表した。電力供給の重要施設に対するサイバー攻撃を、エネルギー安全保障上の重要課題と位置づけ、対策を強化する。
 新設するのは「サイバー安全保障・エネルギー安全保障・緊急対応局」で、次官補級がトップに就く。電力インフラに対するサイバー攻撃や、テロなどの物理的な攻撃への対応に加え、ハリケーンや「爆弾低気圧」などの気象急変のもとで、電力供給を維持することなどを任務とする。

 同省は、トランプ政権の2019会計年度(18年10月~19年9月)の予算教書で、部局の新設に9600万ドル(約102億円)の予算要求を盛り込んだ。
 同省のペリー長官は声明で、「新部局によって新たな脅威に最善の対策を採れるようになる」と述べた。
 米メディアによると、国土安全保障省と連邦捜査局(FBI)が昨夏、ハッカー集団が、米原発や電力産業の基幹施設を狙っているとの警告を発するなど、米国内で電力インフラに対するサイバー攻撃の脅威が高まっていた。

米、サイバー攻撃対策本部を設置 ロシアの選挙介入を警戒

2018/2/21 15:52 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27192630R20C18A2FF1000/
【ワシントン=川合智之】セッションズ司法長官は2018220日、サイバー攻撃対策本部を司法省に設置するよう指示したと発表した。2016年の米大統領選に介入したとして、モラー特別検察官は216日にロシアの個人・企業を訴追したばかり。201811月の議会中間選挙でもさらなる攻撃があるとみて、対抗策の検討を急ぐ。

2018220日、米ホワイトハウスでの会合にトランプ大統領とセッションズ司法長官が同席した。

 対策本部には同省と米連邦捜査局(FBI)、連邦保安官局、麻薬取締局などの治安当局が参加する。個人情報や企業の機密情報の盗難のほか、インフラへの攻撃や過激思想の流布・勧誘などのテロ対策にも対策を講じる。
 「技術の悪用がわが国に前代未聞の危機をもたらしている」。セッションズ氏は省内の指示文書で、サイバー攻撃への警戒感をあらわにした。ロシアの国名は明示しなかったが、「選挙への介入」などを優先課題に挙げ、報告書を6月末までにまとめるよう対策本部に求めた。

 16日公表された起訴状によると、ロシア企業は16年の大統領選中に数百人を雇用し、人種や移民間の対立をあおる偽情報などをツイッターやフェイスブックに大量に投稿。一部の投稿にはトランプ大統領自身も「いいね!」と肯定していたという。こうした選挙工作で米国を分断し、国際的な指導力を低下させるのがロシアの狙いだ。
 セッションズ氏は「捜査妨害技術の使用」も課題に掲げた。米アップルなどによるスマートフォン(スマホ)の暗号化が司法当局にも解けず、捜査に影響していると問題視する。
 司法当局は容疑者のスマホ内の暗号化されたデータを自由に解読できるようIT(情報技術)各社に求めているが、各社は個人情報保護との板挟みになっている。16年にはFBIによるスマホのセキュリティー解除要請を米アップルが拒否し、法廷闘争となった。

〈管理人より〉電力インフラと民主主義国家にとっては、国政を左右する選挙へのサイバー攻撃への対策はアメリカだけではない課題といえるでしょう。


【北朝鮮、共産中国、ロシアの脅威】~ただサイバー攻撃によるもの~


2017年6月のサイバー攻撃はロシア軍が実行 
トランプ政権が断定「国際的な報い受けるだろう」

【ワシントン=黒瀬悦成】米ホワイトハウスは2018215日、ウクライナを中心に世界各地で甚大な損害を引き起こした昨年6月のサイバー攻撃について「ロシア軍が実行した」と断定する声明を発表した。
 声明は、問題のサイバー攻撃は「歴史上、最も破壊的で多大な損失をもたらした」と指摘。また、攻撃は「無謀かつ無差別的で、国際的な報いを受けるだろう」として報復を示唆した。

 ホワイトハウスは「ノットペトヤ」と呼ばれるウイルスが攻撃に使われたと確認。このウイルスは、マイクロソフトの基本ソフト(OS)であるウインドウズの欠陥を悪用して攻撃を仕掛け、専門家によると最初はウクライナの会計ソフトの更新プログラムに感染し、ネットを介してウクライナ政府機関や銀行、企業などに感染が広がった。
 声明は、サイバー攻撃の狙いについて、ウクライナ南部クリミア半島を編入したロシアがウクライナ情勢をさらに不安定化させるためだったと指摘した上で、「ロシアがウクライナ紛争に関与している実態をこれまで以上に明確に示すものだ」と強調した。

 ホワイトハウスによると、攻撃による影響は欧州やアジア、北米と南米にも拡大し、総額で数十億ドル(数千億円)の被害が出たとの見方を明らかにした。

〈管理人より〉どうして誰がやったのか?が特定できるんだろう?

