2016年7月26日火曜日

アメリカがアジアで抱える悩ましい問題・政策転換するインドとどう協調するか?

ニクソン訪中以後最悪の米中関係
岡崎研究所
20160718日(Monhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7303

1972年のニクソン訪中以来、今ほど多くの問題で米中両国が鋭く対立したことはあまりなく、「米中戦略経済対話」でも、協力より競争が勝り、せいぜい事態の悪化を食い止めることぐらいだろうと、6410日号の英エコノミスト誌が述べています。要旨は、以下の通りです。
iStock

露骨になってきた中国の挑戦
 米国主導の世界秩序に対する中国の挑戦は露骨なものになってきた。中でも、南シナ海での人工島造成は、沿岸諸国を揺さぶり、米国の海軍力の優越性の空虚さを露呈させた。米国の力も、中国の建設攻勢は抑止できず、本格的な戦争以外、人工島を解体する、あるいは中国の支配下からもぎ取る術があるとは思えない。そうした中、米中は互いに相手が南シナ海を軍事化したと非難した。さらに、人工島造成の目的は純粋に非軍事的なものだと言ってきた中国国防部は、先月起きた自国戦闘機の米軍偵察機への異常接近事件を利用して、「防衛施設建設の完全な正しさと絶対的必要性」を主張している。
 米国を不安にさせているのは、南シナ海での中国の振る舞いが、あるパターンに合致しているように思えることだ。3月にカーター国防長官は、「海洋においても、サイバー空間においても、グローバル経済においても、中国は他の国々が努力して築いた原則や体制から利益を得てきた」と、歴代の米大統領が言ってきたことを改めて強調した。中国ほど現行の体制の恩恵に与った国はないのに、今や中国は独自のルールに基づいて動き、その結果、「自らを孤立させる長城」を築いていると指摘した。これに対し、中国は、米国も独自のルールで動くと反論。中国外務省の報道官は、カーターは「冷戦時代」に留まっており、米国防省は中国をハリウッド映画の悪役の固定イメージで見ていると非難した。
 実際、カーターが示唆したように、米中が反目しているのは、海洋での冒険主義だけではない。両国の間では従来からの不和が拡大する一方、新たな不和も生じている。例えば、米国の指導者にとり、中国が反政府派への弾圧を強める中で、人権派ロビイストの主張を無視するのは難しい。経済界も中国のサイバー・スパイ行為や知的財産の窃盗、米中投資協定の協議の行き詰まり、そして、中国の経済政策が開放よりも自給自足と保護主義に向かっていることに不満を抱いている。鉄鋼等の中国製造業の過剰生産能力が貿易摩擦を生み、米大統領選で反中演説を煽っていることもマイナスに働いている。
 かつては、多くの分野で対立していても、米中関係は非常に複雑かつ重層的なので、そこには必ず双方の利益になる分野があり、緊張緩和に繋がると言われていた。現在両国の関係がこれほど緊張している理由の一つは、そうした分野がほとんどないことにある。今最も有望なのは、クリーンエネルギーとCO2排出制限の推進であり、北朝鮮問題でも米中は協力している。しかし、後者について、中国は核よりも、制裁の実施で金政権が倒れることをより懸念しているのではないかとの疑念は拭えない。
 戦略経済対話の成果に懐疑的になる最後の理由は、両国首脳の政治的事情だ。本来、「戦略経済対話」は官僚の協議の場だが、習近平はいくつもの党小委員会の委員長となって自らに権限を集中し、官僚は脇に追いやられている。そのため北京で米国は不適切な相手と協議することになる可能性がある。一方、米国では、オバマ政権は終わろうとしている。中国は南シナ海で強硬な行動に出るに際し、オバマの慎重な外交姿勢を考慮に入れていた可能性がある。トランプの下であろうと、クリントンの下であろうと、米国はオバマ政権の時ほど柔でなくなると中国が見ているのは間違いない。
米中戦争の開戦間近! 青山繁晴氏

