中国のアジア太平洋での覇権を黙認する豪州
岡崎研究所
2017年3月13日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9088
豪国立大学のヒュー・ホワイト教授が、2017年2月9日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説で、トランプ政権のアジア政策の下では、豪州は次第に中国のアジア太平洋地域での指導的地位を黙認するようになるだろう、と述べています。要旨、次の通り。
トランプ大統領と豪州のターンブル首相との電話会談(注:トランプが、米豪間の難民受け入れ合意を「史上最悪の合意」と評し、電話会談を一方的に切り上げた)で、豪州人はもはや米国を信用できないと考えるようになった。トランプ大統領の振る舞いの結果、豪州は米国から離れ、中国により近づくだろう。
オバマの中身のない「アジアへの軸足移動」により、豪州は米国には戦争によることなく、たくみに中国の野心に抵抗する決意があるとの信頼感が揺らいだが、トランプはその信頼感をさらに揺るがせた。
これは豪州の望むところではない。基本的価値観で豪州ほど米国に近いと感じる国は無い。
しかし、中国は豪州にとって経済的に極めて重要である。中国に対する輸出は対米の5倍である。
しかし、中国は豪州にとって経済的に極めて重要である。中国に対する輸出は対米の5倍である。
中国は経済力の増大に伴い、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の設立や、東、南シナ海への軍事的進出など、米国に代わってアジアの指導勢力になろうとしている。
豪州は米国が毅然として中国の挑戦に立ち向かうことを望んだが、オバマ政権の対応はなまぬるいものであった。特にオバマ政権がTPPの意義を議会に説得できなかったのは最悪であった。
中国は、他のすべてのアジア諸国にとってと同様、豪州の経済的将来にとって最も重要で、中国との良好な関係は豪州の将来にとって肝要である。中国との外交的不和は、それがいかなるものであるにせよ豪州の経済に破滅的な結果をもたらすとの恐れが抱かれている。
中国は、他のすべてのアジア諸国にとってと同様、豪州の経済的将来にとって最も重要で、中国との良好な関係は豪州の将来にとって肝要である。中国との外交的不和は、それがいかなるものであるにせよ豪州の経済に破滅的な結果をもたらすとの恐れが抱かれている。
米国と中国の間でバランスを取ることは、誰が米国の大統領になるにせよ難しい課題であったろうが、トランプの登場で、選択は一層深刻な問題となった。トランプの下で米中間に危機が訪れる恐れがあるし、米国第一主義は長期的にアジアで米国の指導的地位が維持されない可能性がある。
ターンブル首相との接し方を見ると、豪州の利益を守るように中国に対処してくれるとは思えない。
豪州は中国との関係を犠牲にしてまで米国を支持するリスクをとれない。豪州が中国の同盟国になるというわけではないが、豪州は暗黙の裡に中国がアジアの指導者となることを認め始めるだろう。このようにして長年にわたった米国のアジアでの指導的地位は終わりを迎える。
出典:Hugh White,‘Trump
Pushes Australia Toward China’(New York Times, February
9, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/02/09/opinion/trump-pushes-australia-toward-china.html
https://www.nytimes.com/2017/02/09/opinion/trump-pushes-australia-toward-china.html
トランプ政権の下で豪州は米国に頼れず、豪州は暗黙裡に中国がアジアの指導者となることを認め始めるだろう、という判断は悲観的に過ぎると思われます。確かに、トランプの電話会談でのターンブル首相への対応は非礼でした。豪州が憤慨するのも無理はありません。しかし、あの電話会談でのトランプの態度が、トランプ政権のアジア太平洋政策を象徴していると見るのは短絡的すぎます。
トランプ政権のアジア・太平洋政策は、他の多くの政策同様、未だ十分検討されていません。トランプは「米国第一」を主張し、自由と民主主義の擁護には関心がないと言われますが、対外関係については、選挙中の発言を徐々に軌道修正しつつあります。日本については、「駐留米軍の経費の分担が少ない。日本が公正な負担をしないのなら、米国は防衛義務を見直すべきである」と言っていましたが、先般の日米首脳会談の共同声明では、「揺らぐことのない日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄、自由の基礎である」「威嚇、強制または力によって海洋に関する管理を主張しようとするいかなる試みにも反対する」と述べ、従来の米国の政策が変わらないことを明らかにしました。
