【偉大なる米軍の復活へ】レーガンを見習え
岡崎研究所
2017年1月29日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、米上院軍事委員会のマケイン委員長が、米軍は近年の予算削減で弱体化しており、トランプ新政権のもと、早急に再建する必要があると述べています。その要旨は以下の通りです。
(iStock)
2011年の予算管理法で決められた国防費の自動的予算削減は、米国の軍事力に弊害が大きかったので、議会は改正しようとしたがならず、国防費は削減されるとともに、上限が設けられ、軍は恐ろしい代価を払わされた。
国防予算は2010年から2014年にかけて21%削減され、新技術に対する重要な投資が先延ばしされ、中ロが差を埋めるのを手助けした。脅威の増加、予算の削減、装備の老朽化、兵力の縮小などが相まって、軍の即応態勢は危機に直面した。
トランプ大統領は国防費の強制削減の廃止と軍の再建を約束しており、全面的に賛成である。直ちに行動を起こすべきである。
二つの大きな任務がある。
一つは、軍の近代化である。米国は軍がどこでも行動でき、最小限の努力でいかなる環境も支配できると考えてきたが、その想定はもはやできない。しかし極超音速兵器や人工頭脳などの技術への投資を増やすことで、今後5年間に軍の能力は大幅に強化されるだろう。
第二の優先事項は、受諾可能な水準のリスクで現在の任務を実行できるような軍の能力を取り戻すことである。今日軍は戦艦、航空機、車両、弾薬、装備、人員のいずれも不足している。能力、特に人員を意図的に、継続的に増やすことが必要である。
国防は米国の最優先事項である。それはオバマケアの撤廃、公共事業への投資、税制の改正と同様な政治的優先度を与えられるべきである。
これらの措置には金がかかる。2018年度の国防予算は6400億ドル必要である。それは現行案より540億ドル多く、今後も増加し続ける必要がある。私(マケイン)はレーガン政権時代一兵卒だった。レーガン大統領は最高司令官の役割を受け入れ、米軍を再建し、力による平和を確保したことで、米国の最も偉大な大統領の一人である。トランプ大統領にも同じような機会がある。
出典:John McCain ‘An
Opportunity to Rebuild Our Dangerously Weakened Military’(Wall Street Journal, January 29, 2017)
https://www.wsj.com/articles/an-opportunity-to-rebuild-our-dangerously-weakened-military-1485732652
https://www.wsj.com/articles/an-opportunity-to-rebuild-our-dangerously-weakened-military-1485732652
米軍事力の弱体化に対する危機感は、米国内でも広く共有されているようです。
トランプ大統領が米軍事力の強化を強調している理由は必ずしも明らかではありませんが、大統領と、米議会で軍事問題について最も権威があり見識の高い議員が、軍事力の強化で見解を共にしていることは心強いです。米国の軍事的抑止力の強化は、単に米国にとってのみならず、米国の同盟国、友邦国にとっても重要です。とくに中国の挑戦を受けているアジア・太平洋地域にとって、強い米国の存在は重要です。トランプ大統領は、世界の秩序の維持にはあまり関心が無いと見られていますが、トランプがどの程度同盟関係を重視するかは別として、米国が軍を近代化し、軍の能力を取り戻すことは、同盟国にとって歓迎すべきことです。
ロシアと中国に圧力を加える
マケイン上院議員は、レーガン大統領を、米軍を再建した手本として称賛しています。レーガンは、米軍を再建したのみならず、ソ連を軍拡競争に追いやりました。ソ連邦が崩壊した一つの理由は、ソ連が増大する軍事費に耐え切れなくなったためと言われています。トランプ政権がどの程度軍事予算を増額するかは分かりませんが、その額と軍の近代化の内容によっては、ロシア、特に中国に軍拡の圧力を加える効果を持つことも考えられます。
《維新嵐》$6400億必要な予算の試算が実際にはどうなったでしょうか?
軍事費にばかり予算をつぎこめるようなゆとりが今のトランプ政権にあるのでしょうか?