《維新嵐》アジア太平洋において最大の脅威であるアメリカとの経済関係を密にして、アメリカ政府内での「親中派」を拡大、知的財産の窃取、執拗なサイバー攻撃(情報窃取)、ヒューミントによる情報窃取、南シナ海での人工島建設、東シナ海尖閣諸島への軍事的接近とアメリカからの親中度をみながら政治目的をはたしてきた、という共産中国の巧妙な政治戦略を感じ取ることができる。今後アメリカがアジア太平洋での利権を守っていくためには、共産中国が、「潜在的に」抱えている国内の弱点を洗い出し、外交的な課題として圧力をかけることは必須になってくることだろう。太平洋リバランスによる軍事的な戦略、FON作戦にみられる軍事作戦だけでは、習近平政権の屋台骨を崩すことにはならない。
アメリカの戦争が終わらない理由
 岡崎研究所
 20160722日(Frihttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7308

在ニューデリー政策研究センター教授のブラーマ・チェラニーが、Project Syndicate614日で掲載された論説において、アフガニスタンにおけるタリバンの攻勢と戦争が終わるかどうかは、パキスタンにかかっており、米国はパキスタンによるタリバンへの聖域提供を止めさせるため、対パキスタン経済・軍事援助を梃子に使うべきであると述べています。論説の趣旨、以下の通り。
攻勢を強めるタリバン
パキスタンの国旗(iStock

 アフガニスタンでタリバンが再び攻勢を強めているが、米国の歴史で最も長い戦争が終わらない重要な理由はパキスタンである。米国はビンラディンに続いて、タリバンの指導者マンスールもパキスタン領内で殺害したが、これはマンスールをかくまっていないと言い続けたパキスタンの欺瞞を再び明らかにするものであった。
 オバマ政権の政策は、パキスタンの軍部の支援を受けて、タリバンと取引し和平を実現することであった。そのためパキスタンおよびタリバンとの対決を避けた。アフガニスタンのタリバンは、米国のアフガン攻撃が始まってすぐ、パキスタンのバロチスタン州に指揮命令の本部を設置したが、米国は最近になってようやくバロチスタン州をドローンで攻撃した。
 米国は昨年(2015年)7月にタリバンの指導者に任命されたマンスールと交渉しようとしたが、マンスールが非妥協的であったので、オバマ政権は遅まきながら、タリバンに対して飴ではなく鞭、それも大きな鞭を使うようになった。しかし米国がアフガニスタンでの戦争に終止符を打つためには、基本戦略を再考しなければならない。
 現実は、タリバンのパキスタンでの聖域をなくさない限り、タリバンを打ち負かすことや、タリバンとの和平を実現することはできないということである。聖域をもっているテロリストグループを相手に、テロ撲滅運動が成功したためしはない。
 端的に言えば、パキスタン軍部を買収しようとしても無駄である。過去14年間、米国はパキスタンに330億ドル以上の援助と、F-16P-3C、対艦ミサイルハープーン、対戦車ミサイルTOWなどの攻撃兵器を供与した。しかしパキスタンはタリバンに聖域を提供し続けた。
