2017年4月3日月曜日

「日本国防軍」自衛隊が出動し、武力行使できる条件

「シン・ゴジラ」から日本を守れるか?

この命題はUFO論争でも問題になった…



 強い日差しが照りつける東京湾にはいくつもの釣船が浮かび、船団をなしていた。その一隻からさおを出し、「大物」の魚信を待ち続けていたのだが、心地よい船の揺れと水面を這(は)う涼風に誘われ、まぶたが重くなり、ついつい眠りこけてしまった…。夢に出てきたのは、あの映画の巨大怪獣だった。
 夢の中でも、さおを握り続けていた。しかし、魚は一向に口を使ってくれない。そのとき、後ろの釣り客が悲鳴を上げた。振り向くと、1キロほど先で巨大などす黒い尾っぽのような物体が海面を切り裂いて出現し、水面を何度もたたきつけている。
 つい先日、ゴジラシリーズ最新作「シン・ゴジラ」を観賞した影響だろうか、夢の中に現れたのは、まぎれもない怪獣「ゴジラ」だった。ゴジラは奇声を発しながら、どんどん東京湾を分け入り、都心部に近づいていった…。
 果たして、このゴジラの進行をどうやって阻止し、制圧、排除するのか。日本の治安機能を担う警察や海上保安庁か、それとも実力組織である自衛隊の出番となるのか。高い治安機能を持つ警察や海上保安庁であっても、警察組織が持つ武器では対処不能なのは間違いない。ゴジラが出現した事態には、自衛隊が出動し、制圧に乗り出すしか手段はない。
 映画「シン・ゴジラ」では、ゴジラ襲来の事態に防衛出動を命じている。
 ただ、自民党の石破茂元防衛相は2016年8月19日付のブログで「何故(なぜ)ゴジラの襲来に対して自衛隊に防衛出動が下令されるのか、どうにも理解が出来ませんでした」と指摘している。以下、部分的に引用する。


「いくらゴジラが圧倒的な破壊力を有していても、あくまで天変地異的な現象なのであって、『国または国に準ずる組織による我が国に対する急迫不正の武力攻撃』ではないのですから、害獣駆除として災害派遣で対処するのが法的には妥当なはずなのですが…」
 石破氏が指摘するように、わが国の防衛法制ではゴジラ襲来の事態に際して、自衛隊に「防衛出動」を下令することには疑義がある。
 憲法9条の下で、自衛隊が防衛出動し、武力行使が許容されるのは、以下の3つの要件(武力行使の3要件)が定められている。

(1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。

(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。

 そして、自衛隊の行動を定める自衛隊法は76条で、首相はわが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態や、武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して、わが国を防衛するため必要があると認める場合は、自衛隊の出動を命じることができると規定する。
 そこで、ゴジラ襲来は「わが国に対する外部からの武力攻撃」に該当するかが焦点になる。答えは「ノー」だ。


 わが国に対する外部からの武力攻撃とは、「わが国に対する外部からの組織的、計画的な武力の行使」だ。そして、武力攻撃を仕掛けてくる主体としては「国または国に準じる組織」としている。つまり国家、もしくは国家に準じる組織がその意思を発動して組織的、計画的な攻撃が「武力攻撃」に該当する。ゴジラの破壊行為は、武力攻撃には当たらない。憲法9条の下で、外部からの攻撃に対して自衛権を発動するハードルは極めて高いのだ。
 また、石破氏は論点として「治安出動」も提起している。治安出動とは、警察や海上保安庁による警察力では対処できない場合に自衛隊を出動させることだ。ただ、あくまでも警察権であり、わが国を防衛するため必要な武力を行使できる防衛出動と比べて、武器使用にかなりの制限がかかるとされている。
 今回の「ゴジラ襲来」と同じような議論が9年前の平成19年の年末に起こっていた。いわゆる「UFO(未確認飛行物体)論議」だ。当時の福田康夫政権は同年12月18日、民主党(当時)の山根隆治氏の質問主意書に対し、「『地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体』の存在を確認していない」とする答弁書を閣議決定し、政府として初めて正式にUFOの存在を否定した。
 この答弁をめぐっても、防衛相だった石破氏が防衛法制の弱点を突いている。同20日の記者会見でのことだ。石破氏はUFO襲来時の防衛力のあり方について質問を受け、見解を披露している。少々長いが、抜粋して紹介する。


--防衛力のあり方について何かの影響はあるか

 「よくゴジラの映画がある。ゴジラでもモスラでも何でもいいが、あのときに自衛隊が出る。『一体、何なんだ、この法的根拠は』という議論はあまりされない。映画でも防衛相が何か決定するとか、首相が何か決定するとか、そういうシーンはない。ただ、ゴジラがやってきたということになれば、これは普通は災害派遣なのだろう。
 それが命令による災害派遣か、要請による災害派遣かは別にして、これは災害派遣だろう。要するに天変地異のたぐいだから。モスラでもだいたい同様だろうと思うが、ただ、これがUFO襲来という話になると、これは災害派遣なのかということになる。
 つまり、領空侵犯なのかというと、外国の航空機か、あれが。ということになる。外国というカテゴリーにはまず入らないだろう。普通、考えれば。航空機というからには翼があって、揚力によって飛ぶのが航空機だから、UFOが何によって飛んでいるのか、いろんな議論があるだろうが、それはそのまま領空侵犯で読めるかというと、なかなか厳しいかもしれない。
 そうなってくると、これは飛翔体なのかということになるとすると、どうなるのだと。しかし、例えば隕石(いんせき)が降ってきたということと、同じに考えられるか。隕石は自然現象だから、何の意思もなく降ってくるが、UFOの場合には意思がなく降ってくるわけではない。これをどのように法的に評価するのかということもある。
 そうすると、災害派遣が使えるのか。領空侵犯でもどうもなさそうだと。そうすると、防衛出動かということだが、それをわが国に対する急迫不正の武力攻撃と、こういうふうに考えるかと、そうはならんのだろう(以下略)」


 災害派遣時の武器使用は規定されてはいないが、「道具としての武器の使用」があり得る。昭和49年、大型タンカーが火災を起こし、海上保安庁の要請を受けた海上自衛隊が災害派遣し、タンカーを爆撃し、処分した事例がある。また、クマなどの猛獣が人畜に被害を及ぼしている場合に、災害派遣で駆除してほしいといった事態が想定されていることも政府答弁として存在する。
 現実的に起こりうる事態として想定し得ないとはいえ、ゴジラ襲来は国家の存立を脅かす事態だ。こうした際に、日本は法制上、防衛出動によって武力の行使ができない可能性が高い。自衛権を発動し、これに対処するのが当然であり、「災害派遣」のたぐいで対処せざるを得ない防衛法制は奇怪としか言いようがない。
 ゴジラ襲来を「想定外」として片付けるのは簡単だろう。しかし、突き詰めて考えてみれば、わが国の存立がかかる防衛法制が欠陥だらけであることを改めて浮き彫りにしている。(政治部 峯匡孝)

 なお、大韓民国海軍艦艇の訪日は10カ月ぶり20回目、晴海への寄港は8年ぶり6回目となります。

ゴジラ対自衛隊

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