中国に続いてロシアにも、なめられる米海軍
「米軍の睨み」はもう利かない
北村淳
2016.7.7(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47271
ロシア海軍の「ヤロスラフ・ムードルイ」(資料写真、現在の艦番号は777)
地中海東部海域で、アメリカ海軍空母部隊に属するイージス駆逐艦とロシア海軍フリゲートが“異常接近”する事態が発生し、ロシア当局もアメリカ当局も互いを非難し合っている。
ロシア側は米軍艦の条約違反を主張
ロシア国防省によると、地中海東部公海上において2016年6月17日、ロシア海軍フリゲート「ヤロスラフ・ムードルイ」(ネウストラムシイ級フリゲート)の左舷60~70メートルにアメリカ海軍イージス駆逐艦「グレーヴリー」(アーレー・バーク級駆逐艦)が接近し、フリゲートの進行方向前方180メートルを横切る形で追い越した。
「ロシア軍艦はアメリカ軍艦に対して何ら危険な行動はとっておらず、アメリカ駆逐艦による一方的に危険な操艦であった」とロシア側は主張する。そして「このアメリカ駆逐艦の行動は、海上での船舶の衝突を防止するための国際ルールに対する著しい違反行為である」とアメリカ側を厳しく非難した。
ロシアのメディアは、「1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約」(COLREG)の第13条と第15条をアメリカ駆逐艦が無視して、ロシア艦に対して危険きわまる操艦を行ったと報道している。
第13条では「他の艦船を追い越す場合には、追い越す側の船は、追い越される側の船の針路を避ける形で追越さなければならない」、第15条では「右舷側に他の艦船が航行している場合、左側の船(今回の例ではグレーヴリー)は右側の船(ヤロスラフ・ムードルイ)に針路を譲り、その船の前方を横切ってはならない」と定められている。
「RT(ロシア・トゥデイ)」(ロシア国営のニュース専門局)や「スプートニク」(ロシア政府系メディア)は、一見アメリカ軍艦の条約違反を裏付けるともみなし得る動画(関連動画)をインターネットに配信した。
続けてロシア側は「アメリカ当局は、プロ意識が欠落しているロシア軍のパイロットが米軍艦に対して危険な接近飛行を繰り返している、との非難を繰り返している。だが、今回のアメリカ駆逐艦の危険な操艦を見れば、どちらの海軍がプロフェッショナリズムを欠いているのかは明らかである」とも言い立てている。
アメリカ側はロシア艦の「妨害行動」を非難
このようなロシア政府の強い非難に対して、アメリカ国防当局もロシア側を非難している。
アメリカ海軍によると、グレーヴリーとヤロスラフ・ムードルイのコンタクトは1時間以上にわたるものであり、公開された動画は両艦のやり取りのほんの一部に過ぎないとのことである。そして「アメリカ駆逐艦の作戦行動に対して妨害的な動きを繰り返していたのはロシア海軍フリゲートであった」という。
そもそも、グレーヴリーは同海域でIS攻撃作戦実施中の米空母「ハリー・S・トルーマン」を護衛中であった。ロシア海軍のヤロスラフ・ムードルイは、明らかに米空母トルーマンによるスムーズな作戦行動を妨げる意図が見て取れる動きを示していた、と米側は主張している。
ヤロスラフ・ムードルイは米空母からはおよそ8キロメートル、米駆逐艦にはわずか300メートル程度の距離に接近して“つきまとって”いた。また米軍側によると、「ヤロスラフ・ムードルイ」の艦橋には「我が艦の操縦機能に難あり」という意味合いの国際信号旗が掲げられていたという。ところが、ヤロスラフ・ムードルイがさらに米空母トルーマンに接近を企てたためグレーヴリーが変針したり速度を変化させると、操縦に問題が生じているはずのこのフリゲートは、それに対応して自由自在に機動した。
このようにしてヤロスラフ・ムードルイはトルーマンとグレーヴリーの間の水域を動き回ることにより、米空母部隊の作戦行動を妨害していたことは間違いがない、と米軍側は非難している。