あるんでしょうね・・・。
ソ連の誕生と崩壊 ~池上彰の現代史講義~
トランプ米大統領、軍事費6兆円増を計画
ドナルド・トランプ米大統領は2017年2月27日、州知事らとの会談で、2018年度(17年10月~18年9月)の予算案で軍事費を1割増加させる計画を明らかにした。
額にして540億ドル(約6兆円)に上る増加は、海外援助などの大幅削減で手当てする。一方で、社会保障制度の費用削減はしない。共和党議員らは社会保障の費用削減を要求している。
予算案の概略は2017年2月27日に政府の各省庁に提示されており、2017年5月には予算案が連邦議会に提出される予定。
トランプ政権は予算案の提出までに、政府の各部門の費用削減の内容を詰め、減税の詳細を明らかにする必要がある。
共和党のジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州選出)は、ホワイトハウスが示している総額6030億ドルの国防費は不十分だと語った。
州知事らとの会談でトランプ大統領は、「より少ないお金でより多くを達成して、政府をスリム化し説明責任を果たせるようにする」と述べた。
2016年の大統領選挙で、軍事費を増加させる一方、福祉制度を維持すると公約していたトランプ大統領は、来年度の予算について、「軍、安全、経済開発」に重点を置いたものになるとし、「国防費の歴史的な増加によって、合衆国軍を我々が最も必要としている時に、劣化した状態から再建させる」と語った。
過去数年間、連邦議会で政府予算をめぐる攻防が続くなか、軍事費増は凍結されていた。
しかし、国防総省が必要ないと指摘する場合でも、戦車など装備への支出を議会が承認することは珍しくない。
トランプ氏の予算案の概要では、米国の国防費は戦時と同じ水準に戻ることになる。
トランプ大統領は、道路や線路などのインフラへの支出を大幅に増やす述べている。また、税制改革の詳細について明らかにしていない。
トランプ氏が選挙運動中に約束していた減税計画を実施した場合、連邦政府の債務は増加する可能性が高く、債務は20兆ドルに達するとの見通しもある。
《維新嵐》ある意味、「米中戦争」は始まっています。あれだけの大国となると実弾がとびかう戦争がおこらないだけです。兵器など無力化しようとする電子戦、情報戦争としてのサイバー戦争、そして経済のゆがみ。などでしょうか?予算面で共産中国を「仮想敵」としたときにこのような認識はもつべきでしょう。
【関連して共産中国の2017年の国防予算はどうでしょう?】
国防費7%増、初の1兆元突破へ トランプ政権に対抗の声 成長率上回る高水準維持
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ジョン・マケイン上院議員「イランを爆撃しよう」
マケイン上院議員の提案
米国とアジアの同盟国はTPPの代わりに防衛強化を
岡崎研究所
2017年2月24日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8935
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の2017年1月25日付社説が、マケイン上院議員による米国によるアジアにおける防衛強化策「アジア太平洋安定イニシアチブ」を紹介し、TPPの代わりに米国とアジアは防衛強化のための追加資金を投じるべきである、と論じています。要旨、次の通り。
米のアジアにおける友邦は、トランプのTPP離脱正式通告を受け苛立っている。日豪越その他各国は、TPPが米との関係強化に資すると期待していた。これらの国々を安心させるには長年にわたる努力が必要となろうが、太平洋地域の安全保障強化のための75億ドルの資金という、ジョン・マケイン上院議員の提案は、よい第一歩になるだろう。