北ハッカー集団、サイバー攻撃対象に日本も


北朝鮮のハッカー集団が、国連の制裁などを扱う日本の国連関連団体にサイバー攻撃を行っているとの分析をアメリカの情報セキュリティー会社が2018220日、発表した。
アメリカの情報セキュリティー会社「ファイア・アイ」は、北朝鮮のハッカー集団を「APT37」と名付け、2014年から主に韓国政府や軍に集中してサイバー攻撃を展開し、軍事関連の情報などを盗んでいたと分析している。

さらに、このハッカー集団が去年、北朝鮮への制裁や人権問題を扱う日本にある国連の関連団体にもサイバー攻撃をしかけていたと新たな分析結果を発表した。また、ベトナムや中東にも対象を広げ、標的とする分野も化学や電気、医療産業などに拡大していると指摘している。
その上で、これらの活動は「北朝鮮政府のためだ」と結論づけていて、北朝鮮が自国をめぐる情報を探ろうとした可能性もある。


中露、サイバー攻撃にAI活用 北も能力獲得か 手口を学習、標的選定も
 
元在日米軍司令部サイバーセキュリティー長が証言


 中国とロシアがAI(人工知能)を活用して自動的にサイバー攻撃を仕掛ける技術を取得したことが2018213日、わかった。AIを活用すれば、人材の省力化でハッキングの効率を高められる。AIが自ら攻撃手法を学んで技術を短期間で向上でき、大規模な攻撃を仕掛けることも容易になるという。北朝鮮も同様の技術を獲得した恐れがあり、AIを悪用した攻撃の脅威が世界に広がりそうだ。(板東和正)
 元在日米軍司令部サイバーセキュリティー長のスコット・ジャーコフ氏が産経新聞の取材で明らかにした。ジャーコフ氏は現在、米セキュリティー企業「マカフィー」のサイバー戦略室シニアセキュリティアドバイザーを務め、攻撃動向などを調査。欧州警察機関(ユーロポール)などと情報を共有し、昨年、中露のAI技術取得の情報を入手したという。
 ジャーコフ氏によると、中露が獲得したAI技術は自動的に膨大な数のパソコンやスマートフォンにウイルスを送れる機能を持つ。添付ファイルを開封すればウイルス感染するメールを世界中に一斉送信し、「ハッカーが関与しなくても情報窃取やシステムを破壊する攻撃などが可能」という。また、ジャーコフ氏は「標的にする組織のシステムの欠陥を調査したり、金銭を奪える標的を探したりするAI技術も獲得した」と指摘。北朝鮮については近年、判明した同国のサイバー犯罪を分析し「AI技術を取得している可能性がある」とした。


 ジャーコフ氏は、中露がAIの使用で攻撃を強化できる点について「睡眠を取る必要がないので攻撃の効率が大幅に上がる」と分析した。AIが大量のデータを基に自ら学習する「ディープラーニング(深層学習)」を行うことで「攻撃の技術や手口が自動的に上がり、育成しなくても優秀なハッカーが誕生する」という。人間のハッカーであれば手法や攻撃を仕掛ける時間帯で犯行を特定されやすかったが「AIでは調査が難しく、攻撃側は追跡から逃れやすい」とした。
 中国には、日本の官公庁の情報を盗むサイバー攻撃を仕掛けるハッカー集団が存在。ロシアでも、米大統領選で民主党全国委員会(DNC)に攻撃した集団が確認されている。「中露のハッカー集団がAIを使うことで、さらに重大な被害が起きる」と強調した。また、防衛省がネットワークを守るシステムにAIを導入する方針にも触れ「今後のサイバー戦争はAI同士の戦いになる」とした。

〈管理人より〉「AI+サイバー攻撃」の図式。いずれは予想できることでしたが、いざリアルな形になってみると怖いものがあります。大量破壊、大量殺戮の戦争の時代は、経済の相互関係の深化によって時代遅れになりましたね。これからは「ステルス戦争」の時代で周辺国をコントロールしていく時代といえるでしょうか?

【我が国の戦略】

【電子版】英サイバーセキュリティー専門家「対策にもっと経営陣の関与を」 東京五輪など視野に日英の連携を促進


英国の国家犯罪対策庁(NCA)で国家サイバー犯罪局長などを歴任したサイバーセキュリティーの専門家、ジェイミー・サウンダーズ氏は、都内で開かれたサイバーセキュリティーに関する意見交換会で、日本のサイバーセキュリティーの課題について「ガバナンスやリスク管理の領域で、日本は英国から学べるところがある」と指摘した。サイバーセキュリティーは本来、経営陣が考えるべきであるにもかかわらず、日本ではIT部門が解決すべき課題とみなされがちという。その上で、英国がこうした課題に対して「手助けできることがあるはず」とし、今後、サイバーセキュリティー分野で日英両国が連携をさらに深めることを促した。

ラグビーW杯のサイバー攻撃対策などにも協力

サウンダーズ氏はこの分野での日本との協力関係を深めるため、2月半ばに来日。これまで日本の政府や産業界の関係者らとサイバーセキュリティーについて意見を交わしてきた。
「サイバーセキュリティーに関するテクノロジーの領域で日本が世界のリーダーであることは疑う余地がない」と評価。ただ、意見交換を通じて「サイバーセキュリティーをテクノロジーという観点からしか捉えていないことが気になった」とした。
日本では、2019年にラグビーW杯、20年に東京五輪と国際的な大規模イベントが相次ぎ、開催時期を狙ったサイバー攻撃への懸念も持ち上がっている。サウンダーズ氏がこうしたイベントのサイバー攻撃に対する戦略や計画を見たところ、とてもしっかりした内容だったという。