確かに、ロシア海軍が公開した米駆逐艦グレーヴリーの“危険な追い越しと横切り”の動画を注意深く見ると、アメリカ艦の航跡は直線であるように見えなくもない。もしもロシア側の主張のようにグレーヴリーがヤロスラフ・ムードルイにその左舷側から急接近して追い越し、そのままロシア艦の前方を左から右に横切ったとするならば、グレーヴリーの航跡は弧を描いているはずである。
しかし、動画に映し出されている米艦の航跡は直線に近い。そのため、アメリカ側が反論しているように、ロシアのフリゲートがグレーヴリーにまとわりついて追いかけている状況を撮影した動画の中から、アメリカ駆逐艦がヤロスラフ・ムードルイの前方間近を強引に横切ったように見えるシーンを抜き出して、公開したとも考えられなくはない。
低下した米空母部隊の抑止力
第三者の目がない海の上の出来事は、現場で接触し合っていた当事者でないとなかなか真の状況は分からない。よって、米露の言い分のどちらが正しいのかを即断することはできない。
しかし、かつてアメリカがスーパーパワーであった冷戦後しばらくの間は、世界中の海に睨みを利かせていたアメリカ海軍空母部隊に“ちょっかいを出す”海軍は存在しなかった。
なんといっても、米海軍空母部隊(空母打撃群CSGと呼ばれている)は、中心となる原子力空母周辺を1~2隻のイージス巡洋艦、2~3隻のイージス駆逐艦、それに攻撃原子力潜水艦が護衛しているうえ、空母自身には70機にものぼる戦闘機や電子戦機それに哨戒機などが積載されている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47271?page=4
このような強力な戦闘能力を持った米空母部隊に“ちょっかい”を出して、万が一にも戦闘状態に陥った場合には、大方の軍艦(とりわけ水上戦闘艦)はまず間違いなく海の藻屑となってしまう。そのため、あえて米空母につきまとって不測の事態を招くような行為は暗黙のうちに差し控えられていたものである。その結果、アメリカ海軍が誇る空母部隊は、まさに海の覇者と自他ともに認める存在であった。
しかしながら、オバマ政権下においてアメリカ国防費の大削減が始まり、アメリカ軍の戦闘能力が幅広い分野において低下するにつれて、アメリカの軍事力はかつてのように畏怖の対象ではなくなりつつある。
わずか4200トンのロシア海軍ヤロスラフ・ムードルイによる米海軍トルーマン空母打撃群に対するチャレンジは、南シナ海や東シナ海での人民解放軍によるアメリカ軍とその仲間に対する挑発的行動とともに、いかに「米軍の睨み」というものが持つ抑止効果が低下しているかの具体的な表れということができよう。
今回のロシア海軍と米海軍の遭遇事件は、日本からはるか彼方の地中海上での出来事である。だが、米海軍の睨みが利かなくなりつつある現状を、日本も直視する必要がある。もはや「アメリカ第7艦隊が存在してさえいれば日本にとっての抑止力になる」という時代は過ぎ去ったことを、認識しなければならない。
《維新嵐》 これには違和感を感じざるを得ません。アメリカの「軍事力」が軽くみられるようになったかのように聞こえます。はたして軍事力自体が、米露で拮抗してきたといえるのでしょうか?以下の記事でさらにみていきたいと思います。
《維新嵐》 これには違和感を感じざるを得ません。アメリカの「軍事力」が軽くみられるようになったかのように聞こえます。はたして軍事力自体が、米露で拮抗してきたといえるのでしょうか?以下の記事でさらにみていきたいと思います。
南シナ海に迫る「キューバ危機」、試される
安保法制
2016年07月05日(Tue) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7170
南シナ海でキューバ危機の再来か─。中国が今夏にも戦略的要衝のスカボロー礁の埋め立てに着手する可能性が出てきた。米中軍事バランスを変えかねないこの動きに、米国は海上封鎖も検討せざるを得ない。日本は安保法制をどう適用するのか。