 米国は対パキスタン支援をタリバンに対するパキスタンの具体的行動に結びつけるべきである。と同時にISI(パキスタンの情報機関)をテロ団体に指定し、パキスタンに強いシグナルを与えるべきである。
 オバマは昨年(2015年)10月アフガニスタンへの関与を続ける決定をしたが、これは米国がアフガン・パキスタン国境の間違った側で戦争を続けることを意味する。多分彼の後継者が、アフガニスタンでの戦争の終結のカギはパキスタンにあるという事実を、遅まきながら認めることになるだろう。
出典:Brahma Chellaney,Obamas Bitter Afghan Legacy’(Project Syndicate, June 14, 2016
https://www.project-syndicate.org/commentary/afghan-war-obama-pakistan-by-brahma-chellaney-2016-06
 ブラーマ・チェラニーは、インドの著名な戦略家で、著作も数多くあります。この論説は、パキスタンと対立するインドの視点を強く反映したものとなっています。しかし、「インド要因」を割り引いたとしても、パキスタンがタリバンに聖域を提供していることが、タリバンに対する強力な支援になっていることは事実です。聖域はベトナム戦争のべトコンの例でも明らかなように、戦闘集団の戦闘継続を可能にするものです。
アフガニスタンの戦争を終わらせることが至上命令
 パキスタンは以前より、インドに対抗してアフガニスタンにおける影響力を維持、強化するためタリバンを支援してきたものであり、米国からの圧力があるからと言って一朝一夕にタリバン支援を止めるわけにいきません。
 チェラニーは、パキスタンのタリバン支援を止めさせるために、米国は対パキスタン支援を梃子に使うべきであると説いていますが、米国にとってパキスタンは重要なパートナーであり、いくらアフガニスタンの戦争を終わらせることが至上命令であるからといって、簡単に対パキスタン支援を梃子に使うわけにもいきません。
 パキスタンも米国もジレンマを抱えているのであり、問題解決の方程式は簡単なものではありません。アフガニスタン情勢は、和平への糸口を見出す努力は引き続き行われるものの、当分の間は戦闘が続くものと見なければならないでしょう。
本来はもう終結しているはずの戦争とは思いますが・・・。
《維新嵐》パキスタンの側からすれば核保有国であるインドを戦略的に牽制するために、アフガンのタリバン政権を支援してきたことが、アメリカのブッシュ政権がおこしたタリバン掃討戦への協力を躊躇させてきた要因ということですか。パキスタンにも地政学上、政治的な安保事情がありますからね。アフガンに「親米政権」を樹立させることはアメリカの事情でしょうが、アメリカとパキスタンが同じ政治事情を共有しているわけではないことが、あらためてわかります。ほとんど「泥沼化」したアフガン戦争ですが、パキスタンやインドを監視調停役にして幕をおろせないものでしょうか?
「押し返す」インド外交
岡崎研究所
20160720日(Wedhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/7305