この「アジア太平洋安定イニシアチブ」には、今後5年間にわたり資金が投じられ、中国と北朝鮮からの脅威が増大しているアジア全域で、米国は、軍需品の供給を増やし、軍事施設を拡大し、同盟国との協力を強化し得る。日本から豪州北部にかけて新たな滑走路などを建設すれば、米国の南シナ海周辺へのプレゼンスを強化し、米軍の地域におけるローテーションを増やし、友邦との軍事演習を増やすことができる。
ハリー・ハリス米太平洋軍司令官は昨年、「軍需品類の決定的な不足」を警告した。国防総省は昨年、すぐに取り掛かれるプロジェクトへの追加拠出を求めたが、オバマ政権は中国の反発を恐れ却下したという。
トランプは中国の攻撃性にもっと積極的に反応するだろう。ティラーソン国務長官は指名公聴会で、南シナ海の人工島への中国のアクセスを拒否すると述べたが、アジア政策のトップが空席の間は、トランプ政権はマケインの提案のような具体的なイニシアチブを通じて意図を示した方がよい。
マケインは、オバマ前政権による現行の国防予算を5年間で総額4300億ドル増やすよう提案している。トランプが公約通り軍の近代化と増強を行うには、それだけの規模は必要であろう。
韓国はスキャンダルで麻痺し、日本の防衛費増額は国民感情の限界に達しようとしている。豪州は、2026年までに防衛費を81%増やすとしている。しかし、米国の友邦の当局者は、地域の安全保障へのコミットメントを強化する追加的資金を追求すべきである。
TPPが駄目になれば、米国と友邦は戦略的な穴から抜け出すのに困難が生じよう。中国と北朝鮮は、圧力をかけてくるであろう。マケインが提案した資金、各国の同様の努力が益々重要となる所以である。
出典:‘Trump’s Asia
Reassurance Project’(Wall Street Journal, January 25,
2016)
http://www.wsj.com/articles/trumps-asia-reassurance-project-1485390869
http://www.wsj.com/articles/trumps-asia-reassurance-project-1485390869
TPPが単に参加国の経済関係の強化のみならず、米国を中心とする関係国間の政治・安全保障協力関係の強化をもたらすことが期待されていたことは間違いありません。
アジア太平洋安定イニシアチブ
その意味でも、トランプのTPP離脱通告を受けて、マケイン上院議員が「アジア太平洋安定イニシアチブ」を提案したことは、時宜にかなっており、歓迎すべきです。トランプ大統領の諸政策が物議をかもす中で、米国の防衛力強化を謳っているのは歓迎すべきです。トランプ政権がマケイン議員のイニシアチブと真剣に向き合うことを期待したいものです。他方、日本も中国、北朝鮮を念頭に置いた日本自身の防衛体制の一層の強化に努めるべきでしょう。
それと同時に、アジア・太平洋地域の関係国との間の政治・安全保障面の協力を進めるべきです。昨年2月、フィリピンとの間で「防衛装備品及び技術の移転に関する協定」が結ばれたのは、この種の協力を推進するうえで重要なことです。ベトナムとの間でも安全保障面の協力推進の機運が高まっています。このような機運が広くアジア・太平洋地域に広がることが望まれます。
《維新嵐》北朝鮮の若き将軍様はどうするつもりでしょうか?日本人拉致の問題を解決するためにも北朝鮮には厳しいスタンスで臨むべきだと考えます。
トランプ大統領は北朝鮮問題の行き詰まりを打開できるのか?