2016年3月、南シナ海に浮かぶスカボロー礁周辺で中国船が測量を行っており、新たな人工島を造成するための埋め立ての兆候が見られることを、米海軍が明らかにした。スカボロー礁は、フィリピン・ルソン島のスービック湾から西へ約200キロに位置し、2012年に中国がフィリピンから実効支配を奪って以降、2隻の中国政府公船が常駐している。4月には5隻の政府公船が確認され、米比など関係国はいつ埋め立て作業が開始されるのかと警戒している。
南シナ海を航行中の米空母「ジョン・C・ステニス」に乗り込んだカーター米国防長官(中央) AFP/JIJI
中国の南シナ海での領有権主張が国際法に違反するとして、フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所の判決がこの夏前にも出ると見込まれており、ハリス米太平洋軍司令官はその前後に埋め立てを始める可能性を指摘している。オバマ政権は人工島の建設が始まってもこれを実力で阻止することはなかったため、中国はオバマ政権の弱腰につけ込み、次期米政権が軌道に乗る前に埋め立てをする可能性が高い。米軍は、おそらく中国による埋め立てを牽制するため、スカボロー礁周辺でA-10攻撃機を飛行させたことを公表した。だが、このような牽制は中国に自衛措置として南シナ海のさらなる軍事化の口実を与えるだけであろう。
スカボロー礁を奪取した中国の姑息なやりくち
2012年4月、フィリピン海軍がスカボロー礁で違法操業している中国漁船を拿捕したところ、これに対抗して中国が政府公船を派遣した。フィリピン側も海軍に代わって沿岸警備隊を派遣し、中比の政府公船が対峙する状況が続いた。両国は非難の応酬を繰り広げたが、台風シーズンの到来を控え、6月に中国が緊張緩和のために両国の政府公船と漁船の撤収を提案した。フィリピンは自国船を撤収させたが、中国は船を撤収せず、むしろ礁の入り口を塞(ふさ)ぎ、そのまま実効支配を完成させた。
振り返ってみれば、中国が漁船をスカボロー礁に送り込んだ時から、この環礁に人工島を建設し、軍事利用するという壮大な計画がすでにあったと考えるべきである。スカボロー礁は、米軍がすでに利用している旧米海軍基地のスービック湾や、クラーク旧米空軍基地などに近い。
4月下旬に、カーター米国防長官は、中国によるスカボロー礁の埋め立てに強い懸念を示し、「軍事衝突を引き起こし得る」と発言した。スカボロー礁に軍事基地ができれば、スービック湾を含めルソン島の軍事施設を監視し、直接ミサイル攻撃できるようになるからである。
また、中国が九段線に基づいて南シナ海上空における航空優勢を確立するためには、西沙諸島と南沙諸島に加え、スカボロー礁を埋め立てなければならない。西沙諸島、南沙諸島、そしてスカボロー礁の3カ所に空軍基地を持つことで、九段線内全域の上空監視が可能となり、戦闘機による事実上の防空識別圏の運用も可能となるのである。西沙諸島は3000メートルの滑走路を備え、レーダー施設、対空ミサイル、戦闘機の配備によって事実上の空軍基地となっている。南沙諸島の人工島でも、3000メートルの滑走路が完成し、レーダーの配備も確認され、戦闘機が配備されるのも時間の問題であろう。スカボロー礁が空軍基地となれば、現在は九段線内の盲点となっている北東部をカバーすることができるようになる。
中国は海南島に新型の晋級戦略ミサイル原子力潜水艦を配備しており、長距離ミサイルJL-2が搭載されるのも時間の問題と考えられている。中国は九段線内をこの戦略ミサイル原潜のための「聖域」とする必要があり、スカボロー礁を埋め立てるのは対米核抑止を強化するという戦略的観点からも急務である。南シナ海問題の中核は、中国が陸上配備の移動式大陸間弾道ミサイルの開発に加え、海中配備の核抑止力の保持を目指している点にある。中国が対米核報復(第二撃)能力を向上させるためには、米海軍が常時行っている中国沿岸部での情報収集・偵察・監視活動を阻止しなくてはならない。このため、南シナ海とその上空における優勢を確立するために人工島を建設しているのである。