エコノミスト誌611-17日号は、これまで遠慮がちだったインドはモディ首相の下で「押し返す」外交に転じ、核保有国としての承認を求めて精力的に動いている、と報じています。要旨、次の通り。

「非同盟」主義だったインド
 インド外交は伝統的に「非同盟」主義を採ってきた。これは実際には、世界と距離を置き、周辺諸国には過敏なまでに慎重に対応することを意味する。中国がまさにそのケースで、インドは中国の手厚い対パキスタン経済・軍事支援や、ネパールやスリランカをインドの影響圏から引き離そうとする動きに対しても強く出ることはなかった。しかし、モディの下でそうした姿勢は変り、今や「押し返すこと」がインド外交の合言葉になった、と言う専門家もいる。
 モディ首相は最近の外遊でこのことを示している。5月に訪問したイランでは同国とアフガニスタンを結ぶ鉄道・港湾の開発を約束したが、同ルートが、中国の計画するパキスタン経由のエネルギー及び運輸インフラと並行しているのは偶然ではない。
 また、モディは201664日、アフガニスタンで水力発電所を落成させたが、そこにはアフガン政府支援だけでなく、インドがパキスタンと違って寛大で責任ある国であることを誇示する意図があった。
 続いてモディはスイス、米国、メキシコを歴訪したが、目的は長年の複雑なインド外交の完遂にあった。インドは数十年来、核保有国としての国際的承認を求めてきており、近くミサイル関連技術輸出規制管理レジーム(MTCR)に加盟する。しかし、核拡散防止に努め、民生用原子力の安全規制要件を受け入れているにも拘らず、インドは核のエリートクラブたる原子力供給国グループ(NSG)からは締め出されている。これは、インドのような大国にとって屈辱的であるだけでなく、有用な核関連技術や市場にアクセスできないために余分なコストにも繋がっている。
 ただ、10年前、米国はインドの気を引こうと、他のNSG諸国に逆らってインドと民生用原子力に関する二国間協定を結び、さらに、2008年には強情な中国を説得して、インドとの核関連技術取引について限定的な例外を認めさせた。現在インドは、今月後半に開かれるNSGの会合を事態進展の好機と見て、NSG正式加盟獲得にいっそう力を入れている。
 インドの動きを非難の目で見ていたスイスやメキシコ、そして核アレルギーの日本も、今やインドのNSG加盟を支持している。イタリアも、インド人漁民を海賊と誤認して殺害したイタリア人海兵隊員をインドがイタリアに送還すると、インドのMTCR加入に反対しなくなった。
 一方、中国は西側諸国のインド接近に神経を尖らせている。中国が恐れているのは、モディは米国との良好な関係を利用してインドを優位にしようとするのではないかということだ。実際、ペンタゴンはここ数年、強大化する中国への対抗策の一環としてインドに言い寄ってきた。しかし、インド軍関係者が米国との協力に熱意を示し始めたのはつい最近のことだ。6月、米印日はインド洋ではなく、日中が領有権を争う尖閣諸島近くの海域で海軍合同演習を行う。また、モディは68日の米議会両院合同会議直前の演説の中で、米国はインドの「不可欠なパートナー」だと述べた。米印があからさまな軍事同盟を結ぶ可能性は低いが、僅かでもその可能性があれば中国はそこに全神経を注ぐことになろう。
出典:‘Modi on the move’(Economist, June 11-17, 2016
http://www.economist.com/news/asia/21700459-once-diffident-india-beginning-join-dance-modi-move
論説は、インドがモディ首相のもと、積極外交に転じていることの例として、中国を意識したイランとアフガニスタンを結ぶ鉄道・港湾の開発、アフガニスタンでの水力発電所の落成、米国との関係の緊密化を挙げています。米印関係緊密化がアジアの地政学に重要な影響を与えること、それが我が国にとり歓迎できるものであることは、言うまでもありません。
 論説はその他に、インドと原子力供給国グループ(NSG)につき、かなりのスペースを割いて論じ、インドが核拡散防止の重要な国際レジームであるNSGから締め出されていることは、インドにとって屈辱である、と言っています。
NPT不参加国
 インドは論説も言うように、核拡散防止に努めてきていますが、核不拡散条約(NPT)不参加国であるという理由で、その努力は十分評価されていません。NPTはインドにとって非合理的な条約です。インドは1974年に最初の核実験を行い、現在80発前後の核弾頭を保有しているれっきとした核保有国ですが、NPTが「核保有国」を、「196711日以前に核実験を行った国」としているため、インドはNPT上核保有国と認められていません。インドにしてみれば、なぜ中国が核保有国として認められ、なぜインドが認められないのか納得できません。その上、NPT不参加国ということで、核不拡散の努力が十分認められないのです。
 NSGについては、核不拡散体制に十分協力すれば、NPT当事国であることは参加の条件ではありません。インドは核不拡散体制に十分協力的であると考えられますので、インドのNSG参加は認められるべきであり、我が国も支持すべきです。インドのNSG参加は、インドを国際的責任を果たす国として認めることを意味し、インドの積極外交を後押しすることになるでしょう。
《維新嵐》共産中国のように広域での海洋権益拡大政策はとらず、日米やASEAN諸国とも協調しているからか、「脅威感」を周辺からもたれにくい印象があるインドですが、このアジアの東西をつなぐ地勢にある核大国は、共産中国の動向いかんによっては、国際社会への発言力、影響力拡大のチャンスをうかがっているようにもみえます。NPT条約に非加盟とは意外でしたが、こうした「潜在的な核保有大国」の存在が共産中国の脅威への抑止として存在感を発揮されることを期待します。






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