ティラーソン国務長官の役割
それに加えて、トランプ政権ではティラーソン国務長官が重要な役割を果たすでしょう。ティラーソンは上院における承認の公聴会で「米国の指導力は再生されるのみならず、主張されなければならない」と述べ、また、同盟の維持の重要性を強調しました。
ティラーソン国務長官は、このような基本的考えの上に立って、こじれた米豪関係の修復に努めることが期待されます。
日本の役割も重要です。安倍政権には、アジア太平洋地域の平和と安定のため、これまで以上の役割を果たす用意があります。その一環として米豪関係の修復に貢献することは可能と思われます。
オーストラリアと中国の深い関係
中国が担う北朝鮮への飴と鞭
2017年3月16日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9091
北朝鮮の新型ミサイル発射を受けて、2017年2月13日付のワシントン・ポスト紙の社説は、北朝鮮に対する飴と鞭を組み合わせた戦略の採用を勧奨しています。同社説の要旨は次の通りです。
弾道ミサイルを持つすべての国が学んだ教訓があるとすれば、実習が完成につながる実験が不可欠である、ということである。最近発射された北朝鮮のミサイルは金正恩が新年に述べたICBMではなかったが、北朝鮮は着実に技術を習得している。米国はこの挑戦に対し、新しい真剣な戦略を必要としている。
今回発射されたのは固体燃料ミサイルであり、310マイル飛行した。日本と韓国を心配させるのに十分な射程距離である。このミサイルは昨年北朝鮮が潜水艦から試験発射したKN‐11ミサイルの改良型かもしれない。ミサイルは、探知が難しくなる移動式の発射機から発射された。
トランプ大統領は1月に、「北朝鮮は核兵器を米国の一部に届けることのできるミサイル開発の最終段階にあると言ったが、これは起こらない」とツイートしたが、今回は賢明にも向こう見ずな反応はしなかった。いまレッドラインを引いて得られるものはない。2月11日、トランプ大統領は安倍首相とともに記者の前に現れ、日本への支持を強調した。習近平にも電話した。トランプは選挙中の発言でアジアを心配させたことを鎮めようとしている。
トランプは北朝鮮に対する戦略策定に集中すべきである。2月13日、トランプは「これは大きな問題」であると認め、「強力に」取り組むと誓った。
外交評議会とカリフォルニア大学アジア協会の研究は、北朝鮮に核とミサイル計画を凍結させるために圧力をかけるアプローチを提案している。米国は制裁や韓国へのミサイル防衛配備などの鞭と共に飴をも使わなければならない。これらの研究は、対北朝鮮戦略において中国の役割が中心的であることを強調している。トランプは、中国との話し合いで、この問題の優先度を高め、この問題に取り組む機会をもつ。
出 典:Washington Post ‘The United States needs a new strategy for North Korea’ (February 13, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/the-united-states-needs-a-new-strategy-for-north-korea/2017/02/13/4998875a-f21b-11e6-a9b0-ecee7ce475fc_story.html
https://www.washingtonpost.com/opinions/the-united-states-needs-a-new-strategy-for-north-korea/2017/02/13/4998875a-f21b-11e6-a9b0-ecee7ce475fc_story.html
このワシントン・ポスト紙の社説は、時宜を得た良い社説です。北朝鮮が日米首脳会談を念頭に置いて挑発したのかどうか、先方の意図はわかりませんが、日米の強い反応を引き出すことになりました。ミサイル発射は国連安保理決議に違反し、2月13日、安保理は全会一致で北朝鮮を非難する報道声明を採択しました。状況によりさらなる措置もとるとされており、これまでの制裁の厳格な実施も行われるでしょう。
中国は、韓国へのTHAADミサイル配備をやめさせようとして、韓国に非公式な経済制裁を加えています。韓国の政治は目下混乱状態にあり、来るべき大統領選挙をにらんで、野党の中には、THAAD配備を争点化し、反対しようという勢力があります。
注目される中国の出方
今回の北朝鮮のミサイル発射は、韓国へのTHAAD配備には明らかに追い風であり、中国や韓国の野党の一部勢力には打撃を与えることになるでしょう。北朝鮮からのミサイルに備える必要があるという議論は強い根拠を持ちます。中国が今後どうするか、見ものです。