(出所)各種資料を基にウェッジ作成)
スカボロー礁の埋め立ては、すぐに米中間の軍事バランスや戦略核バランスを劇的に中国に有利なものにすることはない。有事になれば、米軍は南シナ海の人工島を容易に破壊または奪取できる。また、中国の戦略ミサイル原潜が米本土を攻撃するためには、南シナ海から太平洋の真ん中まで捕捉されずに出ていかなくてはならないし、指揮命令システムも十分に構築されていない。ただ、少なくとも平時において、中国は米軍の監視活動の妨害をしやすくなる。平時の監視活動、特に潜水艦の位置の捕捉は、有事の際に極めて重要である。
米戦略国際問題研究所(CSIS)のクーパー研究員とポリング研究員は、中国がスカボロー礁の埋め立てを強行する場合は、フィリピンが行う「隔離」、つまり海上封鎖を支援するべきであると主張している。「隔離」は、1962年のキューバ危機で、ソ連船がミサイル部品をキューバに海上輸送するのを阻止するために、米海軍がカリブ海で実施した。キューバ危機で米ソは核戦争の一歩手前までいったが、米海軍が「隔離」を実施する中、米ソは威嚇と誤解、対話と譲歩、そして幸運によって危機を回避した。中国がスカボロー礁の埋め立てに着手するなら、フィリピン海軍と沿岸警備隊が中国作業船の領海内への進入を阻止し、米国を中心とする有志連合の政府公船および軍艦が領海外で支援し、埋め立てをあきらめさせるのである。
もちろん、岩礁の埋め立ての阻止のために、中国との軍事衝突を引き起こしかねない海上封鎖など論外というのが一般的な見方であろう。世界を消滅させる可能性があったキューバ危機はわずか13日間であったが、中国が「中国のカリブ海」で行っていることはより長期的な問題で、切迫感はないかもしれない。
だが、国際社会が現状変更を実力で止める覚悟がないことを中国は見抜き、既成事実を作り上げてきた。埋め立てが始まってもこれを看過すれば、南シナ海はいずれ中国の「湖」になる。そうなってからでは手遅れである。国際社会はスカボロー礁の埋め立てが「レッドライン」であることを中国に伝え、それを越えた場合、「隔離」を実施する覚悟を持たなければ、いずれ深刻な危機が訪れるであろう。
ホムルズ海峡の答弁踏まえ安保法制をどう適用するか
仮に米軍が「隔離」を行う場合、日本は、平和安全保障法制の下で、日本の平和と安全に重要な影響を与える重要影響事態に認定するかどうかの判断を迫られる。南シナ海情勢は重要影響事態の対象となり得ることは、安倍首相が国会答弁で言及している。事態認定ができれば、自衛隊による補給、輸送、捜索救難、医療など多岐にわたる後方支援が可能となる。
ただ、キューバ危機では、米海軍の「隔離」に対して、ソ連海軍は潜水艦を派遣し、米海軍がこれを強制浮上させることがあったし、キューバ上空で偵察機U-2が撃墜されることもあった。南シナ海の「隔離」でも、中国が同様の挑発行為をしてくることが想定されるため、自衛隊には米軍の「アセット(装備品等)防護」が求められる。ただ、そのためには米軍が日本の防衛に資する活動をしているという認定が必要である。
さらに、中国が「隔離」を妨害するために機雷を敷設した場合、米海軍は世界一の掃海能力を誇る海上自衛隊に支援を要請するであろう。だが、機雷掃海は武力行使に当たるため、これに応えるためには集団的自衛権を行使が許される存立危機事態の認定が必要となる。また、重要影響事態における船舶検査では、船長の承諾が必要なため、中国船に検査を拒否されれば、実効性は薄まってしまう。強制的な検査実施のためには、やはり存立危機事態の認定が必要である。
南シナ海の「隔離」で日本が役割を果たすためには、存立危機事態の認定が必要である。そのためには、事態が日本の存立を脅かすだけでなく、武力行使以外に方法がない、武力行使は必要最小限という新三要件を満たさなくてはならない。集団的自衛権の行使に関して、政府はホルムズ海峡の封鎖を例にこれまで説明してきた。だが、他に代替ルートのないホルムズ海峡とは違い、南シナ海には代替ルートが存在するため、新三要件に当てはまるかどうか議論が分かれるであろう。政府は平和安全保障法制の目的をどのような事態にも「切れ目なく」対応するためと説明してきたが、南シナ海情勢がその試金石となる可能性がある。