その上で、サウンダーズ氏は「今後、イベントが開かれるまでの時間で、策定した戦略や計画を実際にテストすることが重要。万が一、テクノロジーにトラブルなどが発生した場合のフォローアッププランなども含めた包括的な演習を行うべきと関係者にアドバイスした」とし、こうした動きに英国も協力する意欲を見せた。
サイバーセキュリティー分野の日英両国による連携をめぐっては、178月にメイ英首相が来日した際、安倍晋三首相と会談し、この分野での課題に連携して取り組むことをあらためて確認した。英国はサイバーセキュリティーの分野に先進的に取り組んでいる。
2016年から5カ年のサイバーセキュリティ―国家戦略では、5年間で約2800億円(19億ポンド)を投じる計画。英政府通信本部(GCHQ)内に設置したサイバーセキュリティ―の専門知識を集中的に管理する「国家サイバーセキュリティ―センター(NCSC)」も、この一環だ。サウンダーズ氏は英国の国家犯罪対策庁(NCA)で国家サイバー犯罪局長のほか、機密情報局長などを歴任。英国大使館によると「サイバーセキュリティ―と機密情報分野の世界的な第一人者のひとり」。

〈管理人より〉いいですね。日露戦争に勝利した「日英同盟」が静かに、着実に復活していく感覚があります。あの幕末の時代にアングロサクソン以外で世界帝国イギリスと軍事同盟関係にあったのは我が国だけでしょう。

宇宙・サイバー空間で司令塔 

防衛省「陸海空に次ぐ戦場」

2018/2/17 23:21 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27056650X10C18A2EA3000/記事保存
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 防衛省がサイバー防衛や宇宙監視の分野の能力向上を急いでいる。防衛省内に司令部機能を持つ専門組織の新設を検討するほか、サイバー防衛に従事する人員も2018年度に約4割増やし150人体制とする。宇宙やサイバーは陸海空に次ぐ「第4、第5の戦場」とも言われ、各国の攻防が激しさを増す。18年中に見直す防衛大綱の議論でも焦点になる。

与那国島に配備予定の沿岸監視レーダー=防衛省提供

宇宙やサイバー分野の対策を急ぐ

 司令部機能を持つ組織は、陸海空の3自衛隊から要員を集め、早ければ20年にも発足させる。各部隊を統括する海自の自衛艦隊、空自の航空総隊などと同格の扱いとすることを想定。サイバー攻撃への対処にあたる専門人員「サイバー防衛隊」や宇宙監視の部隊などを束ねる。
 人員の増強も進める。2018年度にサイバー防衛隊を現状の約110人から150人に増やし、19年度以降もさらに拡充する方針だ。
 宇宙分野では、22年度に宇宙状況を監視する専用部隊を新設。デブリなどを監視できる専用レーダーを海上自衛隊の山陽受信所跡地(山口県山陽小野田市)に配備する。
 こうした体制を整えるのは、各国の宇宙やサイバー分野での攻防が激しくなっているためだ。
 最近では2017年6月に、ウクライナを中心に身代金要求型ウイルス(ランサムウエア)による激しいサイバー攻撃を受け、クレジットカードの決済システムや地下鉄の支払いシステム、空港の電光掲示板などが機能停止した。米ホワイトハウスは15日に一連の攻撃はロシア軍によるものと断定する声明を発表した。
 宇宙空間では、中国による衛星破壊実験や、人工衛星の衝突などによりデブリが増加している。衛星が衝突すれば、損傷して機能を失う危険があるため対策の必要性が高まっている。
 各国はこうした現状を踏まえ対策を強化している。米国は18年9月までにサイバー攻撃に対応する部隊を15年比で3倍の6200人規模に拡大する方針だ。多国間の連携も進む。北大西洋条約機構(NATO)は今後、サイバー攻撃への防衛力向上に向けた司令センターを新設する。
 日本は海外と比べて対応が遅れているとの指摘は多く、サイバーや宇宙分野の先進国との連携も進め対応を急ぐ。
 安倍晋三首相は1月中旬にバルト3国を訪問。エストニアのラタス首相と会談し、サイバー防衛などの情報を共有する「日バルト協力対話」を立ち上げることを提案した。宇宙分野では、1月下旬の日仏の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で協力を進めると確認した。
 課題は人材育成だ。IT(情報技術)や宇宙分野に精通した専門人材は自衛隊内部には少ない。防衛省幹部は「システムや装備は予算を投じれば導入できるが、人材の育成には時間がかかる」と指摘する。外部から人材を招くことも検討するが、専門知識を持つ人材は民間企業でも厚待遇のため「公務員の給与体系では確保に限界がある」(防衛省関係者)のが実情だ。



自衛隊、宇宙監視防衛