北朝鮮のミサイル技術は大きく進歩しています。今度のミサイルは固体燃料を使うミサイルであること、発射機が移動式であることは、ミサイルの脅威をこれまでよりも深刻なものとします。ノドンミサイルは移動式でしたが、液体燃料でした。
飴と鞭を使う対北朝鮮圧力を、脅威の深刻度に応じて強くすることが必要です。中国との関係でも、対北朝鮮圧力を強めることに、これまで以上の優先度を付して求めていくべきでしょう。北朝鮮が韓国、日本、米国への脅威となるのを止めないで、中国は普通の関係をこれらの国と持つことはできないとの姿勢で臨むくらいの覚悟が必要です。
【日米がどう対抗するのか?】
意外に安定しているトランプのアジア政策
2017年3月15日 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9090
英フィナンシャル・タイムズ紙は、トランプ大統領の習近平国家主席との電話会談、および安倍総理との首脳会談を観察して、トランプの政策が従来の米国の政策の伝統に忠実なものであり続けることに希望を抱かせるという社説を2017年2月13日付で掲載しています。要旨、次の通り。
トランプ政権のアジア政策の初動は不穏なものであった。TPPから早々に離脱した。台湾、南シナ海を巡って中国と対決する積りのように見えた。日本、韓国との同盟に懐疑的と見られてきた。ところが、トランプの日本と中国に対するアプローチはもっと伝統的なもののように見え始めた。このことは重要であり、安堵させるものである。最も重要な出来事は、習近平国家主席との上出来の電話会談と安倍総理との長時間の暖かい会見であった。
中国については、トランプは「一つの中国」政策を疑問視する刺激的な態度から後退した。少々屈辱的ではあったが、危険な米中関係の危機を回避することになった。また、南シナ海における中国の人工島建設についても穏当な立場に立ち返ったようである。人工島を海上封鎖するが如きティラーソンの議会の指名公聴会での発言はその後軌道修正が図られた。
日本についていえば、安倍総理は、素早く手際よく、日本は不可欠の同盟国であることを示して見せた。TPPの解体は総理にとって痛手であったが、米国との特別な関係に代わるものがないことは総理には解っていた。総理はトランプから意味のある公の約束を取り付けたわけではないが、個人的関係を作ることには成功した。トランプの保護主義的、孤立主義的な本能に鑑みれば、これは成果である。
北朝鮮の弾道ミサイル実験のニュースによって日米関係の重要性が強調されることとなった。トランプは北朝鮮の核の脅威に対し強硬で過激な行動に出ることを選挙戦では示唆していた。しかし、トランプの反応はアジアの同盟国を支持し北朝鮮に安保理決議を順守するよう求める慎重で伝統的なものであった。
トランプ政権のアジア政策における最近の行動は分別のあるものである。しかし、最も重要なテストはこれからである。ホワイトハウスから聞こえて来るレトリックは依然として中国や日本との貿易戦争を示唆する。アジアの問題が複雑なことに鑑みれば、トランプの気紛れな気性は引き続き懸念材料である。しかし、米国のアジアに対する態度が、トランプ時代にあっても、過去数十年の米国の政策の基本的原則に忠実であり続けることに希望を抱く理由はある。
出典:‘Donald Trump’s tack towards the mainstream on Asia’(Financial
Times, February 13, 2017)
https://www.ft.com/content/aed44d88-f1e5-11e6-8758-6876151821a6
https://www.ft.com/content/aed44d88-f1e5-11e6-8758-6876151821a6
この社説には、「米国大統領の政策は安心できる伝統的なものかもしれない(The American president’s policies may be
reassuringly conventional)」とサブタイトルが付いています。日米首脳会談を観察した誰しもが、首脳会談が伝統的な型のもので、双方にとって成功と言い得るものであったことに安堵したかもしれませんし、あるいは呆気にとられたかもしれません。
安心するのは時期尚早
しかし、トランプ大統領個人が伝統的な政策に回帰したと見ることは時期尚早でしょう。日米首脳会談は非常に巧みにマネージされたのだと思います。総理自身および事務当局の知恵と根回しによるシナリオ作りが成功したということであり、評価されるべきです。
シナリオのうち、安全保障については、マティス国防長官の訪日で大筋決まっていたのでしょう。問題は経済関係だったと思われますが、ペンス副大統領を担ぎ出し、対話の枠組みを作ることとして、トランプが持ち出すかもしれない個別の課題はここに流し込むこととしたことは、まさに知恵です。副大統領を担ぐという先例の無い知恵はトランプに物を言える人物に照準を定めたということに違いありません。