岡崎研究所
2017年2月28日http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8980
北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の米代表も務めたクリストファー・ヒル(元米国務次官補、元韓国大使)が、Project Syndicateのサイトに2017年1月27日付で掲載された論説において、トランプ政権は政策の優先順位を明確にして現実の脅威になっている北朝鮮の核・ミサイルに焦点を当て早期に対応すべきである、と述べています。要旨、次の通り。
(iStock)
トランプ政権にとり最も緊急の課題の一つは北朝鮮である。金正恩は新年の辞で北はICBM(大陸間弾道ミサイル)を持っており、ICBMの発射実験をする用意ができていることを明らかにした。これに対してトランプはツイッターに「それは起こさせない」と書いた。トランプが外交上のレッドラインを引こうとしたのか、あるいは単なる予測を述べたのか、北はそんな技術力は持っていないと反論したのかは分からない。
1980年代以降米国の歴代政権がこの問題に直面してきたが、今回ばかりは脅威が現実のものとなっている。トランプ政権の間に北は大量破壊兵器で米を攻撃する手段を獲得するかもしれない。北はあくまで核兵器とミサイルの実験を続けようとしている。今や失敗も隠そうとはしていない。
北の動機については、レジームの維持、威信増進、自衛、地域覇権などが議論されてきたが、北の目的を知ること自体は重要ではない。
良いオプションはなかなかない。問題を無視することはできないし、選挙戦でトランプが示唆したように中国に「外注」することもできない。効果的な戦略のためには、米国のあらゆる形の力、特に外交と中国との協力を使っていくことが必要である。
北の核排除の戦略には次のことが必要である。まず、米国は日韓との強い関係を維持していくべきである。トランプは日韓との間で貿易や軍事協力などの目的を追求するにあたっては賢明にやっていかねばならない。日韓(特に韓国)は世論の変化に敏感であり、米国は二義的な問題で日韓の不満を起こさないようにしなければならない。
中国との関係はもっと難しい。中国の懸念を単にレジームチェンジや難民流入問題だと短絡に考えることはできない。中国の一つの重要な考え方は、北の崩壊は中国の核心的利益に関係するとして韓国主導による半島統一は米国との関係で中国を不利にすると考えている。
統治とは優先順位をつけることである。米中関係はその幅広い目的の中でどの目的が他の目的と比べて一層重要なのかを考えてみることをしてこなかった。中国との貿易の進展が北の脅威の無力化よりも重要なのか。
トランプ政権にとり重要なことは、アジアでの米国の利益につき明確な評価を行い政策に優先順位をつけることである。新政権が北の核脅威に焦点を当て、早期に対応することを希望する。
出典:Christopher R. Hill,‘Can Trump Manage North Korea?’(Project
Syndicate, January 27, 2017)
https://www.project-syndicate.org/commentary/trump-north-korea-nuclear-program-by-christopher-r-hill-2017-01
https://www.project-syndicate.org/commentary/trump-north-korea-nuclear-program-by-christopher-r-hill-2017-01
上記ヒルの論評には、特に新味はありません。しかし、平凡な論評にならざるを得ないことが却って今日の北の核・ミサイル問題の難しさ、手詰まりを示しています。ヒル自身、良いオプションはなかなかないと正直に述べています。
政策目的に優先順位をつけることが大事との指摘には同感です。対中経済利益のために北朝鮮に関する対中圧力が犠牲にされてはならないことを示唆しています。トランプ政権に対しては重要な指摘です。同政権には政策目的の優先順位の意識は薄く、すべてが同じ交渉・取引対象であると考えられているような印象を受けるからです。
金正恩は1月の新年の辞でICBMの発射実験を警告し世界から注目されましたが、実際の行動を見ると、米大統領選挙直前の昨年の10月20日にムスダンを発射して以後は、2月13日の中距離ミサイル実験まで奇妙に挑発を避けていたことが注目されます。予測不可能なトランプ政権の出方を見定めているのでしょう。他方、韓国内政の混乱を見て、挑発は保守の与党側を助け野党側に不利になるのでこれを避ける意図があるとの見方もあります。
北は自信をつけている
もう一点最近注目されるのは、北が実験の失敗を恐れずに発表するようになっていることです。北が自信をつけていることを示しているのかもしれません。北は失敗をしながら技術を着実に発展させています。
今後のオプションとしては、①6カ国交渉再開、②米中直接交渉、③軍事ポスチャーの強化、④制裁強化等が考えられます。当面軍事ポスチャーの強化と制裁強化(特に第三者制裁が重要)を検討していくべきと考えられます。しかし、中長期的には、注意深く米朝二国間交渉も検討していくべきではないでしょうか。
対北交渉に当たっては、何を達成するのかという問題もあります。昨年10月クラッパー米国家情報長官は「北朝鮮を非核化しようという試みは、おそらく見込みはない」と述べ、北朝鮮の核戦力を制限する政策へと方針転換するのが現実的だとの考えを示しました。更に北朝鮮が非核化を行わないのは「(核開発が)生き残るためのチケットだからだ」、「私たちが望むことができるのは(核戦力に)上限を設けることだろう」と主張しました。これらは直截な発言です。
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