●重要影響事態とは
そのまま放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある事態など、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態
●存立危機事態とは
日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
●集団的自衛権による武力行使の「新三要件」
① 存立危機事態であること
② 日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
そのまま放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある事態など、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態
●存立危機事態とは
日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
●集団的自衛権による武力行使の「新三要件」
① 存立危機事態であること
② 日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
《維新嵐》 我が国の安全保障関連法の適用の前に、そもそも南シナ海の南沙諸島や西沙諸島への共産中国の「不法な領有」をどういう状況で誘発させてしまい、エスカレートさせてしまったのか、という原点的な考えからすれば、第二次大戦以来、南シナ海をはじめ東シナ海や西太平洋の支配権を確立していたアメリカという超大国が十分な拒否的抑止力を発揮してこなかったことに原因があるのは明らかです。
ですがそれは、アメリカという国の軍事力の相対的な低下という要素は、人民解放軍の海洋覇権拡大という行為においては、あまり大きな要素ではないように感じます。
やはり安保法制の論文中にみえるように、南シナ海に人工島が建設されはじめたころに、この事態に有効に制止をかけられなかったオバマ政権の外交力、政治的な判断力に問題があったものと考えるのが妥当でしょう。議会制民主主義の国においては、「政治が軍事に優先」するものです。オバマ政権が親中派の議員や経済界に対して安全保障面で危機感を十分認識させられなかったことで南シナ海での共産中国の戦略を加速させてしまったのです。
このまま事態が共産中国主体で進めば、間違いなく南シナ海の主導権は共産中国に移るでしょう。これは我が国においても安全保障の面で大変な脅威度の高まりを意味します。軍事的な手段に訴える前に共産中国の海洋覇権の拡大を阻止できるような「政治的戦略」、軍事によらない戦略がまず必要になるでしょう。我が国の国防はアメリカ合衆国の国防圏防衛とリンクします。アメリカがオバマ政権もさることながら、新政権においても積極的な政治的な関与、抑止政策が求められることは間違いありません。
トランプ旋風が生み出す尖閣戦争の危機
高橋一也 (ジャーナリスト)
2016年07月07日(Thu)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7201
「トランプ“大統領”誕生は日本にとっての悪夢」とまで語られる米国大統領選挙でのトランプ旋風。この「悪夢」の本質とは何であろうか。
それは、日米関係の骨幹である日米同盟についての無理解だろう。トランプ氏の「安保タダ乗り」「核武装容認」「在日米軍撤退」などの発言は、これを如実に表している。
アジアにおける米国のプレゼンスを支える日米同盟について、トランプ氏はなぜ、ここまで無理解な発言を続けるのか。日米同盟が米国のアジア・太平洋地域における経済的繁栄の最重要インフラであることは常識であり、日米同盟なしに米国の対中国政策もありえないのだがーー。