トランプといえども、選挙戦のタウンホールではないのですから、首脳会談にシナリオなしに臨むわけにはいきません。振り上げた拳を下す先を探していたところに対話の枠組み作りを持ちかけられて、これに乗ったということなのではないでしょうか。
ただ、トランプ政権の出方には今後も警戒を要します。特に、経済問題に関する対話は難題です。しかし、トランプに物を言える人物に照準を定め、巧みなシナリオを書くことによって、トランプ政権との関係をマネージすることは可能かも知れません。そういう意味で、「トランプの政策が従来の米国の政策の伝統に忠実なものであり続けることに希望を抱かせる」との、社説の結論は基本的に正しいと思います。
北朝鮮政策見直しで調整=米国務長官「20年間失敗」―首相・外相と会談
時事通信2017年3/16(木) 17:02配信 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170316-00000110-jij-pol
安倍晋三首相は平成29年3月16日、ティラーソン米国務長官と首相官邸で会談した。
トランプ米政権が見直しを進める対北朝鮮政策について協議し、挑発行為を抑止するため連携して圧力を強める方針を確認。岸田文雄外相も同長官と会談し、日米間で綿密に擦り合わせ、一致した立場を形成することで合意した。同長官は岸田氏との共同記者会見で、米国の北朝鮮政策について「過去20年間、失敗したアプローチを取ってきた」と指摘した。
首相は会談の冒頭、ティラーソン長官が最初のアジア訪問先として来日したことを「日米同盟を重視している証左だ」と評価。同長官は「日米同盟はアジア太平洋地域の(安定の)礎石だ」と強調した。
両外相は東京都内の外務省飯倉公館で会談。日米の対処能力強化を話し合うため、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の早期開催に向け調整を加速させることで一致した。岸田氏は、北朝鮮に対する米国のテロ支援国再指定について「連絡を密にしていきたい」と語った。
北朝鮮の核・ミサイル問題への中国の関与について、同長官は会見で「非核化に資する態度を取ってほしい」と求めた。
また、同長官は会見で、中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島に関し、「一方的な行動により日本の施政権を脅かすことに反対する」と述べ、日米安保条約に基づく対日防衛義務も「変わりはない」と述べた。
外相会談では、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古移設が「唯一の選択肢」とする立場を再確認。沖縄の基地負担軽減に協力して取り組むことを申し合わせた。
トランプ米政権が見直しを進める対北朝鮮政策について協議し、挑発行為を抑止するため連携して圧力を強める方針を確認。岸田文雄外相も同長官と会談し、日米間で綿密に擦り合わせ、一致した立場を形成することで合意した。同長官は岸田氏との共同記者会見で、米国の北朝鮮政策について「過去20年間、失敗したアプローチを取ってきた」と指摘した。
首相は会談の冒頭、ティラーソン長官が最初のアジア訪問先として来日したことを「日米同盟を重視している証左だ」と評価。同長官は「日米同盟はアジア太平洋地域の(安定の)礎石だ」と強調した。
両外相は東京都内の外務省飯倉公館で会談。日米の対処能力強化を話し合うため、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の早期開催に向け調整を加速させることで一致した。岸田氏は、北朝鮮に対する米国のテロ支援国再指定について「連絡を密にしていきたい」と語った。
北朝鮮の核・ミサイル問題への中国の関与について、同長官は会見で「非核化に資する態度を取ってほしい」と求めた。
また、同長官は会見で、中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島に関し、「一方的な行動により日本の施政権を脅かすことに反対する」と述べ、日米安保条約に基づく対日防衛義務も「変わりはない」と述べた。
外相会談では、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古移設が「唯一の選択肢」とする立場を再確認。沖縄の基地負担軽減に協力して取り組むことを申し合わせた。
北朝鮮が弾道ミサイル4発を発射!
北朝鮮が原子力潜水艦を建造中・・新型弾道ミサイル潜水艦も今年中に配備か?
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