「冷戦思考」が支えるトランプの対日政策
防衛省のある研究員は、こうしたトランプ氏の対日政策には、「冷戦思考」の軍事顧問が影響を与えていると指摘する。
「トランプ氏の安全保障ブレインは、元海軍少将のチャールズ・クービック氏と現役陸軍少将のバート・ミズサワ氏であるといわれます。
クービック氏は、オバマ政権でリビアとの平和交渉を非公式に担当した、自称中東通です。彼は、イラク戦争に海兵隊の工兵部隊として従軍したとの触れ込みですが、実際には常駐経験はなく、月に数回程度、それも税金対策としてイラクを訪れていたにすぎません。
一方でミズサワ氏は、アフガニスタンや上院軍事委員会で勤務したこともあるため、米国の軍事戦略には通暁しており、ブレインの中ではまともな方だと思います。彼は名前から分かるとおり日系人ですが、日本勤務の経験はなく、子供の頃に空軍軍人だった父とともに、三沢基地に短期間住んだことがあるだけです。
そんな彼らに共通するのは、中東重視です。アジアや中国問題に疎く、中東やロシアを重視する冷戦思考が彼ら戦略思想の根底にあります。また、米軍には、実戦ばかりで損な役回りの中東派と、実戦はないのに優遇されている太平洋派の間で、感情的なしこりもあります。
このような戦略思想や感情的なしこりを持つ彼らの考えが、トランプ氏の対日政策に影響を与えているのは間違いないでしょう」(防衛省の研究員)
ちなみに、トランプ氏のブレインの能力不足については、すでに米国で問題視されている。3月に5人の政策アドバイザーが発表され際には、「グーグルでもヒットしない者たち」と話題になったほどだ。
では、日本に理解がなく、能力もないブレインに影響されたトランプ氏の対日政策は、どのような影響を与えていくのだろうか? 戦略国際問題研究所(CSIS)でアジア地域の外交・安全保障を研究するザック・クーパー氏は、「同盟関係に変化はない」と指摘する。
「米国の強さは、数十年にわたって、共通の価値観を根底とした世界的な同盟の要となってきました。なかでも日米関係は安全保障、経済、文化の面で、米国の同盟関係の強さの源です。トランプ氏が日本や他の同盟国を傷つける発言をしても、米国における同盟についての価値観に変化はなく、同盟は今後も続くでしょう」(クーパー氏)
クーパー氏の発言は、プロの外交官や専門官の意見と共通する。だが、この種の意見には、希望的観測と長い時間をかけて築き上げてきた日米関係を覆させないという自負心が背景にあり、当然、日本へのリップサービスも込められているとみるべきだろう。
だが、今年3月にトランプ氏不支持を表明する共和党関係者の署名を報じて話題になった、ニュースサイト「War
on the Rocks」のライアン・エバンス編集長は、トランプ氏の利己的な性格が与える影響を懸念する。
「トランプ氏は、米国が掲げている重要な理念であるグローバルコモンズへのアクセスと商業の自由を可能とする国際秩序を守ることについて、理解していないし、理解しようともしていません。
この理念によって最も恩恵を受けているのは米国であるにもかかわらず、トランプ氏は国家の利益について考えておらず、自己の利益を優先し、自分の会社との敵対関係しか頭にないのです」(エバンス編集長)
このようなトランプ氏が唱える孤立主義的な外交・安全保障政策については、氏が属する共和党においてでさえ、懸念を示す向きが多いことは周知の通り。
というのも、これまでの共和党は、前回の大統領選挙でオバマ大統領に敗れたマケイン上院議員がアジア重視を鮮明にして、アジア・太平洋地域の海軍力強化に努めており、米軍のアジアへのコミットを強く支持してきた。それを覆すような発言を続けるトランプ氏は、共和党にとって、票が集まる人気者であると同時に、厄介者でもあるのだ。
米国不在が生み出す中国の危険な挑戦
しかし、ここにきてトランプ氏の大統領就任の可能性に戦々恐々とする米国で、日本は「普通の国」に生まれ変わるべきとの意見も出てきている。知日家として知られる世界戦略トランスフォーメーション研究所所長のポール・ギアラ氏も、そんな日本の再生をと唱える一人だ。
「トランプ氏の対日政策は、日本が非対称的な同盟関係を再考する機会となるでしょう。これは、日本のいびつな平和主義の終わりを意味するという点で、重要です。
実際、日本は少しずつではありますが、いわゆる『普通の国』として軍事力を持つことにより、新しい安全保障政策を打ち出し、“米国に使われる立場”から“経済的パートナー”へと変わりつつあります。
これは、日本が最前線国家として、中国と北朝鮮との摩擦に直面しており、ロシアやイラン、イスラム過激派に対しても、責任ある国家として対応しなくてはならなくなってきた。そのため、結果的に米国との関係性にも変化が現れ始めているのです」(ギアラ氏)
ギアラ氏は、インタビューに際して「トランプ支持者ではない」と断った上で、日本がこれまでの日米同盟を見直す時期にきていると強調している。図らずも、トランプ氏の無理解な対日政策がトリガーとなり、日本が親離れする形での日米関係の見直し論が浮上しているのだ。
しかし、中国との間でスプラトリー(中国名:南沙)諸島の領有権問題を抱えるフィリピンの大統領政策担当スタッフであるアレハ・バーセロン氏は、「日米関係の見直しはアジア諸国に悪影響を与える」と懸念を示す。
「トランプ氏が大統領になれば、危険なシナリオを招く可能性があります。それは、アジアにおける米国のプレゼンス不在による、中国の覇権的行動の拡大です。
トランプ氏は、これまで日本やフィリピン、ASEAN諸国が築き上げてきた、アジアの平和と安定にほとんど興味がありません。彼が大統領に就任するということは、アジア諸国に対する米国の関与を著しく損なわせるとともに、それら諸国との安全保障条約を一方的に破棄するという、最悪の事態を招く可能性があります。
これまでアジア諸国の後ろ盾であった米国のプレゼンスが弱まれば、中国はその脅威を気にかけることなく、覇権的行動を強めることができるのです」(バーセロン氏)
中国が6月9日にフィリゲート艦1隻を尖閣諸島の接続海域に侵入させたことに続けて、中国戦闘機が空自戦闘機に空中戦を仕掛けたと報じられたこと(6月30日付産経新聞http://www.sankei.com/world/news/160629/wor1606290008-n1.html)は、記憶に新しい。中国がこのように軍事的挑発を強めている背景には、トランプ氏の対日政策が、米国からの“誤ったメッセージ”として受けとられている可能性が考えられる。
中国による南シナ海の領有化や北朝鮮による核・ミサイル開発にみられるように、アジアは世界で唯一残された、国家間における戦争の危機を内在する地域だ。過去にも、朝鮮戦争やイラクのクエート侵攻やなどは、「米国はアジアに関与しない」と受け取れる、“誤ったメッセージ”が発端となり起こったことであることを忘れてはならないだろう。
日本政府には、米国大統領選の推移を見守るだけはなく、米国の主要な同盟国として、従来に増して日米同盟の重要性を国内外に発信し、アジア地域の平和と安定を維持するために、“誤ったメッセージ”を払拭していく努力が求められる。このような積極的な関与こそが、新たな日米関係に求められる姿ではないであろうか。
《維新嵐》 ドナルド・トランプ氏は経済の専門家ではあるでしょうが、安全保障の専門家ではありません。有効な抑止力を生み出す軍事力とは、必ずしも巨大な売り上げをあげるための経済効率性とは違う面が大きいものでしょう。
駐留経費の負担という要素だけをみて在日米軍を日本列島から撤退でもしてしまったら、アメリカは第二次大戦で獲得してきた太平洋の海洋既得権を失うことになり、政治的に大きな禍根を後世に残すことに他なりません。共産中国の海洋覇権支配は形がみえています。日米両国が「国防」という観点から軍事的な手段だけではなく、大枠から俯瞰することも忘れずに政治的な影響力の行使をされることを切に願ってやみません。
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